今週の視点

求められる「現場のリアリティ」と「数値に基づいて判断できる能力」

第39回店長とSV、12の職務を改めて整理する

店舗運営部に属するSV(スーパーバイザー)や店長は、小売業の業績を左右するキーマンといっていいでしょう。ネットで何でも買える時代において、顧客接点の「現場力」を高めることが、リアル店舗の最大の差別化戦略です。店長はワーカー(作業者)でよかった過去とは異なり、店長の重要性は高まっています。SV(エリアマネジャーと呼ぶ組織もある)、店長の職務を改めて整理してみましょう。

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店内作業の習得が店長教育の出発点

現場責任者であるSVと店長に求められる能力は、「現場のリアリティ」と、「数値に基づいて判断できる能力」の両方を持つことです。経験と勘によってのみ判断し、数値を軽視してはなりません。一方、現場のリアリティを無視して、数値だけで判断してもダメです。

たとえば、「在庫を減らせ」と本部から指示が来ると、現場では売れ筋の発注をしなくなります。売れ筋の発注抑制が、もっとも手っ取り早い在庫削減策であるという現場のリアリティを理解した上で、数値に基づいた在庫調整を行えるスキルが、SV、店長には求められます。

「現場力」を養うためにも、20代の店長候補者は、棚卸作業を含めた「店内作業」を完璧に習得することからキャリアをスタートすべきです。SV、店長のもっとも重要な職務のひとつは、OJT教育(自ら手本を示して部下に作業を教えること)によって店内作業の水準を底上げし、人によるバラツキを少なくすることだからです。

OJT教育を実践するためには、店長やSVは、誰よりも店内作業を早く完璧にこなすスキルが求められます。そのためには、新しいレジ作業や、新しい発注の仕組み、新しい売場管理方法など、日々更新される新しい店内作業を習得する努力を怠ってはなりません。

店内作業の実行と徹底がSVと店長の最大の職務

多店舗展開するチェーンストアの組織は、大きくは「商品部」と「店舗運営部」に分けることができます。商品部や販促部がMD(マーチャンダイジング)の計画部隊であるのに対して、店長やSV(企業によってはエリアマネジャー)が属する「店舗運営部」は、MDの実行部隊です。

多店舗展開するチェーンストアは、企画や計画も重要であるが、店舗での実行力や徹底力によって業績に大きな格差が生まれます。理由は、多店舗展開しているからです。たとえば、ある新商品や季節商品を〇月〇日に全店舗で陳列するという計画を立てたとします。陳列すべき当日に500店中8割の400店で陳列完了した小売業と、陳列作業が遅れて、500店中2割の100店でしか陳列完了しなかった小売業では、その新商品の売上には大きな格差が生まれます。

経験法則では、店内作業の徹底力は驚くほど低いのです。店頭実現力は2割(100店中20店しか実行されないという意味)程度の小売業も多く、店頭実現力を高めることが即、売上増、利益増に直結します。極端なことをいえば、チェーンストアの業績の7割は、店内作業の実行力・徹底力で決まるといっても過言ではありません。その店内作業を実行・徹底するリーダーがSV、店長なのです。

図表1に、店長の主要な「職務」をまとめてみました。既に述べた「完全作業の実行と徹底」「OJT教育」を最初に掲載しています。

店の状態や業績を良くするためには、店長はその店の経営者としてのリーダーシップを発揮する必要があります。図表1の「(3)コーチング、部下の士気向上(モチベーションアップ)、部下の育成」は店長の重要な職務です。また、何人の店長候補者を育成できたかも、店長の評価項目になります。

さらに、SV、店長の数値責任は「営業利益」の確保です。目標の営業利益を達成するために店長ができることの第1は、「(5)人時コントロールと人時生産性の管理」つまりコストコントロールです。そのために店長は、「(6)レイバースケジュール(稼働計画)の作成・実行」を確実に行う必要があります。

店長のリーダーシップやOJT教育によって、パート・アルバイトのスキルアップと「定着率向上」を実現できれば、少ない人員でも多くの作業量をこなせるようになり、「人の生産性」が向上。結果としてローコストオペレーションにつながります。逆にパート・アルバイトの離職率の高い店舗は、常にスキルの低い新人が多く、常に教育投資し続けなければならなくなり、人の生産性も低くなります。

 

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。