プライム会員向けの価格を思い切り安くすることで、「固定客」を増やそうとしているアマゾン(写真はアマゾンが買収したホールフーズの店内POP)。
プライム会員(固定客)を増やすことがアマゾンの最優先の戦略
これからは、一過性の新規客の集客合戦ではなくて、長期的に利用してくれる「固定客」(ロイヤルカスタマー)をいかに獲得するかが、すべての企業の最重点経営課題になります。
たとえば、「アマゾン」の経営戦略の中核は、「プライム会員」という固定客を増やすことです。2018年4月中旬に行われたアマゾンの年次株主総会で公開された「ベゾスCEOから株主宛に記された手紙」の中で、アマゾンプライムの加入者数が世界で1億人を突破したことが発表されました。
アマゾンは、オンライン販売はもちろんのこと、アマゾンが展開するリアル店舗「アマゾンブックス」「アマゾン4スター」「ホールフーズ」でも、「一般客」に比べて、「アマゾンプライム会員」の価格を思いっきり安くしており、プライム会員にならなければこれだけ損をすると手を変え品を変え主張しています。アマゾンの戦略のすべての動線は、プライム会員の獲得につながっているわけです。
世界でもっとも安いといわれている日本のプライム会員の年会費3,900円と比べると、アメリカのプライム年会費は119ドルと、日本の2倍以上もします(2018年に従来の99ドルからさらに値上げしています)。年会費は高くても、「Prime Now」(最短1時間の配送サービス)、「Prime Music」(音楽聞き放題のサービス)、「Prime Video」(映像ストリーミングサービス)などのプライム会員特典を考えると、119ドルの年会費を支払ってもお釣りが来ると考えるアメリカの消費者が多く、プライム会員は増え続けています。
アマゾンプライム会員は、「固定客」というよりも「信者」に近いロイヤリティをアマゾンに抱いている熱烈なファンで構成されています。「儲ける」という漢字を分解すると、「信者」になります。アマゾンは、オンライン販売という最先端の企業でありながら、「信者を増やして儲ける」という、昔からの商いの原理原則を極めようとしているように感じます。
ID-POSを活用して固定客の実態を可視化しよう
固定客の購買状況を可視化するデータが「ID-POS」です。ID-POSとは、買物客のID(個人識別番号)付きのPOS(販売時点)データのことです。ポイントカードの普及によって、カードを利用する際に収集できる個人の購買履歴データです。「どんな商品がいつ何個売れた」かがわかるPOSデータに加えて、「誰が買った」かがわかることがID-POSデータの最大の特徴です。ID-POSデータを分析すると、その店を頻繁に利用してくれる固定客の、店に対する売上貢献度が非常に高いことがわかってきました。
小売業のID-POSデータの分析を強化している「ユニ・チャーム」の調査(下の図参照)では、1年間に10回以上来店する固定客の人数構成比は41%と半数弱ですが、店の総売上に占める割合は約90%を占めています。頻繁に来店してくれる固定客の購入額が非常に高いことがわかります。
一時的な安売りで来店するバーゲンハンターではなくて、長期的に来店してくれる固定客、もっといえば「その店の熱烈なファン」を増やすことが、これからの小売業にとっての最大の売上対策であることがわかります。しかも、年40回以上も来店する、すなわち毎週のように来店するコアな固定客(来店客数の14%)で、売上の48%も占めているのは驚きです。
リアルであれ、オンラインであれ、これからの企業は、不特定多数の浮動客で商売するのではなくて、「特定多数の固定客」と長期的な信頼関係に基づいた商売をすることが重要です。
最後に蛇足ですが、毎週のように来店するコアな固定客の中には、長期的に窃盗を繰り返す万引き常習犯が潜んでいることがあることも、悲しい現実です。「お客様は神様です」と盲信しない冷静さも必要ですね。