今週の視点

アマゾンGO、万引防止などに大活躍のAIカメラ

第40回PALTACが「無人レジ店舗」を実験。AIカメラ、画像認識の進化がすごい

日用雑貨卸のPALTAC(本社・大阪市、糟谷誠一社長)は、アメリカのベンチャー企業「スタンダード・コグニション(ジョーダン・フィッシャー社長)」とパートナーシップ契約を締結し、今年中に「無人レジ(スタンダード・チェックアウト)」を実験すると発表しました。PALTACは、東北のDgS「薬王堂」と提携して1号店を開店します。話題の「アマゾンGO」のような店舗が日本でも登場するわけです。

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150坪程度の店舗ならカメラ数十台で済む

PALTACが実験する「無人レジ」(スタンダード・チェックアウト)は、店内の天井カメラと画像認識AIの働きで、顧客がどの商品を取って退店したかをすべて把握できる仕組みで、レジやスキャンによる清算の必要がない「アマゾンGO」のようなシステムです。棚から一度取った商品を棚に戻すといったイレギュラーな購買行動も、AIカメラがすべて認識します。

PALTACの糟谷(かすたに)誠一社長によれば、スタンダード・チェックアウトは、アマゾンGOよりもカメラの台数が少なくて済み、150坪程度の店舗なら、数十台の「AIカメラ」で、来店客すべての購買行動を補足できるそうです。1台のカメラで、かなり広範囲の画像データを分析できます。アマゾンGOの棚には「重量センサー」が付いていますが、スタンダード・チェックアウトは、重量センサーはなくて、AIカメラのみで購買行動を補足するシステムです。

また、POSやID-POSなどの購買データではわからない、顧客の「購買前の購買行動」というビッグデータもすべて記録・分析することができます。ショッパーリサーチ(買物客の購買行動分析)にも応用できて、マーケティングデータとしても価値があります。さらにPALTACは、自社の物流センターの業務にもAIカメラの技術を応用していく予定です。

顔認識と行動分析で万引防止にも活用

2018年11月にアメリカ流通視察に行った際に、HC(ホームセンター)最大手の「ホームデポ」の持ち帰り商品専用のレジがほとんど「セルフレジ」に変更されているのを見て驚きました。長尺商品や高額商品も多いので、万引の心配はないのだろうかと思いましたが、AIカメラでしっかり監視していました(下の写真参照)。

「カメラであなたの行動はすべて記録していますよ」と警告しているホームデポのセルフレジ。モニターにはしっかりレジ清算者が映っている。出入口の上部にも監視カメラとモニターか設置されている。

日本を含む世界24ヵ国が調査に協力した、小売業の窃盗犯罪に関する世界的な報告書である「グローバル・リテイル・セフト・バロメーター(GRTB)2014〜2015版」によると、不明ロスの内訳は、従業員による不正39%、万引き38%、犯罪性のない管理上のミス16%です。

同報告書によると、日本の不明ロス率(売上高に占める不明ロス金額の割合)は1.35%、金額にして149億ドル(1ドル100円で換算すると1兆4,900億円)という莫大な金額が不明ロスで失われていることになります。優良小売業の営業利益率の目安が5%ですから、1.35%がいかに大きな数値かが分かります。海外では不明ロス、特に万引き対策を「loss prevention(ロス プリベンション)」と呼び、役員レベルがトップに立って指揮を執る大手小売企業も多く、最重点の経営課題です。不明ロス対策のために、「AIカメラ」を活用する取り組みは今後急速に進むでしょう。

「秒針分歩」のスビートでAIカメラは進化しています。一方で、「監視社会」の恐ろしさも感じます。一度、どこかの店で万引きし、万引き犯として顔が記録されると、「買物お断り」とすべての店で入店拒否される時代が来るかもしれません。そのうち「万引き犯専用の店舗」が登場、ということもありえないとは言い切れませんね。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。