データをいかに活用するかがカギを握る
――ここまで、2018年を振り返っていただきましたが、2019年の小売業はこうなるのではないかという展望をお聞かせください。
郡司:「データの活用」です。現在も顧客データを統合するということで、さまざまな会社で自社サービスのデータを統合しましょうという動きがありますが、データを統合するのが精一杯で実際に活用できていない会社が多いんですよね。
自社での顧客の行動は見えるので、ターゲティングはできるんです。たとえば、「この人は以前は毎月来店していたけれども、この半年間は来店していないね」という人にだけクーポンを配信して来店を促すということはできますが、そこまでで終わってしまっています。
それを、「なんでこの人は化粧品を買わなくなってしまったんだろう?」「なんでこの人はサプリメントを飲まなくなってしまったんだろう」というところまで掴んで、自分たちのサービスに足りないものが何かということや、この先の事業展開を考える人がいるかどうかによって、企業は分かれていくだろうと思っています。
例えばクレディセゾンさんがDMP(※)事業を立ち上げて推進していますが、、2019年はそうしたビッグデータと自社のデータをぶつけて顧客行動を分析するという、集めたデータを活用する年になるのではないかと思っています。
※DMP(Data Management Platform):インターネット上のサーバーに蓄積されるビッグデータを一元管理して、分析し、最終的に広告配信などのアクションプランの最適化を実現するためのプラットフォームのこと。
5Gの登場でIoTが爆発的に進化する
――技術的な面ではどうでしょうか?
郡司:2019年からいよいよ5Gの本格的な実験がはじまりますよね。これまでの2G、3G、4Gは大容量化・高スピード化という流れでした。その延長線上で、4Gでは動画が見られるようになったが、5Gだったら映画が数秒でダウンロードできるといった話ばかりクローズアップされがちです。
ですが、5Gではネットワークスライシング(※)という、これまでと非連続の変化が起きます。
※ネットワークスライシング:それぞれの用途や市場のニーズに合わせて通信スペックを最適化して提供する、通信サービスを多様な条件で切り売りできる機能。「高速で大容量」、「超高信頼で低遅延」、「遅いけど料金も安い」など、スペックに分けたサービスを、それぞれの料金を別にして提供できる。
従来の通信料はSIM課金で、1番安い事業社で、初期費用約900円、月額費用は約300円というところでした。つまり、たとえばゴミ箱のふたにセンサーをつけて「ゴミ箱のふたが開いているかどうか確認する」というだけのソリューションでも、最低月額300円かかってしまうのです。
ですが、IoTというものは、たとえば飲み物のコースターにセンサーが入っていて、飲み物が減ったら注文を取りに来るというような、本当に細かいものにまで入ることで可能性が広がります。だからかかる費用が高いと実現できないんですよね。これが月額10円でできるようになれば全然違うサービスが成り立つはずです。
リアルにあるアナログデータがデジタル化されて、そのデジタル化されたデータをクラウドに放り込み、そのデータを利用してAIがシミュレーションする。そして、そのようになった原因はなぜで、どうすればいいのかという打ち手は、人間が考えましょう…そんな流れがより現実化されていくと思います。
——小売業の動きの中で、注目している企業はありますか?
郡司:いっぱいありすぎますね(笑)。一番気になっているのは、シアトルで見た「b8ta(ベータ)」ですね。店内にはベンチャー企業のつくったIoT機器が並んでいて、それを手に取る顧客の行動データを、展示している会社に販売することで成り立っている会社です。
これからは、商品だけでなく、情報を売ることでマネタイズするという時代になるのだろうなという点で、「b8ta」はおもしろかったです。
そしてやはりAmazonですよね。
――そうですね。Amazonは、今となっては小売業界の人は誰でも気になる存在です。
郡司:進化しているんです。変化が常に起きています。あとは中国の動きも気になりますね。
――大変興味深いお話を本日はありがとうございました。