小売業界2019年業界展望(2) 鈴木康弘さん<前編>

カスタマーファーストを目指さない小売業に未来はない

小売業に一家言あるコンサルタント・実務家の方々に、2018年を振り返りつつ、2019年の展望を語っていただく特集企画「小売業界2019年業界展望」。第2回目はデジタルシフトウェーブ社長の鈴木康弘さんにお話を伺います。セブン&アイホールディングスの取締役執行役員CIOとして、同社のデジタルシフトに関ってきた鈴木さん。2018年はシアーズの破綻のニュースにGMSの未来を感じたと言います。(聞き手:MD NEXT編集長 鹿野恵子)

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お客様の変化に合わせて組織、人材も変化すべき

――鈴木さんといえば、セブン&アイホールディングスでオムニチャネル戦略の指揮を執られていたことが知られています。その後、独立して会社を興されたそうですね。

鈴木:はい。2017年にデジタルシフトを支援する会社「デジタルシフトウェーブ」を創業しました。

現在さまざまな経営者の方とお会いしているのですが、デジタルシフトとは一体何なのか、自分の会社で推進してどのようなメリットがあるのか、そもそも社内に推進する人材がいないということが彼らの共通した悩みです。

一方、システム責任者やマーケティング責任者の方からは、システムが複雑化しすぎているとか、新技術と既存技術の併存についてどのように考えればいいのか、経営層がデジタルシフトについて理解してくれないという悩みなどを伺っています。

ーーデジタルシフトというのは具体的にどのようなことなのでしょうか。

鈴木:たとえば、ECであれば夜中でも買い物ができますし、地球の裏側の商品も買うことができます。棚の制約はなく、無限に商品を紹介することができますし、常にネットでつながっているので双方向のコミュニケーションも取ることができます。しかし20年前にはそんなことは決して考えることもできませんでした。つまり、デジタルシフトとは、アナログ時代にできなかった制約から人々を解放することなのです。

さらに、スマートフォンが登場したため、お客さまが入手できる情報量が膨大に増えています。

お客様が変わってきているのですから、求められる企業、組織、人材も変化が必要です。これも含めてデジタルシフトなのです。

ーーデジタルシフトの観点も交え、2019年の展望をうかがいたく思います。

鈴木:リーマンショック以降、欧米でカスタマーファーストという考え方が広まりました。カスタマーファーストとは、すべての社員が顧客第一の視点を持って業務に取り組むことを言いますが、Amazonが最たる例で、ITを活用してカスタマーファーストを実現していこうと彼らは考えています。

ビジネスの主戦場は完全にリアルからバーチャルに変化しました。デパート、スーパー、コンビニエンスストア、ショッピングモールなどの小売業が皆ネットショッピングをはじめています。そして、自分のお店にあるものを一生懸命ネットで売るようになりました。

そうこうしているうちに、Amazonは2億SKUまで商品数を増やしたわけです。圧倒的な物流を構築した上で、彼らは次に、この素晴らしいネットでの買物体験を、スマートスピーカー経由でできるようにしたり、ホールフーズを買収して店舗でネットショッピングの体験をさせようとしたり、Amazon Goをつくってしまおうという戦略に出たわけです。

カスタマーファーストだとか、デジタルシフトを目指さない小売業の先行きは暗いように思います。

今、唯一Amazonと戦っているのがウォルマートです。僕が社会に出た80年代、当時アメリカの小売業界を席巻していたシアーズは、2018年に破綻してしまいました。

シアーズの破綻に感じるGMSの未来

ーーシアーズの破綻は2018年の大きなトピックでしたね。

鈴木:ショックでしたね。60年代、70年代に日本の小売業がこぞってシアーズの真似をしましたが、そこにGMSの未来があると思うと、言葉を失ってしまいます。

ですが、ウォルマートはjet.comを買収してからの動きは素晴らしいですし、教育に投資し、人材の入れ替えも進めています。

一方、アメリカではトレーダージョーズのように、地域にあった商品を、お店の人がお客さまと対話をしながら決めているような小売業が成功しています。とはいえ、トレーダージョーズで店長さんにお話を伺ってみたら、ECをやらないとまずいということでみんな焦っていました。

——トレーダージョーズがECについて考えているというのは意外ですね。

鈴木:意外ですよね。それほどAmazonの影響が怖いわけです。ウォルマートがjet.comを買収し、Amazonがホールフーズを買収しました。結局、(ECと実店舗と)どちらか片方だけではだめなんだということを、2強が証明したのです。

2019年は、日本の小売企業もデジタルシフトに真剣に取り組む必要性に気づく年になるのではないかなと感じています。

後編に続きます。