フードビジネス・アップデート

サービス開始から10ヵ月、果たして顧客満足度は?

第4回「野郎ラーメン」の定額制サービスに見る、ラーメン愛とチャレンジ精神

飲食業界でサブスクリプションサービスというものを取り入れる事例が増えてきている。この「subscription」とは、雑誌の「予約購読」「年間購読」という意味だが、利用者はモノを買い取るのではなく、モノの利用権を得て利用した期間に応じて料金を支払うという「定額制サービス」のことである。この顕著な事例として株式会社フードリヴァンプ(本社/東京・三軒茶屋、社長/林正勝)が展開する「野郎ラーメン」の取組みを紹介しよう。

  • Facebook
  • Twitter
  • Line
  • Hatena

1カ月のうち12回の来店で元が取れる

現在「野郎ラーメン」は1都3県16店舗を展開(海外は中国に2店舗)、他業態を含めて同社全体では31店舗を展開している(2018年7月末現在)。

同チェーンでは2017年11月1日より「1日一杯野郎ラーメン」をうたったサービスを導入した。これは「18歳~38歳限定」で「月額(30日)8,600円(税別)」で同チェーンのメニューのうち「豚骨野郎780円」(税込、以下同)「汁無し野郎830円」「味噌野郎880円」のどれか一つを1日一杯食べられるというものだ。仮に豚骨野郎だけでは12杯で元が取れるという計算になる。30日毎日来店した場合は1杯当たりの単価が287円となる。

自宅や同チェーンの店内でアプリを取得した段階で会員となる。そこから会員の権利が1カ月間継続する。会員は自動継続する。会員を止める時には、権利が終了するときにアプリで通告する。会費はクレジットカードないしキャリア決済で引き落とされる。

このサービスを導入したきっかけと動向について同社広報担当の黒木勝巳氏が解説してくれた。

熱いラーメン愛が伝わる定額制の宣伝ポスター

会員と店舗従業員とのコミュケーションが生まれた

このサービスは「お客さまに満足していただきたい」という思いの一点で2017年の夏にその検証がスタートしたという。

同チェーンは券売機を使用しているためにお客さまのデータを取りにくく、お客さまの来店頻度は本部では分からなかった。しかし、各店長に尋ねると週に2~3回来店するコアな常連客が存在することを把握していた。

そこで、このようなファンの方々に喜んでいただくためにチェーンとしてどのようなことができるか考えていった。

冒頭で「12杯で元が取れる」と書いたが、その前に「8,600円」に根拠があるという。「86」つまり「野郎」なのである。この価格設定を「野郎ラーメンらしさ」と捉えた。12杯で元が取れるとは偶然とはいえ、絶妙な数字となった。月に12杯とは週3回の来店となり、同チェーンのコアな常連客の来店頻度と合致する。ここに定額制サービスを導入してさらに満足をしてもらおうという発想だ。

選ばれた3種類のラーメンの理由は、まず「豚骨野郎」は最も注文数の多い商品であること。「汁無し野郎」は、同チェーンで汁無しを食べるお客さまはこれを継続して食べていて、これを「1日一杯野郎ラーメン生活」のラインアップから外すと汁無しのファンのお客さまを外すことになると考えたこと。「味噌野郎」は、同チェーンで味噌野郎しか食べない人がいることからラインアップに入れた。

このアプリの効果は、会員と店舗従業員とのコミュケーションが生まれたということだ。一般のお客さまは券売機でチケットを購入して、従業員はそのチケットに準じて商品を提供するということであったが、会員の場合は券売機の前を素通りすることになり、従業員はそのお客さまは定額制のお客さまだと分かり、従業員がお客さまのアプリを操作する時に、お客さまとのコミュニケーションが生まれるようになった。

豚骨野郎780円(税込)
汁無し野郎830円(税込)
味噌野郎880円(税込)
野郎ラーメンアプリ起動画面
アプリ パスポート一覧の画面

お客にとって店に行き続けることがイベント

会員数と会員の利用回数等は非公開だが、11月1日から11月30日まで毎日来店したお客さまは7人いた。これらの人に連絡を取り、連絡が取れた5人に表彰状と記念品(従業員が着用している野郎Tシャツ)を手渡した。

この受賞者にインタビューをしたところ、このような回答があった。

「この会員になることで当初ラーメンに飽きるかと思っていたが全然そうではなかった。むしろ、野郎ラーメンに行き続けることのほうが大変だった。夜は飲み会とかあるし、そのような日の何時に食べるか。また、雨の日もある。ただ、毎日野郎ラーメンに行くことは自分にとってのチャレンジだと思ってやった。やり通して楽しかった」

このように、「元を取る」という発想だけではなく、「自分のイベントごと」として捉えて会員になっている事例もあった。野郎ラーメンのメニューはどれも山盛りになっていて一般的に完食することが難しいほどのボリュームがある。それを毎日食べ続けるチャレンジとして受け止められたようだ。

会員はコアなファンが多いとはいえ、会員を継続することには慎重であるという。30日のうち15日以上来店している人がほとんどということだが、学生であれば3月から4月にかけて実家に帰るということで会員を止めるという人がいた。5月もGWがあることから止める人がいた。

一方で6月7月にかけて会員は再び増えてきた。このように会員はそれぞれのライフスタイルに合わせて使用していて、会員数が増えるようになったのは日増しにこのサービスの存在の認知度が高まったことから、その分が上積みされているのではないかと想定している。

さらに、2017年12月1日から月額300円(税別)で1杯のラーメンにつきトッピングを1つサービスする「野郎まんぷく定期券」を導入した。これは月に3回同じ店で利用すると元が取れるというもの。ちなみにこれは「1日一杯野郎ラーメン生活」や他のクーポンと併用することはできない。

「定額制サービス付き小売業」は一つの業態

野郎ラーメンで定額制サービスを導入して10カ月がたとうとしているが、フードリヴァンプとしてこのサービスをどのように展開しようとしているのか。黒木氏はこう語る。

「このサービスを止めるという発想はありません。ただし、ビジネスモデルとして成立させていくとうのはわれわれの仕事ではないように思います。当社は創業10年目で、野郎ラーメンの豚骨スープは店で水とげんこつで16時間炊いて、真剣にラーメンをつくっています。われわれはこのような商品をとにかくお客さまに食べてほしいという感覚を持って、その提供の仕方の一つに定額制サービスがあると考えています」

筆者は、定額制サービスを導入する場合「分かりやすいサービス」になっていることが重要だと思っている。そして、大手ファストフードチェーンや、コアなファンのいる店、また地域社会に密着している定食店とかそば店のような業態に向いていると考えている。

その点「地域に永く愛される店作りを」という経営理念を掲げる同社の野郎ラーメンは、定額制サービスを導入したことで、一つの業態として形を整えたということが言えるのではないだろうか。

著者プロフィール

千葉哲幸
千葉哲幸チバテツユキ

1982年早稲田大学教育学部卒業。柴田書店入社。「月刊ホテル旅館」「月刊食堂」に在籍。1993年商業界に入社。「飲食店経営」編集長を10年間務める。2014年7月に独立。フードフォーラムの屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース・セミナー活動を展開。さまざまな媒体で情報発信を行い、フードサービス業界にかかわる人々の交流を深める活動を推進している。