フードビジネス・アップデート

指名買いされるランチを目指せ!

第41回モバイルオーダーのパイオニアが手掛ける「サラダ販売革命」進行中!

サラダをランチや食事代わりに食べる人は多い。そんな人に向け中身充実のさまざまなサラダを提供する会社が「CRISP SALAD WORKS」だ。売り方もユニークで飲食業界でモバイルオーダーを採用したパイオニア企業でもある。同社が丸の内で運営する新しいサラダ販売ステーションとこれまでの試みを紹介する。

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冷蔵庫から好きなサラダを取り出し好きな場所で食べる

東京駅前丸ビル地下1階のお弁当売場の中にたくさんのサラダが整然と詰め込まれた大型の冷蔵庫がある。店頭に従業員はいないが、「CRISP STATION」というサラダ販売店である(従業員は冷蔵庫の裏側にいる)。サラダは8種類、価格はすべて1,180円(税込)。

ここでの購入の仕方は、冷蔵庫の扉を開けて好きなサラダを取り出し、備え付けの紙袋やスプーンをピックアップして、自分のオフィスや好きな場所で食べる。決済はサラダの容器に付いているQRコードをスマホで読み取りクレジットカードで行う。初回はメールアドレス、カード情報の入力が必要だが2回目以降は不要、ワンタップで支払いが終わる。領収書はメールに届く。

CRISP STATION」は2021年111日にオープンしたばかりだが、筆者が見学に訪れた113日のお昼時には冷蔵庫の前のほとんどが女性の人だかりが次々と扉を開けてはサラダを手にしていた。レジ会計がないのでレジに並ぶ必要がない。実に斬新な購入の仕方である。

ランチタイムになると「CRISP STATION」の前には女性がほとんどの人だかりができる
パッケージ正面にはサラダ名と中身が記載されている
サラダの容器はラーメンの丼程度の大きさでボリュームはたっぷり。スプーンでサラダをまぜまぜして食べる。

業界に先駆けてモバイルオーダーを開発

CRISP STATION」を運営するのは株式会社CRISP(本社/東京都港区、代表/宮野浩史)。同社は201412月、東京・麻布十番にサラダ専門店の「CRISP SALAD WORKS」を創業。この店は後に飲食業界に新しい潮流を生み出す存在となる。

代表の宮野氏は19819月生まれ。コーヒーショップチェーンに勤務した後、飲食業で起業。その後「熱狂的なファンをつくる」という経営理念を掲げて「CRISP SALAD WORKS」の立ち上げに臨んだ。

「飲食業にとって一番大事なことは、働く仲間に、お客さまに、お店に、愛情をもって本気で向き合うこと。これは絶対に忘れてはいけない本質だと思っている」

この信念によって創業の店は想定の5倍を売り上げた。しかしながら、この繁盛ぶりは「本来の飲食店の姿ではない」と感じるようになった。それは、サラダをつくることだけに一生懸命になり、結果クオリティも下がる、お客さまもイライラする、といった良くない循環に陥っていた。

「例えば、夜中にスーツ姿のお客様が来店したら『まだ、お仕事でしたか? 夜遅くまで大変ですねぇ、今日も一日お疲れさまでした!』というちょっとしたことだけど、そんな一言こそがお店の価値であり競争優位性であり、注文や購買に必要ない無駄な会話や行為こそが飲食店にしかできない価値を生み出す源泉のはず」

このように宮野氏は考えるようになり、「機械でできることは全部機械に任せて、人間は人間だけが価値を生み出せるような人間らしい行為に時間を使えるようにしよう」と判断した。そして「儲かったお金はとにかくテクノロジーに投資して、既存の飲食の在り方を全部再定義しよう」という結論に至った。

こうして、2017年にテクノロジーを開発する会社を設立し、同年7月にモバイルオーダーアプリ「CRISP APP」をリリースした。

これによるサラダの購入の仕方は、好みのサラダをスマホで事前前注文し、そこで決済を行い、受け取る時間を指定。その時間に店舗に行って、注文していたサラダをピックアップする。店の従業員はお金に触る必要がなくなり、お客も店で注文するために並んだり、出来上がりを待つ必要がなくなった。今日ではコーヒーショップやファストフードをはじめとした飲食店の多くがこの仕組みを採用している。

ファンによる「指名買い」の動機を培う

CRISP APP」が発端となり、CRISPでは次々と多様なサービスを展開していく。

まず、20196月から「CRISP APP」などの開発・運用ノウハウを元に、飲食店向けのモバイルオーダーソリューション「CRISP PLATFORM」の提供を開始。これはCRISPが培ってきた知見を活かして外部の飲食店のDXをサポートするというもの。

20208月、これまでデリバリーをデリバリープラットフォーマーに委託していたものを一部のエリアでは自社デリバリーの「CRISP DERIVERY」をスタートした。

2020年冬から「CRISP BASE」を提供。これはオフィスの中にサラダを食べたい人が5人以上集まることで「CRISP SALAD WORKS」のバーチャル店舗を開設、決まった時間に配送料無料でサラダを届ける(週1回・5食が目安)。このサービスは現在約80カ所で行っている。

今年に入り7月、「CRISP REPLENISH」を立ち上げた。これはサラダのサブスクリプションサービスで、お客が選んだカスタムサラダを、指定した場所に配送料無料で届ける。週に2回以上注文することでこのサービスが可能となる。

宮野氏はこう語る。

「モバイルオーダーはコロナ禍の以前から商業施設の関係者の間で話題になっていた。ランチタイムのお弁当売場はものすごい行列になっている。お弁当屋さんも何がたくさん売れているのか把握できないで廃棄が出ている。だからモバイルオーダーの事前注文は役に立つだろうと。しかしながら、あまり普及しなかった。それはお客様はランチタイムに食べるお弁当を、購入するぎりぎりになるまで決めないから。結果、たまたま目にした店舗で『これでいっか』という感じで決める」

この「たまたま目にした店舗で」という購入動機に対応した店舗が「CRISP STATION」ということだ。

開設して1週間を経て、1日の販売数量は80食程度という。丸ビルに入居しているオフィスではリモート勤務によって出社率が通常時の35%程度とのことだが、「これが通常に戻ると200食が見込めて、日商20万~30万円となり、スタッフを抱えるリアル店舗よりも生産性が数段高い店になる」と宮野氏は想定している。ちなみに、「CRISP STATION」丸ビル店のサラダは麻布鳥居坂店で製造している。

一方で、「CRISP SALAD WORKS」でモバイルオーダーが普及した背景についてこう語る。

「それは、ここのサラダが食べたいというファンが生まれたから。要するに90分前にモバイルオーダーから『指名買い』をして、その時間になったらピックアップするというスタイルが出来上がっていった」

ちなみに、「CRISP SALAD WORKS」のお客の現状は4割がモバイルオーダーによるもので、丸の内店に至っては7割を占めている。

冷蔵庫の横に「CRISP STATION」の利用の仕方が表示されている
容器の包装紙の中央にあるQRコードをスマホで読み取ってから決済をおこなう

購入パターンを最大化する試み

CRISP のデータでは「CRISP SALAD WORKS」で30日間に1回以上購入しているアクティブユーザーの購入金額の平均は3,500円程度。商品の単価は1,200円程度だから30日間に2.12.2回利用していることになる。

このようなアクティブユーザーが「CRISP REPLENISH」を利用することで、このプランの最低の金額が15,000円程度だから、3,500円の4倍となる。このサービスは7月に立ち上げて以来現状150人程度が利用している。「このサービスはこれから増えていくだろう」と宮野氏は期待を寄せている。

CRISP SALAD WORKSのサラダが大好きだけど、今日なぜ食べなかったのだろうというアクティブユーザーはたくさん存在する。それが、定期的に届くということであればこちらの方を利用するという可能性は大いに存在する」

これからはリアル店舗、バーチャル店舗の両方とも満遍なく増やしていくという。リアル店舗は消費者に「CRISP SALAD WORKS」の存在とサービスを知ってもらうための最も効果的な媒体と捉えている。このサービスを体験した人がファンになってバーチャル店舗につながっていく。

CRISP SALAD WORKS」でファンを培い、彼らの定期購入の場として「CRISP BASE」「CRISP REPLENISH」が存在する。そして、お弁当売場でたまたま見かけて購入するという動機に向けて「CRISP STATION」が存在する。このようにCRISPでは同社の商品の購入パターンを最大化する試みを展開している。

著者プロフィール

千葉哲幸
千葉哲幸チバテツユキ

1982年早稲田大学教育学部卒業。柴田書店入社。「月刊ホテル旅館」「月刊食堂」に在籍。1993年商業界に入社。「飲食店経営」編集長を10年間務める。2014年7月に独立。フードフォーラムの屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース・セミナー活動を展開。さまざまな媒体で情報発信を行い、フードサービス業界にかかわる人々の交流を深める活動を推進している。