フードビジネス・アップデート

回転寿司チェーン寡占化の理由

第36回回転すしチェーン、進む寡占化の裏に「出店」と「ロボット化」

回転すしチェーンの動向をみると「寡占化」が顕在化しつつある。その要因として挙げられることは「出店」と「ロボット化(機械化、自動化)」だと筆者は考えている。店数を増やすほどに売上が上がるのは当然として、飲食業にとって最も重要なホスピタリティをロボット化でどう実現していくのか、従来の常識の正反対とも思えることが寡占化の伏線となっている。

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都市型店舗の出店を加速する二大チェーン

回転すしを事業とする株式公開企業のランキングは以下のようになっている(数字は売上高〈決算期〉と店舗数〈直近〉)。

1位:FOOD & LIFE COMPANIES2,0495700万円〈20209月期〉、538店〈20213月末、スシロー業態のみ〉

2位:くら寿司/1,3583500万円〈202010月期〉、485店〈20214月末〉

第3位:カッパ・クリエイト/6488100万円〈20213月期〉、314店〈20213月末〉

4位:元気寿司/3825200万円〈20213月期〉、165店〈20213月末〉

まず、「出店」という点では、第1位のFOOD & LIFE COMPANIESの事業会社である、あきんどスシローと第2位のくら寿司では「都市型店舗」を推進してきている。

この両社ともに都市型とは、通常型店舗の標準的な一皿の価格が110円(税込、以下同)であることに対して、スシローは132円、くら寿司は121円と1~2割高く設定している店をこのように定義している。

FOOD&LIFE COMPANIES20209月期では、国内スシロー事業で新規出店33のうち都市型は13店舗となった。

くら寿司では今年初めて都市型を出店し、1月14日に「渋谷店」(159席)と「西新宿店」(192席)を同時にグランドオープンした。以来、くら寿司ではこのタイプを128日「武蔵小杉店」(219席)、24日「小岩駅前店」(210席)、25日「赤羽東口店」(187席)、422日「道頓堀店」(204席)、520日「高田馬場店」(267席)と出店している。

スシローでは2021年318日に伊勢丹新宿店の向かい側地下1階に170208席という「新宿三丁目店」をオープン。TBSの番組でオープン1カ月前からのメイキングが放送されたが、オープン初日の客数は1,022人であった。あらゆる数字が驚異的である。

610日にくら寿司「渋谷店」が営業しているビルの隣にスシロー「渋谷店」がオープンした。こちらは100席強と超大型ではない。

「ロボット化」がもたらすストレスフリー

では、「ロボット化」は回転すしチェーンの寡占化とどのように結び付くのか。これについては、この業界の中で歴史のあるくら寿司の動向から解説する。以下にくら寿司のロボット化の取組みを時系列で紹介する。

・水回収システム1996年):テーブルの皿回収ロボットにすし皿を投入すると、水流により皿が洗い場まで運ばれる。テーブル上でのお皿の積み上げをなくし、片付け作業の負担を軽減できる。

・時間制限管理システム1997年):商品がレーンの上で空気に触れている時間を管理して規定時間を超えた時に廃棄する。

・製造管理システム1998年):すしカバーに取り付けたQRコードなどによってレーン上にある商品が空気に触れている時間と個数などを管理。また、顧客の滞在時間によって変化する消費皿数(食べる量)を予測。係数化した「顧客係数」を厨房に表示し、レーンに流す皿数を最適化、廃棄ロスを軽減している。

・ビッくらポン2000年):水回収システムと連動し、5皿に1回抽選ゲームができる。「当たり」が出たらオリジナルの景品をプレゼントする。子供に大人気のシステム。

・タッチで注文2002年):各テーブルにタッチパネルを置いて、これをタッチしてオーダーする。

・抗菌寿司カバー2011年):従業員も顧客も、カバーに直接触れずに商品を出し入れできる、くら寿司独自開発のカバー。鮮度だけでなく、空気中に漂うウイルスや飛沫からすしを守る。これが前述の時間制限管理システム、製造管理システムによって商品のバラエティを保ち顧客満足度を高める。

・自動受付・案内2017年):スマホアプリから「時間指定」で予約ができ、自動的に客席まで誘導するシステム。顧客の待ち時間の低減や、対従業員との非接触を実現。また、最新の店では、特集センサーが設置されていて、画面に触れることなく操作可能。

・スマホで注文2019年):メニュー注文用タッチパネル(タッチで注文)を業界に先駆けて導入。さらに、2019年には、席にあるQRコードを読み込むことで、顧客が自分のスマホから注文可能とした。皿の投入口に入らないサイドメニューなどもビッくらポンに加算される。

・セルフチェック2019年):すしが流れるレーンの上部に小型カメラが設置されていて、どのテーブルで何枚の皿を取ったか、AI画像を分析して検知。自動でカウントするため、従業員を介することなく会計が確認できる。

・セルフレジ2020年):「自動案内」や「セルフチェック」などのシステムを組み合わせ、入店から退店まで従業員を介することなくサービスの提供が可能となる。「非接触型サービス」が実現。自動受付と同様の特殊センサーを導入することで、タッチレス化も推進。

このように回転すしチェーンのロボット化は、これまで人間が行ってきたサービスを安定化させ、より正確なものにしてきた。ここで働く従業員は煩雑なことから解放されてストレスフリーとなり、結果顧客満足を高めている。

積極的な出店が売上を引き上げる

さて、FOOD & LIFE COMPANIES20219月期上半期決算は以下のようになっている。

・売上収益: 実績1,19042百万円/前年比+10.1

・営業利益: 実績  13114百万円/前年比+59.2

・税引前利益:実績  12414百万円/前年比+57.5

・当期利益: 実績   7760百万円/前年比+52.7

次に、くら寿司の202110月期上半期決算は以下のようになっている。

・売上高:  実績74585百万円/前年比+14

・営業利益: 実績  304百万円/―

・経常利益: 実績  1185百万円/―

・当期純利益:実績  669百万円/―

FOOD & LIFE COMPANIESは実に好調である。くら寿司も前年度の赤字計上から脱出した。

これらの好調な要因として、どちらも出店を加速したことを挙げている。FOOD & LIFE COMPANIES24店舗(うち都市型5店舗)、くら寿司は18店舗出店(うち都市型6店舗)となっている。

さらに、FOOD & LIFE COMPANIESでは前期に開発したTo Go型店舗を「JR我孫子駅店」「JR神戸駅店」「JR六甲道店」3店舗出店。いずれも改札口から徒歩1分以内の場所にあり、近隣のスシロー店舗でつくられた寿司を販売している。今期は積極的に出店していくという。このタイプは駅ナカ・駅前ビルなどのスシロー既存店ではカバーしきれなかった立地に出店していくという。この7月には、東京駅八重洲口にTo Go型店舗の機能を持った回転すしのスシローをオープンする予定。

そして、京樽が4月1日から事業会社となり、上方すしのテイクアウトや都市型で小型の回転すしを展開、これによって回転すしをはじめとしたあらゆるすしの市場を網羅していく構えだ。

回転すしチェーンの動向についてFOOD & LIFE COMPANIESとくら寿司の話題に終始したが、この二つのチェーンが切磋琢磨することによってこの市場はますます活性化していくことであろう。

FOOD & LIFE COMPANIESの事業会社4社でお値打ち感をアピールするイベントを展開。
「くら寿司」では2021年に入り都市型店舗を続々と出店している。
都市型店舗は駅から徒歩圏にありアルコールが売れることが魅力

著者プロフィール

千葉哲幸
千葉哲幸チバテツユキ

1982年早稲田大学教育学部卒業。柴田書店入社。「月刊ホテル旅館」「月刊食堂」に在籍。1993年商業界に入社。「飲食店経営」編集長を10年間務める。2014年7月に独立。フードフォーラムの屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース・セミナー活動を展開。さまざまな媒体で情報発信を行い、フードサービス業界にかかわる人々の交流を深める活動を推進している。