EC、棚チェック、清掃…小売業におけるロボット活用状況[2021年版]

生産性向上のため小売業でも期待されているロボット活用。その小売業における2021年時点の活用状況について、ロボット・自動化分野を長年取材し続けているライターの森山和道氏が解説。今後小売業のどの分野に、どの技術が適用されていくのか。

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企業のロボット活用を阻んできた原因は「高コスト」と「技術不足」

既存の製造業以外の分野でのロボット活用が期待されると言われ始めて久しい。しかし実際にはなかなか始まらなかった。主な理由は二つ。高コストと技術不足である。しかしながら技術は徐々にであっても着実に向上していく。ロボットはようやく、それなりに物体を認識し、比較的安定して移動できるようになり、事前マスター登録しようがない多品種商品であってもある程度なら扱えるようになった。使い勝手も徐々に徐々にだが向上し始めている。少なくともメーカーもロボット慣れしてないユーザーのことを意識し始めている。導入においても購入だけではなくリースやRaaS(Robotics as a Service)と言われるモデルが登場し、自社でハードウェアアセットを保有しなくても、ロボットを使ったサービスのみを活用できる社会的な仕組みが構築されつつある。

コロナ禍により新たなフェーズを迎えつつあるロボット業界

こういった変化が、生産性の向上、そして2015年ごろから本格的に深刻化した人手不足時代を背景として、ゆっくり進んでいたのだが、2020年に始まった新型コロナウイルス・パンデミックにより、ロボット活用は今また新たなフェーズを迎えつつある。人手による人海戦術に頼っていた業界でもロボットが使われ始めただけでなく、ロボットの用途として新たに「感染予防」、ひいてはBCP(事業継続計画)が加わったのである。

新型コロナウイルス禍は、ロボット業界にとっては時間加速装置として働いている。業界課題の多くはこれまでも存在していて、やがて来るだろうと思われていたものである。それらの課題が早送りされて一気にやってきた。それが新型コロナ禍の影響だ。そのため、保守的な日本での導入はまだしばらく先だと言われていたようなロボットも2020年には一気に導入される時代となり、ロボットがついに一般人にとっても身近なところに現れはじめた。

最大の導入課題は「既存のやり方にフィットするかどうか」

一例がレストランの配膳ロボットである。どんなロボットでも、特にサービス領域では既存のやり方にフィットするかどうかが最大の導入課題だが、配膳ロボットについては、特にテーブルオーダー式の焼肉屋ではオペレーションに問題なく馴染んでいる。あまりにごく普通に馴染んでいるため、客にとってもほとんど意識されていない。客が「あ、ロボットだ」といった反応をするのは最初の一回だけで、あとは皿を持って来るのだがロボットだろうが人だろうが、ほとんど気にされていない。飲食店ホールにおけるロボット活用はまだ始まったばかりだが、今年が面白い年になりそうだということだけは確実だ。

現状の配膳ロボット活用は属人的要素も大きい。つまりどれだけロボットを使い倒せるかは人によるので、運営側としては今後はおそらく、厨房との連携へと踏み込んでいくものと思われる。そうなると今度はどこまで自動化技術を店舗に入れていくか、考え方の問題となっていくだろう。

全体最適と現場の改善

では小売分野において、積極的な活用が可能なロボット技術、あるいは自動化技術にはどんなものがあるのだろうか?小売の業務は大別すると、「作る」、「運ぶ」、「売る」の3つだ。生産性を上げるためには、それぞれの工程を連携させて無駄をなくして効率化する必要がある。

経営側から見ると、ロボット活用にせよAI活用にせよ、目的は全体の最適化なので、それぞれの工程をまたいだデータ連携・計画立案がもっとも重要なポイントだ。いっぽう現場からすれば、データ連携による効率化よりも、まずは目の前の作業量の負荷を少しでも減らしたいと考えているだろう。そのためには訓練を受けていない人であっても簡単に使える機械でなければならない。両者は必ずしも対立するわけでははない。バランスをとりながら進めていくことが重要だ。

いわゆるAI活用であれば、需要予測による自動発注や販売管理、惣菜の割引幅自動算出や欠品予測などが既に始まっている(NEC、日立、富士通などのシステムのほか、ベイシアとオプティムによるシステム、東急ストアとダイエー、シノプスによるシステムなど)。また決済や広告提示の可能なスマートカートの活用(トライアルによる取り組みなど)、環境固定カメラの活用による無人ショッピング(TOUCH TO GO)等のほか、チャットボットによるリコメンドや商品問い合わせ対応、写真画像を使ったビジュアル検索などなども活用され始めている。

本稿ではとりあえずロボットの活用に話を絞るが、AIとロボットは線引きされるソリューションではなく、相互連携で真価を発揮する。また、製造業で培われてきた業務分析ツールを使えば、負荷が大きい作業や無駄の多い作業の特定やプロセス改善策を具体的に立てて検討することも容易だろう。5S徹底はロボット導入の前提でもある。

高まるECニーズと物流

まず、もっとも今後の活用が期待されるのは小売店店頭ではなく、環境が既に構造化されている物流倉庫になるだろう。EC通販はコロナ禍によって、さらに活発になった。日本国内では今後ますます伸び代があることが予想されている。当然、バックヤードである物流倉庫でのロボット活用は進む。単なる保管だけではなく顧客への直接発送も進むので、いわゆるフルフィルメントサービス、すなわち受注・決済から始まり、商品の管理、検品やラベル貼りなどの流通加工やピッキングからの発送など一連の流通過程すべてにおいて自動化が進むだろう。

物流ロボットは棚を移動させて人のところに持って来る「GTP(Goods-To-Person)」タイプがよく報道されている。コープさっぽろほかが導入している自動倉庫「AutoStore」などもその一つだ。ものは手元までやってくるので人はピッキングステーションに張り付いていればいい。また空間を高密度に活用することが可能なので、より都市部に近い場所に倉庫を持ってくることができる。

MonotaROが笠間ディストリビューションセンターに導入している日立の搬送ロボット「Racrew(ラックル)」などもこの一種だ。従来のピッキング作業に比べて3倍超の作業効率向上が期待でき、搬送設備全体の制御を行うWCSと連携する。日立とMonotaROはシステムのさらなる高度化をめざしており、2022年には約400台を導入するという。

スーパーマーケット最大手のKrogerとネットスーパーのイギリスOcadoによる取り組みもよく報じられている。そのOcadoはコロナによって高まったEC需要を背景に投資を加速。国内でも2020年夏にはイオンとの提携も発表した。千葉市緑区にイオンが建設するネットスーパー専用配送センターにOcadoの技術を導入する。生鮮を含む食品・日用品5万品目を在庫するカスタマーフルフィルメントセンターで、2023年に稼働する予定だ。

だがGTPタイプは初期投資が必要である。そこで、既存の棚倉庫でのピックアップを助ける自律走行搬送ロボット「AMR(Autonomous Mobile Robot)」も活用され始めている。ロボットがピックアップをサポートし、人が歩く距離を限定することで歩行距離を減らすことができる。国内ではGROUNDやRapyuta Robotics、Syrius Japanなどが提供している。レトロフィットを重視する場合はこちらということになる。

さらに、これまでは完全に人手任せだったピッキング業務もロボット化することで、「GTP」をさらに進めた「GTR (Goods-To-Robot)」という考え方も生まれ始めている。一度入庫してしまえば出庫までほぼ無人ということも不可能ではなくなりつつある。

そうなると倉庫自体もロボット・自動化対応を前提とした作りに変わる可能性がある。倉庫内全体の作りもコンベアでどれだけ一筆書きで運べるかを基本に考えるようになるだろうし、将来はさらに自動運転車両と組み合わせることを想定するとなると、倉庫のバース自体から作りを変えることになるかもしれないし、また今後どんどん無人化が進むと、採用の問題がなくなるので、倉庫の立地自体が変化する可能性もある。

ただしECニーズが高いのは都市部なので、店舗と一体化した小規模物流倉庫、マイクロ・フルフィルメントセンターの自動化技術こそが今後もっともニーズの高い本命ということになるのかもしれない。ちなみにNECは自動ピッキングロボットと自動決済を組み合わせたミニ店舗の提案をリテールテック2019で行なっていた。

THKは2019年の国際ロボット展で多様な商品を一つずつピッキングしてケースに入れるロボットのデモを行なっていた。いわば大型で品目の多い自動販売機のような機械だ。こういった機械ならば、EC向け・既存店舗との相性も悪くはないかもしれない。

店舗内の商品棚チェック

問題は小売店舗内での活用である。ルーティーンワークを少しでも機械化できれば、人を違う作業に回すことができる。またロボットが動き回ることで店内の情報を収集できれば、そのデータを利活用することも可能になる。現状では店舗内で何が行われているか正確に把握している人は誰もいない。

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスは日本ユニシスと共同で、夜間に商品棚のPOPのチェックを行うロボットの研究開発を行なっている。2018年11月からは「フードスクエアカスミ オリナス錦糸町店」で実際の運用も行なっている。

その後、POPの期限チェックだけでなく商品棚の品切れ検知機能なども開発し、2020年12月には、日本ユニシスから小売店舗の棚チェックを行うAIロボットサービス「RASFOR(Robot as a Service for Retail)」として外部提供も始まった。2021年6月ごろには陳列状況を把握する棚割実態把握機能の追加を予定しているとのことだ。

RASFOR-小売向け自律走行型業務代行AIロボット

国内ではこのような取り組みは珍しい。だが米国ではウォルマートがいち早く、2017年からBossaNova Roboticsの在庫スキャンロボットを導入していた。特に2020年1月には既に導入されていた350店舗に加えて650店舗にロボットを導入すると発表。大いに注目された。

The Future of Retail

この検品ロボット、ウォルマートからは「Auto-S」と呼ばれ活用されていた。ところがその後の同年11月に、ウォルマートとBossaNova Roboticsとの提携解消がウォールストリートジャーナルから報じられた。理由は、新型コロナ禍よるECの増加、サブスクサービス「Walmart+」の開始により、人間の従業員によるピックアップの機会が増え、その時に一緒に棚の在庫管理をしてしまうことができるから、というものだった。

ウォルマートは他に荷下ろしロボットや掃除ロボットなどを導入している。掃除ロボットはBrain Robtics製で「Auto-C」と呼ばれており、2000台近く導入されているようだ。ウォルマートは他のロボット導入を丸ごと切り捨てたわけではない。しかしBossaNovaを切ったことは、業界全体に大きなマイナスメッセージを発することになった。

Autonomous Floor Care for Retail

店舗の清掃

清掃に関しては様々な清掃ロボットが国内でも開発・販売されている。以前よりも自律移動能力、清掃能力も向上している。ただし多くは駅や空港、ショッピングモール、大型ビルの共用部などのハードコートの床を清掃するためのもので、通路がそれほど広くない店舗内での清掃を想定しているものは少ない。

日本の小売店で使えそうな清掃ロボットは、サイズから考えると、ソフトバンクロボティクス「Whiz i」と、パナソニック「RULO Pro」くらいが現実的だろうか。どちらも乾式バキュームだ。特にソフトバンクロボティクスはドラッグストアなどにもロボットを提供している。

ただどちらも店舗で使うことは実のところあまり想定されていないように思われる。既存のロボットをまずは使ってみることも重要だが、むしろ店舗内清掃に適した新たな掃除ロボットを新規開発する必要があるのかもしれない。

売場の自動案内・巡回警備

大型店舗では何がどこに売られているか顧客を案内する業務も発生する。デジタル戦略を進めているカインズは、2020年11月にオープンした大型ホームセンター「カインズ朝霞店」にデジタルサイネージのほか、案内用の移動ロボットを2台導入している。タッチパネルで商品を選ぶとその売り場まで自律移動して案内してくれる。

使用されているロボットはハウステンボス系のhapi-robo stが国内代理店として販売している temi USA inc.の「temi」。ただ、カインズに筆者も実際に訪れて店舗で試してみたが、まだ使いこなせているとは言い難かった。そもそも案内ロボット自体が目立っていないし、操作インターフェースも使いづらい。これはロボットだけではなくデジタルサイネージも同様だった。

このほか大型店舗ならば、警備ロボットによる巡回警備を行うことはできるだろう。SEQSENSEの自律警備ロボット「SQ-2」は空港のほか、一部のビルで実証実験を行っている。Mira Roboticsの遠隔操作警備ロボット「ugo」も同様だ。ugoにはよりシンプルな「ugo Stand」というタイプもある。

また、研究レベルだが巡回ロボットが「マスクをしてない客に店員ロボットが近づいて警告する」といった研究は行われている。将来はロボットによる自動接客が行われるというのもまったく夢物語ではないのかもしれない。

品出しや陳列はまだまだ

在庫の荷下ろしや載せ替え、商品の仕分け、売り場への品出し・陳列等はどうか? これらが最も省力化が望まれている工程だろうが、残念ながらこの工数を減らせる自動機械ソリューションは、ほとんど存在していないので、マニュアルや動線を整理したりするくらいしか効率化しようがない。

使える技術は、せいぜいが荷下ろし作業時の腰痛を防止するためのアシストスーツくらいだ。アシストスーツは、ゴムやバネを活用することで動力を使わないものと、センサーやモーターを積極的に使うもの、それぞれタイプが違う。大雑把に言えば後者のほうが価格は高いがアシストの効果も高い。だが装着は面倒だ。どれを使うかは各現場次第だ。

また、遠隔操作するロボットを使って品出しを行う実証実験を行っている会社もある。Telexistence社だ。同社は自社開発している半自律型遠隔操作ロボット「Model-T」を使って、コンビニのバックヤードでの品出しの実験にトライしている。人間側はロボットにつけられたカメラ画像を見ながらロボットを遠隔操作する。うまくいけば、世界中のどこからでも労働力を調達できるというわけだ。

ローソン「Model-T 東京ポートシティ竹芝店」ではガラス越しのその様子を見ることができる。見ればわかるが、本当にまだまだだ。ただTelexistence社は自らがコンビニフランチャイズオーナーとしてこの店を運営してトライしているので、今後の発展に期待したい。

加工・惣菜作業

店舗での青果や鮮魚など生鮮食品の加工、あるいは惣菜作業はどうだろうか。食品工場では多くの自動機械が導入されている。冷凍・冷蔵環境で使われるロボットもあり、今後の活用が期待されている。

ただ、スーパー等で自動機械を導入するのはやはり難しい。店舗容積の課題もあるが、何よりも業務負荷が平準化されていないことが問題だ。ロボットに限らず機械の効果を最大化し、投資利益率をあげるにはできるだけ一定のペースで使い続けることが重要だ。しかし、そういった仕事が小売店の現場には、あまりない。

前述のアシストスーツ等があまり活用されない理由も同様だ。物流倉庫であればひたすらものを運び続ける作業があるが、小売店にはない。だから試験導入されはしても、継続的には使われない。

ただ近年はスーパーでも人手不足が進むことでセントラルキッチン化が始まっている。各地域のチェーン店全体の作業を1箇所に集約して行うのであれば、食品工場で使われているようなソリューションが活用できるだろう。

調理ロボットは客寄せにも

店舗全体の雰囲気作りのための要素も重要だ。2019年のCESで発表されたWilkinson Baking companyの「BreadBot(ブレッドボット)」は焼きたてパンを焼き続けるロボットだ。1時間に10本焼くことができる。

日本のコネクテッドロボティクスのたこ焼きロボット、ソフトクリームロボットは、イトーヨーカドー幕張店の「ポッポ」で活用されている。ソフトクリームロボットはイベント時の臨時客寄せとしても使われている。

また同社は現在、駅そばロボットに注力しており、こちらはJR東日本グループと提携して導入を進めている。2020年3月にJR東小金井駅の「そばいち」に期間限定の実証実験として導入されたが、2021年1月現在も稼働している。「ロボット」という存在をどう捉えるかだが、こういったものをバックヤード、または敢えて来客からも見える場所で動かすというかたちはあるのかもしれない。