フードビジネス・アップデート

安全・安心・健康を1ボウルで提供

第1回リンガーハットが「エブリボウル」で提案する食のダイバーシティとは

株式会社リンガーハットは「EVERY BOWL」(以下、エブリボウル)という新業態を立ち上げた。1号店は東京・広尾で2018年2月21日に、2号店はイオンモール宮崎に同3月16日、オープンした。

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使用食材を限定しない日替わりメニュー

同店のメニューと提供方法は、オリジナルの「ヌードル」、具材がたっぷりと入った「メインソース」、季節の野菜でつくった「デリ」をお客さまが選んで、カウンターをはさんで対面する従業員がお客さまと会話をしながらそれらを1つのボウルに入れて提供するというものだ。基本料金は980円(税込、以下同)で、これらに追加メニューなどで1品180円が加算される。

ヌードルは「五穀リガトーニ」「国産小麦」「五穀」「グルテンフリー(プラス180円)」。メインソースは「とろけるモッツァレラマルゲリータ」「ジューシーガバオ」「タイ風グリーンカレー&パクチー」「サーモン&リコッタのレモンクリーム」「洋食屋さんの梅豚ミートソース」「きのこと生姜の麻婆豆腐(ヴィーガン)」など。デリは、季節の野菜を使用した日替わりのもので常時8品目をラインアップ。さらにオーガニックリーフサラダが添えられる。

サラダ専門店に似ているが、メニューの食事性が充実しており、これまでのフードサービスには存在しない業態である。特徴的なことは、メニューの使用食材が限定されていないということだ。つまり、天候要因等で使用食材の仕入れ値が高騰するというリスクが回避されている。さらに、メニューが日替わりであるから、同じお客さまが頻度高く利用する可能性がある。ヴィーガンをうたったメニューもあることから、ハラールを含めた食の多様性にも対応できる。ちなみに、デリのレシピは60品目が整っていて、店長ないしパートリーダーが店内の冷蔵庫にストックされた食材の状況をみながらメニューを決めて店内で調理する。

チェーンレストランとは真逆のコンセプト

エブリボウルが開発された背景について、ブランドマネージャーの川内辰雄氏が解説してくれた。
それによると、同店は当初ショッピングセンター(SC)のフードコート出店の業態として考えられたという。リンガーハットがフードコートでの本格展開を始めたのは2006年からだ。ショッピングセンター内での出店の契約は5~6年が一般的となっており、同社のフードコート店舗はこれから3期目の契約更新を続々と迎えることになる。そこで既にリンガーハットが出店しているSCに同社がもう1業態出店できる可能性があるということで新業態を考えることとなった。
そして川内氏が考えたことは、「チェーンレストランとは真逆のことをしよう」ということだった。

「チェーンレストランはレシピが固定化されていて、野菜をはじめとした使用食材は市場価格に左右されます。使用食材を固定せずにメニューをつくれば、この問題は解決します。そして、外国人にも来てもらえる、食の多様性にも対応し、当社が得意としてきた安全・安心・健康ということがぶれることなく、お客さまに毎日来てもらう、ということを考えていきました」

店内のオペレーションは、リンガーハットのノウハウを活かし、対面販売方法の新スタイルに合うレイアウトを考えた。現在も適宜配置換えを行っている。

「身体が求めている食べ物」が一目で分かる

店内のデザインは白を基調としたモノトーン。ロゴは濃い緑と淡い緑のバランスで構成しており、「安全・安心・ナチュラルをデザインに落とし込んだ」(川内氏)という。
料理の写真の通り、エブリボウルの盛り付けられた様子は円グラフに似ている。これによって、その時食べる食事や炭水化物などの比率が一目瞭然で、自分の身体が今求めているものを把握することができる。自分の食事を気遣う習慣を持つ人であれば、食事の内容を円グラフを描くように配列や配色を考えることができる。盛り付け方をフォトジェニックにすることによって見た目も楽しむことができる。

また、長崎ちゃんぽんの「リンガーハット」では増やすことが困難なテイクアウトの拡大も想定した。これはかわいらしい風呂敷スタイルのピッキングによって注視効果を高めた。現状のテイクアウト比率はリンガーハットの2倍に相当する3割となっている。

1号店を広尾にしたのは、このエリアには各国の大使館が多く、食の多様性を含めてエブリボウルのコンセプトが浸透しやすいと考えたからだ。現状、利用客のうち外国人は3割を占め、そのうちの半分はヴィーガンを求めるという。

さて、食の多様性に対応することはこれからのフードサービス業にとってどのような意義があるか、川内氏はこう語る。
「それはビジネスチャンスです。しかしながらヴィーガン専門店にしてしまうとその限定されたコミュニティの中でビジネスをすることになる。重要なことは、食の多様性とは関係のない人も、ハラールもヴィーガンも一緒に食事ができるということです」

新メニューとして5月10日よりオリジナルヴィーガンソフトクリーム(380円)を導入した。このためにコクのあるある豆乳をメーカーと共同で開発した。筆者も食べたが、豆乳の香ばしさがありクオリティが高い。既にチョコレート味も開発しており、ヴィーガン対応のバラエティが増えていく。

店舗展開の計画は「2020年までに20店舗」という。しかしながら、出店を急ぐことなく、広尾でじっくりとブランドの浸透を図り、立地環境を変えるなどしながら店舗展開をしていく意向だ。

著者プロフィール

千葉哲幸
千葉哲幸チバテツユキ

1982年早稲田大学教育学部卒業。柴田書店入社。「月刊ホテル旅館」「月刊食堂」に在籍。1993年商業界に入社。「飲食店経営」編集長を10年間務める。2014年7月に独立。フードフォーラムの屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース・セミナー活動を展開。さまざまな媒体で情報発信を行い、フードサービス業界にかかわる人々の交流を深める活動を推進している。