フードビジネス・アップデート

禁煙化に踏み込んだことで生まれた企業文化

第5回串カツ田中 「禁煙」で売上、労働環境共に見通し良好

居酒屋チェーンの串カツ田中を運営する株式会社串カツ田中ホールディングス(東京都品川区、社長/貫啓二、以下、串カツ田中)は、6月1日から串カツ田中のほぼ全店で全席禁煙化ないし一部フロア分煙化を行っている。その後の動向を同社は定期的にリポートしており、筆者のリサーチを加えて、同チェーンにとって禁煙化はどのような効果をもたらしているかをまとめたい。

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開始1カ月目(6月)は、売上高97.1%、客数102.2%、客単価95.0%

同社がリポートする対象店舗は、全席禁煙を行っている同社直営の86店舗である。

まず、6月の一カ月間の外的要因はこのようであった。

東京の今年6月の月間降水量は昨年6月に比べると多く、特に土日に限って見ると昨年よりも倍以上の降水量があった(気象庁過去の気象データより)。サッカーワールドカップが始まり、一般的に客数が減少する。6月1日(金)~6月14日(木)に感謝祭キャンペーン(串カツ全品108円〈税込、以下同〉)、6月22日(金)~6月30日(土)に200店舗達成記念キャンペーン(ドリンク216円)を実施。

これらの外的要因を加味しながら、この6月度は前年同期比売上高97.1%、客数102.2%、客単価95.0%となった。19時と23時の時間帯の売上が20時、22時台に分散。ピーク時間が早まり、早い時間帯の売上高が増加する一方、深夜帯の売上高が減少した。

客層の動向では、増加したのは、ファミリー6%増、一般の男女グループ(20代)1%増、女性・カップル1%増。減少したのは、男性グループ6%減、一般男女グループ(30代~)1%減。

客単価が既存店前年同期比95.0%と減少した要因について、「キャンペーンによる客単価の減少と、お子様を含む未成年のお客様の増加により、お通し代がなく飲み物がソフトドリンクのため」と同社では分析している。

今後の課題として、店頭や路上喫煙、ポイ捨てが増加したことから、それにより通行人の受動喫煙が生じたり、近隣施設や住民から意見が寄せられることもあったという。今後は清掃を強化することなどで、地域の人や喫煙のお客様にも気持ちよく利用していただく施策を検討するという。

筆者はここ5年間ほどたばこを吸わない。ただし、居酒屋においてたばこは同居するものという価値観を持っていた。それゆえ、6月禁煙になってクリーンな印象の串カツ田中には若干の違和感を抱いた。本来同居しているものの一つがなくなっているという感覚であった。

全席禁煙化に踏み切る前に店内で告知した

子供連れ、妊婦の人も入店することができる

リポートの中で、お客様の声を抜粋したものは以下の通り。

■プラスの声
・禁煙だから安心して子供を連れてくることができる
・妊婦でも来ることができる
・おいしく食べられる

■マイナス
・居酒屋、お酒を飲める店でたばこが吸えないのはあり得ない
・ゆっくりできない

一方、従業員アンケートを抜粋したのは以下の通り。

■プラスの声
・女性客、若者、年配客が増えた
・働く上で快適になった気がすする
・灰皿の片づけがなくなったので、ウエーティングのお客様を早く通すことができる
・早い時間帯に込み合う
・回転率が上がった
・禁煙だから、いらっしゃるお客様がいる
・高校生の学校帰りの利用が増えた
・平日でもファミリーが増えた
・単価が減ったが客数は増加した

■マイナスの声
・会社員や中年男性が減少
・遅い時間(22時以降)の客数が減少
・ピークが重なり、席数が少ない店は取りこぼしが起きている
・滞在時間が短縮化
・禁煙と聞くと帰る客が1日1~4組いる
・店頭や路上喫煙、ポイ捨てが多い
・喫煙の常連客が来なくなった
・喫煙所が近所にないので店頭での喫煙は地域とのトラブルになりかねない

同社では、短期的には客数は減少する可能性があり、長期的には飲食店の禁煙化への理解が浸透し、客数が増加すると想定していたという。しかし、実際には客数が増加した。

そして、開始2カ月目(7月)は、売上高101.9%、客数104.1%、客単価97.9%となった。客単価が下がり、客数が増加するという現象は継続した。

開始3カ月目(8月)は売上高109.7%、客数112.1%、客単価97.9%

8月に入り、串カツ田中の76店舗で営業時間を変更した。変更内容は、「土曜・日曜の開店時間を早め、閉店時間を短縮」「平日の閉店時間を短縮」である。この背景には「ファミリー層の増加」「早い時間の客数増(土曜・日曜の14時台、15時台など)」「深夜帯の客数減」、そしてお客さまから営業時間の前倒しを希望する声が多く寄せられるようになったことを挙げている。

メニュー変更が81店舗で行われ、8月16日から食べ放題コースを加えた。コースは2種類で平日18時までの来店者限定「ほぼ全品食べ放題コース」(大人2354円、小学生以下1177円、6歳以下518円、3歳以下0円)、「串カツ食べ放題コース」(大人1598円、小学生以下799円、6歳以下410円、3歳以下0円)となっている。(全てお通し代込みの金額)

食べ放題は、対象とする客層をイメージして訴求した

これらのコースメニューは1店舗30人限定で、利用前日までの予約が必要。制限時間は120分(90分ラストオーダー)などの条件がある。そして、「連絡なく食べ放題のスタート時間から15分遅れた場合はキャンセル扱いとする。キャンセルの連絡は前日まで、当日のキャンセルは半額がキャンセル料として発生する」――このようにキャンセルポリシーを明記した。これは禁煙化に踏み込んだことで生まれた企業文化ではないだろうか。

8月の集計データによると前年同月比で売上高109.7%、客数112.1%、客単価97.9%となっている。

これらは決して自然増だけではなく、さまざまな店舗施策を実施したことも手伝っている。それらは以下の通り。

・8月4日(土)、19日(日)に64店舗限定、14時までの来店で「串カツ108円均一 昼飲みキャンペーン」
・8月16日(木)より食べ放題コーススタート(上記)
・8月27日(月)、30日(木)に18時までの来店で「串カツ108円均一 プレミアムウイーク」
・8月31日(金)「終日串カツ108円均一 プレミアムフライデー」

食べ放題は、食事をする店というイメージをもたらした

そして、これらの一連の取組みがメディアに多数取り上げられることによって、多くの人々に来店動機をもたらしたことであろう。

筆者の印象として、客層はドラスティックに変わったというほどではないが、利用客の雰囲気に気軽に利用する店というイメージが漂ってきた。サクッと飲んで食べて帰る、という感じである。

同社では禁煙化・分煙化によって客層が変化したこともさることながら、「深夜労働時間短縮により従業員負担の軽減」「働き方の選択肢広げることで人材確保に寄与する」「深夜帯の営業時間を短縮することで店舗運営を効率化する」という効果があることも述べている。

同社社長の貫啓二氏は、禁煙化・分煙化を開始する前にfacebookで、「ビビッている」という投稿をしていたが、その不安感は鎮まっているだろうか。いずれにしろ、3カ月が経過して串カツ田中は近代的な業態としてまとまりつつある。

著者プロフィール

千葉哲幸
千葉哲幸チバテツユキ

1982年早稲田大学教育学部卒業。柴田書店入社。「月刊ホテル旅館」「月刊食堂」に在籍。1993年商業界に入社。「飲食店経営」編集長を10年間務める。2014年7月に独立。フードフォーラムの屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース・セミナー活動を展開。さまざまな媒体で情報発信を行い、フードサービス業界にかかわる人々の交流を深める活動を推進している。