今週の視点

食品の売上構成比が50%を超えるDgSも

第42回スーパーマーケットのシェアを奪うドラッグストアの食品部門

ドラッグストア(DgS)の「食品」購入額が大きく伸びています。高齢化社会に突入し、日本国民の胃袋が小さくなり、スーパーマーケット(SM)とコンビニエンスストア(CVS)の食品購入額が、「ほぼ横ばい&減少」で推移する中、DgSでの食品購入額の伸び率の高さが目立ちます。食品市場が増えない状況で、DgSの食品購入額だけが伸びているということは、SMとCVSの食品購入額をDgSが奪っているからです。

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過去5年間で食品購入額を大きく伸ばしたDgS

図表1は、2013年(調査期間2012年11月~13年10月)と2018年(同17年11月~18年10月)の5年間における、カテゴリー別・業態別の食品購入額の伸び率を示したものです。このデータは、「2019年版スーパーマーケット白書」(全国スーパーマーケット協会発行)に掲載された図表を編集部にて加工したものです。

高齢化社会の到来で、日本人の食べる量が横ばいか減少に転じています。その結果、SMやCVSの食品売上が過去5年間で横ばい、もしくは減少傾向なのに対して、DgSがこの5年間で食品購入額を大きく伸ばしていることがわかります。

たとえば、SMの「主食」(米飯やパンなど)の購入額が5年間で-1.9%と減少しているのに対して、DgSは2.4%増と主食の購入額を増やしています。同様に、「嗜好飲料」(コーヒー、紅茶など)は、SMの購入額が-3.3%なのに対して、DgSは1.9%増です。

DgSの購入額伸び率の高いカテゴリーは、「乳飲料」(伸び率4.0%)、「酒類(伸び率3.6%)です。SMの伸び率は乳飲料が横ばい、酒類が-0.9%なので、明らかにDgSがSMの牛乳と酒の売上を奪っていることがわかります。とはいえ、SCIデータによれば、清涼飲料をのぞくすべてのカテゴリーでSMの購入先シェアが50%を超えており、まだ食品の購入先の主力業態はSMであることがわかります(清涼飲料水の購入先シェアは38%)。

SCIデータで、DgSの食品購入先シェアが10%を超えているカテゴリーは、「清涼飲料」(12%)、「酒類」(11%)、「乳飲料」(11%)、「嗜好品」(13%)です。現状のDgSの業態別購入先シェアは、SM、CVSに次ぐ2番手、3番手です。しかし、SM、CVSと比較すると、DgSの店舗数の増加率は極めて高く、今後、DgSが食品のシェアをさらに奪っていくことが予想されます。

DgSの食品構成比は年々増加している

図表2は、「月刊MD」2018年10月号「ドラッグストア白書」で掲載した上場DgS企業の食品の売上構成比の過去3年の推移です。

「ドラッグストア」と名乗りながら、食品の売上構成比が50%を超えている企業が2社(Genky Drugstores、コスモス薬品)、食品の売上構成比が40%を超えている企業が2社(薬王堂、カワチ薬品)も存在しています。また、マツモトキヨシ以外のDgS企業は、過去3年間で食品の売上構成比を高めており、近年のDgSの食品強化戦略が明確であることがわかります。

DgSの「食品」の強みは、(1)便利性、(2)安さ、(3)専門性の3つです。DgSは、商圏人口1万人を切る小商圏に密度濃くドミナント出店しています。SMよりも小商圏であり、自宅から近くに立地しており、SMよりも「近くて便利」なので、今後も便利性でSMから食品のシェアを奪っていくと思います。

また、「安さ」はDgSの最大の武器です。過剰な設備投資のないDgSは、SMよりも販管費率が低く、論理的に考えるとSMよりも安く売れます。DgSは、SMよりも「便利性」と「安さ」で優位に立っています。一方、便利性はCVSに劣るものの、「安さ」ではCVSよりもDgSの方が勝っています。郊外のCVSは、飲料、カップ麺、菓子などの「価格敏感商品」のシェアをDgSに奪われています。

さらに、HBC(ヘルス&ビューティケア)という「専門性」の高い商品を主力にしていることも、DgSの業態としての強みです。高齢化社会の到来で「食べる量」は減少しますが、「健康でいたい」「美しくあり続けたい」という人間の根源的な欲求は逆に高まります。つまり、成長するマーケットを対象にした業態であることも、DgSの強みです。「健康に良い食品」「美容に良い食品」を店頭起点に「需要創造」することのできる最適の業態です。

しかし、現状のDgSは、「売りやすい商品」を「安売り」することだけで、食品のシェアを奪っているのが実態です。HBC(健康と美容)と連動した食品売場の再構築こそが、DgSの最大の経営課題です。しかし、SMの方がトクホなどの健康志向の食品売場が充実しており、DgSの食品売場では「健康によくなさそうな食品」をただ安売りしている実態を目撃すると、とてもガッカリします。安さだけでシェアを奪うことはもう限界だと思います。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。