今週の視点

人口減少、高齢化、免許返納時代に備えよう

第22回ATM、食品、雑貨、調剤も 「自宅の近く」まで届ける時代へ

高齢化、免許返納時代には、店舗に自力で行くことのできない高齢者が増加します。こういう時代には、店に顧客が来るのを待つだけではなくて、自宅の近くまで商品やサービスを届けることが重要になります。「届けるサービス」の事例を紹介します。

  • Facebook
  • Twitter
  • Line
  • Hatena

介護施設、限界集落で需要のある「移動ATM」

『国立社会保障・人口問題研究所』が2018年3月に発表した「日本の地域別将来推計人口」によれば、今から12年後の2030年の日本の人口は、2015年対比で93.7%(全国)に減少します。さらに、2045年には、83.7%(2015年対比)に減少します。もっとも人口が減少する「秋田県」は、2030年には79.6%(2015年対比)、2045年には58.8%(2015年対比)と、人口が半分近くに減少します(人口動態の詳細は、この連載の第19回参照)。まさに、何も手を打たなければ、間違いなく売上が減少する未来が到来することがわかります。

一方、人口構造は、「少子高齢化」が一気に進みます。高齢者の人口が増えると、「免許返納」した高齢の単独世帯が増加します。自分で車を運転できない高齢者は、ルートバスを使うか、息子や娘の車に乗せてもらうしか、買物手段がなくなります。買物だけでなくて、年金日にお金を引き出したいと思っても、ATMに行くことも困難になります。

先日、「CEATEC JAPAN」という展示会で、大手都市銀行が実験している「移動ATM」のデモを見てきました(写真)。担当者の方によれば、介護施設でニーズがあるそうです。介護施設に入居している高齢者は、通帳、印鑑、カードをヘルパーさんに預けており、お金を引き出す際には、ヘルパーさんにATMまで行ってもらうことが一般的です。それが、施設にいる高齢者の自尊心をひどく傷つけているそうです。「自分でお金も引き出せないのか」と。しかし、移動ATMであれば、年金支給日に介護施設に来てもらえば、自分でお金を引き出すことができます。

大手都市銀行が実験中の「移動ATM」。介護施設などで要望がある。

また、ATMが遠方の工場地帯、限界集落などでも需要があるようです。現在、手数料を高くしたり、低くしたりして、どのくらいの手数料が「お許しいただける範囲」なのかを実験している段階だと言います。「移動ATM」の実用化は、そんなに遠くないと思います。

限界集落で活躍する移動スーパー「とくし丸」

杏林堂薬局の移動スーパー「とくし丸」。店内の取扱商品に一律10%のマージンを乗せて販売する。

全国のSM(スーパーマーケット)が導入して話題の「とくし丸」という移動スーパーもまた、免許返納した高齢世帯向けの「届けるサービス」です。とくし丸に積み込む商品は、そのSMの売場で陳列している商品です。「プラス10円ルール」によって、一律、10円のマージンを乗せて販売します。10円割高ですが、店舗まで行く手段の少ない高齢世帯にとっては有難いサービスです。

DgS(ドラッグストア)でも、杏林堂薬局が2016年10月から、2店舗で、3台の「とくし丸」を稼働させています(月刊MD2018年6月号掲載)。杏林堂によれば、「お客さまのほとんどは高齢の方です。中には一度に6,000円も買ってくれる方もいて、購買力は高いです」とのことです。

また、「とくし丸を利用するお客の60%程度が、一人暮らしの高齢者を家族にもつ来店客です。たとえば、親の買物になかなか付き添えなくなった娘からの依頼が多いです。とくし丸を導入している『杏林堂和田店』は、売上構成比の45%が食品です。中でも刺身、精肉、青果などの生鮮食品の要望が多いですね」とも言います。

刺身、肉などの生鮮食品がよく売れる。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。