今週の視点

ネットとリアルの融合で「買物体験」の質を向上

第23回自宅で「在庫」と「商品情報」を確認できる「ホームデポ」のオムニチャネルの凄さ

11月中旬に、第3回オムニチャネル体感ツアーに行き、「買物体験の質の向上」のためのネットとリアルの融合の最前線を取材してきます。今回は、昨年11月のツアーで体感した「ホームデポ(米国最大のホームセンター企業)のオムニチャネルをリポートします。

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在庫、陳列場所、商品情報を一元管理するホームデポ

ホームデポは、この10年間、店舗数はほとんど増えていません。少し古いデータですが、2010年2,248店に対して、2015年は2,274店と店舗数は横ばいです。しかし、売上高は2010年680億ドルに対して、2015年は890億ドルと、約25%も売上を増やしています。

写真1

店舗数は横ばいなのに、売上を大きく増やした理由は、(1)リフォームなどの物販以外の事業の売上が増加したことと、(2)オムニチャネル化で買物体験の質を向上させ、既存店、既存顧客の売上を増やしたことの2点です。今回は、ホームデポのオムニチャネル化による顧客満足向上の最前線をリポートします。

消費者がリアル店舗に来店して最も怒ることは「欠品」です。わざわざ時間を使って来店したのに、欲しい商品が欠品していたら、消費者はその店への信頼を失ってしまいます。店に行く前に在庫の有無を確認したいというのは、永遠の課題でしたが、ITの進化によって自宅に居ながら在庫確認ができるようになりました。

写真2

ホームデポのアプリ(写真2)をスマホに入れて、画像認識システムを立ち上げます。そして、欲しい商品の現物、カタログ写真、パソコンやテレビの画面など何でもいいので、画像スキャン(写真3)すると、その商品を認識します(写真4)。そして、写真4の中央の「Find it Aisle」の部分をクリックすると、近くのホームデポの店内のどの場所に、在庫が何個あると表示されます(写真5では75個)。平面図だけでなくて、立体図でも表示されます(写真6)。

消費者が、「欠品」をもっとも嫌がるように、どんな業態であっても、来店客にもっとも聞かれることは、「この商品はどこにあるのですか?」という質問です。欠品が事前に分かればいいのと同じように、商品の場所が事前にわかれば、買物体験の質は大きく向上します。

ホームデポの店内には「FIND IT FAST」(写真1)というボードを掲示し、「あなたの欲しい商品がすぐに見つかりますよ」ということを積極的にアピールしています。

在庫情報に関しては、ほぼリアルタイムで更新されており、ツアー参加者が試しに、その商品を買物してみたところ、20分後には写真5の数字が1個減っていました。ホームデポはネット販売も行っており、この在庫管理を可能にするためには、ネットとリアルの「在庫データ」「位置データ」「販売データ」を一元管理することが必要十分条件になります。

商品の口コミ、商品説明動画もアプリで確認することができる

自宅で商品検索した結果、欲しい商品の在庫がゼロの場合は、その場でアプリを使って注文することもできます。自宅への配達も可能ですが、配送料が高いので、ほとんどの顧客は店舗受け取りを選ぶようです。ウォルマートの「ピックアップタワー」のような店舗受け取りの無人化はせず、あえて有人のカウンターで接客しながら商品を渡すという「リアルな買物体験」を残しているのも、ホームデポの顧客満足の向上につながっています。

写真4の画面では、その商品の口コミやレビューも見ることができます。ネットとリアルの買物体験を融合させていることがわかります。また、写真4の画面の右上の矢印をクリックすると、この商品の使い方や特徴を短時間で解説した「動画」を見ることができます(写真7)。自宅でも動画を見ることができるし、ホームデポに来店した際に気になった商品を画像認識すると、その商品を解説した動画を売場でも見ることができます(写真7)。

HC(ホームセンター)で取り扱っている商品は、使い方のわからないものも多く、POPや接客をサポートしてくれる非常に便利なツールとなっています。2年前は、取扱商品の50%くらいの商品で動画を見ることができましたが、1年前は70%以上の商品の動画を見ることができるようになっていました。増えているということは、売上増に効果があるということだと思います。

メーカーにとっても、商品の「理解度」を高める有力な「店頭メディア」として活用されているようです。「店頭のメディア化」は、日本でもこれから訪れる未来だと思います。

写真7

店頭で画像認識した商品の使い方動画を見てみた。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。