今週の視点

価格が「需要」と「供給」に応じて変動する時代へ

第21回「ダイナミック・プライシング」がこれからの値付けの主流になる!?

プライシング(値付け)は、商人のもっとも重要な技術のひとつです。プライシングによって、売上も粗利も、増えるか減るかが決まるといっても過言ではないからです。そのプライシングが技術の革新によって大きな変化を遂げようとしています。

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電子棚札を活用して、一部の商品でダイナミック・プライシングを実験中と言われているトライアルの店舗

ハイ&ローよりもEDLPが価格販促の主流に

従来、プライシングには、「ハイ&ロー」と「EDLP(エブリデーロープライス)」の2種類しかありませんでした。昔は、ハイ&ローで売価を短期的に変動させて、売上(需要)を増やす方法が、小売業の価格販促の主流でした。しかし、ハイ&ロー販促は、「バーゲンハンター」ばかりを集客し、固定客化に貢献しないことがわかってきました。また、「低価格時」と「平常売価時」の売れ方(需要)の波動が大き過ぎて、在庫量と作業量が大きく増えるという根本的な課題がありました。

その後、アメリカのウォルマートが「EDLP戦略」で大成功し、小売業のプライシングはEDLPが主流になっていきます。一定の売価で売り続けるので、売れ方の波動が少なく、需要予測の精度が高まって欠品も減り、サプライチェーン全体の保有在庫量も減少しました。さらに、特売日の前夜に値札を貼りかえるという膨大な作業がなくなり、ローコストオペレーションにも貢献しました。また、働く女性の増加も、時間に余裕のある専業主婦向けの価格販促だったハイ&ローの効果が徐々に減少していった理由のひとつです。

需要と供給に合わせて価格が変動する

しかし最近、「ダイナミック・プライシング」という言葉が注目を集めるようになっています。これは、AI(人口知能)を活用して、需要と供給に合わせて価格を変動させる方法です。すでに「ホテル業界」や「航空業界」は、ダイナミック・プライシングを採用しています。同一のホテルチェーンでも、繁忙期と閑散期では宿泊代が随分違いますよね。

ネット販売のアマゾン(Amazon)もダイナミック・プライシングを採用しており、毎日のように価格が変動しています。この連載(今週の視点)の第14回で紹介したアマゾンのリアル書店「アマゾン・ブックス」でもダイナミック・プライシングを採用しています。

アマゾン・ブックスの売場には「値札」(価格表示)がありません。店内に設置してある「スキャナー」(写真参照)や「アマゾン・アプリ」で、本のバーコードを読み取ると、価格が表示される仕組みになっています。ネットとリアルの価格は連動しており、需要と供給に合わせて価格は日々変動しています。

現状の日本の小売業のオペレーションでは、ダイナミック・プライシングの導入は現実的ではありません。価格変動に合わせて紙の棚札を付け替える作業は膨大だからです。

しかし、今後、「電子棚札」が普及していくと、値札の付け替え作業がかからないので、本部管理で店舗の売価を変動させることは可能です。食品であれば、売れ方に応じて1日に何回か売価を変えることができます。適正売価は、立地や競合状況によっても違いますので、将来は店別に売価が異なる時代が来るかもしれません。

さらに進むと、個人の属性(年齢、性別、所得など)や購買データに応じて、個人に合わせた「適正売価」を提示し、それをスマホで決済する時代になると予測できます。個人で売価が異なる時代が来るわけです。

小売業のプライシング(値付け)は、「ハイ&ロー」→「EDLP」→「ダイナミック・プライシング」→「ワントゥーワン・プライシング」の順番で進化しようとしています。「プライシング論争はEDLPで決まりだな」と思っていましたが、小売業のイノベーションは続いていくのですね。

売場に値札が存在しないアマゾン・ブックス。需給に応じて価格が日々変動するダイナミック・プライシングを採用している。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。