豪雨被害から人と店を守る

多発する「避難指示」区域、刻々と変わる状況~レデイ薬局の災害対応 前編~

2018年6月28日から7月8日にかけて西日本を中心に起こった集中豪雨は各地に大きな被害をもたらした。のちに気象庁により「平成30年7月豪雨」と名付けられたこの大規模災害により、8月25日現在の消防庁の情報によると死者221人、行方不明者は9人に及んだ。とくに被害が大きかったのは広島県(死者108人、行方不明者6人)、岡山県(同61人、同3人)、愛媛県(死者27人)の3県で今回の死亡者の9割近くを占める。㆑デイ薬局はこの3県に出店しており、これまで経験したことのない自然災害の対応に追われた。今回は、7月6日から8日にかけて、愛媛県を襲った集中豪雨で浸水被害に遭ったくすりの㆑デイ東大洲(ひがしおおず)店を取材。豪雨被害への対応の難しさと、そこから得た教訓を紹介する。(月刊マーチャンダイジング2018年10月号より転載)

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①臨時休業決定

2018年7月7日(土)
空前の大雨でダム放流 下流地域が水害に

今回話を聞いたのは、東大洲店店長の田村博氏、東大洲店を含む大洲市、西予市,八幡浜市、内子町という愛媛県内でも被害の大きかったエリアで8店舗を担当するスーパーバイザー(SV)の越智大介氏、本部で出店エリア全体の被害状況の把握と対応を担った代表取締役副社長執行役員営業本部長の白石明生氏の3人である。

7月6日(金)から激しい雨が降り続いた愛媛県南部では、同地域を流れる一級河川肱川(ひじかわ)上流をせき止める野村ダムが異常なペースで満水レベルにまで到達。共同通信など複数の報道によると、これを受け国土交通省では午前6時20分、基準の6倍にあたる最大毎秒約1,800トンを放流した。

ダムに近い西予(せいよ)市と下流域にあたる大洲市には避難指示が出されたが、報道などによると、早朝の出来事で激しい雨音とも重なり避難指示に気付かなかった住民も多かったという。結局、西予市で5人、大洲市で4人の死者を出すことになる。

レデイ薬局では大洲市に4店舗(2店舗は調剤専門)を出店。このエリアのSVを務める越智氏は当日の行動を次のように振り返る。

「朝6時前に大洲店(東大洲店から西南に約2km)の高砂店長から連絡があり、店舗前の道路がすでに2~3cm冠水しているので、当日の営業を検討する必要があるということになりました。その時点で近隣では防災無線などで避難を呼び掛けていました。

私は東大洲店から2kmくらい離れた場所に住んでいるので、大洲店の店長と2人で現場の確認を行いました。その場で従業員の安否の確認と出勤可能かどうかを緊急連絡網で確認しました。その結果、従業員の住まいの多くが、避難指示区域にあることがわかりました。

午前7時過ぎには従業員の安否、店舗周辺の状況確認が終わり、出勤できる従業員が少なく、本日の営業は困難なので店休したい旨、店舗運営部長に連絡しました。部長からは何よりも従業員の安全を優先させるように、という指示があり、店休が決定しました」

越智氏の報告に基づき、レデイ薬局ではこの日、四国にある店舗のうち大洲店、東大洲店、内子店の3店舗を休業とすることを決定。決定した時間は野村ダムの放流により肱川が氾濫して大洲市にも避難指示が出された時間とほぼ同時刻で、的確な判断であったといえる。近隣にはこの日営業して浸水し、従業員が危険な目に遭った店舗もある。

今回浸水被害に遭った東大洲店店長の田村氏は大洲市の東隣にあたる伊予市在住、当日朝はすでに道路が寸断されており店舗へ向かう手段がなかった。越智氏や従業員との連絡はスマホによる通話とLINEで行った。

[図表1]愛媛県の被害の大きかったエリア

大洲市のホームページによると、7月6日(金)午前6時20分に「土砂災害警戒情報」が出され、午前8時30分には各地区に「避難準備」・「避難勧告」が発令されている。7日(土)午前7時30分、市内全域に「避難指示」が発令、これが解除されたのが9日(月)午前9時である。

浸水したくすりのレデイ東大洲店店内(7月8日午前撮影)

避難を促す発令に関して図表2でまとめた。現状では「避難指示」がもっとも緊急を要する内容であり、今回の豪雨ではレデイ薬局の出店する多くのエリアで「避難指示」が発令され、被害地域の広域化に苦慮することになる。

[図表2] 市町村などが発令する「避難」に関する分類

②本部の対応

2018年7月7日(土)
SNSやネットで情報収集 「避難指示」区域の多発に苦慮

7月7日(土)と翌日は、レデイ薬局が主催する「健康フェスタ」の開催日にあたっていた。会場のある松山市内は雨こそ降っていたが、豪雨というほどの降り方でもなく、健康フェスタは通常どおり開催された。

会場には白石氏をはじめとする経営幹部が午前6時ころから一堂に会しており、これが迅速な意思決定をするには好都合だった。

「広島県、岡山県の被害規模の方が大きく、愛媛県の被害はマスコミ報道にのりにくかったとおもいます。私たちが情報源として活用したのは、インターネット、TwitterやInstagramなどのSNSでした。SNSに上がる写真を見て自店の近隣状況などを知りました。また、フェスタを開催していたので、メーカー、ベンダーの方に他企業の被害などの状況を聞いて情報をつかんでいました」(白石氏)

同社に緊急対策マニュアルはあるが、四国地方は南海トラフ地震が予想されていることもあり、主に地震を想定したものだった。豪雨被害となるとマニュアルではカバーしきれない状況も訪れた。

「地震の際は震度を基準に対応が決まっています。今回の豪雨の場合、過去に例を見ないほどに広範囲にわたり多数の区域に避難指示が出されました。SVの数で言えば6人が避難指示区域を持っていました。現場判断は重要とはいえ、各自が自分たちの判断だけで動いても困るし、常に連絡を取り合い、本部に情報を上げてもらいながら対策を立てていくことが重要だと痛感しました。

緊急で手配する商品や支援物資にしても、どこにどういう状態の人がいるかわからない、可能な限り情報は全部上げてもらい、四国は松山の本社、中国地方は岡山県の撫な つかわ川店に納品してもらい、そこから集めた情報を基に必要な店舗へ送る手配をしました」(白石氏)

図表3はマニュアルにあるレデイ薬局の緊急対策本部の組織図である。同社では、今回の災害を機に、避難指示が出店エリアに出た場合には対策本部を立ち上げるなどマニュアルを進化させた。

[図表3]レデイ薬局 緊急対策本部組織図

後編に続きます。