ユーザー目線でプロが分析

LDK編集長インタビュー 支持される共通項は「高見え」「100均バレしない」

100円ショップは「お得感」を前提としつつも高い品質、カスタマイズする楽しさ、トレンドを意識した商品提案を次々に仕掛け、支持を集めている。そこで、女性向けライフスタイルマガジン「LDK」の編集長であり、別冊MOOK「100均ファンmagazine!」の編集も手掛ける晋遊舎の木村大介氏に、100円ショップから他業態が参考にできそうなポイントを伺った。(月刊マーチャンダイジング 2018年7月号より転載)

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セリアの登場で女性への提案力、トレンド&おしゃれ度がアップ

──100円ショップといえば、老舗のダイソーが店舗展開を始めたころは注目度が高く、足しげく通った人も多かったとおもいます。しかし、だんだん目新しさも感じなくなり、少し前までは業界内の空気も停滞しているようなところがありました。それが、ここ数年で急に商品提案力が高くなったようにおもいます。その一因として「ダイソー」「キャンドゥ」に続く第三の勢力「セリア」の存在があるように感じますが、木村さんはどのようにお考えでしょうか。

木村 たしかに、ここ数年で変わった印象はありますね。2013年の「LDK」創刊以前、100円ショップの大手といえば「ダイソー」「キャンドゥ」でした。それほど買いたいものが見つからない、ダサくて野暮ったいという感じもありました。「100円ショップの商品を使うのは恥ずかしい」という女性も多かったのではないかとおもいます。

──それがセリアの台頭で「100円ショップで、おしゃれなものが買える」という認識に変わったということでしょうか。

木村 セリアが全国展開するようになって、女性たちは100円で“憧れの暮らし”を気軽に手に入れられるようになったようにおもいます。ダイソーは200円、300円の商品も多く、“脱100均”を狙ってすらいますが、セリアがあくまで愚直に売価100円にこだわったことも、(お金にシビアな)女性に受け入れられた要因と考えられますね。

その後、女性をターゲットにした「NATURAL KITCHEN」など“おしゃれ系100均”が出始めて、100均の概念が一気に変わったようにおもいます。ダイソーもこの変化を敏感に感じて、(女性向けの商品開発に)本腰を入れだしたように記憶しています。

──2年ぐらい前からだったでしょうか、ダイソーとフリューのコラボ「GIRLS, TREND研究所」などがその例でしょうか。やはり、セリアの影響は大きかったということですね。

木村 たしかにセリアも意識したともおもいますが、ユーザーの声が直接届く時代になったことが大きいのではないでしょうか。TwitterなどのSNSもあり、LINEも普及して、Yahoo!ニュースのコメント欄に意見が書き込めたりもする時代。ユーザーが「ダサい」「セリアの方がいい」「すぐ壊れる」といった声を気軽に発することができます。昔だったら、不満があってもわざわざ電話をかけたり投書するなんて人は少なかったでしょうから、すごくいい時代になったとおもいます。

──売る側と買う側のコミュニケーションは以前より深まってきていますね。ダイソーはユーザーの意見に耳を傾けることで見事な方向転換を図ったということでしょうか。

木村 推考するとそうなりますね。いまはセリアが断トツでおしゃれとい
うこともなくなって、ダイソーもキャンドゥも驚くほどコスパのいい商品を開発してきています。ただ、セリアは店内のおしゃれにも気を配っていて、グリーンを基調にしたナチュラルな雰囲気、木目調の什器を使ったり、間接照明を生かした陳列をしています。これはダイソーやキャンドゥにはない要素かなとおもいます。

「100均ファンmagazine!」(晋遊舎)
女性向けライフスタイルマガジン「LDK」で人気の100均特集を特別編集した不定期刊行MOOK。“100均で暮らしを楽しくしよう良くしよう”がコンセプト。メインターゲットは30~40代の目が肥えた主婦で、広告を入れず公平にユーザー目線で商品をジャッジする記事をモットーとする。最新号vol.3は2018年1月に刊行された

ユーザーが気に掛けるのは「高見え」と「100均バレ」

──実際に100円ショップの商品を比較するなかで、具体的にはどのカテゴリーが進化しているのか、ユーザー目線で解説いただけますか。

木村 キッチン雑貨は無視できませんね。たとえば100円ショップで流通している優秀なキッチンばさみは、調理用品や衛生用品を扱う大手メーカーの商品と使用感はさほど変わりません。耐久性があり、2~3通りの使い方ができる便利なアイデアグッズはホームセンターでたくさん売られていますが、1,000円以上する商品もあり、買うのに勇気がいります。100円ショップなら「失敗するかもしれない」というリスクはありますが、もう“安かろう悪かろう”という時代でもなく、頻繁に失敗することはありません。

──その他のカテゴリーはいかがでしょうか。

木村 「LDK」の100均特集の常連カテゴリーは「キッチン」「収納」「インテリア」「掃除」「洗濯」「文具」です。これらのカテゴリーは優秀なアイテムが揃えられているとおもいます。大手メーカーが製造している商品も増えてきているようです。

キャンドゥの「なめらかインクボールペン」は書き味のよさに加え、シルバーを基調にしたボディで高級感がある「高見え」する商品です。実はこの商品、老舗文具メーカーのプラチナ万年筆が製造しているんです。日本の老舗が100均文具をつくるなんて以前の常識では考えられませんが、100円ショップを新たな販路と考えるメーカーは少なくなく、100均グッズの品質向上に一役買っているようです。

キャンドゥ なめらかインクボールペン(画像提供:晋遊舎)

──「高見え」とは何でしょうか。

木村 100円以上に見える、高級なものに見える、といった意味合いでわれわれは「高見え」という言葉を使っています。「高見え」することは非常に重要です。100円ショップがいくら市民権を得ているとはいえ、“いかにも100均”に見える商品は「お金がない」「ケチなのでは?」と勘繰られる恥ずかしさに結び付いてしまいます。文具だけでなく、収納、インテリアなど人の目につきやすい商品はとくに「高見え」するかが購入の判断基準のひとつになります。

──「高見え」以外に、ユーザーが気に掛けているキーワードはありますか。

木村 「高見え」と少し似ていますが「100均バレしない」ということです。たとえば、ダイソーで売っているスキレット(鋳物)は100円ではなく300円なのですが、ニトリやカインズで売っている500円ぐらいの商品と比べても遜色ありません。たいていの人はダイソーでスキレットを買えるとはおもっていないので、「どこで買ったんだろう。すてきだな」となるわけです。

ダイソー スクエアスキレットM、イモノ取手付皿、イモノステーキ皿(画像提供:晋遊舎)

──なるほど。「高見え」は自己満足を高めることで重要、「100均バレしない」は承認欲求を満たす意味で大事な要素といえますね。

木村 「100均バレしない」商品は元ネタがあります。メディアが取り上げたりするセンスのいいおしゃれな商品。常識で考えて100円では買えそうもないものですね。輸入雑貨店
などで扱われているハーバリウム※もセリアだと100円。本来1,000円はする商品なので、「まさか100円だとはおもわなかった」となります。

セリア ハーバーリウムストレートオブジェ(画像提供:晋遊舎)

──ハーバリウムは「100均バレしない」だけでなくトレンドも押さえていますね。最近の100円ショップにおける変化のひとつとしてトレンドに敏感に対応できるようになったことが挙げられるとおもいます。

※ハーバリウム…プリザーブドフラワーやドライフラワーを防腐剤などで処理して、ガラス瓶に入れたインテリア雑貨

DgSでも取り扱えそうなNBの小容量タイプの食品

──小誌はDgSの経営者層から商品開発担当者、店長さんまで幅広く講読していただいているのですが、100円ショップが実践していることでDgSこそやるべきだとおもう商品提案などはありますか。

木村 最近DgSに行くと、おもっているより食品を扱っている印象があるのですが、ダイソーも食品を強化しているので、参考になるのではないかとおもいます。

たとえば、スーパーなどではカレールウはナショナルブランド(NB)だと小分けになっていなくて8皿分の商品を多く見掛けますが、ダイソーでは2皿分だけつくれるような“小容量”のパックがあって便利なんです。

──単身世帯や夫婦二人暮らしの人は助かりますね。私も100円ショップでお茶碗1杯分のレトルトカレー、コンビニなどで売っている箱入りではない袋入りの「パイの実」(10個入り)などを見掛けます。ちょっとだけ食べたいとき、小容量の食品は便利ですね。

木村 コスパを考えたらスーパーで買った方がいいのかもしれませんが、「食べ切れない」という人もいるんですね。シニアで二人暮らしされている方から「スーパーよりダイソーの方が少なめだからよく買う」といった意見を頂くことがあります。

──なるほど。NBそのままでは100円で儲からないのですから当然サイズダウンしますよね。それが小容量・小分けニーズを求めている人に響くと。DgSでもそのサイズダウンした商品を置いてほしいですよね。

木村 100円分の小さめサイズにするのですから、普通のNBと利益は同じ。いい商品です。DgSに向いているとおもいます。食品はコスパで選ぶ風潮がありますが、「少なく買える」「無駄がない」「使い切る」という価値提供も大切だとおもいます。単身者は無理にコスパで選ぼうとするとストレスになるのではないかとおもいます。

──100円ショップは食品も日本の大手メーカーが参入してきているということでしょうか。

木村 アナザーメーカーがつくっているNBの類似品もたくさんあるのですが、大手メーカーの商品を「少なくして売る」というスタイルも確立されていますね。ダイソーのパンは、日本の大手製パンメーカーが一括受注しているという話も聞きます。

DgSの食品は食べ盛りの子供がいる母親や若いママをターゲットにしたコスパのいい商品が中心ですが、もっと提案の幅が広くてもいいのかもしれませんね。

モノの価値基準を変える“100均”は時代を映す鏡

──では、最後に。今後の100円ショップは今後どのように進化していくとおもいますか。

木村 今年の春、神奈川県の座間にダイソーが300円ショップ「THREEPPY(スリーピー)をオープンさせましたが、実験的な試みなのか、多店舗展開していくのか、キャンドゥやセリアがどのぐらい意識しているのか気になるところですね。

──今後も100円ショップは進化していきそうですね。お金を掛けずに楽しく便利に暮らす知恵が詰まっていますからね。

木村 そうですね。ユニクロなどもそうですが収入の差に意外に関係なく利用するのが100円ショップなのではないかとおもうのです。

昔ほどお金がある人とない人で使っているものが違わなくなってきていて、それを下支えしているもののひとつが100円ショップのような気がしているんです。「本当はもっといいものを買いたいけれど100円で我慢する」という時代は終わり、「この商品は100円が妥当」「もはやNBを買う必要を感じない」といった購入の判断基準を大きく変えたのが100円ショップだとおもいます。

──コト消費に対する需要が高まるなかで、モノ消費は縮小傾向にあるということでしょうか。

木村 ネットを駆使すればとことん安いものが見つかりますからね。昔はCDを買わないと音楽が聴けませんでしたが、いまは1曲ずつダウンロードする時代で、YouTubeにアップされていれば無料で聴くことができます。

若者は背伸びをしてモノにお金を掛けることをナンセンスだとおもっていますよね。安いものや無料のものをいかに見つけられるか、活用できるかが求められている現代に100円ショップはなくてはならないですし、100円ショップは現代の日本に非常にマッチしている業態なのだとおもいます。