MD NEXT リリースセミナーレポート サンキュードラッグ平野健二社長

小売業の使命は「お客さまと商品のマッチング」だ

2018年6月21日、150名以上の来場者を迎え盛況のうちに幕を閉じたMD NEXTリリースセミナーの一部を抜粋してお届けします。生活が変わり、売り方も大きく変化しつつある今日、小売業はどのようにマーケティングを進化させていくべきなのか。北九州市を中心に42店舗のドラッグストア(うち調剤併設25店舗)と30店舗の調剤薬局を展開しているサンキュードラッグの代表取締役社長兼CEO 平野健二氏の講演です。(まとめ:編集部、写真:曽根田源)

  • Facebook
  • Twitter
  • Line
  • Hatena

商品の価値はほとんどのお客さまに伝わってない

サンキュードラッグは北九州と下関で、半径25キロ範囲内に73店舗を出店している、超ドミナント体制のドラッグストアです。私はこの会社のいわゆる二代目なのですが、子どもの頃から次のようなことを考えていました。「お百姓さんは米を作り、メーカーはものを開発して、それらを売って儲けます。小売業というのは、仕入れたものを高く売っているだけ…何の役に立っているのだろう。

それからというもの、私は「小売業の使命とはなんだろう」ということをずっと考えて続けてきました。会社経営をする中で、私の今現在の答えは何かといえば、「お客さまと商品をマッチングすること」だと思っています。

お客さまは、「これをください」とお店に来られるのですが、それはあくまでお客さまが持っている知識や情報の範囲で自分にベストであると思っているだけで、本当にそれがベストかどうかは実はお客さまは知らないことが多いのです。一方で、メーカーさんが心血注いで作った商品価値というのは、ほとんどのお客さまに伝わっていません。これを解決してみせるのが、小売業たる私たちの役割ではないかと思っています。

従来私たちは、リアル店舗というものをマーケティングメディアとして使って、お客さまに商品の価値や存在をお伝えしたり、認識していただいてきました。ところが、どうもリアル店舗のマーケティング能力だけでは、セグメントが多様化した現代のお客さま、そしてそれ以上に商品の付加価値、その価値のマッチングということが難しくなってきています。

それをいかにリアル店舗の役割とうまくリンクさせながら、デジタルマーケティングを絡めて実現に至るのか。これがこれからの小売業のテーマだと私は思っています。

ユニーク客数減少時代、真の客数増とは来店頻度アップである

マーケティングの基本はお客さまを知ることです。今、いろいろなデータが集められ、それを使いこなせる環境になっていますが、データをとにかく集めると、間違いなくデータの洪水の中に溺れてしまいます。自分が何をしたいのか、そのために必要なデータは何か。これをきちっと定義して入っていくということが、私たちの役割であると思います。

大原則として、売上=客数×客単価というのは誰でも知っていますが、この公式からすると、売上を上げようと思ったら客数と客単価をあげればよいということになります。しかし、今や高齢者が増え、東京以外のほとんどの地域では人口が減少し、狭小商圏化が進んでいます。このように、ユニーク客数がどんどん減少している時に、客数を増やすということの真の意味は、来店頻度を上げることです。ここまで理解して初めて次のストーリーが成り立ちます。

では、実際にお客さまの何を知ればいいのでしょうか。ID-POSでいえば、来店目的につなげるためには、誰が買ったのか、そして何を買っていないかを分析することです。お店には来ている、薬も化粧品も日用雑貨も買っている。それなのに、なぜかボディーシャンプーだけ買っていないという人がいるのです。ということは、1人のお客さまを外から呼んでくるよりは、そうしたお客さまにボディーシャンプーを買ってもらう方がコストがかかりません。

また、皆さんがブランドを育成するときに大事なのは、何個売れたかではなく、例えば年間に5回買ってくれる人を何人作りたいかという視点です。繰り返し買ったのか、何回買ったのが、複数回買ってくる人を何人作ったのか、そのように結果を見ていきます。そして、どれぐらいの頻度で買ってくれるのか、なぜ買ったのか、それが購買履歴というところに加え、接客履歴であったり健康美容情報であったり、さらには(WEBなどの)閲覧履歴などもお客さまを知るうえでは重要です。

そして、それをいかに購買行動につなげるか。あるいは、逆にこういう購買行動をしている人たちに、我々から情報を投げかけることによって、どんな行動の変化が起きたのか。私たちはどんなタイミングで、どんなメッセージでそのアクションのきっかけを作ってあげるか。そういったところでデータマーケティングを使ったビジネスというものは可能になってくるわけです。

問題は、データマーケティングで今後期待を集めるPHR(Personal Health Record)に関してはデータがあちこちでとられて、1人の人の統合データになってないということがあります。ビックデータについては、バラバラのデータをとにかくたくさん集めましたという方は結構いるのですが、そうではなくて誰か1人について詳しく知る。こうしてディープデータ化したときに初めて、その人に対するワントゥーワンのアプローチができるようになります。1人に対してのビックデータを集めるためには、例えばPHRに関してはアクセスポイントをどれだけ身近にたくさん作ってあげられるかが勝負です。

店でお客さまが最初にするのは「休憩」

次に、店舗をマーケティングツールとして見てみましょう。AIDMA(アテンション、イントレスト、デザイア、メモリ、アクション)という、この順番でお客さまは行動に至るという古典的な概念がありますが、これを横軸にして、縦軸には店内にある様々なツールを当てはめてみます。

例えば、「大量陳列」はアテンションを引くためのツールです。「多箇所陳列」はメモリーという意味で有効ですよね。「試食」「試飲」はデザイアです。皆さんが今からお客さまに届けたい商品が、認知されていないのであればアテンション、関心を示してもらえないのならインタレスト、刷り込むのならメモリーです。それぞれが今どのレベルにあるのかということをメーカーさんと共有してみると、店舗という名のマーケティングツールはもっと有効になります。

ただ、これまでリアル店舗を運営してきた理論が現代において通じるとは限りません。たとえば、客動線については、それを伸ばせば伸ばすほど客単価がアップすると言われていました。
ですが、サンキュードラックでお客さまにアンケートをとったところ、実は、「お店について最初にやる事はなんですか」という問いに対しての答えが「休憩」であることがわかりました。休憩してから買物をして、買物が終わったら休憩をして、それから帰る。そんなお客さまに対して、500坪や600坪の店を隅々まで歩けというのか。こんなことまで考えます。

客動線に関する議論が出てきたのは1960年代です。当時はシャンプーといえばシャンプーのことを指しました。今はどのシャンプーなのか、そこに誰がくるのかという話がセットにならなければマッチングはできないと考えるべきです。

それに、お客さまがある商品が自分にとって価値があるということを知っていれば客動線を伸ばすことが重要という議論も成立するのですが、我が社でも2万アイテムという商品を取り扱っていながら、商品部の部長でさえすべてのアイテムの価値をお客さまに説明することはできません。どの商品が自分にとってどんな価値をもたらしてくれるか、それを選んで教えて欲しいというお客さまの要望に応えられていないという現実は、小売業が抱える重大な問題であると思っています。

そしてさらに、店舗のなかで2万アイテムの価値を伝える場所が限られています。また、接客をするには人員を育成しなくてはいけません。また、接客は売場と並んでリアル店舗の2つの大きな柱なのですが、1日で接客できる人数は極めて限られています。結局、タイミングのよい来店者のみの接点ですよね。そして商品の高スペックパーソナル化に対応できていないというのがリアル店舗の課題だという事です。

さらに深くつながるデジタルメディアとリアル店舗

 

そこにデジタルマーケティングが登場するわけですが、期待されるのはまず、桁違いの情報伝達能力です。購買履歴、閲覧履歴から、お客さまの求める商品の情報、サービス、品揃え、価格を個別的・選択的に配信できます。デジタルならマッチングできる可能性があります。売り手と買い手双方のギャップを埋めるツールという点で、デジタルメディアは非常に有効なのです。今、サプリメントの世界でいうとマーケットシェアの8割、9割が通販に移行しています。これは、通販はそういったことをフォローをしているからです。今後は、デジタルメディアとリアル店舗が繋がっていくでしょう。

しかし、デジタルマーケティングにも課題があります。まず、本当に正しいお客さまに情報をお伝えすることができているのかということですね。閲覧情報と位置情報はかなり精度を上げることができますが、本当にその人が買ったのかという、実際の購買とリンクさせる必要があります。また、デジタルメディアは選択的個別的に配信ができる点でチラシともDMとも違いますが、現在はまだLINEなどで、同じ情報を一斉広告配信しているケースが非常に多いのですね。

もう一つ、メーカーさんがせっかくいい情報を流しても、CMなどのマス媒体だとその商品がどこで販売されているのかということまではお客さまに伝わりません。同じコンテンツでも、サンキュードラックから流せばその商品はうちにあることが確定していますから、安心してうちに来ていただけます。デジタルマーケティングを使っていくうえでは、そういったことを共に考えて欲しいと思っています。

閲覧者の3.6%が店頭で商品を購入したこどもの歯ブラシ動画

現在、デジタルマーケティングはデジタルメディアを使ったマーケティングとか、デジタルメディアを使った販促という使い方が非常に多いわけです。しかし、デジタルマーケティングとは本来、ID-POSによる購買履歴やネットの閲覧履歴、パーソナルレコード等々のデータを使いながら、お客さまをデジタルに把握することであり、その上で個別的選択的な配信を行ってワントゥーワンアプローチをする。これをもってデジタルマーケティングというべきだと私は思っています。

デジタルマーケティングの必要条件は「データ」と「コミニケーションメディア」になります。そして十分条件は、行動変容を起こすコンテンツです。

これまで私たちも、いろいろなコンテンツをメーカーさんからいただいたり、自分で作ったりしながらお客さまに配信してきたのですが、このあとご覧いただく動画は、何のインセンティブもつけていないのに、見た方のうち3.6%の方が、わざわざサンキュードラッグで商品をご購入されたというものです。

この動画をライオンさんの展示会で拝見したときに、私はとても感動しまして、絶対にお客さまに見ていただきたいと思ったんです。それで、当社のお客さまに向けてインセンティブもターゲットも定めずに配信したのですが、ご覧になった方の3.6%の方がこの歯ブラシをお買い求めになられました。
実は赤ちゃんの歯は生後9か月で生えるんです。ID-POSを使えば生後9か月の赤ちゃんを持つお母さんがどこにいるかはある程度把握できます。そのタイミングで配信すればもっと購買率は上がるでしょう。

メーカーさんはさまざまな動画を用意しているのですが、俳優さんの事務所との契約でCM以外の動画配信は想定していなかったということが多々あります。ならばそこを解決すればよいのです。CMのように流しっぱなしにするのではなく、見てもらうべき人に見てもらうべきタイミングで情報を届けたほうがよっぽど効果があるということを、私は考えています。

つまり、自分で売りたいタイミングではなく、お客さまの買いたいタイミングでご提案をする。赤ちゃんは、生後半年経ったら熱を出すといいますが、実際に冷えピタシートは出産後7ヶ月目のお母さんがよくお買い求めになられるのです。それなら、生後6カ月の赤ちゃんがいるお母さんに、ご家庭でマスクを使って赤ちゃんを危険にさらさないようにしましょうといったら、マスクの売り上げがもっと上がるかもしれません。これもデジタルメディアの特徴だと思います。

メーカーさんとお客さま、2つを結びつけることで、小売店はメーカーさんにとってお客さまとのコミュニケーションの場に変わります。単に仕入れて売るのではなく、お客さまにライトタイミングでライトメッセージを送るメディアに変わる。こうなった時に小売業は、世の中の役に立ってるんだよ、世の中を活性化してるんだよという、誇りあるものになっていくのではないかと思います。

(談・文責:編集部)