「地球上でもっとも大きな書店」目指し誕生
Amazon.com, Inc. (アマゾン・ドット・コム)は、アメリカ合衆国ワシントン州シアトルに本拠を構えるECサイト、Webサービス会社です。Amazonは1995年にネット書店としてサービスをスタート。「地球上でもっとも大きな書店」というキャッチコピーを掲げ、インターネットの成長とともに、事業規模を拡大し続けました。1997年にはNASDAQに上場。しかし創業から7年間はずっと赤字続きでした。同社は、売上高や利益の最大化ではなく、フリーキャッシュフローの最大化を目的に掲げており、成長事業への投資を惜しまなかったのがその理由です。
あらゆるものをラインアップする小売事業
Amazonはさまざまなビジネスを展開しています。書店をきっかけにスタートしたAmazonですが、いまではEC事業としては、書籍はもちろん、日用雑貨から食品、家電に至るまでありとあらゆるものを販売しています。
Amazonの特徴は、在庫を持つ小売業を運営するだけでなく、「マーケットプレイス」も運営しているということです。これは2000年の秋からスタートした仕組みで、日本では「出品サービス」という名称で提供されています。
Amazonの商品リストの中に、Amazon以外の売り手(出品者)を掲載し、お客はAmazonから購入するか、出品者から購入するかを選択することができます。Amazonの方が値段が高かったなどの理由で、Amazon以外の出品者からお客が商品を購入した場合、Amazonは出品者から手数料を受け取るというものです。販売手数料は商品代金の総額(配送料、包装料を含む)に商品カテゴリーごとの料率を掛けたもので、たとえば食品・飲料は10%です。
出品者側はフルフィルメント byAmazonというサービスを利用し、Amazonの物流拠点に在庫を置くことで、商品の保管から注文処理、配送、返品に関するカスタマーサービスまでをAmazonに代行してもらうこともできます。こちらは1点当り数百円の配送代行手数料と、商品サイズと在庫日数により算出される在庫保管手数料が必要になります。
2017年のアニュアルリポートによれば、ワールドワイドのAmazonにおいて、半分以上の売上が出品者によるものだということです。2017年には、30万以上のアメリカの中小企業がAmazonで販売をスタートしたといいます。
本質は「インターネット上の商品台帳」
このマーケットプレイスという業態からわかるように、Amazonの本質は「すべての商品を網羅したインターネット上の商品台帳」であり、さまざまな売り手が集う「プラットフォーム事業」であるということができるでしょう。商品台帳はオープンになっていて、さまざまな出品者が商品を登録することができます。Amazonの基本機能は、この商品台帳になるべく多くの商品を掲載し、リコメンド機能を使うことで「買い手が想定していなかったような商品」や「買い忘れていた商品」などをお勧めしてさらなる購買につなげるというものです。
このように、自社だけに小売事業を閉じないことで、Amazonはありとあらゆる商品を取り扱いながら、在庫を持つ必要がないという状況をつくり出しました。そして、もし自社が在庫して販売するに値する商品を見つけたら、自社で在庫を持って販売するというスタンスを取っています。
Amazonといえば「ロングテール」(少量が長期間売れ続けること)という言葉で評されることが一時期はやりました。これも、商品全部を在庫しているわけではなくて、さまざまな出品者が集うプラットフォームだからこそ実現できた「売り方」ということができます。
ビジネスの根幹を支えるPrime会費
またAmazonの小売ビジネスのもうひとつの大きなポイントは、会員制のビジネスであるという点です。Amazonの大きな収入の柱のひとつが、Prime会員の会費であるといわれています。Prime会員になると、お急ぎ便の利用が無料になり、後述するAmazon Prime Videoなどのさまざまなデジタルコンテンツも利用することができます。日本での年会費は3,900円(税込み)となっています(2018年6月現在)。
ヘビーユーザーにとってはそれほど高い値段ではありません。2017年度のAmazonアニュアルリポートによれば、全世界で1億人がプライム会員として会費を支払っているとのことです。なお、アメリカでは月12.99ドル、年額99ドルとなっており、この会費は徐々に値上がりしています。この会費収益を基盤として、安価な商品価格や、使い勝手のよいユーザーインターフェースの開発などに力を入れているのです。
コンテンツの閲覧方法を次々に革新
Amazonはコンテンツ事業にも力を入れています。その筆頭がAmazon Prime Videoです。Prime Videoは、映画や動画が見放題のサービスで、NetflixやHuluのようなサブスクリプション型の動画配信サービスと競っている状況です。2017年には、3,000以上のビデオの配信権利を確保し、映画製作者やその他の権利保有者にロイヤルティーを1,800万ドル以上も支払いました。
オリジナルのコンテンツ制作にも積極的です。日本では婚活サバイバルドキュメンタリーの「バチェラー・ジャパン」や密室笑わせ合いサバイバルの「ドキュメンタル」などがCMでおなじみでしょう。Amazon Prime Videoを使うと、最新映画も数百円でレンタルできるため、レンタルDVDショップなどにとっては驚異的な競合といえます。
Amazon Prime Videoが映画や動画の閲覧方法を改革したとすると、書籍を読むという体験を大きく変えたのが「Kindle」による電子書籍の購入・閲覧革命です。電子書籍リーダーの「Kindle」を使えば、書店に赴かなくても本を購入できますし、かさばる書籍の保管場所も必要ありません。もちろんPCやタブレット、スマートフォンでもKindleの書籍は閲覧することができます。
購入体験のイノベーション
Amazonの特徴のひとつが、コンテンツや商品をお客に届けるために最適なデバイスを開発し安価に提供しながら、目的の商品・コンテンツの販売を拡大していくという点です。Kindleは電子書籍リーダーですが、家庭でテレビにつないで、テレビの大画面でPrime Videoをはじめとするコンテンツを見ることができる「FireTV」は4,980円(Fire TV Stick)、同じくAmazonが販売している7インチディスプレータブレット「Fire 7 8GB」は執筆時では5,980円と他のデバイスも非常に安価に提供されています。
そういう意味では、昨年日本で発売されたスマートスピーカーの「Amazon Echo」も、最終的にはAmazonでの商品やコンテンツ購入を増やすためのツールということができるでしょう。Echoは、音声で操作できるスマートスピーカーです。「アレクサ、〇〇をして」と話し掛けるだけで、音楽の再生、天気やニュースの読み上げ、アラームのセットなど、さまざまな機能を利用することができます。
このEchoと、Amazonのアカウントを紐付ければ、「アレクサ、おむつを注文して」などと呼び掛けるだけで、Amazonでいつも購入しているおむつの注文をすることができます。もはや買物をする場所は店ではなく居間なのです。購入体験のイノベーションということができるでしょう。
2016年に日本でもサービスを開始したAmazon Dash Buttonも同じく購入体験のイノベーションということができます。Amazon DashButtonは、ワンプッシュでお気に入りの商品を簡単に注文できるボタンです。2018年6月時点で150種類以上が販売されています。ボタンを押すだけで、登録されたスマートフォンに接続し、自動的にAmazonに商品が注文されます。
お客にとっては飲料や日用雑貨などのボタンを用意しておけば、家庭の在庫が切れたときにボタンひとつで補充することができ非常に便利です。また、このボタンを家庭に設置できたメーカーにとっても、ブランドスイッチを阻止し、リピート購入が期待できるというメリットがあります。
ほかにも、注文から最短4時間で生鮮食品を配送するAmazon Fresh、注文から最短1時間以内に商品を配送するAmazon Prime Nowなどのサービスが日本国内で展開されています。海外ではセルフサービスで宅配便を受け取ることができるAmazonlockerや、オンラインで注文した商品を店舗でピックアップする拠点のAmazonFresh Pickupなども展開されていて、ありとあらゆる方法での購買体験を実験、実践しているということがわかるでしょう。
急成長する企業を支えるAWS
AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)はAmazonが提供しているクラウドコンピューティングサービスです。簡単に説明すると、会社の業務で使うコンピュータやシステムを、インターネット上で必要なときに必要な量だけ使用することができるサービスといえます。
これまでは業務に必要なシステムをつくる際には、サーバと呼ばれるコンピュータを購入し、それを置く専用の場所やそこに接続するためのネットワークなどを、導入企業がいちいち用意しなければなりませんでした。物理的なコンピュータには業務の処理量に限界があります。
たとえばECサイトで取り扱っている商品が急にテレビに取り上げられて注文が殺到した場合など、処理量の限界を超えてしまい、ECサイトが稼働を停止してしまうようなことも多々ありました。クラウドのよいところは、必要に応じて自由にリソースを増やすことができるので、急にアクセス数が増えたときは、自動で規模を大きくすることができます(これをスケーラビリティといいます)。
AWSは、Amazonが急成長するときに、コンピュータのリソースを迅速に用意するために構築された仕組みです。この「自社の痛みを解消するため」につくったサービスを、周辺の開発企業に提供したところ非常に好評だったため、2006年に社外向けに事業化されたという経緯があります。このAWSという基盤を利用したことで、民泊大手のAirbnbや、Dropboxなどの企業は急成長を遂げることができました。
資本力に関係なく、最新のITの仕組みを使うことができるのも、AWSの大きな特徴です。売上高数兆円の企業と同じ仕組みを、中小企業でも安価に利用することができるというのは、システムを開発する側にとっても革新的なものでした。(※https://logmi.jp/33928)
Amazon GOのプラットフォームが普及する?
2018年1月にリリースされたAmazonGOは小売関係者以外にも大きな話題となりました。飲料や食品が販売されている店内には数百台ものカメラが設置されていて、お客の購買行動を確認しています。入口のゲートでスマートフォンアプリのバーコードをスキャンすることでカメラに映った映像と個人のAmazonアカウントを紐付け、商品を持って店舗の外に出るとAmazonのアカウントから自動で決済がされるという流れです。
技術の粋を極めたこの店舗に、衝撃を受けた方も少なくはないでしょう。2017年にはアメリカのスーパーマーケットチェーン、WholeFoods Marketを137億ドルで買収し、リアル店舗への進出を進めているAmazon。EC企業である同社は、なぜここまでリアル店舗に近づいてきているのでしょうか。
ひとつ予測できるのは、Amazonがリテールテクノロジーのプラットフォームをつくろうとしている点です。Amazonマーケットプレイスのように、Amazon GOで使われている技術を小売企業やメーカーに提供し、手数料等を得るという業態が予想できます。つまりAmazon GOの技術を使ったドラッグストアやコンビニエンスストアが続々店舗数を増やすという未来です。
そのときに注意したいのが、もしAmazon GOのプラットフォームがマーケットプレイスと同じ構造で提供されるのであれば、それを利用して得られた顧客の購買情報はAmazonが独占し、そのプラットフォームを利用する小売業やメーカーにはほとんど与えられない可能性が高いということです。
さらに、もしその企業が展開するビジネスが有望とおもわれれば、Amazonが独自にその業態の運営に乗り出すことも考えられます。トイザらスは2017年9月、米連邦破産法11条の適用を申請して破綻しました。その原因のひとつが2000年のAmazonとの提携であるともいわれています。
この破綻に関しては以下のような報道がなされています。
………………引用………………
(略)世間がドットコムバブルに沸いた2000年、アマゾンとトイザらスは10年契約を結んだ。これはアマゾン上でトイザらスが唯一の玩具の販売業者となる契約で、トイザらスの公式サイトをクリックするとアマゾン内のトイザらス専用ページに飛ぶ仕掛けになっていた。
この取り組みは当初、アマゾンとトイザらスの両社にメリットをもたらすと見られていた。しかし、アマゾンはその後、トイザらスが十分な商品を確保できていないことを理由に、他の玩具業者らをサイトに招き入れ始めた。
トイザらスは2004年にアマゾンを提訴し、10年契約を終了させた。そして2006年に自社サイトを立ち上げた。しかし、その後のトイザらスの動きは遅すぎた。(略)
(https://forbesjapan.com/articles/detail/17781)
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また、今後は国内外でもAmazonGO方式の決済を提供するサービス事業者など登場することが予想されます。Amazonのプラットフォームにのるのか、他社の提供するそれを利用するのか、あるいは自社で開発するのか、はたまた利用しないのか…、小売事業者は今後難しい判断を求められるでしょう。
Amazonの恐ろしい点はAWSで稼いだ利益を使って、小売事業の利便性の高さや、原価割れするほどの安価な価格を実現している点です。彼らは顧客の購買データを持つことがなによりもメリットであると考えているのです。
巨大化するビジネスに付きまとう闇の側面
小売業にイノベーションを次々と起こすAmazon。しかし一方で、巨大化する同社のビジネスには闇も付きまといます。なりふり構わず顧客のことだけを見て、競合を駆逐し、その後一気に値上げをする…共存共栄なのか、独占/寡占への道なのか、独自の道をAmazonはひた走ります。
Amazonに関わる人たちの労働環境も問題視されています。とくにAmazonのビジネスを支える配送業界は、Amazonのおかげで革新が進む一方で、疲弊もしていて、日本では2013年に佐川急便が完全撤退をしたり、2017年にはヤマトが当日配送サービスから撤退しています。
1995年、Amazonのスタート時に掲げられたミッション・ステートメントは、“ to be Earth,s most customer centriccompany, where customers canfind and discover anything theymight want to buy online, andendeavors to offer its customersthe lowest possible prices.”
だったそうです。(※https://www.amazon.jobs/en/working/workingamazon)
「地球上でもっとも顧客中心の会社になること。お客さまがオンラインで買いたいとおもったものをなんでも見つけることができる場所になること。可能な限り商品を安価な値段で販売すること」
…なりふり構わずその理想を実現するために邁進するAmazon。もしかするとAmazonは、この3つのミッションステートメント、すなわちドグマ(教義)を実現するため「だけ」に存在している、21世紀の「宗教」なのかもしれません。