カートと鏡でスタイリング提案
ノースポート・モールは、横浜市都筑区の港北ニュータウンの中心エリア、横浜市営地下鉄センター北駅前に位置する2007年4月開業の複合商業施設だ。2017年9月に大規模リニューアルを実施し、この「ジーユー横浜港北ノースポート・モール店」も450坪から820坪へと売場面積を拡大、国内最大級の店舗としてリニューアルオープンした。
同改装により商品点数も標準店の2倍に拡充され、超大型限定商品の取扱いも開始。特筆すべきは「新しい買物体験ができるファッションデジタルストア」として、さまざまなテクノロジーが売場に導入されているという点だ。
そのひとつである「オシャレナビ・カート」は、ショッピングカートにタブレットとセンサーが付いていて、お客が気になった商品のタグをセンサーにかざすと、タブレットの画面にさまざまな商品情報が表示されるというもの。
たとえば在庫について「在庫あり」「在庫わずか」「品切れ」「取り寄せ可能」と表示。取り寄せの場合は、オンラインストアから送料無料で自宅に発送、または店舗受け取りを選ぶことができる。タブレットには商品を着用したイメージ画像が表示されるため、コーディネートのイメージづくりの役に立つ。また、タブレットに表示されるお客からの口コミ情報を、購入に迷ったときの参考にすることもできる。
商品タグをかざさなくても、このオシャレナビ・カートは店内のさまざまな場所に設置されているビーコンの情報を拾い、それぞれの売場のおすすめ商品情報などを表示する。広い売場の中で、お客がスムーズに好みの商品を発見することで、買物をさらに快適に楽しんでもらうことを目指す。
もうひとつのデジタルツールが店舗内に数ヵ所設置された「オシャレナビ・ミラー」だ。通常は普通の鏡として利用できるが、鏡の脇に設置されたRFIDセンサーに商品をかざすと、鏡にその商品を着用したモデルや一般人のコーディネート、購入したお客の商品レビューなどが表示される。新しいスタイリングの発見に使ってもらいたいと考えている。
店長の新井香緒さんによれば、「(これらのツールについて)お客さまからの関心も高く、楽しく使っていただいています。楽しくお買物ができました、という声をいただくこともあります」と、総じて利用したお客の満足度は高いという。
なお、これらのツールで表示される画像には、スタイリストによるコーディネート写真だけでなく、同社のスマートフォンアプリ「ジーユーアプリ」の中の「ジーユーシェア」という写真投稿コミュニティの投稿を利用している。ユーザーの投稿写真を利用することで、もっと身近さを感じてもらいたいという狙いだ。
また、購入時にお客が参考にするのはマネキンだけでなく、ジーユーのアプリやWEB上のコーディネート画像である。その商品を使ってどのようなコーディネートをすればいいのか、参考となるイメージ画像のニーズが非常に高いのだ。今回のデジタルツールは、そんな利用シーンを想起させる実験のひとつといえそうだ。
RFIDタグ導入で決済・棚卸しのスピードアップ
もうひとつ大きなデジタル化は、セルフレジの導入だ。白いタイル壁の部屋には、10台のセルフレジが並ぶ。ATMのような形をした、大きなタッチパネルの付いたレジの下部には、ロッカーのような扉があり、ハンガーを外した商品を、かごのままその中に入れる。扉を閉めてタッチパネル上のボタンを押すだけで、あっという間に商品情報の読み込みが済み、合計金額が表示される。
あとは、現金かクレジットカードかを選択し、投入口に入れればよい。商品登録前にはアプリの会員証のバーコードをレジに読み込ませることもできる。
また、タッチパネルでは言語(英語、韓国語、中国語)の選択もできるので、インバウンド対応にも効果を発揮する。商品のサッキングは、会計コーナーの奥にある台でお客自身が行う。
このレジによって精算時間が最大で約3分の1に短縮できるという結果も出ており、スピーディに会計を済ませることができる。SPA(製造小売業)であり、全商品にRFIDタグを付することができる同社ならではの取組みといえる。違算のストレスの排除など、決済に関しては大きなメリットがある。
RFID導入によるもうひとつの大きなメリットは、棚卸し時間の短縮・作業量の削減だ。RFIDタグが付けられた商品の棚卸しは、商品のそばでハンドスキャナーをかざすだけで済む。大量の商品を扱う同店にとって、その効果は計り知れない。
「効率化した分だけ、店舗従業員が売場に出て、お客さまへの接客を増やしていこうと考えています」と店長の新井さんはいう。「ジーユーの超大型店ということもあり、オープンから2ヵ月が経過しましたが、多くのお客さまから支持をいただいています。大きい店舗でデジタルツールを使うという新しい取組みの難しさもありますが、お客さまの反応を見てやりがいを感じています。お客さまには不備のないように配慮していきたいです」(新井さん)。
機材やデータのメンテナンスなど、これまでにない業務が店舗に発生していることもうかがえるが、効率的なオペレーション確立に対し非常に積極的に取り組む同社の姿勢には学ぶべきものが多いのではないだろうか。