楽しくなければDgSじゃない
同社がリブランディングの検討を始めたのは、さかのぼること今から4年前の2013年のことだ。北海道内でドラッグストア(DgS)のシェア8割を占めるトップ3のツルハドラッグ、サンドラッグ、そしてサッポロドラッグストアーは、いずれも赤を基調としたロゴマークで道内に店舗を展開していた。そのためお客に個々の企業として認知されておらず、サツドラの店舗でもお客から他社のポイントカードやチラシを提示されるようなことが頻発していたという。
そんな状況のなか「今後、DgSも個々の企業としてお客さまから認識、選別される時代が来る。個のサツドラとしてお客さまに意識してもらいたい」との考えで、現代表取締役社長の富山浩樹氏(当時は社長就任前)がリブランディングを決定。
かねてよりデザインを経営に取り入れたいという思いがあったという富山氏が、視察や情報収集を重ねた末にパートナーとして選んだのが、エイトブランディングデザインの西澤明洋氏だ。西澤氏はクラフトビール「COEDO」やキリン「生茶」など多数のブランディング実績があり、リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めたブランディングデザインを手掛けている。サツドラ側は、リブランディングの担当者として1名を専任。常時富山氏を含む3〜15人のメンバーが入れ替わりながらプロジェクトを推進した。
リブランディングといっても、単にデザインを変更すればいいというわけではない。まずは企業としての強みと弱みを挙げ、ポジショニングを明確にするところからスタートした。「赤い看板のDgS」としてしか認知されていない弱みがある一方で、北海道に根差したDgSとして地域の活性化を目指しつつ、道外に対しても北海道から健康や美を発信しているなど、とことん「北海道」を大切にしている企業であるという強みも見つかった。
議論の末にたどり着いた新しいブランドコンセプトは「北海道のいつもを楽しく」。現会長で創業者の富山睦浩氏が言い続けていた「楽しくなければDgSではない」という考えがベースになっている。DgSという業界の枠を超え、ライフスタイルストアへ進化していくという決意も表したコンセプトだ。ロゴマークはブルーと黄緑を基調とした2色のプラスが並んだものに刷新。創業当時に使用していた青色を使用することで、ブランドのルーツを表現。黄緑色は北海道の大地をイメージしており、創業以来北海道の地で培ってきた「サツドラ」ブランドを基盤としつつ、さらなる飛躍を目指すという思いを込めた。
選びやすさと買いやすさ
コンセプトやロゴなどのソフト面からスタートしたリブランディングは、現在ハード面にまで進展している。今回取材したサツドラ江別錦店は、2017年6月にスクラップ&ビルドでオープンした新デザイン店舗のプロトタイプという位置付けだ。
もともとサツドラは、欲しいものがすぐに見つかり、店頭で迷わないという「選びやすさと買いやすさ」そして「居心地のよさ」を店舗づくりの指針としてきている。この江別錦店は、十分に余裕を持たせた通路幅や、入り口からどこに何があるのかを見渡せるようにつけられた陳列棚の高低差、カテゴリーのサインなどから、店づくりへのこだわりが感じられる。
入店すると入り口正面に化粧品売場が広がり、壁面の第1マグネットのシーゾナルとサツ安超プライス(3ヵ月間価格を固定した商品)コーナーで店内奥まで誘導。第2マグネットにはヘアケア売場を配置。店舗の最奥には食品売場を、レジ横には医薬品コーナーを展開している。これはゼネラルフォーマットと呼ぶ同社標準業態のものに準じたレイアウトだ。店内には、居心地のよさを演出するかのようなさまざまな工夫が目につく。
コンクリートの床には白い塗料で手描き風のイラストが施されており、壁面に掲げられたアイコン風のカテゴリーサインもユニークだ。サイン類のフォントは今回サツドラのためにオリジナルで作成されたもので、店舗全体に統一感をもたらしている。
主導線には道路のセンターラインや進行方向の指示表示のような交通標識も描かれていて、ついついそれに従って店内奥まで足を運んでしまう。天井の照明はLEDで調光付きのダウンライト形式。通常店舗より若干照度は落とされているようで、照明によって生まれた陰影が売場に落ち着いた雰囲気をもたらす。
什器の高さの工夫で圧迫感を減らす
入り口から見て手前の化粧品、医薬品売場には高さ1,350mmの什器を配置し、店舗奥の日雑、食品売場には高さ1,800mmの什器を採用。入店した際の見通しをよくすることで、什器の高さの割に圧迫感がないよう工夫している。天井は既存店舗より高く、木目調になっていることで暗い色の什器の雰囲気を中和している。
商品在庫はなるべく店頭に並べることで、バックヤードの面積を従来より縮小した。このことによって、後方での在庫管理の手間も減少したという。なお店舗の設計はブランディングパートナーであるSUPPOSE DESIGN OFFICEが手掛けた。
サツドラHDは、店舗の新デザイン導入と並行してプライベートブランド(PB)のリブランディングも行う。現在同社のPBには初期のサッポロドラッグストアーのロゴ入り商品や、子会社で製造元の「Creare(クレアーレ)」ブランドの商品が混在しているが、これを今後「サツドラ」ブランドに統一する。既に人気商品の「超炭酸水」や「ソフトパックティッシュ」などは新ブランドへの移行を完了。現在500〜600SKUほど開発しているPBに波及させていく予定だ。
「楽しさ」は実店舗にとって重要な差別化戦略のひとつだが、これを明言しているDgS企業はほとんどない。その一方で、このサツドラ江別錦店からは「選びやすさ」と「楽しさ」という実店舗が注力すべきポイントを真面目に考えていることが伝わってくる。サツドラHDによれば同店舗はあくまで実験店という位置付けとのことだが、挑戦を感じられる野心的な店舗であることに間違いはない。斬新なデザインの店舗は、立ち上げ当初は好調でも、陳列などがルールどおりになされず店頭が乱れる事例が多々ある。この店舗も今後陳列や店舗管理の質の維持が課題になるだろう。オペレーションレベルをいかに保つかが鍵を握る。