小売業新しい働き方研究所

ニュース&事例で解説!わかる労務管理

第1回明日は大雪 !? 出社するべき、させるべき?

労務連載「知っておきたい『労務管理』基本のキ」が、今月から装いも新たにリニューアル。話題のニュースや具体的な事例を交えて、より”わかる”労務管理についてお届けします。1回目は、大型の台風がいくつも襲来した今年(2019年)を振り返り、Twitterで話題になった「#台風だけど出社させた企業」から得られた教訓と、労務管理の在り方を考えていきたいと思います。

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「台風だけど出社させた企業」事故にあった場合の補償は?

2019年の秋は、大型の台風が次々と本州に襲来。特に10月12日から13日にかけて東日本を直撃した大型の台風19号は、上陸前から警戒が強く呼びかけられました。

それを受けてJR東日本では12日の計画運休を早々に決定。また、三越伊勢丹ホールディングスやイトーヨーカ堂などが、首都圏を中心とした店舗の営業停止を事前に発表しました。

一方で、Twitterでは「#台風だけど出社させた企業」というハッシュタグがトレンド入りし、注目を浴びました。このタグからは、「最大級の警戒が必要」と言われる台風の襲来中、「身の危険をさらしてでも、出社しなければいけないのか」という従業員の憤りが伝わってきます。

関東圏では豪雨によって多摩川が氾濫した

では、もしも今回のような台風による出社が原因で事故にあった場合、従業員に対する補償はあるのでしょうか。まず、考えられるのが「労災保険(労働者災害補償保険)」です。事故が労災(労働者災害)だと認定されれば、一定の保険給付※は受けられます

※保険給付は「現金(年金として支給される場合もあります)」だけでなく「療養(治療)」といった現物給付も含まれます。また治療そのものに以外にも、休業や障害、死亡に対する給付もあり、死亡の場合の現金給付は、遺族に対して行われます。

「出社不要」なのに出勤した場合は?

労災は、通勤災害と業務災害に区別されますが、いずれも認定されるためには、それぞれ通勤や業務が原因である必要があります。そのため、(途中で買い物や病院に寄ったなど)通勤が中断している間や、お昼休みに起きた業務と関連しない事故などの場合は原則として労災認定されません。

では、「出社不要」とされているにもかかわらず、勝手に出社して事故にあった場合はどうでしょうか?このように事業主の業務命令ではない場合、業務とはみなされず、労災としては認定されない可能性が高いです。「事業主の支配下にあること」が、業務が原因というための基準の1つだからです。

会社から出社不要とされるほどの状況での出社は、自身が危険であることはもちろん、もし事故にあったとしても労災の認定がされず保険給付が受けられないという点からも、控えたいところです。「台風だけど『勝手に』出社した」人は「自己責任」となってしまいます。

企業にも多額の損害賠償金が発生する場合も

このような事情(台風だけど出社した)ではなく、問題の「#台風だけど出社させた」状況で事故にあえば、労災として認定される可能性は高いと言えます。ただ、たとえ労災認定され、保険給付が受けられる状況だったとしても、身の危険をさらしながらの出勤をしたくない従業員は多いことでしょう。

出社させた「企業側の責任」も当然、問われます。労働者の安全に対する義務については、次のように法律(労働契約法5条)で決められています。

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」

つまり、台風だけど出社させた結果、事故にあって死亡…となったら、企業は(安全配慮義務を怠ったとして)多額の損害賠償金を支払う可能性もある、ということです。労災の給付は最低限を補償(現金給付の場合は平均賃金をベースに算定)するものであって、損害賠償金額すべてをカバーするわけではないからです。

「台風でなぜ営業しない!?」怒る人こそ、非常識?

今年の台風において、JRを含め営業停止した企業に対するメディアやSNSにおける否定的な意見は(少なくとも筆者は)見ませんでした。

ラグビーのワールドカップ戦も中止はやむなし、誰もが外出を控えるという状況のなか、従業員の安全(命)を守るために営業停止することに対して「『けしからん!』と怒る人こそ、非常識」という雰囲気もできあがってきたような印象です。逆に(「非常識」ではないかと)SNSで話題になってしまったのが「#台風だけど出社させた企業」というわけです。

こうした状況をふまえ、企業としては、「法律で決められているから、損害賠償金を支払いたくないから…」といった後ろ向きな理由ではなく、前向きに従業員の「安全」対策に取り組むことが最善の策と言えます。それが従業員満足、ひいては世間の評判にもつながるからです。

これから冬本番。特に都市部は人も街も「雪」に弱いため、大雪となったら大混乱してしまうことも考えられます。今回の台風の前例をふまえ、今度は「大雪」、というときに、自社としてどのような状況やタイミングで(営業停止を含めた)必要な対応を決定するのか、あらかじめ決めておきたいところです。

著者プロフィール

小林麻理
小林麻理コバヤシマリ

社会保険労務士、ライター。社労士事務所ワークスタイルマネジメント代表。1978年千葉県生まれ。2000年早稲田大学法学部卒業後、NTTデータ入社。商業界「販売革新」編集記者などを経て2013年からライターとして活動。かねてから強い関心のあった人事・労務、働き方の問題に深く取り組むため、社会保険労務士資格を取得。2018年社労士事務所ワークスタイルマネジメントを開設(URL:http://workmanage.net)。