小売業新しい働き方研究所

ニュース&事例で解説!わかる労務管理

第3回コロナに関連して働けなくなった従業員への休業補償は?

今春は、新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染拡大防止のために、休業や時短営業をする小売店も多く、そのなかで企業や従業員への休業補償についても連日、ニュースで報じられてきました。今回は平時でも存在する従業員に対する休業補償制度を中心に、従業員自身がコロナに感染してしまった場合も含めて、どのような休業補償があるのかを解説します。

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感染が労災認定されると受けられる保険給付

まず、従業員がコロナにかかったことが労災(業務災害、通勤災害)と認定された場合は労災保険(労働者災害補償保険)による休業補償が考えられます。

具体的には、休業してから4日後から、(働けない間は)業に関する給付が受けられます。金額は、平均賃金の8割に相当する額です(※1)。

ただし、労災認定については、「第1回 明日は大雪 !? 出社するべき、させるべき?」の記事でも解説したように、通勤や業務が原因であることが必要となります。

明日は大雪 !? 出社するべき、させるべき?

 

この点、一般的には(因果関係が証明しづらい)病気の労災認定は事故よりは難しいとされますので、コロナに関しても、同様のことは言えるでしょう。

なお、コロナの労災認定の判断基準としては、「感染経路が特定されたこと」などが、厚生労働省から示されています(※2)。

※1:休業給付基礎日額×60%の休業(補償)給付と、同×20%の休業特別支給金

※2:「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて(4月28日)
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000635285.pdf
医療従事者以外は「感染経路が特定されたもの」や「感染リスクが相対的に高いと考えられる、複数の感染者が確認されたり、労働環境下での業務、顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断すること」とあります。

療養で休む場合に支給される「傷病手当金」

健康保険に加入している従業員は、コロナを含む病気や事故が労災認定されない場合も、休業中に請けられる補償があります。それが、「療養で休むために働けない場合」に加入している健康保険組合などから支給される「傷病手当金」です。

傷病手当金は、療養のために労働ができなくなった日より3日を経過した日から、(働けない間は最長1年6か月)みなし平均給与額(※3)の3分の2が支給されます。

療養は、必ずしも通院や入院が必須ではなく、病後の自宅療養を含みます(ただし、療養のため働けないことの証明は必要です)。また、コロナの場合について、厚生労働省によると(※4)自覚症状があり自宅療養をするケースも傷病手当金の支給対象になり得るとされています。

なお、傷病手当金は「業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること」が前提ですから、労災の保険給付と重複受給とはなりません。

※3:直近12カ月の平均の標準報酬日額の30分の1に相当する額
※4:「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給について」(3月6日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000604969.pdf

会社都合の場合に会社が払う「休業手当」

上記2つの支給状況にあてはまらない(従業員自身がコロナを含む病気になっていない)場合でも、会社都合で従業員を休ませる場合は、会社が従業員に「休業手当」を支給することが、労働基準法で定められています。

金額は、平均賃金の3分の2以上です。ここでいう「会社都合」とは、「使用者の責に帰すべき事由」があることです。たとえば、「不可抗力」の場合は、会社都合とはみなされません。

「不可抗力」の具体的な要件としては「①その原因が事業の外部より発生した事故であること」、「②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること」が必要とされており、地震などの天災が典型例と言えます。

今回のコロナ対応に関する休業が「不可抗力」かどうかについての判断も、上記2つの基準をもとに個別に判断することになります。
たとえば。厚生労働省によると、(感染防止や疑いなどによって)経営者の自主的な判断で従業員を休ませる場合は、「使用者の責に帰すべき事由」となる(休業手当の支払い義務がある)とされています※5。

※5:「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(随時更新)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

「雇用調整助成金」や「感染症対応休業支援金」とは?

以上まとめると、業務・通勤に起因したコロナ感染で働けなくなったら「労災保険からの保険給付」、コロナ感染が業務・通勤に起因していない場合は「健康保険からの傷病手当金」、自身がコロナに感染していないのに働けない場合は、「会社からの休業手当」が従業員の休業補償として考えられるということになります(図)。

なお、休業補償に関して「雇用調整助成金」の活用ということをニュース等で聞いたことがある方も多いと思います。雇用調整助成金は、「企業が休業手当を支払った場合」に、その休業手当の一部(平時は、中小企業には休業手当の3分の2など)を「企業」に対して給付するものです。

雇用保険の雇用安定事業として、以前から存在した「雇用調整助成金」ですが、コロナ対応に際し、支給条件緩和や給付額の増額(一定の要件を満たした場合、休業手当の100%を支給など)が行われています。

問題は、休業手当をそもそも支払っていない企業は給付対象にならないことや、(企業経由のため)従業員が補償を受けられないケースが出てしまうことです。
そのため、6月12日に成立した二次補正予算において、従業員に休業に対する給付を直接行う「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金(仮称)」が導入されることになりました。

これは、会社都合での休業することになったけども、休業手当をもらっていない従業員本人が申請して給付を受ける、という制度です。

こうしたコロナ対応に関連する休業補償は、数々の特例措置が講じられています。休業補償に関する平時の原則を踏まえたうえで、特例措置についても随時、最新の情報をチェックすることが必要です。

著者プロフィール

小林麻理
小林麻理コバヤシマリ

社労士事務所ワークスタイルマネジメント(http://workmanage.net)代表・社会保険労務士。1978年千葉県生まれ。2000年早稲田大学法学部卒業、NTTデータ入社。商業界「販売革新」編集部などを経て2013年に独立。