小売業新しい働き方研究所

知っておきたい「労働時間」基本のキ(1)

第1回「開店前のミーティング」って「労働時間」に入りますか?

小売業で働くみなさんの中には、経営者や人事、マネージャーの立場になくても、お店で従業員の労務管理をする立場にある方が大勢いらっしゃると思います。本連載では、労務管理をする上で知っておきたい基礎知識を解説します。また、小売業における「働き方」を変える可能性のある新しい制度やその考え方についてもご紹介します。

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「開店前」や「閉店後」は関係なし?

最初のテーマは「労働時間」です。「働き方改革」の中でも、長時間労働の削減は目玉の1つ。「労働時間」を減らそう、という機運はこの数年で随分高まったように感じます。では、そもそもこの「労働時間」とは何でしょうか。労務管理の基本のキ、として、最初に押さえておきましょう。さて、次の時間は「労働時間」でしょうか? 

(1)開店前のミーティングの時間
(2)休憩時間中に店長から事務所の電話番を頼まれた時間
(3) 閉店後の店の片付けの時間
(4) 店が参加を義務付けている閉店後の勉強会

 

正解は、原則としていずれも「労働時間」です。労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことを言います。主に次の2つが、労働者の行動を労働時間かを判断する際のポイントとなります。

・使用者の指示(黙示的なものを含む)によるものか

・客観的に見て、使用者から義務付けられたものか

ではまず、(1)開店前の事前ミーティングの時間3)閉店後の店の片付けの時間について見ましょう。上記のポイントからわかるように、労働時間は、「開店前」や「閉店後」かどうか、という点からは判断しません。一方で、ミーティングや店の片付けは通常、業務の一貫として行っているものです。そのため、開店前の事前ミーティングの時間、閉店後の店の片付けの時間も「労働時間」です。

その点、(4)のような「勉強会」は業務の一環ではなさそうに見えます。しかし、店が参加を「義務付けている」という点からみて、「労働時間」とみなされます。

(2)休憩時間中に店長から事務所の電話番を頼まれた時間についてはどうでしょうか。事務所の「電話番」も、使用者から義務付けられた場合は、業務です。そのため、決められた休憩時間内であっても、「労働時間」とみなされます。休憩時間は自由利用が原則です。ついでだから…と気軽に用事を頼み、本来取れるべき休憩が取れない、といったことがないようにしましょう。

シフト表で「労働時間」を把握してよい?

次に「労働時間」をどのように把握すればよいかを見ていきましょう。次のうち、労働時間(始業、終業の時刻)を把握するために基とする情報として適切なものはどれでしょうか?

(1)シフト表
(2)使用者による確認
(3)タイムカードなどの客観的記録
(4)労働者による自己申告

(1)シフト表の情報を基に「労働時間」を把握するのは、間違いです。労務契約や就業規則、シフトで決められた時間かどうかという点では「労働時間」を判断しません。

国が定めたガイドライン※1で推奨しているのは、(2)使用者(労働時間管理者)による確認(3)タイムカードなどの客観的記録※2を基にして労働時間を把握する、という方法です。(4)労働者による自己申告は、やむを得ない場合に限ってとるべき手段とされています。自己申告制をとると、労働時間があいまいになりがちだからです。

※1:「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
※2: 「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間といった客観的記録」とされています。

「終業タイムカード打刻後、自発的な業務」は労働時間?

このなかでは、タイムカードは最も間違いが少なく一般的な方法と言えます。しかしタイムカードも絶対ではなく、労働時間を把握する「基礎として」用いられます。では、次の「終業のタイムカード打刻後」の時間うち、どれが「労働時間」になるでしょうか?

(1)店長命令で業務を行った時間
(2)明日のイベント準備をしていた時間(店長は黙認)
(3)いつも終わらない大量の業務を行っていた時間(店長は黙認)

ポイントは、終業のタイムカード打刻後であっても、使用者の指揮命令下で業務を行ったのであれば、「労働時間」になるということです。そのため、(1)店長命令で業務を行った時間は、明らかに「労働時間」にあたります。

では、(2)(3)の場合のように具体的な業務命令がない場合はどうでしょうか。このようなケースは、「黙示的な指示」があったかどうかがポイントになります。

裁判所(判例)では、業務完了が期限付き、到底時間内に終わらない業務量がある、残業が恒常的といった場合で「黙示的な指示」があると認めています。(2)(3)のように、仕事を終わらせるためにやむを得ず業務を行っており、さらにそれを店長が「黙認」しているようなケースでは、「労働時間」とみなされる可能性が高いと言えます。

個人の「がんばり」に頼らない仕組みづくりを

「終業タイムカード打刻後の労働」で真っ先に思い浮かぶのは、「サービス残業」の問題でしょう。「サービス」という言葉が使われていますが、要は「賃金を支払わずに労働させている」ということです。

もし、訴えられて本来払うべきサービス残業分の賃金を支払うとなったら、同額の付加金も支払わなければならない(倍返し)ケースもあります。

そして、このような後ろ向きな理由だけでなく、従業員満足や生産性の向上という観点から、適正な労働時間管理をしていくことが大事です。サービス残業が横行しているような企業に、良い人材が来て定着してくれるはずもありません。

また、限られた人員と時間内で成果を出す、ということに向き合ったときにはじめて、生産性向上の工夫やそのための投資などについて本気で考えるようになるということもあるでしょう。個人の「がんばり」のみに頼ることなく、日々の業務の見直しや作業改善に取り組むことが、従業員に支えられている企業にとっての最善策ではないでしょうか。

さて、初回となる今回は「労働時間」であいまいになりがちな点を再確認していきました。次回も引き続き、労働時間の基本事項について押さえていきたいと思います。

著者プロフィール

小林麻理
小林麻理コバヤシマリ

社会保険労務士、ライター。社労士事務所ワークスタイルマネジメント代表。1978年千葉県生まれ。2000年早稲田大学法学部卒業後、NTTデータ入社。商業界「販売革新」編集記者などを経て2013年からライターとして活動。かねてから強い関心のあった人事・労務、働き方の問題に深く取り組むため、社会保険労務士資格を取得。2018年社労士事務所ワークスタイルマネジメントを開設(URL:http://workmanage.net)。