母体保護に必要な労働時間の削減や業務配慮
コロナ特例措置をご紹介する前に、平時の制度について押さえておきます。まず、基本となるのは、妊娠・出産する女性の身体を守る(労働基準法上は「母性保護」と言います)ための規定です。次表のように、産休制度をはじめ、職務内容、労働時間に関する制限があります。
事業主には症状に応じた措置が義務付けられている
そして、男女雇用機会均等法には、妊娠中の女性の身体を守りつつその能力を十分発揮することを目的とした「母性健康管理」の規定などが設けられています。主な内容をまとめたのが次表です。
なお、健康検査(表中No.1)の回数は、標準的な妊婦検診に合わせた回数になっていますが、医師などが指示した場合、その必要な時間を確保する必要があります。
また、指導事項の実施(表中No.2)に関する措置の1つ、「通勤緩和」は、在宅勤務も含まれます。そして、始業・終業の時間の移動、フレックスタイム制度の導入や、時短を取り入れるなども選択肢の1つです。
こうした対策を通じて(つわりの悪化や流・早産につながるおそれがある)ラッシュの苦痛を妊婦がうけないようにする必要があります。
そして、医師の指導に対し適切な措置を実施するために、「母性健康管理指導事項連絡カード(通称、母健連絡カード)」を利用することが推奨されています。
▲母性健康管理指導事項連絡カードの一部
「コロナ感染ストレス」も対象、休暇助成金が新設
そしてコロナ禍の特別措置として、措置対象の症状に「コロナへの感染のおそれに関する心理的なストレスが母体又は胎児の健康保持に影響がある」場合が加わりました。
医師の指導の例として「感染のおそれが低い作業への転換又は出勤の制限(在宅勤務・休業)」が挙げられています。
休業を支援するための助成金も設けられました(新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援助成金)。
これは通常の年次有給休暇とは「別に」、休業が必要とされた妊娠中の女性が取得できる有給(年次有給休暇で支給する賃金相当額の6割以上)の休暇を整備し、この休暇を合計して5日以上取得させた事業主に対して給付する助成金です。
対象労働者1人当たりの金額は、休暇計5日以上20日未満は25万円、以降20日ごとに15万円加算(上限額:100万円)です。
1つ目のコロナ感染ストレスへの対応に関する特別措置が、2021年1月末→2022年4月末日まで、2つ目の助成金制度は2021年1月末→2021年3月末に延長されることが、2020年12月に決まりました。
また、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)において、コロナへの感染について、ストレスを感じたり、通勤や働き方で悩む妊婦の方を対象に、「母性健康管理措置等に係る特別相談窓口」を設け、相談に対応しています。この相談窓口の開設期間についても、2022年1月末まで延長されました。
個人の体調に合わせた働き方ができる職場づくりを
さて、平時でもコロナ措置でも、前述のように法律措置で義務化しているのは、「医師の指導があった場合」が原則となっていますが、そうでない場合も従業員の申し出に応じて配慮するのが望ましいことはもちろんです。
筆者の経験上からも、妊娠中は異常な状態(病気・著しい症状がある)と診断が下されなくても「つらい」と感じるケースがあるからです。特に、つわりをはじめ、妊娠に伴う体調不良はとても個人差があります。実際、ほぼつらさを感じず出産直前まで通常通り働いていたという人から、つわりや体調不良で以前と同じ勤務状況が耐えられないことをきっかけに、退職してしまったという人までいます。
なお、厚生労働省の発表(2020年12月)によると、2020年4月以降の妊娠届出数は昨年割れを続けており(下図)、特に5月は17.6%減でした。コロナ禍のなか、妊娠・出産に不安を感じる人の多さがわかる数字です。
妊娠・出産への不安に拍車をかけるコロナ禍のなか、出産を控える従業員が体調に合わせた働き方ができるように、職場全体で配慮いただき、助成金も活用していただければと思います。
妊娠中の従業員に関するコロナ対応特別措置・助成金の詳細や最新情報は「職場における妊娠中の女性労働者等への配慮について」をチェックしてください。