小売業新しい働き方研究所

ニュース&事例で解説!わかる労務管理

第2回「○○は採用しません」問題から考える適切な募集・選考とは?

2019年11月当時、東大特任準教授の職にあった者が(自身の経営する会社にて)「中国人は採用しません」とTweetして炎上騒ぎになり、今年1月に東大は懲戒解雇処分を発表しました。今回は採用・募集にあったって最低限、知っておきたい法律の規定について解説していきます。

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募集時の性別と年齢に関する指定はNG?

まず、労働法関連で「差別禁止」と明確に規定されているものの1つが「性別」です。

男女雇用機会均等法では、性別にかかわらず「均等な機会を与えなければならない」とされており、「男性歓迎」「女性向きの職種」といった表現も原則NGです。

もう1つ、差別禁止規定があるのが「年齢」です。雇用対策に関する法律では、例外的な事情の場合を除き、募集・採用における年齢制限を禁止しています。「40歳以上は採用しません」のように、何の理由もなく年齢制限をしたり「30歳未満歓迎」という求人上の表現も、原則として法律違反となります。

例外的な事情としては、定年を限度にする場合や、長期勤続でキャリア形成を図る場合※1などがあります。また、「60歳以上歓迎」は、高齢者(60歳以上)の雇用を促進する意味から認められています。

このように差別の懸念から法律で求人への記載も規制されている「年齢」ですが、パートタイムの応募者層である主婦にとっては「本当は若い人がいいのではないか?」という懸念などから、「年齢」を記載してほしいという気持ちも根強いようです※2。

それに対し、実際に年齢不問の小売業の現場も多いことでしょう。そのため、「幅広い年代が活躍」という文言やそれがわかる写真を通じて、実際に年齢不問であることをアピールするなど、工夫の余地がありそうです。

※1:職業経験は不問、新卒(またはそれに準ずる)採用に限る点に注意が必要です。また、こうした事情については、求職者にもはっきりと示さなければなりません。
※2:ビースタイル運営「しゅふJOBパート」調査より(https://md-next.jp/7635 参照)

 人権を尊重し「適正や能力」を基準に選考する

また、国籍、信条、社会的身分による差別的取扱いも、労働基準法で禁止されています。そのため、「○○人なので、給与は日本人の8割」というのは違法です。

しかし、この規定は、採用判断時(雇用前)は適用されないとされています。「採用の自由」は原則として企業側にあるということです。

それに対し、厚生労働省がホームページで公表している「公平な採用選考について」では、次の2点を基本的な考え方として挙げています。

①応募者の基本的人権を尊重すること

②応募者の適性・能力のみを基準として行うこと

これはモラルの観点だけでなく、企業の人材戦略でも重要なことと言えます。本人の能力や適性に関係ない部分で、先入観で「○○は採用しません」と決めつけるのは、企業にとっても貴重な人材獲得のチャンスを逃しているものだからです。

個人情報に配慮し、業務に関することは把握する

選考に際して質問する事項にも注意が必要です。人種、信条、社会的身分、病歴、前科、犯罪被害の事実などは(その取扱いによっては差別や偏見を生じるおそれがあるため)、「本人の同意を得る」など、特に慎重に取扱うよう、個人情報保護法で定められています。

 もちろん、業務に関連する質問は必要です。たとえば、自動車の運転を伴う業務があるため、運転に支障が出る持病の有無を聞いたりすることは、安全かつ継続的な業務を遂行するうえで、必要でしょう。その場合、「〇〇という理由があるので、××について聞いていいでしょうか?」というように、質問意図も明示することは大切です。

「なぜそんなことを聞くの?」と思われるような不用意な質問の仕方で、せっかく応募してくれた人が働く意思をなくしてしまわないようにしましょう。

気を付けたい「オワハラ」や行き過ぎた引き留め

また、人手不足が続いている昨今では「〇〇は採用しません」以上に気を付けたいのがオワハラを含む、行き過ぎた引き留め行為です。

オワハラとは、「就活終われハラスメント」の略で新卒採用の現場で問題になっている行為です。自社に決めてほしい、という気持ちが採用側にあるのは当然で、学生側も内定辞退の際には、ルールを守り誠実な対応をすべきです。

しかし、応募者側にも「職業選択の自由」があります。企業側の行き過ぎた引き留めは、慎まなければなりません。これは新卒以外の採用においても同様です。

そうした行き過ぎた行為は、TwitterなどSNSでいとも簡単に拡散してしまう時代です。多様な面からモラルが問われるいま、(今回もでてきたような)「基本的人権の尊重」「職業選択の自由」といった憲法の基本理念を思いだしながら、企業(人)として適切な行動をとりたいものです。

著者プロフィール

小林麻理
小林麻理コバヤシマリ

社労士事務所ワークスタイルマネジメント(http://workmanage.net)代表・社会保険労務士。1978年千葉県生まれ。2000年早稲田大学法学部卒業、NTTデータ入社。商業界「販売革新」編集部などを経て2013年に独立。