小売業新しい働き方研究所

知っておきたい「労務管理」基本のキ

第2回「残業時間」って何種類もあるの?

第1回では「労働時間」とは何か、ということについて解説し、サービス残業問題に触れました。今回は「残業時間」を法律的にはどのように扱っているのか、そして残業代の割増率について解説していきます。

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「残業時間」には2種類ある?

所定の就業時間が終わったあとに仕事をしていることを一般に「残業」と言いますね。 たとえば、17時までを所定の労働時間として次のように働いているAさんとBさんが17時~18時に仕事をしたとします。

Aさん)8時~17時勤務で所定労働時間は8時間、休憩1時間。

Bさん)9時~17時勤務で所定労働時間は7時間、休憩1時間。

かける声は同じ「残業お疲れさま!」かもしれませんが、法律的には違う扱いになります。その違いとは、法律で定められた、つまり法定の「残業時間」かどうかです(ここから法律として定められている事項について「法定」という言葉を使います)。

法定の労働時間は原則、1日8時間、1週間40時間までです。そして、法定の残業時間とは、それを超えて労働した時間のことを指します。つまり1日の労働時間が8時間を超えたところからが「残業時間」ということです。

法定の「残業時間」には法定の「割増賃金支払い義務」が発生します。AさんもBさんも時給1,000円で働いているとしましょう。Bさんの17時~18時の「労働時間」に対する時給は1,000円でもかまいませんが、Aさんの17時~18時の「労働時間」には法定残業に対する割り増し分を含む賃金(1,250円以上)を支払う必要があります。

もちろん、「所定労働時間(Bさんの場合7時間)を超えたら割増賃金を上乗せした残業代を支払う」と決めても問題ありません。労働基準法は最低の基準を定めたものだからです。

残業代の「割増率」も何種類もある?

さて、残業時間に通常の賃金よりも割増で支払う必要があります。その割増率という点でも「残業時間」は何種類もあることになります。ここで、その割増率について、押さえておきましょう。時間外労働に対しては通常の賃金の25%以上、60時間を超えた部分は50%以上、休日労働は35%以上、深夜労働は25%以上がベースになります。

なお、休日労働とは法定休日※1に労働した時間のことで、深夜労働とは原則、22時~朝5時までの労働時間を言います。

これらを組み合わせた場合、割増賃金率は、その分が上乗せされる形となります。つまり、時間外労働が深夜に及んだ場合は50%(25%+25%)以上、時間外労働が60時間を超えそれが深夜に及んだ場合は、75%以上(50%+25%)にもなるということです。そのため、時給が1,000円の場合、割り増し分750円を加えて合計1,750円以上の時給になります。

もしかしたら、月に60時間以上残業しているのにこんなに高い割増賃金なんてもらっていないよ!という方もいるかもしれません。実はこの規定は、中小企業※2には猶予されてきたのです。しかし、今年6月に働き方改革関連法が成立し、この猶予規定は削除されることになりました。

少し先になりますが、2023年4月からは、すべての企業が60時間以上の時間外労働に対し、50%増しベースの割増賃金支払いが義務になりますので注意が必要です。

労働基準法における時間外・休日および深夜の割増賃金の規定に関する罰則は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金です。また、未払いの残業代を請求された場合、付加金付きで倍返しになるケースもあるのは前回ふれたとおりです。

また、働き方改革関連法成立により、原則となる月の残業時間の上限基準は「45時間」と法律上でも明記されることになりました(大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用)。

そもそも、月の残業時間が60時間を超えることのないよう、各従業員の作業と労働時間を使用者側が適切にマネジメントしていくことが大事です。

※1:法定休日とは、法律で要求する原則週1回の休日のことです(「休日」に関しては、この連載の中でも別途取り上げます)。それ以外の「所定休日」で週40時間を超えた部分の労働は「時間外労働」であって、「休日労働」ではなく(基本割増率25%)、法定休日の労働は逆に「時間外労働」の扱いにはならないことに注意が必要です(たとえば、週40時間を超えて休日労働した場合も、25%+35%=60%の割増率には、なりません)。土日が休みで日曜日を法定休日としている場合、週40時間を超えてする土曜出勤(基本割増率25%)と日曜出勤(基本割増率35%)では支払う賃金が異なるということです。

※2:ここでいう中小企業とは、小売業の場合、資本金(または出資金)が5,000万円以下であるか、常時使用する労働者の数が50人以下のいずれかを言います。

 

著者プロフィール

小林麻理
小林麻理コバヤシマリ

社労士事務所ワークスタイルマネジメント(http://workmanage.net)代表・社会保険労務士。1978年千葉県生まれ。2000年早稲田大学法学部卒業、NTTデータ入社。商業界「販売革新」編集部などを経て2013年に独立。