「医薬品流通の非効率を無くす」というゴールを目指して

調剤薬局の在庫シェアリングサービス「メドシェア」、AI医薬品発注システムを開始

医薬品在庫のシェアリングサービス「メドシェア」を軸に、現場起点のサービスを打ち出しているファーマクラウド。同社の山口洋介代表にサービスの利用状況と有料拡張版の新サービス「メドオーダー」の開発背景について話を聞いた。(聞き手:MD NEXT 鹿野恵子/構成:イシヤママキ)

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調剤薬局の廃棄ロス問題を解決する「メドシェア」

ファーマクラウドの代表を務める山口洋介氏は九州大学薬学部を卒業後、製薬メーカーに勤務。東京都千代田区に「薬局お茶の水ファーマシー」を開局し、管理薬剤師として自ら薬局運営に携わった経験を持つ。2012年に株式会社ファーサス、2015年に株式会社ザイシ、2016年に株式会社ファーマクラウドをそれぞれ起業。ITエンジニアとしての顔も持ち、ITを活用した現場起点のソリューションを次々と開発している。

ファーマクラウドの基幹サービスが、2017年1月にリリースした「Med Share(メドシェア)」だ。「メドシェア」は医薬品在庫のシェアリングサービス。個店経営から20店舗程度の小規模薬局チェーンをメインターゲットに、医薬品在庫を可視化し、不動在庫を共有するサービスの無料提供を行っている。

薬局経営の中で最も難しいのが、在庫コントロールだ。各調剤薬局は病院や患者との日々のやりとりの中で品揃えを決めているが、多くの店舗ではこれら情報をデータ化せずカレンダーに患者情報をメモするなどアナログな手法で行っており、発注量については薬剤師のカンに因ることが多い。

また、薬局は社会のインフラ的側面もあることから、様々な医療施設の処方せんに対応するため、アイテムの絞り込みができず幅広い在庫を抱えることになる。その結果、状況によっては数十万円分の廃棄ロスが出ることもあり、個人経営の薬局にとって大きな痛手となっている。

不動在庫を作らないためには常に在庫状況を把握し、周辺の薬局と情報を共有して、過剰在庫を他店と協力し消化する必要がある。そこで、ファーマクラウドは不動在庫候補の検出から出品購入までをサポートする「メドシェア」の開発にいたった。

このサービスではレセプトデータ(診療報酬の明細書)を活用し、個人情報や調剤報酬に関する情報を完全に削除した状態でアップロード。アップロードしたデータから不動在庫を自動的に検出し、その中からシェアしたい商品を選び出品することで、その商品を求めている他の薬局が買い取るといった仕組みを採用している。不動在庫の可視化・共有の手間を劇的に削減することにより、接客など本来の業務に集中できるほか、廃棄ロスの削減により、キャッシュフローの改善にもつながる。

メドシェア出品画面

医薬品の分割譲受を行う「小分けサポート機能」を追加

「メドシェア」では、2018年末より新たな機能として医薬品の分割譲受を行う「小分けサポート」サービスを追加した。

門前薬局ではない郊外店など、処方せん枚数の少ない薬局の場合、在庫を持たない薬品の処方せんを受け取ることもある。調剤薬局業界では旧来より助け合いの文化があり、在庫のない薬がきた場合、近隣の薬局に連絡し融通してもらう。しかし近隣の薬局に在庫がなかった場合、最終的には取引先である医薬品卸に相談することになる。

特に当てもなく片端から電話で問い合わせるというアナログな手法は時間や手間がかかり効率が悪い。また医薬品卸にとっても直接の業務とは関係がない薬局からの問い合わせは悩みの種となっていた。

こういった状況を受けて、ファーマクラウドでは既存の不動在庫サービスの中に、どの薬局が薬を所持している可能性が高いのかを検索する「小分けサポート」機能を追加。調剤実績の多い薬局にピンポイントで問い合わせできるため、分割譲受における効率化が期待できる。

メドシェア小分けサポート画面

不動在庫だけでなく有動在庫でも活用しやすい「小分けサポート」機能の追加により利用頻度も上がり、薬剤師会や医薬品卸からの支持も得て「メドシェア」の知名度も拡大。月間で約4000回の検索があり、2019年11月現在、会員数は約800店舗まで広がっている。薬剤師会向けには説明会を実施するなど、特に会員数拡大を狙っている。

月3万円でつかえるAI医薬品発注システム「メドオーダー」

同社は、「メドシェア」の会員数拡大に伴い、利用者の要望にこたえるべく新規サービスとなる「メドオーダー」を2019年10月にリリースした。「メドオーダー」はAIを活用した医薬品の発注システム。使用料は月額3万円となっている。

現在、各薬局で使用されている在庫管理・発注システムは、多機能ではあるものの操作が複雑化しており、使用者の技術やITリテラシーが求められる機能が多い。そのため、ITリテラシーが高いスタッフの作業時間だけが長くなり、作業者と非作業者の作業量や知識量に大きな差が生まれていた。

「メドオーダー」のできることは、他社の発注・在庫管理システムに比べるとかなりシンプルだ。レセコンから処方情報を取り込むことで正確な出庫管理が可能。処方量や発注点など、発注のために必要な情報が1つの画面で管理できるようになっている。また、AIが処方実績を学習することで、発注点の適正化を実現する。

先発サービス「メドシェア」と合わせて利用することで、発注予定の薬を「メドシェア」で購入することもできる。在庫一覧で不動在庫を確認し「メドシェア」で出品することももちろん可能だ。

ファーマクラウドでは「メドシェア」のユーザーを中心に案内しており、「メドシェア」利用者の半数以上が有料サービスへの移行をするのではないかと見込んでいる。

メドオーダー発注画面

薬局と医療業者との関係を円滑にする仕組みづくり

「メドシェア」および「メドオーダー」開発の背景について、山口氏は以下のように語る。

「薬局経営において、売上を左右する薬の単価を決めるのは国であり、患者数は立地によるところが大きく、コントロールできるものは案外少ない。また人件費やテナント料などのコストも調整が難しいため、唯一コントロールできるのが在庫の管理だ。不動在庫の問題は発注管理の問題であり、薬局の適正在庫を作っていくために『メドシェア』や『メドオーダー』を開発した。1店舗の場合はアナログで管理できても、複数店舗になると人の目が行き届かなくなる。システムの導入により、患者に必要な薬がいつでも手に入る状態を、薬局から創出することができるだろう。人間にとって一番有効なインターフェイスはチャットボットなどではなく、あくまでも人間だと考えている。在庫管理などはシステムに任せ、服薬指導、突発的な問題への対処といった薬剤師の専門性が発揮できる業務に力を注いでほしい」。

ファーマクラウドの社員数は現在システム開発6名、営業3名、サポート4名の計13名。今後は、サポート体制を強化していくことで顧客の声を開発に反映させるサイクルを高速で回していく。

ファーマクラウドが目指すゴールは「医薬品流通の非効率をなくす」だ。調剤薬局には医薬品の安定供給という社会的使命があるが、その使命を全うするために、現状はアナログな方法で無理をしている部分が多々見受けられる。

同社では「メドシェア」「メドオーダー」のサービス提供を通じて、薬局のデジタルトランスフォーメーションを推進することで作業効率化と課題解決につなげていきたいとしている。