現場、数値、システムもわかるゼネラリスト(多能工)を育てよう

新型コロナウイルス騒動で紙製品やマスク、消毒薬が売場から消えてしまいました。こういう緊急時には、なんでもできるゼネラリストが活躍します。かつて零細だったドラッグストア(DgS)は、一人の人間が仕入れから売場づくり、物流までこなしていましたが、大企業になり、分業化・縦割り組織の弊害が表面化しています。

隣の部署が何をやっているか分からない「大企業病」の組織

現在は 1,000店を超えるチェーンストアであっても、もともとは1店舗からスタートしました。そして、2店、3店、10店と店数を増やしながら、小売業は企業として成長してきました。初期の小売業を支えた経営者や人材(現在の幹部)は、一言でいえば「何でも屋」です。

自分でメーカーや卸売業を開拓し、商談し、売場づくりも自分で行いました。仕入れた商品が売れないと取引先に相手にされないので、必死で売り方を研究し、店頭で商品を育てる努力をしました。また、売場に死に筋が滞留すると、売れ筋が売場に入らなくなるので、必死で売り切る努力をしました。当然、自分で数値管理を考えて、原始的な「予実管理」も自力で行いました。

ところが店舗数が増えていくと、一人で管理できるキャパシティを超えてしまいます。一般的に小売業は、30店を超えて成長しようとすると、分業化の組織開発と仕組みが必要になるといわれています(30店舗の壁)。チェーンストアの場合は、仕入れ・企画を担当する「商品部」と、陳列や補充などの売場作業を担当する「店舗運営部」の2つの組織にまず分業化します。

しかし、あくまでも大量の店舗を管理するために便宜的に分業化したに過ぎません。一人の人間が仕入れも、売場づくりも、販売もするのが、本来の商人の姿です。便宜上、分業化していても、一人の商人がすべてを担当するかのように、「商品部」と「店舗運営部」は緊密に連携すべきなのです。

しかし、DgSも1,000店を超えるチェーンストアになり、分業化・縦割り組織化が進んでいます。隣の部署が何をやっているか知らないし、知ろうともしない人材が増えていくと危険信号です。平常時に業務がうまく回っているときは、分業化組織でも問題なないのですが、今回のコロナウイルスのような緊急時には、なんでもできるゼネラリストが求められます。

東日本大震災の緊急時に、当時のメーカーの支店長さんの中で、自社の物流がどうなっているかが分かる人はほんの一握りしかいなかったそうです。物流は業者に丸投げしているので、業務の全体がわからず、緊急時の対応が遅れたメーカーもありました。分業化・縦割り組織の弊害は、緊急時の対応のときに表面化します。

業務の全体がわかるゼネラリストの育成

企業は規模が大きくなると、商品部、販促部、店舗運営部、物流部、システム部などと組織が専門職化、縦割り化し、小売業の機能の全体がわかる人材がどんどん少なくなっていきます。今こそ、全体像のわかるゼネラリストを計画的に育成すべきです。

「ジョブローテーション」こそが、ゼネラリストを育成するための最大の人材教育です。まずは、その企業のコアコンピタンス(中核となる業務)から経験を積むべきです。卸売業であれば「物流」、小売業であれば「店内作業」から経験を積みます。

その後、経営管理者の候補生は、計画的なジョブローテーションを行うべきです。店頭現場の作業をマスターしたら、商品部、情報システム部、経理部とジョブローテーションし、会社の業務全体を理解させることで、「数値」と「現場」の両方がわかる経営管理者を育成することができます。なんでも経験して、自然とゼネラリストになった創業期とは違います。大企業になれば、ジョブローテーションによって計画的・長期的にゼネラリストを育成しなければ、分業化された組織の歯車のような人材ばかりになってしまいます。

また、治外法権化しやすい「システム部」も、ある大手DgSでは店内作業をマスターした現場上がりの人材を登用することで、他の部署との横の連携が格段に良くなったそうです。

また、店内作業の現場でも、複数の業務をこなせるマルチ・ジョブ・ワーカー(多能工)を育成することがこれからは重要です。販管費の上昇によって、人の生産性向上は待ったなしだからです。業務の多能工化、つまり現場のゼネラリストを育成することによって、従業員一人当たり生産性の向上を目指す必要があります。

店内在庫確認サービス、店舗受取サービス—etc. カインズの新アプリを使ってみた

ホームセンター(HC)大手のカインズが、デジタルシフトを加速しています。アプリも新しくなり、自宅にいながら、マイストア(近くの登録店舗)の在庫数量がわかるサービスを開始しています。実際にカインズの新アプリを使ってみました。

店舗の在庫数量と陳列位置がわかるサービス

現在、カインズの店頭では、上記写真のように「事前在庫確認サービス」と「ネット注文→店舗受取」の新サービスを売場の多くの場所で表示していました。そこで、実際にカインズの新アプリをダウンロードし、まずは、自宅にいながら「マイストア」の在庫数量と陳列位置がわかるサービスを体験してみました。

最初にカインズの新アプリをダウンロードして、自宅近くのマイストアを登録します。「大きな洗濯ハンガー」という商品を検索すると、上記のようにマイストアの在庫数が42個と表示されます。その下の「売場をさがす」という場所をクリックすると、下記のようなマイストアの売場レイアウトと陳列位置がスマホ画面に表示されます。「売場表示が間違っていた際は係員までお声がけください」と表示されており、陳列位置をできるだけ正確に表示しようとしていることがわかります。

このサービスは、カインズの「オンラインショップ」の機能に付加したサービスなので、オンラインショップの画面に移動すれば、下の右の写真のようなレビューを見ることができますし、オンラインで注文して、宅配を選ぶこともできます。

「事前在庫確認サービス」の良い点は、来店したのに欲しい商品が欠品していたという消費者の不満を解消できることです。店頭欠品は、その店に対するロイヤルティを著しく下げるといわれており、個客満足向上に直結するサービスだと思います。

また、売場面積の大きなHCでは、「この商品はどこにありますか?」という質問をしたところ、店員も商品の陳列位置を覚えておらず、売場を行ったり来たりした経験をした消費者は多いと思います。そういう意味で、陳列位置が事前にわかるサービスも、顧客満足向上につながると思います。

「事前在庫確認サービス」は、5年ほど前からアメリカの「ホームデポ」が行っているサービスです。月刊MDやMD NEXTでも何度も記事を掲載しました。また、3年ほど前にカインズの土屋社長(現会長)に頼まれて、カインズ本社でホームデポのアプリの活用事例などを紹介した講演を行いました。ホームデポの事前在庫確認サービスは、下のリンクの記事を参照してください。

自宅で「在庫」と「商品情報」を確認できる「ホームデポ」のオムニチャネルの凄さ

ホームデポのアプリを使った「オムニチャネル戦略」については、雑誌やセミナーで報告してきましたが、残念ながら日本の企業はどこも実現していません。カインズの新アプリを使って一番驚いたことは、わずか3年で、アプリを活用した「事前在庫確認サービス」を実現したことです。

カインズの「デジタルシフト」に対するスピード感と本気度が伝わってきます。同社の挑戦し続ける企業文化の一端を見たような気がしました。

ネット注文→店舗受取。BOPIS戦略も開始した

カインズが始めた「ネット注文→店舗受取」の新サービスのことを、アメリカではBOPIS(Bye Online Pickup in Store)と呼んでいます。ウォルマートやホームデポなどの大手小売業は、新規出店がなくても、BOPIS戦略を強化することで、既存店の売上を増やし、企業全体の売上を増やしています。BOPIS戦略の詳細は、下のリンクの記事を参照してください。

「店舗数減少」でも売上を伸ばすウォルマート、ホームデポの戦略

 

カインズの店舗受取サービスの最大の特徴は、アプリのオンラインで注文しても、アプリでは決済しないことです。つまり、「お取り寄せサービス」なのです。決済は店舗で実際に商品の状態や質感を確かめて購入します。たとえば、スマホで見たのとはイメージが違うと思えば購入しなくてもいいので、消費者にとっては安心できるサービスです。

また、店頭で決済をするので、「せっかく来店したのだから」と、他の商品も関連購買や衝動購買をしてくれることも、リアル店舗にとっては大きなメリットです。

カインズ「ネット注文→店舗受け取り」の「CAINZ PickUpロッカー」実証実験開始

注)この原稿を執筆している時点では、コロナウイルスの影響もあり、店舗受取サービスを中止していました。

緊急事態!ドラッグストアにできるのは「お客の不安を取り除く」こと #がんばれドラッグストア

ここ数週間、ドラッグストアの店頭は異常事態に見舞われています。新型コロナウイルスへの危機感から需要が高まったマスク・消毒関連商品の欠品が続き、さらにデマを発端としたトイレットペーパーをはじめとする紙製品の買い占め、欠品が全国で広がっています。地域医療の担い手を自称するドラッグストアは、このような状況にどう対処すべきなのでしょうか?

現場は疲弊している

この数週間ドラッグストアの店頭は緊急事態に見舞われています。

新型コロナウイルスへの危機感から需要が高まったマスク・消毒関連商品の欠品が相次ぎ、さらにここ数日はデマを発端としたトイレットペーパーをはじめとする紙製品の買い占め、欠品が全国で広がっているのです。

何回も繰り返されるお客様からの在庫確認や次回入荷への問い合わせ、大量の品出し、開店時には長蛇の列ができ、入荷した商品が一瞬で売り切れる…という店舗もあります。お客様同士の小競り合いなどが起きてしまっている店舗も多いようです。

いつまで続くのかわからない状況に現場は疲弊しています。

一番不安なのはお客様

しかし一番不安なのはお客様です。新型コロナウイルス感染への不安から外出することもままならず、家族のためにトイレットペーパーやオムツなどの紙製品を切らすことができないと考えた方々は、発端がデマと知っていても買いだめに走らざるを得ず、結果として「デマが真実」になってしまっています。

「店舗はメディアである。ドラッグストアは地域医療のハブである」と当媒体では繰り返し提言をしています。今だからこそ店舗からできる情報発信によって、お客様の不安を少しでも取り除くよう動きたいものです。現場が一丸となってお客様のサポートに動けるよう、本部には現場をサポートしていただければ…と考えます。

たとえば

・本部が店舗に掲示できるような新型コロナウイルスに関する情報発信のためのPOPを配布する

・本部が店舗に対して、品薄になっている紙製品に関する、次回の商品入荷日を明確に掲示できるPOPを配布する

・お客様の不安に対し、薬剤師を中心として、医療知識に裏付けされたアドバイスを提供する

このようなことは、本部がサポートすれば、今あるリソースで十分対応できるはずです。

上記の写真は、店舗のICT活用研究所の郡司昇さんにご提供いただいた、首都圏のとあるドラッグストアに開店2時間前に掲示されていた張り紙です。

その日のマスク、紙製品の入荷状況について記載されています。在庫があるのかないのか、ない場合入荷はいつなのか?単純ですが、お客様にとっては必要十分な情報が伝わる内容になっています。

郡司さんからは、

このレベルのものでも掲示出来るだけで、問合せを6~8割は減らすことができます。(ダメ元で聞く人はどうしようもありません)。大切なのは毎日更新することです。

とコメントをもらいました。

紙製品に関しては、経済産業省が以下のような発表をしています。こちらを印刷して店頭に掲示するのは不安を解消するための一つの材料になるかもしれません。

ツイッターで情報発信している唯一のDgS

北海道のドラッグストア サツドラさんは、ツイッターでこの経済産業省のツイートを引用して、情報発信をしています。

3月2日の朝6時時点で、上場ドラッグストア14社のツイッターアカウントでこのような今回の騒動に関する情報発信を行っていたのは、サツドラのアカウントだけでした。

アプリやLINEなどでお客様と直接の接点を持っているドラッグストア企業は、それらのツールを活用して直接店頭の情報をお伝えしたり、新型コロナウイルスに関する医学的根拠に裏付けられた情報を配信することもできるはずです。

是非本部の皆様は、店で奮闘する方々が少しでも疲弊しないためのサポートに尽力していただきたいと思います。

今回の騒動が早期に収束に向かうことを祈っています。

(MD NEXT 編集長 鹿野恵子)

トライアルが放つ、リテールAI プラットフォームプロジェクト「リアイル」の戦略とは

Retail AI(トライアルグループ)、サントリー酒類、日本アクセス、日本ハム、フクシマガリレイ、ムロオの6社は、2020年2月25日、東京・新宿でリテール AI プラットフォームプロジェクト「リアイル」戦略発表会を開催した。 製配販の枠を越えたこの取り組みで、トライアルは何を目指そうとしているのか。(ライター:森山和道)

「リアイル」は、2019年11月に発足した6社共同プロジェクト。小売・卸・流通・メーカー・冷蔵ショーケースメーカーの各プレイヤーが連携、データやAI技術を活用することで、流通業界の構造改革による社会課題の解決、新たな購買体験を通じた消費者の生活の質の向上など「流通情報革命」を起こすことを共通の目的としている。140兆円規模の小売・流通業界市場のうち約3割を占める「ムダ・ムラ・ムリ」コストの削減、人口減による市場縮小など社会課題の解決、欲しいものが欲しいときに必ず手に入る「新しい購買体験」提供の実現などを目指す。

戦略発表会では参画各社からプロジェクト発足背景、目指すべき社会、実際に活用されているリテールAI技術、消費者に与える生活の変化等について、各社のリテールAIを活用した事例とその成果が発表された。

トライアルのスマートショッピングカート

顧客行動を変え、全体最適で流通全体を変える Retail AI

株式会社Retail AI 代表取締役社長 永田洋幸氏

はじめに、トライアルグループ株式会社Retail AI代表取締役社長の永田洋幸氏が、リテールAIプラットフォームプロジェクト「リアイル」が目指すプロジェクトビジョンについて紹介した。Retail AI社は、AIカメラで欠品を防ぎ、スマートカートやデジタルサイネージを使ってリアルタイムに最適な商品を提案したり、チェックアウトもスマートレジカートで行って専用レーンでスムーズに退店できるといったソリューションを提供することで小売現場を変えようとしている。

永田氏は「このプロジェクトは実証実験ではない。実際のオペレーションを変え、数値実績を出すもの。オペレーションドライブがテクノロジーよりも重要。現場を変えなければならない。部分最適化だけでは効果は発揮しない。全体最適で流通全体を変える行動が必要」と語った。そして「キャズム」で知られるジェフリー・ムーア氏の「顧客が変わることで産業が変わる。顧客の行動が変わることにインパクトがある」という言葉を紹介し、技術よりもオペレーションを重視して、デジタルトランスフォーメーションを進めると強調した。

キーワードは既存店舗に新技術をなじませる「レトロフィット」。そしてデータ主体で連携することで新たな顧客価値を創出し、買い物体験を変える。メーカーは良い商品を作ることができ、顧客が欲しいものを購入することができるようにする。そのあいだを繋ぐのが「リテールAI」を使った店舗だと考えているという。実現のためには小売流通業界が今まで以上に繋がることが重要で、特にオープンイノベーションで産業を変えることを共通目的としたプレイヤーたちでエコシステムを作りたいと語った。

このプロジェクトでのリテールAIは、4月24日に改装オープンするトライアル長沼店(千葉県千葉市稲毛区)に導入する。永田氏は「リテールAIプラットフォームがこれからの小売にとって必要不可欠であることを示して導入店舗を拡大していく」と述べ「仲間を求めている」と語った。

人流分析のデモ動画

ストレスフリーの買い物体験、スマートな顧客体験の提供へ サントリー

サントリー酒類株式会社 営業推進本部 兼 広域営業本部 部長 リテールAI 推進チーム シニアリーダー 中村直人氏

サントリー酒類株式会社営業推進本部 兼 広域営業本部 部長リテールAI推進チームシニアリーダーの中村直人氏は、メーカーの立場から小売店と顧客体験について語った。酒類を購入する顧客は来店頻度・顧客単価共に高く、優良顧客となっているという。サントリーは同業他社と比べて酒カテゴリーの構成に偏りが少なく、様々な顧客に対応した提案が可能であり、ID-POSデータを活用することで酒売り場全体の売り上げと利益の向上、ひいては売り場全体の活性化を図れるという。リテールAIによって売り場の最適化、効率的販促の実施、需要予測による欠品回避や自動発注店員作業の効率化など流通企業の課題解消を目指す。すでに2018年は酒類カテゴリー前年比で110.8%の結果が出ている。

中村氏が紹介した同社のPRビデオ内には株式会社サッポロドラッグストアー代表取締役社長の富山浩樹氏も登場し、データマーケティングとカメラを活用して店頭状況を見える化することから取り組みを進めているとした。棚割をデータから最適化することで1割の売り上げアップの効果が出ているという。

中村氏は、同社は顧客に対する付加価値として、「時間価値」を重視していると述べた。顧客は日々の買い物のなかで、献立検討時間や手間、在庫有無のチェック、レジ待ちなど様々な時間が必要となっている。時間をどのように効率的に使っていくか、それが解決しないといけない課題だと考えているという。そのために買い物体験の「スマート化」を考えており、家庭内などこれまで見えなかった部分まで含めて見える化することで、最終的にはストレスフリーの買い物体験の実現を目指すという。

具体的には来店からの顧客行動を見える化する。お酒売り場での行動は志向性の違いによって8秒ですぐに出る人もいれば、45秒かけてじっくり選ぶ人まで様々だ。画一的な売り方では不十分である。

カメラで売り場を把握

そこでビジネスエコシステムを関係企業でつくり、同一プラットフォーム上で顧客満足度を上げる共通目標をかかげて取り組むことが不可欠だと考えて「リテールAIプラットフォームプロジェクト」に参加していると述べた。重要なものはデータだ。これまではモノ起点だったのをカスタマー起点で考えることが重要だという。

リテールプラットフォーム構想

トライアルとの3年間の取り組みの結果、実際にサントリーのシェアも上がり、買い物体験の向上にもつながっている。富山氏は「日本の流通を変えていきたい」と語った。

トライアルとサントリーの3年間の取り組み結果

リテールAIで新商品を開発 日本ハム

日本ハム株式会社 マーケティング推進部 部長 小村 勝氏

日本ハム株式会社マーケティング推進部部長の小村勝氏は、ハムソーセージ業界の課題から紹介した。ハムソーセージ市場は減少傾向にある。購入単価も下落している。ハムソーセージ商品の売れ筋商品には変化がない、食べ方やメニューに広がりがない、つまり10年以上売り場に変化がないといった課題がある。そこで新たな手法でニーズを捉えた商品開発を行い、新たな売り場構築が必要だと考えているという。

ハムソーセージ業界市場は減少傾向

メーカーよりも流通のほうがDXは進んでおり、顧客情報も持っているというのが現状だ。そこでAIを活用するリテールAIプロジェクトに参画して新たなビジネスモデルを作ろう、メーカーとしての課題をリテールAIで解決できれば、メーカーにとっても顧客にとっても貢献できるとと考えたと述べた。

AIで顧客行動を理解し活用する

具体的にはまずは商品開発のほか、需要予測、発注・製造計画への反映、ショッパーマーケティング・品揃えなどの課題解決に挑む。実際にこれまで、受注に100%応えつつ、無駄をなくすために、AIを使った「二週間前予測」と前日の「直前分析」によって、需要予測を共有。チャンスロスをなくしつつムリムラムダの削減に挑んでいる。また棚割りにもビッグデータや販売実績を活用して店舗ごとの最適な棚割を提案する。顧客ニーズに合わせた売り場に変更して顧客満足の向上を図る。

日本ハムのリテールAI活用
二段階で欠品率を改善
データによる棚割りの最適化

そして新商品開発にも挑む。ID-POSデータを活用し、カメラやレジカートも使って購買行動・販売検証も組み込んで顧客満足の向上を提案する。その一例が2月に発売した「シャウベーコロン」だ。「シャウエッセン」を料理の具材に使っている顧客が多いことから開発した商品で、今後、バスケット分析(どの商品と一緒に購入されているのか)などを行い仮説検証して分析を積み重ね、あらたなハムソーセージの売り場を作る。4月24日にオープンするトライアル長沼店では新たな価値創造を行いたいと考えていると締めくくった。

購買行動から新商品を開発。今後仮説検証を実施

AIの目で欠品によるチャンスロスを防ぐ 日本アクセス

株式会社日本アクセス マーケティング部 部長代行 今津達也氏

株式会社日本アクセスマーケティング部部長代行の今津達也氏はデイリー売場の分析と分析データの活用によるチャンスロスを防ぐ取り組みについてについて語った。日本アクセスは伊藤忠商事100%の食品卸。年商は2兆1320億円。総事業規模は4.69兆円。低温商品は1.12兆円。現在、次世代ビジネス戦略を立てているところで、人口減やオーバーストアのなか、新ビジネス開発が急務となっているという。

また、流通業界全体で「ムダ・ムラ・ムリ」が46兆円あり、日配カテゴリだけでも500億円分の食品ロスがある。卸は寡占化している。どの卸も基本機能は強化しており、それだけでは戦えなくなっている。そこで、より小売業の売上拡大に貢献できる卸になる必要があると考えているという。そこで「低温AIプラットフォーム」を構築して業界全体を改善していこうとしていると述べた。

廃棄ロスの改善施策

まずはじめに廃棄ロスの改善を進めた。価格の弾力性がどれだけあるのかを分析し、ダイナミックプライシングを導入し廃棄量減少に取り組んだ。だが廃棄ロスを恐れるあまり、欠品によるチャンスロスのほうが大きいことがわかった。

廃棄ロスとチャンスロス

そこでAIカメラを使ってチャンスロス分析を行っている。欠品状態に顧客がどのように棚前を通過しているかをかけあわせるとチャンスロス金額が推定できる。人流、POS、充足率の各データを蓄積して解析してチャンスロスを具体的に可視化しようとしている。

AIカメラを使ったチャンスロス分析

今津氏は「コンピュータが目を持ったところは非常に大きい」と語った。すでに棚ごとにどの段のどの列がどのくらい商品が置かれているか、棚前をどのくらい通過したかが具体的に高精度で可視化できるようになっている。カテゴリごとに欠品率が異なるため重点的に改善を行うカテゴリをいま分析しており、次のステップへ移ろうとしているという。発注システムへの連動なども目指す。

実施ステップ

4月にオープンする長沼店では具体的な見直しに導入し、攻めの販促もかける。「机上の空論ではなく、実際に実現できる環境になった。これを成果に結びつけるべく活動を行なっていく」と語った。

長沼店での取り組み

共同配送センターで物流を変える ムロオ

株式会社ムロオ 代表取締役社長 山下俊一郎氏

株式会社ムロオは広島に本社を置く物流会社。売上規模は約630億円。1400台の冷凍冷蔵トラックで事業を行っている。取り扱い金額は1兆6000億円。もともとは広島の牡蠣を遠方に運搬することから始まった会社だとムロオ代表取締役社長 山下俊一郎氏は紹介した。物流業界には労基問題や人件費高騰、過積載など多くの課題があり、行政の取り締まりも厳しくなっている。ではどうするのか。

経費削減圧力が高まっているなか、山下氏らは一企業の物量だけで物流最適化は限界だと考え、複数企業の大きな物流で、部分最適化ではなく、業界全体、エリア全体を見て最適化することが重要なのではないか、競争から協調へ変わることが重要なのではないかと考えたという。ムロオではこれを「リテール・ロジスティクス・プラットフォーム構想」と呼んでいる。具体的にはトライアルと組むことで同一エリア内に汎用の物流センターを設けてエリア内の全体最適化を図ろうとしている。

汎用センターで物流拠点を集約

既存のライバルを含む同業他社や異業種他社にも声をかけて一緒に倉庫や配送の効率を上げようとしているという。在庫も九州北部の他の店舗にも供給できるようにする。専用から汎用物流センターへ変えていこうという考え方で、九州だけではなく各所で取り組もうとしているという。

山下氏は最後に「地方から物流を最適化していきたい。これからも継続できる物流網を提供していくために同業他社・異業種をまきこんで物流資産を共有し、物流を最適化していきたい」とまとめた。

トライアル基幹物流センター 白鳥物流センター

冷蔵ショーケースからAIファシリティへ フクシマガリレイ

フクシマガリレイ株式会社 専務取締役 営業本部長 リテールAIプロジェクトマネージャー 福島豪 氏

フクシマガリレイ株式会社は大阪に本社を置く業務用冷凍冷蔵庫、ショーケースのメーカー。国内・東南アジアのスーパーなどに納入・施工・メンテナンスを行っている。2019年12月に福島工業株式会社から社名変更した。フクシマガリレイ
専務取締役 営業本部長の福島豪氏は、激化する競争環境のなか、従来は鮮度管理と省エネを重点としていたが、これからは「売れるショーケース」が必要ではないかと考えており、スーパーを「メディア化」することで活性化すること、インフラ構築・メンテナンスを全国で行うことを目標として取り組んでいると述べた。

鮮度管理と省エネだけでなく「売れる」AIショーケースへ

長沼店舗にも同社のショーケースが導入される。カメラ、電子棚札などを使い、欠品・人流・商品検知、自動発注・ダイナミックプライシング、パーソナライズサイネージなどを行う。

フクシマガリレイのAIショーケースモデル
欠品・人流・商品検知、自動発注などの機能を持つ

同社では大阪本社にオープンイノベーション拠点「MILAB(ミラボ)」を開設。未来志向店舗「MILABストア」を作り、レジレス決済、レコメンド広告、欠品検知・自動発注などのリテールAIを発信・検証する。そしてエコシステムを広げていきたいと考えているという。

オープンイノベーション拠点「MILAB(ミラボ)」内に店舗を設置

福島氏は「重要なことは、わくわくどきどきする買い物ができるようにすることで売り上げと利益が上がること。多くの人に体験してもらいたい」と述べた。BtoBだけではなくAIファシシティ企業へと変わり、リテールAIのワンストップ窓口となることを目指す。そして小売業のムリ・ムダ・ムラをなくし、日本の流通産業を変えていきたいと述べた。

AI冷蔵ショーケース
棚の商品を検知するカメラ

季節催事の谷間に最適!スヌーピーグッズの「中継ぎ」定番

家庭用品卸の「ジェムコ(GEMCO、黒田克己社長)」の展示会(2月13、14日開催)で、今年で生誕70周年を迎えるキャラクター「スヌーピー」売場の提案があったので紹介します。

「中利中売」商品で粗利ミックスしよう

小売業は、一般的に売れ筋といわれる「薄利多売」商品だけを販売していたのでは、店全体の粗利益率の低下を招きます。爆発的には売れないが、そこそこ売れて、値入率の高い「中利中売」商品を戦略的に強化して、粗利ミックス(マージンミックス)を図る必要があります。

粗利ミックスは、総合小売業のMD(マーチャンダイジング)の中で、もっとも重要な技術のひとつです。今回取材したジェムコが提案する「家庭用品」は、「中利中売」商品の宝庫です。

今回の展示会でジェムコは、スヌーピーのキャラクター商品の「準・定番売場」を提案していました。準・定番と表現した理由は、季節商品が終わって、次の季節商品売場を展開する間の「中継ぎ的」な定番売場として、小売業に提案しているからです。

たとえば、今年のような暖冬ですと、「冬物」の季節品はもう売れなくなっています。早く撤去したいのだけど、次の季節催事の間に陳列する商品がない。そういう場合にスヌーピーのキャラクター商品売場を中継ぎ的に展開することで、来店客に生誕70周年というニュース性と新鮮さをアピールできます。スヌーピーは、東京都町田市の「南町田グランベリーパーク」内に開店した「スヌーピーミュージアム」が大人気で、話題性も抜群です。

また、スヌーピーの中継ぎ定番を展開することで、売れなくなった季節品の売上をカバーすることもできます。さらに、キャラクターグッズは代表的な「中利中売」商品なので、店全体の粗利ミックスにも貢献します。

1年間、定番として細々と売り続けるよりも、ある時期に集中展開し、一挙に売り切った方が、結果として地域での販売量が増える商品があります。この方法を「コレクション販売」と呼びます。

コレクション販売は、「低購買頻度」品の売り方に適しています。たとえば、頻繁に購入しない「茶碗・箸」の買い替え需要を狙った「食器フェア」などの季節催事も代表的なコレクション販売です。また、低購買頻度品の代表である「血圧計」や「体組成計」を、「健康フェア」などの季節催事を企画し、一定期間で一気に販売する方法です。

スヌーピーのようなキャラクター商品も、年間定番で売るよりも、コレクション特売で期間限定で販売する売り方の方が適しています。スヌーピー売場に飽きられたら、違うキャラクターを展開すればいいわけです。

既存防犯カメラ活用でチェーンストア向けAIカメラソリューションを提供する「AWL」

店内の人や商品の状況をカメラで撮影し、AIが分析、次の打ち手につなげる…「AIカメラ」は、現在さまざまなメーカーや小売業が活用を始めており、リテールテクノロジー界隈では最も”ホット”な領域の一つだ。その中でも「既存の防犯カメラを転用し、新規導入コストが低い」という強みを持つAWL(アウル)が2020年2月、約8.1億円の資金調達を実施したと発表した。(文:MD NEXT編集長 鹿野恵子)

先行AIカメラの1/10のコストで導入可

AWL(アウル)のAIカメラソリューション最大の特徴は、専用のAIカメラを新設する必要が無く、既存の防犯カメラを転用できるという点だ。店舗に「AWL BOX」という情報処理端末を設置し、既存防犯カメラと接続すれば、それだけでさまざまなAIソリューションが利用可能になる。

「AWL BOX」は20cm四方、厚み4cm程度の黒い筐体だ。基本性能の「AWLストアレコーダー」では防犯カメラの映像を記録するのはもちろん、本部から店舗の状況を動画で確認したり、事故や万引きなどのトラブル発生時にエビデンスとなる映像を抽出する機能がある。映像は本部で一元管理が可能だ。

実際の防犯カメラの映像。遠隔地から参照できる。画像はかなり鮮明で本部指示の徹底確認などにも利用できる。

さらにさまざまなAI機能のなかから自社のニーズに応じたものをオプションとして追加できる。たとえば「防犯アラート」機能は、犯罪リスクにつながる可能性のある不審者を自動で検知し、スタッフにリアルタイムでアラートを発するというもの。「動線分析」機能は、入店から退店まで来店者の動線を分析する。複数ある防犯カメラからの映像をAIが横断してトラッキングする技術を開発し、既存の防犯カメラによる動線調査を実現した。AIカメラによって、来店者の年齢・性別を把握し、判別した情報をもとにサイネージに表示すべき広告を打つ「サイネージ広告の最適化」機能、各店舗での従業員の作業実績を可視化して把握する「働き方最適化」機能、カスタマーハラスメントを検知し、本部や店長へリアルタイムに通知する「カスタマーハラスメント検知」機能など、豊富な機能が揃えられている。

AWL BOXは初期費用が20万円、月額利用料は一台2万円。オプションの機能は、たとえば「来店人数分析」機能+「性別年齢分析」機能でカメラ1台につき、月額3,000円という価格設定。既存のカメラだけではおさえきれない場所などがある場合は、カメラを追加で設置する必要があるが、その際は1台3万円で「AWLカメラ」を提供する。

先行するAIカメラ関連ソリューションはカメラの新規設置が前提となっているのに対し、AWLのソリューションは既存の防犯カメラを転用することで、おおよそ1/10のコストで導入できる。ランニングコストも安価で大量に店舗を運営するチェーンストアをターゲットにしたサービスと言える。

「AWL BOX」が大型店舗やチェーンストア向けのものとすれば、小型店や店舗の一部エリアのみにAIカメラを設置したい企業向けのソリューションが「AWL Lite」である。これはAndroid向けの専用アプリをスマートフォン、タブレット、サイネージなどにインストールすることで、簡単にAI機能を利用できるというもの。

基本性能は「来店人数カウント」機能+「性別年齢分析」機能で、月3,000円/1インストール。こちらもオプションで空席検知、商品接触分析、広告最適化などのAI機能を付け加えられる。

AWL BOXは現在北海道を中心に展開するドラッグストアチェーン「サツドラ」10店舗で運用されており、サツドラ以外でも約20社がテスト導入中。正式リリースは2020年2月中旬を予定している。

サイバーエージェントとプラットフォーム共同開発に取り組む

AWLは2016年6月にエーアイ・トウキョウ・ラボ株式会社として創業され、2017年5月にサツドラホールディングスと資本提携。同8月よりAI TOKYO LABと商号変更。2019年2月にはさらにAWLと商号変更し、同9月サツドラHDより一部株式をマネジメントが買い取り、新経営体制へと移行した。

「独立性を向上させることで、あらゆるチェーンストアに向けたAIカメラソリューションの拡大を目指します」と代表取締役社長兼CEOの北出 宗治氏は語る。

2020年2月3日には総額8.1億円の資金調達を発表した。今後の事業加速に向けた財務基盤の構築を目的として、AWLが複数の事業会社を引受先とする総額4.6億の第三者割当増資を実施し、同時にみずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行他より総額3.5億円を融資で調達した。

引受先企業としてはアスカネット、共同通信デジタル、サイバーエージェント、凸版印刷など、バラエティに富んだ事業会社が並ぶ。たとえば共同通信デジタルとは防災用途の利用、アスカネットとは冠婚葬祭市場や映像分野での活用など、リテール分野以外での展開も見込んでいるという。

またサイバーエージェントとは、サッポロドラッグストアーを含めた三社間で業務提携契約を締結し、AIカメラを活用してオンラインとオフラインを融合した施策を実現・検証するためのプラットフォームの共同開発に取り組む。AIカメラを軸にした幅広い展開が期待される。

機会損失予防・ES向上に資する骨太の機能

同社の強みはサツドラという現場のニーズをくみ取り、磨かれてきたチェーンストア向けの製品開発・サービス設計だ。先行するAIカメラメーカーが提供するソリューションは、マーケティング寄りのものが多く、データ可視化をして、ユーザー自身にPDCAを回すことをすすめるものの、その後どうアクションすればいいのかわからずに暗礁に乗り上げてしまう小売業は少なくなかった。

一方のAWLは「AIで分析した結果を、できるだけ人手を介さずに現場にフィードバックし、やれば結果がでるソリューションを意識している」(北出氏)という。その特徴が感じられるのがアラート機能だ。たとえば店頭で接客が必要そうなお客を発見したら接客アラートを従業員に送り売上向上につなげる、不審者を発見したらアラートを発して、声掛けすることで不明ロスを未然に防ぐ…などなど、机上で人間が分析をして打ち手を考えなくても、結果が出るアクションまで一気通貫で提供するというのがAWLの目指すところだ。

マーケティングによる売上アップよりも、欠品アラート機能や、業務現場の負荷軽減、働きやすさの向上のための機能など、機会損失予防や、ES向上などに資する骨太の機能が充実しているのも他メーカーにはないチェーンストア向けの特徴といえるだろう。

一方で、現在はサツドラ経由で取得したお客の行動データをメーカーに販売もしているがこれも拡大していきたいという意向だ。「これまで商品がどう売れたかはID-POSのデータでしかわかりませんでした。売れるまでのプロセスはブラックボックスでしたが、動線、商品接触、定番・プロモいずれの棚から売れたのかなどをデータ化することができます」(北出氏)。メーカーだけでなく、広告代理店、決済事業者、コンサル会社なども、店舗の許可を取りつつ、匿名化したデータを販売していきたいと考えている。

同社によればAIカメラソリューションの市場は3つに分類できるという。防犯カメラのクラウド化を進める「VMS市場」、「リアル空間のAI化市場」、「AoE市場」だ。AoEとはAutomation Of Everythingの略で、リアル空間の可視化に加えて、ロボティクス、IoTなども連動し、人間を介在せずに業務が完結するソリューションで、Amazon GOのような無人レジ店もここに含まれる。AWLの現在のメインターゲットは「リアル空間のAI化市場」であるが、最終的にはAoE市場も目指していきたいと考えている。

「この先人手不足はますます進みます。人間のやるべき仕事はもっと高度化されなければなりません。単純作業を無くして、接客やクリエイティブなことに集中できた方がいい。店舗の価値や、人が働く意味を広げていきたいと考えています」と北出氏は語る。

実店舗小売業には「ファネル分析」の観点が欠けている

実店舗を運営する小売業におけるお客の購買行動をファネル分析する。第1弾は購買行動全体を俯瞰した上で、すべての基礎となる店前通過と店舗認知の購買行動のステップについて解説する。

ファネルのどの段階の施策が、購買行動に影響したか?

ファネルとは、日本語で「漏斗(ろうと・じょうご)」のこと。口の小さな容器に液体をそそぐのに使う、円錐形の道具である。ファネル分析とは、商品購入や会員登録など、ターゲットにしてほしいアクションに至るまでの過程で、どのような段階を踏み、どこでどれだけ離脱するかを確認するための分析手法のことである。

このファネル分析はECやアプリビジネスではよく用いられる方法だ。

ECサイトであれば、「お客が検索経由でトップページを見る」→「サイト内検索で商品一覧画面を見る」→「商品個別ページに行く」→「カゴに入れるボタンを押す」→「カゴページから決済を行う」という一連の流れの中で、どこでお客が離脱したのかを検討するのは当然のこととなっている。

しかし実店舗を運営する企業においては、このようにお客の購買行動の一連の流れを把握する観点がごっそり抜け落ちているのではないだろうか。

たとえば実店舗でお客が商品購入に至るまでには、

「店舗を認知する」→「入店する」→「商品を認知する」→「商品を手に取る」→「商品を確認する」→「カゴに入れる」→「決済する」

という一連の流れがある。購入した後工程であれば

「使用する」→「(商品・店が気に入れば)リピートする」、「口コミを書く」

という段階もあるだろう。

しかし、ファネルのどこの段階での施策が、実際の購買行動に影響を与えたかを精査しないことには、その成功事例をチェーン内で横展開することはできないはずだ。

本連載では、この先、実店舗にこのファネルを当てはめるとどうなるのかを段階ごとに解説したいと思う。

すべてのスタートとなるのは「店舗前通行人数」

まずお客に買物をしていただくためには、店舗を認知してもらわなければならない。「いつも使っている店だから」「折り込みチラシで知ったから」などの理由でいきなり「入店」からはじまるパターンもあるが、店舗の認知においては「店舗の前を通りかかったから」という理由が一番多いパターンとなる。

ここで鍵になる数値は「店舗前通行人数」つまり、店舗の前を通過する人数だ。そして、この「店舗前通行人数」は店舗従業員の努力でどうにかなるものではなく、出店している地域の人口動態や周辺状況、天気、刻一刻と変わる人の動きなどに大きな影響を受ける。

「今は1万2,000人/日の店舗前通行人数があるけれど、この地域は成長が見込めるから、3年後には1万5,000人/日になります。だから出店しましょう」と店舗開発部が出店を決断したものの、店舗前通行人数が見込み通りに増えず、それに伴い売上も伸びなかったために閉店するというのはよくある話だ。

店舗前通行人数を増やすためには、市街地、駅前、商店街、住宅街、どのような商圏においても、いかにいい立地を取るかにかかっている。

新規出店数や店舗の坪当たり賃料などを店舗開発部のKPIとする企業は多いが、この「店舗前通行人数」の予測に対する開店後の実績も開発部門の責任数値とすべきだろう。

出店時には商圏調査を行う。GISソフトを使って、国勢調査のデータや将来推計人口データなどを分析すれば、その立地にどれだけの人が住んでいるのか、将来的な人口はどれだけ増えるのか、減るのかがわかる。もちろん男女比や、年齢構成なども把握した上で、自店舗が出店するのに適している立地なのかどうか検討の必要があるのは当然だ。

また、最近は携帯のキャリアやカーナビメーカーなどが「人の移動」や「人の滞在」に関する匿名化データを提供するようになり、一部の企業では店舗開発に活用している。

店舗前通行人数はどのように調査するのだろうか。出店稟議前であれば人力で通行量調査を行う。しかしながら、開店後の測定を行っている小売業はまれである。

近年は、店前通行者数カウントと簡単なデモグラ(性別・年代)判断をするカメラ+AIソリューションの機能と価格がこなれてきた。導入して店前通過者数と入店者数を自動でカウントすることができれば、店前通過者数を店舗開発部の評価に、入店率(入店者数/店前通過者数)を店長の評価に使うことができるようになるだろう(入店率については次回以降で解説)。

なお、WEB部門でこの入店率にあたる重要なKPIが、CTR(Click Through Rate:広告やコンテンツが表示された回数に対し、どのくらいの割合でユーザーにクリックされたかを示す指標)である。

店舗認知のための看板、旗は掲示の位置や管理がポイント

店舗前を通過した人に入店してもらうためには、店舗の存在が認知されなければならない。

そのための最もベーシックな方法は、看板を目立たせることだ。当然、ターゲットとなるお客が車で来店するのか、徒歩なのかで看板の位置やサイズは変更しなければならない。ロードサイド立地の店舗であれば、車を運転していてもわかるような高い位置に大きな看板を設置するべきだし、住宅地や商店街立地の場合は、歩いている人が認知しやすい高さに看板を設置する。

ドラッグストアであれば自社のキャンペーンや、メーカーから支給された「旗」を店頭に掲示している店舗も多いだろう。確かに旗はアイキャッチとはなり通行人の目をひくが、店舗からのメッセージには変わりないので、出しっぱなしにしておくのではなく管理が必要だ。

無料でもらえるからといって特定メーカーの旗ばかりを立てている店舗や、ポイントキャンペーンの日以外にも、「ポイント〇倍デー」という旗を立てっぱなししている店舗が散見される。後者はお客からのクレームにもつながりかねないので注意したい。

最近は、スマートフォンのプッシュ通知という認知手段も登場している。たとえばアプリ上で許可をしていれば、ある店舗の半径500mに入った方に対して店舗からのお知らせを届ける、というような手法である。

近年スマートフォンを見ながら歩いている人は急増している。手元ばかり見て店舗に気づかないようなお客もこのような手段を使えば店舗に呼び込むことができるだろう。

折込チラシで「店前通過からはじまらない認知」をつくる

店前通過からはじまらない認知にも触れておこう。その代表格が新聞折込チラシだ。開店時に店舗がオープンしたことを周知したり、特売商品と価格を提示してお客を店舗に誘引する。新店オープン、リニューアル、そして閉店セールについては、集客も見込めるので必ずチラシを配布したほうがよい。

チラシ配布には効果がある立地とない立地がある。

地方のロードサイド店のなかには、駐車場の止めやすさなどを配慮してあえてメインストリートから一本裏手の道に出店するような企業がある。大通り沿いであれば店前通行客数は多いだろうし、看板効果などで自然に認知が得られるが、このような店舗はその効果は見込めないため、折込チラシで認知してもらうことの重要性がアップする。大通りを避けることで家賃は安くなるため、チラシ費用の捻出は十分可能であり、目玉品のアイテム数や頻度を増やすこともできる。

一方、都市部オフィス立地や駅周辺立地などはチラシの費用対効果が合わないとことが多い。そういった店舗の利用者は、居住者ではなく「そこを通過する人」が多いからだ。渋谷駅前に出店した店舗の周辺半径1kmのエリアに、居住者へ向けたチラシを配布しても効果は弱いだろう。高額な家賃を支払うことで、店舗の前を通過してもらう。こういう店舗は家賃が広告費のようなものだ。

コストをかけて撒いたチラシが、集客に効果を出しているのかどうかは、きちんと検証する余地があるだろう。

折込チラシの費用対効果の測定をきちんと行っている企業は多くはない。しかし、想定していた商圏と、実際の商圏の差を知り、チラシをまいても効果が無い場所などを把握するためには効果測定が必要だ。次回以降チラシを撒く場合に、チラシ配布エリア選定の精度を上げることにもつながる。

簡単な調査方法としては、お客がチラシを店頭に持ってきたら、住所や郵便番号を伺い、かわりに景品を差し上げるというものがある。(その際に会員カードの作成もおすすめしたい)。

新店オープンのチラシの効果測定は、普段のエリアに比べて広めに撒くので特に重要である。当然、チラシを見たけど実際には店頭に持ってこないお客や、特典があるから普段は買物をするエリアではないがわざわざ足を運ぶお客もいるので、精度という意味ではそれほど高くないが、あまりコストをかけずに商圏を把握するのにはよい方法である。無駄なチラシ配布を予防するためにもチラシの効果測定は定期的に行いたい。

このほか、テレビやラジオなどのマス広告、地域限定の媒体への広告なども、費用対効果が見合う地方はあるだろう。

また今後増える店舗前通過によらない認知としては検索による認知なども挙げられる。

引っ越したばかりの地域で、Google Mapを開いて「中央区 ドラッグストア」「杉並区 コンビニ」と検索して店を探すような消費者行動は増加している。また、インターネットで特定の商品を検索して、在庫がある店舗として表示された実店舗を訪問する…というような動線も今後は考慮する必要があるはずだ。

アットコスメでソンバーユを検索すると、取り扱いがある店舗が表示される。ここから店舗への認知を得るケースも今後は増えるだろう。

 

SDGs関連サービス提供で地域貢献するココカラファイン

流行語になる前から「おもてなし」という言葉を前面に掲げて営業してきたココカラファイン。最近では小商圏内でドラッグストア、調剤薬局、介護関連施設を連携させる「ヘルスケアネットワーク」の構築に注力している。地域貢献や社会的な意識の高い同社のSDGsに対する取り組みを取材した。(月刊マーチャンダイジング 2019年2月号より転載)

まずは役員向けにSDGs勉強会をスタート

「私は企業品質部で主に品質管理を担当していますが、同時に社内で年2回開催しているCSR委員会の事務局責任者も兼任しています。それもあって、2015年9月に国連サミットで採択されたときからSDGsが気になっていました。少なくともこの中のいくつかは弊社がCSR(※)活動として実践していることにつながるとおもっていました」

そう語るのは、ココカラファイン(神奈川県横浜市)の武隈健司氏。とはいえ、SDGsという言葉自体わかりにくいこともあり、急にSDGsを社内で進めようとしてもうまくいかないと考えた武隈氏は、年2回のCSR委員会の中でSDGsの勉強会を行うことにする。

「CSR委員会に出席するのは、社長、副社長、各販社の社長、社内の役員クラス。まずは役職者がSDGsについて認識を深めることから始め、徐々に全従業員へ浸透させていく目的で、CSR委員会でSDGsの勉強会を開始しました」

勉強会では、「そもそもSDGsとは何か」から、わかりやすく説明。また、なるべくCSR活動にからめてSDGsを解説することで、企業の発展に大事なことなのだという意識を持ってもらえるよう心掛けたという。

「それと、SDGsの一環として実際にどんなことをすればいいのかを、他社の取組み事例を紹介することで理解してもらったりしました」

そんななか、今年、日本チェーンドラッグストア協会において「SDGs推進委員会」が発足、委員長にココカラファイン代表取締役社長塚本厚志氏が就任することに。それが追い風になって、社内でもSDGsに力を入れていこうという機運が高まった。

※CSR:Corporate Social Responsibilityの略。企業の社会的責任。あらゆる利害関係者の要求に適切に対応し社会的責任を果たすこと、社会貢献すること。

17のゴールから自社事業につながる3つからのスタート

ココカラファインは「人々のココロとカラダの健康を追求し、地域社会に貢献する」という経営理念と、「おもてなし№1になる」というコーポレートスローガンに基づき、事業活動を推進してきた。だから、こうしたおもいで展開している事業活動自体でCSRを実現しているという自負がある。

「そうしたなか、SDGsが出てきて勉強会も回を重ねるうちに、どういうものかは理解してもらえてきた。ただ、17の目標に向かってすべてを同時にスタートさせるのは到底無理なことで、自分たちにできることから始めることが大事であると考えました。そこで弊社の事業活動の中で、この目標につながるものを3つに絞りました」

選んだ3つのゴールは「③すべての人に健康と福祉を(保健)」「⑧働きがいも経済成長も(成長・雇用)」「⑪住み続けられるまちづくりを(都市)」。

とくに「③すべての人に健康と福祉を(保健)」はまさにドラッグストアが強みとしてとらえることができる点だ。ココカラファインは、介護施設事業も展開しているので福祉の面でもカバーできている。

「また、これは③だけでなく、「⑧働きがいも経済成長も(成長・雇用)」にも当てはまる内容ですが、全従業員とその家族が生き生きと働き続けられる環境づくりのための取組みの一環として『ココカラヘルスキャンペーン』を進めています。全従業員が健康に関する専門知識を深めるとともに、疾病予防や早期治療にさまざまな形で投資する取組みであり、同時にココカラファインを利用されるお客さま・患者さまの健康に関する提案力を強化する施策です」

この取組みは国にも評価され、今年2月、経済産業省と日本健康会議が共同で選出する「健康経営優良法人2019大規模法人部門(ホワイト500)」に認定されている。

弱点克服も見据えた自社独自の3つの主軸

自社の事業活動をSDGsにひも付けて考える作業のメリットは、すでに実践していることを明確にできると同時に、できていないことも見えてくることだ。武隈氏は、「⑪住み続けられるまちづくり」の面で、健康推進については地域で行う健康イベントなどを通して貢献できているものの、環境保全という観点からの貢献がまだ足りてないのではないかと気付かされたという。

「それと③と⑧に関しても、できている部分とできていないことがあったので、改めて自社が取り組むべきSDGs的課題として独自に3つの柱を設定しました」(武隈氏)

その3つは以下のとおり。

 ◇人権・労働慣行
 ◇環境
 ◇地域社会の貢献

人権・労働慣行は③、⑧、⑪いずれにも関わる項目。多種多様な雇用形態の全従業員が、最大限活躍できるよう支援し、従業員にとって魅力的な職場を目指すというもの。具体的にはCSR委員会の下部組織「安全衛生部会」のなかで、働き方、有給休暇などについて議論した。

「従業員の意見、要望、不満を受け付けるES相談窓口を設置しました。ちなみに2018年度は167件の相談を受け付け、対応しました。なお、ES相談窓口には相談しにくいという人のため、完全に第三者企業に委託したリスクホットラインも設置しています」

LED照明の積極導入などで環境問題にも取り組む

環境は「⑪住み続けられるまちづくりを(都市)」だけでなく、「⑫つくる責任、つかう責任(リサイクル)」、「⑬気候変動対策」もからんでくる課題。地球環境を保全しながら事業活動を進めていくため、LED照明の積極的導入など環境負荷低減とともに、事業を通して環境保全に取り組んでいくことを目標にしている。

「2019年から環境省の取組みRe-Styleのパートナー企業となり、循環型社会の構築に向け、3R(Reduce、Reuse、Recycle)に取り組んでいます。ドラッグストアでは弊社がはじめてだとおもいます」レジ袋も2020年から経産省が進めている有料化に向けて準備を進めているところだ。

「レジ袋という備品が有料化によって商品になるわけです。ただ、有料にすることが目的ではなく、あくまで地球環境保護のため、プラスチックを減らすためだという啓発をお客さまにどうやって伝えるかも課題のひとつです」

地域社会の貢献も、③、⑧、⑪のいずれにも関わってくる大切な目標。その一環として毎年、東京と大阪で実施しているのが「ココロ、カラダ、ゲンキ。フェスタ」。2019年は、東京は約3万人、大阪でも1万4,000人もの来場者数があったほどの盛況ぶりだ。

「今年は子供たちに薬剤師体験をしてもらったほか、3Rブースをつくってエコバッグを配布したり、薬剤師が健康相談を行ったり。小さなイベントであれば、各店ベースでたくさん実施しています」

また、日々の店でのお客さま対応も地域貢献にダイレクトにつながる大事な要素。

「さまざまなお客さまが買物しやすい環境づくりを進めています。そのひとつが全店に設置したウオーターサーバー。お買い求めいただいたお薬をその場で飲めるようになっています。2016年からは環境省と官民一体の『熱中症予防声かけプロジェクト』に参加し、水分補給をご案内しています」

なお、同社では2030年までに目標を達成するために、まず5年後の2024年で一区切りして、次の5年で何ができるかを考えていきたいという。

「今後は、弊社の取組みを随時、紹介しながら、業界内にSDGsを浸透させていければと考えています」

<取材協力>
ココカラファイン管理本部 企業品質部
品質管理担当 統括課長
武隈 健司氏

商品の機能性を理解してもらえるような台所消耗売場を作ろう

食器洗い用のスポンジや食品にかぶせるラップ、ごみ袋など「台所用消耗品」は、洗剤と並んでキッチン関連カテゴリーの中では市場規模の大きな領域である。また、機能性の高い商品も多く情報発信が重要となる。このカテゴリーの利益を最大化するためには何が大切か、日用品の大手中間流通業ジェムコに取材した。(月刊マーチャンダイジング2020年1月号より編集の上転載)

「ラップ・ホイル」「ポリ袋」は台所消耗品の2大カテゴリー

家庭日用品の中間流通業ジェムコ(本社/群馬県佐波郡、代表取締役黒田克己氏)では、調理器具から食器用洗剤、スポンジなどキッチン回りの日用品を幅広く扱っている。今回はその中でも同社が「台所消耗品」と位置付けるカテゴリーについて取材した(台所用洗剤を除く)。

図表1は台所消耗品を構成するカテゴリーと市場規模および有力小売業が各カテゴリーにどの程度のスペースを割いているかを示している。この中では「ラップ・ホイル」カテゴリーの市場規模がもっとも大きい。ラップ・ホイルカテゴリーにはラップ、アルミホイルに加え、いずれも構成比はひと桁だがジッパーバッグ、クッキングはシートなどが含まれる。

食品保存やレンジアップの際に使われるラップはこのカテゴリーの中で約60%を占める主要アイテムで、素材別に「ポリ塩化ビニリデン」(84.4%)、「塩化ビニル樹脂」(その他と合わせ6.1%)、「ポリエチレン」(9.5%)の3つに分類できる(カッコ内はラップ内金額構成比/2018年インテージSRI)。

ポリ塩化ビニリデンは分子間の隙間が小さくバリア性が高いので、ニオイ、湿気、空気を通しにくく耐熱性も高い。サランラップやクレラップなどシェアの高い有力ブランドがこの素材を使っている。コストがかかるので他素材の商品と比べると単価は高くなる。

塩化ビニル樹脂は伸縮性と耐久性が高いのが特徴。よく伸びて丈夫なので食品スーパーで生鮮食品をラップしたり、麺類の出前で器にかけたり業務用として使われることが多い。

ポリエチレンはもっとも安価で酸素を通しやすい特性がある。耐熱性は弱いので電子レンジには適さないという難点もあるが、酸素を通しやすいので野菜や果物など鮮度を保つために酸素の供給が必要な食材には向いている。コストが低いのでプライベートブランド(PB)商品の素材に使われることが多い。

2番目の市場規模を持つ「ポリ袋」とはごみ袋や流しに置く水切り、保存用のポリ袋を指す。ごみ袋は一般的なごみ袋のほかに自治体など行政が指定したものがあり、その金額は図表1には入っていない。別データでは行政指定袋は約172億円という数値があり、相当な額になる。自治体によって異なるが行政指定や認定の製造、流通経路があるため図表からはあえて外してある。

種類豊富なスポンジ、ニーズ減のアルミ成型品

「たわし・布巾」カテゴリーの主要アイテムは食器洗い用のスポンジである。スポンジには持ちやすく力の入れやすいハードタイプ、折り曲げて食器の縁など洗えるソフトタイプ、表面にネットを付け汚れをかき落とすネットタイプ、近年使用者が増えているメラミンタイプ、昔ながらのヤシの実の繊維を使ったパームタイプなどがある。

金額構成比ではハード、ソフト、ネットで約6割を占める(2018年インテージSRI)。その他主要なアイテムでは、メラミン8.4%(同)、パーム3.4%(同)、PB10.8%(同)となる。

「家庭用炊事手袋」には「薄手」「中厚手」「厚手」、デザインなどを工夫した「付加価値」といったサブカテゴリーがある。薄手と中厚手で5割以上の構成比となる。

「アルミ成型品」とは、コンロの周囲にアルミ製のボードを立てて油はねを防ぐ商品などである。レンジガードとも呼ばれる。油がはねやすい天ぷらや揚げ物のときに使うことが多く、揚げ物は近年スーパーの総菜を買う人が増えたこともあり、近年は売場を縮小する小売も多い。

「油処理」は揚げ物や天ぷら用の油を固める素材や油汚れを拭くシート材などで構成される。

情報発信用にフリー棚の設置を提案

台所用消耗品に属するアイテムは、前段で説明したように、機能や特徴によっていくつかに分類される。それぞれの機能は専門性が高く、買物客はそれを理解していないことが多い。

「台所用消耗品は特徴を知ったうえで実際に触ってみないと違いがわからない商品が多いです。ラップにしても3つの素材の違いやそれぞれが何に適しているかを知っているお客さまは少ないでしょう。炊事用手袋の厚さは触って確かめないと実際の使用感がつかめません。こういった商品は売場にテスターを置くことも必要だとおもいます。弊社が提案しているのは、定番棚の中に1本、商品販売を目的としないフリースペースを置いて商品に触って確かめてもらう、あるいは情報発信やテスティングにより新商品のプロモーションをすることです」(鈴木伸明氏)

厳しい競争の中で棚効率を下げるようなリスクを冒したくないというのが小売業の本音だろう。しかし、台所消耗品は機能性の高い商品が多いので、情報発信することで、高機能高単価商品を納得して購入するお客が増え、カテゴリーの収益性が向上する可能性が高まる。

棚1本分のフリースペースを取る余裕がなければ、高機能で高単価の商品にテスターや説明ボードを付けるなどの工夫も有効ではないか。

ラップに関していえば、ポリエチレン製の低価格PB商品を購入して、電子レンジで加熱してラップが溶けたなど不満を感じる人は多い。素材による適切な用途を知らなければ、ラップだけでなくPB全体や企業への不満、不信にもつながるので、情報発信による適切な商品理解は重要である。

交差比率を棚割の基準にする

ジェムコでは棚割をつくるときに基準となる指標が必要だと考え、交差比
率(※)をその指標にすることを提案している。図表2はジェムコの考える売場の設計図だ。横軸に売場スペースを、縦軸に市場規模を置いて、4象限で考えている。各カテゴリーの基準となる交差比率を最初に設定し、棚割を決めることでその交差比率に近づけるような売り方をする。

※交叉比率:儲けを表す指標で、〈粗利益率×商品回転率(年)〉で求められる。粗利益率30%の商品が年7回転すれば交差比率は210%。200%以上が合格点とされる。

たとえば、カテゴリーDは、市場規模が大きくて売場スペースを広く取っているので高い商品回転率が見込める。最初に交差比率を設定していれば大体の粗利益率や売価も決まる。交差比率150に設定しているということは、利益よりは高回転で集客を狙っており、下段で大陳する売り方が考えられる。

このようにジェムコでは交差比率を決めることで効率的で全体最適につながる売り方、売場づくりを設計することを提案している。その他、同社が設計図で重視する点は「商圏に合わせた品揃え、組合せ」「都市型か郊外型か」「競合店および競合店の業態」「強化カテゴリー、見切りカテゴリーの見極め」などである。

競合店の業態に関しては、地方で店舗が少なく同一商圏内でドラッグストア(DgS)、ホームセンター(HC)が競合する場合、DgSがHCのシェアを取るためには台所関連品の品揃えを厚くしなければいけない。

たとえば、アルミ成型品は商品が大きく売場スペースをとるうえ、家庭内で揚げ物の調理、あるいは調理そのものが減少してニーズは低下傾向にある。とくに「食」を強化しているスーパーでは家庭用品の売場縮小に伴い、アルミ成型品をまったく扱わない企業も最近見受けられる。

アルミ成型品のチャネル構成比の半分はHCだが、自店がDgSで競合する業態がスーパーであれば、限られた売場であってもあえてアルミ成型品の最低限の品揃えをすることで日用品を網羅する店舗イメージを与えられる。また、大型商品の陳列がスペース的に難しければ、写真などを掲示して客注を受けられる仕組みを採用することでお客の利便性は上がる。

これはアルミ成型品だけでなく、ほかのカテゴリーにもいえること。商圏内のライフスタイル、競合との戦い方を考え品揃えの設計図をつくる必要がある。

異なるメーカーの商品を組み合わせて併買促進

ジェムコで現在考えているのは、「A社のアの商品」と「B社のイの商品」とを組み合わせて使ってもらうことで利便性が上がり併買を生み出す売り方だ。

たとえば、浸け置き洗いを推奨する台所用洗剤と水をためるボウルを併買する。手に付くとニオイが気になる塩素系漂白剤と炊事手袋を同じ売場で展開するなど。

台所用消耗品は機能性が高く説明を要する商品が多い。単品の機能性を説明し、理解・納得して購入してもらうことに加え、組み合わせることで利便性が上がる商品を見つけ出し、適切な情報を付けて併買を促せばカテゴリーの収益性は上がる。

発信すべき情報を探して販促物をつくる。併買促進のアイデアを考えるなどのプロセスではカテゴリーを横断的に見るベンダーの存在は貴重だ。

多くの小売業やメーカーと取引があり、豊富な情報を蓄積したベンダーをカテゴリーコンサルタントとして活用することで、台所用消耗品の販売効率も上がっていくだろう。

DgS顧客満足度調査2019、企業別順位はコスモスが2連覇

月刊マーチャンダイジング2019年12月号では38企業、500店舗を対象に「顧客満足度調査」を行った。この記事では前回に引き続き本調査の結果のうち、企業別順位、店舗別順位の一部をご紹介する。(月刊マーチャンダイジング2019年2月号より編集の上転載)

大躍進したザグザグ。トモズ、キリン堂、ハックドラッグも伸長

図表は今回の調査の企業別順位である。1位はコスモスで昨年に続き2連覇を果たした。しかし、前回の平均点と比較するとマイナス24.66で大きく下げている。2位のザグザグとも僅差だ。ザグザグは前回下から2番目の結果に終わったが今回躍進している。コスモスに1.36ポイント差と肉薄している。

トップ10企業を見るとザグザグのほかにも4位トモズ(前回22位)、6位キリン堂(前回20位)、7位ハックドラッグ(前回27位)は前回下位グループからの躍進となった。前回トップ10から大きく圏外へと落ちた企業も数社ある。

コスモス、杏林堂、クリエイトSDは上位の常連組となった。いずれも商品回転率の高い食品の構成比が高い企業であり、その分売場の維持管理は労力を要するが、それができている。HBC(ヘルス&ビューティケア)の売り方、接客の評価も高い。

次年度以降経営統合が予定されているマツモトキヨシとココカラファインは前者が23位、後者が31位といずれも芳しくない。都市型では品揃えや接客など他社と一線を画す魅力がある両社だが、店舗により評価が大きく異なり標準化されていないことが主な原因だ。

サッポロドラッグストアーなどローカルチェーンが健闘

図表2は店舗別のトップ20である(月刊マーチャンダイジング2019年12月号にはトップ50店舗を掲載)。

1位にはサッポロドラッグストアー清田2条店(札幌市)が入っている。270点満点で263.57点、100点満点に換算すると97.6点の好成績を挙げた。

2位はコスモスの福岡県小郡市にある店舗が入った。総合満足度の記述は「レジ対応がとにかく気持ちいい」。創意工夫では「店員さんたちがよくお客さまを見ていて、すぐに対応してくれる」とある。価格は食品スーパーよりも食品が安いと書かれている。

(1位と2位の店舗の取材記事は月刊マーチャンダイジング2020年2月号に掲載されます)

3位は千葉県を本拠地に茨城、埼玉、東京に店舗展開するヤックスドラッグ 玉造店(茨城県行方市)がランクイン。総合満足度10の理由には「清掃も行き届いており、照明も明るく品揃えも豊富なので、勧めたいとおもいました。レジ対応や接客も感じがいいです」と書かれている。

4位クリエイト エス・ディーの店舗は競合店よりも価格が安いこと、質問への対応が迅速で丁寧なことなどが評価されている。同社は、今後競争が熾烈になるとおもわれる関東を主要な商勢圏とするだけにこうした高評価店を増やしたいところだ。

同じく激戦区に拠点を置くV・ドラッグの岐阜県内の店舗が6位に入っている。ポイントの使いやすさ、品揃え、価格が高評価の理由。

トップ50に複数店入っている企業は、ウエルシア6店舗、コスモスが5店舗、サツドラ、キリン堂が各4店舗、ザグザグ、杏林堂、クスリのアオキが各3店舗、クリエイト エスディー、V・ドラッグが各2店舗などとなっている。

「お客の注目ポイント」を自由記述から読み取る

本調査の調査員から寄せられた、NPS高評価と低評価の店舗それぞれに対する自由記述を紹介する。

NPS高評価店舗へのコメント(カッコ内は店舗名とNPS)

お店は隅々まで掃除が行き届いており、とてもきれいでした。とにかく広い店内で、カートを押しながらゆったりと買物を楽しむことができました。(カワチ薬品 つくば桜店/10)

一番満足をした点は商品の豊富さとスタッフの好感の持てる対応です。野菜やお肉などから日用品やお薬まで、ほとんどの生活用品がすべて揃うのが魅力的でした。また、登録販売者の方やレジや品出しをするスタッフさんは、常に笑顔で対応してくださる方ばかりで大変気持ちのよいものでした。 (クスリのアオキ 成岩店/9)

セルフでも商品を選びやすいようPOP等での情報が多く、聞きたいことがあるときには、すぐに専門の詳しいスタッフさんに聞くことができる環境になっていたからです。(ザグザグ 中庄店/10)

店舗は、明るく広々としていて、品揃えよく、店員さんは、お客さまとすれ違うたびに、あいさつをされていて、質問したことにも親身になって聞いてくれたので、とてもよかったです。(サツドラ 恵庭黄金店/10)

お化粧品のブースとお薬のブースの2ヵ所でスタッフさんにいろいろ質問してみましたが、お二人ともとても親身になっておしえてくださり、とくにお薬の所では「喉が痛いときには飲み薬だけでなくトローチやうがいなども効果的ですよ。そういう症状があるときには乾燥にも注意が必要ですので、マスクをして乾燥予防にも努めてみてくださいね。お大事になさってください」と笑顔で優しくいたわりの声掛けをしていただきました。とてもうれしかったです。レジのスタッフさんも丁寧な対応で感じがよく、病んでいるときなどにはこちらのお店で温かい接客をしていただくとうれしいなとおもいました。 (ドラッグストアmac 富久店/10)

薬剤師が相談にのってくれて専門的な知識をもとにせき止めのシロップのいい点、悪い点を挙げたりして親身に話してくれた。レジに行った際、作業中でだれもいなかったが、すぐに来て待たせなかった。買ったものを手早く袋に入れて渡してくれた。化粧品を見ているときは声掛けしないでくれる方がいい。聞いたら親身に対応してくれた。相談テーブルでは化粧品の試供品付きのラッピング中だったので一時的に整理されていなかったが、通常はきれいになっている。(V・ドラッグ 富山呉羽店/10)

NPS低評価店舗へのコメント(カッコ内はNPS)

全体的に整理整頓ができておらず、あいさつしない店員、しても声が小さくて聞こえない。あまり感じがよくなかった。(3)

全体的に品物が高すぎます。他店では100円以下の食品が138円で売っていたり、そういう商品が多いため。(3)

品揃えは豊富でよかったのですが、価格がとくに安くはなかったからです。やはり価格は一番重視します。レジや売場でのスタッフさんの対応も普通でした。明るいお店ではあったものの、清掃が行き届いているという印象はなく、POPがはがれかけていたり、商品パンフレットが倒れていたりと残念な部分も見受けられました。これといった突出した魅力が感じられなかったため、こちらの評価にさせていただきました。(3)

カテゴリーごとのサインがなく、どこに何があるのかがわかりにくかったです。化粧品のテスターはあったものの、ティッシュやスポンジなどがないのでテスターを使用しにくく感じました。スタッフに風邪薬について質問した際には、「一般販売員」の名札を付けたスタッフが対応し、症状の確認はあったものの使用者の年齢や既往症の確認などは行われず、「喉とかせきとか、箱に書いてありますし、風邪薬は総合的に効くので大丈夫です」といわれ、具体的な商品提案はありませんでした。
化粧品についても、化粧品売場担当スタッフが対応してくれたものの、とくに肌悩みなどの聞き出しはなく「値段とかブランドよりも自分の肌に合っているものがいいんですけど…」といわれて、具体的な商品の提案や買いたくなるような説明などはありませんでした。(3)