日本国内の高血圧をめぐる状況
患者数は全人口の約3分の1にあたる4300万人と、国民病とも称される高血圧。日本人の4人に1人は脳や心臓の血管トラブルで死亡しており、突然死の原因の約8割は脳や心臓の血管トラブルによるものといわれている。
高血圧治療ガイドラインによると、高血圧の基準値は診察室血圧が140/90mmHg、家庭血圧は135/85mmHg。高血圧者は、一定期間生活習慣の修正を積極的に行い、その効果が充分でなければ降圧薬治療を行うことが推奨されている。
近年、海外では高血圧の基準値を下げる傾向にある。アメリカでは上の数値を130 mmHgに規定されており、そうなると日本の人口の半数以上が高血圧に該当することになる。
高血圧の通院状況については約4300万人の患者の内、27%にあたる約1200万人が服薬による血圧コントロールができているが、全体の約半数は未通院で適切な治療を受けておらず、治療中の患者でも29%は適切なコントロールができていない。今後、降圧達成率を向上させるためには、患者の行動変容支援と共に、パーソナライズされた診断や治療が必要となってくるだろう。
また健康診断等の測定で正常値を示す6000万人のうち、10~15%が仮面高血圧の可能性がある。仮面高血圧は持続性高血圧の患者と同程度のイベント発症リスクがあり、正常血圧の人の約2倍のリスクを抱えている。高血圧を予防するには、規則正しい生活やバランスのよい食事、適度な運動と共に、家庭での定期的な血圧測定も重要となる。
国内の血圧計市場環境
家庭用血圧計の購買チャネルのメインは家電量販店とドラッグストアだ。2019年度の家庭用血圧計の市場は家電量販店が前年比98%、ドラッグストアでは同103%。家電量販店とドラッグストア計で120億円規模のマーケットであり、年々微増傾向にある。
近年はネット通販も伸長しており、特に新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛の影響から、2020年4月以降は家電量販店での購入割合が下がり、身近にあるドラッグストアやネット通販の利用が大幅に伸びている。
ドラッグストアにおける血圧計のメイン購買層は60・70代であり、男女比で見るとドラッグストアの業態の特性もあって女性が大半を占めている。
前述したように高血圧の未通院は約2000万人にも及び、早ければ30代半ばごろから症状が現れることがあるため早い段階での血圧管理が重要となる。
現状、30・40代の高血圧患者は血圧管理に対し「自分ゴト」という認識が低く、特に未通院の場合、サプリメントや特定保健用食品といった健康食品等に頼る傾向にある。40・50代の通院患者についても自宅で血圧を測る習慣のない人も多く、こういった比較的若い世代の高血圧患者に向け血圧計を訴求することが、同カテゴリーの課題となっている。
血圧計のタイプと購入者の傾向
家庭用の血圧計は「上腕式」と「手首式」に大きく分かれる。「上腕式」は動脈の血圧を正確に測定でき、病院で測定するときと同じ使用感である点がメリットとなるが、機器のサイズが大きいため場所を取るというデメリットがある。一方「手首式」は小型で軽く、携帯性に優れるが、測定姿勢による誤差が生じやすい。
オムロン ヘルスケアの調査によると、家庭用の血圧計マーケットは「上腕式」が約7割と10年前と比較し3割以上伸びている。高血圧治療ガイドラインでは「上腕式」タイプの血圧計で計測することを推奨しており、このことが同タイプの伸長につながっていると考えられる。購入金額を見ると10年前と比較し8000円以上の割合が増え、購入金額も微増傾向にある。
オムロン ヘルスケアの血圧計は、腕帯タイプの上腕式血圧計のほか、全自動タイプ(腕を通すタイプ)の上腕式血圧計、手軽で使いやすい手首式血圧計、最新鋭のウェアラブル血圧計と幅広いラインナップを持つ。
同社の血圧計の特徴は、独自の血圧測定技術「インテリセンス/Intellisense®」をはじめ、巻きやすさにこだわった使いやすい腕帯にある。さらに世界110か国以上で配信しているスマートフォン用の健康管理アプリ「オムロン コネクト」と対応する血圧計を連動することで、「かんたん血圧日記」といったサービスも利用可能だ。「オムロン コネクト」の利用者は従来の血圧計使用者と比較すると40・50代の利用者が多くを占めており、新たな客層の取り込みに成功していることが分かる。
血圧計の売場づくりのヒント
血圧計のマーケットは気温が下がり血圧が上がりやすくなる冬場に加え、健康診断の直後や父の日・母の日、敬老の日といった時期にも数字が跳ねあがる。消費者の購買行動を見ると、新規ユーザーは買い替えのユーザーに比べて手軽な「手首式」の構成比が高く、平均の購入金額も低い傾向にあることが分かっている。
ドラッグストアでの血圧計の取り扱いについては、頻繁に売れる商品ではないことから長年にわたり棚割りが変わっておらず、動きも鈍かった。しかし、前述したように高血圧に関する潜在ニーズは高いことから、使い勝手や機能、価格によって商品を選べるよう上腕式、手首式ともにラインナップを増やし、品揃えや売場づくりをブラッシュアップする必要がある。
血圧計は健康機器として、売場の奥まった位置に陳列されていることが多い。しかし、売上を拡大するためには、来店客に血圧に対する意識をもっと高めてもらう必要がある。
たとえば調剤部門で高血圧に関するリーフレットや血圧計のチラシを薬剤師の手で配布するといった取り組みは、患者に対し気付きを与えやすい。また血圧管理をテーマに、血圧や脂肪・糖分に配慮したトクホ飲料、健康食品等と一緒に血圧計を陳列し、ボード等を使ってコーナー化することも血圧計を目にする機会を増やすひとつの施策といえる。
とあるチェーンのID-POS分析によると血圧計購入者は購入後も血圧に関する商品を同じ店舗で継続購買する傾向にあり、カウンセリングによる受診勧奨から血圧計の販売につなげることで、その後ロイヤルカスタマー化する可能性が高まる。
血圧の管理はドラッグストアが推し進めるセルフメディケーションの柱のひとつだ。ドラッグストアはヘルスケア関連の豊富な品揃えに加え、薬剤師・管理栄養士といった専門人材、来店頻度の高さなどから、家電量販店に比べても優位性を持つ。今後は血圧計をフックにカウンセリングや売場づくりを強化することで、優良顧客の醸成につなげていきたいところだ。
協力:オムロン ヘルスケア(株)