福岡県を中心にドラッグストア(DgS)・調剤薬局他を合計160店舗展開する新生堂薬局。2020年4月に開催予定だった大型イベントを、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からオンライン化。2020年7月1日から「FUKUOKAオンラインハッピーフェスタ」としてスタートした。その決断に至る経緯と実際の手ごたえを社長の水田怜さんに聞いた。
住みやすい街上位でも健康意識は低い福岡
福岡県を中心に店舗展開する新生堂薬局は、地域の健康の啓発のためこれまで2つの大きなイベントを実施していた。
一つが熊本で開催している子育て中の家族を応援するイベント「赤ちゃんフェスタ」。2019年5月には第8回を数え、20代~30代の子育て中の家族が約3000名参加している。
もう一つのイベントが「健康すこやかウォーク」で、こちらは福岡の市街地を会場にしたウォーキングイベント。10キロ、5キロのコースのウォーキング大会に2,000名ほどが参加し、楽しみながら健脚を競う。
新生堂薬局は、これら2つのイベントを合わせた「FUKUOKAハッピーフェスタ2020」を2020年4月29日に福岡国際センターで開催する予定だった。この狙いについて、同社代表取締社長兼CEO兼CHOの水田怜さんはこう語る。
「福岡は住みやすい街として常に上位にあげられる街で、人口も増加傾向です。一方、健康という側面から見てみると、一人当たり国民医療費はワースト11位(平成27年度、厚労省発表資料より)、検診の受診率も低く、男性の健康寿命も全国でワースト7位となっています。行政の方に伺うと、そもそも『運動する、検診を受診する、食事に気をつける』という基本中の基本ができておらず、そのきっかけもないということがわかりました。そこで、健康について啓発のきっかけとなるイベントを開催しようということになったのです」。
コロナ禍でリアルイベントを中止、オンライン化を決定
ところが、2020年年初から徐々に新型コロナウイルス感染拡大の傾向が見られ、大規模イベントの開催が全国的に懸念されるようになる。本当に大規模イベントが開催できるのか…、実行委員会は判断を迫られた。
「ただ、実行委員会のメンバーには、開催できようができまいが、最後まで完璧に準備は進めようと言っていました」(水田氏)中途半端に終わらせるのではなく、完璧に仕上げた状態で来年に持ち越した方が、先につなげていきやすいとの考えだった。
そして3月26日、実行委員長である水田氏は「感染拡大防止の観点からFUKUOKAハッピーフェスタ2020は中止する」と決定。しかし、ここまで準備をしていた実行委員のメンバーからは「それでもやりたい」という意向がひしひしと感じられた。
「弊社のイベントは、一部は外部のイベント運営会社の力も借りつつも、基本的には代理店などを入れず全部自前で運営しています」。そこまで頑張ってきた実行委員の「イベントを実施したい」という前向きな気持ちはとてもよくわかる。しかし感染拡大予防の観点から会場に大勢の参加者を集めてのイベント開催は避けなければならない。
そこでたどり着いたのが「健康について考えるきっかけを与えるだけであれば、オンラインでもできるのではないだろうか?」というアイデアだ。中止を決定したその日に、実行委員会全員一致でオンラインイベントに切り替えると決定。その後2時間かけて概要を練り、約3か月の準備期間で「FUKUOKAオンラインハッピーフェスタ」を開催することとなった。
実行委員会は約14名。販促を担当する営業戦略部はもちろん、本部の商品部バイヤー、運営部マネジャー、店舗の現場で働く薬剤師・管理栄養士・ビューティスタッフ・健康運動指導士なども含めた横断的なプロジェクトだ。本来の業務をこなしつつ、今回一丸となってFUKUOKAオンラインハッピーフェスタ開催への準備に取り組むこととなった。
動画とクイズでイベントを構成、課題は集客
こうして7月1日にスタートした「FUKUOKAオンラインハッピーフェスタ」。コンテンツの中心は健康に関する動画だ。フェスタ会場入り口のURLをクリックすると、「薬と健康ゾーン」「栄養と運動ゾーン」「美容ゾーン」などがあり、コーナーごとにメーカーによる商品解説の動画を掲載。動画を見た後に、関連したクイズに回答すると、後日正解者の中から抽選で景品が当たる。
また「スペシャルトーク」ゾーンには、福岡ソフトバンクホークスOBの馬場孝浩さん、攝津正さんによるトーク動画や、7人制女性ラグビーチーム「ナナイロプリズム福岡」のスペシャルトーク動画などのコンテンツも掲載。
「動画で体験!」ゾーンには、「調剤薬局の最新ロボットを見てみよう」「ドラッグストアの商品で、巨大スライムを作ろう」など、子供もたのしめるような内容の動画が掲載されている。
集客は店舗レジでのお客に対するチラシ配布、店頭のデジタルサイネージでの紹介映像投影、新生堂アプリやLINE公式アカウント、facebook、twitter、Instagramなど5つのSNSアカウントによる情報発信などで実施。
いざ7月1日を迎えたあとに、オンラインイベント開催の感触について水田氏に伺うと「とても難しい」と率直な感想が返ってきた。動画の再生回数が思っていたほど伸びておらず、協賛企業のためにも今後開催期間中にてこ入れをしていきたい考えだ。
「新しいことにチャレンジしようとする企業文化が新生堂の強み」
しかし水田氏は現状を前向きにとらえる。
「新しいことにチャレンジしようという企業文化は弊社の強みです。今回も新しいマーケティング手法への挑戦として非常に勉強になっています。もしもうまくいかなかったとしても、うまくいくまでずっとやり方を変えてやっていけば成功になります。
赤ちゃんフェスタは、8回目となる昨年こそ3,000名規模を集客する大規模なイベントに成長しましたが、スタート当初は参加者50名からはじまりました。2回目が500名、3回目は1,000名です。いきなり3,000人なんて集まりません。最初から簡単にうまくいくものではないんです。
FUKUOKAオンラインハッピーフェスタも、8月31日まで閲覧者数が増えるように工夫をしていきたいですし、来年以降もこのイベントを毎年開催してきたいと考えています」
来年もしリアルの場でイベントが開催できるようになっていれば、事前にオンラインハッピーフェスタを開催し、オンラインで商品について知ってもらった上で、イベントの実会場では商品に触れてもらうというような展開も可能だろう。
状況が許せば、2021年にはオンライン・オフライン両方のイベントを開催し、お客様にあらゆる方向から健康に対するきっかけを与え続けていきたいと水田氏は語る。
新生堂薬局では、今回メーカーから提供された動画を、店舗従業員が商品理解を深めるために活用したり、また店舗のPOPに動画へのリンクが埋め込まれたQRコードを添付して、POPから動画への動線をひくというようなことも実験していくとのこと
昨今「OMO」(オンライン・マージズ・ウィズ・オフライン)という言葉を耳にする機会が増えている。オンラインとオフラインの境界が無くなっていくという意味だが、このFUKUOKAオンラインハッピーフェスタというイベントは、新生堂にとってOMOのはじめの一歩と位置付けられるのかもしれない。
何事もはじまりはそう簡単にはいかないけれど、まずは挑戦してみなければ前には進まない。中規模のドラッグストアチェーンだからこそ、機動力が高く新しいことに挑戦できる。そんなことを考えさせられる取り組みだ。