激的に変化する環境で生き残るために

メーカー営業が競合優位に立つ最終解はトレードマーケティング強化だ

国内メーカーが今後どう生き残りを果たすかについては、これまでも度々議論がされてきました。さらに昨今ではコロナ禍によって競争環境が激的に変化し、競合優位に立つためにどのような施策を打つべきなのか各社意見を戦わせているのではないでしょうか?本稿では、外資日用品メーカーで大幅なシェア獲得に成功した実績を持つ筆者が、トレードマーケティング機能強化による競合優位性の獲得について解説します。(談:ニュー・フォーマット研究所 副社長 村瀬一弘/まとめ:編集部)

  • Facebook
  • Twitter
  • Line
  • Hatena

日用品メーカーが置かれている状況

以下にメーカーが今置かれている状況について、筆者の観点から5つのポイントをまとめました。

1.度重なる流通構造の大きな変化にさらされ、小売業とのパワーゲームに疲弊している

小売業は統合され、上位集中化が進んでいます。また、卸売業も同様に巨大化しています。メーカーの小売業に対する販売促進費は増加する一方で、価格競争は泥沼化するばかりです。終わりの無いのないパワーゲームから抜け出せないメーカーが多い状況といえます。

2.プライベートブランド(PB)、ストアブランド(SB)の成長にNBは存在意義を問われている

大手小売業各社は、他チェーンと差別化をはかるため、PBやSBの導入に積極的です。NBよりも自社のPB、SBを優先的に販売している企業も増えてきました。そのような小売業に対し、どう存在感を出していくのか、メーカー各社は手探りで解を探しています。

3.ITの進展に伴う買物行動の変化に必死で対応している

スマートフォンの普及などによって、お客様の買物行動は変化しています。それに伴い小売業もオムニチャネル戦略に舵を切りつつありますが、それに対応できているメーカーはそう多くはありません。

4.消費者心理の大きな変化によって求められる新しい「値付け」のルールを模索している

世帯収入の伸びは鈍化し、消費支出も減少しています。さらに、昨今のコロナ禍による先行き不安感は、デフレ傾向に拍車をかけています。これまでの「値ごろ感」は変化しており、販売促進のあるべき姿も変わろうとしています。

5.コロナ禍によって小売業商品部との商談機会が減り、提案力が試されている

コロナが小売業との商談にもたらしたもっとも大きな変化は、対面のコミュニケーションそのものの機会が激減したという点でしょう。オンライン商談は一般化し、情に訴えかけるだけの営業は小売業商品部への訪問さえ難しくなっています。営業は提案力が試されています。

メーカーの営業はこの変化にどう対応していくべきなのか?

では今後メーカーの営業はどうしていくべきなのでしょうか?

1.部署の壁をこえ、サプライチェーン全体の無駄をなくしていく

これまでのメーカーの営業は、小売業の商品部(と一部店舗運営部)とは積極的にコンタクトを取ってきていました。しかし一方で社内のブランドマーケティング部門とはコミュニケーションが薄く、組織間の壁は否定できませんでした。しかしながら、どれだけ市場にニーズがあるのかを把握する「需要管理」と、在庫状況の変化から不足数量を予測し、工場へ生産を依頼をする「供給管理」なしには、サプライチェーンの無駄を省くことはできません。サプライチェーンの効率化を図るためにも、需要の起点を生み出す鍵を握るブランドマーケティング部門と営業の連動は必須といえます。

2.小売業の変化を予測して、事前に対応をする

小売業がどう変化していくかを予測し、事前に対応していくこともこれからメーカーの勝敗を分かつでしょう。今後さらに小売業のM&Aや提携が進めば、取引制度、販促金の整合性が求められることになるからです。

ドラッグストアA社とB社が業務提携によりおなじ「Cグループ」になったとします。提携前にあるメーカーX社の商品が、A社には95円で、B社には100円で納品されていた場合、X社は提携後のCグループ全体に安い方の95円で納品しなければならなくなります。「安かったA社は店頭露出を多くしていた」とか、「店頭の陳列を早くしてくれた」のように、何か整合性のある理由でもない限り、この要求は避けることができません。すべての取引情報をオープンにする必要はないのですが、整合性のある販促金マネジメントが必要になってきます。

また、小売業とメーカーの共通のトピックである「売場」と「ショッパー(お客様)」を起点とした営業スタイルを強化してくことにより、小売業との取り組みの質も高めていく必要があるでしょう。

3・競合優位に向けた変革のシナリオをつくり、実践する

最後は競合優位に向けた変革のシナリオを作り実践していくことです。自社にどのような強みと弱みがあるのか、メーカー各社は把握しているようで把握できていません。きちんと調査などを行い、自社の強み、弱みを明らかにしたうえで、変革のシナリオを描き、実践していくべきでしょう。

これら3つのポイントを実現するのに役立つ手法が「トレードマーケティング」の導入です。

トレードマーケティングとは何か

メーカーによる、小売業を「顧客」ととらえたマーケティング活動のことを、トレードマーケティングと呼びます。

かつてのマーケティング手法といえば「ブランドマーケティング」であり、そのターゲットは消費者でした。消費者の心をつかむような価値を生み出すために、一貫したブランディングを行うのが「ブランドマーケティング」の役割でした。

しかし1980年代以降の過当競争の中、まず店頭に商品が並ぶことが重要という考えから、メーカーは小売業を単に流通経路のひとつとして見るのではなく、顧客ととらえてきちんとマーケティングを行うようになりました。そこで登場したのが「トレードマーケティング」という概念です。

トレードマーケティングの機能は以下の3つを挙げることができます。

①サプライチェーンの効率化(一連の流通プロセスを効率化する)
②ショッパーリサーチ(顧客の購買行動を調査)
③マイクロマーケティング(商圏の特性や顧客の年齢層など、市場を細分化して分析)

トレードマーケティングの業務を大まかにわけると以下の7つになります。

①販促金管理
②キーアカウントプランの管理
③エリア管理
④需要管理(含むショッパー理解)
⑤供給管理
⑥オムニチャネル対応
⑦ECサイト管理

トレードマーケティングと営業企画の違い

トレードマーケティングと営業企画の大きな違いは、営業企画の業務の中心が営業予算の管理であるのに対し、営業予算の管理に加え、店頭・ショッパーに使用するブランドマーケティング予算を含めた、小売業・卸売業向けすべての予算権限を持ち、前述した機能を体系的に、継続的に実践するという点です。

加えて、ブランドプランに関わり、ブランドマーケティングと対等の力を持ちます。

なお、欧米の先進的メーカーでは、営業の監査(オーディット機能)も求められています。

組織的には、これまでの「営業」「営業企画」「ブランドマーケティング」という組織にプラスして「トレードマーケティング」という部署を設置すべきであると筆者は考えます。

筆者は大手外資日用品メーカーで、1999年から4年間トレードマーケティングの責任者として、自社商品のシェアを大きく伸ばすことに成功しています。その後2003年からの2年間、営業本部長として台湾でもトレードマーケティングを導入しました。

2000年代前半にもトレードマーケティングに関する議論は盛んでしたが、オムニチャネルやECサイト管理などへの対応、テクノロジーの発展により可能となった需要管理など新しい事象への対応が、トレードマーケティングには求められるようになりました。次の時代のトレードマーケティング像を模索すべき時期が到来したということができるでしょう。