今週の視点

コロナ後の販売促進はパーソナル化(個別化)する

第84回行列のできる繁盛店は過去の風物詩になる!?

ポストコロナ社会では、消費者の「購買行動」を収集することが、コロナ前よりも容易になります。その結果、固定客の個別の購買行動に応じたパーソナルな販売促進が主流になります。一方で不特定多数の浮動客向けの販促である「チラシ」「告知→行列」などが過去の「売り方」になります。

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プライバシー意識がコロナ以前よりも低くなる!?

日本語版が出版されて話題になった『サピエンス全史』を執筆したイスラエルの歴史学者「ユヴァル・ノア・ハラリ」氏は、新型コロナ後の人類は、プライバシー(個人情報)を外部に提供することへの抵抗感が低くなると予言しています。

新型コロナを封じ込めたと自称している韓国政府は、国民の位置情報、クレジットカードの利用履歴、移動記録などのプライバシーを徹底的に追跡管理することによって、新型コロナの感染爆発を防いだといわれています。まるで独裁国家のように国民を監視したわけですが、政府のコロナ対策への韓国国民の支持率は高く、先の総選挙では現政権の圧勝に終わりました。まさにハラリ氏の予言のように、新型コロナ後の人類は喜んで監視されることを選択するのかもしれません。

昨年、「渋谷プロジェクト」という複数の書店で万引き犯の情報を共有するプロジェクトが、「プライバシーの侵害に当たる」という理由で頓挫したという記事を読みました。最近のAIカメラは高性能なので、渋谷のA書店で万引きした犯人の画像情報を複数の書店でデータ共有するプロジェクトです。B書店のAIカメラが、A書店の万引き犯の来店画像を特定したら店員にアラート(警告)が出て、万引き犯の行動を監視する仕組みです。

新型コロナ以前は、こういう個人情報の収集には根強い反対がありましたが、コロナ後の日本でも相対的にプライバシーの壁は低くなると思います。大阪府がQRコードでクラスターの参加者を追跡する仕組みを導入しています。ある程度プライバシーを外部に提供した方がコロナ対策には有効だったという成功体験は、コロナ後にも続くと思います。

前置きが長くなりましたが、新型コロナ後の日本では、消費者の「購買行動」「購買データ」「移動情報」などのプライバシー(個人情報)をさらすことに消費者の抵抗感が少なくなり、個人データに紐づいたパーソナルな販売促進が一気に進むと思います。この大変化も、コロナ後の「パラダイムシフト」です。

早いもの順は公平な販促ではない

販売促進がパーソナル化するもうひとつの理由は、新型コロナ騒動でマスクなどの品薄商品を開店前に並んで、早いもの順に販売する方法が、決して「公平な販促」ではないことが、はっきりとわかったことです。Twitterで以下のような投稿があったので記載しておきます(5月13日開催、ニューフォーマット研究会オンラインセミナーの郡司昇氏の講演より引用)。

Twitterの投稿(4月9日)「先日マスクを買うために朝からツルハに並んだのですが、朝7時の時点で20人近く並んでいて、そのほとんどがマスク集めが趣味と化している中年・年配の方ばかりでした。
私がツイートしようと思ったのは、その常連が自分達より遅く並んだ買えなさそうな方々に直接転売を持ちかける場面を目撃したからです」

ひどい状況です。その後ツルハさんは、マスクを朝一番には販売しない方法に変更しました。新型コロナ騒動によって、チラシや告知で開店前に行列をつくり、早いもの順に販売する売り方は、不公平であると多くの小売業が学びました。

仕事で朝から並ぶことができないロイヤルカスタマーは、行列→早いもの順の販促の恩恵を受けることができません。店を何店も回って品薄商品を買い占める暇人ばかりがメリットを得ることになります。

しかも行列に並んだのに買えなかった場合、店員さんがモンスターカスタマーの口撃にさらされる修羅場が頻繁に発生しました。店員さんのストレスを減らして、ES(従業員満足)を高めるためにも、行列をつくる売り方はコロナ後はなくなると思います。さらに、「ソーシャルディスタンス」に慣れた国民は、行列して商品を購入する方法を敬遠するようになると思います。「行列のできるラーメン屋」は、過去の遺物のような風景になってしまうかもしれません。

これからの販売促進は、「不特定多数の浮動客」相手に行列をつくる売り方ではなくて、「特定多数の固定客」へのパーソナルな販促が主流になります。マスク集めが趣味のバーゲンハンターではなくて、わが店のロイヤルカスタマーに優先的に販売した方が、公平・公正な売り方であるという意識に、コロナ後の小売業は変化していくでしょう。

不特定多数のマスマーチャンダイジングの時代は、「お客を区別してはならない」という考え方でしたが、これからは「あえてお客を区別する時代」になると思います。

以下は、大手ホームセンターの島忠とカインズが、会員向けに「品薄商品の抽選会」を実施したスマホ画面を掲載したものです。島忠はLINEに友達登録した人に限定した抽選会であり、カインズはアプリに登録した会員限定の抽選会です。どちらも不特定多数の販促ではなくて、特定多数の固定客向けの販促であることが、コロナ以前の販促との大きな違いであると思います。

(カインズの品薄商品抽選については、以下に詳しく記事化しています)

https://md-next.jp/15069

 

ホームセンター島忠の「マスク」LINE抽選会の告知

カインズのアプリを使った会員限定の「品薄商品」抽選会の告知

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。