吉野家のモバイルテークアウト
危機によって大きな変化が起きる
変化とはなだらかなカーブでおきるものではなくて、ある時期に一気に階段を駆け上がるようにおこるものです。そのきっかけのひとつが「歴史的な危機」であることは歴史が証明しています。たとえば「9月新学期」の導入も、「危機的な混乱状況の今だから変えられる」といわれています。つまり、新型コロナのような歴史的な「危機」の到来は、大きく変化するためのチャンスの時期でもあります。
事実、「便利だけど日本では難しいよ」と固定観念に縛られて遅々として進まなかった「リモートワーク」や「リモート授業」が、わずか1か月で一気に普及しました。まさに階段を駆け上がるような変化です。面白いのは、企業や学校の旧来のシステムを利用したのではなくて、個人がZOOMなどのアプリを活用してリモートワークに対応したことです。
かつてDgS(ドラッグストア)が台頭した時期は、平成バブルが崩壊した時期と重なります。現在のようなDgSが、日本人に認知され始めたのは、平成時代の前半から中盤にかけてです。都市型DgS「マツモトキヨシ」の渋谷パルコ店(90坪)が開店したのは、平成7年(1995年)のことです。一方、ツルハ、ウエルシア、コスモス薬品などの「郊外型DgS」も同じ時期に大量出店を開始しています。現在(2020年)は売上高3位の「コスモス薬品」が1号店を開店したのは平成5年(1993年)のことです。
その後、平成8年(1997年)には「山一証券」が経営破綻し、世にいう「バブル崩壊」が始まった時代にDgSの急成長期が始まっています。DgSの業界団体である「日本チェーンドラッグストアストア協会(略称JACDS)」が設立されたのは平成11年(1999年)のバブル崩壊の真っただ中です。
平成バブルが崩壊した平成前期~中期には、第二次世界大戦後の高度経済成長とともに大成長を遂げた「総合スーパー」のダイエーやマイカルがそれぞれ経営破綻した時代でもあります。まさに昭和時代の小売業の王様だった総合スーパーが急速に衰退していった時代が平成前期~中期でした。そして小売業の主役が交代するかのように、DgSの勃興期が始まったのです。DgSは、バブル崩壊によって戦後の好景気の価値観が激変した時代に大成長を遂げています。まさに、大きな危機による大変化は、「ゲームチェンジ」のチャンスでもあります。
店舗ピックアップは既存店の売上を増やす
ポストコロナ社会の小売・サービス業で一気に普及しそうなサービスが、本連載で何度か取り上げた「BOPIS(Buy Online Pickup in Store)」です。BOPISとは、オンラインで商品を注文し、店舗で商品を受け取るサービスのことです。「三密」を避けることが習慣化した消費者は、短時間で買物が完結するBOPISのような店舗ビックアップサービスを好むようになります。これも階段を駆け上がるような変化のひとつです。
店舗ピックアップサービスは、既存店の売上を間違いなく底上げします。オンライン注文→店舗ピックアップによって、牛丼の「吉野家」の3月の既存店売上高は減少していないそうです。吉野家は全店で営業時間を短縮しているので、店舗ピックアップが既存店の売上を底上げしたことがわかります(巻頭写真参照)。
また、大手HC(ホームセンター)のカインズも、デジタル戦略のひとつとして、「カインズピックアップ」を全店に普及させようとしています。カインズの高家正行社長によれば、カインズピックアップのメリットは、リアル店舗の「売場面積」と「取扱品目数」の壁を突破できることだそうです(インタビューの詳細は月刊MD6月号・5月20日発行で掲載しています)。
第1段階の「壁突破」は、小型店では品揃えできないロングテール商品をオンライン注文によって他店や倉庫から取り寄せることができることです。第2段階の「壁突破」は、取扱品目数の限界を超えられることです。卸売業やメーカー在庫の「客注」サービスを仕組み化すれば、小売業では取り扱っていない商品の取り寄せサービスが実現できます。つまり、BOPISによってリアル小売業の「取扱品目数」の壁を突破することができるわけです。
BOPISの導入には、オンラインとリアルの販売データ、在庫データを一元管理することが必要十分条件になります。とくに在庫の一元管理のできていない小売企業では、BOPIS導入は不可能です。しかし、BOPISを導入することができれば、自然とオンラインとリアルが融合でき、お客にとって「ストレスフリー」の買物が実現できます。新型コロナとの戦いによって、BOPISという購買行動は、すでに消費者の日常に定着しています。この大変化をモノにできるかどうかが、ポストコロナ社会で成長できるかどうかを決定するような気がします。