今週の視点

いよいよ日本でもBOPISが普及段階へ

第73回カインズ「ネット注文→店舗受け取り」の「CAINZ PickUpロッカー」実証実験開始

HC(ホームセンター)最大手の「カインズ」は、ネットで注文して店舗で受け取る「CAINZ PickUp ロッカー」の実証実験を、「カインズ浦和美園店」で開始しました。アメリカのリアル店舗の売上増に貢献している同サービスが、日本でも普及段階に入りそうです。

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BOPISの実証実験を開始したカインズ浦和美園店。

アメリカ小売業で起きている3つのトレンドは「レジフリー」「BOPIS」「差別化」

ロングテールの売上増で既存店の売上を増やす

この連載でも何度も取り上げているように、ネットで注文し、店舗で受け取るサービスのことをBOPIS(Buy Online Pickup In Store)といいます。ウォルマート、ホームデポのアメリカ大手小売業は、新店を増やさないで、BOPISの強化によって既存店の売上を大きく増やしています。

カインズは、店内にピックアップ用のロッカーを設置し、BOPISの実証実験を開始しました。2021年には全国展開を予定しています。カインズは3年前に「IT企業宣言」を掲げて、デジタル戦略を強化してきました。デジタル戦略の目標として「わずらわしさの解消からエモーショナルな買物体験の創造」という言葉を掲げていました。

カインズは、BOPISのメリットとして以下の4つを挙げています。

(1)ネットで簡単注文
店舗で商品を探し回る「わずらわしさ」を解消し、ネットで簡単に注文できます。
(2)商品を直接確認
商品を店舗で直接確認してから購入できます。現物を確かめてから購入したいという買物客にとっては評価の高いサービスです。
(3)取り寄せサービス
店舗に在庫のないロングテール商品もお取り寄せして受け取ることができます。
(4)送料無料
好きな時間に店舗で受け取れて、送料も無料です。

BOPISサービスの良い点は、ネットで注文した商品の質感や色などの「現物」を店頭でお客が直接確認できることです。もしイメージと違っていたら、その場で購入を中止できることもできます。お客にとってメリットのある新しい買物体験です。

また、店舗に在庫のないロングテール商品をお取り寄せできることがBOPISの最大のメリットです。アメリカのホームデポでは、店頭在庫は3~4万品目程度ですが、ネット在庫は100万品目も在庫しています(メーカーのお取り寄せ在庫含む)。BOPISを導入することで、ロングテール商品の売上がリアル店舗の売上増に貢献することが、ホームデポの既存店が好調な最大の理由です。

現物を確かめてから購入するかどうかを決定

「CAINZ PickUp ロッカー」は、オンラインショップで購入した商品の受取用ではないことが特徴です。あくまで「取り置きサービス」であり、事前決済は必要ありません。本当に購入するかどうかは、店に行って現物を確かめた後に決めればいいのです。また、店に来店した後に、他の商品を購入して、それらと一括清算もできます。ホームデポでは、BOPISで来店したお客の60%以上は他の商品も衝動購買するという結果がでています。「来店→衝動購買」も、リアル店舗の売上増に貢献します。

カインズでは、2019年10月より一部の店舗で従業員向けに「Find in CAINZ」というサービスの提供も開始しました。これは、従業員向けの携帯端末に店舗のレイアウト図が表示し、商品の「在庫数」と「陳列場所」が確認できるサービスです。アメリカのホームデポは、5年ほど前から、「Find it Fast」(早く見つかる)という名称で、同様のサービスを提供しています。

自宅にいながら、購入したい商品の在庫が店舗にあるかないかの確認ができることも、新しい買物体験です。「せっかく来店したのに商品がない」という「店頭欠品」は、店の信頼をもっとも損なうものです。そういう意味で、在庫確認サービスによる顧客満足度のアップは大きいと思います。オンラインの買物では当たり前の「在庫確認」が、リアル店舗でもできるようになります。オンラインとリアルの買物体験がどんどん近づいているようです。

年々スペースが拡大している「ホームデポ」のBOPIS専用カウンター。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。