今週の視点

今後確実に日本にも訪れる潮流を理解する

第70回アメリカ小売業で起きている3つのトレンドは「レジフリー」「BOPIS」「差別化」

10月28日から1週間、アメリカ小売業の視察に行ってきました。アマゾンの台頭で急激な変化の途上にあるアメリカ小売業の3つのトレンド「レジフリー」「BOPIS」「差別化」を整理してみましょう。

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アマゾンゴーの店内。

確実に進んでいるレジフリー

小売業の店内作業でもっとも人時のかかっている作業は「レジ作業」です。客数の多いSM(スーパーマーケット)のような業態では、店内作業の30%はレジ関連作業です。

一方アメリカではレジ作業を減らす「レジフリー」の実験が確実に進んでいます。

レジフリーの目的は、

(1)省人化による生産性の向上
(2)レジ待ちの煩わしさを解消する便利な買物体験の提供

の2つです。

レジフリーの第1は、「アマゾンゴー」の「ジャスト・ウォークアウト」方式です。

アマゾンゴーのアカウントを作成し、QRコードを取得し、日本の電車のSuica(スイカ)のようなゲートにQRコードをかざせば店内に入れます。あとは、自由に商品を取って自分のバッグに入れてそのまま退出するだけです。10分後くらいに購入した商品の画像、購入点数、金額がアマゾンゴーのアプリに送られてきます。天井に設置された監視カメラと、棚の重量センサーの技術を活用して、お客の購買行動を補足しています。

万引しようと、あれこれ不審な行動をとってみましたが、何を持ち出したかを正確に補足されました。

レジフリーの第2は、「スキャン&ゴー」方式です。

日本でもトライアルが「タブレットカート」で同方式を導入していますが、専用端末やアプリのスキャナーで商品のバーコードを、お客が自分でスキャンして一括精算する方式です。ウォルマート、クローガーのような大規模チェーンも、スキャン&ゴー方式に対応したセルフレジのスペースが年々拡大しています。将来的には、アマゾンゴーのようにアプリ内で精算完了し、レジを通らないで退出する精算方式が主流になるかもしれません。

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BOPISの導入が一気に進んでいる

ホームデポのBOPIS受け取りカウンター。広い接客カウンターと、広い在庫スペースを確保していた。

オンラインとリアルの継ぎ目のない新しい買物体験として、BOPIS(Buy Online Pickup In Store)の導入が一気に進んでいます。BOPISとは、オンラインで注文した商品を店舗でピックアップするサービスのことです。

BOPISの導入により、店舗で在庫していない「ロングテール商品」を販売することで、既存店の売上が増えます。

ホームデポは、通常の店舗では3~4万のアイテムが在庫されていますが、オンラインでは100万以上のアイテム(メーカーへの客注含む)が販売されています。その膨大なアイテムが店舗売上として計上できれば、当然、既存店舗の売上増につながります。また、店舗ピックアップのために来店した顧客の70%は、なんらかの商品を「衝動購買」するという調査結果もあり、とにかく来店してくれれば、買上点数も増えます。

ホームデポでは、上の写真のような広いBOPISの受け取りカウンターを設置しています。オンラインで注文した商品の受け取りを有人のカウンターで実施することで、接客とカスタマーサービスを強化し、アマゾンに対抗しようとしていることがわかります。

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アメリカ小売業は差別化の時代に突入

今回、アメリカの小売業を視察してもっとも印象に残ったことは、「同質化の競争」から「差別化・異質化の競争」時代に突入していることです。

日本では、「看板を外せばどの店かわからない」という同質化競争の真っただ中ですが、いずれ日本も「差別化・異質化の競争」時代に突入していくことは間違いないと思います。

HC(ホームセンター)大手のホームデポとロウズは、同じHCですが、ターゲット客層が明確に異なっています。ホームデポは、男性のDIY客、プロの職人が多く、ロウズは女性客が多いのです。従ってロウズは、照明器具などの完成品の売場が広く、家庭用品の品揃えも、ホームデポよりもはるかに充実しています。同じ土俵で戦わず、差別化・異質化を志向していることがわかります。

また、アマゾンや量販店のどこでも購入できるペットフードを取り扱っているペット専門店チェーンが好調なので、何をやっているかと視察してみたら、量販店では取り扱いのない高機能のペットフードを主力に取り扱っており、商品で差別化していました。業界第2位のペトコは、手作りのペットフードを提供する専門店「ジャスト・フード・フォー・ドッグス」と提携して、店内にインショップで展開していました。

ペット専門店チェーン業界第2位のペトコは、手作りのペットフードを提供するジャスト・フード・フォー・ドッグスという専門店をインショップで導入している。ウォルマート、アマゾンのペットフードの品揃えとの差別化を目指している。

また、業界第1位のベッツマートは、ペットホテル、ペット病院、ペットの美容室を併設していました。ペットホテルの利用率の高さには驚かされました。さらに、物販スペースを犠牲にして、ドッグランのスペースを確保するなど、量販店との差別化・異質化を徹底していました。

満室近いペットホテルとペットの病院。ベッツマートの店内から入れるように併設していた。

SM業態も、なんでもそろう大型のコンビネーションストアの業績が芳しくありません。同質競争ではウォルマートに勝てないからです。一方、FLONHというライフスタイルを、手頃な価格で実現できるという明確なコンセプトが人気の「スプラウツ・ファーマーズ・マーケット」という「ライフスタイルストア」が急成長しています。FLONHとはFresh(新鮮)、Local(地産) Organic(有機) Natural(自然) Healthy(健康)の頭文字をとったものです。

スプラウツは、コンビネーションストアの売場面積の半分程度の800坪の小型店ですが、明確なコンセプトによる「オンリーワン」の価値が受けて、熱烈なファン(固定客)を増やしているようです。

スプラウツの2017年度の売上は4046億円となり、対前年比12.6%増、店舗数も253店舗、対前年比17%増加し、米国小売業の売上ランキングで82位に成長し、ついにトップ100以内にランクインしました。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。