今週の視点

閉店ラッシュの米国で大量出店を継続

第69回農家の生活をカバーする「トラクターサプライ」が急成長

アメリカの小売業は、2017年からの3年間で約1万5,000店も閉店しました。この連載でも紹介したように、大手企業の「ウォルマート」「ホームデポ」は、新店をつくらず、オムニチャネル化で既存店売上を増やす戦略に大きく舵を切りました。そんな中、「トラクターサプライ」というチェーンストアが、「農村の生活をカバーする」というユニークなコンセプトで急成長しています。

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毎年100店前後の大量出店を継続しているトラクターサプライ。

「店舗数減少」でも売上を伸ばすウォルマート、ホームデポの戦略

毎年100店舗前後の大量出店を16年継続

「トラクターサプライ」という企業の名前を知らない流通業関係者の方が多いと思います。私も知りませんでした。1年間に1~2回は米国視察に行っていますが、今まで見たことはありませんでした。その理由は、農村ライフを支援する業態なので、かなり田舎に行かないと店がないからです。

調べてみると、トラクターサプライは田舎立地に大量出店し、密かに大成長を遂げていました。米国テネシー州ブレントウッドに本社をおく企業で、1938年に設立されました。2019年通期の売上予想は94億1600万ドル(1ドル108円換算で約1兆円)の巨大企業であることが分かります。店舗数は約2,000店に達しているので、1店当たりの売上は日本円で5億円程度の業態であることがわかります。

同社の2003年の売上が15億ドル・店舗数450店だったので、16年間で売上を約6倍、店舗数を5倍も増やしています。まさに右肩上がりの成長です。

トラクターサプライのカテゴリー別の売上構成比は以下のようになっています。

カテゴリー 売上構成比
家畜・ペット 45%
ハードウエア・ツール・トラック 20%
季節品・贈答品・玩具 20%
服・靴 10%
農業関連 5%

 

主力の「家畜」カテゴリーでは、家畜のエサ桶や飼料も販売しています。田舎の暮らしに欠かせないペット用品も、ペット専門店チェーンを凌ぐ豊富な品揃えです。また、日本の農協のような農機具だけを販売するのではなくて、農家ライフに必要な商品を幅広く品揃えしていることが特徴です。玩具、服、靴などの生活用品も購入することができます。

また、同社のサイトを見ると、最近流行の「BOPIS(Buy Online Pickup In Stores)」にも取り組んでいます。店舗に在庫のない商品も、オンラインで注文し、店舗で受け取ることができます。店舗に在庫のない商品も購入できるので、1店舗当たりの売上は以前よりも増えています。

ネットでなんでも買える時代であっても、専門性の高い商品は、実物を見て確認して購入したいと消費者は考えます。BOPISであれば、店頭で現物を見て、欲しいものとイメージが違っていたら、その場で返品できることも便利です。リアル店舗があることの強みが発揮できる業態です。だから、店舗増加率が年平均10%を超える成長を継続できているのだと思います。

また、トラクターサプライは、大規模農家よりも、田舎のライフスタイルを楽しむセミプロがメインターゲットのようです。田舎の暮らしに寄り添うというニッチな市場で独り勝ちしているわけです。

日本の田舎は今後、「高齢化」と「人口減少」が加速していきます。多くの小売業が、人口の増加する都心立地に大量出店する戦略に方向転換しています。しかし、いくら人口が減少しても、田舎で暮らす生活者は、これからも存在します。競争相手の小売業が人口の多い立地に移転した後に残った「田舎の生活に寄り添う業態」は、「残存者利益」を獲得して大きく成長するかもしれませんね。

日本と違って人口が減少していない米国ですが、国土が広いので、トラクターサプライの立地の人口密度は驚くほど低く、人口も少ないと思います。そういう立地でもトラクターサプライが成立しているのであれば、田舎立地で展開する日本の小売業のお手本になるかもしれませんね。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。