今週の視点

「人口減少」加速が小売業経営を変える!

第74回2020年「小売流通業」の 5つの重点経営課題

1960年代に急成長したチェーンストアのマスマーチャンダイジングの成功体験がまったく通用しない10年が始まります。その元年である2020年の重点経営課題を整理します。

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重点経営課題(1) 人口減少と生産性革命

2019年に日本国内の出生数が86万4,000人と、1899年の統計開始以来、初めて90万人を割り込む見通しとなりました(厚生労働省の人口動態統計より)。前年の出生数91万8,400人から約5万4,000人の大幅減です。一方、死亡数は137万6,000人と戦後最多で、自然減は51万2,000人と初めて50万人を超えました。日本という国は、人口減少が加速していることがわかります。

人口減少が減少すると、何もしないとGDPは自然減します。GDPの増加要因の半分は「人口ボーナス」(人口増によるGDPの自然増)といわれていますが、日本は人口ボーナスがマイナスの国です。人口減少時代の日本でGDPを成長させるためには、人口一人当たりの「労働生産性」を高めるしかありません。

しかし、日本のGDPの70%を占める、数字的には日本の基幹産業である「小売・サービス業」の労働生産性は、製造業よりもはるかに低く、米国の半分程度の低い労働生産性のままです。小売・サービス業の生産性向上が、日本という国全体の最大の課題といっても過言ではありません。人口減少が加速する2020年は、小売・流通業、サービス業の「生産性革命」元年であると思います。人海戦術からの根本的な脱却は、待ったなしです。

重点経営課題(2) スマートストア化

小売・サービス業の「労働生産性」向上のために、IT技術を活用した「スマートストア化」が2020年から加速すると思います。現在、レジフリー、レジ作業の省人化の実験が日米で進められています。店舗の人時数の30%を占めるレジ作業の省人化は、労働生産性向上のためには不可欠の技術になるかもしれません。

一方、リアル店舗は「接客」など、店員とお客のコミュニケーションを強化する必要があります。したがって、顧客接点以外の「単純作業」は省人化・無人化を進める一方で、顧客接点は「有人化」を目指すのが正しい方向性です。とはいえ、顧客接点の有人化もコストの壁があります。

たとえば、化粧品の接客強化といっても、営業時間中ずっと化粧品の専門家を売場に配置することは現実的ではありません。化粧品担当者の不在時をカバーするためにも、タブレットなどのITツールを活用した「接客のオートメーション化」が2020年以降に急速に普及すると思います。労働生産性向上と、接客強化を両立させなくてはなりません。

重点経営課題(3) マスMDの成功体験からの脱却

1960年代以降の人口急増時代に成長した日本のチェーンストアは、「大量生産大量消費」時代の「マスマーチャンダイジング」の成功体験から脱却できていません。しかし、人口ボーナスがマイナス時代のこれからの日本では、「不特定多数」の消費者に大量販売する手法は通用しなくなります。従来のようにマスマーチャンダイジングを推進すれば、人口減少と比例して、売上は減少します。

これからの日本の小売業は、不特定多数の浮動客相手の商売から脱却して、「特定多数の固定客(その店のファン)」を増やすことを目的にしたビジネスに転換する必要があります。そのためには、不特定多数向けのテレビ広告やチラシ販促ではなくて、個客の購買行動や属性に紐づいた「あなたのための販促」(パーソナライゼーション)を目指すべきです。2020年はマスマーチャンダイジングとの決別の元年になります。

重点経営課題(4) 差別化・ブランディング

2020年は、「同質競争」からの脱却、「差別化・ブランディング」の元年になると思います。日本の小売業は、看板を取り外せば、どの店かわからないほど同質化しています。

本誌で掲載したDgS(ドラッグストア)「2019年の顧客満足度調査」では、「ほかのチェーン(違う看板のお店)にはない特長や工夫を感じましたか? 」という調査項目を新たに加えたところ、この項目が、「総合満足度」に大きく影響を与えることがわかりました。総合満足度とは、簡単に言うと買物客の「再来店意向」です。つまり、上記の質問が、「またこの店に行ってみたい」という再来店意向にもっとも大きな影響を与えることがわかりました。

最近の消費者は、店舗に明確な個性や異質性を強く求めています。顧客満足度(CS)を上げるためにも、ブランディングは最優先の経営課題です。また、「プライベートブランド(PB)開発」に関しても、かつてのようにナショナルブランド(NB)にパッケージがそっくりで、価格が半値といった「低価格だけが価値のPB」からの脱却を目指さなければ、真の差別化は達成できません。

重点経営課題(5) リアル店舗の価値づくり

ネットで何でも購入できる時代において、われわれ小売・流通業に関わる者は、わざわざ時間とコストをかけて、リアル店舗に足を運んでもらえる「価値」とは何なのか? を自問自答し続けることが重要です。

リアル店舗の価値を真剣に追求するためには、「人手を減らして販管費を減らし、営業利益を増やす」といった会社の御都合主義を否定し、今取り組んでいることが本当に顧客のためになるかどうかを常に自問自答する、真の「顧客第一主義」に転換できるかどうかが何よりも重要です。

そして、ネットにはなくてリアル店舗だけが提供できる「触って試せる」「試食できる」「相談できる」「楽しい。ワクワクする」などの価値を磨き続ける必要があります。

買物客がリアル店舗に期待するニーズは、以下の4つですが、ネット販売にはない「リアル店舗のライブ感」を強化するためにも、「(4)エンターテインメントニーズ」の強化がとても重要になると思います。たとえば、低コスト化しているサイネージを活用して、店頭で動画を流す「店頭メディア化」も、2020年が本格的な普及の元年になると思います。

買物客がリアル店舗に期待する4つのニーズ
(1) コンビニエンスニーズ(近くて便利)
(2) ディスカウントニーズ(安い。ただし安売りで広域集客は×)
(3) スペシャリティニーズ(専門性、接客)
(4) エンターテインメントニーズ(楽しい、わくわくする)

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。