郡司昇のリテール・ニュー・フレームワーク

計画購買と非計画購買(3)

第3回日本の小売業がロケーション管理に弱い3つの理由

前回、計画購買しやすい店はどこで何を売っているかがわかる店であり、どの商品がどの売場で販売されているかをアプリなどで伝えることが重要とお話しました。しかし、日本でその実現が難しいのは、売場のロケーション管理(ロケ管理、商品陳列位置管理)ができている小売業が非常に少ないということです。なぜ日本の小売業は商品陳列位置の管理ができないのでしょうか?

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メーカー任せになっている棚割

棚管理ができない理由の一つは、そもそも棚割の作成がメーカー任せになっているということが挙げられます。棚割を徹底的に考えて一から自社で作っている日用消費材小売業は多くはありません。

棚割は、小売業の商品部バイヤーと、メーカーの小売営業担当者が話し合って決めます。しかし、筆者が知る限り日本の多くのドラッグストアは、棚割管理ソフトを自社で持ち合わせていません。大手メーカーが持っているものを利用しています。

たとえば日用雑貨であれば、花王などの大手メーカーを小売業のバイヤーが訪問して棚割をつくります。大手メーカーは、データ会社等から業態毎に集めたPOSデータを購入していますし、次のシーズンの同業他社の新商品情報を揃えていて「このような棚割がいいのではないか?」とあらかじめ棚割の元ネタを用意しています。

それをもとに、それぞれの会社に合わせた棚割に修正します。「うちの店は提案された棚割のように歯みがき粉のコーナーを棚4本分も取れないから、2本分に圧縮しよう」だとか「掃除用の洗剤はPBがあるからこのNBを外そう」というようなことを検討して棚割が出来上がります。

読者のみなさんは、情報と分析力を持った大手メーカーの力に小売業各社が頼ると、どのような結果になると思うでしょうか?

ドラッグストアに関しての生活者調査を行うと「ドラッグストア各社は差別化できていない」という事実を突きつけられます。店舗を利用する理由の上位に並ぶのは「家から近いから」「価格が安いから」「ポイントがつくから」という回答です。つまり、生活者は、ドラッグストアに対して、品揃えや買いやすさ(棚割りを含めたインストア・マーチャンダイジング)で各社差がないという評価をしているわけです。

では、どうすれば、他社と違う結果を得られるのでしょうか?

スポーツをはじめようとする人はまず教則本を読んで学ぼうとすることが多いと思います。では、ゴルフの初心者が教則本を読むだけでスコアが良くなるでしょうか?なりませんよね。筆者は学生時代、弓道をやっていましたが、弓道の本を読んでも的に当たるようにはなりませんでした。どうすれば、上手くなるでしょうか?

いくら本だけ読んでもスポーツは上達するわけがないのです。ゴルフであれば練習場で何度も素振りをして、実際に体を動かすことがスコアアップへの近道といえます。

このようにスポーツでは誰もが反復練習することで、情報・知識を成果に繋げます。

そして、練習の重要性は「思考」においても同様です。「情報・知識」を「知恵」という成果に繋げるためには「思考の練習」が必要になります。

多くのドラッグストアに欠けているのはこの「思考の練習」です。品揃え、棚割りについての思考をメーカーに頼っているから品揃えや買いやすさについて各社差がないと評価されてしまうのです。

ドラッグストアは品揃え・棚割に関して徹底的に自社で考え抜くことが必要だと筆者は考えます。

店頭実現力が不足している

棚割の管理ができないもう一点の理由は、本部が店舗に指示した棚割を、現場がその通り実現していない/できないという点です。棚割を実現すべきとは考えていても、忙しくて実現できないケースと、勝手に現場でアレンジされているというケースがあります。

多くの企業では、棚割りについて4本パターン、3本パターン、2本パターンというように例を示すだけで、あとは店舗に棚割の調整を「丸投げ」してしまっています。しかし、任された店舗側の従業員は、接客やクレーム対応、品出し、レジ作業などの対応に追われています。売上が厳しくなれば従業員を減らされ、指示通りの棚割を実現することができません。棚割の実現度は本社が思っているよりもかなり低いという状況です。

さらに、店舗がアレンジした棚割を本部にフィードバックする仕組みがないと、本部で店舗ごとの棚状況がどうなっているか把握することができません。経営陣が「PDCAを回せ!」と命じても回らないのはなぜでしょう?それは「原因」である店舗状況がデータ化できていないからです。売れた「結果」であるPOSデータだけではPDCAを回せないのは当然です。

また、本部が指示した棚割を店舗が勝手にアレンジしてしまうようなことも少なくありません。店長が「これは今陳列している商品より売れないと思うから、並べないで返品してしまおう…本部が言うほど売れないだろうから1フェースでいいや…」というケースです。

欠品が起きたときに他の商品で埋めるというオペレーションを採用している企業もありますが、チェーンストアの陳列位置管理という意味では、本来欠品が起きたらそこを他の商品で埋めてはいけないはずです。

このように、さまざまな理由から本部の棚割指示は達成されず、現場を見なければ確認できないという陳列状況なので、現場の棚割を本部が把握しているようなドラッグストアは日本ではほとんどないのです。

店頭在庫・バックヤード在庫を管理できていない日本の小売業

陳列位置を管理するだけでなく、在庫がどこにあるのかの情報も持っている必要があります。

在庫に関して言えば、現在でも在庫データの更新を1日1回夜間バッチで行っている企業が多く「今この時間にアリエールが店舗に何個在庫しているか」を把握している小売業は非常に少ないのではないでしょうか。店舗の在庫数全体でさえこのありさまなので、当然店頭に何個陳列されていて、バックヤードに何個在庫しているのかということも把握できていません。

日本では店頭在庫とバックヤード在庫の管理をしている企業はあまりないと思うのですが、アメリカではどうも様子が違うようです。

元々はウォルマートの従業員教育用アプリであり、後日一般公開されたアプリで店の作業を体験するシミュレーションゲーム「Spark City」では、店の作業を体験することができます。このアプリ体験してみると商品がバックヤードに何個ある、店頭に何個ある、という情報が飛んでくるのです。つまりウォルマートレベルの企業になると、店舗の在庫を、きちんと店頭分とバックヤード分に分けて管理しているのではないかと考えられます。

ウォルマートのアプリ「Spark City」。画面右の端末に店頭在庫数とバックヤード在庫数が記載されている。

ウォルマートと日本のドラッグストアで、どちらが「PDCAが回る」ことでデータ活用できる企業だと思いますか?「本当の在庫管理」の重要性を日本のドラッグストア企業にも認識してもらいたいと、筆者は考えます。

著者プロフィール

郡司 昇
郡司 昇グンジ ノボル

小売業のICT活用研究所代表。薬剤師。前職は大手ドラッグストアにおけるマーケティングとEC 事業の責任者としてグループ統合マーケティング戦略を立案・実行。現在は主に(1)IT企業のCRM、位置情報、画像AI解析などの小売業活用 (2)事業会社のEC・オムニチャネル改善についてコンサルティング活動中。