セブン-イレブンが1日3便体制から2便体制へ変更する理由とは?

セブン-イレブンが現行の3便体制を2便体制に切り替える方針を示した。一般マスコミには、ほとんど取り上げられなかったが、長年、コンビニを取材している立場からすると少なからずの「衝撃」を覚える戦略転換といえる。

お客様の立場を突き詰める=多頻度配送

もう昔のことなので知らない人も多いと思うのだが、セブン-イレブンは、1日3便体制を4便体制に改めた時期もあった。1989年5月より東京23区で4便体制を実施している。当時、常務取締役だった岩国修一氏は次のような説明をしている。

製造から販売するまでには、“作って陳列されている”時間がある。ならば、コストさえ合えば、こまめに配送した方がいい。朝食、昼食、夕食、夜食という1日4食の需要を考えれば、より鮮度の高いものを提供できる体制を組み上げる。製造から販売まで2時間のリードタイムを目標にしたい、といった内容だ。(『食品商業』1989年8月号参照)

この4便体制は、店内オペレーション上難しかったのか、ほどなくして3便体制に戻されたが、要は実質創業者である鈴木敏文氏が理念として訴え続けてきた「すべてはお客様の立場で」を突き詰めると、最大限、鮮度の高い商品をお客様に届けるためには、4便でも、5便でも、多頻度配送が良しとされるのだ。

1日70台のトラックが納品に来た創業期

では、弁当、おにぎり、パスタ、ドリア、サンドイッチ、といったデイリー商品の1日3便体制は、どのような経緯で始まったのか。

セブン-イレブンは1974年5月に東京・江東区の豊洲に1号店を開設した。大手メーカーを主軸とする指定問屋制度とルートセールスにより、当初は1日70台前後の配送トラックが30坪の店へ納品していた。在庫がバックルームはもちろん、自宅の居間にまで積み上がり、「欲しい商品を、欲しい時に、欲しい量だけ」お客に提供できる状況にはなかった。

これを多頻度少量の配送に切り替えるために、集約化と共配のシステム化が図られていった。その発展形が温度帯別の共同配送となった。その過程において、セブン-イレブンは1987年3月、米飯共同配送による1日3便配送体制をスタートさせた。

おにぎりや弁当は、コンビニの主力商品である一方で、納品されてから販売期限は1日しかなく、加盟店の中には廃棄ロスを嫌がり、販売期限前に売り切ってしまう量しか発注をしない店も多かった。

一方のチェーン本部は、廃棄ロスを恐れる気持ちは分かるが、欠品こそが店の評価を下げる最大要因であるとした。欠品の多い店は、いつも売場がスカスカな店だと印象を持たれ、店の評価を下げていく要因となる。廃棄ロス撲滅にだけ注力すると店が「縮小均衡」に陥るとチェーン本部は危惧していた。

その解決策が1日2便体制から3便体制への変更である。コンビニの販売ピークは、朝、昼、晩の3回あり、朝は6時まで、昼は12時まで、晩は18時までに配送できれば、各々のピーク時に欠品している「機会ロス」を削減できるとチェーン本部は考えたのだ。

続いて1993年にはチルド温度帯も従来の2便から3便体制に切り替えた。

デイリーの70%以上が店着後24時間以上販売できる

時は2019年9月、この春商品本部長に就任した、執行役員商品本部長の高橋広隆氏は商品戦略に関する会見で次のように述べた。

「(1日3便体制を敷いた)1987年当時、24時間以上の販売期限があるデイリー商品はゼロだった。しかし今は、納品から24時間以上、並べられるようになった商品はデイリー商品の70%を超えている。なのに、同じサプライチェーンのまま、同じ仕組みを続行している。これを考え直していいのではないか」

この春、石橋誠一郎氏に替わり商品本部長に就任した高橋広隆氏

確かに定温弁当は20度で管理され、15時間程度の販売期限だった。その多くを5度で管理するチルド弁当に置き換えることで、販売期限をプラス48時間延長できた。温度帯だけではなく、さまざまな技術革新により、24時間以上、店着後に販売できるデイリー商品が7割を超えた現状、仕組みを変える時が来たというのだ。

技術革新により定温からチルド化に進む弁当類(横浜市の店舗)

背景としてグループが推進する環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」がある。食品ロスを2030年までに半分に低減、2050年には75%削減する目標を掲げている。

沖縄での2便体制を全国に拡大

本年7月11日、沖縄県に初出店したセブン-イレブン(那覇市国際通りの店舗)

そこで2便体制に臨んだ地が、本年7月11日に初出店した沖縄である。
「ここを先鋭的なアンテナエリアとしてスキームを走らせている」(高橋氏)

セブン-イレブンが、ドミナントを拡張するときに、既存の専用工場が製造するキャパシティを超える、あるいは規定の配送時間を超えると予測できる場合は、新工場をベンダーが建設する流れになる。ただし、新工場を1店、5店で回していくと、スタート直後は赤字になるので、隣接するエリアの既存店への配送を新工場に付け替える措置がとられる。そうすると、立上げから100店、200店の製造ロットで回せるという仕組みである。この場合は、新工場も既存のスキームを踏襲するしかなく、新しい仕組みを試すことはできない。

しかし、沖縄の場合は、隣接エリアの協力は物理的に得られないので、いちから立ち上げることができる。

まずデイリー商品の製造アイテム数を、既存の120から80~100アイテムに絞り込んだ。発注締め時刻を11時から9時に前倒し、既存では可能だった2便、3便の追加修正発注を「不可」にした。そしてデイリー納品便体制を(おにぎりとサンドイッチを除いて)2便制としたのだ。簡単に言えば、製造から販売に至るサプライチェーンの仕組みをシンプルにしたということだ。その結果、1日9台の店舗への納品が沖縄では6台まで合理化できた。

1日1店舗9台の配送車を6台にする実験を沖縄で実施している(画像は東京・杉並区)

製造工場、配送会社、そして店舗も、人手不足であり、特に深夜に関して人手不足はより顕著になっていく。お客への影響は軽微だと考えて踏み切った措置であろう。

サプライチェーン全体の負荷を軽減すべく、四国エリアでは定温弁当のさらなるチルド化を推進、北海道と長野では、新商品の納品日を火曜日に集中させるのではなく、各曜日に平準化、北海道では、通常の一品一品の検品を、通い箱ごとの検品で済ませる仕組みが構築できないかのテストを続けている。

チルド惣菜はレトルトパックのセブンプレミアムも加わり充実度を増している(那覇市の店舗)

高橋氏は「沖縄スキームがきちんとはまったら全国2万店に早急に普及させたい」とサプライチェーンの変革を推進する構えだ。

戦後、日本商業の指導的な役割を担った倉本長治は「店は客のためにあり、店員とともに栄える」と商業者にメッセージを残した。

その言葉をお借りすれば「店は客と、そこに関わる全ての人のためにあり、地球環境とともに栄える」になっていくのかもしれない――――。

レシート調査で判明!カインズ・コーナン、ホームセンターが好調な理由

全国のアンケートモニターから独自に収集する「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」から、コロナ禍での消費者購買行動や背景を分析しています。今回は、「ホームセンター」における購買行動です。ホームセンターは店舗数が増え続ける一方で、市場規模は4兆円弱で横ばいが続いていますが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛により、DIYやガーデニング用品などを中心に需要が増えています。

コロナ禍の影響?53%のお客が1人で来店

まずは、利用者の動向の実態を明らかにするために、全国のPOB会員を対象に、ホームセンターの利用に関するアンケート調査を実施しました。(N=3788人、2020年1月7日~11日実施)

はじめに、「直近半年以内のホームセンターの利用」を尋ねると、全体の3788人中、6割以上にあたる2288人(平均年齢52歳、既婚7割)が「利用経験あり(60.4%)」と回答しました。「主に誰と来店するか」を尋ねると、意外にもそのうちの、半数以上が「一人で来店する(53.2%)」と回答し、「配偶者・パートナー(31.5%)」、「家族(14.2%)」、「友人・その他(1.1%)」と続きました。スーパーや飲食店などが併設されているチェーンもみられますが、コロナ禍ということもあり、最少人数で来店する人のほうが多いようです。

日常づかいのホームセンターは地域でバラバラ

次に、「日常的に利用されているホームセンターの実態」を探るため、今回は北海道(N=93人)・東北(N=100人)・関東(N=1165人)・中部(N=331人)・関西(N=402人)・九州/沖縄(98人)をセレクトし、各エリアで利用されているチェーンを調査しました。※()内N数は、直近半年以内にホームセンターの利用経験があると回答した人。

まず北海道では、「ホーマック(DCMホーマック株式会社、北海道)74.2%」が、およそ8割と圧倒的な支持を集め、東北においても2割(22.0%)の人が、日常的に利用すると回答していました。

中部をみると、同じくDCMホールディングスの「DCMカーマ(DCMカーマ株式会社、愛知県)32.6%」が最多回答となり、九州では「ホームプラザナフコ(株式会社ナフコ、福岡県)16.3%」が選ばれていたことから、地方では、地域密着型のホームセンターの根強い人気があることがわかります。

次に、関東では、「カインズ(株式会社カインズ、埼玉県)18.5%」、「島忠(株式会社島忠、埼玉県)18.0%」となり、関東を中心に展開するチェーンが続きました。関西では出店数の多い、「コーナン(コーナン商事株式会社、大阪府)56.0%」が、半数以上が日常的に利用すると回答し、東京・神奈川にも進出しているため、14.8%と関東でも健闘していました。

売上高でみると、2020年2月期決算ではDCMホールディングス(計5,449億円)がカインズ(4,410億円)に業界首位の座を明け渡したことが話題になりましたが、傘下の持分法適用会社ケーヨーの売上高を加えれば依然首位となり、コーナン商事(3,746億円)が続きます。※()内売上高は、2020年2月期または3月期

かつてコメリとコーナン商事が業界2強とみなされていましたが、カインズの躍進で業界地図が一変し、さらに大型M&Aで生まれた新勢力も上位をうかがう構図に変化しています。

ホームセンター選択の基準は「自宅からの近さ」

次に、「日常的に利用するホームセンターを選択する際に重視すること」を尋ねると、「自宅から近い・アクセスがよい(64.7%)」が最多回答となり、「必要な物が売っているから(36.3%)」、「安いから(21.5%)」を大きく引き離し、スーパーやドラッグストアと同様に、身近な場所にあることが重要視されています。

アンケートで「ホームセンターに来店する際の手段」を尋ねると、7割が「自家用車(68.2%)」と回答しており、「駐車場がある・広い(15.8%)」ということも選択する上でのポイントとなりうるようですが、コーナンの利用者からは、「自宅に車がなくても軽トラックの貸し出しをしてくれる」といった声があり、各社独自で行う顧客サービスとして、重い物や自家用車に入らない大型家具などの運搬用に軽トラック貸し出しを行うチェーンも多いようです。

高品質・低価格のPBを支持する声多数

では、ホームセンターではどのような商品が購入されているか、「直近半年でホームセンターの利用経験がある」と回答した2288人に購入した商品カテゴリーを尋ねると、最多回答は「日用品(77.1%)」で、続いて「掃除・洗濯・バス用品(49.0%)」、「キッチン雑貨(41.3%)」と生活必需品・雑貨が上位を占める中、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、自宅でのDIYや園芸がブームとなった背景もあり、「DIY・工具・材料(33.5%)」、「園芸・ガーデニング用品(30.8%)」のような生活必需品以外でも、3割以上の人が「購入経験あり」と回答しました。

上位カテゴリーを分析すると、「DMCブランドの洗濯洗剤が無添加で肌にも衣類にも優しい」「カインズのPBの消臭剤は安くてパッケージも可愛い」「コーナンブランドの除菌シートが安くておすすめ」など、全体的に高品質・低価格なPB(プライベートブランド)を支持する声が多くみられました。他にも、「園芸用の用土など、期間限定セールもありお得に買える」といった、ホームセンターでの品揃えが多い商品のキャンペーンや、「洗剤・ハンドソープなどの大型サイズの詰め替えはホームセンターにしかないので便利」といったユニット単価が安くなる商品の売り方が、購入につながっていることがわかりました。

コロナ禍で買い上げ金額大幅アップ!

次からは、ホームセンターの利用実態をさらに深堀するために、レシートデータから分析します。今回は、カインズ、コーナンのホームセンター2チェーンの他、日用品購入の競合となりうるドラッグストア全体における、コロナ感染拡大前の20年1月~3月と、感染拡大後の7月~9月を比較しPOB会員の購入レシートデータから定量的な観点で分析しました。

まず感染拡大前の20年1月~3月と、感染拡大後の7月~9月の購入状況をみると、購入点数は、3点~5点となりました。購入金額は、カインズは1,947円→2,432円(485円アップ)、コーナンは1,261円→1,652円(391円アップ)に増加し、ドラッグストア全体の1,277円を上回る結果となりました。一般的にドラッグストアよりも来店頻度が低いため、まとめ買いにより1回の買い物金額が高い傾向があることが言えますが、コロナ禍によりホームセンターの需要が高まっていたことがデータからわかります。

また、当社のPOB会員の年齢層が40代~50代が中心であることに特性を受けているため参考データとなりますが、カインズとコーナンにおける利用者の変化をみると両社共通して20年1~3月と7~9月の比較では、男女ともに30代以下が増加しており、またカインズでは40代男性の増加傾向もみられました。

コロナ禍が追い風となり、今までホームセンターで買い物をしたことがない人や、あまり行く習慣がなかった人の来店機会が増え、若年層の利用を取り込んでいることがうかがえます。

では実際に、ホームセンターではどの商品カテゴリーが購入されていたのか、20年7~9月のカインズとコーナンのレシート購入金額全体に占める商品カテゴリー構成比をみると、「日用品」が最多となり、カインズ59.5%、コーナン76.5%でした。レシート表記をみると、いずれも「ごみ袋、食品ラップ、ペット用品」などのコロナ感染拡大前から購入されていた商品の他、「マスク、消毒液」などの感染症対策商品、コロナ禍で需要が高まった「園芸用品、工具、木材」などが購入されていました。

また、コーナンでは、セリアやダイソーといった100円ショップが併設店舗の商品を同時会計ができるため、100円雑貨のレシートが多くみられたため、両社の「日用品」構成比において、17pt差が生まれていたことが想定されます。

ほかにも、カインズでは「食品」7.8%、「飲料」6.4%、「酒類」5.5%の構成比がコーナンよりも大きい特性があります。ホームセンター各社はPBに力を入れていますが、カインズのレシートからは、日用品や日用雑貨などのホームセンターで購入されやすい商品カテゴリーのほか、菓子や米、水だけではなく、乳酸菌飲料や新ジャンルビールなど、多岐にわたるカインズオリジナルPBが消費者に支持されており、そういった商品戦略が購買行動を促進させ、客単価が高くなっていることが予想されます。(POBデータ分析①参照)

ライフスタイル提案などまだ伸びしろあり

最後にアンケートで、ホームセンターに対する要望を尋ねると、「品揃え・安さ」だけではなく、「欲しい商品が必ずある・みつけやすい」、「商品や専門知識のある店員がいる」といった声が多く挙がりました。

品揃えや価格、商圏が狭い点においては、ホームセンターよりもドラッグストアに優位性があるため、客足を奪われやすい傾向があり、各社商圏を越えたアプローチをするためにネット通販にも力を入れていますが、ホームセンターが運営するオンラインショップでの購入経験がある人はわずか2割にとどまりました。(N=2288人、直近半年以内にホームセンターで購入経験あり)デジタル技術を取り入れストレスフリーで買い物ができ、顧客との接点を増やすといった施策においては、まだまだ伸びしろがありそうです。

また、店内商品の販売にもつながるワークショップの開催や、コーナンでは、ペット愛好家をターゲットに動物病院の併設店舗を増やすなど、限られた来店の頻度の中で、生活必需品の割安感だけではなく、ライフスタイルを豊かにするため質の高い商品やサービスを提供し続けることが、コロナ禍で増えた新規顧客をロイヤルカスタマーとして引き込み、成長していくための有効な施策となるのではないでしょうか。

[調査概要]
N=3788人(関東地方2111人、関西地方618人、中部地方477人、東北地方146人、九州/沖縄地方145人、北海道地方127人、中国地方120人、四国地方44人)

調査対象:全国のPOB会員アンケートモニター
調査日時:2021年1月7日~11日
調査方法:インターネットリサーチ
調査機関:ソフトブレーン・フィールド

POBデータ分析①②:マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇから分析、レシート枚数
2020年1月~3月合計(ホームセンター:カインズ1,910枚、コーナン2,216枚、ドラッグストア全体:126,924枚)
2020年7月~9月合計(ホームセンター:カインズ3,423枚、コーナン4,040枚、ドラッグストア全体:187,065枚)

アマゾンハブ、BOPISで客数と客単価を増やす

ファミリーマートが「アマゾンハブ」を導入します。純増店舗数が横ばいもしくは減少傾向のコンビニは、新店よりも既存店の売上を増やすことが重点政策に変化しています。アマゾンロッカーを設置することで、「来店目的」を増やし、既存店の客数増を目指しているようです。

アマゾンロッカー利用客の60%は商品を購入する

日本全国での展開を計画している「アマゾンハブ」は、2つの受け取り方法があります。アマゾンで注文した商品を無人で受け取る「アマゾンロッカー」方式と、受け取りカウンターで人を介して商品を受け取る方式です。

アメリカでは2012年頃からアマゾンハブの導入が進められています。アメリカの「セブンイレブン」、DgS(ドラッグストア)の「ウォルグリーン」、スーパーの「セーフウェイ」などの店内にアマゾンロッカーが設置されています。

5年ほど前にニューヨークのマンハッタンにあるアマゾンロッカーを設置したセブンイレブンで話を聞く機会がありました。店のマネージャーによれば、ロッカー設置店舗は未設置店舗よりも客数が多く、ロッカー利用者の60%は店舗で買物し、店舗だけの利用者と比較して客単価は2倍にもなるそうです。

つまり、アマゾンロッカーに商品を受け取りに来ることで、客数が確実に増えます。また、来店客の60%は店内で衝動購買し、店舗だけの利用者よりも買上点数が多いので客単価が高い優良顧客です。この3つが、アマゾンロッカーを設置したリアル店舗のメリットです。

オンライン注文→店補受取で客数と客単価を増やす

3年間で1万5,000店補の店が閉店する大量閉店時代に突入したアメリカ小売業界は、新店投資で売上を増やすよりも、オムニチャネル化で既存店、既存顧客の売上を増やす戦略に大きく変化しています。

日本では、DgSは「大量出店時代」の真っただ中ですが、コンビニの出店に急ブレーキがかかるなど、他の業態の新規出店ペースは減速しており、既存店の売上を増やすことが重点経営課題に変化していくと思われます。

3年間で約1万5,000店も閉店したアメリカ小売業は、日本の未来か!?

既存店の売上(客数×客単価)を増やすためのひとつの方法が、地域に暮らす生活者の「買物目的」を増やすことです。アマゾンロッカーを設置することも、来店目的を増やす手段のひとつです。さらに、重要なことは商品を受け取りに来店したお客の「衝動購買」を誘発し、買上点数を増やすことです。

「BOPIS」という新しいサービスを拡大することで、アメリカの「ウォルマート」は、新店をつくらないで既存店の売上を4%も増やしました(2019年決算数値より)。BOPISとは、「Buy Online Pick-up In Store」の頭文字をとったものです。スマートフォンで注文した商品を、お客が店舗で受け取るサービスです。

アプリで注文して駐車場で受け取る「カーブサイド・ピックアップ」に注目

オンラインで注文したお客の60%以上は、店舗受け取り(BOPIS)を選択するそうです。宅配よりも店舗に取りに行った方が、時間を自分で選べるし、便利と考えるお客が多いことがわかります。つまり、BOPISのサービスを導入することで、来店目的が増えて、既存店の客数が増える効果があります。

また、アマゾンロッカー同様に、BOPISで来店したお客の多くは、店舗でなんらかの商品を購入するそうです。ウォルマートの「ピックアップタワー」(オンラインで注文した商品を無人で受け取るタワー)の近くには、衝動購買を誘発する商品を陳列する売場を設置しています。

ウォルマートのピックアップタワー。全店導入も間近。

日本もこれから人口が減少し、オーバーストアによって1店舗当たりの商圏人口は減少していきます。「買物目的を増やす」→「客数を増やす」→「衝動購買で買上点数を増やす」ことに貢献する店舗受け取りサービスを提供することは、狭小商圏で売上を増やすための重要な選択肢だと思います。

スーパーやDgSの店頭に設置している「給水サービス」も、水を汲みにくるという来店目的を増やして客数を増やすサービスですね。物販以外の「サービスで客数を増やす」という戦略は、これからは重要だと思います。

PB、ポイント、かかりつけ薬局…レシート分析から見えたお客のDgS評価軸

ココカラファンを巡るマツモトキヨシHD、スギHDの争奪戦は、マツモトキヨシHDに軍配が上がり、経営統合となれば売上高1兆円の「メガドラッグ」が誕生します。そこで今回は、「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」(以下POB)から、アンケートモニターから独自に収集する「ドラッグストア」の購買データ(レシート総枚数:約40万枚)から、2018年下期(7月~12月)から2019年上期(1月~6月)におけるドラッグストアでの購買行動を分析します。

POB会員のシェア1位はウエルシア、2位ツルハ、3位マツキヨ


POB会員のレシート購入金額から売上シェアを比較すると、19年上期は「1位ウエルシアG(東京都)」、「2位ツルハG(北海道)」、「3位マツモトキヨシG(千葉県)」、「4位サンドラッグ(東京都)」、「5位スギG(愛知県)」と続き、「6位コスモス薬品(福岡県)」が微増で、「6位クリエイトSD(神奈川県)」と同率となります。※()は本社所在地を記載。

2018年下期と2019年上期ともに大きな変化はみられず、チェーン別レシートシェアは1位から10位までの10社で7割を占めていることがわかりました。


エリア別では、「ウエルシアG」は傘下に入ったチェーンにより甲信越で、2018年下期9.9%から、2019年上期27.8%(17.9ポイントアップ)で大幅にシェアを伸ばしていることがわかります。

また、「ツルハG」は北海道・東北、「コスモス薬品」は九州・沖縄といった、地場の特定地域に大量出店をするドミナント戦略で、シェアを獲得しています。

そして、中国/四国エリアについては、レシート購入金額上位10社以外のチェーンの割合が2018年下期および、2019年上期どちらも半数を超え、「レディ薬局(愛媛県)」、「ザグザグ(岡山県)」といったエリア独自チェーンでの購入金額が高くなる傾向がわかり、各エリアの特徴が表れました。※()は本社所在地を記載。

次に、レシート購入金額上位10社におけるチェーン別のカテゴリ構成と、購買コメントを分析します。


チェーン別カテゴリ構成では、「クリエイトSD」「コスモス薬品」「カワチ薬品」「クスリのアオキ」は「食品」が大きな比重を占め、2018年下期と2019年上期を比較するとカテゴリ比率も高まっています。理由は、「日用雑貨」や「医薬」等を購入する際の”ついで買い”ではなく、スーパーのように利用する”目的買い”が増加していることが伺えます。

一方で、「マツモトキヨシG」は、「食品」カテゴリ比率は1割に満たず他チェーンと差別化を図っていることがわかります。「ココカラファインG」は、「マツモトキヨシG」を押さえて、10社の中で「美容・健康」の割合がもっとも高いことがわかりました。

企業の強みが明確に出る購買者コメント

5社をセレクトして購買コメントをみます。※以下、()内は2019年上期数値

◆ウエルシアG:PBやTポイントが魅力

「日用雑貨(24.0%)」「食品(23.1%)」と生活必需品のバランスがよいカテゴリ構成。イオングループのためPB(トップバリュ)の取り扱いや、共通ポイントの[Tポイント]が利用できる点などが集客につながっていることが考えられます。

「ウエルシアのTポイントは通常100円で1P付くが毎月20日はTポイントで支払うと1.5倍の買い物ができるため、高値のキュレルはこの日に購入(40代女性)」

「トップバリュのバーリアルは、他のメーカーより値段が手ごろでおいしい(30代女性)」

◆マツモトキヨシG:PBのブランド力つよし

「日用雑貨(28.0%)」に次いで、「医薬品(15.9%)」は10社の中でもっとも割合が高く、背景は2015年にコンセプトを刷新したPBにあることが考えられ、包装デザインや機能を重視した医薬品や日用品の「matsukiyo」、化粧品「ARGERAN(アルジェラン)」といったブランド力をアピールする販促により「美容・健康(12.6%)」のカテゴリ比率も高いです。

「いつもはコンタック600プラスを使用しているが、特売していなかったので、matsukiyo新ノスポール鼻炎カプセルを薬剤師に勧められ購入。経済的で良い(40代女性)」

「オーガニックの文字に惹かれてオイルリップスティックの購入を決めた。マツモトキヨシのPB商品で他にはない特別感がある(30代女性)」

◆スギG:かかりつけ薬局として支持される

「日用雑貨(29.1%)」、「食品(18.4%)」、「医薬品(12.8%)」今年4月には全店に調剤薬局を併設する方針を発表しており、かかりつけ薬局として支持されていることがコメントからも読み取ることができます。

「娘が目のかゆみを訴えたので、病院に行く前に市販薬で様子を見る予定でしたが、まずは薬局に行って薬剤師のアドバイスをもとに目薬を購入。娘も嫌がらずに目薬をしてくれます(40代男性)」

「風邪薬を購入予定でコーナーへ行くと、丁寧な説明書きがあり、とても効きそうな感じがしたので購入を決めた(40代女性)」

◆コスモス薬品:食品の日常遣いの店として人気

各社カテゴリ構成において「日用雑貨」が大きな比重を占める中、コスモス薬品は「食品(44.3%)」と高く抜きんでています。レシートデータから詳細をみると「生鮮・惣菜(19.2%)」となり、日配品などの品揃えが豊富で、日常遣いされていることがわかります。また、”目的買い”をする購買コメントも数多く、スーパーとの価格競争にも対応出来ていると言えるだろう。

「スーパーやコンビニより安く買えるので、高いチョコレートを買うときはコスモスで購入(30代女性)」

「コスモスではいつもダノンビオが安いので購入(40代女性)」

◆ココカラファインG:化粧品の品揃えで支持集める

「日用雑貨(30.8%)」、「美容・化粧品(17.1%)」において10社中もっとも割合が高く、特に「美容・健康」は、2位のマツモトキヨシG(12.6%)に、4.5ポイント差をつけています。化粧品の豊富な品揃えや美容部員の対応の良さが、女性からの支持を集めています。

「担当の美容部員に相談しファンデーションを購入しました。自分の肌に合っていると思う(50代女性)」

「新しい口紅を買おうと、品揃えが多いココカラファインに入店。新商品のテスターで試してみて購入(30代女性)」

客単価1,107円~1,489円、平均購入点数3.6個~7.9個

次に、カテゴリ構成に特徴があった「ウエルシアG」、「マツモトキヨシG」「スギG」「コスモス薬品」「ココカラファインG」の5社をセレクトし購入状況を分析します。


レシート1枚あたりの平均購入金額は<1,107円~1,489円>、平均購入点数<3.6個~7.9個>1アイテムあたりの平均単価<209円~281円>となります。詳しくみると、食品のカテゴリ構成が高い「コスモス薬品」は平均購入個数が7.9個と抜きんでて高くなる傾向がありますが、平均レシート金額や1アイテムあたりの平均単価にあまり大きな差は生じていないことがわかりました。

購入のピークがくるのはポイントアップデー

最後に、レシート購入金額上位10社における、曜日別のレシート購入金額シェアを購買コメントとともに分析します。


曜日別シェアをみると、各社平均して土日に購入金額のピークがあり、なかでも「スギG」は、土日の”ポイント5倍デーや10倍デー”実施で4割のシェアを獲得していることがわかります。

「このお店がポイント5倍だったためお店に行き、ニベアのチューブタイプのクリームがチラシ商品で安く購入(30代女性)」

「サンテメディカルアクティブは安売りの対象になりにくいため、ポイント10倍デーで購入(40代女性)」

「ウエルシアG」は、月曜が”ポイント2倍デー”によりもっともシェアが高まっていることがわかります。

「ポイント2倍が貯まる月曜日にダヴを購入。しっとり癒される香りが気に入っています(40代女性)」

「ウエルシアがポイント2倍デーに合わせてボールドを買うようにしている(40代女性)」

食品カテゴリの比重が高い「クリエイトSD」「コスモス薬品」は、平日でも10%程度の購入金額割合を維持。チラシの集客や陳列による商品アピールが購買を後押ししていることが伺えます。

「チラシで、いつもより安く買えることが分かっていたので、来店。この値段で買えて満足(30代女性)」

「特設の売り場にこの商品が陳列されており目に入ったため、この商品を購入(20代女性)」

「クスリのアオキ」は、日曜と水曜に”ポイント3倍または5倍実施”により、この2日間で、週間6割以上の購入金額割合を確保していることがわかります。

「日曜日にアオキで買うと底値でポイント3倍デーお得なのでストックすることにしている(40代男性)」

「広告の品でいつもより安くさらに水曜日はポイントが3倍なのでおむつを購入(40代女性)」

今回の分析結果から、チェーン別レシート購入金額シェアについては、2018年下期と2019年上期ともに大きな変化はみられず、1位から10位までの10社で7割を占めていましたが、エリア別でみると経営統合などにより大幅にシェアを伸ばすチェーンや、地場の特定地域で大きなシェアを獲得しているチェーンなど特徴が表れていました。

また、個性豊かなカテゴリ構成や、購入者の声からは、調剤やPBなど、スーパーとの価格競争にも対応できている点など、各社の強みが浮彫となりました。曜日別シェアからは、ポイントデーや各種キャンペーンなど様々な販促を認知し、ストック購入や日々の生活必需品、高額商品の購入など上手に活用していることがわかり、店頭施策の強化も重要視されそうです。

消費者ニーズを巧みにとらえるドラッグストア市場は、まだまだ拡大の余地があると言えるでしょう。

調査概要
※図表1~5:ソフトブレーン・フィールド株式会社「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」調査期間18年下期(7月~12月)から19年上期(1月~6月)におけるドラッグストアる購買レシート40万枚分析結果。

[米国小売業リポート2019]新規出店コストを減らしEC、IT関連投資強化するウォルマート

実店舗とオンラインを融合させたオムニチャネル戦略を推し進めるウォルマートは、ECへの注力やロボットを使った業務の自動化に取り組んでいる。(リサーチ・文/佐野恵子 月刊マーチャンダイジング2019年9月号より転載)

オムニ戦略を推進
ネット注文、店舗受取り促進

ウォルマートはアメリカ国内はもとよりイギリス、メキシコをはじめ世界27ヵ国において合計1万1,000店舗以上を展開するほか、国内外で数々のECサイトを運営している。毎週ウォルマート・グループの店舗とECサイトを利用する顧客の数は2億7,500万人にも上る。

米国内ではスーパーマーケット(SM)を併せ持つディスカウントストア(DS)、スーパーセンター(SuC)が基幹業態となっており、2019年1月期末に米国内で展開していた5,368店舗の店舗ベースの66.5%が大型のSuCとなっている。国内ではSuCに加え、DS、会員制ウエアハウス・クラブのサムズ、そしてSM、ドラッグストア(DgS)のコンビネーション・ストアであるネイバーフッド・マーケットを展開。ほとんどどのネイバーフッド・マーケットには大手DgSの店舗と同じように調剤のドライブスルー・サービスが提供されており、ガソリンスタンドを併設する店も多い。

2019年期も実店舗とオンラインを融合させたオムニチャネル戦略を推し進め、新規出店投資を削減しEC関連の投資を強化した。オンラインで注文した食品を店舗の駐車場で受け取るオンライン・グローサリー・ピックアップ(カーブサイドピックアップ)の対応店舗は期末までに2,100店を超えたほか、オンラインで注文した食品を店舗のパーソナル・ショッパーが集め顧客の自宅まで届ける宅配サービス、オンライン・グローサリー・デリバリーを提供する店舗の数も800店に増えた。

アプリで注文して駐車場で受け取る「カーブサイド・ピックアップ」に注目

 

インドの大手ECサイトを買収
インドでの事業展開を推進

2018年期にもECビジネスの規模拡大は続き米国内ではランジェリーや美術品などのECサイトを買収したほか、5月にはインドのEC最大手、フリップカート・グループの株式の77%を160億ドルで取得することを決定し8月に買収を完了させた。フリップカートの買収は過去最大規模。

ウォルマートは2007年にインドに進出したが外資規制が強いこともあり、会員制卸のベスト・プライスを21店展開するにとどまっていた。フリップカートの買収によりインドでは今後、ECを中心とした事業拡大を目指すものと考えられる。

業務の効率化、接客強化のため
ロボット化を推進

近年ウォルマートは店舗や配送センターで積極的にロボットを使った自動化を図っている。

2019年4月には2017年に試験運用を始め、期末までに360店で利用していた床磨きロボット「オートC」を1,500台、在庫をチェックするロボット「オートS」を300台、そしてトラックで配送された商品の荷下ろしを行う「ファスト・アンローダー」を1,200台、追加導入することを発表した。

床磨きロボット、オートCは最初に従業員が運転して走行ル―トを記憶させると、人や障害物を避けながらその後は自律走行で床磨きをする。また店舗在庫をチェックするロボット、オートSは夜間に店内を走行し、陳列棚にある商品の在庫量を確認、陳列場所や表示価格が正しいかもチェックする。一方、バックヤードで利用されるファスト・アンローダーは在庫チェック用のオートSと連携し、荷受け検品を自動で行い陳列場所に応じて商品を仕分けする。

単純作業のAIロボット化を一気に進める「ウォルマート」

2019年1月期財務振り返り
米国事業部、増収・増益

期末までに米国内でSuC3,570店舗、DSを386店舗、ネイバーフッド・マーケットをはじめとする小型フォーマットを813店舗、合計4,769店舗を展開。オンラインで注文した食品を店舗で受け取るグローサリー・ピックアップや食品宅配サービス、グローサリー・デリバリーの対応店舗を増やした効果もあり、ECの売上が40%増となった。

これに加え、既存店売上が3.7%増と高い水準で伸びたことで事業部売上は前期比4.1%増の3,317億ドル、従業員の待遇改善やEC事業への先行投資負担などで、減益が続いていた事業部の営業利益は2.3%増の173億ドルとなった。

粗利益率は計画的な売価の引き下げや運送費の上昇により0.28ポイント下がったものの、販管費率は生産性の向上、そして前期は出店取りやめによる不動産関連の経費減2億4,400万ドルがあったため、0.5ポイント改善された。

オンラインで注文したグローサリーを顧客が無料で指定した時間に店舗の駐車場でピックアップできるグローサリー・ピックアップを提供する店舗の数は期内に目標を上回る2,100店舗となったほか、30ドル以上購入すればオンラインで注文した商品を9ドル95セントで最短注文当日に自宅まで届けるグローサリー・デリバリーの対応店舗は800店舗近くに増えた。

2020年1月期末までにはグローサリー・ピックアップそしてグローサリー・デリバリーの対応店舗をそれぞれ3,100店と1,600店に増やすことを計画している。

[図表1]ウォルマート・グループ 財務ハイライト(単位:100万USドル)

ピックアップタワー500店増設
ピックアップ専用の実験店出店

一方、鮮度管理を必要としないオンラインで受注したノンフードの受け渡し方法の選択肢として、ウォルマートは2017年から約200店舗でピックアップタワーと呼ばれる無人のキオスクの実験を行っていたが、これが顧客に好評だったことを受け、今期、ピックアップタワーを新たに500店舗に増設、今後も積極的に拡大することを計画している。またテレビなどの大型商品も顧客が店頭でピックアップできるようにピックアップロッカーの設置が現在検討されている。

ウォルマートの新サービス 「ピックアップタワー」は宅配待ちストレスを解消する

ウォルマートはまた、オンラインで購入された商品のピックアップ専用の店舗を本社のあるアーカンソー州ベントンビルに実験的にオープンしているが、昨年9月にはシカゴ郊外にもピックアップ専用の店舗をオープンすることを発表、関係官庁の承認が得られれば2019年春にはオープンする。ウォルマートの近年のEC売上の飛躍的な伸びは利用客の利便性を高めるためのこうした絶え間ない努力の成果なのだろう。EC分野の投資拡大やさまざまな取組みはイーマーケターの2018年のEC販売シェア・ランキングでウォルマートがアマゾン、イーベイに次いでアップルを抜き3位に浮上していることからも、確実な成果として表れている。

[図表2]期末店舗数

AIの能力を実験するため店舗型の
研究施設を開設

新年度に入ってからもすでにいくつかの新たな取組みを行っている。6月には国内の1,000店舗近くの店舗のセルフ・チェックアウト・レジでスキャン漏れや盗難を防ぐためにAIを使ったミスト・スキャン・ディテクションと呼ばれるシステムの運用を始めた。同システムはセルフ・チェックアウト・レーンの上に設置されたカメラの画像をAIが分析し購入した商品が正確にスキャンされたかどうかを判断、間違いがあった場合には従業員に連絡され、スキャン間違いや盗難を防ぐ。全米小売業協会は、2017年アメリカの小売業界におけるスキャン漏れや盗難によるロス率はおよそ売上の1.33%、金額にして470億ドルと予測しており、ウォルマートの売上をベースに計算すると40億ドル以上がスキャン漏れや盗難により失われていたことになる。

また、店舗におけるAIの可能性を見極めるために今年4月、傘下のテク・インキュベーター「ストア・ナンバー8」がAIを導入して開発したインテリジェント・リテール・ラボ(IRL)と呼ばれる、店舗を再現した研究施設を開設。ラボにはセンサー、カメラ、それらから得た情報を処理するプロセッサーが設置され、棚在庫管理、作業の生産性改善からショッピング・カート管理、必要レジ数の管理まで幅広く行うなど、従業員の接客時間を増やすためにどのような店頭作業を人工知能に託せるかについて検証する。

2020年期第1四半期実績および最新の動向

米国ウォルマートは顕著なEC売上の伸びを受けて、2020年1月期の第1四半期末までにグローサリーピックアップに対応する店舗の数を2,450店舗に、オンラインで購入した商品の即日宅配サービス、グローサリー・デリバリーに対応する店舗の数を1,000近くにまで増やし、年末までに、それぞれ3,100店舗と1,600店舗に拡大することを計画している。通期ではECの売上高は35%前後増える見通しだ。

ウォルマートは近年、新規出店投資を削減しEC関連の投資を強化しているが、2月に始まった2020年1月期にはその傾向を一段と鮮明にしており、今期は、国内の新規出店を10店舗未満に抑えると発表している。海外ではメキシコと中国を中心に300店舗強の出店を計画、全体の設備投資額は前期と同水準の約110億ドルを維持する。

[図表3]事業部別売上 (単位:100万USドル)

[小売業働き方改革のリアル]総論賛成だが実行は不安。葛藤する人事担当者たち

月刊MDによるドラッグストアおよび小売業各社へのアンケート調査第3回。今回は社員やパートタイマーへの給与体系の見直しについて、取り組んでいる施策を聞いた。(月刊マーチャンダイジング2019年8月号より転載)(分析・執筆/社労士事務所ワークスタイルマネジメント・小林麻理 調査/月刊マーチャンダイジング編集部)

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雇用形態や就業形態にかかわらず見直し進む給与体系

Q8:「同一労働同一賃金(不合理な待遇禁止)」に関して取り組んでいる(取り組み予定の)施策は次のうちどれですか?

■パートタイマーに関する施策

■パートタイマー以外の非正規社員(派遣社員を除く)に関する施策

■正社員に関する施策

正社員の給与体系、人事評価制度の見直し進む

「同一労働同一賃金」対応については、大企業への適用が来年に迫っているとあって、パートタイマーや契約社員(有期雇用労働者)への「手当」「賞与」支給や給与体系の見直しにすでに取り組んでいる企業が目立った。とくにフルタイムの契約社員は、職務内容や責任に応じた待遇になっているかどうかは改めて注意したい。

そして、パートタイマーや契約社員だけでなく正社員の人事・評価制度や給与体系の見直しを取り組み中・取り組み予定とした企業も多かった。

雇用形態や就業形態にかかわらず、自社で働く従業員に対し、どのような人事評価を実施し、給与へどのように反映すべきかを、いま、まさに見直そうとしている企業の状況がうかがえる。

以下に、フリーコメントの一部を紹介する。

働き方改革は、国が主体で実施するというよりも、企業や従業員個人がその気にならなければなし得ないと考えます。働き方改革の本質は、効率アップというよりも、「楽しく働く」「やりがいを持って働く」というモチベーションだと感じます。
人手不足対応との両面で進める必要があり、かじ取りが難しいが、生産性向上により働き方改革を進めていく。また、働き方改革がESの向上に寄与することからも、人手不足の解消にもつながる可能性があり、着実に進めるべきと考える。
自分の仕事が終わらなくても、帰る社員が増加し、それを注意できない実情。流通小売業(とくに店舗)は、店舗で働いている人の総合力。自分の担当部門だけでは済まない。
従業員満足度が向上するのはよいことだが、行政の指針がわかりにくい(とくに同一労働同一賃金)。生産性が悪くなるのでは…。人件費コスト上昇も。
「働き方改革を推進しよう!」というようなスローガンばかりが独り歩きし、改革としてはなかなか進まない。本当の「働き方改革」とは残業を少なく、休みを多くだけではないと考えている。残業なし、規定の休みはしっかり取れることは当たり前として、働いている8時間の内容をどれだけ充実させられるか。一人ひとりがやりがいを持って、生き生きと働ける状態をつくりだす改革が望まれる。
さまざまな企業形態や企業規模があるなかで、一律の罰則規定を設けた働き方改革は、労働者を無視している施策である気がします。場合によっては、より格差を生む可能性があるので、せめて罰則ではなく、実績に基づく補助金や表彰などの施策であればよかったと感じます。弊社は今回の改革法を遵守しますが、客観的に見ると、遵守不可能な業種において、データの捏ねつぞう造などの不正が起こると予測しております。

「総論」賛成だが実行に不安という葛藤

全体を振り返ると、「働き方改革の方向性(総論)は賛成だが、実際の各対応においては、現場の不安や不満を感じている」企業が多いという印象だった。フリーコメントの量の多さからも、制度を推進する立場である人事担当者の葛藤のようなものが感じられた。

こうした葛藤は、組織として何も変化をしようとしない(結果「業務量」は変わらない)にもかかわらず、個々人の「頑張り」によって、残業削減を実現しようとしている企業であればあるほど大きくなるだろう。なぜなら、人事部では、従業員のための「働き方改革」にしたいというおもいがありつつも、結果的に、企業のための「法令違反回避策」として、現場に負担を強いることになってしまっているからである。

働き方改革の先を見据える企業も

働き方改革は、「長時間労働は美徳である」「職務内容や仕事の価値にかかわらず、雇用形態によって給与額が大幅に違うのは当然である」といった、これまで日本人が当たり前としてきた「価値観」自体を覆すものでもある。それに対する現場の戸惑いは大きいだろう。

しかし、アンケートの具体的な声の中には、そうした「価値観」の転換に向き合いながら、法対応のその先の理念を実行しようとする意気込みを感じられるものもあった。

たとえば、「残業なし、規定の休みはしっかり取れることは当たり前として、働いている8時間の内容をどれだけ充実させられるか。一人ひとりがやりがいを持って、生き生きと働ける状態をつくりだす改革が望まれる」といったものである。他社の具体的な取り組み状況はもちろん、こうした声もぜひ、参考にしていただきたい。

調査概要

  • 調査時期/2019年6月
  • 調査方法/無記名式書面アンケート
  • 有効回答数/設問によって異なる(各図表に明記)
    ※グラフ表記については、小数点以下四捨五入のため、100%にならない場合もある。

回答者属性

  •  協力社数/25社ドラッグストア22社、食品スーパー1社、総合スーパー1社、ホームセンター1社
  •  対象者/人事もしくは労務部門の責任者、総務、店舗運営部門などに所属する担当者(各社1名が回答)

極上のごきげんストアソング「ラブリイ エブリイ」。ウキウキビートの秘密に迫る!!

ストソン探偵、西へ…。今回の舞台は広島県福山市に本社を置く食品スーパーマーケット「エブリイ」。思わずステップを踏みたくなる楽しげなストソン「ラブリイ エブリイ」の秘密に迫ります。(月刊マーチャンダイジング2019年9月号から転載)



※ももいろクローバーZ「オレンジノート」「いつだって挑戦者」/AKB48「ヤンキーマシンガン」/SKE48「1!2!3!4!ヨロシク」/NMB48「プライオリティー」/乃木坂46「遥かなるブータン」「シークレットグラフィティー」ほか多くの作・編曲に携わる

[小売業働き方改革のリアル]5日間の有給取得義務化は7割超の企業が実施済み

月刊MDによるドラッグストアおよび小売業各社へのアンケート調査第2回。今回は有給取得義務化について、具体的な施策や従業員の反応などを聞いた。(月刊マーチャンダイジング2019年8月号より転載)(分析・執筆/社労士事務所ワークスタイルマネジメント・小林麻理 調査/月刊マーチャンダイジング編集部)

前の記事「労働時間削減に8割弱が肯定も、残業代減への不安残る」はこちら

有給取得義務化に対する施策実施済み企業は7割超

Q5:5日間の有給取得義務化に対し、従業員向けになんらかの施策をしましたか?または予定はありますか?

全従業員実施済みが7割超。ただし検討中の企業も

「有給取得義務化」は4月から適用が開始されている法律の対応とあって、全従業員へなんらかの施策を実施している企業が7割超(75%)となった。ただし検討中の企業もあり、今後の対応が急がれる。

法定有給「20日」のうち「5日」の取得や、パートタイマーの有給取得に対して感じるハードルは、企業によってかなり差があるだろう。しかし、とくに家庭の事情を抱えていることが多いパートタイマー人材には、有給制度の運用実績が募集時のアピールポイントにもなる。ぜひ人材獲得にプラスになると捉えたい。

また、義務化にあたっては、続くアンケート調査にもあるように取得させる方法はさまざまである。自社の状況を踏まえて、組み合わせるとよいだろう。

Q6:有給取得義務化に対する具体的な施策は?

■5日取得義務化を実行するための方法について

計画年休や推奨日の設定など多様な施策で対応

周知・指導だけでなく、期日を設ける、期間を区切るなど方法は分かれた。また、企業や個人単位で計画年休を導入したり、推奨日を設定するなど各社の工夫が見られる。

その他には、「長期休暇取得制度」の取組みもあった。従業員が「一定期間職場を離れる」ことは、従業員自身がリフ㆑ッシュできるのはもちろん、業務の「属人化(特定の人に仕事がつき、その人がいないと業務が回らない状態)」を防ぐ効果もある施策だ。

■店舗・組織運営上の有給取得推進の工夫

雰囲気づくりがトップ。新規人員の採用や閉店も検討

施策の中では、「休みやすい」雰囲気づくりがトップだった。漠然とはしているものの、「休みづらい」雰囲気の日本企業にとっては、これも立派な施策のひとつといえる。続く「新規人員の採用」がうまくいくかどうかは、従業員のための「働き方改革」ができているかに左右されるといえる。さらに、営業日・時間を減らす、閉店を検討している企業もあった。

■人事労務管理上の工夫

データ整備が最多。導入予定はシステムが最多

この機会に有給管理簿をデータで整備したという企業がもっとも多かった。紙の整備でも法律的には問題ないが、少なくともデータ整備、できればシステムの導入をおすすめする。

有給を適切に管理するのはもちろん、従業員の勤怠管理を人手で管理する手間は極力、効率化しておきたいところ。それが、バックオフィスの働き方改革につながるだろう。

施策の実施で「自身の計画が崩れる」という意見も

Q7:有給取得義務化に関して従業員の反応はどのようなものですか?

フリーコメントを一部紹介する。

◆どちらかといえば肯定的である

責任感の強い従業員は、時間短縮で仕事の精度が下がることを懸念している傾向が見受けられる。
有給取得が進むことにより業務が滞る・負荷が増えることを危惧する従業員はいる。
いままでなかなか利用できなかったため、積極的に利用していきたいが、現場の状態を考えると不安が残る。

◆どちらともいえない・わからない

従業員の個人的な意見としては有給休暇の取得日数が増えることに肯定的であるが、所属長はじめ管理者からすれば労働時間の減少になるため否定的である。
病気になったときなどのためにあえて消化したくない従業員もいる。
有給付与期間の設定により、自身の計画がずれるといわれた。いままでは、有給の使用に関して推進してきたのだが、かえって使用の制限が発生するようになってしまったから。

実際の取得には不安も多い

「とても肯定的である」+「どちらかといえば肯定的である」が8割弱(76%)と有給取得義務化自体には肯定的との見方が大勢を占めた。

必要時に取得できるようにするのはもちろん、普段できない家庭や地域の役割を担う日、生活者としての視点を磨く日として、積極的に有給を利用できるとなおよいだろう。

また、職場のだれかがいつでも有給を取得できる状況をつくることは、Q6でも触れた業務の「属人化」防止にも効果的である。有給取得によって業務が滞ることや、作業品質の低下を不安視する現場を心配する声も一定数ある。こうした不安の声を払拭するためにも、業務の見直しと改革を進めたい。

調査概要

  • 調査時期/2019年6月
  • 調査方法/無記名式書面アンケート
  • 有効回答数/設問によって異なる(各図表に明記)
    ※グラフ表記については、小数点以下四捨五入のため、100%にならない場合もある。

回答者属性

  • 協力社数/25社ドラッグストア22社、食品スーパー1社、総合スーパー1社、ホームセンター1社
  • 対象者/人事もしくは労務部門の責任者、総務、店舗運営部門などに所属する担当者(各社1名が回答)

「側面接客販売」がドラッグストアの売り方

月刊マーチャンダイジングが毎年12月号で特集している『顧客満足度調査』。本年の調査の途中経過を見ていると、ドラッグストア(DgS)の売り方は、まずはセルフで商品が選びやすいことがもっとも重要であると感じます。

セルフで選びやすいことが顧客満足向上のポイント

顧客満足度調査は、全国の500店のDgSを、主婦のミステリーショッパー(覆面調査員)が訪問し、クリンリネス、レジ応対、接客などの調査項目を採点し、もっとも顧客満足度の高い企業と店舗を決定する企画です。

その中に「総合満足度」という調査項目があります。調査の最後にミステリーショッパーが「この店は友人・知人に自信をもって推薦できる店ですか?」という質問に10段階評価で回答するものです。総合満足度の高い店は、顧客の「再来店意向が強い店」つまり「固定客がつきやすい店」と評価します。

さらに、「相関係数」という統計的な指標を活用して、総合満足度に相関の高い調査項目を数値化します。総合満足度と相関の高い調査項目は、その項目を改善すれば、総合満足度に直結することになります。

今年の調査では、接客の重要性の高い[医薬品]に関して、「目薬は疲れ目、かすみ目、ドライアイ、コンタクト等の機能別、悩み別にわかりやすいく分類されていて、見つけやすかったですか?(メーカー別に分類されていて、その中で機能別、悩み別に分類されているものも含む)」という質問が総合満足度と相関の高い調査項目でした。一方で、「風邪薬売場で商品を探していた時、店舗従業員からの声掛けはありましたか?」という調査項目は、総合満足度との相関が低いという結果になりました。つまり、声かけをしても総合満足度は高まらないようです。

もちろん、買物客ではないミステリーショッパーなので、「声をかけられて調査しにくくなった」という理由で顧客満足度との相関が低いという結果になったのかもしれません。しかし、DgSに顧客が求めていることは、「まずはセルフで選びやすい」ことだというのは間違いないと思います。

質問されたら親切に対応する接客が重要

また、医薬品同様に接客が重視される化粧品でも、「洗顔料はブランド別、悩み別、剤型別(泡洗顔、チューブ、石鹸等)にわかりやすく分類されていて、見つけやすかったですか?」「テスターは清潔に保たれており、周りは整備されていましたか?」という調査項目が、総合満足度との相関が高いという結果でした。「わかりやすい分類」で「きれいな売場」であることが、固定客化のために重要であることがわかります。

化粧品の接客に関しては、「ファンデーションは何が良いかと聞いた時、悩みのヒアリングや、具体的な商品の提案はありましたか?」という調査項目が、総合満足度との相関が高いという結果でした。つまり、まずはセルフで選びやすく、クリンリネスが維持されており、「質問には丁寧に答えてくれる店」の総合満足度が高いことがわかります。

デパートのような「対面接客販売」とは異なり、自由に商品を選べるが、質問したいときには的確に答えてくれる「側面接客販売」が、顧客がDgSに求める接客のようです。

一方、前回調査まではなかった「他のチェーン(違う看板のお店)には無い特長や工夫を感じましたか? 」が、総合満足度に大きく影響を与える調査項目でした。大量出店で成長してきたDgSは、「看板を取ったらどの企業の店かわからない」と揶揄されるほど同質化していました。しかし、今後は「看板を取っても〇〇ドラッグとはっきりとわかる」ほどの個性を持っことが顧客満足の向上対策であり、競合対策でおり、アマゾン対策でもあると感じました。

つまり、これからの最大の経営課題は「ブランディング」なのです。

[小売業働き方改革のリアル] 労働時間削減に8割弱が肯定も、残業代減への不安残る

働き方改革法成立から約1年が経過した。月刊MDでは、昨年10月号に続き、ドラッグストア(DgS)および小売業各社にアンケートを実施。同改革に対する見方や各施策の取り組み状況について、25社から回答を得た。本稿では、ES(従業員満足)向上のための「働き方改革」実行のヒントについて解説していく。(月刊マーチャンダイジング2019年8月号より転載)(分析・執筆/社労士事務所ワークスタイルマネジメント・小林麻理 調査/月刊マーチャンダイジング編集部)

「働き方改革はES向上に寄与する」と7割の企業が考える

Q1:「働き方改革」はES向上に寄与するとおもいますか?

フリーコメントを一部紹介する。

◆大いに寄与する

働き方に対して会社が関心を持っている、イコール従業員の生活に関心があるということ。働き方改革へのメスを入れることは従業員に対するアピールにもなる。

◆どちらかといえば寄与する

有給休暇によって減った労働時間をおぎなうために、残業や応援による負担が増えることも予想される。とくに薬剤師や登録販売者などの資格者のカバーはだれでも行えるわけではないため、偏った負担が生じないように相互協力が一層不可欠である。
働き方そのものが本当に変わらなければ(作業効率アップなど)どこかにしわ寄せがいく可能性がある。

◆どちらともいえない

実際の業務量は決して減っていない。以前より社員の「働き方」は意識しており法制化されるされないはあまり関係ないとおもわれる。
強制力を持って有給を付与するため、現在適正に管理している職場においてはかえって残業が増えるなどの弊害が発生し、困惑している業態があるはず。
従業員満足度の上位は給与の維持・向上。働き方改革を実行するための必要な設備投資費の捻出をするには、販管費を抑えるもしくは下げる必要が出てくるため、どちらともいえないを選択。

◆どちらかといえば寄与しない

実施方法による。仕組みを変えずに時間の削減だけしても、仕事を持ち帰ることになり、働き方は変わらない。

掛け声先行に疑問の声も

「大いに寄与する」+「どちらかと言えば寄与する」が7割強(72%)を占めた。ただし、企業の具体的な声を見ると、残業削減や休暇取得の土台ができていない(業務量が減っていない)にもかかわらず制度が先行することで、かえって現場に負担が生じることを苦慮する現状がうかがえる。働き方改革法の成立から施行までの期間の短さも、現場での混乱を招く一因になっているだろう。

一方で、ES向上のための「働き方改革」は、本来、国が主導で(上からいわれて仕方なく)実行するものではなく、企業が主体的に実施すべきものともいえる。実際、「以前より働き方は意識しており、法制化されるかどうかはあまり関係ないとおもっている」という声もあった。

いままで、ES向上のための「働き方改革」を意識してこなかった企業も、今回の法律をきっかけとして、今後は、自社と従業員のための取組みとして積極的に実施したい。

Q2:「働き方改革」や「働き方」に関する法律対応に関連して、すでに自社で取り組んでいるものはありますか?または取り組む予定のものはありますか?

労働時間削減から同一労働同一賃金の検討へ

2019年4月から適用が開始された「有給取得の義務化」「残業上限規制」などに対応する取組みは、ほぼ全社が実施中という結果になった。

また、ほぼ全社が取り組み中か取り組み予定だったのが「多様な正社員」制度だ。ライフスタイルに合わせ、時間や地域を限定して働きたいというニーズは大きい。人材確保の面でも、ぜひ実施したい制度である。

そして、取り組み予定の企業が多かったのが「同一労働同一賃金」対応だ。いよいよ、同施策の検討フェーズに入ったことがうかがえる。

労働時間削減に対し肯定的な意見の裏に、残業手当削減への拒否感も

Q3:Q2で労働時間削減に取り組み中/取り組み予定と答えた方にお聞きします。どのような手段で労働時間を減らしていますか?または、減らすために取り組む予定のものはありますか?

進む効率化の一方で営業時間縮小も検討

自動発注システムやセルフ㆑ジ、ITツールの導入など、業務手順や業務量削減に直結する取組みを実施している企業は多かった。こうした「投資」は、省人化・効率化という観点(経費削減)だけでなく、マーチャンダイジング(MD)の精度やサービス、顧客満足の向上(売上増)や、従業員の働きやすさの向上といった観点からもぜひ取り組みたい。

そして、営業時間縮小を検討している企業も一定数ある。とくに深夜を含む長時間営業の費用対効果(以前と同様なのか)は、この機会に検証する価値はあるだろう。

Q4:労働時間の削減に関して従業員の反応はどのようなものですか?

以下に企業からのフリーコメントの一部を紹介する。

◆どちらかといえば肯定的である

一部残業手当が減ることへの不安がある従業員も存在する。
責任感の強い従業員は、時間短縮で仕事の精度が下がることを懸念している傾向が見受けられる。
時間外業務に関しては減らしたいと考えているため肯定的である。一方で対患者さまの調剤においては患者さまの来局次第で業務延長が生じるため、労働時間を減らすことが困難だと考えている従業員が多い。
採用や業務の効率化が進まなかった場合負荷が増えるなどを不安視したり、残業代が減ることを危惧する従業員はいる。

◆どちらともいえない

労働時間の変更に伴い、作業内容の変更および課せられる業務が増えるなどの弊害が起こる。または労働時間の削減に伴い、収入が減少する人が発生して困っている。
人手不足、資格者不足などで店長などは稼働計画づくりが難しくなるのでは…。

◆どちらかといえば否定的である

残業代が生活給の一部になっているから。
「残業代が減る」「残業した人は頑張っているので評価する(一部上司)」「業務量は減っていない」などの理由により、会社としての取組みと労働側の実態が合致しておらず、不満が出ている状況。

8割弱「肯定的」も作業品質低下や残業代減への不安残る

「非常に肯定的である」+「どちらかといえば肯定的である」が8割弱(76%)を占めたが、接客・作業品質の低下や、残業代減への不安を感じている従業員を心配する声も多い。

IT投資や業務量の見直しなど、(掛け声だけではない)組織の取組みとして残業を減らし、削減した残業代は広く従業員へ還元するという、従業員のための「働き方改革」を目指したい。

調査概要

  • 調査時期/2019年6月
  • 調査方法/無記名式書面アンケート
  • 有効回答数/設問によって異なる(各図表に明記)
    ※グラフ表記については、小数点以下四捨五入のため、100%にならない場合もある。

回答者属性

  • 協力社数/25社ドラッグストア22社、食品スーパー1社、総合スーパー1社、ホームセンター1社
  • 対象者/人事もしくは労務部門の責任者、総務、店舗運営部門などに所属する担当者(各社1名が回答)