採用難時代のES向上 25社アンケート③

[小売業働き方改革のリアル]総論賛成だが実行は不安。葛藤する人事担当者たち

月刊MDによるドラッグストアおよび小売業各社へのアンケート調査第3回。今回は社員やパートタイマーへの給与体系の見直しについて、取り組んでいる施策を聞いた。(月刊マーチャンダイジング2019年8月号より転載)(分析・執筆/社労士事務所ワークスタイルマネジメント・小林麻理 調査/月刊マーチャンダイジング編集部)

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雇用形態や就業形態にかかわらず見直し進む給与体系

Q8:「同一労働同一賃金(不合理な待遇禁止)」に関して取り組んでいる(取り組み予定の)施策は次のうちどれですか?

■パートタイマーに関する施策

■パートタイマー以外の非正規社員(派遣社員を除く)に関する施策

■正社員に関する施策

正社員の給与体系、人事評価制度の見直し進む

「同一労働同一賃金」対応については、大企業への適用が来年に迫っているとあって、パートタイマーや契約社員(有期雇用労働者)への「手当」「賞与」支給や給与体系の見直しにすでに取り組んでいる企業が目立った。とくにフルタイムの契約社員は、職務内容や責任に応じた待遇になっているかどうかは改めて注意したい。

そして、パートタイマーや契約社員だけでなく正社員の人事・評価制度や給与体系の見直しを取り組み中・取り組み予定とした企業も多かった。

雇用形態や就業形態にかかわらず、自社で働く従業員に対し、どのような人事評価を実施し、給与へどのように反映すべきかを、いま、まさに見直そうとしている企業の状況がうかがえる。

以下に、フリーコメントの一部を紹介する。

働き方改革は、国が主体で実施するというよりも、企業や従業員個人がその気にならなければなし得ないと考えます。働き方改革の本質は、効率アップというよりも、「楽しく働く」「やりがいを持って働く」というモチベーションだと感じます。
人手不足対応との両面で進める必要があり、かじ取りが難しいが、生産性向上により働き方改革を進めていく。また、働き方改革がESの向上に寄与することからも、人手不足の解消にもつながる可能性があり、着実に進めるべきと考える。
自分の仕事が終わらなくても、帰る社員が増加し、それを注意できない実情。流通小売業(とくに店舗)は、店舗で働いている人の総合力。自分の担当部門だけでは済まない。
従業員満足度が向上するのはよいことだが、行政の指針がわかりにくい(とくに同一労働同一賃金)。生産性が悪くなるのでは…。人件費コスト上昇も。
「働き方改革を推進しよう!」というようなスローガンばかりが独り歩きし、改革としてはなかなか進まない。本当の「働き方改革」とは残業を少なく、休みを多くだけではないと考えている。残業なし、規定の休みはしっかり取れることは当たり前として、働いている8時間の内容をどれだけ充実させられるか。一人ひとりがやりがいを持って、生き生きと働ける状態をつくりだす改革が望まれる。
さまざまな企業形態や企業規模があるなかで、一律の罰則規定を設けた働き方改革は、労働者を無視している施策である気がします。場合によっては、より格差を生む可能性があるので、せめて罰則ではなく、実績に基づく補助金や表彰などの施策であればよかったと感じます。弊社は今回の改革法を遵守しますが、客観的に見ると、遵守不可能な業種において、データの捏ねつぞう造などの不正が起こると予測しております。

「総論」賛成だが実行に不安という葛藤

全体を振り返ると、「働き方改革の方向性(総論)は賛成だが、実際の各対応においては、現場の不安や不満を感じている」企業が多いという印象だった。フリーコメントの量の多さからも、制度を推進する立場である人事担当者の葛藤のようなものが感じられた。

こうした葛藤は、組織として何も変化をしようとしない(結果「業務量」は変わらない)にもかかわらず、個々人の「頑張り」によって、残業削減を実現しようとしている企業であればあるほど大きくなるだろう。なぜなら、人事部では、従業員のための「働き方改革」にしたいというおもいがありつつも、結果的に、企業のための「法令違反回避策」として、現場に負担を強いることになってしまっているからである。

働き方改革の先を見据える企業も

働き方改革は、「長時間労働は美徳である」「職務内容や仕事の価値にかかわらず、雇用形態によって給与額が大幅に違うのは当然である」といった、これまで日本人が当たり前としてきた「価値観」自体を覆すものでもある。それに対する現場の戸惑いは大きいだろう。

しかし、アンケートの具体的な声の中には、そうした「価値観」の転換に向き合いながら、法対応のその先の理念を実行しようとする意気込みを感じられるものもあった。

たとえば、「残業なし、規定の休みはしっかり取れることは当たり前として、働いている8時間の内容をどれだけ充実させられるか。一人ひとりがやりがいを持って、生き生きと働ける状態をつくりだす改革が望まれる」といったものである。他社の具体的な取り組み状況はもちろん、こうした声もぜひ、参考にしていただきたい。

調査概要

  • 調査時期/2019年6月
  • 調査方法/無記名式書面アンケート
  • 有効回答数/設問によって異なる(各図表に明記)
    ※グラフ表記については、小数点以下四捨五入のため、100%にならない場合もある。

回答者属性

  •  協力社数/25社ドラッグストア22社、食品スーパー1社、総合スーパー1社、ホームセンター1社
  •  対象者/人事もしくは労務部門の責任者、総務、店舗運営部門などに所属する担当者(各社1名が回答)