セルフレジはコンビニ人手不足の救世主となるのか

人件費の高騰がコンビニ経営を圧迫している。2019年度の最低賃金は時給ベースで過去最大の引き上げとなり全国平均は900円台に達する。東京は1013円、神奈川は1011円と全国で初めて1000円を超える。ここ数年は毎年3%台の高い伸び率により、人件費の全てを支出するコンビニ加盟店にとっては厳しい店舗運営が強いられている。今回は人手不足の特効薬になることが期待されているレジの「セルフ化」を中心とした省人化への取り組みを紹介したい。

国内初の終日無人コンビニを投入したNewDays

本来であれば、高騰する人件費をカバーするだけの売上を確保すればよいのだが、近年はコンビニ同士の競合のみならず、ドラッグストアやEC勢力の台頭も影響し、売上の増加は容易ではない。そこで、喫緊の課題になったのが、加盟店の利益に直結する人件費の圧縮、具体的な仕事に落とし込めば「レジ業務」の省人化だ。セブン-イレブンの試算によれば、レジ業務に費やされる人時は店舗業務全体の3分の1にあたるという。この3分の1の人時を圧縮できれば、加盟店にとって、目に見える利益の向上が見込まれるであろう。

JR東日本グループの駅ナカコンビニ「NewDays」は、レジ2台を無人化した、セルフレジのみで精算する新型の実験店舗「NewDays 武蔵境 nonowa」を本年7月にJR武蔵境駅(東京・武蔵野市)改札口の外にオープンした。売場の人員は基本ゼロで、国内初の終日無人コンビニと言えるだろう。

「NewDays 武蔵境 nonowa」は、中央線 武蔵境駅 nonowa口改札外に出店。

NewDaysは、東北、関東、甲信越、静岡に計491店舗を展開している。店舗は全て直営で、駅ナカ立地のため、ほとんどが開閉店である。今回の(売場)無人店舗の狙いについて、JR東日本リテールネット八王子支店営業課課長の永山秀実氏は次のように説明する。

「私たちの店舗は今、人手不足が課題であり、その人手が最も掛かっているレジ作業を省力化したのが今回の店舗です。一方で、賞味期限のチェックや、キャンペーンの準備、人の仕事は残っていきます。自動販売機ですら、商品を中に入れる人がいないと成り立たないのだから、売場を無人化にしても人の手は必要です。機械でもできる部分、人にしかできない部分を明確にし、レジについ今回はセルフ化を図りました」

売場は無人でも、バックヤードには必ず1人が常駐して、お客がセルフレジの操作に迷えば、すぐに売場に出て対応する。その他に、荷受けや品出し、フェースアップ、清掃業務など、売場に出て作業する時間帯もある。

店舗面積は25㎡(売場面積18㎡)、客数目標は(1日)700人、客単価は300円前後、セルフレジ2台(交通系電子マネーと、クレジットカードのみ対応)、アイテム数は500~600、営業時間は7時~22時、従業員は1人で運営する。

商品バーコードを読み取らせ、品目と価格を確認、交通系電子マネーかクレジットカードかを選択し、タッチして精算完了

 終日無人店舗を可能にした4つの理由

では、なぜ終日(売場)無人店舗が可能となったのか、その条件を整理した。

第一に、店舗従業員が駅施設の他の2店舗から交替で配置されていること。

実は武蔵境駅構内にNewDaysが別に2店舗あり、同じ店長の管理下でシフトが組めるなどオペレーションが容易であること。

第二に、店舗が立地する改札口が交通系ICカード専用であること。

すなわち店前を通る、ほぼ全ての人がSuicaやPASMOなどの交通系電子マネーによる買物が可能である。現金しか使えないお客は、ほぼゼロであろう。

第三に、セルフレジが駅ナカで急ぐお客に好まれること。

駅ナカ立地は、ペットボトル1本とか、プラスおにぎり1個など、買上点数が少ない。また電車の乗降や乗り継ぎで急いでいるお客が多い。その点、セルフレジは、収納代行や割引クーポン券、サービス商品の取り扱いがなく、レジが止まることなく待ち時間も予測できる。また1人当たりの買上点数が少なく、袋詰めに長時間掛かる心配もない。

第四に、セルフレジを使い慣れているお客が多いこと。

セルフレジはNewDays 491店舗の中では、372台が導入されている。キオスクタイプの小型店「NewDays KIOSK」294店舗の中では53台が設置されている。セルフレジでも躊躇なく利用できるお客を育ててきたのだ。

一方で、この新型店舗を今後、展開していくにあたり課題点もある。

第一に、酒、たばこの免許品の販売ができないこと。画像による遠隔操作で、身分証明書を提示させれば可能だと思うのだが、現状の法令だと難しいとの判断である。

第二に、キャッシュレスの比率が、依然として低いこと。

NewDays全店におけるキャッシュレス比率は、42.6%(2018年度実績)に留まっている。他のコンビニチェーンの2倍の比率と高いものの、駅ナカにあって6割のお客が現金決済を選択している現実がある。そのため、無人店舗の水平展開(多店舗化)については、キャッシュレス比率の推移と、実験店舗の検証を経て、慎重に考えていくとしている。

売場は、飲料、おにぎり、サンドイッチ、パン、菓子、健康ドリンクで構成、雑貨は極力絞り込んだ
什器はスライド式にして陳列作業の人時を削減した
米飯は、弁当を扱わず、おにぎりのみとした。レンジアップが不要になる

セブンはセルフレジ導入で最大9時間分の人時削減と試算

セブン-イレブンは本年7月に、作業時間や作業量の削減を目指した実験店舗を東京・町田市に開設した(町田玉川学園5丁目店)。ペースの移動や新設など、幾つかの取り組みの中で、今回の目玉はフルセルフレジの設置であろう。

カウンター内の3台のレジのうち2台をセルフレジ(現金での支払いも可能)とした。また、状況に応じてセミセルフレジへの切り替えが可能とし、その場合は、商品の読み取りや袋詰めを従業員が行い、現金やカード決済はお客がセルフで行うようにする。他にもセルフレジ1台を、カウンター外に設置して、従業員がレジ業務に携わる人時の大幅な削減を図っている。セブン-イレブンはセルフレジの導入により、最大9時間分の人時削減が可能になると試算している。

セブン-イレブンはセルフレジの導入を実験的に始めた

深夜帯無人店舗の実験を開始したローソン

ローソンは深夜0時から5時まで売場を無人にする実験を、本年8月23日より半年間をめどに実施している。当面はバックヤードに1人が勤務する体制をとる。

店舗(ローソン氷取沢町店)は、横浜市の幹線道路に面した住宅地に立地し、深夜帯の客数は同チェーンの中では少ない方に分類される。

入店には誰でも入手できるローソンアプリか店舗で発行する「お得意様入店カード」、それらの準備がないお客は、入り口で顔撮影を行えばすぐに入店できる。

売場は従業員が不在のため、酒売場とカウンターはカーテンで覆って、酒・たばこの販売はせず、従業員を必要する宅配などのサービスも休止している。

レジはローソンスマホレジ(当連載の第1回目に詳細)か、自動釣銭機付きのセルフレジの利用となる。防犯対策として、防犯カメラを増設するほか、モニターも設置して安全対策に努める。

ローソンの深夜(売場)無人店舗の見取り図(氷取沢町店)

深夜帯の無人化で問題になるのが納品の有無。売場は無人になるが、従業員がドライバーの入店をインターフォンで許可して、バックヤード、または店舗横の倉庫に商品を搬入してもらう。

無人店舗が増えても深夜帯の物流に変更はない。課題は酒の販売。深夜帯のレジ通過客のうち2人に1人は酒を購入するため、売上にどの程度の影響があるか検証していくという。

深夜帯の営業に関して、その是非が論議されている。根っこにあるのが、人手不足と人件費高騰による加盟店の収益悪化である。

近年、日本で急速に店舗を拡大したのがアメリカに本社を持つ「エニタイムフィットネス」。このマシン特化型ジムは24時間営業し、夜間の従業員はゼロになる。ICチップによる本人確認と防犯カメラによる監視体制。

深夜に活動したいニーズは依然としてある。問題は損益分岐点であろう。チェーン本部による店舗運営およびシステム改革に期待したい。

ヨークベニマルが 「スキャンカート」の実験開始

大手食品スーパーのヨークベニマル(本社・福島県郡山市)が、お客が自分で商品のバーコードをスキャンしながら買物し、最後にセルフレジで一括清算する「スキャンカート」の実験を開始しました。レジの生産性向上の切り札になるのでしょうか?

8月28日より運用を開始したヨークベニマルの「スキャンカート」。

販管費の上昇は深刻な経営課題

人手不足による人件費の上昇は、小売業の経営に深刻な影響を与えています。たとえば、新しく採用したパートさんの時給が、古参のパートさんの時給を上回る逆転現象が発生しています。退職を防ぐために、古参のパートさんの時給を上げなければならず、人件費は確実に上昇しています。

絶好調のDgS(ドラッグストア)も、販管費(経費)の上昇が最大の経営課題です。月刊MD2019年10月号(9月20日発行予定)の「ドラッグストア白書2019」によれば、上場Dg.Sの15社すべてが前年比で販管費率(売上に占める販管費の割合)を上昇させています。15社平均の販管費率は22.2%。前年(2018年)が21.7%なので、1年間で0.5%も販管費率が増加しています。ちなみに2016年の15社平均の販管費率は21.2%なので、この3年間で1%も販管費率が増加していることがわかります。

人件費の上昇による販管費の増加をカバーするためには、「人の生産性」の向上が不可欠の経営課題です。新しいテクノロジーを活用して、店内作業の省人化・無人化に取り組む必要があります。

店内作業の30%を占めるレジ作業の省人化

店内作業の中で人時がかかっている作業は、「商品にさわる作業」です。補充作業、陳列作業は多くの人時を使います。その中でももっとも人時のかかっている作業は「レジ作業」であり、店内作業人時の約30%を占めています。

レジ作業の省人化・無人化の挑戦の第1は、Amzon Goのような「ウォークスルー方式」です。アマゾンは店内カメラと棚の重量センサーを活用して、買物行動を補足し、レジの存在しない店舗をアメリカで展開しています。挑戦の第2は、「スキャン&ゴー方式」です。お客が自分で商品のバーコードをスキャンしながら買物し、最後に一括清算する方式です。MD NEXTでも以前紹介した「トライアル」の事例が代表的です。

タブレットカート、電子棚札、AIカメラがさらに進化「トライアルクイック 大野城店」

ヨークベニマルの「スキャンカート」も、「スキャン&ゴー方式」です。画面とスキャナーを搭載したショッピングカート(下の写真)を使って、商品を自分でスキャンしながら買物を進めていきます。スキャン&ゴー方式を運用する際の最大の課題は、「意図的ではない商品のスキャン忘れ」「意図的にスキャンしない(万引)」ことによって、不明ロスが発生することです。ヨークベニマルのスキャンカートの底には「重量センサー」が付いており、スキャンしていない商品がカゴに入っていると、アラートが出る仕組みのようです(下の写真)。

スキャンカートを実験的に導入したヨークベニマル。
ショッピングカートの底に重量センサーが付いていて、スキャン忘れを防止する

スキャンカートの専用レジコーナーがあり、実験段階だからなのか、専用レジはまだ1台でした。最後にスキャナーでカート画面のQRコードをスキャンして一括清算する流れになります。清算方法は、「現金」「ナナコ」「クレジットカード」の3種類です。

今後は、スキャンカートの利用を促進するために、ポイント付与などのサービスが必要のように感じます。また、トライアルが実施しているように、お客の購買データに紐づけられたパーソナルクーポンなどの個別販促をカート画面に表示できるようになると、スキャンカートを利用する特典がもっと明確になります。

今回見学したヨークベニマルのレジ台数は10台でした。セルフレジが6台、スキャンカート専用レジが1台、有人レジは3台でした。つまり10台中7台は、お客が自分で商品をスキャンして精算するレジだったということです。レジ作業の省人化・無人化は着実に進んでいます。

店内作業の約30%を占めるレジ作業は、レジ担当者の教育コストも含めると売場の販管費の多くを占めています。レジ作業の省人化が進めば、リアル小売業の人の生産性は大きく向上すると思います。

増税に伴い4人に1人が購入アイテムを低価格のものに変更する意向あり!?

消費税率8%から10%への引き上げが実施される10月が、いよいよ近づいてきました。政府は消費を冷え込ませないために、初のポイント還元や特定の品目の課税率を他の品目に比べて低く定める軽減税率などの緩和措置を打ち出しています。そこで今回は、増税前の日用品の買い物行動について、「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」(以下POB)のアンケート会員(N=7,745名、20代~60代男女)を対象にした「消費税増税前後の日用品の買い物行動の変化」に関するアンケート結果を中心にご紹介します。

33%の人が「増税前に購入・まとめ買いしたい」

最初に、今年10月の消費税率8%から10%の引き上げ前に、「購入したい」「まとめ買いしたい」と考えているものがあるか、またそれらを購入する時期について調査をします。

増税前に「購入したい」「まとめ買いしたい」ものがあるか尋ねると、33.1%で3人に1人が「ある」と回答し(図表1)、事前購入する時期については「2ヵ月以上前(20.0%)」、「2ヵ月~1ヵ月前(22.8%)」、「1ヵ月~2週間前(22.6%)」となり、今回の増税の場合、8月頃から意識的に増税前に購入しておこうという購買行動が現れることが予想されます。

一方で、購入意欲はあっても具体的な時期を「特に決めていない(22.6%)」方もいるようです。(図表2)

「購入したい」「まとめ買いしたい」回答した方(N=2,567名)を対象に、具体的なアイテムについて選択肢で尋ねると、「日用品(57.0%)」がもっとも多く、「食品(37.6%)」と生活必需品が続きます。他にも「電化製品(36.3%)」や、少数派ですが「車(5.8%)」、「住宅(3.0%)」と回答した方もみられましたが、身近な消耗品や生活必需品が多くを占め、特別な消費行動はあまりみられない結果となります。

消費税増税で買物行動に変化があると考える女性は60%

次からは、増税前に「購入したい」「まとめ買いしたい」と考えているアイテムで最多の「日用品」における買い物行動について、深堀して調査をします。

まず、消費税増税の前後で、日用品の購入における買い物行動に変化があると思うか調査をします。

消費税の増税前後で、日用品の買い物行動に変化があると思うか尋ねると、まず女性では、「変化があると思う(14.6%)」、「一時的に変化があると思う(46.1%)」となり、6割の方が「変化がある」と回答しました。続いて男性では、「変化があると思う(14.5%)」、「一時的に変化があると思う(36.3%)」となり、半数の方が「変化がある」と回答しており、女性の方が9.9ポイント上回る結果となります。

一方で「変化はないと思う」は、女性が22.0%、男性が33.4%で、男性のほうが11.4ポイント上回ります。

「変化がある」と回答した方(N=4,378名)を対象に、具体的にどのような変化がありそうか、選択肢で尋ねると、「増税前と購入アイテムは同じでも、セールや特売を利用して購入すると思う」が、男女ともにもっとも多く、女性が57.5%、男性47.7%となりました。また、「増税前より低価格のアイテムを選んで購入すると思う」が、女性が23.7%、男性が31.9%となり、全体では増税に伴い4人に1人は「購入するアイテムそのものを低価格のものに変更する」と考えていることがわかります。

消費税の増税前後で、日用品の買い物行動の変化において、最多であった「増税前と購入アイテムは同じでも、セールや特売を利用して購入すると思う」と回答した方(2,354名)を対象に、具体的なアイテムについて選択肢で尋ねると、「シャンプー/リンス(69.4%)」、「洗濯洗剤(59.9%)」、「ティッシュ(54.8%)、「台所用洗剤(53.4%)」と続き、これらのアイテムが半数以上を占める結果となります。

キャッシュレス決済の頻度が増えると思う人は48.3%

最後に、増税に伴い政府が中小規模店舗におけるキャッシュレス決済時のポイント還元策や、企業独自のキャッシュレス決済ポイント還元キャンペーンなどを打ち出していますが、10月の消費税率引き上げ後に、キャッシュレス決済の頻度が増えると思うか調査をします。

 

増税に伴うキャッシュレス決済の頻度は、「増えると思う」が48.3%となり、半数近くの方が回答しており、政府や企業のポイント還元施策が浸透していることが伺えます。

他にもアンケート調査では、増税前に「購入したい」「まとめ買いしたい」ものがあると回答した2,567名を対象に、「増税のどのくらい前から購入するか?」尋ねており、「1ヵ月~2ヵ月以上前」と回答した方が、半数近くを占めています。

増税まで2ヵ月を切りました。消費者の購買意欲を掻き立てるような、セールやイベントなどの動きが、小売りやメーカーなど様々なところでみられることが今後予想されます。

また、前回増税の2014年とは異なる消費を落ち込ませないための施策もあるため、どのような購買行動の変化が起こるか注目したいと思います。

調査概要
※図表1~6:ソフトブレーン・フィールド株式会社「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」
20代~60代のアンケートモニター7,745名を対象にした、「消費税増税前後の日用品の買い物行動の変化に関する意識調査より」
(WEB調査、調査期間:2019年7月10日~7月12日)

「AI万引監視カメラ」の普及で不明ロスが激減する!?

ウォルマートは、AI(人工知能)を搭載した「精算ミス防止用の商品追跡システム」を1,000店以上に導入しました。万引きやスキャンミスを防ぐAIカメラの普及によって、不明ロスが激減する未来がくるのでしょうか?

日本の不明ロスは1兆5,000億円もある

万引きや不正による「不明ロス」は、セルフサービス型小売業の永遠の課題です。日本を含む世界24ヵ国が調査に協力した、小売業の窃盗犯罪に関する世界的な報告書である「グローバル・リテイル・セフト・バロメーター(GRTB)2014−2015版」によると、不明ロスの内訳は図表1のとおりです。

従業員による不正39%、万引き38%、犯罪性のない管理上のミス16%、取引業者の不正7%です。同報告書によると、2017年のアメリカの不明ロス率(売上高に占める不明ロス金額の割合)は1.33%、金額にすると年間470億ドルの損失を出しているそうです。

一方、日本の不明ロス率は1.35%、金額にして149億ドルです。1ドル100円で換算すると1兆4,900億円という莫大な金額が不明ロスで失われていることになります。小売業で優良といわれる営業利益率の目安が5%ですので、不明ロス率1.35%がいかに大きな数値かがわかります。

AI万引監視カメラでスキャンしない商品を追跡

ウォルマートは3年前から、店内での犯罪を防止もしくは予防するためのシステムに5億ドル以上の投資をしてきました。アメリカの不明ロス率1.33%をウォルマートの年商に換算すると、万引などの不明ロスによる損失は年間40億ドル(約4,000億円)にのぼります。その投資の一環でAIカメラの設置を急速に進めています。

すでに1,000店以上に導入されたウォルマートのAIカメラは、「セルフレジ」「従来式レジ」の両方を監視できる位置に設置されています。レジで商品をスキャンしないで通過すれば、追跡システムが担当者に通知を出し、お客が店内を出る前に声をかけることができます。

未精算の原因は、精算し忘れか、レジ担当者のミスですが、AIカメラを設置した店舗の不明ロス率を着実に改善されているようです(具体的な改善結果は未公表)。普通の買物客にとってはAIで監視されていることはわかりませんが、精算し忘れの単純ミスなのにスタッフから声をかけられると、お客は不快に感じるかもしれませんね。「プライバシー保護」の問題もあり、どう運用するかが今後の課題のようです。

店内にもAIカメラを設置し、お客の購買行動を可視化している。

ユナイテッド・スーパーマーケットHD藤田氏が語る食品スーパーの危機感と変革

「食&料理×サイエンス・テクノロジー」をテーマにしたイベント「Smart Kitchen Summit Japan 2019」が8月8日と9日に行われた。主催は株式会社シグマクシスとNextMarket Insights社。日本では三回目の開催となる。二日目のセッションでは「スーパーマーケットをつくり変える」と題して、マルエツ・カスミ・マックスバリュ関東の共同持株会社であるユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス代表取締役社長の藤田元宏氏が講演した。

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス代表取締役社長 イオン代表執行役副社長 藤田元宏氏

スーパーマーケットの存在感が薄れつつあるという危機感

チャレンジの背景

藤田氏は「スーパーマーケットを作り替えなければならない」と話を始めた。40年以上スーパーマーケットの仕事に携わってきた藤田氏は「今のスーパーは商品やサービスが少しずつ変わってはきたが、変化の速度はいつもゆっくりで、社会の変化の速度についていけていないのではないか」と語った。POSシステムなども最初は先進的だったはずだが、便利になったにせよ、その機能はあまりかわっておらず変化に対する遅れを感じているという。

そしてここ5年くらい、売り場で客が買い物する様子を見ていて「スーパーマーケットに対する存在感や信頼感が徐々に薄らいでいる」と肌で感じるようになってきたという。当初は「消費が冷え込んでいる」といった言葉で言われていたが、最近は食品を購入するチャネルが急速に多様化し「肌感覚は危機感に変わった」。そして「これまでのスーパーマーケットでは必ず行き詰まる。作り替えなければならない」と考えて、昨年からどう作り変えるべきか検討してきたと述べた。「食」を通して新たな価値を模索するプレイヤーたちが集まる「スマートキッチンサミット」に登壇したのも、新たなコラボレーションを求めてのことだという。

アセットとビジネスモデルを見直し「生活者中心主義」に変革

藤田元宏氏

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社は、マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東を事業会社とする共同持株会社で、首都圏最大のスーパーマーケット。2019年7月20現在で、関東6県に518店舗を展開している。年間売上高は7,000億円。「マルエツプチ」のような小規模店から大型の郊外店まで様々な規模の店舗を展開しており、現在も年間15〜20店舗程度を新規出店している。

藤田氏は「ローカルコミュニティの一員として誰もが入りやすい環境をどうやって作り上げていくか」に注力してきたが、アセットをもう一度「生活者中心主義」に変革し、驚きや感動、地域のつながりのハブ機能を持つスーパーへ、食を通じて従業員や客が笑顔になる組織に生まれ変わりたいというのが、これからのチャレンジだと述べた。

市場の背景とスーパーマーケットの集客力の低下

背景には人口減少、高齢化による市場の縮小がある。これらは既に起きている変化だ。いっぽう、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスが店舗を展開する首都圏エリアは一極集中で、人口も増えている。また高齢者世帯の消費という新たなチャンスも見出せる。従って新たなプレイヤーがたくさん参入しており、競争環境が厳しくなっている。そして「人生100年時代」を迎えて「ウェルビーイング」に対して志向が高まっているといった現状がある。

藤田氏は、これまではアメリカの経営理念に学んでチェーンで経営し、ワンストップで購入できる便利さで成長したスーパーマーケットだが、さまざまな変化で提供価値が「中庸な評価」しかもらえなくなり、多くの生活者に選ばれることが少なくなりつつあると感じているという

従来のスーパーは物的充足を尺度とし、売上高を追い求めてきた。しかしそれ以上の価値が社会的に求められるようになり、変化を余儀無くされてきたということではないかと自己分析しているという。そして社内で議論を続け、たどりついた結論は「これまでのビジネスモデルにとらわれることなく『生活者中心主義』を店舗で実現すること」。それが「今後の持続性と成長性を可能にする道だ」と考えたという。

4つの価値「突き抜け鮮度」「商品との出会い」「エンリッチ」「つながり創出」

新たな4つの生活者への提供価値

多くの客に愛着を持ってもらうお店になるためにはどうすればいいか。ベースにあるのは「顧客の理解を深める」こと、そして「顧客と価値を共創する」ことだという。この二つの仕組みを基盤として作り上げる。その上で、感動の食体験やつながりを創造する。そのために「突き抜け鮮度」、「商品との出会い」、「エンリッチ」、「つながり創出」を生み出す店舗を目指す。

「突き抜け鮮度」

「突き抜け鮮度」とは、単なる掛け声や売り文句としての鮮度保証ではなく、エビデンスに基づき、顧客に理解・納得される価値としての鮮度保証であり、それと矛盾する事象を排除する仕組みが必要になる。したがって、取り組みは非常に広範囲に及ぶ。藤田氏は、従来のスーパーは食品製造と消費者の中間に位置しており、それぞれに対してある一定の距離を保ちながら、物流で流したり、量やクオリティ、グレードをなんとなくこなしてきたと述べた。しかしこれからは従来のようになんとなくやりすごすということを目的とするのではなく、鮮度や品質、おいしさを目的とするように立ち位置を変えなければならない。そのためには、これからのスーパーを変えるためのサプライチェーン新構築が必須となると考えていると述べた。

「商品との出会い」

「商品との出会い」は、誰かに伝えたい商品、双方向ネットワークやパーソナライズによって作り出される新たな価値だという。従来のように「商品」を軸におくのではなく、あくまで1to1、個を軸にする。

「エンリッチ」

「エンリッチ」は、買い物や献立などに関わるストレスをなくすことで豊かさを感じてもらう取り組みだ。生活者のストレスを解放し、豊かな時間を感じてもらうようにする。これまでのスーパーにも、いわゆる時短食材はあった。しかし問題は最終ゴールだ。それは「生活者側が豊かさ、ゆとりを感じること」であり、「手渡しの仕方も含めて、もっと違うやり方があるのではないか」と考えているという。

「つながり創出」

「つながり創出」は、いろいろな人がタッチポイントにすることを目指す。これまでも店舗の一部を顧客に提供することはしてきたが、場づくりの主体をもっと外側に向けて押し広げていき、生活者と従業員、そしてコミュニティによるつながりを創造することで、一緒に店作りをしていくことを目指す。

プロトタイプ店舗で検証し、2021年以降に全面展開へ

新タイプ店舗のプロトタイプを開発する

藤田氏はこれからのフェーズについて「我々のビジョンに興味を持った方々とディスカッションさせて頂きたい。違いにシナジーがあるパートナーと一緒にプロトタイプをつくりたい」と述べた。具体的なフィールドとしては、年間15から20の新規店舗や、年間30店舗くらいのペースで改装する店舗を想定する。プロトタイプ店舗での検証を踏まえ、修正を繰り返して、2021年から3年間くらいで店舗全体に広げていくという。藤田氏は「トライアンドエラーを繰り返しながら調整していかないと進んでいかないだろう」と述べ、プロトタイプつくりに意欲を示した。

最後に、これまで述べた新プランについて「とりたてて新しいビジョンではない。しかしスーパーと生活者との距離感が広がりつつあるのは自分たちの価値観を変えなかったからだろう。4つの価値をもとに新たなパートナーシップで変化にキャッチアップしていきたい。ただ当社においても五十年以上の歴史のなかで作り上げられてきたので作り変えることは簡単ではない。新たな技術やパートナーと共創することこそが、変化へのキャッチアップを可能にすると考えている。皆さんのたくさんのアクセスを期待している」と講演を締めくくった。

「新しい価値」を創造するパートナーを募集中とのこと

[寄稿] 中国「新小売」の”今”と次に来るもの

リテールテクノロジーの最先端が集結し、注目を浴びる中国。2016年に提唱された「新小売」という概念の下、さまざまな新業態が登場する一方、既存の実店舗小売業への大型投資のニュースも話題になっています。本稿では、中国の小売業の現状に詳しい元メルペイの家田昇悟さんが「新小売」の現在を紹介しつつ、その次にどのような変化が待ち構えているのかを分析します。(月刊マーチャンダイジング2019年8月号から転載)

2016年に登場した「新小売」という概念

中国ではモバイルペイメントが2013年ころから急速に普及し始め、2017年ころには大都市部の町中どこでもスマートフォンのみで支払いが済むようになった。日本でも2017、2018年ころにモバイルペイメントが盛り上がり、今年2019年には各ペイメント事業者による積極的な投資が行われている。

このような状況を背景に、中国では2016年に「新小売」という概念が登場した。そして多くのスタートアップや大企業による実店舗小売業への投資が進み、新業態が出現している。もしも中国と同じようにモバイルペイメントが普及していくならば、日本の実店舗小売業にも新業態が登場し得るのではないか。

本稿では、なぜ中国で新小売という現象が世界に先駆けて起こっているのか、さまざまな具体例を挙げて紹介する。今後、日本の実店舗小売業にどのような施策があるかを考えるきっかけになれば幸いである。

「新小売」が注目を集める3つの背景

「新小売」とは、中国の起業家でありAlibaba社の創業者ジャック・マーが2016年に提唱した概念である。「純粋なECの時代は既に過去のもので、未来10年、20年後にECという言葉はなくなる。新小売だけが生き残る。つまりオンラインとオフライン、物流が必ず結びつく」と説明した。なお、似たような概念として「OMO」という言葉があり、こちらは著名ベンチャー・キャピタリストの李開復氏が提起したもの。「Online Mergeswith Offline」の略で、オンラインとオフラインが融合するところに新たな事業が発生すると説いた。

筆者は、中国で新小売にこれだけ注目が集まるのには3つの理由があると考えている。

①中国のECが飽和状態であること

1つ目は、中国の小売のEC化率がかなり高くなってしまっていることだ。「インターネット・トレンド2018」によると、2017年時点で中国EC化率は20%を超え、世界トップに立っている。

しかし同調査では中国のモバイルインターネットユーザー数とモバイルECの成長率は年々減少傾向にあり、インターネット空間での成長余地が限られた結果、ユーザーの獲得コストは高くなっている。新たな成長の機会を求めた結果、いまだ購買活動の80%を占め、成長余地のある実店舗小売業が注目を集めているというわけだ。

②小売業のデータ活用を進めたいから

2つ目は、実店舗小売業に眠るデータを活用したいという狙いからだ。たしかにWeChatPay(中国最大のモバイルゲームとSNSを運営するTencentが展開するチャットアプリ「WeChat」の中で使える決済サービス)とAlipay(中国最大のECとオンライン金融サービスを展開するAlibaba傘下の決済サービス)はオフラインの決済市場において圧倒的なシェアを握っているが、獲得できているデータには限りがある。ユーザーが何を購入したかの品目はわからず、(WeChatPayとAlipayに登録されている)店舗名と合計金額だけである。

「だれが」「何を」購入したのかという購買情報を獲得するためには、実店舗小売業とより深い協業関係や資本関係を結ぶ必要がある。現状保有しているデータよりも精緻なデータを収集できれば、自社アプリやWEBサービスでの広告価値も高まる。どのオンライン企業もオフラインに眠る大量の購買情報にアクセスしたいのだ。

③ECだけでは競争優位に立てないから

3つ目は、インターネット上でサービスを提供するだけでは、競争優位として不十分になっているからだ。その例としてモバイルペイメントのシェアの推移を取り上げる。中国コンビニチェーン協会の調査によると、コンビニで使われる決済サービスのシェアは、2016年にWeChatPay43%、Alipay48%であったのに対して、2019年にはWeChatPayが57%、Alipayが41%となり、WeChatPayのシェアがAlipayを抜いて拡大しているのである。

その背景には、WeChatが至る所で起動され、実店舗における決済のシェアにも影響を与えているという状況がある。

日本ではWeChatが日本版LINEとして紹介されることが多いが、実際はもっと多くの機能を抱えている。Facebookのように転職や結婚の報告を行ったり、Instagramのように画像メインの投稿をしたり、LINEのように友人とのコミュニケーションに使ったり、Messengerのように仕事上のやりとりをしたり、Twitterのようにニュースや趣味を共有する場としても使われている。

さらにWeChatは個人間送金のためのツールとしても利用することができる。日本ではSNSがいくつかに分散し、送金はいまだ現金が主流だ。一方中国ではこれらの機能がほぼWeChatに集約しているといえる。そして、コンビニなどではWeChatを立ち上げてだれかとメッセージを交わしたりしながらレジ待ちをし、レジの順番がくるとそのままWeChatの決済QRコード画面を表示して支払うという光景をよく目にする。

またWeChatでQRコードをスキャンして立ち上がる「アプリ内アプリ」でレストランを予約して、そのままWeChatPayで決済する人も増えてきている。決済の瞬間だけではなく、決済の前の可処分時間や体験を押さえられることで競争優位となっているのだ。

新小売として登場した2つの新業態

では具体的に「新小売」としてどのような店舗・業態が登場しているのか。ここでは先進事例として「luckincoffee」と「盒馬鮮生(ファーマーションシェン)」を紹介したい。

①コーヒーチェーン「luckin coffee」

「luckin cofee」はモバイルオーダーを導入することで店舗運営人員を大幅に削減した

モバイルペイメントが普及したことで、従来の店舗経営を覆すイノベーションを生み出した企業が生まれた。

コーヒーチェーンとして注目を集めているのが「luckin coffee」だ。2017年6月の会社設立からわずか約2年(2019年5月)でナスダックに上場を果たした。1年目で2,000店舗をオープンし、2年目には2,500店舗を展開することを目標に掲げている。

luckin coffeeは、モバイルペイメントでの決済が当たり前に普及した中国の環境を生かし、専用アプリからの注文に特化したのが特徴。結果、レジ業務がなくなり、デリバリーとピックアップに店頭業務を絞った。このことで顧客体験を変え、従来は出店ができなかった場所(オフィスビル下など)にも出店することに成功している。消費者はluckin coffee専用のアプリをダウンロードし、デリバリーかピックアップかを選択して注文する。注文が完了すると指定の場所に配送されるか、指定した店舗に取りに行く。

レジがなくなったことで、レジ業務のために雇用する従業員が不要になり、またテーブルの清掃など店舗運営のために雇用していた従業員も不要になった。コーヒーをつくる人一人がいれば店舗運営が可能になったのである。

このような業態が可能になったのは、モバイルペイメントの普及によるところが大きい。中国ではモバイルペイメントが十分に普及しているからこそ、モバイルペイメントだけの決済に振り切ることができたのだ。日本では一部のレストランや実店舗小売業が実証実験的に現金を取り扱わない店舗をスタートしているが、luckin coffeeは設立当初からそれを志向した。

②食品スーパー「盒馬鮮生」

「盒馬鮮生」はAlipayユーザーしか利用できない店舗。会員100%にすることで購買行動のすべてを可視化する。生きた海の幸がいけすで展示されているのも特徴的(photo by Shutterstock.com

次に紹介するのはAlibaba傘下の「盒馬鮮生」である。2016年上海に1店舗目をオープンし、2019年5月時点で150店舗を展開している。店舗は倉庫を兼用しており、商品購入時に盒馬鮮生専用アプリのダウンロードが必須で、指定商圏以内は30分で購入商品を配送してくれる。専用アプリから商品バーコードを読み取れば生産者や生産地などがわかり、イートイン、生きた海の幸の展示など店内も面白い。多くの機能と話題を備えた食品スーパーである。

生鮮食品の領域はEC化がもっとも遅れている領域だ。アクセンチュアの調査によると、日本が1.9%、アメリカも1.1%、中国でも2.3%と非常に低い。しかし、盒馬鮮生は最初からネットからの注文比率50%を店舗運営継続の条件としている。開店から1年半たった店舗ではEC化率60%を達成していると公表している。

精算時に、Alipayの電子口座に紐付いた盒馬鮮生専用アプリでの決済を強制させることで、会員比率100%を可能にし、しかもアプリをダウンロードさせているため自社アプリを通じて直接お客とコミュニケーションすることができる(なお、現在は現金でも支払えるようになっている)。

顧客1人当りのLTV(ライフ・タイム・バリュー)を最大化するために、オフラインとオンラインを活用するという発想で事業が展開できるのは、来店客を100%可視化できるからだ。店舗とECというチャネル別に売上を分解すると、部門ごとの対立が発生しがちだが、この盒馬鮮生という業態はジャック・マーが唱えたように、店舗とECの区別をなくし、本当に消費者目線でかつデータ・ドリブンな食品スーパーの経営を実践できる仕組みになっている。盒馬鮮生が公開した情報によると、既存の中国の食品スーパーと比較して、坪単価が5倍になるなど大きな効果を挙げている。

なお、先進的な事例として今回取り上げたluckin coffee、盒馬鮮生だが、現在事業の持続可能性について問われている状況だ。luckin coffeeはアプリのクーポン配布に頼ったマーケティングの持続性、盒馬鮮生は「盒馬鮮生」以外にも既に複数の業態を展開しており、本当に消費者に定着するのかという疑問があり、中国国内メディアでも議論となっている。

両企業のポイントは、モバイルペイメントが普及したことで、新たな店舗設計と経営モデルを実現することができたということだ。表面的に彼らの「業態」を模倣するのではなく、発想そのもの(モバイルペイメントが普及したことで挑戦できること)を学び、どのようなことが日本でも展開ができるのかを考えるべきであろう。

AlibabaとTencentの小売業への関わり

新たな業態が出現する一方、新小売という事業機会に対して中国の2大IT(EC)巨頭であるAlibabaとTencentはどのように関わろうとしているのか。

①既存実店舗小売業やスタートアップへの積極投資と提携

AlibabaとTencentともに非常に積極的に投資・提携を行っている。Alibabaは過半数以上の株式を保有することもあり、Alibaba自ら実店舗小売業を運営してこの産業を牽引している。一方Tencentは株式に関しては少数の保有にとどまることが多いが、2018年6月にはWalmartと戦略提携を結ぶなど積極的に実店舗小売業のデジタル化を推進している。

②パパママストアへの積極支援

中国には約600万店のパパママストアが存在するといわれている。しかし経営の効率は悪く、データを活用した仕入れなどは行われていない状況だ。

Alibabaは「LingShouTong(通称LST)」というプロダクトを通じて、パパママストアに対してもサービスを積極的に展開している。最適な受発注のシステムを提供し、またスーパーバイザーを派遣し、棚割などの改善を提案する。日本のコンビニ本部が加盟店にスーパーバイザーを派遣しているのに類似しているといえよう。2018年末には100万店舗をカバーし、2019年には150万店舗をカバーする予定だ。

AlibabaはC2Cのオンライン・ショッピングで中国シェアナンバーワンの「Taobao」とB2Cでシェアナンバーワンの「Tmall」を所有し、中国人のネットでの買物行動をほとんど把握している。それらの購買情報を利用すれば、特定のパパママストアの周辺で、どのような人が何を購入しているのか、的確に把握することができる。そのパパママストアに最適な棚割や販売すべき商品を提案することができるはずだ。

③実店舗小売業向けのクラウドサービス展開

Tencentは「Smart RetailSolutions」という名称で、実店舗小売業のデジタル化を推進するSaaS(Software as a Service、必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウエア)を大企業向けに提供している。

出店分析、グループのビッグデータを使った口コミ分析、店舗内カメラ分析、クーポン発行、会員プログラムの提供と、実店舗小売業が必要なデジタルサービスを一気通貫で提供しているのだ。日本国内ではSAPやIBMなどがこうした領域で実店舗小売業をサポートするサービス提供やシステム開発を行っているが、中国では消費者にサービスを展開するインターネット企業が主要プレーヤーとして市場に参加しているのだ。

Alibabaも実店舗小売業向けにSaaSを提供し、とくに食品スーパー業態向けには先ほど紹介した盒馬鮮生のシステムを「ReXOS」と名付け、外販している。自社で培ったノウハウを積極的に同じ業界に向けて販売し、業界をリードしようとしている。

「新小売」の次に来る「新製造」

新小売の次にはいったいどんな動きが予想されるだろうか?筆者はより川上でのIT活用が進むと考える。

データを使ってユーザーの購買行動を細かく分析したあとには、そのセグメントに対応する生産活動を行わなければ意味がない。しかしたとえば自社ユーザーすべてに対し、一人ひとりにカスタマイズしたキャンペーン広告の画像をひとつずつ制作するのは非現実的だ。だが、広告のための画像の生成もコンピュータが自動でやってくれるとしたらどうだろう?Alibabaは画像を選択するだけで、広告のためのバナー画像を自動生成するツール「Luban」を既に運用している。

このように、大量に集めたデータをより有効に活用するため、デザインの制作工程にテクノロジーが使われ始め、消費者もコンピュータがつくった制作物に日常的に触れるようになった。

その領域はデザインのみならず徐々に「製造」へと近づいている。ユーザー像を分析し、コミュニケーションするための広告用画像の自動生成に成功したあとは、製造する商品そのものの最適化も進むだろう。ソフトウエア化された工場が、人間の手を介さずに物をつくるような時代になっているかもしれない。

Alibabaは「新製造」という言葉を使い、工場向けのサービス提供に取り組んでいる。食品スーパーのデジタル化を実現した盒馬鮮生のシステムを外販したように、工場のデジタル化を実現するサービスをパッケージにして提供していくのではないだろうか。

モバイルペイメントはオフラインとオンラインの消費活動を融合する

日本ではモバイルペイメントが「キャッシュレス」の文脈で語られることが多いが、単に「財布を持たなくなる」便利さだけにとどまるのはもったいない。中国のスタートアップや実店舗小売業はluckin coffeeや盒馬鮮生のように、モバイルペイメントの普及をチャンスとして積極的に捉えている。「新小売」を実現するには、オフラインとオンラインの消費活動を融合する役割を持つモバイルペイメントの普及は必須である。

日本の実店舗小売業もモバイルペイメントの導入を単なるコストとして捉えるのではなく、新たな顧客体験や店舗経営を展開できる可能性を秘めたツールとして積極的に推進していくべきだろう。

なお、中国の著名コンサルタント劉潤氏が執筆した『事例でわかる 新・小売革命』(CCCメディアハウス刊)には中国の新小売の実態が非常によくまとめられている。ご一読をお勧めしたい。

游仁堂 シニアマネージャー
家田 昇悟(いえだ しょうご)

大学時代に上海に2年間在住し、中国×スタートアップに特化したメディアを立ち上げる。その後メルカリに入社し、プロダクトマネージャーとして複数のプロジェクトに従事。中国で新規事業リサーチの駐在を経て、メルペイに出向しペイメント事業のマーケティングやアプリの戦略策定に携わる。現在は上海に拠点のある小売業向けCRMの運営・アプリ開発会社、游仁堂にて事業開発に従事(Twitter:@IedaShogo

マツキヨとココカラ経営統合。DgS「1兆円企業連合」が初めて誕生

マツモトキヨシHD、スギHD、ココカラファインの大手DgS(ドラッグストア)の三つ巴の経営統合話は、マツモトキヨシとココカラファインの2社の経営統合で決着しそうです。ついに1兆円規模のDgS連合が誕生することになります。

化粧品の売上高日本一のDgS連合が誕生

図表1の上場DgSの2018年度決算によると、マツモトキヨシHDとココカラファインの売上高を合計すると、約9,765億円になります。2019年度決算では、間違いなく売上高1兆円を突破します。

月刊MDを創刊したはかりの20年前は、「DgSは年商300億円を超えなければ生き残れない」と言われていましたが、そう考えると隔世の感があります。この20年でDgS業界は一気に寡占化が進んだことがわかります。

マツモトキヨシHDとココカラファインの共通点は、化粧品の売上構成比が高いことと、都市型立地の店舗が得意なことです。下の円グラフによれば、マツモトキヨシの化粧品の売上構成比は41.1%と、上場DgSの中でもっとも化粧品の売上構成比が高い企業です。2番目に化粧品の売上構成比が高いのがココカラファインで、30.2%です。化粧品が主力のDgS2社の経営統合であることがわかります。

マツモトキヨシの化粧品の売上高は約2.370億円、ココカラファインは約1,210億円、両社の化粧品の売上高合計は約3,600億円になり、ものすごいバイイングパワーを持つことになります。化粧品メーカーは戦々恐々ですね。

PBでブランディングを進めネットと差別化、固定客を獲得

 

8月22日に行われた記者会見の様子。

今回の2社の経営統合によって、PB(プライベートブラント)の強化がさらに進むと思われます。「安かろう悪かろう」のPB戦略からいち早く脱皮し、固定客のマインドシェアを高めるブランディングに成功しているマツモトキヨシのPBを共通で取り扱えるのは、両社にとって大きなメリットです。

従来のPBは、消費者にとっての最大の価値は「低価格」でした。メーカーのNB(ナショナルブランド)にパッケージがよく似ていて、「NBと比較してみてください。成分が同じでこんなに安いでしょう」という売り方が一般的でした。一方、小売業側の最大のメリットは、NBよりも値入率が高くて儲かることであり、「利益対策」がPB開発の最大の目的でした。

マツモトキヨシは、2015年末にPBのリブランディングを決断。ブランド名を「MKカスタマー」から「matsukiyo」に変更しました。matsukiyoはマツモトキヨシの愛称として広く親しまれている呼び方なので、商品が店舗を連想させやすくなり、コーポレートブランドに「近い」PBとなりました。つまり、低価格だけが魅力のPBから脱皮し、企業のブランディングに貢献するコーポレートブランドとして育成することを、DgSの中でいち早く挑戦したわけです。

PB商品数は2,000点を超え、売上構成比の10.1%をPBが占めています(2018年6月時点)。

「多くのPBは、まず価格訴求(いわゆる『安かろう悪かろう』)から始まりました。2009年ごろにセブンプレミアムが浸透したことで高品質低価格なPBが一般化しました。いまでは高品質低価格が求められ、PBが市民権を得たともいえます。
これまでPBは、『競合との差別化』『利益拡大』『お買い得価格での提供』『来店客数増加』といった役割を果たしてきました。これからは、それらに加えて『ユーザーニーズに応える』『コーポレートブランドのイメージ向上』『企業理念の具現化』といった、企業戦略実現の側面がますます重要になってくるでしょう」(PB商品開発を担当する櫻井壱典氏談)

マツモトキヨシのPBは、低価格だけが価値ではないので、企業のブランディングに貢献します。また、オリジナル商品なので、アマゾンなどのオンライン企業とも差別化できます。さらに、ブランド力のあるPBがあることで、お客の「マインドシェア」が高まり、選ばれる店になることにも貢献します。

パッケージデザインもお洒落で、「マツキヨスラッシュ」という傾斜19度のラインが全商品に共通で入っています。マーケティングに関してはSNSを最大限に活用しており、「EXSTRONGエナジードリンク」は、中身の色の意外さがSNSでバズられて拡散し、大ヒットにつながったそうです(下記写真)。

大ヒットしたマツキヨのPB「EXSTRONGエナジードリンク」。

マツキヨのPB戦略が競合と差別化できた3つのポイント

DgSの1兆円時代が到来しました。第2第3の1兆円企業が誕生することは間違いないと思います。しかし、企業規模の拡大はチェーンストアの目的ではありません。多くの店舗数を持ち、「単品大量販売」を行い、「よりよいものをより安く」を実現することで、消費者の暮らしを豊かにすることが目的です。

次の10年間は、経営戦略の最優先が「大量出店」だった時代が徐々に終焉していきます。本当の意味での自主MD(マーチャンダイジング)に挑戦することが、経営戦略の最優先になる時代が、もうすぐそこまで来ています。MDはメーカー、問屋まかせで、大量出店だけで成長してきた時代から脱却することが、DgSの次の成長のためには不可欠であると考えます。

「サツドラHD」と「コープさっぽろ」が異業態・業務提携の協議開始

8月3日の新聞報道によれば、共に北海道をドミナントとする「サツドラHD」と、生協の「コープさっぽろ」が、包括業務提携に向けた検討及び協議開始の合意書を締結しました。同業同士のM&Aで成長してきたドラッグストア(DgS)ですが、「地域連携」という切り口で、異業態同士が提携する新しい試みとして注目されます。

地域密着企業としての生き残りをかけた提携

前回の視点でも書きましたが、DgSは「高速出店」と「M&A」を進めることで、上位企業の寡占化が加速しました。10年前は、上位40社で約3.5兆円の売上でしたが、最新の決算数値では上位15社で約5.6兆円の売上になり、企業数の減少と上位企業集中が顕著になっています(下の図表1参照)。

令和元年になり、売上順位5位の「マツモトキヨシHD」と、6位の「スギHD」、7位の「ココカラファインの3社三つ巴の資本提携の話題が沸騰しており、M&Aによる寡占化は、今後も進むものと思われます。

一方、DgSの売上順位15位の「サツドラHD」が、同じ北海道の地域密着企業である「コープさっぽろ」と提携するというニュースは、新しい提携の切り口なのかもしれません。上場DgSの売上順位では最下位のサツドラHDの売上規模は、Dg.Sの上位企業とは大きな格差があり、同業とのM&Aよりも、地域密着型の異業態連携を選んだと思われます。

サツドラHDとコープさっぽろは、以前から共同仕入れ会社の「ニチリウグループ」に加盟しており、商品開発の共同化でも交流がありました。また、AI(人工知能)、システム開発面での情報交換でも交流があったそうです。

人口減少、少子高齢化が全国平均よりも早く進む北海道で事業展開を基盤とする両社が提携し、課題を協力して解決するのがベストと考えた結果の判断だったようです。

新たに設置する「業務提携検討会議」と、(1)商流・物流統合、(2)商品開発、(3)決済・ポイントサービス、(4)システム開発、(5)関係会社の事業統合、(6)資産有効活用、(7)地域課題解決のCSR活動の7つの部会を設置し、具体的な提携の内容わ決定する計画です。

強固なリージョナルチェーンストアをつくる

MD NEXT創刊記念の特別セミナー(2018年6月開催)で講演していただいたサツドラHDの富山浩樹社長によれば、同社の成長戦略の1つ目は「強固なリージョナル・チェーンストアづくり」、2つ目は「リージョナル・プラットフォームづくり」です。地域密着型の小売企業としてのサービスを深耕していくことを、講演でも強調していました。

時代が変わる、チェーンストアの役割も変化する

サツドラHDが5年前に設立した「リージョナルマーケティング」という子会社は、地域が輝くプラットフォームづくりというコンセプトを掲げ、地域の共通ポイントカード「EZOCA」を発行しました。EZOCAの提携先企業はこの4年間で114社(ホテル、飲食業など異業種も多数参加)、653店、発行枚数が約165万件(2018年6月時点)です。北海道の世帯カバー率は50%以上を占めています。EZOCAは、サツドラのポイントカードを中心として立ち上げたためにユーザーの72%が女性で、20代から40代の女性が50%以上を占めています。

EZOCAの挑戦でもわかるように、サツドラHDは、自社だけの取り組みではなくて、地域の異業種(ホテル、飲食業など)とも連携して、地域需要を深堀りする試みには以前から挑戦していました。今回のコープさっぽろとの異業態提携も、地域連携プラットフォームづくりの一環であると考えれば納得できます。

キャッシュレスを超えた“お財布レス”に挑む、ファミマ「ファミペイ」のデジタル戦略

韓国や中国に比べて日本ではキャッシュレス決済の比率が低く、政府は2025年までにキャッシュレス決済比率を40%まで高めるという目標を掲げた。それに応えるかのように7月1日、コンビニ独自のスマホ決済サービス「ファミペイ」と「セブンペイ」が登場。ファミマではまず現金で支払うお客をターゲットに会員を獲得し、ゆくゆくは広告マーケティング事業や金融サービス事業を創出していきたい考えだ。

「PayPay祭り」に乗り既存店売上高好調

スマホ決済サービスの導入について、コンビニ業界の方たちに聞くと、およそ次のような話になる。

政府はキャッシュレス決済比率を2025年までに40%と目標を掲げた。対して日本の現状は21.3%(17年)と低く、コンビニも同様の数字である。

一方、世界と比較すると(16年)、韓国は96.4%、中国は65.8%、アメリカは46.0%とキャッシュレス比率が高く、上海などに行くと、街場の屋台にQRコードが貼り付けてあり、お客は自らスマホをかざして決済している。日本も対応しないと世界から置いていかれる、といった話の流れだ。

その後、2018年12月にはソフトバンク系のPayPayが「100億円あげちゃうキャンペーン」を実施、それをいち早く導入したファミリーマートは、期間中の既存店売上高がハネ上がるなど恩恵を手に入れた。他のコンビニチェーンも、ファミマに続き、さまざまなスマホ決済サービス導入するに至っている。

そこにコンビニ独自のスマホ決済サービスが登場する。7月1日にスタートした「ファミペイ」と「セブンペイ」である。セブンは7月11日(セブン-イレブンの日)に、全国で唯一の空白エリア、沖縄への出店を控えていた。勢いに乗ってスマホ決済サービスを加速させるはずだった。

しかしその結果は多くのメディアの既報の通り。

「セブン-イレブンアプリ」の会員登録者(1,200万ダウンロード)は、最短2タップで手続きが完了すると謳って、新サービスを一気に拡大する作戦をとった。それが裏目に出た。

沖縄のセブン-イレブン開店日(14店舗同時オープン)には、スタッフが店頭に机を用意して「nanacoカード」の勧誘に精を出していた。その後(8月1日の午後)、セブン&アイ・ホールディングスは、セブンペイのサービスを9月30日までで廃止すると発表した。

第一に、サービスの再開に相応の時間を要すること、第二に、その間のサービスを継続す
ると「支払いのみ」の不完全なかたちになること、第三に、お客はセブンペイに対して依
然として不安を持っていること。以上3点の理由から廃止の決断に至ったという。

沖縄セブンのオープン初日、観光客で最も賑わう国際通りの店舗ではnanacoカードの会員募集に注力していた

現金チャージを中心に、アナログ客を取り込む

一方のファミペイは、スタート時こそシステムにもたつきが見られたものの、順調な滑り出しを切った。これに先立つ6月27日、都内で記者会見に臨んだファミペイの担当者(ファミリーマート シニアオフィサー 経営企画本部 デジタル戦略部長 植野大輔氏)は、リアル店舗の優位性を訴えた。

ファミリーマート代表取締役社長の澤田貴司氏(左から二番目)と同シニアオフィサー 経営企画本部 デジタル戦略部長 植野大輔氏

「キャッシュレスが、これからどこで起こるのかといえば(現金比率の高い)リアルな小売り。中でも社会インフラと評価されているコンビニでキャッシュレスが進まないければ、日本のキャッシュレス社会は到来しない。リアルな小売りをキャッシュレスにする、その中でファミリーマートは、キャッシュレスを超えた“お財布レス”に挑んでいく」

“お財布レス”の意味は、買物毎に提示するポイントカード、クーポン、代金の支払いを全てファミペイ上で完結できるということ。

ポイント還元については、2019年11月より、ファミペイは、Tポイント、ドコモのdポイント、楽天スーパーポイントの3社とアプリ連携させて利便性を図る。ファミペイの中に3社の機能が入り、どれでも使用できるようにし、例えば、ファミペイで支払うと200円で1円相当の還元がファミペイ側で起きて、さらに提携しているカードに200円で1ポイントがショッピングポイントとして付与される仕組みにする。

チャージについては、スタート時はレジでの現金チャージを中心に推進していく。銀行口座からのチャージは今年の秋をめどに送金・決済事業を手がけるpring(プリン)社が間に入り実現させる。クレジットカードからのチャージはファミマTカード(5月末1610万人)のみとし、他のクレジットカードとの連携は考えていない。

要はファミマが相手にするのは現金で支払うお客である。オートチャージの利便性よりもまず先に、アプリをダウンロードしてもらい、チャージは店舗のスタッフに任せてくださいね、といったデジタルとアナログを融合させたスタンスを取って会員を獲得していく。リアル店舗の強さであろう。

お客役になってファミペイの利用の仕方を実演する澤田貴司氏

2020年度内にアプリ1,000万DLが目標

ファミマは今回のファミペイ導入により、顧客の携帯番号、性別、生年月日、郵便番号を取得し、その先はID付きPOSを活用して、商圏分析、商品開発、マーケティングの分析をしていく。こうした「自社デジタルの顧客基盤」を回しながら「オープン主義のデジタル化」のもと、先の3社と連携していく。

Tポイントは店舗基盤、ドコモは携帯電話、楽天はEコマースと異なるデータ基盤を加えた大量のビッグデータを創出し、そこから広告マーケティング事業、さらには金融サービス事業といった「未来の事業創出」につなげていく。ファミマのデジタル戦略の将来図である。

ファミマの澤田貴司代表取締役社長は、ファミペイを契機とした事業創出に意欲を見せる。

「金融サービスにはすぐにでも取り組んでいきたい。われわれは物販だけでも年間3兆円規模の売上を上げている、税金を含めた代行支払いでも約3兆円を取り扱っている。これらを(ファミペイで)払ってもらえれば、いろいろなメリットを提供できるサービスも検討している。われわれは銀行には参入していないが、フィンテックの時代、短期の貸付け、保険の提供、小口のファイナンスなどに取り組んでいきたい」

国内1万6430店舗でリアルの強さにビッグデータを加えて事業創造に挑戦していく

ファミペイの目標は2020年度内にアプリ1,000万ダウンロード。1000万規模のタッチポイントを持ち、今後は販売促進や、前述のように金融商品の提供に活用していく。

新商品登場で活況の洗濯洗剤。新付加価値で独走する「アタックZERO」

今年2月、P&Gが「アリエールジェル プラチナスポーツ」、「アリエールジェルボール 3D プラチナスポーツ」を新発売し、4月には花王が「アタックZERO」で10年振りの刷新を図るなど、洗濯洗剤各社の動きが活発化しています。そこで今回は、「洗濯洗剤」の購買データから買い方の変化を分析します。(調査期間:2018年4月~2019年5月)

花王・P&G・ライオン3社が続々新製品投入で市場活況


「花王・P&G・ライオン」3社における洗濯洗剤の購入金額構成比をみると、2018年下期から各社新商品の投入がスタート、各社ともに新商品による構成比シェア拡大に成功しています。

まず8月に「速乾性や(ふっくらとした)触り心地」などの新たな価値を提案したライオン「トップ ハレタ」が発売、9月の購入金額構成比は25.6%で前月20.1%より、5.5ポイントアップしています。

その後、2019年2月にP&Gが主力の「アリエール」で“スポーツ”を切り口に「アリエール史上最強消臭洗浄力」を掲げる新商品「プラチナスポーツ」を投入。3月の購入金額構成比は37.6%で、前月35.4%より2.2ポイントアップしています。

同年4月には、花王が「アタックNEO」シリーズの販売を終了し、新洗剤「アタックZERO」を発売、アタック液体史上「最高の洗浄力」、通常ボトルのほか、片手で注入できる「ワンハンドプッシュボトル」や「ドラム式専用」商品を投入。4月における花王の購入金額構成比は、46.1%で、前月42.1%より4.0ポイントアップ。
全期間において花王が購入金額で1位のシェアを獲得し、洗濯洗剤市場を牽引しています。

シェア1位「アタック」、新商品登場でますます好調

次に、「花王・P&G・ライオン」3社における洗濯洗剤の主要ブランド別で購入金額の構成比をみます。

ブランド別では、花王「アタックNEO」が20%以上のシェアをキープ。新洗剤「アタックZERO」は、発売月4月で8.5%(アタック全体27.5%)、5月で8.0%(アタック全体23.3%)のシェアを獲得し、新洗剤においても既存顧客に受け入れられていることが伺えます。

一方、2019年3月発売のP&G「プラチナスポーツ」は数値としてはまだ現れていませんが、2014年同社から洗濯洗剤の新しい形態として発売された「ジェルボール(図表中はGBと記載)」は、「アリエール ジェルボール」および「ボールド ジェルボール」が、今では一定のシェアを獲得している実態があるため、今後の動向に注目です。

他にも、漂白剤や着色料を加えず肌に優しい「P&G さらさ」は、安心安全を求める消費者の心をつかみ、主力の「アリエール」よりも高いシェアを獲得する月も見受けられます。

また、ライオンは主力の「トップ」が大きな構成比を占めていますが、2018年9月発売の新洗剤「ハレタ」や、同月にリニューアル発売した「アクロン」、根強いファンを抱える粉末洗剤の「ブルーダイヤ」などが、数値として表れています。

近年では、「洗浄力」だけではなく、「抗菌」・「消臭」など、様々な機能を提案する洗濯洗剤が増えています。

機能別構成比は「抗菌・ウィルス」が最大

次に、洗濯洗剤の機能や商品特性別で購入金額の構成比をみます。

機能別・商品特性別で構成比をみると、「抗菌・ウィルス」がもっとも大きな構成比を占め、「(アタックZERO)のZERO洗浄」、「無添加・自然派」、「部屋干し用」、「消臭」と続きます。

「抗菌・ウィルス」については、梅雨時の6月~7月と、インフルエンザや風邪など、ウィルスや感染症のリスクが高まる11月~12月にかけて上昇傾向となり、「無添加・自然派」は、ほぼ一定の構成比でリピーターに支えられています。「部屋干し用」や「消臭」は、部屋干しによる生乾き臭を防ぐことや、ニオイ菌を断つというように消費者ニーズが高い機能ではありますが、「抗菌・ウィルス」機能と関連する部分もあるため、数値としては表れにくいことが考えられます。

購買チャネルNo.1はドラッグストア

次に、各社の主力洗剤「花王・アタックZERO」、「P&G・アリエール」、「ライオン・トップ」をセレクトして、店頭における購入チャネルをみます。

各社ともに、購入チャネルとしては「ドラッグストア」が最多となり、「スーパー」が続きます。「花王アタックZERO」のみがスーパーに次いで、「ホームセンター(13.2%)」、「P&Gアリエール」および、「ライオン トップ」は、「ディスカウントショップ」がそれぞれ、21.2%(P&Gアリエール)、15.3%(ライオン トップ)と続きました。

付加価値が購買喚起につながっている「アタックZERO」

最後に、今年4月に発売された新洗剤「花王アタックZERO」の購入者アンケートの結果から店頭販促状況をみます。

購入者アンケートの店頭販促状況をみると、従来品の「アタックNEO」は商品リニューアルに伴う「特売・セールされていた」が50.5%と半数以上の方が回答していますが、「目立つ販促説明(POP)があった(31.6%)」・「同じブランドの商品がたくさん並んで目立っていた(14.0%)」、「購入した売り場とは別に、陳列してあった(7.0%)」・「CMやタレント等、目立つ広告販促があった(5.3%)」などの店頭販促状況は、いずれも新洗剤「アタックZERO」が上回ります。

購買コメントをみると、「どこの売り場でも目立つPOPがあった(30代女性)」・「店内の催事コーナーで目立っていて購入(50代女性)」・「CMでみかけた商品がたくさん陳列されていたので購入(50代女性)」など、主力洗剤10年振りの刷新を消費者にアピールするための売場作りがされていたことや、「好きな俳優がやっていたCMを観て、機会があれば買おうと思っていた(30代女性)」など、旬の若手俳優を起用した広告戦略が購入のきっかけとなっていることや、「ワンハンドプッシュとドラム式専用という新しい形態に惹かれて試し買い(40代女性)」といった、付加価値が購買喚起につながっていることなどが、マルチプルID-POS「Point of Buy®」の購買コメントからわかりました。

今後、新洗剤「アタックZERO」がどのように浸透していくか、また、P&Gや花王に次いで、ライオンが7月に投入する“全部無臭化洗浄”を実現した「トップ スーパーNANOX ニオイ専用」の動向など、活発化する洗濯洗剤市場に注目していきたいと思います。