マツキヨ・スギ・ココカラの経営統合が実現すれば1兆5,000億円超の巨大DgSが誕生!?

平成最後の金曜日、2019年4月26日、業界第4位のマツモトキヨシHD(以下マツキヨHD)と、同7位のココカラファインが資本業務提携に関する検討と協議を開始すると発表しました(その後、経営統合も含む検討と協議に修正)。このビッグニュースに驚いていたら、令和元年の6月1日、業界6位のスギHDとココカラファインが「経営統合に向けた協議を始めた」という発表がありました。先行きはまだ不透明ですが、もし3社が経営統合すれば、売上高1兆5,000億円超の巨大ドラッグストア(DgS)チェーンが誕生します。

3社の出店戦略と立地戦略は共通している

3社の経営統合の話は唐突のように感じる人も多いと思いますが、経営指標を分析すると、3社には共通点があります。第1の共通点は、「出店戦略」と「立地戦略」が似ていることです。

2018年決算のDgSの「純増店舗数(新店数-閉店数)」の多い順の第1位は「ツルハHD」176店、第2位が「ウエルシアHD」158店、第3位が「コスモス薬品」85店、第4位が「クスリのアオキHD」72店と続きます。それに対して、マツモトキヨシHDの2018年決算の純増店舗数は49店、スギHDは57店、ココカラファイン18店と、ツルハHD、ウエルシアHDと比較すると、店舗増加率が低いことがわかります。

さらに、2017年決算の純増店舗数は、マツモトキヨシHD10店、ココカラファインはマイナス3店舗と、マツモトキヨシとココカラファインは、この2~3年の店舗増加数が停滞していたことがわかります。ちなみにスギHDの2017年決算の純増店舗数は52店です。

2社の店舗増加数が停滞していた理由は、「スクラップ&ビルド」の期間にあったということです。とくにマツモトキヨシは、2105年頃から、不採算店のスクラップを断行して、一時的に減収になっても、営業利益率(2019年決算の営業利益率6.3%)の高い、「筋肉質の経営体質」に改革しました。大店法の規制時代に大量出店した「150坪の郊外店」を思い切って大量閉店しました。この決断はなかなかできないことです。店舗年齢の古い既存店は、店舗の償却が終わっており、売上は減少傾向にあるが、営業利益が出ている店舗が多いからです。競争力はないが、儲かっている既存店をスクラップすることは、短期的には売上と利益の減少要因になります。しかし、マツモトキヨシは、この3~4年の間に、スクラップを断行し、筋肉質の経営体質に改革したことは、とても評価できることだと思います。

同様に、ココカラファインもスクラップ&ビルドを進める途上にあると思われます。3社の中では、純増店舗数が多いスギHDは、「古い店舗を閉めない」ことで有名でしたが、これからは既存店のスクラップ&ビルドを推進すると決算発表で強調しています。そういう意味で、スクラップ&ビルドを進めているという意味で、3社の出店戦略は共通しています。

第2の共通点は「立地戦略」です。マツモトキヨシHDは、郊外店を閉店する反面、都市型・繁華街型の出店を加速しています。ココカラファインは、1,354店のうち、比較的人口の多い「都市型179店」「商店街型332店」「住宅地型389店」で大半を占めています。「郊外型」立地の店舗は208店に過ぎません。主戦場は人口の多い立地であることがわかります。

スギHDは郊外型店舗も多いですが、2019年決算では過去最高の101店の新店を開店しており、純増店舗数も84店舗と、出店競争の巻き返しを図っています。しかも、大阪や東京の「都心部」への新規出店を加速しています。

化粧品と医薬品が強く食品の構成比が低い

図表1は、上場DgSの食品の売上構成比です。食品の売上構成比が50%を超えるDgSもある中、マツモトキヨシHDの食品の売上構成比は9.7%と極めて低いのが特徴です。同様に、ココカラファインは11.0%、スギHDは12.9%(図表1では未掲載)と、3社ともに食品の売上構成比が低いことが共通しています。

一方、図表2は、スギHDを除く「化粧品」の売上構成比のランキングです(2018年決算の数値)。第1位がマツモトキヨシHDの40.5%、第2位がココカラファインの29.8%です。食品が少なく、化粧品が主力であることが、この2社の共通点です。ちなみにスギHDの「ビューティ」の売上構成比は、2018年決算では22.0%です。

図表3は、スギHDを除く医薬品(調剤含む)の売上構成比のランキングです。マツモトキヨシHD 33.9%、ココカラファイン33.9%と、医薬品の構成比が高いことが共通しています。図表4は、「調剤」の売上構成比のランキングです(2018年決算)。調剤の売上構成比は、スギHDが21.9%とダントツの1位です。

スギHDは「ヘルスケア(OTC含む)」の売上構成比が18.6%であり、「調剤」+「ヘルスケア」で40.5%と、ヘルスケア特化型の企業です。ココカラファインの調剤比率も15.6%と高く、スギHDとココカラファインは、「調剤併設型DgS」を志向していることがわかります。マツモトキヨシは、調剤の売上を公表していませんが、1店舗当たりの調剤売上はトップクラスだそうです。

調剤は、「診療報酬」の改訂によって、調剤の単価が下落し、「薬価」(調剤の粗利益率)も低下しています。調剤は、「薄利多売」で儲けなければならないので、必然的に調剤主力型の企業は、ボリューム(量)を求める必要があり、経営統合に前向きなのだと思われます。

ちなみに、アメリカのDgSは、調剤の売上構成比が70%を超えています。かつては、ローカルDgSがたくさんありましたが、どんどん経営統合が進み、現在は、「ウォルグリーン」と「CVS」の2社に集約されています。日本も、そうなるのでしょうか?

スマートストア化に積極的に投資

マツモトキヨシHDは、売上・顧客データ分析に基づく売場づくりに定評があります。また、「マツキヨアプリ」を使った顧客獲得施策、ワントゥワンマーケテイングに接客的に取り組んでいることでも知られています。同社のポイントカード会員、LINEの友だち、公式アプリのダウンロード数を合計したグループ会員数は、延べ5,100万人超(2017年9月末現在)まで拡大しています。

またココカラファインもクラブカードの会員が700万人を超え、カード会員に「ココカラアプリ」を利用してもらう活動を進めている途中です。2019年の経営方針には、「おもてなしスマートストア化」という戦略を掲げています。全店舗のレジシステムを今年の9月までに入れ替える計画です。また、陳列状態をリアルタイムで可視化できる「棚割確認システム」、「無人レジ」「マーケテイングカメラ」、タブレットを活用した「化粧品のカウンセリングシステム」などのITを活用したイノベーションにも積極的に挑戦しています。

スギHDも、スマホアプリ「スギサポdeli」(栄養に配慮した冷凍食品の宅配)、「スギサポeats」(管理栄養士を活用した食事指導)、「スギサポwalk(歩行距離に応じてマイル/ポイントが貯まる)」など、デジタルを活用したトータルヘルスケアサービスを推進しています。

このように3社とも、DgS業界の中においては、攻めのIT投資を行っている企業ということが共通点です。もし3社が経営統合すれば、会員データという巨大なビッグデータを活用することができるようになります。

(※編集部注:本記事は2019年6月6日時点の情報をもとに執筆されたものです)

日本の小売業が直取より卸売業を活用すべき理由

小売業の大規模化と寡占化は進行しており、ドラッグストア(DgS)も例外ではない。2018年度の決算では上位5企業が売上高5,000億円を超えており、2019年度の通期予想で7,000億円を超える売上高を見込んでいる企業もある。これに加えて、ECの台頭、科学技術の発達、趣味嗜好の多様化、人口減少など消費や流通を取り巻く環境は激変の中にある。こうした時代、日本の中間流通業はどこに進路を取ればよいか、日用雑貨・トイレタリーの分野に関して、歴史を振り返りつつ未来戦略を提言する。(ニュー・フォーマット研究所 副社長 村瀬 一弘/月刊マーチャンダイジング2019年5月号より転載)

価格決定力の推移で見る流通業の歴史と勢力図

私の前職はある外資系消費財メーカーの営業担当で、入社した1980年ころには日用雑貨・トイレタリー用品の卸(中間流通企業)は三次卸の存在も含めると、それだけで2,000社ほどあったとおもう。現在は恐らく200社あまりになっているのではないか。まず、こうした中間流通業界の変動を振り返るとともに、本稿で述べる中間流通業、卸売業というのは、DgSの主力部門のひとつである日用雑貨・トイレタリー用品を扱っている企業に限定していることをお断りしておきたい。

図表1は流通市場における「価格決定力」の動向の変化を示している。価格決定力とは、メーカーの立場からは、時間をかけて開発・製造した製品がどれだけの利益をもたらすかを決定するものであり、卸、小売からすれば同業他社に優位に立ちどれだけのお客を集め、利益を残せるかという生命線で、サプライチェーン(製造から消費者に商品が届くまでの取引経路)に関わるすべての事業者の成否を分ける重要な要素となる。これを巡る勢力争いが流通の歴史と考えることもできる。

[図表1]価格決定力の動向の移り変わり(NFI作成)

戦後、モノの少ない時代は国内製造業の生産力もまだ弱く、限られた商品をいかに消費者まで分配するかが流通のカギであり、そのカギを握るのは卸売業であった。

1960年代、高度成長期に入ると日本の製造業も生産力を付け、メーカーの力が大きくなってくる。化粧品や大衆薬(OTC)メーカーは小売業を系列化して自社の影響力を強めていた。日用雑貨・トイレタリー用品メーカーは、自社製品の販売権を与えた「代理店」と呼ばれる卸を各都道府県に置いて価格決定に関しても強い影響力を持っていた。

小売業に割引販売を許さない「再販制度」や卸・小売の利益も見込んで、あらかじめメーカーが販売価格を決める「建値制」と呼ばれる商習慣も一般的であった。

卸や小売の自由な活動を極端に制限するような再販制度は、公正取引委員会の指示で是正されていくが、それでもメーカー優位の時代はしばらく続く。しかし、1990年代に入り、化粧品の再販制度が廃止されるなど、価格決定権は次第に小売業へと移っていく。この背景には規模を拡大した小売業が全国に多店舗展開(チェーン展開)し、一企業で大量の仕入れを行う力、いわゆるバイイングパワーを付けたことがある。

小売業が広域展開し大規模化すると同時に、各地域に高速道路網が整備され、都道府県を越えて広域にモノを運ぶ物流が可能になる。それ以前は、各都道府県に1店、もしくは数店あるメーカーからの指定を受けた「一次卸」と呼ばれる卸売会社が商品を仕入れ、そこからさらに二次卸、三次卸といった下流の卸に商品が供給され、地域内の店舗にモノが行き渡る流通経路が一般的だった。つまり、都道府県単位で一次卸を頂点に、ピラミッド形をした多数の卸が、メーカーから供給された商品を小売業へと配荷して利益を分け合っていたのである。

ところが、小売業の広域多店舗展開と高速道路網の整備で、こうしたやり方は著しく効率が悪くなる。山で越えられなかった県境を高速道路でやすやすと越えられるなら、積載力のある大型トラックで広域にモノを運んだ方が効率がよいのである。

また、大企業化した小売業と対等に商談し、提案していくためにも中間流通業は規模を拡大して、情報収集力や資本を蓄える必要性に迫られた。こうして、地方の中小卸の合併が相次ぎ、中間流通企業は社数を減らしながら規模を拡大させていくことになる。

さらに2000年代に入ると、ブランドの数や有力な小売業の店舗数が増え、消費者は商品や店を選ぶ時代に入る。さらに、生産性向上に伴い商品が過剰に供給され始め、価格決定力は消費者、小売業とサプライチェーンの下流に移っていく。この流れはいまも続いている。

市場への影響力を強めるため直接取引を目指す

価格決定力がメーカー優位であった1960年代、花王(当時花王石鹸)は市場への影響力を強めるために、いい換えれば価格決定力の優位性を保つために、自社製品専門の卸売会社(販社)をつくる。卸を使わずに中間流通機能を自社で持つ、いわゆる「直接取引(直取)」の本格的な開始である。これに刺激を受けたライオン(当時ライオン石鹸)も販社こそつくらなかったが、自社製品を主力で扱う卸売業を増やし、中間流通において系列網を強化(サブシステム化)していく。

花王はいまに至るも直接取引を継続しているが、これを試みて成功しなかったメーカーも私が知る限りでも数社ある。

私は前職で営業の責任者をしていたとき、リージョン(アジア地域)責任者の意向により、「直取をしたいのでコストと必要な従業員数を算定せよ」というミッションを受けたことがある。そのとき一定期間をかけ調査した結果、数百億円の投資と数百人規模の人員が必要なことがわかった。これを責任者にリポートしたところ、結局直取は断念せざるを得なくなった。

直取には優れたところがあるので、これを否定するものではないが、私の考えではメーカーは、日本の卸売業の優れた機能を大いに活用すべきだ。バラからケースまでのきめ細かな配送、安定した代金回収、店頭のメンテナンスなど、日本の卸売業はメーカーを支援する機能を総合的に持っており、これは日本特有のビジネスモデルである。

私が前職の外資系メーカーで台湾の営業責任者をしていたとき、円換算で年商200億円程度でほぼ直取だった。当時、売上の入金遅れや金額違いをチェックするために専任で3人ほどのスタッフを貼り付けていた。それほど、頻繁に入金日や金額の間違いは起こり、確実な代金回収には手間暇がかかるのだ。一例だが、日本の卸売業はこうした手間暇のかかる業務を着実に実行している。

日本と欧米では商習慣が大きく異なる

欧米には日本的な卸売業はなく、ウォルマートなど大手小売業は自社の物流センターで在庫管理をしてメーカーから直接商品を受け取り、各店に配送する物流機能を自社で持っている。自社物流に加えて、商品回転の速いものはメーカーから店舗へ直送させるなど、商品回転率や定番商品、シーズン商品などによって直接取引、自社のセンター経由など物流方法を使い分けている。

また、欧米には卸の機能を個別に持ったアウトソーシング企業が存在し、小売業がそれらを利用することが多い。たとえば、日本の卸が行っている情報収集やマーチャンダイジングなどはマーケティングエージェンシーが代行することが多い。

こうした機能の違いに加え、日本と欧米の流通事情の決定的な違いは、メーカー、ブランドの数である。欧米ではメーカー、ブランドの数が日本と比べると極端に少なく、商品管理がしやすいので比較的容易に直接取引できる。ところが、日本の場合ひとつのカテゴリーに多数のメーカー、ブランドがひしめいており、小売からすれば、一メーカーごとに直接取引していては効率が悪い。

また、日本は春と秋に棚替えされるのが一般的だが、欧米ではメーカー、ブランドの数が日本ほど多くのないので、決まったタイミングではなく新商品が発売されたタイミングで随時棚替えが行われる。

多ブランド並立でリニューアル品の多い日本のカテゴリー状況で、欧米のような頻繁な棚変えは難しいだろう。しかし、春の棚変え後1、2ヵ月で販売データをチェックして売れない商品は入れ替える。秋も同様にチェックして、修正する。死に筋商品が次の棚変えまで売場を占拠するのは非効率なので、戦略的な重要カテゴリーでは、卸売業と協働して、こうした修正・チェックを含め年4回程棚変えをしてもよいのではないか。

このように日米の商習慣は大きく異なるので、必ずしも直取が最善策ではない。日本の場合、卸売業をサプライチェーンの中に取り込んだ方が売上の最大化につながる。

図表2では卸売業の機能とメーカー、小売業が期待する機能をそれぞれ書き出してある。ロジスティクス(物流)は当然のこと、マーチャンダイジング、情報提供、商材調達といった機能は、特集記事のトップインタビューの中で、各トップが詳細に語っている。

[図表2]中間流通業の機能

アルフレッサ ヘルスケアではトータル・ヘルスケア・マーチャンダイジング・ホールセラーというスローガンを標榜して「専売商品」と呼ばれるカウンセリングで販売する高粗利商品を開発・販売している。販管費増加で縮小傾向にある営業利益を伸ばすには格好の商材である。

パルタックは先進的なデジタル技術を物流センター(RDC)に採用することで生産性を上げ商品の安定供給に努めている。さらに、AIを取り入れた無人レジの実験に着手するなど、デジタル技術で小売業の省人化や生産性アップまでをサポートする態勢を整えている。

あらたでは、購買履歴の調査や販促計画の立案・実行などをグループ企業と一緒に進め、物流以外の機能強化を進めている。メーカーとの共同販促を単なる販促で終わらせることなく、結果検証、次の施策への反映などデータ分析に基づき小売業へ提案をしている。

小売業は卸の持つこうした現状をいま一度認識して最大限に活用した方がよい。卸の進化した機能をチェックすれば、自分たちが十分認識していなかった新しく優れた機能を発見するはずである。

MD NEXT運営元のニュー・フォーマット研究所では、上記の卸売業の機能やメーカーの進化に関する詳細な資料をご用意しました。ご興味がある方は、ぜひ以下からご連絡先をご入力ください。追って担当者からご連絡させていただきます。(メーカー様に限定させていただきますのでご了承ください)

「不正ロス」を削減するために抑えておきたい4つのポイント

店舗の利益を上げるためには、売上を上げる、粗利益率の高い商品を販売強化するなど収益性向上につなげる方策がある。それと並んで、欠品や(化粧品)担当者不在などで起こるチャンスロス対策、実在庫と理論在庫が合わない不明ロス対策などのロスへの対抗策がある。ここでは万引きを中心とした不明ロス対策の方法を紹介する。

正確な棚卸による「不明ロス」把握が出発点

企業、店舗問わず、どれくらい儲かっているかを把握するためには、まず、売上高から売上原価を引いて粗利益高を計算することから始まる。粗利益高を求める数式は〈粗利益高=売上高−売上原価〉である。

この数式で用いられる売上原価を求めるためには〈期首原価棚卸高+期中原価仕入高−期末原価棚卸高〉という計算が必要だ。

こうした過程の中、実地棚卸で計算した在庫(実在庫)金額と帳簿上の在庫(理論在庫)金額が合わない場合がある。店頭で売れた分、廃棄や破損などのロスを差し引いても、実在庫と理論在庫が合わない、原因不明のロス金額が「不明ロス」と呼ばれる(図表1)。

[図表1]不明ロスの定義

正確な実地棚卸で在庫金額を出さなければ「不明ロス」自体が不正確となり、適切な対策も立てられない。したがって、不明ロス対策の第一歩は正確な実地棚卸で正確な在庫金額、不明ロス金額を算出することである。

日本を含む世界24ヵ国が調査に協力した、小売業の窃盗犯罪に関する世界的な報告書である「グローバル・リテイル・セフト・バロメーター(GRTB)2014−2015版」によると、不明ロスの内訳は次のとおりである。従業員による不正39%、万引き38%、犯罪性のない管理上のミス16%、取引業者の不正7%(図表2)。

[図表2]不明ロスの発生原因割合

同報告書によると、日本の不明ロス率(売上高に占める不明ロス金額の割合)は1.35%、金額にして149億ドルに及ぶ。1ドル100円で換算すると1兆4,900億円という莫大な金額が不明ロスで失われていることになる。小売業で優良といわれる営業利益率の目安が5%といわれるので1.35%がいかに大きな数値かがわかる。

海外では不明ロス、とくに万引き対策を「ロス・プリベンション(lossprevention)」と呼び、役員レベルがトップに立って指揮を執る大手小売企業も多い。実行部隊である店舗レベルの対策も重要だが、組織を挙げトップの指示の下に体系的な対策が望まれる。

計画的な万引きには予兆させる特徴がある

不明ロスの約4割を占める万引きの被害に悩まされている店も多いだろう。万引きには個人による単独犯行と集団窃盗がある。集団窃盗には外国人が関わっている場合が多い。万引き対策のコンサルティング事業も手掛けるエイジスによると、単独犯と集団窃盗の発生件数の割合は7対3。

一度に大量に商品を盗む集団窃盗が注目されやすいが、実際は個人による犯行が多い。店舗関係者によると、常連客の中にも食品や日用品など少額の商品を万引きする人がおり、少額でも頻度高く盗難に遭うと被害は大きくなる。

万引きの動機には、衝動的に犯罪に及ぶ、いわゆる「出来心」による犯行と、集団窃盗を含む計画的な犯行がある。計画的に万引きを行おうとする人には、以下のような特徴がある。

このような人が店内にいたら要マーク。犯行に及ばないように注視する。従業員同士で要注意人物が店内にいることを共有すべきである。

ドラッグストアはセルフ販売が基本で、化粧品売場や医薬品の相談カウンター以外、補充時や質問対応時を除けば売場に人がいないことも多い。定期的な店内巡回、レジなど人がいる場所から店内を見渡し、異変がないかを注意することなども防犯には効果的である。

おもてなしの心が万引きしにくい店舗環境を作る

図表3、4はエイジスによる万引き発生への対応フローチャートである。図表からいくつかポイントを挙げてみよう。

万引き被害の大きさを認識し、企業トップが指示して責任者を決め、体系的なマニュアルを作成する。店舗ではマニュアルを着実に実行するとともに、困りごとはないか、気持ちよく買物しているかなど、常にお客に関心を払い、おもてなしの心を持つことで、万引きしにくい店舗環境が生まれる。

[図表3]万引き犯への声掛けフローチャート(資料提供:株式会社エイジス)
[図表4]防犯ゲート発報時のフローチャート(資料提供:株式会社エイジス)

令和元年はインターネット広告がテレビ広告費を抜く元年になる

電通が毎年発表している「日本の広告費」によると、インターネット広告費の増加率が非常に高くなっていて、今年中にテレビ広告費を追い抜きそうです。令和元年は、インターネット広告が主役になる元年でもあります。

テレビ、折込広告の「昭和メディア」が衰退している

電通が毎年発表している「日本の広告費」によると、昭和、平成に圧倒的な影響力を誇ったメディアである「テレビ広告費」の衰退が加速していることがわかります。2018年のテレビ広告費は1兆9,123億円。2015年から毎年減少していることがわかります。しかも、かつてはテレビ広告費といえば「地上波テレビ」の広告費のことでしたが、近年は「衛星テレビ関連」も加えた広告費で発表することで、かろうじて広告費1位をキープしています。

一方、2018年のインターネット広告費は1兆7,589円と急増しています。2015年対比で34%も成長しており、テレビ広告費に肉薄しています。「地上波テレビ広告費」だけだと、すでにインターネット広告費が、テレビ広告費を追い抜いています。令和元年(2019年)は、衛星テレビ関連を含めた「テレビ広告費」を、インターネット広告費が追い抜く元年になるのは間違いありません。

2018 年の総広告費6兆 5,300 億円のうち、「インターネット広告費」が占める割合は全体の26.9%にまで高まっています。また、インターネット広告費1兆7,589億円から「インターネット広告制作費」を除いた「インターネット広告媒体費」は1兆4,480 億円(前年比118.6%)です。

電通の調査によると、インターネット広告媒体費の広告種別の内訳は、検索連動型広告(39.4%)とディスプレイ広告(38.9%)の2種で全体の約8割を占め、その後にビデオ(動画)広告(14.0%)が続きます。取引手法別では、運用型広告が全体の約8割を占めています(下の図表)。

広告種別の定義は以下の通りです。

・ディスプレイ広告:サイトやアプリ上の広告枠に表示する画像、テキストなどの形式の広告およびタイアップ広告。
・検索連動型広告:検索サイトに入力した特定のワードに応じて、検索結果ページに掲載する広告。
・ビデオ(動画)広告:動画ファイル形式(映像・音声)の広告。
・成果報酬型広告:インターネット広告を閲覧したユーザーが、あらかじめ設定されたアクションを行った場合に、メディアや閲覧ユーザーに報酬が支払われる広告。
・その他のインターネット広告:上記以外のフォーマットのインターネット広告。メール広告、オーディオ(音声)広告など。

2018年の「インターネット広告媒体費」 1兆4,480億円をデバイス別に見ると、モバイル広告費が全体の70.3%(1兆181億円)となり、初めて1兆円を突破したことが特筆されます。つまり、インターネット広告費の主役はスマホ広告であり、PC広告ではないのです。

また、ビデオ(動画)広告が急成長しています。2018年のビデオ広告費は2,027億円。2019年には前年比130.8%の2,651億円へと拡大する見込みです。なかでもモバイルの動画広告の成長が著しく、前年比139.3%と全体の伸びをけん引すると、電通は予測しています。

昭和、平成バイヤーの常識が通用しない

一方、昭和、平成の小売業の商品部バイヤーにとって「打ち出の小槌」的な販促だった「折込チラシ広告費」は、2006 年の6,662 億円をピークに減少を続けています。リーマンショックの影響があった2009 年に6,000億円を割り込み5,444 億円、消費税増税の影響を受けた2014 年に4,920 億円に減少、そして、2017年は4,170億円、2018年は3,911億円と4,000億円を割り込みました。2006 年のピーク時を100 とした場合、2018年は58.7% となり、12年間で市場規模が42%とほぼ半減したことがわかります。

昭和、平成の商品部のバイヤーは、テレビ広告を大量投入する商品を仕入れて、チラシ販促で売上をつくることが、鉄壁の成功ストーリーでした。しかし、令和時代の小売業のバイヤーは、まったく異なる仕入れと販促を行わなければなりません。モバイル広告、SNSでの拡散情報に目を澄ましていなければ、令和時代の消費者の心に刺さる売れ筋を仕入れることができません。また、チラシ販促ではなくて、モバイル販促、SNS拡散対策が、販促の主役になります。

平成の後期に起こった「デバイス革命、SNS革命」は、つい最近の出来事です。デバイス革命をリードした「初代iPhone」が発売されたのは、平成19年(2007年)と、10年ちょっと前の出来事です。平成の中期には、スマホは存在すらしていませんでした。

また、SNS革命をリードした主要SNS(facebook、Twitter、YouTube、instagramなど)がサービスを開始したのは、平成22年(2010年)とつい最近の出来事です。変化の速度が速いですね。令和10年には、どんな未来が待っているのでしょうか?

「除菌」はもはや常識に。「スプレー」「速乾」が好調の食器用洗剤

台所用洗剤は、「洗浄力」だけではなく、近年では各社が付加価値の提案をスタートさせています。今回は当社独自に収集するPOB会員の「台所用洗剤」の購買データから、(レシート枚数 約9,000枚:調査期間2018年1月~2019年2月)トレンドについて分析します。

食品スーパーでの購入率高い理由は「ついで買い」

まずは、POB会員の「台所用洗剤」購入チャネルを調査してみました。

POB会員の購入チャネルは、「ドラッグストア」が49.4%で半数近く、「スーパー」が35.4%となります。(図表1)

参考までに、同じ洗剤カテゴリである「柔軟剤」「衣類用洗剤」の購入チャネルと比較すると「スーパー」で購入する方が比較的多く、食料品などの日々の買い物と合わせて、必要なときに“ついで買い”されるケースが多いことが言えます。(図表2)

購入者コメント(スーパーで台所洗剤を購入)からは、「チラシ掲載のヨーグルトを目当てにスーパーに行き、キュキュットが特売されていたのでついでに購入(40代男性)」や、「レジ近くで特売品として陳列されておりお得に感じて、買い物ついでに購入(40代女性)」といった声がありました。

人気トップは除菌タイプ。食洗器専用も上位に食い込む

次に「台所用洗剤」のトレンドを調査します。

POB会員の購入レシートからトレンドをみると、1位は洗浄力と除菌力、さらに香りを選ぶことができる「花王 キュキュット(19.7%)」であり、2位の「P&G除菌ジョイコンパクト(13.2%)」と、6ポイント差をつけ、購入された「台所用洗剤」のうち、2割近くのシェアを占めています。3位は「花王 キュキュットクリア除菌(10.6%)」、4位は「ライオン CHARMY Magica除菌+(プラス)(9.5%)」となりました。

他にも、7位「花王 食器洗い乾燥機専用キュキュット クエン酸効果」(3.4%)」、8位「ライオンCHARMY クリスタクリアジェル(3.3%)」、9位「レキットベンキーザー・ジャパン フィニッシュパワー&ピュア パウダー(2.4%)」といった食洗機専用洗剤が支持を集めています。今や共働き世帯は7割を超え(※1)、ライフスタイルの変化を捉えた商品がランクインしています。

「除菌」はもはや常識、多様化する悩みに対応する時代に

今までの調査結果から、「台所用洗剤」のトレンドを整理します。

まず1点目は、台所用洗剤に求める効果として「除菌」が重要な消費者ニーズになっている点です。その裏付けとして、POB会員の購入商品のうち、消費者にわかりやすく商品名に“除菌”があるものが上位を占め、5位の「P&G ジョイコンパクト」以外、全て“除菌”効果が期待できる商品でした。ノロウイルスやO-157など、ウイルスのもたらす危険な病気や感染症を予防するために、台所から「ウイルスを繁殖させない・増やさない」といった行動が消費者の中で浸透していることが伺えます。

そして2点目は、消費者の利用や悩みに合わせた商品タイプの変化や、機能が多様化しているという点です。その裏付けとして、スポンジが届かず洗えない汚れを落としたいという悩みに合わせて、商品をスプレーに変化させた6位の「花王 キュキュット CLEAR泡スプレー」が人気になっています。また、食器洗い後のぬれた食器を手早く片付けたいという悩みに合わせて“速乾”という機能を持たせた10位の「ライオン CHARMY Magica速乾+(プラス)」など、新しい提案でファンを増やしています。

この新しい提案を消費者はどう捉えているか、6位「花王 キュキュット CLEAR泡スプレー」の購入者コメントをみると、「汚れが良く落ちると書かれたPOPがあり購入。(50代女性)」や「CMで商品を見て、子どものストローマグや食器の洗いにくいところを簡単に綺麗にでき気に入った。(20代)」など、今までスポンジでは落としにくかったミゾやスキマの汚れに、スプレーをして洗い流す使用法や、商品の魅力が、POPやCMで明確に消費者に伝わり購入につながっていることがわかります。

また、「油汚れの強い鍋や、食器などの予洗いとして利用。汚れがすっきり洗い流せる。(30代女性)」料理の合間にスプレーすることで、食器洗いが楽になるといった声もありました。他にも、「購入後は、毎日欠かすことなく使用。他にはない商品なのでとても気に入っている。(20代女性)」といった声があり、消費者の利用や悩みに合わせて、商品を変化させたことが奏功していることが伺えます。

今年3月には、P&Gが「ジョイ」を1996年の発売以来、初めて洗浄成分からロゴまで全面刷新し、スポンジいらずの泡スプレータイプ「ジョイミラクル・クリーン泡スプレー」を新投入するなど、メーカーの動きが活発化しています。

まだまだ製品に工夫の余地がありそうな台所用洗剤。消費者をあっと驚かせるような商品開発に今後も期待したいと思います。

※1 厚生労働省「平成29年 国民生活基礎調査の概況」

※図表1~3:ソフトブレーン・フィールド株式会社
「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」
全国の消費者から実際に購入/利用したレシートを収集し、ブランドカテゴリや利用サービス、実際の飲食店ごとのレシートを通して集計したマルチプルリテール購買データのデータベース

出店急ブレーキのコンビニ、大量出店継続するドラッグストア

平成時代に「生活ストア」の主役として急成長を遂げた「コンビニ」と「ドラッグストア(DgS)」の成長性の明暗が分かれてきました。コンビニの店舗増加数(純増数)が急減速し、一方、DgSの大量出店は来期以降も継続しています。DgSがコンビニを追い抜く日が来るのでしょうか?(写真はイメージです)

主要コンビニの純増店舗数が40店に大幅減少

上記の図表は、主要コンビニ4社の「出退店」の推移を整理したものです。今年の決算(2018年度)では、主要4社の年間出店数は4,026店、閉店数が3,610店、純増店舗数は416店でした。2016年度からの純増店舗数を見ると、2016年度1,600店、2017年度800店、2018年度400店と、明らかに年々コンビニの純増店舗数が減少していることがわかります。

コンビニの出店数の急ブレーキは、来期(2019年度)はさらに顕著になります。セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンの大手3社は、過去3年間、1,000店以上の新規出店を続けてきましたが、来期(2019年度)は、3社すべてが年間出店数を1,000店以下に抑え、不採算店の立地移転や閉店を進める計画を発表しています。

その結果、来期の主要4社の新規出店計画は2,090店、閉店計画2,050店、純増店舗数40店と、店舗増加率が一気にスローダウンすることがわかります。セブン-イレブンは今期(2018年度)の純増店舗数が616店に対して、来期(2019年度)は100店と大きく減少しています。ローソンに至っては、2019年度の純増店舗数はゼロを計画しています。

人手不足、パートタイマーの人件費の高騰、24時間営業などが社会問題化しているコンビニは、FC(フランチャイズチェーン)契約によるチェーン展開が特徴です。FC店は、店長=オーナーであり、社員ではないのでオーナーに残業代を支払う必要がない、弁当の廃棄ロス費用はオーナーが負担するなど、「FCオーナー残酷物語」などと揶揄されることもあり、FC制度の問題点は以前から指摘されていました。

出店に関しても、FC本部側は、自社競合しながら、密度濃くドミナント出店した方が売上が増えて儲かるので、積極的に「カニバリ出店」します。一方、FCオーナー側からすれば、同じチェーンの競合が近くに開店すると、自店の売上が減ってしまいますので、近くに店を出してほしくはないわけです。

また、問題になっている24時間営業に関しても、本部は営業時間を短縮すると売上が減るので、営業時間短縮には絶対に反対します。しかし、FCオーナー側は賃金の上昇に耐えられないので、客の少ない深夜には営業したくないと考えます。こうした、FC本部とFCオーナーの利害の対立や矛盾が、一気に表面化した結果の急減速かもしれませんね。

大量出店を継続するドラッグストア

一方、DgSは、来期以降も出店意欲が非常に高いです。最大手のウエルシアHDは、DgS123店の開店を計画。さらに改装250店舗。化粧品専門店の「ナルシス」のような新業態も積極的に出店していく計画です。

まだ発表されていませんが、ツルハHD、コスモス薬品などの大手も、年間100店以上の新規出店を継続するはずです。また、この数年、新規出店数がやや少なかったスギ薬局も、来期は110店の大量出店を計画し、巻き返しを図ろうとしています。

コンビニよりも対象商圏人口が多いとはいえ、DgSは、「狭小商圏業態」です。地域によっては1店当たりの商圏人口が1万人を切っており、5,000人以下の商圏で成立しているDgSもあります。

1店当たりの商圏人口が少ないということは、日本全国に大量の店舗を展開できるということです。このままの出店ペースが続けば、全国どこに行っても存在する、もっとも身近な「生活ストア」としての地位を確固たるものにするでしょう。今年から来年にかけては、コンビニが減り、DgSが急増する光景を見ることになります。

低経費&絞り込み&激安に割り切った小型業態「トライアルBOX」に注目

スーパーセンターなどの大型店のイメージが強い「トライアルカンパニー」が最近展開を始めた「トライアルBOX」が話題になっています。開店セール時に目撃した水戸南店(茨城県)は、店内を歩けないほどの混雑ぶりでした。トライアルBOXとはどんな業態なのか? 解説してみます。

トライアルBOX。徹底して絞り込んだ300坪型。24時間営業。

小型店の出店を増やしているトライアルカンパニー

トライアルといえば、売場面積2,000坪を超える「スーパーセンター」の印象が強い企業です。また、デジタルサイネージ、店内にスマートカメラを何百台も設置、顧客が自分で商品をスキャンしながら清算する「ウォークスルー方式」のレジ革命などの、最先端の「スマートストア」への挑戦でも注目されている企業です。

ところが近年は、300坪程度の小型店の出店も強化しています。トライアルのドラッグストア業態である「トライウェル」。さらに2018年12月に開店した、有人レジゼロの小型スーパー「トライアルクイック」、1号店は福岡県の大野城市に開店しました(詳細は月刊MD6月号で紹介)。

そして、今回紹介するのが、徹底した商品の絞り込みとローコストオペレーションを追求した「トライアルBOX」です。最近、新規出店を開始しており、関東だけでも「水戸南店」「ひたちなか店」「成田店」の3店を開店しています。

「BOXストア」とは、商品を少しでも安く売るために店づくり(居抜き出店)と店内作業の経費を掛けないことが最大の特徴です。そのために、商品を絞り込み、「ボウル(小箱)」や「ケース(箱)」「パレット」などの大きな単位で商品を運び、陳列することで店内作業を軽減しています。アメリカの「アルディ」などのハードディスカウンター(=BOXストア)は、店内にはゴンドラ(棚)もほとんどなく、平台と倉庫型のラック式の棚と、冷蔵・冷凍庫などで店舗がつくられています。日本では、1970年代にダイエーの子会社として店舗展開を始めた「Big-A(ビッグ・エー)」が、関東で約200店の店舗網を築いています。

アルディは、パレット、ケース、ボウルが補充・発注・物流の単位。パンも補充ケースのまま陳列している。

トライアルBOXも同様に、商品を絞り込んでいます。ゴンドラはありますが、最下部に車輪が付いた棚を多用しています。「移動式棚1台で1品目」の売場も多く、店内作業の軽減化に取り組んでいます。また、従来の店舗よりも平台の割合が高く、単品の陳列面積が広いことが特徴です。弁当、総菜、精肉も取り扱っていますが、インストア加工よりもアウトパック加工が主体だと思われます。売場面積は300坪程度と、トライアルのスーパーセンターと比較すると小型店です。

トライアルBOXは、物流や店内作業などの経費率を下げることで、粗利益率を低く設定し、地域一番の低価格を実現しています。たとえば、「カープラーメン一律59円」「豚小間切れ肉100g89円」「たまご10個99円」「もやし10円」「ハムカツ2枚95円」などと、驚くべき低価格を実現していました。見学した水戸南店も、安さ目当ての顧客で大繁盛していました。最近は、「価格より品質が重要」という識者が多いですが、「買物のリアルな現場」は、やはり「安さ」が一番であることがわかります。

売場面積の広いカテゴリーは、「冷凍食品」「ペット用品」「キッチン雑貨」「カー用品」でした。買上率の高い必需品を主力にしていることがわかります。

トライアルBOXの本家米国「アルディ」の特徴

トライアルがベンチマークしていると思われるアメリカのハードディスカウンター(=BOXストア)「アルディ」の業態としての特徴を以下に解説します。

「Business Insider」によれば、アメリカ小売業は、2017年に約5,000店も閉店しました。2018年は、2017年を上回る店舗が閉店しました。さらに、2019年には3月時点で、すでに4,300店舗の閉店が発表されています。閉店店舗の多くは、大型SC(ショッピングセンター)テナントとして出店している店舗です。

その一方で、店舗数を大きく増やす小売業も存在します。小型のハードディスカウンターを展開する「アルディ(Aldi)」も、2019年に大量出店を計画しています。

アルディはドイツ出身の企業で、ハードディスカウンターと呼ばれる業態を世界中に展開するグローバルリテーラーです。ハードディスカウンターとは、ウォルマートスーパーセンターなどの大型ディスカウント店のさらに下をくぐる価格帯で食品、グロサリーを提供する小型業態です。米国アルディは、西海岸の有力SMの「トレーダージョーズ」を買収し、2017年度は売上2兆5367億円、対前年比9.6%、店舗数は2084店、対前年比7.0%、全米で18位の企業規模に躍進しています。日本でも有名な「トレーダージョーズ」と「アルディ」は同じ業態なのです。

アルディの冷ケースの陳列。PDQと呼ばれるメーカーの出荷段階からセットされたケース単位で陳列している。しかも後方から補充ができる。ローコストオペレーション。

アルディの特徴は、「300坪程度の小型店舗」「品目数が少ない」「SCに入居しない単独(居抜き)出店」で初期投資を低くしています。また、絞り込み、単品大量販売(単品の陳列面積大)、インストア加工ゼロによって、従来のSM(スーパーマーケット)よりも圧倒的なローコストオペレーションを実現しています。

また、完全なEDLP業態(価格販促がゼロ)なので、売れ方の波動が少なく、旧来の「ハイ&ロー業態」よりも、作業人時のかからないオペレーションです。下記の図表で整理したアルディの業態コンセプトは、商品を徹底して絞り込み、単品大量販売を実現することです。また、取扱商品の80%がPBであることも、アルディなどのハードディスカウンターの業態としての特徴です。

リアル店舗の閉店が続くアメリカで、店舗数を大幅に増やしているハードディスカウンター(=BOXストア)は、アマゾンとも差別化できる令和時代の成長する乗り物(=業態)と、トライアルは考えているのかもしれませんね。

バブル崩壊から始まった「平成」小売業の30年間を振り返る

平成の30年間は、小売・流通業にとっては大きな変動の時代でした。小売業の主役が交代し、IT革命が起きた時代でした。令和元年を迎えるにあたって、平成小売業の栄枯盛衰の総括をしてみましょう。

平成初期の大型投資はすべて失敗に終わった

ついに令和元年が始まりました。令和時代の小売・流通業は、どんな変化を遂げるのでしょうか? 小売・流通業は、「変化対応業」です。変化の第一は「消費者」の購買行動の変化です。変化の第二は、競合状況や法律改正などの「競争環境」の変化です。

平成の30年間を振り返っても、「消費者」と「競争環境」という2つの変化に対応できず、衰退していった業態や企業はたくさんあります。一方、平成時代に飛躍を遂げた小売業もあります。

平成は「バブル経済」の絶頂期からスタートしました。平成元年(1989年)の4月30日に誕生した「マイカル本牧(現・イオン本牧)」は、まさにバブル時代を象徴する大型ショッピングセンター(SC)でした。総投資額400億円、初年度年商目標320億円。投資回収期間100年といわれた無謀な投資でした。

関西のスーパーマーケット(SM)だったニチイは、マイカル本牧開店の前年に「マイカル宣言」を行い、社名・店名もニチイからマイカルに変更し、「質販店」なる疑似デパートへの投資に大きく舵を切りました。

マイカルのような戦後成長した小売業の経営は、「土地本位制」が基本でした。土地は上昇し続けるものという「土地神話」によって、ダイエーやマイカルなどの大手小売業は土地を購入し、それを担保に借入を行い、巨大な投資を行いました。

マイカル本牧が開店する5年前の昭和59年(1984年)にはダイエーが「プランタン銀座」(現在は閉店)を開店しました。これもまた土地本位制に基づいた投資回収期間100年という無謀なプロジェクトでした。

また、長崎屋(現・ドン・キホーテ)は平成4年(1992年)、北海道の苫小牧に全天候型の遊園地併設型のSCを開店しました(平成9年閉店)。開店披露の記者会見で、SMの隣の遊園地の中をジェットコースターが走っているのを目撃して、「大根を買ったついでにジェットコースターに乗る客がいるのだろうか」と呆然としたことを、今でも鮮明に覚えています。

その後、バブルの終焉に合わせるように、ダイエー、マイカル、長崎屋は経営破綻しました。まさに平成の小売業界は、バブル崩壊から始まったわけです。

ROA主義のDgSは平成に急成長した

バブル崩壊によって、小売業の経営は、「売上至上主義」から「ROA(総資産回転率×経常利益率)主義」に大きく転換していきました。平成の始まりの頃に勃興期が始まったドラッグストア(DgS)は、売上や市場が右肩上がりではなくなった時代に大量出店をスタートしており、投資回収の速さを重視した経営を行いました。企業の収益性をもっとも効果的に示す経営指標であるROAが、他の業態と比較して高いことが、平成時代に成長したDgSの経営の特徴です(図表1参照)。ROAの目安は10%以上であり、上場DgS14社中、9社が10%を超えています。

一方、バブル時代に驚くべき成長を遂げた代表企業が「ユニクロ」です。ユニクロは、バブル崩壊後の平成9年(1997年)頃からPB(プライベートブランド)の売上比率を一挙に高め、製造直売小売業(SPA)に業態転換したことで、大きく飛躍しました。月刊MD創刊(平成9年)の翌年の平成10年に発売された「フリース」は、衣料は2~3万枚も売れればヒットといわれた時代に、200万枚も販売しました。翌年は800万枚のメガヒットを記録し、日本中がフリースブームに沸いたのを今でも覚えています。低価格&高品質のユニクロの快進撃は、バブル崩壊、デフレ時代の申し子であったと思います。

バブル崩壊後に急成長した、ユニクロ、ニトリのような専門業態、コンビニ、DgSのような小商圏業態は、GMSといわれた「総合スーパー」の売上を、薄皮を剥がすように奪っていきました。そして、昭和時代の小売業の王様「総合スーパー」は衰退し、平成時代は小売業の主役が明確に交代した時代でもありました。

デバイス革命、SNS革命、IT化が進んだ平成後期

そして、平成の後半に起きた大きな変化は、「デバイス革命」「SNS革命」です。スマホで簡単に商品を購入できるようになり、消費者の購買行動は激変し、アマゾンなどの「オンライン小売業」が急成長しました。

この変化は、驚くほど急激でした。デバイス革命を牽引した初代「iPhone」が登場したのは平成19年(2007年)と、わずか10年ちょっと前の出来事です。また、SNS革命を牽引したfacebook、twitter、Youtube、Gmail、Instagramなどのサービスは、平成22年(2010年)から急速に普及したものであり、平成時代の前半には存在すらしていませんでした。そう考えると、平成時代の小売・流通業は、驚くべきスピードで変化していったことがわかります。

いよいよ新しい令和時代が始まります。小売業の主役が交代した平成時代と同様に、令和時代も主役交代、新業態の台頭が起こるのでしょぅか? 現在、平成時代の申し子であるコンビニの出店が急減速し、DgSの収益性にも陰りが出始めています。

いずれにしても、過去の成功体験にとらわれず、「消費者の購買行動の変化」「競争環境の変化」の2つの変化に素直に対応することだけが、令和時代の活路を拓く原理原則であるとおもいます。

[美白ケアの売り方]最大の山となる3月から7月、売場展開の継続でリピーターを獲得

季節商品は「シーズンファーストバイ(=季節商品の初回購入)」の獲得が命!定番商品でもニーズの高まりに合わせて在庫を厚くするべき時期があります。カテゴリーごとに、商品の仕掛け時期やピークを把握して、タイムリーな売場づくりに役立てましょう。

[美白スキンケア 季節指数] ※インテージSRI /カテゴリー:美白スキンケア市場/期間:2014年1月〜2018年12月/指標:販売金額ベースの季節指数(5ヵ年)/グラフの縦軸:5ヵ年の月別販売金額の平均を1とする

[概況]3,000億円の成長市場、スキンケアの構成比が8割

美白ケア市場は、2018年度で約3,000億円まで拡大する見込みで、10年前の2008年と比較すると、伸長率が約120%で非常に伸びているカテゴリーだ。そして、市場のうちスキンケアが80%、ベースメイクが15%、その他ボディケアが5%と、スキンケアがその多くを占めている。金額にするとスキンケアが2,500億円を占める見込みで、前年比106%で推移している。

スキンケアのうち構成比が高いのが美容液(3割)と化粧水(2割)で、2アイテムで半分以上を占めている。昨年度は、ONE BY KOSEシリーズから「メラノショットホワイト」の発売、資生堂「HAKU」のリニューアルなどカウンセリング化粧品で大きな動きがあり、美白美容液が好調だった。

市場拡大の背景にあるのは、2000年代から続く白肌ブームだ。スマートフォンなどでは美白補正アプリが人気となっているほか、肌のトーンをアップさせるクリームや、美白成分の入ったシートマスクなどの国内外のコスメも流行しており、美容業界の流れは引き続き美白傾向にある。

さらに、紫外線による皮膚がんを予防する意識が高まっていることも市場を後押ししており、今後も成長が見込まれる。

2019年は、先述の「HAKU」から高機能美白ファンデーションが発売されるほか、ロート製薬「Obagi」からは最高濃度のビタミンCを配合した美容液「Obagi C25セラム NEO」が発売される予定だ。安全・安心を確保したうえで、より高機能なアイテムが求められているといえる。

[ポイント]3月と7月に売上の山。購入から1年は継続使用の傾向

美白ケアカテゴリーは、大きく分けて年間に2回、売上のピークがある。最大のピークは、紫外線が増え始めてくる3月ころ、第二のピークは紫外線量が最大になる5月から7月だ。美白化粧品を購入するお客の特徴として、一度購入した商品を1年間は使い続ける傾向がある。お客も使ってすぐにシミ、そばかすが薄くなったり、消えたりするとは考えておらず、継続使用によって効果が生まれることを理解している。そのため、第二の山である5月から7月はリピート購入が期待できる。

第一の山に向けて2月に準備をした後に7月まで継続して販売を強化する形が、購買チャンスを逃さず、リピーターを確実に獲得するためにもっとも有効で理想的だ。そのほかにも、7月、12月のボーナス景気で売上の山が生まれる。

メーカー側も、増量キャンペーンや、「●本買ったら1本無料プレゼント」などの購入特典を用意することが多い。販売店でもPOPを活用するなど積極的に情報発信を行い、製販協働で売上アップに生かしたい。

あるメーカーが行った一般消費者調査によると、シミ、そばかす、くすみは、20代から50代の幅広い年代の悩みで、とくに40代前半から50代前半の肌悩みのトップにシミ、そばかすが挙げられている。ひとくちに美白といっても、世代によって肌悩みは異なる。20~30代はシミやそばかすをつくりたくないと予防する人が多く、40~50代はできてしまったシミをなくしたい人が多い。出産を機に、女性ホルモンが関係しているといわれるシミの一種、肝かんぱん斑が出てきて、慌てて美白ケアを始めるケースもある。それぞれの美白ニーズを把握したうえで、売場での訴求を行いたい。

〈 関連商品 〉
メラノショットホワイト
(販売名 OBK 薬用美白美容液 40mℓ)
医薬部外品

[売場提案]メカニズムをわかりやすく解説、情報ツールの活用が肝

売り方に関しては、商品のキャッチコピーだけでなく、この商品を使うとどういうメリットがあるのかをわかりやすく伝えることが、購買につなげるポイントとなる。

シミ、そばかすに対して深い悩みがあるユーザーは、インターネットなどで事前に情報を仕入れている場合も多い。各社の多様な成分やメカニズムを説明するPOPなど宣伝ツールを有効に活用することで、お客の納得度を上げ、選びやすさをサポートしよう。エンド陳列などでお客の目の届くところに配置することも大切だ。

2019年は、3月に資生堂「HAKU」から「薬用 美白美容液ファンデ」が発売されたほか、5月にポーラから新規美白有効成分を使った新商品の発売が発表されている。発売時期には品出しの遅れがないよう、売場をつくり込みたい。

美白ケアのプロモーション売場例

[敏感肌関連商材の売り方]冬の乾燥や、春先の花粉でお肌は敏感状態。冬の仕掛けは9月スタート

季節商品は「シーズンファーストバイ(=季節商品の初回購入)」の獲得が命!定番商品でもニーズの高まりに合わせて在庫を厚くするべき時期があります。カテゴリーごとに、商品の仕掛け時期やピークを把握して、タイムリーな売場づくりに役立てましょう。

インテージSRIカテゴリー:敏感肌基礎化粧品市場/期間:2015年1月〜2017年12月/指標:販売金額ベース季節指数(3ヵ年)/グラフの縦軸:3ヵ年の月別販売金額の平均を1とする

[概況]市場規模は900億円に ボディ・ヘアケア商品も増

現在、敏感肌市場は約900億円といわれるほどにまで拡大。ヘアケアやボディケア用商品も増加傾向にあるが、敏感肌市場でもっとも大きな構成比を占めるのがスキンケアだ。

敏感肌は、肌のバリア機能が低下した状態を指す。エアコンや紫外線などの外的要因で起こる「乾燥性敏感肌」、生活習慣の乱れや腸内環境悪化など内的要因によって起こる「ライフスタイル敏感肌」、季節の変わり目など一時的にニキビや吹き出物が出る「敏感ニキビ」といった、さまざまな原因とタイプがある。最近では、春先の花粉も肌荒れの一因となることから、花粉による肌の不調対策を訴求する商品も出ている。

敏感肌を自覚する女性は2人に1人ともいわれており、年代を問わないニーズの高まりに応える形で敏感肌をターゲットにしたブランドや新商品も次々に登場し、多様性が生まれている。

市場の拡大とともに、「敏感肌+α」の機能性(ニキビケア、エイジングケア)を持つアイテムやラインが増え、これまで敏感肌用スキンケアを使っていなかった生活者にも、安心できる高機能なスキンケアとして浸透していった形だ。

[ポイント]9月中旬に、冬場の仕掛けを。花粉関連の肌荒れ対策は1月下旬

敏感肌用スキンケアは、そこまで大きな季節変動は見られないが、多くの女性が敏感肌を感じるのは、季節の変わり目といわれる。売上が伸び始める時期は、大きく分けて2つ。

ひとつ目は、冬から春にかけての時期だ。夏が終わり、気温が下がり、空気の乾燥が進んでいく10月ころから需要が増え、12月にピークを迎えているのがわかる。

とくに、東京をはじめとする大都市圏の年間平均湿度は低下傾向にある。寒い冬には欠かせない暖房の使用も、肌の水分が奪われる要因のひとつとなる。乾燥が原因となる冬場の敏感肌への仕掛けは9月中旬を目安に行いたい。

その次のピークとなるのが3月から5月にかけての時期だ。冬の入りとは逆に、急激な気温の上昇や紫外線への対応に肌の代謝が追い付かず、バランスを崩すケースが多く見られる。そこに花粉をはじめ偏西風に乗った黄砂、PM2.5などアレルギーを引き起こす原因物質が飛来することで、肌荒れを起こす人も多く、敏感肌用スキンケアの売上も伸長傾向にある。

春先の揺らぎやすい敏感肌を自覚する生活者に向けては、1月下旬までには売場を整えよう。切り替えやすいクレンジングや洗顔料、ふだんのお手入れにプラスするだけの美容液などを入り口に、トライアルを訴求したい。

一方で、日本製の「安全・安心」を体現する最たる商品群でもあるため、インバウンド需要も比較的大きい。最近は、インバウンドでもスキンケアアイテムのニーズが高いという。2月の春節や4月のお花見シーズンなど、アジア圏の訪日外国人の集客が見込まれる。とくに都市圏のドラッグストアでは、在庫を厚くして臨みたい。

〈 関連商品 〉

アルージェ トラベルリペア リキッド

[売場提案]定番に「敏感肌」コーナー展開 花粉時期には重点的に仕掛けを

第一に、化粧品の定番売場内での、敏感肌ブランドを集めたコーナーづくりはマスト。そのうえで、肌が不調を感じやすい時期やタイミングに合わせて、医薬品やサプリメント売場、ボディケア売場などと連携し、適宜「敏感肌」訴求を試みたい。

春先は花粉のほかにも、日照時間が長くなり、日差しも強くなる季節。UVケアのニーズが高まるが、揺らぎやすい肌にとってはUV剤そのものが刺激になることもある。安全・安心素材の敏感肌用のUVケアや、角層の状態を整え、健康な肌に導くスキンケアの重要性を、改めて情報発信するのもよい。

パーソナルなタイミングとしては、肌が荒れやすい生理時期、肌質が変わる産前産後の女性に向けたトライアル訴求も有効だ。生理用品売場や肌荒れ対策ドリンク剤、自然派洗剤とのクロスマーチャンダイジングもよい。

[花粉症対策売場での展開例]
※トライアルセット、プラスワン商品などを展開