3年間で約1万5,000店も閉店したアメリカ小売業は、日本の未来か!?

アメリカ小売業での記録的な閉店ラッシュが続いています。大型ショッピングセンター(SC)の閉鎖、廃墟化も加速しています。アメリカ小売業の5~10年遅れで追随している日本の小売業界も、近い将来、アメリカ小売業界のような「大量閉店」が始まるのでしょうか?

大型SCテナントの大量閉店が続いている

2017年のアメリカ小売業は、1年間で約5,000店も閉店した。(出典:Business Insider)

「Business Insider」によれば、アメリカ小売業は、2017年に約5,000店(上記図表)も閉店しました。そして、閉店した小売店舗の面積が1億200万平方フィート(約950万平方メートル)という記録的な数字になりました。2018年は、それを上回る1億5500万平方フィート(約1400万平方メートル)の閉店となりました。さらに、2019年にはすでに4,300店舗の閉店が発表されています。

上記図表の閉店企業の多くは、大型SC(ショッピングモール)にテナントとして出店している企業です。閉店数が第一位の「Radio Shack」は老舗の家電専門店ですが、経営破綻の結果の大量閉鎖です。「Radio Shack」は、単独店もありますが、店舗数の多くは大型SC内に出店しています。

閉店数が第二位の「Payless」も、大型SCに店舗展開する靴の専門店チェーンです。2年前に経営破綻しており、2019年には、北米で展開する2,000店以上の店舗を閉鎖すると発表しました。2017年に250店閉鎖した「The Limited」も、大型SCのモールに出店するアパレル専門店チェーンです。

また、「JCPenny」(138店閉鎖)、「Sears」(54店閉鎖)は、大型SCの核テナントとして出店してきた総合店です。核店舗が不在のショッピングモールが増加していることが推測できます。それ以外にも、総合DSの「Kmart」(126店)、オフィス文具専門店の「Staples」(70店)など、ネット販売との競合にさらされやすい「大商圏業態」の閉店が多いように感じます。

小商圏DS、ライフスタイルストアは店数を増やしている

その一方で、店舗数を増やす小売業も存在します。代表的な企業が、バラエティストア(VS)の「Dollar General」です。1~10ドルの低価格帯で商品をアソートメントした300坪程度の小型店です。低価格が武器ですが、「Kmart」のような大商圏DSではなくて、小商圏の店舗であることが特徴です。「Dollar General」は、2019年に約1,000店舗を新規出店する計画です。

また、小型のハードディスカウンター「Aldi」も、2019年に大量出店を計画しています。「Dollar General」と「Aldi」に共通することは、「300坪程度の小型店舗」「品目数が少ない」「SCに入居しない単独出店」であることです。つまり、閉店数が多い大型SCのモール出店店舗よりも、小商圏であるということが大きな違いです。

ネットで何でも買える時代において、家から遠くの大型SCに行くという購買行動が減少し、「近くて便利な店」を求める消費者が増えていることも、出店数と閉店数の明暗が分かれた原因のひとつです。

一方、健康志向のスーパーマーケットの「Sprouts Farmers Market」、 化粧品専門店の「ULTA」、は、2019年以降も大幅に店舗数を拡大すると発表しています。この2社に共通することは、小型DSと同様に「SCに入居しない単独出店」であり、「商品を売る」というよりも「ライフスタイルや体験」を提案するライフスタイルストアであるということです。

「Sprouts Farmers Market」は、FLONH(Fresh、Local、Organic、 Natural、 Healthy)というライフスタイルを、手頃な価格で実現できるという明確なコンセプトの「ライフスタイルストア」です。売場面積は800坪程度と、通常のスーパーマーケットの半分程度の売場面積ですが、その明確なコンセプトを支持する熱烈なファン(固定客)を獲得することで成長しています。逆説的にいえば、これからの時代は、「単なるモノ売りのリアル店舗」は淘汰される運命にあるのかもしれません。

熱烈なファン(固定客)を増やすことで成長しているSPROUTS。

熱烈なファン(固定客)を増やすことで成長している。

「ULTA」は、カウンセリング化粧品を、遠くのデパートではなくて住宅地から近い店舗で、対面接客販売ではない「側面接客販売」(セルフで自由に選べて、必要ならカウンセリングやタッチアップもしてくれる)という新しい「買物体験」が支持されて店舗数を増やしています。また、全店で「ヘアサロン」が店内にあり、非物販サービスの充実も、ファンづくりに貢献しています。商品ではなくて、ライフスタイルを売ることが、「vsアマゾン」の回答のひとつだと思います。

「Sprouts Farmers Market」と「ULTA」にいては、昨年のこの連載で記事を掲載していますので、興味のある方は参照してください。

明確なコンセプトでアマゾンと差別化する「スプラウツ」

化粧品専門店「ULTA(アルタ)」がアマゾンと差別化し、快進撃を続ける理由

リアル店舗の閉店という記事を掲載すると、「オンライン販売」との戦いに敗北したことが原因と、短絡的に解説されることが多いのですが、決してオンライン販売だけが「大量閉店」の原因ではありません。

たとえば、小売全体に占めるアメリカのオンライン販売額の比率は、まだまだ多くはありません。もちろん、オンライン販売の伸び率はすさまじいものがありますが、それでもまだ大半の売上はリアル店舗が稼いでいるわけです。消費者の購買行動も、すべてオンライン販売で完結し、リアル店舗がなくなることはありません。大量閉店の原因は、オンラインとの競争というよりも、その業態や店舗が、消費者の「購買行動の変化」に対応できなかったことが最大の原因だと思います。

コンビニ各社、経産省との実証実験でRFIDと画像認識の共存模索

RFID(Radio Frequency Identification)とは、電波を利用して非接触で電子タグのデータを読み書きする自動認識技術のこと。経済産業省が主導し、コンビニ各社と共同で策定した「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」に基づき2025年までにコンビニの全商品に電子タグを貼付する計画だ。その第三弾の実証実験が先ごろローソンで実施された。実現に向けて、どれだけ近づいたのか現状をリポートする。

電子タグの技術とその価値を理解するためにはマラソンをイメージしてみるとわかりやすいのではないだろうか。電子タグを装着した数万人のランナーがスタートからゴールまで各関門で識別される。「お団子」状態で関門を通過しても個々のデータが誤って認識されることはない。5キロの関門、10キロの関門を何時何分に通過したかはほぼリアルタイムにネット上で確認できる。

RFIDを活用した経産省とコンビニ各社との実証実験は2017年2月にローソンの「パナソニック前店」(大阪府・守口市)にて第一回目が実施された。ここではパナソニックが開発した完全自動セルフレジ機 「レジロボ」により、一個一個の商品に電子タグが付いた複数の商品情報を一瞬にして読み取るシステムを導入した。

第二回目の実証実験は2018年2月にファミマ、ローソン、ミニストップで実施されている。サプライチェーンの上流で商品に電子タグを貼付、入出荷時に当該データを読み取り、情報共有システムに投入することで、在庫情報などをサプライチェーンで共有できるかを検証した。

そして今回が第三回目。2019年2月12日から28日、「ローソンゲートシティ大崎アトリウム店」(東京都品川区)にて実施。画像認識の新技術を加えた画期的な取り組みとなった。

ローソン本社のあるビル地階の店舗入り口の近くに専用の売場をつくり実施した。ゴンドラ上部にカメラが設置されている

実質値下げ情報が分かり食品廃棄ロス削減に貢献

新たに取り入れたシステムの第一が「ダイナミックプライシング」だ。

対象商品に貼付した電子タグのデータを、棚に設置したリーダーが自動で読み取ることにより消費期限の近い商品を特定。その特定した商品情報(実質値下げ情報)を、お客が事前に登録した実験用LINEアカウントに通知。その対象商品を購入したお客に対しては、後日LINEポイント(10ポイント)を還元する。

スーパーマーケットでは消費期限が近づくと一個一個値引きシールを貼って売り切りを図る。お客は実際に店に足を運び、自分の目で確認しないと、どの商品がいくら安くなっているかを知ることはできない。

今回の実証実験においては、どこでもスマートフォンからお得な単品情報を得ることができるので、実際に「店舗行かなければわからない」というストレスを回避することが可能になった。

ローソン経営戦略本部アシスタントマネジャーの佐藤正隆氏に聞くと「将来的には、商品を手に取った瞬間に、これがそう、これは違うと、対象商品をお知らせする機能の追加や、会計時に自動で判別して値引きする仕組みも可能」と補足する。店舗スタッフの手を煩わせずに、店外でも店内でも、実質値下げ商品が容易に判別できれば、お客にとっては非常に便利な機能であろう。

弁当やサンドイッチ、惣菜といった中食の廃棄ロス削減にも大きな効果が期待でき、また、在庫管理においても、棚に在庫している調味料の消費期限がいつまでかをデータ上で把握できれば、売場で商品をひっくり返して確認する必要もなり、作業量の削減に効果が持てる。

あらかじめ登録したアプリに、消費期限が近づいた商品と、後日ポイントが付与される条件が提示される。
LINE上、今回の実証実験における精算方法とポイント付与に関する注意事項を掲載

画像認識とRFIDで分かる棚前消費者の目線と行動

システムの第二はデジタルサイネージによるターゲティング広告である。

商品棚の画面には通常のCMが流れている。上部に設置した赤外線センサーが、お客が近づくと感知して、その属性を認識して、適切なCMを選択する。男性40代とか女性20代といった属性に合わせた情報を提供している。さらに、手に取った商品を、棚に設置した赤外線センサーが認識し、商品の下に敷いた電子タグのリーダーも感知して、商品情報を提示している。

お客が売場に近づくと、性別、年齢を、天井のセンサーが画像認識し、その人に適したCMを流す仕組み

また、お客の属性や手に取った商品だけではなく、棚前消費者の「行動」も知ることができる。悩んだあげく購入しなかった、あるいは、画面のCMを見たか見ないかも、お客の目線で知ることができる。手に取ったけれども、途中で購入を止めるなど、棚前消費者の行動が、メーカーにとって非常に価値があるという。

「例えば、商品の購入を迷っているタイミングで、背中を押すようなCMを流すといった販促もできます。私たちとメーカーにとって価値があることです」(佐藤氏)

商品を手に取ると、画像を読み取るセンサーと、ベーカリーの下に設置した電子タグのリーダーが感知して商品を特定し、画面に商品情報などが流れる

RFIDによる商品感知とカメラによる画像認識。この二つの技術を共存させて、物流の効率化だけでなく、新たなマーケティング機能を創り出している。

RFIDを担当する経済産業省消費・流通政策課の加藤彰二係長は昨年5月、筆者の取材に、こう答えている

「物の動きを電子タグで認識し、例えば「Amazon Go」のように、人の動きをカメラで補捉する、このやり方が最適であると思います。RFIDとカメラは排他的な関係ではなく、センサーの一つでしかありません。その組み合わせにより最適な環境が構築可能だと考えています。テクノロジーが組み合わさって、生活者に価値提供を実現する店舗こそ、われわれが目指しているスマートストア、そのものなのです」

その言葉通りの実証実験がローソンの協力により実現できた。

コンビニが電子タグ付きの商品を販売する条件を、電子タグが1枚1円以下になること、製造段階で貼付すること、としている

生活者の冷蔵庫の中にまでRFIDが入り込めるかに期待?

システムの第3は、電子タグリーダー付きレジの設置である。

専用のレジカウンターに、商品情報を読み取るリーダーを設置、その上に商品を置くと、電子タグ情報を瞬時に読み取るようにした。従業員が商品をスキンしなくても、価格が表示されるため、作業効率のアップにも貢献している。

専用のレジでは、商品の下に敷かれたリーダーにより、商品を置いただけで一瞬にして商品情報を読み取る

ローソンによると、これまでRFIDの実証実験には、物流担当者たちの参加が多かったという。しかし今回は、メーカーのデータマーケティングを担当する人たちの参加も目立ってきたそうだ。消費材メーカーにとっては、物流の効率化だけではなく、自社の商品がどのような買われ方をしているのか、さらに生活者が家の中で、どのように使っているのかを知りたいところ。イメージしやすいのが、冷蔵庫にリーダーを搭載して、庫内にある商品の消費情報をデータで共有すること。将来的な話だが、これを可能にすれば、RFIDを活用した製配販の取り組みに期待が膨らむであろう。

ファミリーマートとパナソニック、IoT活用「次世代型コンビニ」を開店

株式会社ファミリーマートとパナソニック株式会社、パナソニックシステムソリューションズジャパン株式会社は、2019年4月2日、IoTを活用した「次世代型コンビニエンスストア」の実現に向けた実証実験店舗として「ファミリーマート佐江戸店」をオープンすると発表し、記者会見を行った。(ライター:森山和道)

パナソニックがファミマのフランチャイジーとなりPJを推進

本取り組みでは、全国47都道府県に約17,000店舗を展開するファミリーマートと、製造業現場で培った技術・ノウハウを流通・店舗、倉庫やサプライチェーンマネジメントに適用しようとしているパナソニックの「現場プロセスイノベーション」を組み合わせる。接客、従業員オペレーション、売り場づくり、バックヤード業務のノウハウと現状の課題を習得・把握し、それらをIoT、画像分析、顔認証決済、導線改善、データ収集活用、空間演出などの技術とソリューションで改善し、省力化・ローコスト運営、店舗の付加価値拡大、顧客満足度向上の実現を目指す。

パナソニックは今回、ファミマのフランチャイジーとなってプロジェクトを進める。パナソニックは2018年4月1日付で店舗運営を統括する100%子会社・ストアビジネスソリューションズ株式会社を設立しており、ストアビジネスソリューションズとファミリーマートがフランチャイズ契約を締結して、店舗運営を行なっていく。両社での実店舗の運営を通じて課題とその解決策を見出し、他店舗への展開を図り、日本国内の顧客視点による次世代型店舗ビジネス確立を目指す狙い。実証実験の場となる佐江戸店にはパナソニックから店長を、ファミリーマートからは副店長を出す。

ファミマとパナソニック、双方の強みを持ち寄り、次世代コンビニを作る

パナソニックの技術を駆使したコンビニ店舗

株式会社ファミリーマート 代表取締役社長 澤田貴司氏

記者会見で株式会社ファミリーマート代表取締役社長の澤田貴司氏は「パナソニックの技術を駆使した店舗がこれから開店する。本当にわくわくしており、一緒に未来を作ることができればと興奮している。店舗運営は実際にやってみないとわからないことがいっぱいある。いろんな苦労もすると思うが、それは当たり前だ。店長と副店長が一緒になって、技術陣と協力しながら色々な課題を解決できると思う。技術革新は待ったなしで進めていかなければならない」と挨拶した。

パナソニック株式会社コネクテッドソリューションズ社社長 樋口泰行氏

パナソニック株式会社コネクテッドソリューションズ社社長の樋口泰行氏は、顧客の困りごとを解決するインテグレーターになりたいと考えていると同社のビジョンを紹介。製造業で培ったノウハウが、製造業以外のあらゆる分野でも求められていると考えていると述べ、「つくる、運ぶ、売る」のなかにある困りごとを一手に引き受けられるインテグレーターになろうとしていると語った。今回の実証実験については「ベストのロケーションで、ベストのパートナーと組むことができたと考えている」と述べた。

株式会社ファミリーマート営業本部 ニューマーケット運営事業部、佐江戸店担当スーパーバイザー兼副店長 山田恵理子氏 

株式会社ファミリーマート営業本部ニューマーケット運営事業部、佐江戸店担当スーパーバイザー兼副店長の山田恵理子氏は、業務改善は進められているがコンビニ業界を取り巻く環境は変化が激しく、まだ店舗業務は改善できる余地があると述べた。そして副店長として藤田店長をサポートしながら取り組んでいきたいと語り、業務削減の一助を手伝いながら他の加盟店にもソリューションを展開していきたいと抱負を述べた。

パナソニックシステムソリューションズジャパン株式会社プロジェクト統括の下村康之氏(左)、同法人営業本部 佐江戸店店長 藤田卓氏(右)

具体的な取り組みについては、パナソニックシステムソリューションズジャパン株式会社プロジェクト統括の下村康之氏と、同社法人営業本部所属で佐江戸店店長の藤田卓氏が述べた。下村氏はパナソニックが店舗経営まで乗り出して行う今回の協業の意義について、現場最前線で起きている真の課題の抽出を行い、ICTソリューションと店舗オペレーションの一体開発ができること、そしてスピード感を持ってPDCAを回せることの3つを上げた。顧客にとってはより便利に、加盟店にとってはより働きやすい次世代のコンビニ構築を目指す。

パナソニックには3つの強みがあるという。IoTによる現場のデータ化・見える化、画像分析技術、家電で培ったユーザーフレンドリーの知見だ。まず現場見える化については、佐江戸店には80台のエッジデバイス・センサーを設置し、リアル店舗を数値化・デジタル化する。このデータと、もともとファミマが持っているデータをかけあわせることで、店舗運営に必要、あるいは価値をより高めるデータを生み出せるプラットフォーム構築を目指す。

画像分析は顔認証や物体認識技術を用いて、新しい購買体験へ繋げる。具体的には無人店舗販売を目指して実験を始めていく。顧客は事前に顔を登録しておくことで、顔認証によるチェックイン、商品一括スキャン、そして顔認証を使った決済で買い物ができるようになる。この実験を通して技術を成熟させ、少人数オペレーションや新たな購買体験の実現、また、これまではコンビニの商圏として認められていないビル内の小規模販売など、ごく小さなところにも出店ができるようにしていくという。

ユーザーフレンドリーについては、働きやすい店舗設計や、スマホアプリを使ったモバイルオーダーへの対応を進める。下村氏は「本当に新しいサービスが提供できるのかどうか実験してきたい」と述べた。

今回の取り組みについては「個店最適化と商圏拡張」、そして「省力化と売り上げアップ」の二つの軸で捉えており、今後、ソリューションを増やしていく。佐江戸店は共創の場、オープンイノベーションの場であり、2年にわたり両社で検討を行ってきたという。下村氏は最後に、店舗運営に乗り出したパナソニック自体や未来に期待していると述べた。

パナソニックとファミマ協業のまとめ

佐江戸店店長となる藤田卓氏は、「今後、新たなコンビニを作り出すことができると信じ、第一人者として取り組んでいく」と決意表明を行った。なお藤田氏はもともと営業職。「実際の課題は現場にある」と考えて、今回の実験において店長となることについては自ら立候補したとのこと。

他店への導入もスピーディに検討

簡単に顔認証で買い物ができることをアピールするファミリーマート澤田氏

初期導入ソリューションは、

●ディープラーニングを活用した「顔認証決済/物体検知」による無人決済
●ウェアラブル端末やカメラなどセンサー情報を組み合わせて従業員をサポートする「業務アシストシステム」
●価格表示や店内POPの作成・入れ替え業務を電子棚札を活用して電子化し、業務効率化を行う「店内POP・電子棚札」
●POSデータに加えて、店舗内カメラやセンサーによる滞留ヒートマップやスマートフォンアプリでのアンケートなどを組み合わせてデータ経営を行うことで、顧客にとってより便利な店舗レイアウトや棚割、品揃え実現を目指す「IoTデータマーケティング」
●デジタルとアナログを融合させた居心地良い空間、さりげない情報発信を演出する「イートイン・空間演出」
●顧客がスマホアプリで注文・決済した商品を店舗でピッキング・配達する「モバイルオーダー」

など。

今回はバックヤードへの技術導入はなく、基本的に店頭での業務をサポートするものになっている。

ファミマの澤田氏は、「労働力不足は待った無しの状況になっている。今すぐにでも他店にも導入したいものもある。検証した上で、なるべくスピーディに順次展開していきたい」と述べた。

パナソニックが社員を店長にし、店舗まで持って進めることについて、樋口氏は「実際にリアルな環境でPDCAを高速回転させることがものすごく大事。フランチャイジーになって、店舗運営を自らやることで、顧客の『困りごと』が、よりつぶさにわかる」と意義を強調した。

天井がセンサーだらけのファミリーマート佐江戸店

「ファミリーマート佐江戸店」。営業時間はAM6時からPM23時まで。

パナソニックの構内だったスペースに路面店として開店した「ファミリーマート佐江戸店」は、広さ270平米。天井に様々なカメラが多いことと、顔認証決済セルフレジの店舗部分を除けば、いたって普通のファミリーマートだ。品揃えも特に変わったものはない。

店内は普通のファミマだが…
天井には複数種類のカメラが設置されている

天井のカメラは、通常の防犯カメラのほか、欠品チェック用のカメラ、店舗内での導線分析用360度カメラ、滞留状況を遠赤外線で検知してヒートマップを作るカメラ、棚に手を伸ばしたかどうかなどを見るためのToFカメラ、顧客の属性認識用カメラなど様々な種類のカメラ・センサーが設置されている。

合計およそ80個の各種カメラ群

店員は腕にウェアラブルデバイスを付けており、欠品などが検知されると音とディスプレイ表示で通知される。

店員がつけるウェアラブルデバイス。欠品などが通知される。

顔認証決済、レジでのインバウンド対応

顔認証決済システムでは、事前に顔とクレジットカードを登録しておけば、顔認証と暗証番号だけで買い物ができる。商品を取ってレジの上に並べ、顔認証させて暗証番号を入力して決済。最後に顔をもう一度ゲートで認証させる。当面はパナソニック社員を対象に実験を進める。

顔認証決済システム。事前に顔とクレジットカードを登録しておけば、顔認証と暗証番号だけで買い物が可能
ディープラーニングを活用した顔認証用カメラ
商品認識も画像で行う

ファミマが導入を進めている通常のセルフレジも、通常レジの横に設置されている。

セルフレジも別途ある

レジには、インバウンド対応用として音声認識翻訳デバイス「対面ホンヤク」も用意される。据え置きではなく、モバイルデバイスで、必要に応じて卓上に出して使うイメージだ。店内は大勢の記者たちでかなり混雑して騒がしかったが、特に問題なく音声認識できていた。

「対面ホンヤク」。必要に応じてレジ上に出して用いる
リアルタイムに翻訳を行い、地図を示したりできる

電子値札にはNFCを内蔵

商品に付けられている電子棚札は、通常の常温の品用と冷蔵品用がある。商品マスタに「新発売」というデータがあると、そのようなレイアウトで目立つように表示される。電子棚札にはNFCが内蔵されており、今後、顧客への追加商品情報提供なども実験していくとのこと。

電子棚札
新発売商品(右)は目出つように赤が使われている
冷蔵品用の電子棚札

なお、デイリーの弁当やチルドなどには今回は電子棚札が用いられていなかった。その理由は、弁当類は賞味期限を示す必要があり、かつ、一つの棚のなかでも様々な賞味期限の商品が混在する可能性があることと、もともと弁当自体に値札が付けられているからとのことだった。

チルドコーナー、弁当コーナーには今回は電子値札は使われていなかった

5月からはモバイルアプリを使ったオーダー・配達にも対応する。当面はパナソニック社内向けとなる。会議室にまで弁当を届けてもらうようなイメージだ。アプリではクーポン情報やセール情報も提示されるほか、店舗のイートインコーナーの混み具合もわかる。

モバイルオーダーアプリ
モバイルアプリからはイートインコーナーの混雑具合もわかる

イートインコーナーではプロジェクションマッピングやそれと連動するサイネージデバイスを用いた空間演出が行われる

過激なチラシで広域集客よりも店頭ロス対策が優先される時代へ

かつての小売業の一番の売上対策は、新聞の「折込チラシ広告」でした。しかし、狭小商圏化が進み、チラシ販促の効果は年々低下しています。その結果、チラシ回数を減らし、EDLP(エブリデーロープライス)戦略を進める小売業が増えています。人口減少時代に突入した日本では、チラシ販促で「浮動客」をかき集めるような売上対策よりも、「機会損失」を減らすことの方が優先順位の高い売上対策になっています。

折込チラシ広告費は10年でほぼ半分に減少

電通が毎年発表している「日本の広告費」によると、折込チラシ広告費は、2006 年の6,662 億円をピークに減少を続けています。リーマンショックの影響があった2009 年に6,000億円を割り込み5,444 億円、消費税増税の影響を受けた2014 年に4,920 億円に減少、そして、2017年は4,170億円、2018年は3,911億円と4,000億円を割り込みました。

2006 年のピーク時を100 とした場合、2018年は58.7% となり、12年間で市場規模が42%とほぼ半減したことがわかります。

人口減少時代に突入し、リアル小売業の売上が大きく増えない時代においては、過激の割引セールや、ポイント10倍などの販促のあの手この手で、前年比の売上を無理やり増やすよりも、「店頭ロス」を減らすことの方が、売上と利益を増やす優先対策です。

店頭で発生しているロスを整理すると、図表1の6項目になります。店頭ロスの第1は、「欠品による機会損失」です。売上減少時代において、もっとも優先順位の高い売上対策は、店頭欠品の撲滅です。しかしも、欠品は「ゼロ欠品」だけが欠品ではありません。棚札も商品も消失した「VOID(完全欠品)」や、「品薄」によって購入をためらう「心理的欠品」も欠品です。商品を売るためには、心理的に購入したくなる「陳列量の爆発点」を維持する必要があります。

しかも、視力の悪いシニア層(高齢者)が増加する今後は、陳列量の爆発点はますます重要になります。ある小売業の調査では、高齢者がよく購入する商品の売価はそのままで、陳列量だけ3倍に増やしたところ、その商品の売上は大きく増加したそうです。

6つの店頭ロスを減らし機会損失を防ごう

店頭ロスの第2は、日配品や総菜などの「廃棄・値下げロス」を減らすことです。これからの時代は、あの手この手の販促で需要を無理やりつくるよりも、需要に合わせていく、つまり需要予測の精度を高めていくことの方が重要です。

図表2は、おにぎりの廃棄ロスが年間で1,000億円もあった「ファミリーマート」が、AI(人工知能)を活用した自動発注に切り替えたところ、30%もあった発注誤差が、3週間後には発注誤差が9.68%に減少したという成功事例です。

店頭ロスの第3は、「不完全作業」によるロスです。メーカーと小売業のバイヤーが商談した結果の「店頭実現率」は、かつては20~30%と言われていました。たとえば、100店チェーンに、A商品が発売日に陳列されるのは100店中20店の20%という意味です。こうした「不完全作業」による売り逃しは、欠品による機会損失と並ぶ、最大の店頭ロスです。

完全作業率を高めるためには、さまざまな計画を立てることは上手だが、店頭でまったく実行されない「計画(プラン)主義」の企業文化から、凡事徹底を第一とする「行動主義」の組織・企業文化に変革することです。極端なことをいえば、二流三流の戦略でいいから、一流の実行力をもった組織が競合優位に立つと思います。

店頭ロスの第4は、「棚割の画一化によるロス」です。従来のチェーンストアは、どの店舗の棚割も画一化されていました。しかしこれからは、IT技術の進化によって、極端なことをいえば、棚割を全店で個別化しても、全店の棚割をリアルタイムで可視化できて、その効果もリアルタイムに数値で評価することができます。ITの進化によって、棚割を個別化しても、管理不能に陥らず、個別化によるコストもそれほど増えない時代が到来します。

店頭ロスの第5は、「無駄な値下げによるロス」です。陳列量に爆発点があるように、価格にも爆発点があります。価格の爆発点を調査して、無駄な値下げを減らすべきです。「価格敏感商品」と「価格鈍感商品」をきちんとグルーピングし、価格鈍感商品まで一律に値下げしないようにすべきです。

店頭ロスの第6は、不明ロス(万引き・不正など)です。日本を含む世界24ヵ国が調査に協力した、小売業の窃盗犯罪に関する世界的な報告書である「グローバル・リテイル・セフト・バロメーター(GRTB)2014〜2015版」によると、不明ロスの内訳は、従業員による不正39%、万引き38%、犯罪性のない管理上のミス16%です。

同報告書によると、日本の不明ロス率(売上高に占める不明ロス金額の割合)は1.35%、金額にして149億ドル(1ドル100円で換算すると1兆4,900億円)という莫大な金額が不明ロスで失われていることになります。優良小売業の営業利益率の目安が5%ですから、1.35%がいかに大きな数値かが分かります。

海外では不明ロス、特に万引き対策を「loss prevention(ロス プリベンション)」と呼び、役員レベルがトップに立って指揮を執る大手小売企業も多く、最重点の経営課題になっています。

「シニア世代」を固定客にする 小売業の4つのポイント

日本は、世界中で誰も経験したことのない「超・高齢化社会」に突入します。人口構造の中核となる「シニア世代」の購買行動の特徴は、「近くて、便利で、親切な、特定の店を利用する」ことです。また、シニア層に選ばれる店になるためには、「ワンストップショッピング性」を高めることが重要になります。

シニア世代の買物の特徴「近」「多品種」「特定」「午前中」

日本の高齢化率(65歳以上人口)は、2017年10月時点で27.7%に達しています。県別に見ると、もっとも高齢化率の高いのは秋田県の35.6%、2番目が島根県の33.6%です。東北6県は、宮城県を除く5県はすべて高齢化率が30%を超えています。また、今から7年後には全国平均の高齢化率が30%を超えます。

日本の人口構造のマジョリティになった「シニア世代」の買物の特徴を分析し、シニア世代を固定客化することが非常に重要です。

シニア世代の買物の特徴を整理すると、第1は、(1)移動距離が短いことです。遠くの店ではなくて、近くの店を選択するようになります。小売業の「狭小商圏化」は加速するでしょう。

第2は、(2)ワンストップショッピングのニーズが高まることです。高齢化率が進み、人口減少が進む立地においては、高齢者の免許返納も進み、「買物難民」が増えます。「巡回バス」や「車の乗り合い」で来店する高齢者にとっては、頻繁に来店できないので、来店したついでに多くの必需品を関連購買したいというワンストップニーズが高まります。高齢化率の高い立地の店は、「多品種の品揃え」でワンストップショッピングでき、しかも近いことが選ばれる店の条件になります。さらに、「高齢者の自宅に届ける宅配」も不可欠のサービスになるでしょう。

一方、SM(スーパーマーケット)のID-POSの5年間の経年変化を分析すると、たとえば、58歳の顧客が5年たって63歳になると、冷凍魚、冷凍食品、パウチ総菜などの「単独世帯」対応の商品の買上率が高まると同時に、トイレットペーパーや衣料洗剤などの「消耗雑貨」の買上率が高まるそうです(ジェイビートゥビー社調査)。

つまり、従来は、衣料洗剤やシャンプーなどの日用雑貨はDgS(ドラッグストア)で購入し、食品はSMで購入していた顧客の「買い回り傾向」が低下し、食品と同時に日用雑貨もSMで購入するワンストップショッピング志向が高まるという意味です。

シニアの来店ピークは「午前中」朝の接客で固定客化する

第3は、(3)特定の店舗を選ぶ傾向が強いことです。図表1は、各世代がDgSを何店補程度利用しているかを調査したものです。図表1によれば、前期シニア層の利用店舗数は1.76店、後期では1.48店といずれも2店を切っています。1店舗のみを利用する後期シニア層は70%に達しており、大多数のシニアは自分が決めた1店舗で買物している実態がわかります。高齢者の多い立地では、シニアに選ばれる店が一人勝ちする傾向が高まると思われます。

また、シニア世代の固定客(ロイヤルカスタマー)は、一般客の売れ筋とは異なる「シニアの売れ筋」を定期購入していることが多いのです。ABC分析によるとCランク商品の「死に筋」だからと単純にカットすることは、「シニアの固定客」を失うことになります。データ分析では死に筋であっても、高齢者の「リピート率」の高い商品はカットしないで、売場に残すという配慮が必要になります。

第4は、(4)シニア層の来店時間は圧倒的に「午前中」だということです。一般的に小売業のピークタイムは15時以降であり、客数の少ない午前中には、人員を減らしたり、補充作業に専念する稼働計画を組んでいる店が多いと思われます。しかし、シニア層の来店のピークタイムは圧倒的に、「開店直後の午前中」です。

客数が少ない午前中に、医薬品や化粧品の接客人員を敢えて配置することで、シニア層と「悩みの相談」などのコミュニケーションが取れ、シニア層に選ばれる店になれるかもしれませんね。

花粉対策商品は、「新商品」より「愛用品」が選ばれる

各地でスギ花粉飛散のピークを迎えようとしています。今回は花粉症について調査してみました。調査の結果、花粉対策商品は、新商品よりいつも愛用しているアイテムが選ばれる傾向にあるということがわかりました。その理由とは?

半数以上が20代までに発症

最初に、自社調査で調査対象4,400名(20代~60代男女)に対して、「自身が花粉症であるか」を聞くと、「花粉症である」と回答した方は1,807名でした。(40代~50代が中心:平均年齢49歳)

「花粉症である」と回答した方を対象に、発症年齢や、対策について調査を進めます。

まず、花粉症の発症年齢を聞くと、「20代」が29.9%でもっとも多く、「10代」が22.0%、「30代」が22.2%と続き、半数以上の方が20代までに花粉症を発症していることがわかります。

対策の中心は「マスク+他アイテムの併用」

次に、花粉症対策について調査をします。

花粉症対策については、「マスクをする」が60.5%でもっとも多く、「医者に処方された内服薬を飲む」41.7%、「手洗い・うがいをこまめにする」41.1%よりも大きく上回ります。コメントをみると、「花粉を寄せ付けないスプレーを顔やマスクにたっぷり噴射している」、「隙間の少ない、使い捨てマスクとサングラスを着用している」など、マスクと他のアイテムと併用している方が多いことがわかります。

また、花粉症に効果的な内服薬や外用薬について着目すると、手軽な市販品よりも、医者に処方されたものを利用する方が多いことがわかります。その裏付けとして(図表3)、「花粉症で医療機関を受診したことがある」と回答した方は、7割近くに上ることがわかります。

マスクの人気ナンバーワンはユニ・チャームの「超快適マスク」

次に、当社独自に収集するレシートデータから、花粉症の対策関連商品の「使い捨てマスク」と、「鼻炎薬(外用薬含)」に注目して、POB会員のレシートからトレンドを分析します。(調査期間2018年1月~12月)

POB会員の「使い捨てマスク購入レシート(約2,000枚)」による売れ筋は、1位ユニ・チャーム「超快適マスク(14.7%)」、2位玉川商材「フィッティ®シルキータッチモア(4.5%)」、3位奥田薬品「息がしやすいマスク ふつう(4.4%)」となります。

1位のユニ・チャーム「超快適マスク」をセレクトし、購買理由を分析すると、「長時間使用しても耳が痛くならず、肌触りがよい(40代女性)」や、「プリーツタイプで顔にフィットするのに、息苦しくない(40代男性)」などの、使用感の良さで選ばれています。また、「子ども用に購入。大きさもちょうどよくフィットして使いやすい(50代女性)」など、大人から子どもまで、選べるサイズ展開もポイントとなります。他にも、「小顔に見えるとパッケージに書いてあり、マスクを付けるなら小顔に見えた方が良いから(30代女性)」や、「女性用のピンク色のマスクが目に入ったので購入(40代)」など、ビジュアル面に力を入れた点が評価されており、多様化する女性のニーズを取り込む商品企画は重要視されていると言えます。

また、全体の傾向をみると、PBのように価格重視の商品だけではなく、高付加価値の商品もランクインしていることから、使用感や機能性、目的にあった様々な商品がしのぎを削っていることがわかります。

鼻炎薬OTCは「アレグラFX」が人気トップ

次に、「鼻炎薬(外用薬含)」のPOB会員のレシートからトレンドを分析します。
POB会員の「鼻炎薬(約1,100枚))による売れ筋は、1位久光製薬「アレグラFX(14.7%)」、2位佐藤製薬「ナザールスプレー(10.5%)」、3位エスエス製薬「アレジオン20(9.2%)」、4位大正製薬「パブロン鼻炎カプセルSa(8.2%)」、5位佐藤製薬「ストナリニS(8.0%)」となり、1位~5位までの商品で全体の購入レシートシェアの5割を占めています。

購入者のコメントをみると、「アレグラFX」や「アレジオン20」については、「医療用と同じ成分で飲んですぐ効き目がわかり、もう数年飲み続けている(30代男性)」など、確かな効き目が多くの方の支持を集め、「ストナリニS」については、「つらい花粉症でも実際に1日1回で確実な効き目がある(40代男性)」など、手軽さと持続性で選ばれていました。

花粉症対策の市販薬や、今までの対策にプラスαで簡単に対策できるグッズなど、毎年各社から様々な新商品が発売されていますが、花粉症対策グッズ(医薬品も含む)の新商品の購入経験を調査すると8割近くの方が「購入経験がない」と回答しています。(図表4)

今回の調査では、新商品よりいつも愛用しているアイテムが選ばれる傾向が高いことがわかります。

今までの調査結果からその理由を分析すると、ここ数年で「使い捨てマスク(参考①図)」は、様々な高付加価値の商品や、また「鼻炎薬(参考②図)」では、ここ数年で高品質(医療用と同じ成分・1日1回の持続性)の商品が増え、自分の症状や体質にあうアイテムや薬が増えていることが理由として考えられるのではないでしょうか。

※図表1~4:ソフトブレーン・フィールド株式会社「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」20代~60代のアンケートモニター4,400名を対象にした、花粉症に関するアンケート結果より。(WEB調査、調査期間:2019年2月1日~2月4日)

「おもてなしスマートストア」を目指すココカラファイン~塚本厚志社長インタビュー~

「ヘルスケアネットワーク」構想で、ヘルスケアに関するワンストップサービスを目指し、IoT時代に対応する「おもてなしスマートストア」というビジョンを掲げるココカラファイン。同社の塚本厚志社長に、これからのドラッグストアのロードマップを聞いた。(聞き手:本誌主幹 日野 眞克/月刊マーチャンダイジング2019年2月号より転載)

インバウンド、食品は鈍化し調剤は好調を維持

──ドラッグストア(DgS)業界の現状について、塚本社長にお聞きしたいのですが。

塚本 第一は、インバウンドの売上増です。インバウンドは、この数年のDgS業界の売上増を牽引したといってもいいですね。

第二は、ラインロビングの一環であり、コンビニエンス性を強化する目的の「食品強化」も、DgSの売上増を牽引しました。

第三は、「調剤」の売上増です。2017年から2018年は、この3つのファクターがDgS業界を成長させてきました。しかし、2018年の10月後半以降、その3つの要素のうち、インバウンドと食品の売上増が鈍化してきています。とくにインバウンド売上にブレが出ています。個人旅行の需要はまだ伸びるとおもいますが、大量まとめ買いは減っていますし、中国の法規制や、米中貿易戦争の影響もあり、インバウンドへの過度な期待は禁物だと感じています。

また、以前は、食品売場を増やせば、それに比例して売上が増えていましたが、食品による売上増も限界にきていて、これ以上食品を強化しても売上、客数が大きく増えることはないとおもいます。

一方、調剤は、これからも大きく成長していくとおもいます。DgSは、処方せんの受け付けに関しては、まだまだ力の入れ方が弱かったと感じていましたが、近年はDgSの調剤部門のシェアが高まっています。

──ココカラファインの調剤の売上構成比は、年々高まっていますね(図表1)。また、調剤薬局をM&Aで合併するなど、調剤強化に注力されていますね。

塚本 「DgS事業」と「調剤事業」の二本柱を強くすることが、DgS業界が今後も成長していくためのロードマップであるとおもいます。

最近、診療報酬の改定以降、利益率の低下した調剤薬局のM&Aの案件が増えています。地域の数店舗クラスの調剤薬局のM&Aと、自社での調剤併設DgSの出店を進めています。さらに、調剤が入っていなかった既存のDgSにこれを併設する「改装」も進めていきます。新規出店が好調だったので、既存店の調剤併設化は予定より遅れているのですが、そのぶん調剤はまだ伸びしろが大きいと考えています。

[図表1] DgS調剤売上高構成比ランキング (単位:%)

※順位は2018年のランキング
※HD=ホールディングス
月刊マーチャンダイジング2018年10月号より

物販とサービスを提供するヘルスケアネットワークに挑戦

──福岡市の国家戦略特区に立地する「ココカラファイン薬局奈多店」で、オンラインでの「遠隔服薬指導」の実験も2018年9月から始めています。

塚本 薬剤師による服薬指導は「対面」が義務付けられていますが、「オンライン診療」が行われている病院からの処方せんであり、患者さまと調剤薬局が国家戦略特区内に居住・所在しており、さらに、患者さまが交通不便地域に居住しているという3つの条件を満たせば、遠隔服薬指導が可能です。

特区は、福岡と愛知、兵庫にあります。まだ実験の域は出ていませんが、高齢者の一人暮らしで、病院や薬局から遠い交通不便地域に住む患者さまにとっては、価値のあるサービスであるとおもいます。つまり、病院に行きたくてもなかなか行けない人もいるし、また薬局に薬をもらいに行きたくても、自分で行けないので、家族が代理で処方せんをお持ちいただくケースもあります。実際に始めてみると、いままで一度も薬剤師が面会したことがない在宅の患者さんと、iPadでコミュニケーションが取れて、患者さまと身近な服薬アドバイスができるようになりました。まだ事例は少ないのですが、遠隔での服薬アドバイスを求めている患者さまは結構いらっしゃるのではないかという感触を得ましたね。

──調剤事業が好調ということですが、将来的には小売業だけではなくて、いろんなサービスも含めたトータルヘルスケア事業を目指すお考えですか。

塚本 2018年の新入社員のワークショップで、いくつかのチームに分かれて「自分達が将来やりたいこと」という構想を語り合ったなかで、「ココカラ・ハピネスモール」という構想が生まれました。

会社としては、「ヘルスケアネットワーク」という言い方をしています。いわゆるヘルスケアに関する物販やサービスが「ワンストップ」で提供できる複合施設を目指すという考え方です。実際に、提携関係にある中部地方のバローホールデイングスさまの子会社である「アクトス」というスポーツ施設と複合した店舗も2018年12月にオープンしました。1階がDgSで2階がスポーツクラブの複合施設です。

DgS事業、調剤事業を中核にしながらも、物販以外のいろんなサービスを組み合わせていきたい。とはいえ、大型複合施設を開発するのは投資が大きいので、地域でいろいろなサービスを店舗ごとに点在させて結んでいこうというのが、「ヘルスケアネットワーク構想」です。

具体的には、小田急線の千歳船橋駅(東京都世田谷区)近辺では、調剤薬局が2店舗、訪問介護サービス、DgSが連携し、地域医療を支えています。こういう地域での集積をヘルスケアネットワークと呼びます。一ヵ所の施設に、医療機関、調剤、DgS、スポーツジム、在宅介護などが入居したものをココカラファインモールと呼んでいきたいと考えています。ココカラファインモールの構想に一番近いのが、静岡伊勢丹7階にある「ウェルネスパーク」です。

──以前、未病予防対策として、DgSの売場ではあまり見られない「糖尿病対策の定番売場」に挑戦しているというお話を聞きましたが、その後の取組みはいかがですか。

塚本 いまも継続しています。2ヵ月とか3ヵ月のタームで、血糖値対策というヘルスキャンペーンを定期的に企画しています。糖尿病対策を定番化しながら、かつプロモーションで強化月間をつくっています。

また、禁煙などもそうですし、生活習慣病に関わる未病対策に関しては、商品やサービスを通して、お客さま、地域の方々に生活提案していく。これは順番に、「ココカラヘルスキャンペーン」のテーマを決めて行っています。そのなかのひとつが糖尿病対策ですね。全国レベルでは年間1,000回以上の健康イベントを行っています。その内容は、AEDの講習会、骨密度測定会、糖尿病のセミナーなどです。「糖尿病サポーター」という社内資格もつくっています。腎分泌内科の有名なドクターと提携して糖尿病サポーター研修を行い、合格者には糖尿病サポーターという称号を与えて、資格バッジを付けて、調剤薬局やDgSの店頭に立ってもらっています。

[図表2] ココカラファイン2019年3月期第2四半期決算概要 (単位:百万円)

キャッシュレス比率が40%を超えた

──お話をお聞きしていると、地域の人とのつながりを深くしていくような取組みが多いとおもいますね。接客もいま以上に強化していくのですか。

塚本 そこがうちの強みだとおもっていますので。医療と美容という分野に関しては、人と人とのつながりを通して、もう少し深く生活者と関わっていきたいとおもいます。バーゲンハンターよりも固定客、ロイヤルカスタマーを増やしていくことが重要ですね。

──固定客、ロイヤルカスタマーを増やすための取組みは何ですか。

塚本 まずは弊社のクラブカード(プリペイドカード)の利用促進ですね。ココカラファインのキャッシュレス決済のお客さまの比率は40%を超えており、一般的な小売業と比べて高いのが特徴です。小売業のキャッシュレス決済の平均が20%くらいで、その中身はクレジットカードや電子マネーでの決済です。

ココカラファインの40%の内訳は、20%がクレジットカードや電子マネーで、残りの20%は、ココカラファインの「クラブカード」による独自のプリペイドカード決済なのです。もちろんキャッシュバック販促などのインセンティブはありますが、ココカラファインのプリペイドカードの使用率が高まることと比例して、固定客化が進んでいるとおもいます。

現在クラブカードの会員が700万人を超えています。今後は、カード会員に「ココカラアプリ」を利用してもらう活動を進めている途中です。徐々にクラブカードとココカラアプリとを連携させて、より店舗とお客さまとの距離を縮めていこうと考えています。

いま現在、クラブカードとアプリを連携した方々が80万人くらいいます。アプリ会員になった人は、さらに店舗に親近感を持つようになります。アプリ会員は、クラブカード会員に比べて、来店回数が20%以上も伸びるという検証結果も出ています。

──アプリ会員は、より頻繁に来てくれ、固定客化していくということですか。

塚本 はいそうです。パーソナルな販促はこれからの課題ですが、アプリで、お客さまが店舗評価のアンケートができるサービスを提供しています。簡単なアンケートですが、かなりの件数の回答が寄せられます。店舗の評価は星いくつですか? 店舗に対してコメントはありますか? といった内容ですが、年間で換算すると120万件くらいの回答があります。

アンケートに答えてくださるお客さまは参画者意識があるせいか、ネガティブな意見が少ないですね。大半はお褒めの言葉が多く、残りは店に対する「提案」です。こんな商品を取り扱ってほしいとか、こういうサービスをしてほしいなどの提案ですが、売場やサービスの改善に活用できる意見が多いですね。これらのアンケート結果は、統括店長、店長とも共有しています。

[図表3] プリペイドカード、キャッシュレス決済状況

2019年3月期第2四半期決算説明会資料より

クラスターマーチャンダイザーによる「棚割の個別化」にも挑戦

──ココカラファインは、都市、商店街、住宅地、郊外の4つの立地パターンがありますね。

塚本 おおよそですが、都市型が170店、商店街型が320店、住宅地型が400店、あと郊外型が210店という構成(2018年12月現在)で、ココカラファインは「住宅地」に立地する店舗が一番多いのが特徴です。

住宅地型は、都市型のようにインバウンド消費もあり、広域・不特定多数をお客さまとする立地とは大きく異なります。住宅地型は、「地域密着型店舗」なのです。不特定多数ではなくて、特定少数の固定客で成り立っている店舗です。したがって、店舗で接客の粗相があると、固定客を失ってしまうことに直結します。弊社のコーポレートスローガンの「おもてなしNo.1」という目標もありますが、ココカラファインは、人と人との触れ合いを大切にしないと生きていけない立地に多くの店舗数を持っているのです。

──住宅地の立地は、そんなに集客の距離も広くないですね。

塚本 商圏範囲は、半径500mから、車で来ても2㎞くらいです。リピーターで成り立っている商売です。売場面積も、郊外型のように大きくなく、お客さまが何を探しているかが、人対人で気が付くみたいな、お客さまと店の距離感の近い店が多いですね。そういう店で何よりも重要なことは、人と人の接客、接遇のレベルを高め続けることですね。

──DgSの売り方、マーチャンダイジング(MD)に関して取り組んでいることはありますか。

塚本 弊社にはクラスターマーチャンダイザーという専門職があります。

現在弊社の立地タイプである都市、商店街、住宅地、郊外という立地別に、4名のスペシャリストであるクラスターマーチャンダイザーが張り付いています。

その立地に住んでいるお客さまはだれというような分析から入って、データを基につくられた架空のユーザーに満足してもらえる商品を選定する「ペルソナ分析」も行い、立地別・ターゲット顧客などのクラスター別にMDを構築しています。

立地別の4つの業態ごとにクラスターマーチャンダイザーがいますが、今後は統括店長や店長と連携して、立地別・商圏別の棚割の「個別化」も進めていきます。同じ郊外立地でも、人口構成・年齢構成が違う立地ではMDも少し変えていきます。

全店にモバイルレジを導入しスマートストア化を推進

── すべてのモノやビッグデータがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)時代が到来しますが、小売業として取り組んでいることはありますか。

塚本 2019年から来期にかけてのテーマが、「おもてなしスマートストア化」です。サブタイトルが「IoTとデジタライゼーション」なのです。しかし、無人レジなどの省人化・無人化ばかりを追求すると、行き着くところはAmazonになってしまいます。だから、あえて「おもてなし」という言葉を使っています。IoTを活用して、顧客接点をより豊かにし、もっといい体験、経験ができるリアルな買物の場をつくっていきたい。無人化よりも、人が関わる体験を際立たせていくことがテーマなのです。なので、おもてなしIoT、おもてなしスマートストア化がテーマになります。

2019年から「モバイルレジ」を導入します。消費増税前には全店に入ります。たとえば化粧品のカウンターにモバイルレジを持っていって、そこでカードをスキャンして、キャッシュレスで会計ができるようになります。そうすると、店のあらゆる場所が会計の場所になり、同時にカウンセリングの場所にもなっていきます。レジ作業の軽減化と接客強化が同時に実現できるわけです。効率化すべきところと、人が関わるところを研ぎ澄ませていくことが重要です。

──メーカーとの共同開発商品も強化していますね。

塚本 コーセーさまともヘアケアで数年来、「Revirsia(リヴァーシア)」というブランドを共同で商品開発しています。2018年もロート製薬さまと「肌ラボ極潤パーフェクトUVジェル」という日焼け止めをオリジナルで共同開発し、大ヒットしました。日焼け止め全体の市場が広がる効果がありました。

弊社は、すべてを自社で商品開発するプライベートブランド(PB)だけではなく、名の通ったメーカーさまとの共同開発による「限定商品」を強化していく方針です。

PB開発に関しては、コモディティの汎用品の商品ではなくて、「こんな商品があったらいいな」といった、付加価値のある商品を開発していきます。たとえば、「管理栄養士推奨カカオ70%のチョコレート」のような商品をPB化していければいいと考えています。

3つのコースを選べる新・人事制度を導入

──人と人との接客と接遇を重視されていますが、今後の人事・教育制度について教えてください。

塚本 ココカラファインでは、従業員満足(ES)を高めていくために、権限と責任、評価と報酬の不釣り合いをなくす新しい人事制度を整備しました。また、スタッフが「なりたい姿」を実現し、自らの役割を全うするために必要な資質や能力を身に付けるための「キャリアパス」も設計しています。

キャリアパスについて具体的にいえば、DgS部門では、「店舗運営コース」「店舗コース(ヘルス)」「店舗コース(ビューティ)」の3種類があります。

将来経営者となって会社を牽引する次世代の後継者を育成する「店舗運営コース」は、ココカラファインを社会に貢献できる会社として運営し、成長させる人材を育成します。

そして、「友達以上、医者未満」の存在として地域に「cure care fine」を提供する販売エキスパートを育成する「店舗コース」は、ヘルスとビューティの2つのコースがあります。

「店舗コース(ヘルス)」は、ヘルスケアネットワークの中でセルフメディケーションのキーマンとなり、ヘルスケア部門の「販売エキスパート」として医療や介護が必要なときに的確に橋渡しをすることができる人材を育成します。

「店舗コース(ビューティ)」は、地域のお客さまの「美」をテーマに、お客さまのお役に立ちたい方を対象に、お肌のご相談に応じることができる、美しく過ごすための的確なアドバイスを提供できるビューティ部門の「販売エキスパート」を育成します。

──本日はどうもありがとうございました。

ココカラファイン 代表取締役社長 塚本 厚志氏

クローガー、デジタル棚札の活用でリテールメディア化を実現する

1,226億ドルと全米最大級の売上規模を持つSMチェーン、クローガー。オハイオ州シンシナティに本部を置き、SMのクローガーをはじめさまざまな業態の店舗を2,782運営する。SM業態の店舗を見ると非常に真面目な食品SMという印象を抱くクローガーだが、実はその裏側に1,500人のエンジニアを抱え、自社のほとんどのシステムを内製するという、テックカンパニーでもある。2018年11月にニュー・フォーマット研究所が実施した視察ツアーにおいて、同社が特別に公開してくれた実験店「サンライズ」における、同社のテクノロジーによる生産性向上施策をご紹介する。

デジタル棚札「EDGE SHELF」はプライスカード張り替え作業の工数を無くす

「EDGE」はクローガーが開発したデジタルサイネージを組み込んだ陳列棚だ。それぞれの棚には、Bluetooth、Wi-Fi、ZigBeeなどの通信機能が備わっていて、少ない運用の手間でプライスカードをリアルタイムに更新し、常に正確で最新の状態を維持することができる。

商品の補充時に、ある商品を棚のどこに陳列すればいいのか探すのは非常に作業時間に影響を与えるが、ある商品のバーコードをスキャンすれば、どこに補充をすればいいのか、プライスカードの表面が赤く囲まれて表示される。

このサイネージには、単純に価格を表示するだけではなく、動画を表示することができるし、たとえば「オーガニック」「グルテンフリー」「セール品」など、追加のメッセージも添付できる。

 

EDGEに表示される商品は「EDGEクラウドポータル」という画面で管理する。この画面では、EDGEに陳列されている商品価格、広告、メッセージ、製品情報を管理できる。セールやレイアウト変更の際に手間がかかるのがプライスカードの張り替え作業だが、EDGEを使えばその作業工数を削減することが可能だ。

エンドの広告を変更する際も、実際に陳列した商品を端末でスキャンすれば、数分後には自動でプロモーションのプライスカードのデータが表示される仕組みになっている。

単に価格だけではなく「オーガニック」「グルテンフリー」「セール」などの情報も表示できるし、動画も流せる

エンドの広告も、商品のバーコードをスキャンするだけで自動的に入れ替わる

陳列フェース数も表示される作業画面

補充やレイアウト変更のときなどのために、EDGEには従業員用の画面も用意されている。陳列する商品の画像や、何フェース分陳列すればよいのかということが表示されるため、レイアウト変更のときはいちいち棚割図に当たらなくても作業を遂行することができそうだ。陳列の状態は、カメラで撮影されていて、店頭の在庫が切れると補充をするよう通知が届くというシステムも開発中だ。

作業用の画面では、商品の写真、価格、何フェースか、といった情報を表示できる

特別なプロモーション、店内マーケティングテスト、時間限定販売に対応できるように価格を動的に調整することもできるため、需給状況に合わせ売価を変動させるいわゆるダイナミックプライシングを店頭で実現することも可能だ。シェルフは、それぞれ最大225kgまでの重量に対応。ほとんどすべての商品を陳列することができる。

インターネット広告のようにネット経由で広告を入稿

EDGEに表示される広告は、メーカーが直接、各小売業の運営する広告配信プラットフォームに動画・画像をアップロードすることで、店頭放映される。

具体的な手順はこうだ。メーカーは既定のフォーマットの動画・画像を準備し、広告配信プラットフォーム上にアップロードする。配信先は、EDGEとScan,Bag,Goの2媒体だ。小売業側は、アップロードされた動画・画像の内容が自社の規定に従ったものかどうかを確認し、メーカー側に承認か、拒否かを通知する。

メーカーが動画・画像をアップロードする際には、概算でどれぐらいのユーザーに対してその広告が表示されるのか(リーチ数)について、店舗数、広告の総表示回数(インプレッション)、必要な費用が表示される。あたかもインターネットの広告を入稿するような手順である。

これによって、メーカーはお客が商品を選択する最後の接点である店舗での露出を確保できるし、小売業側は広告費収入を見込める。今後、インターネット広告と同じように「リテールメディアアドバタイジング」の世界が広がっていくことを予感させる仕組みだ。

EDGEへの広告入稿画面。メーカーはこの画面からEDGEに配信したい動画や画像をアップロードする。リーチ、インプレッション予測もできる

アルフレッサヘルスケア勝木尚社長が力説「DgSを元気にする処方箋」

ヘルスケアの大手卸売業「アルフレッサヘルスケア株式会社」の勝木尚社長は、テレビCMの入った「売りやすい商品」を安売りするだけでは、DgS(ドラッグストア)の継続的な成長は望めないと力説します。効果効能に優れた、本当に客のためになる「売りにくい商品」を育成する力を養うことが、DgSの継続的な成長のためには不可欠だと強調しています。(以下の文章は2019年3月17日のインタビューのタイジェスト版を、筆者が大幅に意訳して掲載しています。インタビューの全文は月刊マーチャンダイジング5月号で掲載します)。

売りにくい高機能商品を育成し、売って感謝される喜びを体験しよう

これからの日本は、本格的な人口減少時代に突入し、売上は減ることはあっても大きく増えることは期待できません。やみくもに規模の拡大だけを追求する時代は終焉すると思います。たとえば、将来、売上が10%落ちても、粗利益は維持できるような店を、DgS(ドラッグストア)の皆様と協働してつくっていきたいと思います。

そのためには、高機能商品の「売り切る力」を育成し、マージンミックスによって粗利益を改善していくことが重要です。現在のDgSさんは、テレビCMが入った「売りやすい商品」を売るのは得意ですが、高機能高単価の売りにくい商品を店頭で育てる力が弱くなっているように感じます。労働人口の減少で人件費が上昇し、売場の人員が少なくなっていることも「売る力」が低下している原因のひとつです。

しかし、DgSで働く喜びは、現場で働くスタッフの皆さんが、自信をもって推奨した商品を売って、地域の顧客に感謝されることだと思います。たとえば、高血圧の大敵の塩を体外に排出する効果のある当社の専売品「しおナイン」のような、売りにくい商品を育てることで、「売って感謝される喜び」を、DgSの現場スタッフさんに、もっと体験してもらいたいと思います。

アルフレッサヘルスケアでは、THMW(トータル・ヘルスケア・マーチャンダイジング・ホールセラー)というコンセプトで、MD(マーチャンダイジング)機能を強化した卸売業を目指しています。卸売業は、金融機能や物流機能では差別化できにくくなっています。価格・リベート交渉一辺倒の「価格商談」から脱却し、MD機能を強化し、「売り方」を開発・提案することが、アルフレッサヘルスケアの役割だと考えています。

アルフレッサヘルスケア株式会社勝木尚社長

専売品のマージンミックスで将来も元気なDgSでいてほしい

MD強化の中でも、アルフレッサヘルスケアは、(1)エビデンスがしっかりしていて、(2)季節性がなくて、(3)粗利益が確保できて、(4)簡単に真似のできない「専売品」の開拓と開発に力を入れています。その専売品の多くは、テレビCMを打つほどの規模ではなくて、知る人ぞ知るという埋もれた商品がほとんどです。その自信をもって薦められる専売品を発掘・育成することは、社会貢献にもなるし、DgSさんの継続的な成長にも貢献すると思います。

しかし、ある専売品メーカーの経営者と名刺交換して、「ぜひ取引をしてもらえませんか?」とお願いしたところ、その社長から「取引先はどこですか?」と聞かれたので、「薬局・薬店・ドラッグストアです」と答えたところ、その社長から「安売りと返品の業界ですね」と即答されてショックを受けたことがありました。もちろん、競合対策としての安売りはあると思いますが、売りやすい商品だけを売って、「売りにくい商品は返品すればいい」という商売では、専売品を育成することはできないと思います。

DgSさんだけが販売チャネルだった時代は過去のものです。たとえば、大手食品メーカーの健康食品の中で、DgSなどのリアル店舗で販売しないで、インターネット販売だけで何十億のブランドに成長した事例は増えています。インターネットの方が「売りにくい商品」の価値を伝えやすいのであれば、DgSなどのリアル店舗の価値は相対的に低下していきます。

DgSさんが、価格とリベートの話しかしなくて、安易に返品し、高機能商品を育成してくれないのであれば、「もう仕入れてもらわなくて結構です。インターネットで売ります」とDgSに見切りをつけるメーカーが登場するかもしれません。「良い商品を自信をもって販売・育成し、顧客に感謝される」という、DgSの商売の原点に回帰すべきだと思います。

アルフレッサヘルスケアは、売上の98%はDgSさんとの取引に特化しています。ネット販売との取引はほとんどありません。われわれの願いは、専売品の販売などでマージンミックスを行い、いつまでも元気なDgS業界であってほしいということです。

[談・文責/編集部]

コンビニ各社がSDGsに熱視線を注ぐ理由

SDGs(エス・ディー・ジーズ)が今、コンビニ業界で必須の課題となっている。SDGsとは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のこと。前回紹介したセブン-イレブンの野菜工場の会見で、古屋一樹社長は野菜の安定生産が「SDGsへの取り組みの一つにもなる」と語っている。なぜコンビニ各社をはじめとする大手流通業がSDGsを進めようとしているのか。

サプライチェーン・マネジメントの点検に活用

SDGsを各社が導入しようとするのには実利的な理由もある。2017年春頃から持続可能な経営をする業界や企業に投資する流れが世界的に出来つつあり、同年春には世界銀行がSDGsの達成状況に連動させた債券を発行、同年11月には日本経団連が企業行動憲章を改定してSDGsを達成することを表明している。

SDGsに取り組まないと、株価が下がり、企業価値が毀損されると(コンビニに限らず)業界や企業が考えるようになったのだ。

SDGsは2015年秋の国連サミットの場において全会一致で採択された、2030年までに達成すべき国際社会全体の目標である。17のゴールと、それを詳細にした169のターゲットから構成されている。(上画像参照)

17ゴールのロゴを画像で見ると、ちょうど横3列に分かれている。

1列目(ゴール1~6)は、貧困や飢餓、保険、教育、ジェンダー、水・衛生、といった伝統的な開発課題。

2列目(ゴール7~12)は、エネルギー,経済成長,産業など包摂的な成長のために,先進国・途上国ともに取り組むべき目標。

3列目(ゴール13~17)は、気候変動や環境問題、平和・司法制度、SDGsを達成させる実施手段とされている。

例えば、コンビニの売場には、サプライチェーン・マネジメントにより、生産の現場から、さまざまな経路をたどって商品が届く。製造の現場、流通の現場、小売りの現場、それぞれがSDGsの各ゴールの目から見て「脆弱性」がないか点検することが大切になる。

以前、日本のアパレルチェーンのPB(プライベート・ブランド)商品が、開発途上国の過重かつ危険な労働環境で製造されていると海外NGOから非難され、大きく報道された。今後も引き続き世界企業に対しては厳しい目が注がれるであろう。

ストローは序章、次はレジ袋、ペットボトルへ

使い捨てストローの不使用を外食企業の大手が表明している。この動きは序章に過ぎない

コンビニ業界に関連する当面の課題は海洋に流出するプラスチックごみだ。SDGsで言えばゴール14「海の豊かさを守ろう」。昨年は海亀の鼻にストローが刺さった衝撃的な画像がネット上に拡散した。これを受けて外食チェーンにおいて、使い捨てのプラスチック製ストローを廃止する動きが広がっている。スターバックスコーヒーは2020年までに世界全店で廃止すると発表、米国マクドナルドは順次紙製に変更、ガストは2018年12月に全店で廃止済み、と動きが拡大している。

しかし「ストローは序章に過ぎない」と、環境とCSRをテーマにするビジネス情報誌『オルタナ』の編集長、森摂氏は語る。

「昨年 “ストローは序章(世界同時「脱プラ」の衝撃)”と題する特集を組んだ。ストローの次はレジ袋、その次はペットボトルが問題になる」

使い捨てプラスチックごみの多くは焼却されるが一部は大雨などにより海洋に流出する

日本のコンビニ業界はプラスチック製の使い捨てゴミ袋を無料で配布している。使い捨てプラスチックごみの廃止が先進国の潮流であり、SDGsに沿った目標であれば、レジ袋有料化や使用制限は今後、避けられないのではないか。

そして次がペットボトル。森氏は続ける。

「ペットボトルは利便性の面では理想の形態である一方、リサイクル率が低く、生態系への配慮を問われている。ドイツはペットボトルにデポジット制を課している。そのデポジットが 1 ユーロ(130円)と高額。商品と同じくらいの値段がデポジットの料金になる」

コンビニにとって厳しい条件に見えるが、コンビニがリサイクルの拠点になれば、逆に集客に期待が持てるかもしれない。環境負荷に対する規制は避けて通れない。そこに、どのような商機を見出すかが大切だ。

外国人社員とスタッフに活躍の場を創出

ファミマによる第2回「ダイバーシティアワード2018」で最優秀商を受賞した「ファイターズ」と澤田貴司社長、駆け付けたタレントの香取慎吾さん

「ダイバーシティ」経営とは、多様な人材を活用して企業を発展、活性化させること。SDGsのゴールでは、(5)ジェンダー平等を実現しよう、(8)働きがいも経済成長も、 (10)人や国の不平等をなくそう、に結び付く。

このダイバーシティ推進の一環として、ファミリーマートは、各組織が自部門で実践している「多様性を活かすことで新しい価値を生み出した優れた取り組み」を表彰する第2回「ダイバーシティアワード2018」を本年1月に開催した。

全国から31チームがエントリーし、1次審査の結果選定された6チームが最終プレゼンテーションを実施、最優秀賞が決定する。

内容を紹介すると、あるディストリクト(地区事業所)では、「なりきりだよ全員集合」をキャッチにダイバーシティに取り組んだ。男性管理職も含めた全員が、遅出、早帰りを実施して、子育てや介護を抱えた時間制約の伴う働き方を、家事をサポートすることでリアルに体験、当事者意識から現状課題を見つけようと考えた。

制約があっても、皆で工夫しあって、やり切る気持ちがあれば、生産性の向上にもつながることが全員で共有できた。副次効果として、家族から大変良い取り組みだと絶賛の声をたくさんもらったという。

また、あるディストリクトでは、「メンバーそれぞれの多様性(知識・経験・個性・特徴・得意分野など)を活かすことが組織活性化のカギ」をテーマに、親子ほど年齢の違うベテラン(おやじ)と若手(息子・娘)が相互に補完して、知識や経験を伝承し、ディストリクト全体を活性化させていくことに取り組んだ。例えば、ベテランの持つ豊富な経験、若手が得意とするITスキルを効果的に日常業務に活かしている。

チーム名「ファイターズ」のプレゼンテーション。外国人スタッフが活躍できる環境を整えている

最優秀賞を受賞したのが、チーム名「ファイターズ」(東京第1ディストリクト)。外国人スタッフが多く勤務するこのディストリクトでは、所属する外国籍スーパーバイザー(SV)が講師となりスタッフ研修を実施、外国人観光客に対してインバウンドの売上を図る戦力として育成している。また、中国籍のSVが店舗に出張して中国語による指導を開始、新人スタッフの教育、免税店舗での売場づくり、オペレーション改善など、店舗の課題に合わせた研修を重点地域で実施した。ファミリーマートは、性差や年齢、国籍を問わず、全員が活躍できる環境づくりを目指している。

SDGsの一つ一つは企業活動を制約するものでは決してなく、組織の活性化やビジネスチャンスを生むものとして、企業そして個人として、活用していきたい。