新たな時代の変化にキャッチアップできるスーパーマーケットへ

ユナイテッド・スーパーマーケットHD藤田氏が語る食品スーパーの危機感と変革

「食&料理×サイエンス・テクノロジー」をテーマにしたイベント「Smart Kitchen Summit Japan 2019」が8月8日と9日に行われた。主催は株式会社シグマクシスとNextMarket Insights社。日本では三回目の開催となる。二日目のセッションでは「スーパーマーケットをつくり変える」と題して、マルエツ・カスミ・マックスバリュ関東の共同持株会社であるユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス代表取締役社長の藤田元宏氏が講演した。

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ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス代表取締役社長 イオン代表執行役副社長 藤田元宏氏

スーパーマーケットの存在感が薄れつつあるという危機感

チャレンジの背景

藤田氏は「スーパーマーケットを作り替えなければならない」と話を始めた。40年以上スーパーマーケットの仕事に携わってきた藤田氏は「今のスーパーは商品やサービスが少しずつ変わってはきたが、変化の速度はいつもゆっくりで、社会の変化の速度についていけていないのではないか」と語った。POSシステムなども最初は先進的だったはずだが、便利になったにせよ、その機能はあまりかわっておらず変化に対する遅れを感じているという。

そしてここ5年くらい、売り場で客が買い物する様子を見ていて「スーパーマーケットに対する存在感や信頼感が徐々に薄らいでいる」と肌で感じるようになってきたという。当初は「消費が冷え込んでいる」といった言葉で言われていたが、最近は食品を購入するチャネルが急速に多様化し「肌感覚は危機感に変わった」。そして「これまでのスーパーマーケットでは必ず行き詰まる。作り替えなければならない」と考えて、昨年からどう作り変えるべきか検討してきたと述べた。「食」を通して新たな価値を模索するプレイヤーたちが集まる「スマートキッチンサミット」に登壇したのも、新たなコラボレーションを求めてのことだという。

アセットとビジネスモデルを見直し「生活者中心主義」に変革

藤田元宏氏

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社は、マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東を事業会社とする共同持株会社で、首都圏最大のスーパーマーケット。2019年7月20現在で、関東6県に518店舗を展開している。年間売上高は7,000億円。「マルエツプチ」のような小規模店から大型の郊外店まで様々な規模の店舗を展開しており、現在も年間15〜20店舗程度を新規出店している。

藤田氏は「ローカルコミュニティの一員として誰もが入りやすい環境をどうやって作り上げていくか」に注力してきたが、アセットをもう一度「生活者中心主義」に変革し、驚きや感動、地域のつながりのハブ機能を持つスーパーへ、食を通じて従業員や客が笑顔になる組織に生まれ変わりたいというのが、これからのチャレンジだと述べた。

市場の背景とスーパーマーケットの集客力の低下

背景には人口減少、高齢化による市場の縮小がある。これらは既に起きている変化だ。いっぽう、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスが店舗を展開する首都圏エリアは一極集中で、人口も増えている。また高齢者世帯の消費という新たなチャンスも見出せる。従って新たなプレイヤーがたくさん参入しており、競争環境が厳しくなっている。そして「人生100年時代」を迎えて「ウェルビーイング」に対して志向が高まっているといった現状がある。

藤田氏は、これまではアメリカの経営理念に学んでチェーンで経営し、ワンストップで購入できる便利さで成長したスーパーマーケットだが、さまざまな変化で提供価値が「中庸な評価」しかもらえなくなり、多くの生活者に選ばれることが少なくなりつつあると感じているという

従来のスーパーは物的充足を尺度とし、売上高を追い求めてきた。しかしそれ以上の価値が社会的に求められるようになり、変化を余儀無くされてきたということではないかと自己分析しているという。そして社内で議論を続け、たどりついた結論は「これまでのビジネスモデルにとらわれることなく『生活者中心主義』を店舗で実現すること」。それが「今後の持続性と成長性を可能にする道だ」と考えたという。

4つの価値「突き抜け鮮度」「商品との出会い」「エンリッチ」「つながり創出」

新たな4つの生活者への提供価値

多くの客に愛着を持ってもらうお店になるためにはどうすればいいか。ベースにあるのは「顧客の理解を深める」こと、そして「顧客と価値を共創する」ことだという。この二つの仕組みを基盤として作り上げる。その上で、感動の食体験やつながりを創造する。そのために「突き抜け鮮度」、「商品との出会い」、「エンリッチ」、「つながり創出」を生み出す店舗を目指す。

「突き抜け鮮度」

「突き抜け鮮度」とは、単なる掛け声や売り文句としての鮮度保証ではなく、エビデンスに基づき、顧客に理解・納得される価値としての鮮度保証であり、それと矛盾する事象を排除する仕組みが必要になる。したがって、取り組みは非常に広範囲に及ぶ。藤田氏は、従来のスーパーは食品製造と消費者の中間に位置しており、それぞれに対してある一定の距離を保ちながら、物流で流したり、量やクオリティ、グレードをなんとなくこなしてきたと述べた。しかしこれからは従来のようになんとなくやりすごすということを目的とするのではなく、鮮度や品質、おいしさを目的とするように立ち位置を変えなければならない。そのためには、これからのスーパーを変えるためのサプライチェーン新構築が必須となると考えていると述べた。

「商品との出会い」

「商品との出会い」は、誰かに伝えたい商品、双方向ネットワークやパーソナライズによって作り出される新たな価値だという。従来のように「商品」を軸におくのではなく、あくまで1to1、個を軸にする。

「エンリッチ」

「エンリッチ」は、買い物や献立などに関わるストレスをなくすことで豊かさを感じてもらう取り組みだ。生活者のストレスを解放し、豊かな時間を感じてもらうようにする。これまでのスーパーにも、いわゆる時短食材はあった。しかし問題は最終ゴールだ。それは「生活者側が豊かさ、ゆとりを感じること」であり、「手渡しの仕方も含めて、もっと違うやり方があるのではないか」と考えているという。

「つながり創出」

「つながり創出」は、いろいろな人がタッチポイントにすることを目指す。これまでも店舗の一部を顧客に提供することはしてきたが、場づくりの主体をもっと外側に向けて押し広げていき、生活者と従業員、そしてコミュニティによるつながりを創造することで、一緒に店作りをしていくことを目指す。

プロトタイプ店舗で検証し、2021年以降に全面展開へ

新タイプ店舗のプロトタイプを開発する

藤田氏はこれからのフェーズについて「我々のビジョンに興味を持った方々とディスカッションさせて頂きたい。違いにシナジーがあるパートナーと一緒にプロトタイプをつくりたい」と述べた。具体的なフィールドとしては、年間15から20の新規店舗や、年間30店舗くらいのペースで改装する店舗を想定する。プロトタイプ店舗での検証を踏まえ、修正を繰り返して、2021年から3年間くらいで店舗全体に広げていくという。藤田氏は「トライアンドエラーを繰り返しながら調整していかないと進んでいかないだろう」と述べ、プロトタイプつくりに意欲を示した。

最後に、これまで述べた新プランについて「とりたてて新しいビジョンではない。しかしスーパーと生活者との距離感が広がりつつあるのは自分たちの価値観を変えなかったからだろう。4つの価値をもとに新たなパートナーシップで変化にキャッチアップしていきたい。ただ当社においても五十年以上の歴史のなかで作り上げられてきたので作り変えることは簡単ではない。新たな技術やパートナーと共創することこそが、変化へのキャッチアップを可能にすると考えている。皆さんのたくさんのアクセスを期待している」と講演を締めくくった。

「新しい価値」を創造するパートナーを募集中とのこと