スーパー総選挙、3年連続1位の理由

安さと誠実さで支持率トップ!オーケーの「超合理的」MDに学ぶ

TBSラジオの生活情報番組「ジェーン・スー 生活は踊る」が主催した「スーパー総選挙」。首都圏中心の333社からリスナーイチオシのスーパーを投票で推薦するというものだが、その第3回となる2019年のスーパー総選挙で、3年連続1位になったのが「オーケー」だ。その支持の理由は「『安さ』と『誠実さ』。『安かろう悪かろう』ではなく、きちんとしたものを安く提供する姿勢(TBSラジオHPより)」であるという。(ロジカル・サポート代表 三浦 美浩/月刊マーチャンダイジング2020年4月号より転載)

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経費率16.72%のスリム経営

オーケー(二宮涼太郎社長)のお客からの支持は、決算数値にも表れている。オーケーのホームページの数値を見れば、2019年3月期の既存店売上高前年比は104.5%で全店売上高は3,936億円(テナント売上高含む)、3年前の3,072億円から28%増と急速成長している。3年間で29店舗の新規出店があったことを勘案しても、この低成長時代に驚異的な数値だ。

しかも今年度の経費率は16.72%、経常利益率は4.79%とローコスト&高収益率を誇っている。この低経費率の理由は何といっても高い坪当り売上高にある。

同社の2019年3月期の売場面積は5万7,106坪(期中平均)で坪売上高は688万円。ほぼ同じ企業規模のヤオコーの営業収益は3,810億円(2019年3月期・単体)で売場面積は9万3,122坪(同)となり409万円(これでも十分に高効率なのだが)、オーケーは約1.7倍の坪効率となる。

まさに「高い坪売上高」こそが低経費率=高収益に結び付いている例といえよう。

「オーケークラブの会員価格」で全品「103分の3」割引に

今回視察したのは2012年開店のオーケー 溝ノ口店。売場面積726坪で同社が言うところの大型店・ディスカウントセンターである。

溝ノ口(住所表記は溝口)は東急田園都市線・大井町線(溝の口)とJR南武線(武蔵溝ノ口)が乗り入れており、1日当りの乗降客は東急線が15.6万人、JRが8.6万人でいずれも増加傾向だ。出店した川崎市は2018年の1年間で人口が1万2,399人が増加し、なかでもオーケー 溝ノ口店の足元である中原区は人口増が3,054人ともっとも多い。とくに20歳代の若年層の流入が続いている地域である。

店舗は地上2階、地下1階の3層構造で主な売場は地下にあり、オートスロープで1階とつながる。1階には若干の雑貨売場とレジ、サービスカウンターがあり、2階は駐車場になっている。

高い支持率=売場販売効率の高さの理由は、第一にはスーパー総選挙がいうところの「安さ」である。オーケーの経営方針は「高品質・Everyday Low Price」である。品揃えはNB主力。加工食品などのNBは「万一、他店より高い商品がございましたら、お知らせください。値下げします。」と店頭に表示している。これは「競合店対抗値下」といい、表示には「だから、オーケーで買って損をすることはないのです」とまでいい切る。

競合店と比較する価格は「オーケークラブ会員価格」である。オーケークラブ会員になると全商品(酒類を除く)が「103分の3」割引になるという制度で1989年の消費税3%が導入された際から続く施策である。

特徴的なのは、この会員価格が「見える化」されているということだ。たとえばNBの食パンのPOPには「会員現金払価格(3/103割引後)」として77円(税抜き)と一緒に「非会員・カード払価格」として79円を表示、レジ登録段階ではなく店頭表示価格段階で会員が有利であることを示す(現在は現金とPayPay払いに割引適用)。

もちろん会員価格は全般的に安い。2月初旬の同店の店頭では、納豆65円(非会員66円、以下同)、豆腐64円(65円)、ヨーグルト118円(121円)、牛乳155円(159円)、卵134円(138円)と消費頻度の高い商品で他店より低価格に設定している。しかもこの価格はEDLPで毎日同一価格だ。

オーケーはチラシは発行するが恒常的な新聞折り込みはない。店頭にはチラシが置かれているが「商品情報紹介」という位置付けで、新商品の紹介や値下げをした際の新価格のお知らせの役割を果たす。「チラシ期間は安いが翌日は値上げして高くなる」ことはなく、お客の価格への信頼感は高い。

オーケー 溝ノ口店折り込みチラシ

EDLP+売り切り特売で安値イメージ醸成

オーケークラブ会員は2019年3月段階で491万人を超えている。主力で展開する東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県(ほかに宮城県に1店)の総世帯数が1,772万世帯であり、3.6世帯に1枚発行している計算(2019年1月住民基本台帳調査より)になるので、かなり高い占拠率といえる。

一方で、特売も何種類か実施している。ひとつが「更にお買徳」で、これは普段から扱っている商品が、特別な条件や時期に通常よりも低価格で仕入れられた場合に行われ、その商品がなくなった時点で終了するもの。

もうひとつは「特別提供品」でこれは普段、定番では扱っていない商品を特別な条件で仕入れたもので、なくなり次第、終売になる。これはチェーンストアの言葉でいう「シーゾナル商品」で非定番のアイテムを短期に集中的に売り切ることを指す。

たとえばオーケーでは品質と価格のバランスから和牛に関してはA4ランクの商品を販売しているが、溝ノ口店は2月初旬に「特別に仕入れることができた」としてA5ランク商品をA4価格の「特別提供価格」で販売するとしていた(A5ランクとは脂肪、肉質、色と歩留まりで評価した和牛の最上級の肉。A4はA5のひとつ下のランク)。

常時低価格に加えたこうした売り切り型特売で、さらなる安さイメージをつくる。

一方、生鮮食品に関しては「高鮮度・美味しさ・高品質を先ず吟味し、その上で安さを訴求しています」(同社HPより)というコンセプトを掲げる。市場流通の生鮮食品に関しては、競合店に想定外の低価格が登場する可能性があり、それに価格を合わせていったら限りなく「安かろう、悪かろう」になる場合もある。高鮮度・美味しさ・高品質は「安かろう、悪かろう」を避けるためのスローガンなのだ。

A5、A4ランクの和牛も扱うし、野菜では九条ネギ、聖護院大根などのこだわりの京野菜も品揃えする。同時にモヤシは28円(28円)、おにぎり49円など価格比較がなされやすい商品は徹底して低価格にして安さイメージは崩さない。

オネストカードに見える「誠実さ」

オーケーがスーパー総選挙で1位に選ばれたもうひとつの理由の「誠実さ」は、オーケーの「オネストカード」に代表される(honestは英語で正直なの意)。これは、商品の情報を「出来るだけ正確で、正直な商品情報をお客様にお知らせ」(同社HP)するため、冷蔵ケースなどのガードレールに取り付けられた横長のPOPである。

たとえば1月17日付のオネストカードには、こんな表現があった。

「バナナについて 台風等の産地天候不順の影響により、スレ・キズが多く果肉が変色しており、品質が良くありませんのでご購入はおすすめいたしません。2月上旬ごろの入荷分より、産地状況が改善されて品質が良くなる見込みです。ご了承ください。回復するまではキウイフルーツをおすすめします。」

品質の低下に関しての正確な理由と、お客が取るべき策を伝え、合理的な消費をすすめようとしているのである。

こうした表示物は本部の会議体で徹底して議論される。店内には手書きの掲示物はひとつもなく、その点ではセントラルコントロールが徹底されている。

表示の種類はかなり多い。「緑豆、黒豆、大豆などモヤシの違いや適した調理方法」「牛肉の部位の違いとおすすめの食べ方」「野菜を長持ちさせる保存方法」など、多岐にわたる。

取扱い商品にもこだわる。店頭には「合成着色料を使用した商品は原則として取り扱っておりません」とあり、添加物に関しても、ソルビン酸カリウム(保存料)、亜塩素酸ナトリウム(漂白剤)などを使った商品を扱っていないことを伝える。

昨年度の客数伸長率は10.3%。安さだけでなく、こうした誠実さ、情報提供の丁寧さが、子育て世代などのそれほど裕福でないお客、料理が苦手な若い世代に支持を拡大している要因だろう。

ローコスト経営2つのポイント

高坪効率であることは確かだが、オーケーが経費率も低い「ローコスト経営」であることは間違いない。2019年3月期の売上総利益率は21.71%、対する経常総経費率は16.72%で、結果、この差額が経常利益率4.79%となる(同社HP)。そのローコスト策のポイントは大きく①廃棄・見切り作業の削減、②重点販売商品と予約販売である。

–記事の全文は月刊マーチャンダイジング2020年4月号でご覧ください。ご購読は以下のバナーから。