お客の支持を受け続ける、絞り込み、ナイナイ化、オールアウトパックの技

ヤオコーが子会社化してまで欲しがった日本版ウォルマート「エイビイ」の実力とは!?

神奈川県を本拠とする有力食品SMチェーン「エイビイ」。30期連続増収増益、経常利益率4.2%のエクセレントカンパニーである「ヤオコー」が2017年4月に完全子会社化したことによって、SM業界に驚きが広がった。なぜこの企業が数多くのお客の支持を受け、これほどまでの収益力を誇っているのか。ストアコンパリゾンで解き明かす。(ロジカル・サポート代表 三浦 美浩/月刊マーチャンダイジング2020年4月号より編集の上転載)

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店舗当り年商48億円超の驚異的な売上高

エイビイは、神奈川県と東京都に食品SMと、スーパーセンターと称する大型店を12店舗展開(2020年2月現在)。ヤオコー子会社化の直前に公表された2016年3月期の決算では売上高483億円、経常利益28億円で経常利益率5.8%とヤオコー以上の高収益。当時の店舗数は10店舗で1店当りの年商は48億円超と食品、雑貨のみの食品SMとしては驚異的な売上高だ。

なぜこの企業が数多くのお客の支持を受け、これほどまでの収益力を誇っているのか。

今回モデルとして視察したのはエイビイりんかんモール店である。神奈川県大和市の中央林間駅から徒歩10分の幹線道路沿いに立地する売場面積800坪の店だ。

エイビイりんかんモール店は2011年に開店。中央林間駅は小田急線と東急線の2線が乗り入れていて都心へのアクセスもよいが、市に隣接した米軍厚木基地の騒音問題などから人気はそれほど高くなかった。しかし2000年代に入ると中央林間駅周辺に大型SCが多数開業する。

エイビイの東2kmには2000年にアウトレットのグランベリーモールが開業、2001年には南に1.5km離れた地点に大和オークシティSC(イトーヨーカドーとイオンモールが連結された大型SC)が出店した。グランベリーモールは2017年にいったん閉店したが、2019年11月にその跡地を再開発した南町田グランベリーパークが開業し、人気を集めている。

そのためこの地域は現在人気が出て人口増加中。エイビイの近くには2019年に分譲が始まった総戸数857戸の巨大マンションが完成、70㎡で3,800万円台と比較的手に入りやすい価格で子育て世代に好評を博す。

コモディティ商品の圧倒的低価格

エイビイが1店舗当り50億円近い売上高を獲得している秘訣は、なんといっても価格の安さである。店舗の入り口にはかご3個が載せられるカートが大量に置かれていて、お客は最初からひとつのカートにかごを3つ載せて買う気満々だ。

レイアウトはコの字型の主通路設定で、入り口にはスイングドアが設置されており、ワンウエイコントロールの意図が読み取れる。

入り口から果物の平台が6台と左右に野菜の売場、次に鮮魚売場、精肉売場とつながり、牛乳、ヨーグルトなどの乳製品、ハム・ソーセージなどの加工肉と続く。

野菜・果物売場ではキャベツ69円、大根79円、モヤシ19円、バナナ1房99円などの低価格、鮮魚ではサンマが1尾100円、マサバ1尾199円などである(すべて税抜き、以下同。2020年2月7日に調査)。お客をもっとも引き寄せる「主通路壁面の第一磁石売場」の精肉コーナーでは豚ひき肉(国産、輸入混合)69円、国産もち豚バラ・スライス99円など、100g単位の価格(ユニットプライス)が2桁の商品が数多い。鶏ムネ肉(国産)は2枚入りが100g44円、3枚入りが同39円で、容量が多くなるほどユニットプライスが安くなるような売価設定も。育ち盛りの子供がいる家庭にはうれしい売価だ。

牛乳は「主通路突き当たりの第二磁石売場」に配置。牛乳1ℓ155円の売価で遠目からもお客を引き寄せる。主通路沿いの「エンド部分の第三磁石売場」には卵を配置して、買上点数のプラスオンを狙う。

パン売場にはバターロール13個入りが189円と1個当り14.5円の超低価格。この商品は「ジェネリック」というストアブランドで(製造者は山崎製パン)、商品名やパッケージの印刷も品質表示以外まったくない(なお、医療分野のジェネリック医薬品という意味ではない)。

定番のゴンドラ内にはワイヤー什器(キャスターの付いたかご型の什器)に1kgで185円のパスタがある。これはレストランなど外食用につくられた商品でゴンドラ最下段に大量に陳列されている。

安さの追求とこだわりの両立

同時に、必ずしも低価格一辺倒になっていないところが、エイビイの大いなる魅力でもある。エイヴイのホームページに掲載された木村社長のメッセージではエイヴイが目指す店として「単なる生活充足型の品揃えを脱皮し、多様な個々人のスペシャリティーニーズを満たす売場」と書かれている。このコンセプトが、安さだけではない、「こだわり」も求める広い客層の獲得へとつながっている。

入り口脇の青果ゾーンのトマト売場は、最近の「トマト人気」に対応して大きさ、色や味もさまざまなトマトを12品種取り扱う。青果内側の巨大キノコ売場には冬の需要期ということもありシイタケからマイタケ、シメジ、ブラウンとホワイトのマッシュルームまで21品種を品揃えするこだわりである。

青果奥のバナナ売場も既述のように1房99円の最大フェースで確保しながら、総アイテム数は6にまで拡大。バナナダイエット以降人気が続く高単価バナナも揃える。

牛肉はオーストラリア産、アメリカ産も揃えながら黒毛和牛も陳列。豚肉も国産だけでなく人気のカナダ産やスペイン産のイベリコ豚まで置いている。

日配ではナショナルブランド(NB)の3連納豆65円を12フェースで揃える一方で、中段には「わらづと(わらを束ねた筒)」に入った伝統的な納豆も197円で販売、納豆合計32アイテムと品揃えの深さを追求する。

「単なる生活充足型」ではない、「多様な個々人のスペシャリティーニーズ」を満たすことが1店舗50億円近い大人気に直結している。

ローコスト運営4つのポイント

本稿の主題の「ローコストオペレーション」に関しては4つのポイントが挙げられる。

①SKUの絞り込み、陳列位置の固定

第一にこの品揃えのメリハリが、エイヴイのコスト削減につながっている。

青果ではトマト、キノコは拡充しながらキャベツ、大根、ニンジンなど基礎的な商材は1アイテムに絞り込み。キャベツのような重い商品は陳列も大変だが、年中同じ売場の位置で販売する徹底ぶりで、品出し、作業負荷の軽減を図る。

絞り込んだ牛乳は扉の付いたリーチインへのバックロード方式(後方が冷蔵庫になっていて後ろ側から陳列什器のまま並べる)の陳列で一気に大量陳列が可能。これも作業負担軽減と補充回数の削減に直結する。

② 什器の工夫、陳列動線の超効率化

エイヴイの第二のローコストのノウハウは、こうした什器活用の方法にある。

ワイヤー什器は投げ込み方式ではなく商品をきちんと並べて陳列しているが、可動式の什器を活用しており、後方での品出しができて作業効率は高い。

エイビイを視察する際、中央林間駅側からアプローチをすれば店の納品口が目に入る。この場所で荷下ろししているトラックは多くが「ダブルウイング型(扉が車の後方でなく両側に鳥の羽のように開く車)」である。

エイビイ中央林間店の荷受け場。ここからパレットでフルフラットの売場まで品出しされる

パレット納品の商品でフォークリフトを活用すれば、荷台の横から荷役ができ、荷下ろし効率は高い。りんかんモール店の荷受け場の天井高は、この納品形態を前提に設計されている。

パレットで納品された商品は荷受け場から段差のないストックルーム(在庫場)へそのままフォークリフトで引き込まれる。荷受け場は納品時以外、常にシャッターが下ろされていて、在庫場は外側と区画される。温度管理ができ、商品の保管の面でも従業員の作業の面でも確実な環境保全がなされている。

パレット納品された商品はカートラックに移動され、フルフラットのフロアに品出しされる。重たい飲料や酒の売場は在庫場に隣接しており、売場でカートラックのまま販売する箱売りの商品も多くある。この合理的な店舗運営がローコスト運営を支えている。

③ナイナイ化によるローコストの追求

第三のローコストの特徴は「店舗のナイナイ化」にある。

価格はチラシ「ナシ」のエブリデーロープライス(EDLP)作戦。売価変更の作業もチラシ費用もナイし、お客は昨日より高い商品を買わされる不満も「ナイ」(実はお客は「安いものを買えた満足」より「間違って昨日より高いものを買わされた不満」の方が大きい)。現金以外の決済手段も「ナイ」。商品の価格と品質のバランスが取れていて満足できれば、購入金額が多くても現金で買物してくれる。

ポイントカードも「ナイ」。レジ台数は18台だが、かご3個に商品を満載した顧客が多いため土日には15分以上待つような光景もあるものの、お客はひたすら並んで、精算して帰っていく。

店内のBGMも「ナイ」、売場での「いらっしゃいませ」の掛け声も「ナイ」。店内ではレジで商品をスキャンした「ピッ、ピッ」という音ぐらいしかなく、まったく静かである。お客も買物に集中して楽しんでいる。

④オールアウトパック加工ありきの店舗運営

エイビイの第四の、そして最大のローコストの仕組みがオールアウトパック加工(店舗外の自社センター、外部メーカーによる加工の総称)の商品づくり、店舗運営にある。

食品SMとDgSなど非食品の業態とでまったく異なる点は、野菜、鮮魚・刺し身、牛豚鶏肉やひき肉の「店内加工(「インストア加工」)」の有無にある。

歴史的に食品SMはこのインストア加工を「強み」として差別化を図ってきた。各店の各部門に設置された作業場で商品をその日に加工、その日に品出しして鮮度をアピール。店頭商品が品薄になれば追加加工し、店頭在庫が多くなりそうであれば製造を控える形で現場スタッフが逐次、売場を管理してきた。

総菜もでき立てを求める声があれば、夕方4時からでも揚げたてを並べ顧客に対応してきた。

食品SMの店は「広い売場+さまざまな作業のできる作業場+多彩な要望を実現できる人材」がセットになって流通業界の主役を務めてきたのである。

(記事の全文は月刊マーチャンダイジング2020年4月号でご覧ください。ご購読はこちらから

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