PALTACが「無人レジ店舗」を実験。AIカメラ、画像認識の進化がすごい

日用雑貨卸のPALTAC(本社・大阪市、糟谷誠一社長)は、アメリカのベンチャー企業「スタンダード・コグニション(ジョーダン・フィッシャー社長)」とパートナーシップ契約を締結し、今年中に「無人レジ(スタンダード・チェックアウト)」を実験すると発表しました。PALTACは、東北のDgS「薬王堂」と提携して1号店を開店します。話題の「アマゾンGO」のような店舗が日本でも登場するわけです。

150坪程度の店舗ならカメラ数十台で済む

PALTACが実験する「無人レジ」(スタンダード・チェックアウト)は、店内の天井カメラと画像認識AIの働きで、顧客がどの商品を取って退店したかをすべて把握できる仕組みで、レジやスキャンによる清算の必要がない「アマゾンGO」のようなシステムです。棚から一度取った商品を棚に戻すといったイレギュラーな購買行動も、AIカメラがすべて認識します。

PALTACの糟谷(かすたに)誠一社長によれば、スタンダード・チェックアウトは、アマゾンGOよりもカメラの台数が少なくて済み、150坪程度の店舗なら、数十台の「AIカメラ」で、来店客すべての購買行動を補足できるそうです。1台のカメラで、かなり広範囲の画像データを分析できます。アマゾンGOの棚には「重量センサー」が付いていますが、スタンダード・チェックアウトは、重量センサーはなくて、AIカメラのみで購買行動を補足するシステムです。

また、POSやID-POSなどの購買データではわからない、顧客の「購買前の購買行動」というビッグデータもすべて記録・分析することができます。ショッパーリサーチ(買物客の購買行動分析)にも応用できて、マーケティングデータとしても価値があります。さらにPALTACは、自社の物流センターの業務にもAIカメラの技術を応用していく予定です。

顔認識と行動分析で万引防止にも活用

2018年11月にアメリカ流通視察に行った際に、HC(ホームセンター)最大手の「ホームデポ」の持ち帰り商品専用のレジがほとんど「セルフレジ」に変更されているのを見て驚きました。長尺商品や高額商品も多いので、万引の心配はないのだろうかと思いましたが、AIカメラでしっかり監視していました(下の写真参照)。

「カメラであなたの行動はすべて記録していますよ」と警告しているホームデポのセルフレジ。モニターにはしっかりレジ清算者が映っている。出入口の上部にも監視カメラとモニターか設置されている。

日本を含む世界24ヵ国が調査に協力した、小売業の窃盗犯罪に関する世界的な報告書である「グローバル・リテイル・セフト・バロメーター(GRTB)2014〜2015版」によると、不明ロスの内訳は、従業員による不正39%、万引き38%、犯罪性のない管理上のミス16%です。

同報告書によると、日本の不明ロス率(売上高に占める不明ロス金額の割合)は1.35%、金額にして149億ドル(1ドル100円で換算すると1兆4,900億円)という莫大な金額が不明ロスで失われていることになります。優良小売業の営業利益率の目安が5%ですから、1.35%がいかに大きな数値かが分かります。海外では不明ロス、特に万引き対策を「loss prevention(ロス プリベンション)」と呼び、役員レベルがトップに立って指揮を執る大手小売企業も多く、最重点の経営課題です。不明ロス対策のために、「AIカメラ」を活用する取り組みは今後急速に進むでしょう。

「秒針分歩」のスビートでAIカメラは進化しています。一方で、「監視社会」の恐ろしさも感じます。一度、どこかの店で万引きし、万引き犯として顔が記録されると、「買物お断り」とすべての店で入店拒否される時代が来るかもしれません。そのうち「万引き犯専用の店舗」が登場、ということもありえないとは言い切れませんね。

非常用品のみならず、普段使いのグッズ・食品も備蓄される傾向に

2018年は、6月の大阪府北部地震や、7月の西日本豪雨、9月の北海道胆振東部地震など、全国各地で様々な災害が発生し、その年の世相を表す漢字も「災」であったほどです(日本漢字能力検定協会発表)。今回は、防災意識や防災グッズの買われ方について、調査をします。

季節や時刻に関係なく発生する「地震・津波」が最も不安

まず、当社自主調査では、20代~60代の男女(N=4,259名)に、防災への備えに関する意識調査を実施しました。

まずアンケートでは、お住まいの地域において、現在不安に思っている災害について調査をします。

現在不安に思っている災害については、「地震・津波」が68.2%で最多となり、それに次ぐ「豪雨・洪水などの水害」32.4%、「暴風・竜巻」25.9%を大きく引き離す結果となります。昨年は大阪や北海道などで、大きな地震に見舞われた日本において、季節や時刻に関係なく発生する「地震」が不安であると多くの方が考えていることがわかります。

次に、ご自宅周辺の指定避難場所(※1)や、地震ハザードマップ(※2)の認知について調査をします。

※1 指定避難場所)災害の危険性があり避難した住民等が、災害の危険性がなくなるまで、必要な期間を滞在し、または災害により自宅に戻れなくなった住民等が一時的に避難する場所。
※2 地震ハザードマップ)地震の揺れの強さや揺れによって引き起こされる、建物崩壊や液状化の危険を地図上に表したもの。

ご自宅周辺の指定避難場所について、「知っている」が75.3%となり、前回2016年調査時の69.9%から5.4ポイント上昇しています。お住まいの地域の地震ハザードマップについては、「家にある」が33.2%、「家にはないが見たことがある」が22.8%となり、2人に1人の方が地震ハザードマップをみたことがあることがわかりました。その一方で、半数近くの方が、「見たことがない・わからない」と回答しています。

防災グッズの備蓄・保管に熱心なのは北海道と関東!?

次に、防災グッズの備蓄や保管について、エリア別で調査をします。

防災グッズを「備蓄・保管している」と回答した方は、48.8%(2,077名)で、エリア別にみると、「北海道」が53.8%でもっとも多く、「関東」が51.5、「中部・北陸」が49.0%と続きます。このエリアにお住まいの会員コメントをみると、ご自身の体験やライフイベントなど、様々なことがきっかけとなり、防災グッズの備蓄・保管をするようになったという声がありました。

■北海道エリア
「昨年発生した北海道胆振東部地震後のブラックアウトを経験してから、更に防災意識が高まり、ラジオ、懐中電灯、現金などを用意するようになった(30代)」
「昨年の大規模停電をきかっけに、大容量バッテリーを購入(30代)」

 

■関東エリア
「東日本大震災のタイミングで防災グッズを購入。それ以降9月1日の防災の日に準備したものを点検している(60代東京在住)」
「子どもが生まれて一戸建てに引っ越しをしたときに、家具を揃えるついでに防災グッズを購入した(30代神奈川在住)」

 

■中部・北陸エリア
「昨年の台風や、地震災害をきかっけに、避難するときの持ち出し袋を用意した(20代愛知県在住)」
「昨年の台風で浜松市は3日間に及ぶ大規模停電を体験したが、カセットコンロ・ろうそく、ラジオなど、日頃から備蓄していたものを使いほとんどまかなえた。備蓄の大切さを知った(60代静岡県在住)」

 

■近畿エリア
「阪神淡路大震災を経験しているので、当たり前のように日頃から備蓄をしている(40代兵庫県在住)」
「昨年の台風21号での停電後に、断水の不便さ体験したため、水は常に備蓄するようになった(50代大阪府在住)」

防災グッズの見直しは41.6%が「年に1回以上行っている」

次に、備蓄・保管しているアイテムや防災グッズの見直しのタイミングについて、調査をします。

備蓄している防災グッズについては、「1.懐中電灯」が88.6%でもっとも多く、「2.非常用飲料水」が67,9%、「3.非常用持ち出し袋・防災セット」が55.9%と続き、他にも「6.非常食」の51.8%や、「7.携帯ラジオ」の49.4%など、非常時に使用するアイテムがランクインする中、「4.缶詰・瓶詰」53.6%や、「5.レトルト食品やインスタント食品」52.6%、「8ゴミ袋・ビニール袋」43.6%などの、普段使いの食品や日用雑貨などもランクインしています。

コメントからは、「缶詰、レトルト食品、日持ちしそうなお菓子、飲み物などを多めに日頃からストックしている(60代女性)」や、「パンの缶詰、加熱なしで食べられる食品、水だけで食べられる米飯類などを他の防災品と一緒に各自の防災リュックに入れて玄関の戸袋に入れて保管(40代男性)」など、日頃から防災を意識する姿が伺えます。

また、防災グッズの見直しを「年に1回以上行っている」が41.6%、「数年に1回程度行っている」が43.4%となり、約8割以上の方がある程度の期間で防災グッズの見直しを行っていることがわかりました。

見直しのタイミングについては、「防災の日などに、スーパーで防災用品を売り出したとき(60代男性)」や、「年末の大掃除のとき(40代女性)」、「東日本大震災(3.11)の日に、アマゾンや楽天市場でヘルメットや保存食を購入(50代男性)」など、様々な意見がありました。

今回の調査から、防災グッズについては、非常用のものを購入する方だけではなく、食料や飲料水、日用雑貨等、普段使いのものを災害用に備蓄・保管する傾向もみられました。

また、防災グッズの見直しのタイミングからは、過去の災害の記憶や経験、防災週間に合わせた店頭での展開などが、日頃からの防災への備えを見直すきっかけになっていることがわかります。

調査概要
※図表1~6:ソフトブレーン・フィールド株式会社「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」
20代~60代のアンケートモニター4,259名を対象にした、防災の備えに関するアンケート結果より。(WEB調査、調査期間:2019年1月11日~1月15日)

改革をするのは人間である。人間をつくるのが人事である。

日本最大級の流通グループ「イオン」の創業名誉会長岡田卓也氏の実姉である「小嶋千鶴子」の半生をたどりながら、流通界にあって「人事・組織づくりの神様」と呼ばれたレジェンドの思想と実践を詳らかにする。同書の底本は、小嶋千鶴子自らが筆をとったイオングループの社員にのみ配布される「あしあと」である。そのエッセンスを抜き出した本書は、人事・組織担当者のみならず、店舗をよすがとするすべての流通人にとって「はたらく意味」をあらためて気付かせる拠り所となるであろう。(流通ジャーナリスト:流川通)

どんな時代でも揺るがない組織・人事政策を確立した小嶋

イオングループは、1969年四日市の「オカダヤ」、姫路の「フタギ」、大阪の「シロ」という3つの繁盛店が合併して生まれた「ジャスコ」がその中核となり、大なり小なりの様々な事業体を吸収しながら今日まで発展を続けてきた。その中には、ヤオハン、ニチイ、ダイエーといったかつてジャスコとともに戦後の高度成長期の中を疾走し斃(たお)れた大チェーンも含まれている。

その変遷の姿を評して「発展ではなく膨張だ」と揶揄する業界通もいる。しかし今日まであれだけ膨大かつ個性的な組織体を抱え込みながら、瓦解することなくひとつのグループ経営を推進していくことを可能にしているのは、まさにいつどのような時代にあっても揺るがないイオンの組織・人事政策を貫くポリシーの確立があってこそと言われている。

その骨格をつくりあげ、磨き続けたのが、小嶋千鶴子である。

1916年(大正5年)、岡田家の次女として生まれた千鶴子は、若いときに相次いで両親と姉を失い、9歳年下の弟卓也を早稲田大学在学中に学生社長に据え、オカダヤを切り盛りする。卓也を立派な後継に育て上げることはもちろんのこと、自身は戦中・戦後という激動の時代のなかで翻弄されることなく荒波を乗り越えるためには何が必要なのか。1店舗の時代から、それは人づくり、組織作りであると見定めて、ひたすらにその本質を追求し続けたのである。

先読みとプリンシプルの人

小嶋千鶴子は「先読み」と「プリンシプル」の人と言われている。

先読みは、商人の優れた資質のひとつである。

太平洋戦争中、様々な情報を集めて分析し、負け戦を見越して現金を銀行に預けないようにしていた千鶴子。戦後、店も商品も焼かれなにも売るものがなかったとき、お客の家に焼けずに残っていた岡田屋の商品券をその現金と引き換えた。千鶴子は文字通り「信用」を売ったのである。お客はさすがは岡田屋とその名を高らしめたという。

また千鶴子は戦後のインフレと新円切り替えを予見し、ありったけの現金を商品に変えておき、新円を獲得する。統制経済下、人々は配給に対して商品を引き換える店を指定し、切符を買わねばならなかった。しかし先の「信用」のおかげもあり、オカダヤは地域一番の引き換え指定を受けたという。

先読みの根底には、人に対する厳しくも優しいまなざしがあった。この2つがなければ事業というものは大成しない。

プリンシプルとは、「原理原則」と訳されることが多いが、プリンシプルという英語の持つニュアンスは、例外や条件付が多い日本的な原理原則とは少し異なる。

プリンシプルとは、どんなことがあっても守らねばならない、自身の行動規範という意味に近い。

あるとき、オカダヤにあすの遠足のための遠くの町からお弁当箱を買いに親子がやってきた。ほしかった商品を見つけたが、わずかにお金が足らなかった。「お金が足りないので、家から持ってこようと思いますが、遠いので持ってくることができません。すこし安くなりませんか?」という親子に、千鶴子は「値段は商人が実印を押す気持ちでつけたものなので変えられない」と答えたという。残念そうに諦めて帰る親子の後を追いかけて千鶴子は、「値段はまけられないが、足りない分はお貸しします。お返しはいつでもよいです」といって親子にそのお弁当箱を買って帰ってもらった。

自身の行動規範を変えず、お客の気持ちによりそうという千鶴子のプリンシプルがよく示されているエピソードである。

人事・組織のトップとして常に現場に入り込み問題点を浮き彫りにしていく姿は、オカダヤからジャスコに変わっても、従業員たちをときに畏怖させた。しかしそれは同時に絶対的な信頼の現われでもあったろう。

そのときに大切にしていたのは、自分が問題点を発見するのではなく、当事者たちの観察眼と意識に問い続けることであった。問題が生じたとき、この問題はこの従業員固有のものなのか、この店、部門だけのことなのか、全社的なものか、上司は把握しているのか。本質に迫り、問題の根本要因を突き止める。根本要因を特定して除去しない限り、また同じ問題が起こるからだ。

お客様から商品について聞かれたのに答えられなかった従業員は、単に個人の勉強不足と結決めつけず、年次にどのような研修制度が行われているのか逐一チェックし、教育研修担当者に解決策を提案させた。その解決策には、新しいアイデアがなければ突き返したという。

一方で、個人の勉強も督励した。自己とは己だけにあらず、他者との関係性においてはじめて「自己」は成り立つ。その自己が自ら勉強すれば、周囲にもどんどんよい影響が生まれる。

いつも明るい笑顔の社員が、最近曇りがちになっていたら、直近の個別シートと自己申告書に目を通す。この従業員が親の看病に従事していることを知ると、異動手配や、よい病院、先生を自ら探して、提言する。

この姿は、ウォルマート創業者のサムウォルトンに通じるものがある。彼もまた組織が巨大化してもルーティンとして店舗を訪問し続け、現場の声や問題点に耳を傾けてスピーディに解決策をはかっていくことを自らと幹部に課していた。

「企業内大学」と「人事政策覚書」

業界に先駆けて大卒者を採用し、1964年には、小売業界初ともいえる企業内大学OMC(オカダヤ・マネジメント・カレッジ)を設立したのも小嶋千鶴子である。

5年後、合併を機にジャスコ大学となる。学長に経営学の川崎進一を迎え、マネジメント、計数管理、マーチャンダイジングといった実務講座に当代一流の講師陣を揃え、哲学や文学といった教養講座も整備。実学とリベラルアーツの双方を修め社会に貢献する人間をつくることを目的とした米欧一流大学に通じる体制を一企業内に構築した。

合併による企業規模の拡大には、一握りのスターによる経営では限界であり、常に組織内に新しい人材の発見、育成の装置が必要であること。そして国内外、他分野へと社員たちの活躍舞台が広がる中で、従来の経験値では対処できない事態に対しても臆することなくチャレンジする人材を育成し、同時に他業界の数多専門職能、異才を取り込み生かしていくことが、これからの人事・組織作りに不可欠だと考えたからである。

1977年、小嶋千鶴子は、60歳でジャスコの役員を退任する。「老人が跋扈」しないよう自ら定めた定年制を守ったものであった。退任後は、常勤監査役として人事・組織づくりの裏方に徹する。

本書には、小嶋千鶴子が1980年に人事担当者向けに記した「人事政策覚書」が一部抜粋されている。 彼女の人事・組織政策観の根底にあるものは、次の一文(部分抜粋)でよく示されているだろう。

「経営の安定を維持することが人事戦略なのである。維持の要諦は発展にある。発展はすなわち改革にある。改革をするのは人間である。人間をつくるのが人事である」。

どんな経営環境にあっても倒れない組織を構成する人間をどうつくるのか。その内容は、40年を経てなお、新しい。

*文中人名の敬称は略させていただきました。

(東海友和著 プレジデント社)

QR決済ブランドが乱立する状況は長くは続かない

クレジットカード、QRコード決済、交通系電子マネー…リアル店舗にはさまざまな決済方法が乱立していて混沌としつつある昨今、世界の決済状況はどのようになっているのだろうか? モバイルオーダーアプリ「O:der」などを小売・サービス業に提供しているShowcase Gigの代表で、世界の決済動向に詳しい新田剛史氏にお話を伺う。(まとめ:MD NEXT編集長 鹿野恵子)(月刊マーチャンダイジング 2019年2月号より転載)

現金利用率対GDP比1.4%のスウェーデン

2018年12月、ソフトバンクとヤフーの共同出資会社であり、QRコード決済(モバイル決済)を提供する「PayPay」が実施した100億円キャッシュバックキャンペーンは、消費者が同社の決済機能を使って加盟店で買物をした場合、20%をポイント還元したため、世間から大きな注目を集めた。

次いでLINEの提供するQRコード決済の「LINE Pay」も同様のキャッシュバックキャンペーンを実施。国内においてはさまざまなQRコード決済が登場し、ブランドが乱立している状況だ。しかし、海外を広く見渡してみると、このようにQRコード決済のブランドが乱立している国というのはあまり多くはない。

キャッシュレス先進国として新田さんが挙げるのはスウェーデンだ。

「スウェーデンの現金利用率は対GDP比で1.4%(2016年)。あらゆるものの支払いをクレジットカードなどキャッシュレス決済で済ませることができます」。実際に新田氏がスウェーデンを視察に訪れた際も、現金を用意せずに済んだという。

大手のチェーンストアにおいては、クレジットカードやデビットカードでの決済が中心となっているが、これほどまでに現金が少ない背景には「Swish」という個人間送金のためのスマートフォンアプリの普及も一役買っている。

Swishは2012年、大手6銀行が共同で運営する個人間送金用のアプリとして登場。その後、企業への送金や電子商取引への支払いなどでも使えるよう、サービスを拡充している。

Swishを使えば、振込先の銀行名や口座番号などがわからなくても、携帯電話番号情報だけで、即時に銀行口座へ送金することができる。この仕組みの裏側では、日本のマイナンバーにあたる「パーソナルナンバー」という個人識別番号が利用されている。すでにスウェーデンでは、Swish支払いのみを受け入れる「現金お断り」の店舗も一般的な存在になっているという。

市民生活の届け出がアプリで済む中国

キャッシュレスについては中国も積極的だが、こちらはICではなくてAlipayやWeChatPayなどのQRコード決済が一般的。AlipayやWeChatPayが登場する以前から、中国ではQRコード文化が普及していて、請求書代わりにあらゆる場所に貼られていたためQRコードを見ればとりあえずアクセスしてみるという背景があった。また、クレジットカードリーダーは高額で個人店には導入しにくいことも、QRコードが普及した理由のひとつだ。

Alipay、WeChatPayはQRコード決済も非常に便利だが、それぞれのプラットフォーム上で動くさまざまなミニアプリがあるのも特徴である。たとえばもともとWeChatはメッセージアプリで、友達とのやりとりなどに使われるのはもちろんのこと、電車や飛行機などのチケット購入をはじめ、公共料金の支払い、税金関連手続き、病院の予約など、さまざまな手続きをひとつのアプリ上で済ませることができる。

中国のモバイル決済アプリは、もはや社会インフラといっても過言ではなく、アプリの滞留時間も日本人がLINEを使うのと比べものにならないぐらいに長い。この「依存」といってもいいほどの利便性の高さが、QRコード決済の利用者を爆発的に増加させている。

さらにAlipay、WeChatPayの出資を受けた複数のスタートアップがサービスを浸透させるために数百~数千億円といった金額を投資してキャッシュバックキャンペーンを行い、ユーザー数を増やしている。日本で行われているQRコード事業者のキャッシュバックキャンペーンは、中国の投資金額と比較すると何分の一にすぎない。

つまり、これらのQRコード決済は、日本とは使われ方も投資金額もユーザー規模もまったく違うのである。

大量のIDを保有する事業者がけん引役になる

翻って日本はどうか。日本と状況が似ている国として新田氏はドイツを挙げる。ドイツは現金信仰が強い、いわば現金大国。クレジットカードすら使えないような飲食店が少なくないという。

現地で聞いた話として、日本とドイツの共通点として、第二次世界大戦で敗北したという歴史が影響しているのか、個人情報を国に預けたり、第三者に預けることに過度に抵抗を示すということが挙げられるという。国家規模でキャッシュレス決済を普及させるためには、信頼性の高い「一意のID」をどれだけ集めるかが重要になってくるのだが、確かに日本では国民がマイナンバーに対してもいまだに拒否反応を示していて、これをIDとして活用するのは難しいように見える。

一方、スウェーデンは国を挙げてパーソナルナンバーを活用している。Swishの成功は、パーソナルナンバー、電話番号、銀行口座を紐付けたことによるところが大きい。

ある種、情報が透明化されており、究極のプライバシーレス社会が出来上がっている。これは国家への信頼性の高さがなせる業だろう。

変化が激しく複雑化している現代社会において、インフラの整備は統一意思で一気に進めた方がスムーズで、民主化されている国であればあるほど難易度が高まる。キャッシュレスが普及するかどうかも国が主導できるかどうかがポイントだ。

「決済は、国民全員がほぼそれを使っているというような、『インフラ化』していないと意味がありません。個人間の送金が可能になったり、どの店に行っても使うことができるという状態でなければならなくて、水や空気のようなものです。本来であれば国家主導で行うべきような事業ですが、もし民間がやるのであれば、大量のIDを持っている事業者がけん引することになるのではないでしょうか」と新田氏は分析する。

QRコード決済の多くは近い将来消滅する

では小売業は決済手段が乱立する現在の状況に対し、どのように向き合うべきなのか。

「新しい技術は次々と登場します。まずは自社のIT基盤をきちんと整備し、常にAPI対応(※)ができるように整えることです。お客さまのIDをどのシステムにもはめ込めるようにつくっておくべきでしょう

現在、さまざまなQRコード決済の事業者が、小売業や飲食業に資金的な援助を行い、その事業者が提供する決済手段に対応するアプリやシステム構築の支援をしている。この、各事業者が競争している環境を活用して、赤字にならない範囲でいろいろな決済手段に対応してみるのもひとつの戦略だろう。

小売業の方が取り組むのであれば、将来にわたって決済事業を継続できる体力を持っていて、固有のユーザIDをたくさん持っているような、『筋のよい』企業と組むのがおすすめです。利益が出るのであれば、それ以外を試してみる価値もあるかもしれませんが、長続きするかどうかは疑問です」

現在の決済手法乱立状態は近いうちに収束に向かい、消滅・吸収されるQRコード決済も少なくないだろう。あらかじめそのことも念頭に入れて、決済戦略を決めるべきだ。お客さまの利便性を鑑みあらゆる決済手法を取り入れるのか、それとも厳選した決済手段だけを提供するのか。トップによる適切な経営判断が求められる。

※API…Application Programming Interfaceの略称。基本ソフト(OS)やアプリケーションソフト、インターネットのサービスなどが、自らの機能の一部を、ほかのソフトやサービスから簡単に利用できるように、機能の呼ひ゛出しやデータの受け渡しなどの手順を定めたルールのこと。

〈取材協力〉

Showcase Gig
代表取締役社長
新田 剛史氏

「浮動客」による一時的な売上増よりも「固定客」と長期の信頼関係をつくろう

過激な販促で、「バーゲンハンター」を一時的に集客し、売上を増やす時代は終わりました。これからの小売・流通業は、リアル店舗、オンラインともに、長期的に信頼関係を構築する「固定客」を増やす戦いに突入しています。

プライム会員向けの価格を思い切り安くすることで、「固定客」を増やそうとしているアマゾン(写真はアマゾンが買収したホールフーズの店内POP)。

プライム会員(固定客)を増やすことがアマゾンの最優先の戦略

これからは、一過性の新規客の集客合戦ではなくて、長期的に利用してくれる「固定客」(ロイヤルカスタマー)をいかに獲得するかが、すべての企業の最重点経営課題になります。

たとえば、「アマゾン」の経営戦略の中核は、「プライム会員」という固定客を増やすことです。2018年4月中旬に行われたアマゾンの年次株主総会で公開された「ベゾスCEOから株主宛に記された手紙」の中で、アマゾンプライムの加入者数が世界で1億人を突破したことが発表されました。

アマゾンは、オンライン販売はもちろんのこと、アマゾンが展開するリアル店舗「アマゾンブックス」「アマゾン4スター」「ホールフーズ」でも、「一般客」に比べて、「アマゾンプライム会員」の価格を思いっきり安くしており、プライム会員にならなければこれだけ損をすると手を変え品を変え主張しています。アマゾンの戦略のすべての動線は、プライム会員の獲得につながっているわけです。

世界でもっとも安いといわれている日本のプライム会員の年会費3,900円と比べると、アメリカのプライム年会費は119ドルと、日本の2倍以上もします(2018年に従来の99ドルからさらに値上げしています)。年会費は高くても、「Prime Now」(最短1時間の配送サービス)、「Prime Music」(音楽聞き放題のサービス)、「Prime Video」(映像ストリーミングサービス)などのプライム会員特典を考えると、119ドルの年会費を支払ってもお釣りが来ると考えるアメリカの消費者が多く、プライム会員は増え続けています。

アマゾンプライム会員は、「固定客」というよりも「信者」に近いロイヤリティをアマゾンに抱いている熱烈なファンで構成されています。「儲ける」という漢字を分解すると、「信者」になります。アマゾンは、オンライン販売という最先端の企業でありながら、「信者を増やして儲ける」という、昔からの商いの原理原則を極めようとしているように感じます。

ID-POSを活用して固定客の実態を可視化しよう

固定客の購買状況を可視化するデータが「ID-POS」です。ID-POSとは、買物客のID(個人識別番号)付きのPOS(販売時点)データのことです。ポイントカードの普及によって、カードを利用する際に収集できる個人の購買履歴データです。「どんな商品がいつ何個売れた」かがわかるPOSデータに加えて、「誰が買った」かがわかることがID-POSデータの最大の特徴です。ID-POSデータを分析すると、その店を頻繁に利用してくれる固定客の、店に対する売上貢献度が非常に高いことがわかってきました。

小売業のID-POSデータの分析を強化している「ユニ・チャーム」の調査(下の図参照)では、1年間に10回以上来店する固定客の人数構成比は41%と半数弱ですが、店の総売上に占める割合は約90%を占めています。頻繁に来店してくれる固定客の購入額が非常に高いことがわかります。

一時的な安売りで来店するバーゲンハンターではなくて、長期的に来店してくれる固定客、もっといえば「その店の熱烈なファン」を増やすことが、これからの小売業にとっての最大の売上対策であることがわかります。しかも、年40回以上も来店する、すなわち毎週のように来店するコアな固定客(来店客数の14%)で、売上の48%も占めているのは驚きです。

リアルであれ、オンラインであれ、これからの企業は、不特定多数の浮動客で商売するのではなくて、「特定多数の固定客」と長期的な信頼関係に基づいた商売をすることが重要です。

最後に蛇足ですが、毎週のように来店するコアな固定客の中には、長期的に窃盗を繰り返す万引き常習犯が潜んでいることがあることも、悲しい現実です。「お客様は神様です」と盲信しない冷静さも必要ですね。

中間流通コストを下げ、大衆の豊かな暮らしに貢献する

卸売業大手のPALTAC。2018年8月に同社が新潟県見附市に開設したRDC新潟は、卸売業の枠を超えて自社で研究開発した次世代型物流システムを導入。78億円を投資し、年間出荷能力250億円を計画する。この倉庫の設計を担当した研究開発本部の三木田雅和氏に、そのコンセプトと卸売業が担う役割の変化についてお話を伺った。(聞き手:MD NEXT編集長 鹿野 恵子)(月刊マーチャンダイジング 2019年2月号より転載)

180度発想を転換した新物流方式

──新RDC新潟は御社の既存RDCとは大きくコンセプトを変更していると伺いました。

三木田 はい。2016年4月に立ち上がった研究開発本部が研究・開発を進めてきたSPAID(SuperProductivity Advanced InnovativeDistribution)という方式を導入しています。

従来のバラ商品の出荷作業は、作業者がピッキングカートを押して倉庫エリアを歩き回り、商品をピックするという方法でした。当社ではこの方式を20年かけて進化させてきたという自負があります。

しかし、より生産性を高めるためにはどうすればよいかと、改めて庫内作業を分析したところ、「ピッキング」作業は全体の50%にすぎず、残る50%を「歩行」が占めていたのです。そこで歩行をなくし、ピッキング動作を100%にするために、人がモノを取りに行くのではなく、モノが人の方に届くようにして歩行をなくそうというコンセプトを取り入れたのがこの新RDC新潟なのです(図表1)。

──稼働後の状況はいかがでしょうか。

三木田 日に日に生産性は上がっていて、稼働から3ヵ月の現状、従来の1.5倍の生産性を達成しています。最終的には従来型のカートピッキングと比較すると2倍の生産性になる計画です。

──従来とはまったく逆の発想ですね。

三木田 提案当初は社内でも大きな議論がありましたが、最終的には会長(三木田國夫氏)と山岸十郎氏(メディパルホールディングス特別顧問)の後押しで、新方式に挑戦してみることになりました。

[図表1] 次世代バラピッキング MUPPSの仕組み

倉庫無人化によって倉庫の配置が自由になる

──その発想は何かに着想を得たものなのでしょうか。

三木田 とくにほかから着想を得たわけではありません。この方式を取り入れたのにはもうひとつ大きな背景があります。当社は将来的に倉庫の完全無人化を目指していて、現在人間が作業をしているところを、最終的にはロボットに置き換えたいと考えています。

ロボット化するにあたり、人間が倉庫を歩き回って商品をピッキングする方式だと、自律移動型ロボットとピッキングロボットの両方を開発しなければなりません。ですが、人が動かず、モノの方が動く方式だと、ピッキングロボットの開発だけに専念することができます。

──それまで人間がやっていた庫内作業をすべてロボットに置き換えるのですね。完全無人倉庫はあと何年ぐらいで実現できるとおもいますか。

三木田 完全に置き換えるまでにはかなり時間がかかるとおもいます。初めは人間とロボットが混在するのではないでしょうか。人間とロボットの比率が9対1からスタートして、次のセンターでは人間とロボットの比率が8対2になり……と、どんどん比率を増やして、最終的にゼロになるというイメージを持っています。

ロボットの方が多くて、人の方が少ないという未来は、それほど遠くない将来には実現可能だとおもっています。

──雇用についてはどのようにお考えでしょうか。

三木田 雇用云々の前に、少子高齢化で倉庫作業に対応できる人が集まらないという状況で、そこをロボット化することで補完したいと考えています。

──そもそも物流センターは人を採用して運営するのが難しい状況です。人を集めるために倉庫をつくる立地も限定されてしまっています。

三木田 そうですね。人を雇用することができる場所に倉庫をつくならければならないという制約は大きいと考えています。ロボット化することで、人の雇用をそこまで考えなくてもよくなれば、物流センター設置の自由度は増します。

──物流を最適化する場所へ倉庫をつくることができるというわけですね。

メーカーから納品されたケースの商品を保管トレー(緑色)に詰め替える。保管トレーは、「トレー自動倉庫」に格納される。当然、人は歩かずにすべての作業が完了する
自動倉庫に格納された保管トレーが高速で移動する世界初のマルチタスククレーンシステム。1時間に1万以上のトレー仕分け能力を持つ
保管トレー(緑色)からピックトレー(青色)に詰め替えた後に、手元に搬送されたピックトレーの商品を店別のオリコンに詰める作業でピースピッキングは完了。人は動かない、商品だけが動く

ピースピッキングロボットの開発に挑戦

──2019年11月には埼玉県の杉戸に新しいRDCがオープンする予定です。

三木田 はい。RDC東京の老朽化に対応するため、その代替として埼玉県杉戸に設立するものです。年間出荷額は1,200億円で、当社としては最大のセンターになる予定です。

新RDC新潟では、ケースピッキングロボットを開発・導入しました。ロボットにカメラとAIを搭載することで、ケースの形状やサイズを認識し、認識した情報を基にケースをピックし、任意の位置から任意の位置への搬送を可能にしました。600ケース/時のピッキングを実現しています。これは世界最速のスピードです(2018年7月時点、PALTAC調べ)。

まだ実現できるかわからないのですが、来秋開設する杉戸RDCでは、これまでバラ物流で人間がやっていた作業をピースピッキングロボットに代替させたいと考えています。

──ピースピッキングロボットの難しさというのはどのあたりなのでしょうか。

三木田 ケースと違って、ピースにはさまざまな形状がありますのでそこを認識する部分が難しいのと、仮に認識できたとしても、さまざまな形状、重量、強度などがありますので、ピッキングすることそのものが難しいという2点です。

また、現在使用しているロボットは、マスター情報を事前に持っていて、それを基に認識をさせているのですが、このマスター情報がなくてもピッキングできるようなものを、埼玉のセンターではチャレンジしたいとおもっています。まだできるかどうかはわかりませんが(苦笑)。

──それ以外の全体の配置やデザインなどは、新RDC新潟と杉戸RDCで違いはないのでしょうか。

三木田 そうですね。そこはあまり変わりがありません。基本は一緒で、さらに自動化を進めようとしています。杉戸では、入荷も自動化できないか挑戦しています。

AIケースピッキングロボット。パレット自動倉庫からの出庫作業を完全自動化する。600ケース/時のピッキングを実現した

いかなる部分でも鍵を握る「需要予測」

──新潟での経験を経て東京をつくられたとおもうのですが、どこか工夫されたところはありますでしょうか。

三木田 新潟でも当初の設計の意図とは違う運用になってしまった部分などを、実際に人が動いているところを見て、アップデートをしていかなければならないと考えています。

こまごまとした点はいくつもあります。本当にこまごましたところなのですが、たとえば、一言で「バラ出荷する」といっても、お客さまによってはボールで出荷してほしいというお客さまもいらっしゃいます。(※編集部注:ボールとは、ケースの中で、さらに包装されている小箱の単位。たとえば、ビール24本入りケースでも、バラで24本入っているものと、6本ずつ包装された形状のものがある。6本ずつ包装された形状のものをボールと呼ぶ)

これをボール単位で出荷するのか、それともバラで出荷するのかを、あらかじめ予測できていないといけないということに気付きました。全部ボールで保管してしまうと、あとの工程でバラにする作業が発生してしまいます。ある程度その部分まで予測をして、トレー保管するときにボールで補充するのか、バラで補充するのか指定しなければなりません。

──どのような部分でも需要予測が重要になってくるということなのですね。

三木田 弊社は、PARS(パルス)という需要予測システムを小売業さまに提供しています。過去の売上データから、弊社独自のアルゴリズムで需要を予測するというものです。こちらを導入されている小売業さまからの発注に関しては、弊社も予測ができるので対応しやすくなっています。今後はPARSの需要予測精度を上げていくつもりです。倉庫も、需要予測システムに応じて在庫予測、作業予測を立て、無駄な保管トレー化をしないようにしたいと考えています。

──今後RDCの展開はどのようにお考えでしょうか。

三木田 いまの数では対応しきれませんので、RDCそのものの数も増やしていく予定ですし、既存のセンターを新しい方式のセンターにスクラップ&ビルドで置換していきたいとも考えています。

──ほかの卸売業さんとの差別化はどのようになさっていくのでしょうか。

三木田 物流のコストと品質の面で差別化をしていきたいです。決まった時間に間違いなく届けるということを、他社とはまったく違う精度で実現し、コストも安くすれば、弊社を選んでいただけるのではないかと考えています。

新RDC新潟
ダイレクトピックステーションでは高頻度出荷ケースからのハイスピードピッキングを実現した

所得が下がっても豊さを享受できる世の中を

──御社はメーカー、卸売業、小売業、お客さまというサプライチェーンをつなぐなかで、今後どのような役割を果たしていくのでしょうか。

三木田 私はもともと自動車メーカーでロボットの技術者をしていて、3年前にPALTACに転職してきました。

入社前は、メーカーが商品をつくってから一般の消費者の手元に渡るまで、なぜこれだけコストがかかるのかが疑問でなりませんでしたが、入社してから中間流通のコストが大きなウエートを占めているということに気付きました。この中間流通のコストを抑えることで、商品が消費者の手に届く価格をもっと下げることができると考えています。

これからどんどんロボットやAIが普及し、仕事の自動化が進んでいくなかで、人間の単純作業は減っていくことでしょう。人によっては所得が減る人も出てくるはずです。そうなったときでも、その方々が豊かに暮らすことができるような世の中にしたい。

PALTACが扱っているのは、高所得者向けではなくて、生活に根付いた必需品です。その価格を下げるのは、メーカーさんの努力だけでは難しいと考えています。

卸売業がより中間流通コストを抑えることによって、AIやロボットが発達して賃金が減ったとしても豊かに暮らすことができる世の中を実現できるのではないでしょうか。

──チェーンストアも大衆の生活を豊かにすることを目的として拡大してきたという歴史的な経緯があります。そういう時代を彷彿とさせる大きな志ですね。本日はありがとうございました。

株式会社PALTAC
研究開発本部
三木田 雅和氏

気合と根性の「人海戦術×高コスト体質」を脱し「仕組み化」による高収益体質を目指そう

小売業の勝ち組といわれたDgS(ドラッグストア)の収益性が急速に悪化しています。2019年2月14日の「日経オンライン」の記事によれば、大手ドラッグストアの第3四半期は、大手5社のうち4社で営業利益が減少しました。売上トップの「ウエルシアHD」の第3四半期は、営業利益が前年同期比10%減と失速しています。営業利益減傾向を克服する課題と対策について考えてみましょう。

販管費率の上昇が営業率益減の原因

営業利益低下の最大の原因は、人件費の増加による販管費率の上昇です。今後も労働人口の減少によって人件費と採用コストが増加する傾向は続きます。

下の図表は、DgSの2017年度(一期前。図表では2018年と表記)の販管費率(売上に占める経費の割合)を低い順に並べたものです。同じDgSと名乗っていても、販管費率がもっとも低い「コスモス薬品」15.7%に対して、もっとも高い「ウエルシアHD」26.1%と、10%以上も開きがあり、同じ業態とは思えないほどの違いがあります。

17年度の第3四半期で問題となった販管費率の上昇傾向は、すでに前期決算のときに現れていました。15年度(2016年)と比較すると、上場DgS14社の販管費率の平均値は、2016年21.2%に対して2018年21.7%と、0.5%も販管費率が上昇しています。過去3年間で見ても、DgSの販管費はじわじわと上昇を続けており、17年度の第3四半期に、その問題点が一気に噴出したわけです。

ドラッグストア販管費率ランキング(低い順)

※月刊MD2018年10月号「ドラッグストア白書」より引用
※販管費率が2年前と比較して0.5も上昇(11社平均)
※14社中11社は前年比で販管費率上昇。

「高粗利益率」頼みから仕組み化による高収益体質へ

Dg.Sが急成長を遂げた理由を以下に簡単にまとめてみます。

成長理由のすべてを解説すると長くなりますので割愛しますが、DgSの販管費が上昇する最大の理由は、「人で売る高粗利益率体質」に依存しすぎて、ローコストオペレーションの「仕組み化」が後回しにされてきたことです。

もちろん、接客やカウンセリングで消費者の問題を解決し、推奨品を自信をもって販売することは、美容と健康に貢献するDgSの社会的使命です。しかし、「人海戦術×高コスト体質」のままでは、販管費の上昇→営業利益の低下は止められません。

労働人口の減少によって、DgSの人件費と採用コストは今後も増加します。また、高粗利益率を牽引してきた調剤も、薬価差益の減少傾向が進み、長期的に見ると調剤の粗利益率は低下していきます。調剤の粗利益率が低下しても、薬剤師の人件費をカバーするためには、調剤作業の仕組み化は待ったなしです。

住友商事傘下のDgS「トモズ」が、調剤ロボットの導入で、調剤業務の自動化実験を始めました。AIやロボットなどの最新テクノロジーを活用した「生産性向上」「省人化・無人化」の挑戦は、生産性向上のためには不可欠の経営課題です。

(参考:薬局チェーンのトモズ、ロボット導入で調剤自動化に挑む

また、DgSの武器である医薬品や化粧品の接客に関しても、iPadなどのタブレットを活用した「接客のオートメーション化」に挑戦することも重要です。たとえば、多くのDgSが「化粧品のカウンセリング強化」のために化粧品担当者の教育を重視していますが、化粧品担当者の「接客時間」や「接客方法」はほとんど可視化できておらず、「担当者まかせ」なのが実態です。

iPadを活用した化粧品のカウンセリングの仕組みを導入すれば、接客のログ(記録)がすべて残るので、化粧品担当者の「接客時間」や「接客内容」を可視化することができます。接客の生産性向上にもつながります。

「顔に潜むハート形の診断」で店頭誘引、コーセー ルシェリの新しい「売り方」

以下の写真は、以前、コスモス薬品のホームページに掲載されていた「タブレットを活用した医薬品の接客」のイメージ写真です。人の生産性を向上し、販管費の上昇問題を解決するためには、IT技術を活用した「作業と接客の仕組み化」が最優先の経営課題です。

接客のオートメーション化の事例(コスモス薬品のHPより)

妊活売場不在のDgSに、お客の約7割が不満【プレコンセプションケア売場を考える】

晩婚化や晩産化などにより日本の出生率は1.43人(2017年)。男女ともに早い段階から妊娠・出産の正しい知識を持ち、健康と向き合いながら人生をプランニングするプレコンセプションケアという考え方に注目が集まっている。売場での認知度向上に取り組み、ロイヤルカスタマー育成の真の入り口といえるプレコンセプションケアの提案にチャレンジしよう。

【意義】男女が将来の妊娠に備えて健康な心身をつくること

プレコンセプションケアは、短期的に妊娠・出産を目指す妊活とは異なり、将来的に子供を持ちたいと考える男女が、10代など早い段階から取り組むことのできる生活改善や心身の健康づくりを指す(図表1)。

[図表1] プレコンセプションケアのポジションマップ

国立成育医療研究センターHPより)

2015年に国立成育医療研究センターが「プレコンセプションケアセンター」を開設。女性やカップルを対象に将来の妊娠のための健康管理を提供する相談外来や各種検診を設けているほか、セミナーやイベントを通してリーフレットなどを配布し、コンセプトの普及に努めている。

妊娠・出産に関する知識は、妊婦になったり、夫婦で妊活に取り組むなど、いざ妊娠が自分ごと化しない限り触れる機会はほぼない。

その一方で、厚生労働省が推奨する葉酸の摂取時期は妊娠の1ヵ月以上前からとされていること、そもそも卵子の数は母親のお腹にいる時がピークで、出生後は新しくつくられることはなく減っていくのみであることや(図表2)、喫煙や不規則な生活が精子の劣化や男性側の不妊を招くことなど、本来、妊娠・出産を計画する前に知っておくべき情報は多い。

[図表2] 卵子数の推移

(参考資料:日本産婦人科学会データ)

年々増加している2,500g未満で生まれる低出生体重児も、母体が痩せの傾向にあると増えるとされている。

体がつくられる時期である思春期の不必要なダイエットも将来の不妊につながる等、これからの体におもわぬ影響を及ぼすこともある。認知度アップが命題顧客育成の要となるカテゴリー プレコンセプションケアは、このような妊娠・出産の正しい知識を持つことを含めて、生活者の人生設計と健康を見つめるための重要な提案となる。

近年テレビ番組「あさイチ」やいくつかの出版媒体でも取り上げられ、徐々に世間の知るところとなりつつあるが、まだまだ認知度は低い。

いまのステージでもっとも大切なことは、プレコンセプションケアを広く知り、知識を持ってもらうことである。プレコンセプションケアは、優良顧客育成の最初の入り口として知られるベビー・マタニティカテゴリーの手前に位置する、真の入口ともいえる新カテゴリーだ。生活者の健康を支え、身近に立ち寄れるドラッグストア(DgS)という業態として率先して情報を発信しよう。

【対策】①自分の体を知る

まず、大切なのは、いまの自分の体の状態を知ること。BM(I ボディマス指数)や体脂肪率が適正か、女性であれば基礎体温や生理周期、生理痛や体の冷えの有無なども把握しておきたい(図表3)。当たり前におもわれがちな生理痛だが、本来、痛みは少ないもの。子宮や卵巣に異常があることで痛みが強く出るケースもあるため、症状が重い場合は一度婦人科を受診したい。

[図表3]プレコンセプションケア・チェックシート(女性用)

(引用元:国立成育医療研究センター

男性でも健康診断などを利用し、男性不妊につながる生活習慣病のチェックをしておこう。現状の健康状態を踏まえて、栄養バランスをしっかり考えた食事を摂り、運動不足を解消するなど改善策を考えたい。

【対策】②よい血液をつくる

とくに、女性側が妊娠するために重要なことは、よい血液をつくり、温め、めぐりをよくすること。よい血液は、毎日の食事からつくられる。3食バランスよく食べることを基本に、鉄分、鉄分の吸収率を高めるビタミンCや葉酸、良質なタンパク質の摂取を心掛け、鉄分の吸収を阻害する菓子や加工食品を控えることを意識したい。鉄分の豊富な食べ物は、レバー、カキやシジミなどの貝類、牛肉などが挙げられる。

栄養補給をサポートするサプリメントの摂取も効果的だ。鉄分や亜鉛、葉酸、ビタミンなども、必要量を手軽に摂ることができる。

【対策】③血流をよくする

血流をよくするためには、ウオーキングなどの適度な運動、ストレッチ、日々の入浴習慣がポイントとなる。筋肉量を増やすことは、代謝を上げ、体温も上げることに直結するため重要だ。また、セルフお灸や温パッド、カイロなどを使う方法や、家庭用の低周波治療器やマッサージ機なども血流改善効果が期待できる。

先述したように、生理痛は子宮がある腰まわりの血流が滞ることでも生じる。冷えはそのほかにも肩や首のこり、脚のむくみ、頭痛、肌荒れなどを起こす原因ともなり得る。また、起床時に白湯を飲んだり、スープを飲んだり、朝食でエネルギーを摂ることは、体温の上がり切らない体を体内から温めることにつながる。体温が上昇することで免疫力もアップするため、生活に取り入れたい。「プレコンセプション」という幅広い提案のなかには、「温活」というテーマも包括されるだろう。

【対策】④リラックスする

自律神経のバランスを取ることも、健康維持には欠かせない。心にかかる負荷であるストレスも、血のめぐりを滞らせ、体温を低下させる。仕事などで緊張状態が続き、交感神経がオンになる時間が長くなることで体が冷えると、倦怠感や頭痛、不眠、ひどくなるとうつの原因ともなる。副交感神経をオンにする=リラックスする時間をつくること、緊張を緩めることが重要だ。

ストレス緩和には、心が落ち着くアロマを活用したり、肌触りのよいルームウエアやフットケア用品、温感タイプのアイマスク、③と重なるが入浴も有効な手段のひとつだ。入浴剤やシャワージェルなど、入浴タイムをより楽しむことができる商品は多くある。

[図表4] プレコンセプションケアのCDTの一例

〈取材協力〉

オムロンヘルスケア
広報・デジタルマーケティング部
基幹職 石崎 恵 氏

【売場提案のポイント】妊娠前ニーズの受け皿なし 定番コーナー化にチャレンジ

妊娠検査薬、排卵検査薬をはじめ、鉄分、葉酸といったサプリメントなど妊娠に関連する身近な商品の買い場としてDgSは選ばれている。一方で、妊活に取り組んでいる生活者へのアンケートによれば、DgSの妊活関連商品売場に約7割が不満を抱いているという(図表5)。妊活とプレコンセプションケアはイコールではないが、テーマとしては、妊活はプレコンセプションケアの中に含まれる。アンケート結果は大いに参考にできるだろう。

[図表5] DgS妊活商品売場に関するアンケート(PALTAC調べ)

現状は定番コーナー化されていないため商品の陳列場所がバラバラで、欲しい商品をじっくり比較検討できるような状態にはない。たとえば妊娠検査薬や排卵検査薬は、使用目的やシーンが異なるコンドームなどの避妊具、セックスウエルネス用品と並べられていることも多い。

妊娠後はベビー・マタニティ売場という受け皿があるが、妊活を含め妊娠前のニーズに対する受け皿はほぼないといっていい。プレコンセプションケアという概念をうまく活用し、妊娠前の不安や不満をすくう新しい売場を提案していこう(図表6)。

[図表6] 売場提案例(PALTAC提供)

①妊活生活の必需品
②赤ちゃんを迎えるからだづくり
③日々の妊活をサプリでサポート
④よもぎ蒸しで冷えから卒業
⑤今日から始めるポカポカ習慣

プレコンセプションケアを提案する際に心に留めておきたいのが、短期的に妊娠・出産に興味のない人でも目につくような場所に売場を設けることだ。既存のべビー・マタニティ売場の近くではなく、たとえば健康意識が高まっている健康食品売場の近くなど、多くの人の目につく場所が望ましい。これはプレコンセプション以外の新定番ヘルスケアを提案するときにもいえることだろう。店舗の中で常設の新定番エリアを設けることで差別化につなげるのもひとつのアイデアだ。

  • 健康食品売場など、妊娠・出産に興味のない人にも気付きを与えられる場所で展開
  • 売場ではリーフレットやチェックシートを使い、認知度を上げる情報発信を行う
  • 「温める」「リラックス」など、定番棚内で小テーマをシリーズ化
  • 売場誘導POPは、ベビー・マタニティ売場やメイク売場が有効

〈取材協力〉

PALTAC執行役員 RS本部長
村井 浩氏

コスモス薬品が2020年5月期から肥沃な「関東平野」で超ドミナント出店開始

コスモス薬品の横山英昭社長は、今年1月17日に行われた2019年5月期第2四半期決算説明会で、2020年5月期中に関東で同社が主力とする「郊外型店」を出店開始する計画であることを発表しました。九州の宮崎からチェーン展開を始めたコスモス薬品が、遂に関東平野でのドミナント出店を開始します。ドラッグストア(DgS)の「国盗り物語」は、いよいよ最終章に突入します。

関東1,000店構想を掲げてドミナント出店を開始

コスモス薬品の2018年12月末現在の地区別の店舗数は、九州地区541店舗、中四国269店舗、関西地区122店舗、中部地区26店舗です。九州が計画の約90%の出店を終え、中四国は同様に68%、西から着実にドミナント化を進めていることがわかります。今期の第2四半期までに合計46店を出店しており、毎年100店の大量出店を継続しています。

コスモス薬品は、郊外型の出店に先行して、今期中に東京都渋谷区の広尾エリアに1店舗、中野区中野駅の近くに1店舗の都市型(50~100坪程度)を出店する計画です。郊外型に関しては、千葉、茨城、埼玉、神奈川の立地調査を開始しており、2020年5月期中の出店を目指しています。将来的には九州地区600店、中四国400店、関西地区1,000店、関東地区1,000店(本誌推定)という計画で出店を進めているそうです。

食品のラインロビングと常識外れの超ドミナント出店

コスモス薬品の宇野正晃・会長(当時社長)に最初にお会いしたのは、約20年前のことでした。月刊MDを創刊して2年くらいのことだったと記憶しています。まだ宮崎にコスモスの本社があった頃です。宇野社長(当時)から、「ニューフォーマット研究会の会員になりたい」と連絡が来たのがキッカケです。その後、宮崎県の日南市の店舗を案内してもらったことがありました。

当時、九州には大店法の規制を逃れる規模の150坪型のDgSを展開する「イレブン」(現在はJR九州の傘下)などが九州全域に先行して店舗展開していました。それに対抗してコスモス薬品は、広い駐車場を確保した、2倍の面積の300坪型のチェーン展開を開始していました。

150坪型だと、薬局・薬店業界の仕入れ先でもなんとか売場を埋めることができましたが、300坪型だと新規取引先を開拓しなければ売場は埋まりませんでした。とくにコスモス薬品は、「食品」を積極的にラインロビングし、従来の150坪ドラッグストアよりも来店頻度も客数も多い「生活ストア」を志向し、当時見学した日南店もとても繁盛していました。見学した300坪店舗があった日南市の商圏人口は3~4万人程度だったと記憶しています。

しかし、すぐに宇野社長(当時)は同じ日南市に2号店を開店しました。結果として商圏が広がり、2店とも繁盛しました。さらに、同一商圏内に3号店を開店しました。1店あたりの商圏人口が1万人程度に商圏分割したので、さすがにもう打ち止めかと思っていたら、同一商圏内に4号店を出店して驚いたことを覚えています。コスモス薬品は20年前から「常識外れの超ドミナント出店」を実行しており、現在に至ってもその戦略はまったくぶれていません。

「ドミナント」と「EDLP」が超ローコスト体質の秘密

前述したように、コスモス薬品の飛躍のポイントの第1は「食品のラインロビング」、第2は「超ドミナント出店」です。そして、第3のポイントは、「EDLP(エブリデー・ロープライス)」戦略への果敢な挑戦でした。

今でこそEDLPを志向する小売企業は増えていますが、20年前はチラシに過激な目玉価格を掲載し、広域から集客する「ハイ&ロー」型の安売り合戦の全盛時代でした。私が「EDLPの方がコストが低いから、最終的には勝つ」とセミナーや誌面で提言しても、「日野さん何言っているの」と鼻で笑われていた時代でした。

コスモス薬品は、2004年にマザーズに上場する前に、「ポイント販促」と「短期特価販売」をやめて、全店をEDLP戦略に一挙に変更しました。当時、宇野社長は、「ポイント販促をやめることも、EDLP化することも、短期的には売上が下がる政策でした。だから上場する前に実行したのです。上場した後では、これほど大胆には変更できなかったかもしれません」という趣旨の話を聞いたことを今でも覚えています。

また、ポイント販促をやめると宣言したところ、たまったポイントを交換に来店する消費者が店舗に殺到し、銀行の取り付け騒ぎのような騒動になったそうです。そういう混乱を乗り越え、売上の減少を恐れずに、EDLPに挑戦したことが、コスモス薬品の成長を支えた重要な要素のひとつであったとおもいます。

とくに、「超ドミナント出店」と「EDLP」の2つが、コスモス薬品の常識外れのローコスト経営体質の秘密です。ランチェスターの法則によれば、超ドミナント出店によって地域シェア率を高めれば、物流費などのコストが大きく低下し、ある時期から「売上成長率」よりも「営業利益成長率」の方が高くなるといわれています。コスモス薬品は、まさにランチェスターの法則を実践したわけです。

また、ハイ&ローよりもEDLPの方が、「売れ方」や「作業」の波動が少なく一定であり、当然、「作業コスト」と「在庫コスト」が下がります。

下の図のように、コスモス薬品の粗利益率は19.8%と、一般的なDg.Sと比べると極めて低いのですが、販管費率(売上に占める経費の割合)も15.7%と低いので、差し引き4.1%の営業利益率を確保しています。「安く売っても儲かる経営体質」を確立していることがわかります。

しかも、コスモス薬品は過去の成功体験に埋没しないで、常に新しいことに挑戦しています。近年は、ディスカウントドラッグコスモスと名乗りながら、「接客強化」に果敢に挑戦しています。月刊MD2018年12月号の「Dg.S顧客満足度調査」では、コスモス薬品がダントツの1位でした。「安いけれど、接客もよい店」を実現していることがわかります。

第2四半期決算説明会でコスモス薬品の横山社長は、「今後、所得と人口の二極化が起こり、いずれも関東圏に集中するとおもいます。それに備え関東への出店を加速させます。肥沃な大地である関東への出店を本当に心待ちにしています」と新商勢圏へのおもいを語りました。「ザッザッザッ」という軍足の音が聞こえてくるような気がするのは、私だけでしょうか?

飲む人は3割近くが半年以上継続して飲み続ける「トクホ」

特定保健用食品・栄養機能食品・機能性表示食品で構成される、保健機能食品は2018年の市場は前年比5.4%増の7115億円と予想されています。特定保健用食品は、メタボ対策として生活習慣病予防を訴求する商品が市場をけん引しており、保健機能食品市場の約60%を占めていますが(2016年)、機能性表示食品への需要流出もみられ構成比は縮小していると言われる中、(富士経済)、今回は、「特定保健用食品」の清涼飲料(以下トクホ飲料)について、分析します。

56.3%の人がトクホを飲んだことが無い

まず、当社の自主調査では、20代~60代の男女に、(N=3,975名)に、直近1年間でのトクホ飲料の飲用経験を調査しました。

直近1年間でトクホ飲料を「飲んだことがある」と回答した方は、36.5%となり、店頭で様々なトクホ飲料が発売されている中、意外にも「飲んだことがない」と回答した方は、半数以上の56.3%となります。その理由については、「効果を感じられるかわからない」や「通常の清涼飲料と比較した際の値段の高さ」などが挙がりました。

次からは、トクホ飲料を飲んだことがあると回答した1,452名を対象に、飲んでいる期間や頻度について調査をします。

まず、トクホ飲料を飲んでいる頻度は、「1か月~3ヵ月」が17.1%でもっとも多い結果となりましたが、3割近くの方が、半年以上長期間にわたって飲み続けていることがわかりました。

次に、トクホ飲料を飲む頻度については、「週に1回以上飲んでいる」が24.1%で、4人に1人が週に1回以上トクホ飲料を飲んでいます。「毎日飲んでいる」方の、10.3%と合わせると3割以上の方が、日常的にトクホ飲料を飲んでいることがわかりました。

人気のトクホは「体の脂肪に効果的なお茶」

実際にどのような銘柄のトクホ飲料が選ばれていたのか、代表的なトクホ飲料の銘柄をセレクトし、直近1年間での購入経験について調査をします。

直近1年間で、購入したことがあるトクホ飲料について、1位が「サントリー 伊右衛門特茶」が43.9%で、半数近くの方の購入経験があると回答しています。「価格も手ごろでおいしく、体脂脂肪を減らすのを助けてくれるところが気に入っている(40代女性)」や「毎日飲んでも飲み飽きない味、健康管理のために飲んでいる(50代男性)」といった、手頃な価格で日常的に飲んでいると言った声が目立ちました。

また、2位以下は、「花王 ヘルシア緑茶」34.8%、「サントリー 黒烏龍茶」が19.4%、「コカ・コーラ からだすこやか茶W」が14.3%と続き、高血圧などの血圧対策に効果的な8位「サントリー 胡麻麦茶」9.4%を除き、トクホ飲料の中でも、体の脂肪に効果的だと言われる(脂肪を分解する・減少させる)お茶系飲料が多くの支持を集めたことがわかります。

手に取りやすい容器と陳列位置で人気を集めた「伊右衛門 特茶」

ここからは、2013年からサントリー「伊右衛門 特茶」を販売するサントリー食品インターナショナル株式会社ジャパン事業本部 米谷氏に、近年のトクホ市場や消費者ニーズ、販促方法の変化についてインタビューします。

Q1.ここ数年のトクホ飲料の市場変化についてはどうお考えでしょうか?

2013年、「伊右衛門 特茶」発売当時のトクホ飲料は花王さんの「ヘルシア緑茶」、当社の「黒烏龍茶」および「胡麻麦茶」などでした。購入層は、メタボや体型が気になり出した中高年の方が多く、売り場では最上段の商品棚、低めのペットボトル容器で販売されていたニッチな市場でした。その中でも、「伊右衛門 特茶」は消費者が手に取りやすい500mlPETサイズで発売し、普段飲むペットボトルのお茶と同じ商品棚に並んだことで、他のトクホ飲料も同じくスリムラインの容器が一般的となり、日頃の健康を高めたい人が日常的に飲む飲料として、多くの方に親しまれました。これが、トクホ飲料市場拡大の要因だと考えられます。

その後、2015年に機能性表示食品制度が始まり、健康への効果を表示した飲料や食品が発売された相乗効果で、トクホ市場も活性化しました。近年は短期集中型のフィットネスジムや、糖質オフなど、ダイエットに対して消費者の選択肢が増えたことにより、トクホ飲料に対して消費者の期待価値が低下してきており、上昇傾向であったトクホ市場も2018年は7年ぶりに停滞気味となっています。特茶としても消費者ニーズの変化に合わせ、コミュニケーション手法も変化せねばと考えております。

Q2.「伊右衛門 特茶」が発売されたことにより、伊右衛門ブランドの売れ行きに変化はありましたか?

「伊右衛門 特茶」発売初年度は、通常の「伊右衛門ブランド」を購入している方の試し買いもみられましたが一時的なものであり、飲む目的が異なるため、カニバリは起きていません。「特茶シリーズ」としては、2016年の「特茶 カフェインゼロ」、2017年の「特茶 ジャスミン」の発売により、バリエーションが増えたことで飲み分けをするユーザーがみられ、「伊右衛門ブランド」全体で考えると売上は拡大しています。

Q3.消費者に継続購入の後押しとなるような、キャンペーンや販促事例があればお聞かせください。

継続購入を後押しするための施策として、昨年9月に「特茶スマートアプリ×FiNC」をリリースしました。既存ダイエットアプリは女性ユーザー9割を占めると言われる中、同アプリは、特茶をきっかけに普段ダイエットアプリへの関心が薄い男性ユーザーにもダウンロードをしていただき、男女比は半々となりました。アクティブ率も想定を超える高い数値となり、特茶の飲用や、運動、規則正しい生活の習慣化をアプリによりサポートすることで、健康意識を高める好循環を作り出すことができました。

取材協力)サントリー食品インターナショナル株式会社 ジャパン事業本部
ブランド開発第一事業部 米谷氏
※図表1~5:ソフトブレーン・フィールド株式会社「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」20代~60代のアンケートモニター3,975名を対象にした、トクホに関するアンケート結果より。(WEB調査、調査期間:2018年12月7日~12月10日)