リテールメディア成功の鍵は、早期取り組みと効果検証法の確立

今、インターネット広告に次ぐ広告媒体としてリテールメディアが注目されている。インターネット広告でトップクラスの業績を誇るサイバーエージェントも、この新しいメディアに大きな可能性を感じている。市場開拓を進める同社に現状の取り組みや展望を取材した。(月刊マーチャンダイジング2024年6月号より転載)

組織、予算など新たな枠組みが必要なリテールメディア

[図表1]認知から購買へのプロセス

従来の一般的な購買プロセスは、テレビ広告などで認知を取り、認知に基づき売場で商品に気づき、関心を持ち購買意欲をそそられ、記憶に残り、購買するといういくつもの段階を踏んでいた(図表1)。

メディアも認知を取る、関心を高める、購買へとつなげるなど、細かい役割分担が決められ、「メディアミックス」することで相乗効果を挙げ、最終的に大きな実績を残すような販売戦略が設計されていた。ところが、リテールメディアの登場で、これらに新たな形が加わる。

「リテールメディアでは、認知の獲得と購買を同じ場所でできます。ECサイトに広告が出てクーポンが付いていたら、そのまま購入する。店舗サイネージで新商品を知り、その特徴を気に入ってサイネージ前に並んでいる商品をカゴに入れるなど、認知、購買を同じ場所で両方獲得できるのが、リテールメディアの大きな特長だと思います」(藤田和司氏)。

より店舗や商品に近い場所で展開される広告は、認知から購買への時間が短く、行動変容を促しやすい独特の効果がある。一方で、予算の考え方にもこれまでとは違った見方やルールが必要だと藤田氏は語る。

「これまでメーカーは商品の世界観を練ったり、広告メディアを決めて出稿したり、認知を取るためにはマーケティング部がマーケ予算を原資に主導していました。

最終的に購買へつなげるためには営業部が小売業と商談を重ね売場を確保し店頭販促を支援するなど、営業予算を使って担当していました。リテールメディアでは認知と購買が同じ場所で連続的に起こるので、①認知と購買の検証方法、②担当部署の見直し、③予算に対する新しい考え方が必要になります」

藤田氏の語るように、リテールメディアの登場により、日本の企業の中にはリテールメディア担当の部署を設けたり、組織や予算配分を見直したりする企業も現れている。

また、マス広告やインターネット広告など従来の広告と組み合わせることで新たな活用方法や効果も見えてきている。これらを踏まえ藤田氏はリテールメディアをマス広告、インターネット広告に次ぐ「第3世代の広告メディア」であると位置づけている。

「リテールメディアの現在の状況はインターネット広告が勃興し始めた時期に似ていると思います。当時はインターネット広告という予算枠もありませんでしたし、広告媒体としての認知も今ほどなく、どの予算をインターネット広告に充てるべきか定まっていませんでした。

しかし、今では効果検証と改善で運用ができることが強みとなって、インターネット広告は広告予算の上位に位置づけられています」(藤田氏)

従来の広告とリテールメディアとをいかに効果的に組み合わせて宣伝広告のポートフォリオ(全体計画)をつくるのかは今後のメーカーのプロモーションにとっても、そしてリテールメディア発展にとっても重要になる。そのためには、リテールメディアで何を狙うのか、配信した広告が目的に対してどれほど成果を挙げたのか、効果検証の手法を考えなくてはいけない。

リテールメディアの効果検証法を開発

サイバーエージェント社は自社開発の店舗デジタルサイネージ「ミライネージ」の運用にあたり、まず動画を配信する店舗を商品のPOS情報を元に選定する。販促商品が売れている店を中心に配信計画を立てるということだ。店舗選定は配信後にも見直され、効果次第では変更されることもある。

効果検証に際しては、動画配信以外の条件を極力揃え、配信している店舗、していない店舗の両者の効果を比較するA/Bテストを行っている。

さらには広告効果を「売上」と「認知」それぞれで測定する新しい取り組みにも着手している。

[図表2]リテールメディアの効果検証

図表2に店舗のデジタルサイネージ広告の効果に対する考え方をまとめた。

まず効果を「売上」と「認知」に分け、それぞれの増加分を見ている。売上効果については、サイネージに動画配信している期間内の販売個数の純増分と商品単価を掛けて売上増の金額を計算する。

次に認知効果については、デジタルサイネージに広告配信を行った期間に、その店舗に来店したお客様と、来店しなかったお客様にそれぞれアンケート調査を実施する。

そのアンケート結果における認知度の差から、サイネージによる認知獲得人数を推定する。認知獲得人数に平均認知獲得単価を掛ければ、認知獲得効果を金額化できる。

なお、平均認知獲得単価は、過去にYouTubeなどで動画配信をして得られた認知1件に掛かったコスト実績などを元に計算している。

認知度調査のアンケートに関しては外部の調査会社を使うか、自社アプリによるアンケート調査で実施する。自社アプリにより認知獲得人数を可視化することは今後リテールメディアにとって重要になるポイントのひとつである。

上記のような計算から、売上効果金額と認知効果金額を足すことでリテールメディアによる広告効果実績を計算する。

ミライネージ事業責任者の赤木伸之氏は次のように語る。

「この効果測定値もクリエイティブ(動画内容)を適宜差し替える、配信店舗を変えるなど広告運用を強化することで、広告出稿費用に対して採算が取れる状態は生み出せると考えています。

このような感覚を持てるのも効果を金額化しているからです。リテールメディアの効果検証で売上や認知率が何%アップしたと言われても、具体的な効果感が得られないので、サイバーエージェントではこうした計算で効果を金額にして算出し、費用対効果を見ています。

これが取り組み方の最終形とは思っておらず、メーカー様はじめ各所と議論を行い、継続的に修正・改善を行っている最中です」

日次、週次の細かな検証と改善が効果向上のカギ

[図表3]リテールメディアの効果を上げるための取り組み

ミライネージの運用チームが施策の効果を上げるために取り組んでいることは2つある。一つは施策検討の会議体制である。施策実施期間中には毎日朝一番に「日販会議」を開催、動画配信しているすべての店舗のPOSデータをチェックして対象商品の売れ行きをチェックする。その過程で特殊な売れ方をしている商品があれば、その要因を深掘りする。

例えば、ある商品で異常値とも思える程の高い売上が出た場合、それが全体的な傾向なのか、個人が大量購入したイレギュラーなケースなのかを小売や広告主との連絡などを通して解明していく。

こうした日次の振り返りで、細かく状況を把握し、1週間に1回「アクション会議」を行う。日々の施策は順調に効果を挙げているか、もしそうでなければ、テコ入れのアクション(追加、変更の施策)が決定、実行される。

こうした日次、週次の振り返りに基づく細かい運用は、インターネット広告の手法を踏襲しており、インターネット広告事業で効果にこだわってきたサイバーエージェントがリテールメディアを支援する上での大きな強みである。また、同社ではシーエー・アドバンスというオペレーション専門の子会社とも連携して膨大なデータを日次、週次で分析している。

「運用型広告は、インターネット広告の市場がここまで大きくなった要因のひとつだと思っています。私たちには運用型広告に関する豊富な知見と経験があるので、リテールメディア市場を拡大するためにも、これらの資産が生きてくると思います」(赤木氏)

会議体制に加えて、ミライネージの効果アップのために取り組んでいることが「アクション」である。これはアクション会議で協議された後、必要に応じて、実際にどのような行動を取るかという意味で、そのひとつが配信している動画の見直しである。

ひとつの商品でも複数の動画を配信しているので、それぞれの結果を見て効果を挙げているものは残し、そうでないものは新規に差し替える。こうした動画の見直しを「クリエイティブ精査」と呼んでいる。

もうひとつが、配信店舗をチェックする「インプレッション精査」である。店内サイネージの場合、施策の効果を挙げるためには、どの店舗の端末に動画配信するかが重要となり、インプレッションをうまく活用できているか、店舗ごとに精査することで全体的な効果を判断する。

とくに、大規模チェーンの場合、1,000店以上の店舗すべてに配信すると膨大なコストがかかるので、予算内で効果の出そうな店舗を選定することは施策成功のカギを握っており、インプレッション精査が効いてくる。

先述のとおり、配信前にもPOSに基づき店舗選定するが、配信中でもインプレッション精査によりチューニングを繰り返している。インターネット広告では、メディア機能として配信先の最適化アルゴリズムが存在するので、店舗メディアでも試行錯誤を重ねればそういった世界観を創りあげられるのではないかと赤木氏は語る。

店頭メディアの取り組みで新たな広告価値を生む

[図表4]メディアを取り巻く枠組みが変わる

リテールメディアの効果検証において、オンラインとオフライン(店舗)では異なる側面がある。オンラインのリテールメディアはデジタルで情報を集約できるので、物理的な作業も少なく、インターネット広告の運用技法が応用しやすい。

一方で、店舗メディアでは情報はデジタルで収集できても、店舗にサイネージを設置するという物理的な作業が生じる分、負荷も大きい。同社ではスタッフがサイネージの設置店舗を巡回し、動作状況を確認するという運用も行っている。

「一定のタイミングでメーカー販促物を店舗に一括配送するサービスがありますが、店舗サイネージはそれに近いのかもしれません。これまでになかった情報の届け方をする。そして、それを運用していくという新しい取り組みで、これまでになかった効果を生んでいます。デジタルツールのコンテンツは販促物と違って、設置する必要がないので作業の軽減にもなります」(藤田氏)

店舗サイネージと自社アプリ、ECサイトを連動させるという手法もある。自社アプリで配信した広告の商品を店頭サイネージで訴求すれば、購買チャンスは広がる。サイバーエージェントでは、小売業と共同で自社アプリの開発を行い、店舗サイネージと組み合わせるなどリテールメディアの枠を広げている。

また、近年ECを強化する小売業も増えており、ECと相性のよい検索連動型の広告にも可能性がある。同社ではこうした広告も用意し、全方位的にリテールメディアの可能性を追求している。

リテールメディア発展のために、これに関わる関係者が注力すべき点について聞いた。

「あくまでメディアなので、お客様にどう見て頂くかが重要です。モノを売りたいという広告の意識が前面に出ると、小売業にとっても設置場所を含めて優先順位は下がると思います。お客様にとって価値のある情報を提供するという基本スタンスの基、店舗と協働することが大切です。

メーカーの立場からは、リテールメディアの予算は、マーケティング費用、営業費用の双方だという認識が重要です。予算に対する考え方、立案、執行、担当者などこれまでと違う運用が求められます。将来的にはこういった運用体制の面で大きな差がつくのではないかと思っています。」(藤田氏)

「メーカーでマーケティングと営業がタッグを組むように、小売業では商品部とリテールメディア担当の部署との間で連携することが重要だと思います。この連携がどれだけ進むかは施策にも大きな影響を与えます。われわれをうまく使って頂き、社内研修や勉強会のような啓発活動を行っていただければ、理解が進んで成果も大きくなると思います」(赤木氏)

第3の広告メディアである「リテールメディア」が大きく発展するためには、組織や予算といった広告の基礎を成す「土台」に関するルール、慣習の見直しが不可欠である。

 

《取材協力》 サイバーエージェント

ミライネージ事業責任者
赤木 伸之氏
協業リテールメディア部門統括
藤田 和司氏

元食品卸売業の営業マンがデータ分析を学んだらサブカテ昨対109%の棚割ができた

大手食品卸売業で泥くさい営業を積み重ねてきた筆者が、データ分析を学び、食品スーパーの豆腐売場で棚割改善の実証実験を行ったところ昨対109%の売場を実現することができました。その一連の流れを包み隠さず公開します。(執筆:今村商事株式会社 林 拓人、月刊マーチャンダイジング2024年5月号より抜粋)

元卸売業営業がデータ分析の基礎を習得

筆者はもともと三菱食品の営業部門の出身で、以前は泥臭い現場でメーカーさんと小売業さんをつなぐ仕事をしてきました。使っていたのはエクセル程度で、とことんアナログな仕事です。2021年にリテール業界のDX(デジタルトランスインフォメーション)を支援する今村商事に転職。そこで筆者も自分自身でデータを取り扱えるようにと一念発起し、弊社で提供している研修プログラムを自ら受講しました。Azure Databricksというツールによる、基礎的なデータ分析方法を3日間学び、その後3ヵ月ほどかけて習得。そこで学んだことを実際に売場に適用したのが、この記事の内容です。

実証実験の概要

今回実証実験を行ったのは、スーパー細川という、大分県に2店舗、福岡県に1店舗を展開する食品スーパーです。カード会員比率が80%を超えるような、地元のお客様に愛されている地域密着型スーパーといえます。

実証実験の対象に選んだのは、豆腐売場の棚。2022年の11月から2023年2月までのID-POSデータを基に、棚割の案を筆者が作成し、2023年11月に実際の棚を変更して売上の変化を見ることにしました。データはプロのエンジニアがセットし、分析と検討は筆者が行いました。

1.客数データをチェックする

[図表1]店舗のID-POS客数

まず見てみたのが客数のデータです(図表1、以下、図表はすべて一部加工したものです)。データをざっと見て、「店舗と月によってデータがない場所があるな」と気付きました。

また、検証対象となる2022年11月から翌2月までの数字をざっと追い、そこについては抜けがないことを確認しました。

気を抜くと、POSデータが正しく集配信されておらず、「ある期間のある店舗のデータがごっそり抜け落ちている」なんてことはよくあります。

今回の記事でデータを分析する万田店には、月間7,000人前後のお客様が来店されていることがわかります。

2.商品マスタをチェックする

[図表2]和日配の単品把握

次に、分析対象となる豆腐が含まれる和日配部門の商品マスタを参照しました(図表2)。このデータを見ると、今回の対象となる棚で取り扱われる商品には「豆腐」だけでなく厚揚げや卵豆腐などの「加工豆腐」という複数のサブカテゴリーが含まれることがわかりました。

そこで今回は実際の棚に合わせた分析を行うために「豆腐」と「加工豆腐」を合体して「豆腐・加工豆腐」というサブカテゴリーを疑似的につくり、そちらを分析対象とすることにしました。

3.棚割データをチェックする

やっとこのタイミングで、現状把握をするために、棚割のデータを参照することにしました。ここでよくあるのが、「理屈のうえでは正しい」はずのデータ上の棚割と、実際の棚割に差異があるということです。

[図表3]実棚の写真と棚割図

「棚割図どおりに棚をつくりました」と現場は行動しても、想定した棚割が実現できていなかったり、よかれと思って特定の商品を定番化している、ということは往々にしてあります。今回実証実験の舞台となったスーパー細川さんでも、同様の状況が起きていました。そこで、本当の棚の状態をデータ化するため、実際に現場に足を運び写真を撮影し、つくった棚割図が図表3右です。これで、現状を正しくデータ化することができました。

有料となる以下の記事では、

リフト値による分析
併売特徴量による分析
クラスタリング
協調フィルタリングによる分析
現場の意思をくみ取りながら棚割作成

の手順を紹介しています。

続きは 月刊マーチャンダイジング note版で!!!

コアコンピタンスを掲げて差別化を図る、2024年度セブン−イレブンの商品政策

セブン−イレブンが2024年3月27日に会見を開き24年度の商品政策を明らかにした。国内2万1,300店舗、売上5兆3,000億円を左右するセブン−イレブンの商品政策は、食品市場の方向を見る上で重視すべき内容といえる。一方でコンビニが牽引してきた中食市場に、今やさまざまな業態が参入、競争が激化している。そうした危機感のもと、セブン−イレブン・ジャパン取締役常務執行役員 商品戦略本部長 商品本部長の青山誠一氏は何を語ったのか。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2024年5月号より転載)

「基本商品」の磨き込みに注力して来店頻度の向上を強く意識

商品政策に関係する経済環境の変化について、セブン−イレブンは次の4点を挙げた。第1に、少子高齢化が進行し、人々の移動距離がますます縮まっていく。第2に、消費者物価指数が2023年は前年比+3.1%と41年ぶりの高水準。第3に、実質賃金は22ヵ月連続のマイナス(1月まで)。第4に、食に関する志向の変化として経済性志向が健康志向を上回る。

ただし、各種調査から、お客の価値観は「節約志向」と、その一方では「贅沢志向」があり、継続する物価高の中で、経済性のある商品を打ち出すだけでなく、付加価値のある商品提案が必要であるとしている。

もともとコンビニは、店舗経営上、低価格志向だけでは成立しない業態であり、高価格帯から低価格帯までバランスの良い品揃えが求められる。セブン−イレブンは、それを「松竹梅」対応と呼んで実践している。

松は「期待感(価値訴求)」、竹は「基本商品の磨き込み」、梅は「経済合理性」を重視、例えばカップラーメンの松竹梅対応として、松はセブンプレミアムゴールド「すみれ札幌濃厚味噌」298円(本体価格、以下同)、竹はセブンプレミアム「蒙古タンメン中本 旨辛味噌」220円、梅はセブンプレミアム「醤油ヌードル」138円を挙げている。

「二極化するお客様の価値観の変化にあって、2023年夏は歴史的な猛暑の中でも、カップラーメンは前年を超える実績を残している」(青山氏)

こうした近年の課題に対応しながらも、セブン−イレブンは外部環境の変化に大きな転換を迫られている。

「今はインフレになり、またコロナ禍を経て、行動様式そのものが大きく変化し、食品スーパー、ドラッグストア、ネット通販といった業態が中食市場に参入し、強化している。業態を超えたニーズ争奪戦の中、今一度2024年度は基本商品をきちんと磨き込み、それをお客様に知っていただく、企業としての強み、コアコンピタンス(競合にまねできない商品)を追求していく1年にしたい」(青山氏)

特にセブン−イレブンが問題視したのが中食市場におけるコンビニの伸び悩みだ。2022年の「惣菜白書」(日本惣菜協会)によると、2014年は中食市場9.3兆円のうち、コンビニは2.80兆円(シェア率30.1%)、食品SMは2.23兆円(同23.9%)、5年後の2019年は中食市場10.3兆円のうち、コンビニ3.36兆円(同32.6%)、食品SMは2.74兆円(同26.6%)、それが、コロナ禍を経て、2022年は、中食市場10.5兆円のうち、コンビニ3.28兆円(同31.2%)、食品SMは3.08兆円(同29.3%)となった。

中食市場は過去最高の売上になるものの、コンビニはコロナ禍の間、シェアで食品SMに詰められ、さらに売上を落としている。本来はコンビニが牽引すべき中食であるが、現在その役割を担っているのは食品SMだ。

その反省に立って、あらためて自社の強みを知るために「お客様がセブン−イレブンを選ぶ理由についてのアンケート(電通マクロミルの調査)」を実施したところ、「お弁当・お惣菜・おにぎりのクオリティが高いから」が上位を占めた。

八代目儀兵衛監修の各種おにぎり。米のブレンド比率への追求が、おいしさを高めている(商品は3月末、都内で購入)

それにもかかわらず「差別化商品はまだ知られていない」とセブン−イレブンは見ている。というのは、現在発売中の「八代目儀兵衛監修」のおにぎりの認知度(マクロミル社2023年11月ネット調査)は、「詳しく知っている~聞いたことがある」までで18.3%に過ぎず、同様にカップデリの認知度は43.6%と満足できる数字ではなかった。

商品が多少高くても納得させる開発の基本姿勢を明確にする

そこで2024年度の商品政策として、顧客接点の強いカテゴリーの、おいしさ、便利さを知ってもらい、お客の来店頻度を高めていくことを強く意識、「基本商品」の磨き込みに注力していく。

「中食マーケットが大きく伸びている中で、女性の就業者、単身世帯が増えている。その半面、料理をする時間がない、あるいは調理定年と呼ばれる、家庭で料理をしない方々も増えている。時間を掛けずにおいしいものを食べたい、といった背景の中、カップデリを打ち出してきた」(青山氏)

惣菜の差別化商品となった「カップデリ」は、品質向上と品揃えの拡充を図り、2019年を100とした場合に、2023年は371と大きく伸長している。その代表的な商品が「タコとブロッコリーのバジルサラダ」。一般的な惣菜工場では、タコを茹でて商品化する。しかし、茹でると表面が固い食感になり、うま味が抜けていく。そこで、セブン−イレブンの専用工場では、タコを茹でずに蒸すことにより、タコのうま味を残し、柔らかい食感にしている。こうした製造工程の変更は、専用工場比率の高さにより実現できている。

カップデリと一緒に購入されている商品は、1位おにぎり、2位揚げ物、3位惣菜、4位弁当の順。カップデリを購入したお客の買上点数は、セブン−イレブンの平均を100とすると、カップデリ平均が172、客単価は、セブン平均を100とすると、カップデリ平均が183となる。1食完結型の「米飯弁当」よりも、惣菜を軸とする食事提案の方が、買上点数も客単価も高めることができる。ビュッフェのような提案を継続していく。

前述のように「認知度」が低かった八代目儀兵衛監修のおにぎりについては、「おいしいという評価がアンケート調査により大きく増加した。ただし、コストアップ要因があり、価格を改定した結果、“割高”という評価もあったものの、その評価が少し低下したことで、おいしさを高める重大性をあらためて感じた」(青山氏)と、多少高くても、おいしさで納得させるセブン−イレブンの基本姿勢を明確にしている。

おいしさだけでなく、おにぎり製造ライン(炊飯、供給部、成型部、包装機)の管理衛生レベルを強化、首都圏では3月5日より8時間の鮮度延長を実施、夏までに全国で消費期限を延長する。これにより廃棄ロスが低減されるため、加盟店による積極的な発注も期待できる。

韓国で大ヒットしたコスメをセブンの店頭で全国展開

健康生活をうたい、高頻度の購入を促すスムージーの専用マシン

おにぎりや惣菜といった基本商品の磨き込みだけでなく、新たな売上の創出にも取り組んでいく。既に多くの店舗に導入しているセブン−イレブンのスムージーは、冷凍果実、冷凍野菜を使用して、おいしさと健康を両立させる。また、ケールやブルーベリーなどの規格外品、従来は捨てていた部位を使用するため、フードロス低減にもつなげている。導入店を2024年7月末まで約1万8,000店舗まで拡大する。

セブン−イレブンのID-POSによると(2023年6月実績)、全会員平均来店客数が月8.2回であるのに対して、「月に1回以上スムージーを購入した会員の来店回数」は月15.5回、「月に2回以上」は月22.3回となり、スムージーを購入するお客の来店回数が明らかに高い。すなわち、スムージーがセブン−イレブンの利用を習慣化してもらえる効果があると分かった。

2024年5月より順次パッケージ変更、カロリーを表示、「1/3日分の緑黄色野菜が摂れる 44.7g/1食」「食物繊維入り 3.1g/100kcal」といった健康意識に訴求する表示に改めていく。

もう一つは韓国コスメ。「今までセブン−イレブンとして取り組めていなかったコスメについて、韓国コスメの取り扱いを始める。化粧品といえば、フランスが主流であるが、2022年度の日本の化粧品輸入金額はフランス(764億円)を抜いて、韓国が(775億円で)トップに立った。若い方々が韓国に旅行に行って、韓国コスメを購入しているが、われわれは韓国ナンバーワンブランドと組んで日本で展開する」(青山氏)

韓国の大手コスメチェーン「オリーブヤング」。今回取り扱うCLIOはオリーブヤングのナンバーワンコスメブランドである。(写真は月刊MD2024年3月号 ユン・モンラク氏の記事より)

韓国の主要H&B店舗数と市場シェアの両方で1位のチェーン「OLIVE YOUNG(オリーブヤング)」があり、韓国の化粧品は約85%がオリーブヤングで販売されている。そこで販売されているナンバーワンブランドが「CLIO」の商品だ。セブン−イレブンはCLIO社と共同で、日本未発売の「twinkle pop」の韓国コスメを「twinkle pop by CLIO」として、5月下旬よりセブン−イレブン店舗で販売する。

韓国でもCLIOは2022年11月に販売されており、発売から2ヵ月で全商品が完売。非常に高い反響を呼んだ商品だという。コスメは目的来店性も高く、客数増、客単価増の底上げに貢献できるかもしれない。

「コンビニは、人々が移動する中で利用されてきた。人の動きが変わった今、今までと同じではなく、新しい取り組みにより、来店頻度を高めていくことが重要である」(青山氏)。時代の変化に合わせた、新たな需要創造に期待したい。

データドリブン経営に軌道をとるために押さえておきたい4つのポイント

月刊MD2024年5月号ではデータドリブン経営を特集。特集の提言として、DgS、ディスカウントストアのコンサルティングで名をはせる筆者が語る、「データドリブン経営」の重要性と押さえたいポイントを紹介。小売業はKKD(勘・経験・度胸)からどう脱却を図るべきなのでしょうか。(佐々木桂一/談・文責/編集部)(月刊マーチャンダイジング2024年5月号より転載)

その「売れている」のは本当か?

小売業にとって最終的に重要なのは「数字」だと言う人は多いが、そう言う人に限って目に入る単純な数字しか見ていない、ということは少なくありません。大半の小売業社が、定量的に数字を分析するというプロセスを経ておらず、いまだKKD(勘・経験・度胸)に頼った経営を続けているのです。

「売れている」とはどういうことでしょうか。1個売れたら、それは「売れている」ということになるのでしょうか。あるいはそれが100個であれば「売れている」ことになるのでしょうか。トップマネジメントから現場の従業員まで、会話のなかにその基準がなく、そのことがこの業界がいつまでも低収益構造に甘んじているもっとも根本の原因だと、私は考えます。

放っておくと、小売業は経験と勘で動いてしまいかねません。そうではなく、逆の順番に、まずは数字をベースに考え、最後に人間の感情や経験、感覚を出すべきなのです。

(1)デジタルに適応できる合理的な人材を仕分ける

現在の小売業は、外部から採用したIT人材がデジタルの立役者になっていて、現場で実務をしながらシステム志向の考え方ができる人材はそう多くはありません。

でも、私がコンサルをしている企業では、コードが書けない人をゼロから育てて、自動補充システムを内製化することができています。非デジタル人材を育て上げて、システムの内製化をすることは可能です。

小売業が使う業務システムは、データをデータベースに蓄積し、画面に表示させる程度の、非常に基本的なもので十分です。最近でしたら、YouTubeで学び、インターネット上にころがっているプログラムを組み合わせることで十分に基礎的なものはつくれるようになります。

私がいま指導している企業の半分には、それまでプログラムを書ける人はいませんでしたが、いまではたくさんの従業員がコードを書き、業務システムをつくれるようになっています。

もちろんはじめはみんな「自分にはできない」と言います。でも、一度簡単なコードを書かせてみて、画面に何か表示されるとうれしくなるものです。それを繰り返してつくれる範囲を増やす。そうすると、もともと論理的な思考を持っている人は才能を開花させることができます。しかし、そのような人たちは、会社のなかではあまり評価されていないことが多いのです。

コンピュータは一つひとつステップを積み上げれば動くものです。マネジメントのPDCA(Plan、Do、Check、Action)も、愚直に積み重ねなければ動きません。人の選定がまず間違っているのです。彼・彼女たちをきちんと評価することが重要です。

ところが、小売業でこれまで成果を挙げてきた人というのは、手順を踏まずに、結果オーライのケースが多く、再現性に乏しい。問題解決をプログラムを書くようにアルゴリズムで考える人とそうでない人を分けるべきです。これができないと、デジタルの内製化は難しいのではないかと思います。

仕分けをするためには、最初にいまやっている仕事のフローチャートを書かせてみましょう。JIS規格のフローチャートの書き方を学んで、自分のやっている仕事を書いてくるように言います。半分の人は、ああだこうだと言って書こうとしません。

残り半分が書くには書くのですが、JIS規格に応じて書けるのはさらにその半分でしょう。それを応用して、フローを変えてみてと言うと、書ける人は全体の1割程度でしょうか。多くの企業では大幹部になればなるほど書けなくなります。

日本の小売業がデジタルを使えない原因のひとつはそこにあると私は思います。

(2)再現性のために「基準」を重視する

KKDの商売は、再現性がありません。ですからひとつの事業を当てても、ほかの事業に横展開することができません。たまたま当たっただけで、成功の本質がわからないのです。ですが、再現性がないと、仕組みとは言えません。いままでの小売業には、そういった思考がなかったのです。

例えば在庫ひとつにしても、この商品の在庫は何個持つべきなのかという会話が徹底されていません。カットするのはなぜか。棚割についても、卸売業に提案をしてもらうと、数字とは関係なく、卸売業者が売りたい商品や、リベートがたくさん出る商品がフェースを取ってしまいます。

商品部で、どういう売れ行きを示した商品を定番として維持すべきなのか、あるいは死に筋としてカットすべきなのか、そういう基準が決まっていない企業がほとんどです。

私はまずは基準を決め、店舗の端末でJANコードをスキャンすると、偏差値が表示される、というような仕組みをつくります。その偏差値が60以上であれば売れているといっていい、40を下回っていたら売れていないと言っていい、というものです。

教育をして、数字で会話をする文化をつくってからでないと、最終的にデジタルにはたどり着かないと思います。

(3)「正しい」数字を共有する

さらに大切なのは、データが正確かどうかということです。数字が正確でなければ、すべてのデータドリブンの仕組みは崩壊します。粗利を知りたくても、在庫が間違っていれば正しい数字は出てきません。サービス残業をしていると、正しい労働生産性が算出できません。つまり、サービス残業を現場に強いている企業は、人時生産性を上げることも永遠にできない、ということなのです。

私が指導に入る企業では、サービス残業をゼロにすることから始めます。さらに有給休暇の取得率も5割を目指すことにしています。そうすることで、はじめて人の生産性の精度が上がってくるのです。

リベートも、単純な数量リベート(何個売れたら何円キックバックするなど)は、メーカーにとっても販促として意味があるかもしれませんが、数量ではないリベートが増えていくと、結局原価に跳ね返ってしまいます。

坪当り粗利高も日本は算出できない企業が多いようです。これはメーカーや卸に棚割をつくらせていて、ロケーション管理ができていないからです。店舗側で売場を勝手に変えることもしばしばです。とくにDgS業界は、売れなければ返品すればいいという考えの甘さもあります。

これは、小売業側にとっては都合がいいことかもしれませんが、メーカーにとっては不都合なことです。メーカーにとってより都合がいいフォーマットが現れたら、DgS業界のように、自分たちの損を押し付けるようなビジネスをやっていると、そっぽを向かれてしまうことでしょう。

まだスーパーマーケットがリベート中心のビジネスしかやっておらず、DgSに優位性があるということもありますが、これから2024年の物流問題をきっかけに、精度高くやらねばならなくなるので、データを活用する必要はもっと高まります。今年が変化の潮目になるように思います。

(4)データドリブンとコンピュータは別物であると理解する

私がもっとも危惧しているのは、皆DXといっていろいろな投資をしていますが、リーダーシップをとるべきトップが何をすべきかを理解していないということです。

基幹系やEDIなど、様々なデジタルの仕組みが小売業で活用されるようになりましたが、小売業の労働生産性は1980年代と比較して上がっているのでしょうか。SIerは儲かっていますが、小売業は儲かっていません。技術の使いどころを間違っているのではないかと思います。

私はデータドリブンであることと、コンピュータを活用することは、分けて考えるべきだと思います。データを取得するときに、まずはコンピュータからと考える企業は少なくありません。しかしそうではなく、皆さんが普段から使っているような、万歩計や体重計のようなものを使っても、十分データドリブン経営は可能なのです。

私がコンサルに入るときにやっているのは、従業員に万歩計を付けて歩数を確認することです。あるDgSでは、売場面積が200坪、1日8時間労働で、1万5,000歩でした。いろいろな店舗で実験をすると、同じチェーンのなかでも1万5,000歩の店もあれば、6,000歩で済んでいる店もあるというように、店ごとのばらつきがわかります。何が原因なのかと考えたところ、バックルームの配置や、レジの状態、補充頻度などが影響していると気付きました。毎日1万5,000歩歩いているのを、1万歩にするのも、間違いなくデータドリブン経営です。

コンピュータはあくまでも便利にするためのツールであり、考え方とは関係ありません。システムづくりはコンピュータと直接は関係ないのです。数字を可視化し、状態を可視化する。そして、それを継続的にできるかどうか。決してデータドリブン経営は、高度な数字の話ではないのです。

 

《筆者》

リテイリングワークス株式会社
代表取締役
佐々木 桂一氏

「正確な効果検証」=「因果推論」で、販促のムダを削減する方法とは

クーポンや割引など、何かしら施策を打った場合、掛けた費用に対して、どのような効果が得られたのか「効果検証」することが、施策のブラッシュアップには必須だ。しかし、現在行われている効果検証は多分に問題をはらむ。「施策を打たなくても実現していた差」を取り除き、より正確に効果測定できる手法を、サイバーエージェントの主席データサイエンティストで計量経済学の専門家、安井翔太氏に解説してもらった。(月刊マーチャンダイジング2024年5月号より転載)

2つのグループの適切な比較は意外に難しい

経済学、統計学の有力な手法に「因果推論」というアプローチがある。簡単に言えば、2つのグループをより正確に比較するための手法で、効果検証の有効な手段として用いられる。

[図表1]クーポンあり、なしの単純比較

例えば、特典クーポンの効果を知りたいとする。この時クーポンの効果は、それを配ったときと、配らなかったときの2つの状況を比較することでわかる。仮にクーポンを受け取った田中太郎さんは3,000円の購入があり、クーポンを受け取らなかった山田花子さんは同様に1,000円しか購入がなかったとする。この時に、それぞれの売り上げを比較し「3,000円-1,000円だからこのクーポンの効果は2,000円だった」と結論づけたとしよう(図表1)。

これはよく行われる比較の一例であり、一見正しい比較にも見える。しかし、厳密にクーポン効果を測定するなら、“理想的には”クーポンを受け取った田中太郎さんとクーポンを受け取らなかった田中太郎さんを比較することで効果を測定したい。

なぜなら、田中太郎さんと山田花子さんでは、年間購入金額(優良顧客か否か)や価格敏感性(割引を好む、価格には鈍感)、他の販促を受けたか、受けなかったか、クーポン対象商品を前回いつ購入したか、など属性が異なる可能性が限りなく高く、純粋な比較にならないからである。もし山田花子さんが3日前にクーポン対象商品を購入していたら、今回のクーポンの効果が下がるのは当然である。

[図表2]因果推論の根本問題

しかし、同じ人で同じタイミングでクーポンのあり、なしを比較することは、タイムマシンでもない限り不可能である。これを「因果推論の根本問題」と言う(図表2)。因果推論とはこのような問題において、なるべく属性の違いを取り除いた純粋な比較を可能にする技術となっている。

データを乱す不正確要素「セレクションバイアス」

単純な引き算では、比較する対象(田中太郎さんと山田花子さん)の属性が違うので、純粋な効果を測定できないことを先に見た。それなら、同じ人を同じタイミングで、クーポンのあり、なしで比較測定すればよいのだが、これはタイムマシンがなければできないことも先述のとおりだ(因果推論の根本問題)。

[図表3]理想的なデータ

これらの問題を少し補足すると、ユーザーIDごとにクーポンあり、なしで売上を見た場合、図表3「理想的なデータ」では、ユーザーIDごとにクーポンのあり、なしのデータを同じタイミングで取得できるので、その差分が効果になる。しかし、これはあくまで、架空のデータで実在しない(因果推論の根本問題)。

[図表4]実際に得られるデータ

従って、実際に得られるのは、図表4のとおりユーザーIDごとのクーポンあり、なしどちらかのデータとなる。歯抜けデータなので二者間の単純比較はできない。

[図表5]平均で計算した効果
[図表6]セレクションバイアスの問題

それなら次善策として平均を取って測定してみる(図表5)。しかし、ここでも大きな問題が生じている。それは、クーポン発行者から得た売上の中には、クーポンを発行しなくても実現していた売上の差が含まれているのである(図表6)。

例えば、図表6の例においては、クーポン取得者は優良顧客でクーポンなしでも月間2,000円の買物をしており、クーポンが無いユーザーよりもそもそもの売上が高くなっている。これにより、単純に平均を比較してしまうと、本来の効果よりも大きい効果が推定結果として得られてしまうことになる。これは理想的な同一人物間での比較ではなく、田中太郎と山田花子といった別人の比較を行ったから起きた結果と言える。

このような、施策を打たなくても実現していた効果を「セレクションバイアス」と呼び、これはビジネスで扱うほぼ全てのデータに含まれ得る要素である。小売でよく見られるのは、年間の購入金額が10万円や15万円もある優良顧客へ離反を防ぐため頻繁にクーポンを送るなどの販促を打つことだ。

ここでそのままクーポンを受け取ったユーザーと、受け取らなかったユーザーで売上の平均を比較すると、セレクションバイアスが働いて非常に効果があったように見える。ところが、セレクションバイアスを除去した手法で分析すると販促効果はほぼないことが分かることも多い。

つまり、優良顧客は販促を打たなくても、購入金額は減らないということだ。ムダな販促投資が行われているケースが非常に多い。

セレクションバイアスをいかに除去して、純粋なデータを取るかが正確な効果検証の命運を握っている。

AIを活用して、A/Bテストを擬似的に再現する

ここからは、実際にセレクションバイアスの影響を限りなく小さくした効果検証の方法を見てみよう。まず、施策の対象を「ランダムに」選ぶことができれば、セレクションバイアスが生じないようにデータをとることが可能だ。

[図表7]対象をランダムに選択することで純粋なデータ比較が可能

こうすることで、比較する2つのグループ間、例えば、クーポンを発行したグループと発行していないグループ間のユーザー属性もランダムに均等に配分され、比較の中には純粋に効果だけが残る(図表7)。

このように、施策の対象をランダムに選んで2つのグループを比較する効果検証は学術的にはRCT(ランダム化比較試験)といい、ビジネスにおいてはA/Bテストと呼ばれる。

小売業の販促担当者と、このような話をすると、施策をランダムに打つことへ抵抗を示されることが多い。その理由のひとつに、不公平性の問題がある。ランダムなクーポン発行は、もらえる人、もらえない人という差別を生むので、お客への誠実さを欠くのではないかという懸念である。

もうひとつは、ランダムに大量の対象を選び、販促などの施策を届けることは、一定のデジタル技術を要するので、その技術がないという社内事情である。

総合すると、現状小売のリソースでA/Bテストを行うことは非常に困難なので、サイバーエージェントでは、AIを活用してA/Bテストを擬似的に再現することで、より正確な効果検証を実施している。

[図表8]あるグループの11月のクーポン配信時の効果検証が目的

具体的に説明すると、ある属性を持ったユーザーグループの売上がある(図表8縦軸)。このグループに対して8月、9月、10月にはクーポンを配信せず、11月にクーポンを配信する。このときの効果検証がミッションだったとする。

理想的な効果検証は、先にクーポンを配信したときの11月のデータを検証し、次にタイムマシンで過去に戻り、クーポンを配信しなかったときの11月のデータを検証し両者を比較することだが、これは実際には実行できない(図表8)。

仮にA/Bテストを実施する場合、ランダムに選んだユーザーに対して11月にクーポンを配る事になる。そしてクーポンを配られたユーザーと配られないユーザーの2つのグループを比較することで効果検証を行う。

[図表9]AIにより疑似A/Bテストを実施

しかし、先述の通り現状では対象をランダムに選び施策を届ける事には様々な問題が存在する。そこでサイバーエージェントの用いるアプローチでは、比較したい対象グループのデータ(図表9の介入群/施策ありのグループ)と類似した傾向を持つデータを別のグループから探し、そのグループのデータ(図表9の統制群/施策なしのグループ)から介入群の売上を予測できるAIモデルを作成する。

例えば、先のクーポンの効果検証を北海道でやるとすれば、それに近い青森のデータを持ってきて、8月、9月、10月の期間において青森の売上データから北海道の売上データを精度高く算出(予測)するAIモデルを作成する。このAIモデルは、青森の売上データを入れると、北海道の売上データの予測結果を返してくれる。そして、それを学習した8月、9月、10月はクーポンが配信されてない時期なので、AIはクーポンがない場合の売上の予測をすることになる。

これにより、青森で11月にクーポンを配信しなかった実績データをAIモデルに入力することで、北海道で11月にクーポンを配信しなかったときの売上を予測することができる。

実際には、北海道では11月にクーポンを配信しているため、AIの予測と実際の売上の差分が効果ということになる。

なお、上記の北海道、青森という地名はあくまで考え方を示した例で、サイバーエージェントでは効果検証をするための統制群(施策なしグループ)のデータをAIが探し出すアルゴリズムも独自に開発している。これにより、より精度の高い効果検証を実現している。

LINEのクーポン効果をAI活用で、より正確に検証する

ここからは、先に見た効果検証手法の実例を紹介しよう。LINEの販促は盛んに行われ一定の効果を挙げている。ここではLINE公式アカウントによる効果検証の実例を紹介しよう。

[図表10]LINEによるクーポン施策

この事例では、図表10で示したように、ある小売業が、友達登録したLINEユーザーに月間に、割引クーポン1回、ポイント還元クーポン2回、計3回のクーポンを配信する。(※なお、割引率、還元率によって結果は異なるが、以降は特定の割引率、還元率での分析結果である)

[図表11]LINEユーザーとノンLINEユーザーを比較

これを月末の2回目のポイント還元クーポンの発行から月初の割引クーポン発行に切り替わるタイミングで購入金額がどの程度変化するかを測定し、割引とポイント還元ではどちらの効果が高いかを検証しようとするものだ(図表11)。

ここではA/Bテストは実施されていないため、友達登録していないNonLINE Userデータを元に算出した予測値を使って効果を検証する。そのために、LINEで友達登録して実際にクーポンを受け取っているLINE Userのグループと友達登録していないNonLINE Userとを比較する。

この事例においては、LINE Userは常に何かしらのクーポンが配信されている状態にある。よって、還元クーポンから割引クーポンへと切り替わるタイミングで分析を行うこととした。

[図表12]効果検証の結果

これにより、還元クーポンが配信され続けた場合と、実際のデータとの比較が行われる。その結果が図表12である。横軸は時系列、縦軸は購入金額(その日時点の累積の売上効果)を示している。これによれば、ポイント還元から割引に切り替わった時点で購入金額は上がっている。

そしてその後、ポイント還元のクーポンが配信されたタイミングで効果の上昇は止まっている。そしてまた割引クーポンが配信されたタイミングで効果は上がって行く。割引クーポンが配信されるタイミングで効果が増えることから、割引の方が効果的であることがわかる。

また、還元クーポンが配信されるタイミングでは効果が増加していない。これは比較している対象が還元クーポンを配信し続けた場合であることから、ある意味当然の結果と言える。そしてそれをしっかりと分析結果として得られていることから、この分析方法の再現性が高いことを示している。的確な分析ができていなければ、ここまで明確なデータは出ない。

「何もしなくても購入した人」への販促を極力減らすことができる

ドラッグストアも大規模化し、メーカーとの共同企画も含め、年間の販促費用は相当な額に達している。この中には「販促しなくても購入した人」への販促(ムダ打ち)も相当含まれている。先に述べたような効果検証を的確に利用すれば、このような販促のムダ打ちが発生している部分を発見し、効果のあった販促だけを残し、さらに成果を積み上げることができる。欧米の大手小売業では既に実際のA/Bテストを多用し、販促効果を正しく検証することで精度を上げている。

[図表13]クーポンのコストと売上効果の比較

例えば、ユーザーをヘビーユーザーとライトユーザーの二つのセグメントに分割し、それぞれで効果検証を行えば、セグメントごとに販促の効果とコストを捉えることが可能になる。図表13はサイバーエージェントが実際のクーポン施策を分析した、ライトユーザーとヘービーユーザーのクーポンコストと売上効果の比較である。

ヘビーユーザーにコストの大半を費やしているが、売上効果のほとんどはライトユーザーから得られている。サイバーエージェントが効果検証を行ったある小売店では、クーポンのコストを半分以下に減らしてもほぼ同じ効果が得られることがわかった。

ヘビーユーザーはとくに販促を打たなくても、すでに習慣化しているなどの理由から購買する傾向があるのでこのような結果がでる。ヘビーユーザーに限らず、サイバーエージェントが行った効果検証を見ると、販促のムダ打ちは実は多い。これは、セレクションバイアスを可能な限り除去して効果検証することの重要性を物語っている。

例えば、年間1億円の販促費を使っているとして、仮に50%のムダ打ちが生じているとすれば、5,000万円が浪費されていることになる。そして、不正確な効果検証のままでは、莫大な費用が「何もしなくても購入した人」へと費やされ続けるのである。

これを改めれば相当のムダ打ちを是正することが可能で、その分、潤沢な資金が残る。その資金を正確な効果検証で明らかになった効果の高い販促に再投資すればさらに大きな売上へとつながるのである。

 

《取材協力》

AI Lab
経済学領域 リーダー
安井 翔太氏

NFI定例セミナー「「レイアウト」「ISM」「PB戦略」研究」(2024/7/17 13:00~16:30)開催ご案内(リアル・リモート)

今回のテーマは、「売場レイアウト」と「ISM(インストアマーチャンダイジング)」の研究です。とくに、小商圏時代、EC時代の売場レイアウトと、ISMの原理原則を解説します。また、前回に引き続き、エイジスリテイルサポート研究所の三浦美浩・所長をゲスト講師として招き、有力企業の「PB戦略」「ブランディング」の最新情報を発表していただきます。

2024年7月定例セミナーは、「リアル」と「リモート」の併用セミナーとします。

今回のテーマは、「売場レイアウト」と「ISM(インストアマーチャンダイジング)」の研究です。とくに、小商圏時代、EC時代の売場レイアウトと、ISMの原理原則を解説します。

また、前回に引き続き、エイジスリテイルサポート研究所の三浦美浩・所長をゲスト講師として招き、有力企業の「PB戦略」「ブランディング」の最新情報を発表していただきます。

月刊MDで毎年実施している「顧客満足度調査」で、顧客満足にもっとも影響を与える項目は「他チェーンにはない特徴、工夫」です。他店との「差別化」が顧客満足度に大きな影響を与える時代です。ブランディング、PB開発が、これからのリアル小売業の最大の経営テーマですので、その事例も発表します。

また、PBの在庫コントロール力を高めるための不可欠の技術である単品ごとの「ユニット・コントロール」(数量管理)についても解説します。

※座席数が限られているため、リアルでの参加の方は先着順とさせて頂きます。

開催概要

・開催日:2024年7月17日(水) 13:00~16:30(会場受付開始:12:30)
※昼食は各自お済ませの上ご来場下さい。
※セミナー開催中の途中入場はお断りします。
※リモートでの途中退席は申込責任者に報告します。

・会場:エッサム神田ホール1号館6階(601)(※案内図をご参照ください)
・実施方法:リアルとZOOMによるリモートセミナー
(ZOOMセミナーアクセス方法はお申込み者様にのみご案内いたします)
・料金:20,000円(税別・1名様)
(※ニューフォーマット研究会会員企業様には会員価格でのご案内になります)
・申し込み締め切り:2024年7月8日(月)

スケジュール

[13時~14時50分頃]

NFI代表取締役 日野 眞克

小商圏、EC時代のレイアウト、ISMの原則

(1)ショートタイムとワンストップを両立するレイアウト、ISMの事例研究
(2)「ブランディング」「PB開発」の成功事例研究
(3)PBの在庫管理のための「ユニットコントロール」(数量管理)の原則 他

[15時10分頃~16時30分頃]

エイジスリテイルサポート研究所 三浦美浩 所長

有力企業の「PB戦略」「ブランディング」研究

(1)PB開発のトレンド(価格帯別PB戦略など)
(2)PB開発の成功事例研究
(3)PB開発による粗利ミックスの原則

※講演時間は予定よりも短くなることも長くなることもあります。

会場案内図

会場詳細

〒101-0045
東京都千代田区神田鍛冶町3-2-2
エッサム神田ホール1号館6階(601)
URL:https://www.essam.co.jp/hall/access/#access_1

【アクセス】
●JRでお越しの方
神田駅東口より徒歩1分
●東京メトロ銀座線でお越しの方
神田駅3番出口より徒歩0分

注意事項

①会場へお越しの方は開催会場をご確認の上、お間違えの無いようご注意ください。
アーカイブ動画の配信はいたしません。当日参加でのみセミナーのご受講が可能です。
(配信の不備等によりご視聴頂けなかった場合には、後日動画のご案内をいたします。)

③リモートの場合はZOOMウェビナー形式で行います。7月12日(金)までに、お申込書に記載された受講者のメールアドレス宛に受講用URLを記載したメールを送付いたします。

お申込みフォーム

・お申込みは以下のお申込みフォームからお願いいたします。お申込み受付後、お申込み確認メールをお送りします。また、ご請求先として記入いただいた方宛に、請求書を発送させていただきます。
・ご入金後は、理由の如何に関わらず返金は致しません。あらかじめご了承ください。

申し込みフォーム

NFI定例セミナー「「完全作業」と「機会損失」対策 ほか」(2024/5/15 13:00~16:30)開催ご案内(リアル・リモート)

今回のテーマは、「完全作業と機会損失対策」です。人口減少とオーバーストア時代では、完全作業・店舗での徹底力の向上、欠品による機会損失対策の2点が、売上を増やすための最大の経営課題です。この2つしか売上対策はないといっても過言ではないほど、製配販に共通の経営課題です。今回の定例セミナーでは「完全作業と機会損失削減でやるべきこと」について解説します。

2024年5月定例セミナーは、「リアル」と「リモート」の併用セミナーとします。

今回のテーマは、「完全作業と機会損失対策」です。人口減少とオーバーストア時代では、完全作業・店舗での徹底力の向上、欠品による機会損失対策の2点が、売上を増やすための最大の経営課題です。この2つしか売上対策はないといっても過言ではないほど、製配販に共通の経営課題です。今回の定例セミナーでは「完全作業と機会損失削減でやるべきこと」について解説します。

また、エイジスリテイルサポート研究所の三浦美浩・所長をゲスト講師として招き、「完全作業のための事例研究」として売り方、道具の使い方、仕組みづくりについて解説していただきます。

さらに4月のアメリカ視察によるアメリカ流通業の変化、写真解説も行います。

※座席数が限られているため、リアルでの参加の方は先着順とさせて頂きます。

開催概要

・開催日:2024年5月15日(水) 13:00~16:30(会場受付開始:12:30)
※昼食は各自お済ませの上ご来場下さい。
※セミナー開催中の途中入場はお断りします。
※リモートでの途中退席は申込責任者に報告します。

・会場:エッサム神田ホール1号館6階(601)(※案内図をご参照ください)
・実施方法:リアルとZOOMによるリモートセミナー
(ZOOMセミナーアクセス方法はお申込み者様にのみご案内いたします)
・料金:20,000円(税別・1名様)
(※ニューフォーマット研究会会員企業様には会員価格でのご案内になります)
・申し込み締め切り:2024年5月7日(火)

スケジュール

[13時~15時頃]※途中休憩をはさみます

NFI代表取締役 日野 眞克

(1)完全作業と機会損失削減でやるべきこと

(2)アメリカ流通業の最前線

(1)完全作業力を高めるために取り組むべきこと
(2)欠品による機会損失を減らすためにやるべきこと
(3)4月のアメリカ視察報告 等

[15時10分頃~16時30分頃]

エイジスリテイルサポート研究所 三浦美浩 所長

(3)完全作業のための事例研究

(1)完全作業が売上に与える大きな影響
(2)完全作業力向上のための売場づくり、マテハンの事例研究
(3)完全作業の仕組みづくり 等

※講演時間は予定よりも短くなることも長くなることもあります。

会場案内図

会場詳細

〒101-0045
東京都千代田区神田鍛冶町3-2-2
エッサム神田ホール1号館6階(601)
URL:https://www.essam.co.jp/hall/access/#access_1

【アクセス】
●JRでお越しの方
神田駅東口より徒歩1分
●東京メトロ銀座線でお越しの方
神田駅3番出口より徒歩0分

注意事項

①会場へお越しの方は開催会場をご確認の上、お間違えの無いようご注意ください。
アーカイブ動画の配信はいたしません。当日参加でのみセミナーのご受講が可能です。
(配信の不備等によりご視聴頂けなかった場合には、後日動画のご案内をいたします。)

③リモートの場合はZOOMウェビナー形式で行います。5月10日(金)までに、お申込書に記載された受講者のメールアドレス宛に受講用URLを記載したメールを送付いたします。

お申込みフォーム

・お申込みは以下のお申込みフォームからお願いいたします。お申込み受付後、お申込み確認メールをお送りします。また、ご請求先として記入いただいた方宛に、請求書を発送させていただきます。
・ご入金後は、理由の如何に関わらず返金は致しません。あらかじめご了承ください。

本セミナーのお申込み受付は終了しました。
たくさんの参加申込み、ありがとうございました。

小売業の生産性向上に貢献するオカムラの什器開発戦略

(株)オカムラが開発した什器は、ドラッグストア、スーパーマーケットなど日本国内のほとんどの業態で使われている。スライド什器による「先入れ先出し作業」の省力化、デジタルサイネージによる「商品販促活動」の省力化など、小売業の生産性向上に貢献する価値提案に取り組んでいる。スーパーマーケットトレードショーの会場で見た同社の什器を紹介する。(文:編集部)(月刊マーチャンダイジング2024年4月号より転載)

スーパーマーケット・トレードショー2024に出展した「オカムラ」※撮影許可を得ています。

扉付き冷凍・冷蔵ケースの冷凍負荷の削減

ガラス扉付きの冷凍ケースの提案。扉付きの冷凍ケースは①冷凍負荷を1台当り約30%削減、②棚奥行きを大きく使えて約30%陳列量アップ、③コールドアイル(冷気通路)の解消、④店の外の室外機(冷凍機)の動力削減にもつながる
冷蔵用ケースのナイトカバーの提案。1枚のカバーが一定のスピードで巻き上がる。「開店作業の効率化」と「商品破損の防止」につながる
飲料を陳列できる扉付き冷蔵ケース。2,100mmの高さで十分な陳列量を確保。奥行きは750mmと薄く「売場の省スペース化」と「売場レイアウトの自由度向上」につながる

店内作業の省力化

「スライド棚」は棚の下の引き出を手前に引くとスライドされる。小売業の「先入れ先出し作業」が固定棚と比較して80%短縮される。作業スタッフの体への負担削減にもつながる
値ごろ感を演出するバスケット什器の提案。回転率の高い商品の補充回数を減らすことにつながる
傾斜が付いた棚板。500mℓペットボトルの場合はゴンドラ1フェース当り、月当り約2.5時間の「前出し作業」を省力化

「フェイスライダー」「フェイスアップフック」には傾斜が付いており、商品が減っても自動で前出しされる。歯ブラシの前出し作業は月・約6時間削減される

新しい台車の提案

引き上げる動作で半分に折りたためる台車。従来の台車と比較して保管スペースの50%削減につながる
調理された惣菜などの品出しに使う、折りたたみ式の「トレイカートF」の提案。折りたたむと、保管スペースを約40%削減できる

新しい専用什器の提案

パンの専用什器。木の模様が付いたアクリル棚を採用。パンの上のライトがアクリル棚を透過してパンコーナー全体が明るくなる

惣菜陳列用什器。ゴンドラがベースの構造で陳列商品に合わせてパーツを組み合わせることができるスライド板を引き出して惣菜を陳列できる

デジタルサイネージの提案

デジタルサイネージ付きの青果陳列用什器
棚の間に位置するサイネージ(シェルフサイネージ)の提案。POPの役割を果たすだけでなくて、コンテンツはCMS(コンテンツマネジメントシステム)で管理ができ、一括配信ができる
タッチパネル型のサイネージ。下部分の値札をタッチすると、什器の上部分のサイネージに、商品の詳細が表示される
サービスの案内を、サイネージで明確化。外国人向けの英語表記などにも対応が可能

オンライン診療普及によりドラッグストア・調剤薬局にどんな変化が訪れるのか

オンライン診療、デジタル技術を使ったヘルスケアサービス「薬急便」を展開するMG-DX社代表取締役社長の堂前紀郎氏にオンラインヘルスケアの将来展望を聞いた。これまでになかったデバイスや医療機器の登場、ドラッグストア(DgS)の調剤データと物販データの統合の進行など、その展望はダイナミックで示唆に富む。(月刊マーチャンダイジング2024年4月号より転載)

好調のモバイルオーダー。新サービスもリリース

サイバーエージェント社が100%出資する株式会社MG-DXが運営する「薬急便」は、親会社の持つデジタルマーケティングの知見、AI技術などを駆使して、オンライン診療、オンライン調剤のサービスを軸に事業を展開している。

現在、「薬急便モバイルオーダー」が好調で、提携薬局数を好調に拡大している。「薬急便モバイルオーダー」とは、スマホを通じて処方せんを事前に送信すれば、呼び出し状況をスマホで確認でき、調剤完了を通知してくれるサービスで調剤待ちのストレスが解消できる。

[図表1]薬急便モバイルオーダーの流れ

決済も事前登録したクレジットカードでOK、会計の時間も省略できる。オンラインの他、店頭でQRコードを読み取ることで呼び出し状況がスマホで確認でき、調剤待ちの時間に買物を済ませるなど利便性が向上する(図表1)。

「モバイルオーダーが非常に好評で、このサービスだけでも利用したいという企業もあるほどです。背景にはこれを導入することで、患者が調剤薬局の利用にスマホを利用し、一度使うと便利なのでリピーターになる。それが調剤事業のデジタル化を一気に進めるという現象があります。

調剤DXは、オペレーションを変えたくない、ムダな投資をしたくないなど、組織問題もありとかく抵抗にあいがちです。これを打破できる手段としてモバイルオーダーに期待が集まっています」(堂前紀郎氏)

好評のモバイルオーダーに加え、今年3月に開始したのが「薬急便マイナポータル連携」である。現在、マイナポータルでは過去3年分の診療、薬剤情報などが閲覧できる。規制緩和により、本人の承認の元、これらのデータに第三者がアクセスできるようになった。

この制度を利用して薬急便では提携する薬局の管理画面を通じてマイナポータルに記録された患者の各種健康情報を提供する。

「薬急便マイナポータル連携」を活用すれば、薬剤師はより効果的な服薬指導や適切な健康アドバイスができる。また、サプリや食事の提案を通じて物販のプロモーションにもつながる。

5年後、オンライン診療は全診療の2〜3割を占める

オンライン診療、服薬指導の将来見通しについて堂前氏の見解を聞いた。

「3年後くらいから急速にオンラインへの移行が始まり、5年後で考えれば、診療の2〜3割はオンラインに移行すると思います。その理由にはいくつかのポイントがあります。まず単純に社会のデジタルへのリテラシー(理解能力)が上がること。二番目は診療報酬改定の影響です。政府は増え続ける一方の医療費を抑制するために、リフィル処方せんの発行を促進する方針です。

同じ処方せんで最大3回まで薬剤を受けられるリフィル処方せんは患者側からすれば病院にいく時間を省略できるので大変便利です。一度この利便性を経験すれば安定した健康状態なら、普通の処方せんに戻ることはないと言ってもいいでしょう。

今年6月に診療報酬の改定がありますが、これまで以上にリフィル処方せんの発行を促す加算が要件化されました。これが最初の起点になり、今後もリフィル処方せんへの誘導は段階的に進んでいくと思います。

リフィル処方せんの利用に加えて、服薬指導もオンラインで済ませ、薬剤はただ受け取るだけ、あるいは自宅への配送という習慣はますます広がっていくと思います。診療報酬改定と一度味わった便利体験がWパンチとなってオンライン診療は加速度的に広がるでしょう。

[画像1]Vision Pro(ビジョンプロ)
[画像2]装着すると空間にアイコンが浮かび上がる

もうひとつが、デバイスの進歩です。今年2月にアメリカでアップルが『ビジョンプロ』というAR(拡張現実)体験ができるゴーグル型の新製品を発売しました。これを装着すると目の前の現実世界が見え、その中にスマホ画面にあるようなアプリのアイコンが立体的に浮かび上がります(画像2)

視線や声や空間を手で触ることで操作し、アプリを立ち上げます。アップルは『空間コンピュータ』と呼んでいますが、映像も目の前にある現実空間の中に現れ、かなり鮮明でリアルです。

現在アメリカだけで発売されており価格も3,499ドル(約52万円)と高価なのですが、普及してくれば日本でももっと手頃な価格で買えるでしょう。こうしたデバイスが普及してくれば、スマホとは比べものにならないくらい、オンラインでもリアリティのある医療体験ができます。3年から5年というスパンでこうしたテクノロジー、デバイスの革新が次々に起こり、オンライン診療を加速させるでしょう」。

 

拡大するオンライン接客のニーズ

[画像4]nodoca 咽頭の画像でAIがインフルエンザの陽性判定

ビジョンプロのような体験型のデバイス革新に加えて、今、測定や検診に関する先端的な医療機器がスタートアップ系企業により開発されている。例えば、nodoca(ノドカ)という医療機器は専用のカメラで咽頭の写真を取るだけで、その画像からAIがインフルエンザの陽性か陰性かを数秒から数十秒の間に判定する(画像4)。厚労省から新医療機器として薬事承認を受け保険適用の対象になっており、既に多数の医療機関で導入されている。

「今後、こういう医療機器が家庭に普及する時期が来ると思います。そうすれば、医療のオンライン化、デジタル化は一層進みます。そうなると2つの方向で大きな変化が起こってきます。一つ目はいかに患者を集めるのか、そのルール、手法が変化します。2つ目はデータを活用した新しいビジネスが大きな役割を担ってくることです。

患者の集客方法の変化について、リフィル処方せんの発行増大、オンライン診療の普及などをまとめて言えば、これまで薬局に来ていた人が来なくなる時代が来るということです。その中で自店が選ばれるためには、なんらかの方法で患者と常時つながっている必要がある。物理的な集客が難しくなる時代、自店が選ばれるためには『つながり勝負』になるのです。そのためには、オンライン上、デジタルを活用していかに良い接客ができるかが大きなポイントになります。

例えば、ECサイトあるいは実店舗のOTC薬販売で最初はアバターが接客する、挨拶から悩みの聞き取りなど初期的な段階はAIが自律的に対応して、専門性や個別性の高い段階になると自動的にどこかの店舗、あるいはコールセンターで待機している薬剤師に切り替わって、画像はアバターのまま接客、カウンセリングは人間が行う。このようなAIアバターと薬剤師を組み合わせた接客、カウンセリングをすることで、一人の知識豊富で接客に優れた薬剤師が20店舗、30店舗を担当できます。

これは一例に過ぎませんが、オンラインによる接客の支援・強化は、これからのDgSにとって、現場スタッフの育成という意味も含めて十分に備えていく必要があります。質の高いオンライン接客ができることで、いつも患者とつながっている状態が維持でき、固定客が増えてLTV(生涯顧客価値)が上がっていきます」(堂前氏)。

堂前氏は以前の取材で、現在1兆円規模のDgSの調剤売上は今後5年程で2兆円規模にまで拡大するだろうという見通しを示している。この内訳は、リアル店舗のさらなる出店とオンライン接客の強化が同時並行的に行われることで市場拡大していくとのことだ。

「薬急便モバイルオーダー」が実現する調剤と物販の融合とは?

さらに、医薬品の販売時間延長など、規制緩和によって薬剤師はさらに必要となり、オンライン接客のニーズも高まるだろうと見ている。

オンライン診療拡大で、データ活用ビジネスが台頭する

堂前氏が指摘する二番目の大変化データ活用ビジネスの広がりについて解説してもらった。

「先ほどの先端的な医療機器ですが、DgSが規模を拡大して上位3~5企業くらいに集約されたとすると、こういうデジタル医療機器をDgSがPBの延長線上でつくるという時代も来ると思います。OTC薬のPBまではありますが、そこをさらに広げて治療用アプリや家庭内医療機器をPB開発して、オンラインサービスを提供する。資本力も十分なので、場合によっては製薬会社やスタートアップ系の医療機器メーカーの買収もあり得るでしょう。

上位寡占してきて、4強、3強時代になると出店立地もさすがに飽和気味でそれほど残されていないのではないでしょうか。加えて各都道府県の人口減少を考えると出店で売上を伸ばすという手法は限界を迎えていると思います。その中でいかに利益を挙げるかを考えると高付加価値・高単価の医療サービスが考えられます。

DgSが医療サービスで勝ち残れるかどうかの分岐点が様々な健康、生活に関するデータを揃えられているかということになります。

私の考えでは2024年から2025年でDgSの物販データと調剤データの統合はかなり進むのではないかと見ています。現在統合に向けて私たちがお手伝いしている企業もあります。その後はデータ量をどれくらい増やせるかという段階に入ってきます。

[図表2]堂前氏の展望するオンライン診療の将来

調剤と物販のデータ統合には、非常に大きなインパクトがあります。DgSは調剤薬局利用者のデータをこれまでまったく見られていなかったので、調剤利用者のうちどれくらいが物販も利用しているかさえ掴めていない状況でした。体感値として調剤薬局利用者は物販でも優良顧客だろうと思われていますが、データで検証すると恐らくそれは証明されると思います。調剤利用者の全体像がデータで明らかになるというのが統合効果のひとつ。

もうひとつの大きなインパクトは、調剤利用者に向けてプッシュ型の販促が打てるようになるということです。処方せん単価は平均すると1万円程度、粗利は35~40%です。この超優良顧客を起点としたマーケティングができるようになるのです。今までは卵の値下げで集客していたものが、1回の来店(来局)で4,000円の粗利を残す顧客へアプローチできるので日用品20%オフのクーポンを発行してもペイできます。さらに、調剤併設DgSにおいて、物販は利用しているが調剤は利用していないというお客様は大手チェーンで言えば100万人単位でいます。データ統合により、効果的な集客(来局促進)を行って仮にその半分が調剤利用者になれば、企業の経営構造すら変わるくらいのインパクトがあるでしょう」(堂前氏)

データ活用ビジネスの支援に関して堂前氏は次のように語る。

「薬急便はマイナポータル連携や各種の活動でデータを蓄積し、かつDgS様の物販と調剤のデータ統合を支援し、これを共有して頂くことで巨大データプラットフォームを構築します。このデータを分析・解析することでDgS様のマーケティングや事業拡大にとって有益なアウトプットをしたり、DgS様がデータ提供をマネタイズする事業を支援したりする計画です。

[図表3]データプラットフォームとオンライン接客支援を両輪にした薬急便のDgSの支援構想

一方で、巨大データプラットフォームをベースに他の事業を組み合わせたり、物販やサービスの販促を行う場合でも、それがうまくいくかどうかは、最終的には薬剤師の接客、コミュニケーション能力次第ということになります。オンラインやデジタルの技術を使って薬剤師の業務支援をすることとデータプラットフォームの構築は両輪の関係と捉えて、ここをしっかりサポートすることが薬急便の役割だと考えています。

現状、オンライン服薬指導という限定的なことしかやっていませんが、薬急便の仕組みを使ってオンライン栄養相談、OTCの説明販売をしてもいいでしょう。オンラインを使って接客のレベルアップができるし、薬剤師も店からのオンライン服薬指導に加えて自宅からあるいはコールセンターからという選択肢もあります。今後はオンライン接客というカテゴリーが拡大、充実してくると思います。

さらには、家庭用医療機器の発達で取れるデータも増えますし、ビジョンプロのようなデバイスの発達はオンラインサービスをより現実に近いレベルに引き上げてくれます。こうした大きなオンラインの潮流で2026年頃にはヘルスケアは変革期を迎えているでしょう。私たちがご支援しているDgS様との取り組みもその頃までには目覚ましい成果を挙げていると思います」(堂前氏)。

堂前氏はオンライン、デジタルを活用して企業が成長するためには組織分断の解消とトップの決断が重要だと語る。調剤と物販のデータ統合はその最たる例で、統合を渋る勢力を抑えて実行するには、トップが決断と投資を毅然として行い、誰もが後戻りできない状況をつくることが、最良の手段ということだ。現在MG-DX社と取り組んでいる企業はこれを断行しており、その成果は大きいだろうと堂前氏は予想する。

これからやってくるオンラインヘルスケア大変革期に備えるためには、変化を読み取り、今から万全の準備をすることが重要だろう。

 

《取材協力》

株式会社MG-DX
代表取締役社長
堂前 紀郎氏