タイムリープの遠隔接客サービス「RURA」、2025年に1万店舗活用を目指す

遠隔接客サービスのスタートアップ・タイムリープ株式会社が続々と業務提携を発表している。サービスの中核は遠隔接客サービス「RURA(ルーラ)」。インターネット越しに店舗接客を行えるサービスだ。接客の一部を遠隔で集約することで、店舗運営の効率化や接客業における新しい働き方の実現、非接触化が可能になる。(ライター:森山和道)

続々と多店舗展開企業での導入が進む

「自遊空間」での遠隔接客受付
リリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000059684.html

「RURA」を使えば対面と変わらないサービスが可能だという。株式会社ランシステムが運営するネットカフェ「自遊空間」ではリモートセンターから30店舗に対して3人で接客を行なっており、受付業務の大幅な省人化に成功している。JR東日本ホテルメッツでは、今年4月の秋葉原店、五反田店への導入を皮切りに、現在では8拠点の受付で活用している。

ケイアイスター不動産の子会社であるCasa robotics株式会社では不動産内見の無人化を進めることで客の滞在時間が増し、成約率が2倍になったという。京都の弁当チェーン・太秦弁当村でも活用されている。また、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社とは街ナカに設置されている個室型ワークスペースを遠隔接客を使って様々な種類の店舗にするという実証実験を進めている。

「CocoDeskオンライン相談サービス」では、タイムリープのソリューションによって個室ワークスペースを保険相談、法律相談受付、不動産賃貸相談、メンタルヘルスサポート、占いなどに活用できるようにする
リリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000059684.html

貨幣処理機メーカーのグローリー株式会社とも提携しており、金融機関や流通小売店、飲食店などにおける店舗運営の効率化と接客レベルの維持を両立したコンタクトレス、セルフ化店舗への対応を目的として、自動つり銭機、自動決済端末などセルフ型製品を組み合わせたソリューションを開発中だ。

このほか歯科医院や、コワーキングスペースなど、様々な業態に遠隔接客サービスを導入している。コロナ以降、これからの店舗はどうあるべきなのか。「多くの店舗経営者が、無人化・省人化を考え始めている」と語るタイムリープ株式会社代表取締役の望月亮輔氏に話を伺った。

株式会社京はやしが運営する「太秦弁当村」ではタイムリープの技術を使って、無人のお弁当販売店を実現している
リリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000059684.html

遠隔接客サービス「RURA(ルーラ)」開発の背景

タイムリープ株式会社 代表取締役 望月亮輔氏

タイムリープ株式会社は2019年6月創業。現在4年目を迎えている。「最も大切なことに時間を使える世の中」の実現をビジョンとして掲げている。

「RURA(ルーラ)」開発の背景にあるのは人手不足だ。2030年にはサービス業だけで400万人の人手が不足すると考えられている。これにより採用が難しくなり、人件費が上がり、店舗経営が困難になると思われる。その流れのなかで一人一人が倍以上の力を発揮できるような仕組みが必要だと考えて「RURA」を開発したという。

望月氏の前職はロボット専門媒体の編集長。当時、ソフトバンク「Pepper」などが多くの店舗に一時的に採用されはするものの、その後、使われなくなっていった経緯を見て、ロボットやAI技術の限界を知った。サービスロボットは根本的には人手不足対策となることを期待されていたが、期待に応えることができなかった。そこで、同じくらいの費用感で人が接客するのと同様のサービスを効率良く提供できないかと考えて、遠隔接客サービスの開発に至った。

「RURA」の基本機能

 

「RURA」の特徴は「最小人数で最大店舗数の接客を行うことができるところ」(望月氏)。店舗にはモニターが設置されており、そこに遠隔から人が顔出しをして、接客する。

遠隔地にいる接客スタッフが通常見ている画面は「待機画面」と「接客画面」に分かれていて、その二つを行き来することで複数店舗の接客を行う。待機画面には担当する複数店舗からのリアルタイム画像が映っている。店舗側に来客があると、現地の動体検知センサーが働いて、画面上で色を変えて接客スタッフに通知する。スタッフは該当の店舗映像をクリックすると、その瞬間に店舗側のモニターに接客スタッフの映像が映し出されて「いらっしゃいませ」と接客を開始することができる。

遠隔接客サービス「RURA(ルーラ)」。複数店舗を最小人数で接客するためのサービス

最小人数で最大店舗数の接客を実現するための機能設計

接客サービス開始前の状態のモニターには、通常はサイネージなどが映し出されている。来客でセンサーが反応すると、上記のような流れで接客画面に移行し、スタッフが出てきて接客を行う。そのほか、画像を切り替えながら、接客画面で選択した画像や動画を店舗側に表示させることもできる。

複数人が複数店舗を見ることができるサービス

また、スタッフは複数拠点を飛び回るので、店舗ごとの要件をまとめた簡単なメモをつけておき、そのメモを見ながら接客することもできる。接客が終わったタイミングで記録を行い、あとでその分析画面を閲覧することもできる。

画像切り替え機能、メモ機能、接客記録/分析機能もある

複数店舗対応なので「3人しか待機していないのに4店舗に来客が来てしまった」といったケースもあり得る。控えているスタッフに余力がない場合は、特定の待機画面やサイネージなどを提示することができる。それによって来客は、スタッフが今は対応できないことがリアルタイムで把握できる。

遠隔地から現地端末を代理操作可能

「RURA」の特徴の一つが「機器のリモートコントロール機能」だ。遠隔地に置いてある端末を遠隔スタッフが現地画像を見ながらリアルタイムにコントロールできる。たとえば自動チェックイン機器を入れても、現地スタッフが来客への説明係になってしまっているケースがある。これでは業務を省人化できない。リモートコントロール機能を使うことで現地の様子を遠隔スタッフが把握しながら代わりに操作することができるので、より効率的に接客ができるようになる。様々な機器と連携できるという。

通知サポート機能もある。スタッフは接客以外のPC作業をしていても、ウィジェットを使って通知が出せる。これによって常に映像を見ているスタッフだけでなく、他の作業をしているスタッフもRURAの待機画面に入って接客が可能になる。「最小人数で最大店舗数の接客をする」ための機能だ。

顧客体験と安定性を重視、現場には什器込みで導入も

接客スタッフは顔出しのほか、CGアバターを選択することも可能

ディスプレイサイズは基本的には27型を採用しているが、店舗に合わせて変更可能だ。店舗側に表示されるデバイスの画面は、縦型・横型、顔出しのほかアバター型も選ぶことができる。遠隔接客ではCGアバターを使っている会社も多い。タイムリープでもCGアバターにも対応しているが、ABテストを行うと圧倒的に人が顔出しして接客するほうが高評価になることが多く、顔出しを薦めているという。やはり、人に接客してもらいたいということなのだろう。

システムの最小単位は、マイクロPCとモニターとカメラ(動体検知、接客用)である。PCにはLinuxをベースに独自開発した「RURA OS」がインストールされており、現場に合わせて什器によるカスタマイズも可能だ。他の遠隔接客サービスの会社ではソフトウェアだけを提供していることが多いがタイムリープでは「遠隔接客でもっとも大切なことは安定性。24時間365日、接客できないタイミングを生まないことが重要」と考えて、ハードウェアごと提供している。

現地端末には来客を捉えるためのカメラ・センサーだけでなく、手元など、必要に応じて様々なカメラをつけて切り替えることもできる。このハードウェアやユーザーインターフェースの仕様は、望月氏ら自身がユーザーになって、実際にコワーキングスペースでの受付を遠隔接客で行うなどして絞り込んでいったという。自分たちで使いながら画面も作り込んでいき、様々な業態に使ってもらうことで、ユーザーエクスペリエンスを確立していった。

重視しているのは「最終的な顧客体験」だ。接客スタッフの使い勝手だけでなく、来店顧客の体験が良くなければ意味がない。顧客体験をよくするために、いかに直感的に使える仕組みにするかを重視して、センサーやカメラの台数なども決定していったという。

なお機器の保守管理は、遠隔で対応できる範囲は即時対応する。それでは対応できないトラブルの場合は機器ごと送り返してもらって交換することで対応している。今後は全国に拠点を持つ企業と提携して進めていきたいと考えているとのことだ。

 

運用のためのコストは、初期費用+月額費用。導入店舗数によって費用は変わる。
導入効果を鑑みると、極端に店舗あたりの接客数が多い場合を除き、多くの場合0.7人分程度の運営費ダウンには繋がると望月氏は言う。

「遠隔からの機器操作」と「複数人による複数店舗対応ができる」ことをグローリーも高く評価

グローリー株式会社 国内カンパニー 営業本部 マーケティング統括部 マーケティング部 マーケティング2グループ専門課長 野本英雄氏

RURAの特徴の一つが「一人のスタッフが複数店舗を見る」だけではなく、「複数のスタッフが複数店舗を見る」ことで、より少ない人数で最大店舗の面倒を見られる点だ。

この点を、業務提携しているグローリー株式会社国内カンパニー営業本部マーケティング統括部マーケティング部マーケティング2グループ専門課長の野本英雄氏は高く評価する。同社は貨幣処理機メーカーの立場から、店舗運営の効率化と接客レベルの維持を両立、そして非接触化とセルフ化を考慮すると、数ある遠隔接客サービスのなかでもとりわけ「RURA」が親和性が高いだろうと考えて、顧客に対して提案活動を行なっている段階だ。ちなみに顧客からはZoom等のウェブ会議システムとどう違うのかと聞かれることが多いが、「繋ぎっぱなしのそれらとは違う」と説明しているという。では、野本氏はユーザーの立場から見て「RURA」の何を評価しているのか。

「国際モダンホスピタルショウ2022」でのグローリーによるRURA出展の様子。病院向け会計への導入提案
「リテールテックOSAKA」でのグローリーによるRURA出展の様子。

野本氏は「端的にいうと3つの特徴がある」と語る。まず第一は、機器との連携だ。「遠隔操作ができる点が素晴らしい」という。グローリーでは、例えば金融機関向けであれば出納機器や受付処理機、リテール向けでは券売機や病院の精算機、レジを経由した釣銭機など、各種店舗フロント系の機器がラインナップされている。同社でも以前から、保守の観点からも「各種機器を遠隔から操作できれば」とは考えていた。その視点から見てもタイムリープの技術は良いという。

2番目が「N:N、複数人と複数店舗対応ができる仕様」だ。様々な遠隔接客サービスがあるが多くは「1:N」、たとえば「1人が10店舗を見られる」といったアピールをすることが多い。それに対して「RURA」は、複数人が複数店舗を見ることができる。

野本氏は「これは非常に素晴らしい」という。なぜなら「そのときどきによって、チームワークを組むことができる」からだ。「RURAを使うことで、忙しい時間帯でも柔軟にシフトを組んで対応できる。リアルなお店では当たり前にできることだが、それをネットでも実現できている。この点を我々も高く評価して、顧客にもアピールしている」と野本氏は語る。

カスタマーサクセスを重視

そして3番目は、タイムリープが導入前後における対応のためにカスタマーサクセス部門を持っていることだ。「チャーン(解約)を避けるためには、カスタマーサクセスは非常に重要。これがクラウド系サービスには極めて重要な組織体制だと考えている」(グローリー野本氏)。

カスタマーサクセス次第で、導入したものの続かない、いわゆる実証実験止まりに終わってしまうことを回避できる。タイムリープの場合は1店目に導入後に他店舗へと横展開できているユーザー事例が多く、その理由はカスタマーサクセス部門が丁寧に対応しているからだと考えているという。

タイムリープの望月氏も「カスタマーサクセスには、かなり注力している」と語る。実は最初のころはカスタマーサクセス部隊なしで回していたが、なかなか活用が進まなかった。そこで顧客のオペレーションを理解することが重要だと判断。「遠隔接客のプロとして、どういった場所に遠隔接客を組み込むと、うまく動くかに注力するようになった」(望月氏)。

具体的には、顧客が来店後に実際に何をしているのか、それぞれ異なる接客業務を詳細に整理・分析。それに合わせて従来の対人接客と変わらないような遠隔接客オペレーションを提案している。たとえばホテルの顧客の場合は、初期は毎日のようにホテルに足を運び、連日PDCAをずっと一緒に回して改良を行なったという。

カスタマーサクセス部門を重視。顧客の業務を分析して遠隔接客を導入している

なおグローリーの野本氏によれば、実際の導入にあたっては「設置する場所の決定に時間がかかる。体験に関することなので機械を持ち込んで確認する必要がある」という課題もあるという。

遠隔接客と他ソリューションの組み合わせによる新たな可能性

小売店舗での「RURA」活用の可能性についてはどうか。望月氏は「ものすごく大きい」と語る。たとえばセルフレジの使い方を案内したり遠隔から補助することは可能だ。ただし、遠隔接客を導入することで実際にどのくらい売上が上がるのかは今後の課題だ。

ドラッグストアでは、化粧品とヘルスケアの2分野で取り組みたいと考えているという。たとえば化粧品ではテスターを使った販売等において、「RURA」以外のソリューションも組み合わせることで可能性があるのではないかと語る。たとえば、特定ベンダーと組むことで、より細かく肌理を見たり、肌年齢を計測するといったサービスが可能になるのではないかという。

薬剤師が必要な第1類医薬品の販売については「今はまだ法的にグレーゾーン。これから法整備がされていくのではないか」と語る。薬そのものの管理の問題とセットして解決しなければならないからだ。その問題を例えば小型自動倉庫のようなソリューションと組み合わせ、さらに遠隔からの指導でも十分となれば、夜間の販売はもちろん、地方の薬剤師不足にも対応できる可能性がある。

店舗の本質的な価値は何か、捉えなおす機会に

タイムリープでは、業種を超えてオペレーションが共通しているところに注目してアプローチしていきたいという。たとえばビジネスホテルとカラオケは業種は全く違うが、受付以降の流れはほぼ同じで、どちらも遠隔接客が活用できる可能性が高い。こういった業種に注目し、より多くのチェーン店舗を持っているところにあたっていく。

もう一つは無人店舗だ。無人店舗というと、餃子の冷凍販売のような店舗も増えているが、ニーズは物販のための無人店舗だけにあるわけではない。たとえば昨今では葬儀屋のような業種にも無人化のニーズがあるのだという。家族葬のような小規模な葬儀が増え、小さな葬儀場が急増している。会場下見には、1日2〜3組くらいしか来ないが、これまではその下見にいちいち人員を割いて応対をしており、その人件費が悩みの種だった。そこに遠隔接客をソリューションとして投入できるのではないかというわけだ。望月氏は「無人という文脈では様々な業種から話が来ている」と語る。

「コロナ以降、『店舗の価値』をみんなが考えるようになった」と望月氏は言う。「そこにあの広さで店舗がある意味はあるのか、駅ナカの一坪店舗でも良いんじゃないかといった話から無人化に繋がっている。さまざまな業界で雇用管理も含めて、一番コストがかかるのが人件費。遠隔で、無人で運用できないかと多くの人が考えるようになっている」(望月氏)。

遠隔接客によって意外な変化が起こったり、今は考えられていないような新たなサービス業態が生まれるのかもしれない。タイムリープでは2025年までに1万店舗での活用を目指している。

ファミリーマート・デジタルサイネージの勝算

加盟店の収益向上が厳しさを増すコンビニ業界。ファミリーマートは物販以外の新たな収益源にデジタルサイネージの導入を図っている。現在3,000店舗、来期は全店に大型ビジョンを設置、店舗に新たな機能を付加していく。その狙いと詳細をリポートする。(構成・文/流通ジャーナリスト、月刊コンビニ編集委員 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2022年9月号より抜粋)

幅広い世代にアプローチできるコンビニのデジタルサイネージ

デジタルサイネージは、既にスーパーマーケットやドラッグストアなどが取り入れて、広告効果を高めている。コンビニでは、2016年よりJR東日本リテールネット(現JR東日本クロスステーション)が駅構内に出店する自社のコンビニ「NewDays」(6月末、499店舗)や「KIOSK」に本格的に導入。店頭に大型ビジョンを設置、多くの人たちが行き交う駅構内の立地を活かして、さまざまな情報発信を手掛けている。同社によると、約150駅に300面以上設置しており、首都圏最大級のネットワークサイネージと位置付けている。

デジタルサイネージでは先行する「NewDays」。写真は1日約80万人が利用いるJR新宿駅の店舗

このNewDaysやKIOSKのデジタルサイネージは、コンビニの集客力に頼らなくても、主に店舗外側の壁面に大型ビジョンを設置して、店前を歩行する通勤・通学の人たちに向けて、動画・静止画を提供している。

こうした動向の中、ファミリーマート(店舗)も、本格的なデジタルサイネージの導入を始めている。店舗の外ではなく、店内のカウンター上部に設置、来店客に訴求する設計にしてる。この大型ビジョンを設置する店舗が本年6月に全国34都道府県の約3,000店舗に達したと発表した。

ファミマによるデジタルサイネージのメディア「Family Mart Vision」(以下、FMV)は、ゲート・ワン(出資比率/ファミリーマート70%、伊藤忠商事30%)が管理・運営している。2023年度までにファミマ全店(6月末、1万6556店)のうち、設置可能な全店に導入する計画を立てている。

一般的な広告は、TVや新聞、ラジオ、雑誌といったマスメディア中心の市場である。しかし、幅広い世代にアプローチしていくためには、デジタルとマスメディアの両方の媒体を活用していくことが有効であるとファミマは捉えている。

このFMVは、コンビニの利用客を対象にしている。コンビニは小売業の中でも比較的男女や特定世代に片寄らず集客する業態である。老若男女問わず、デジタルサイネージを視聴してもらえる強みがある。中高齢者の比率が高いテレビや、逆に若い世代に片寄るネットメディアとは大きな違いがある。ファミマによると、FMVの広告効果については、設置店舗で実証実験した結果、テレビ広告とFMVを併用することにより、テレビ広告での配信を上回る、素早い広告認知が期待できたという。

米国においては、新たな潮流として、ウォルマートがデジタルサイネージなどの店頭メディアを活用した広告事業を立ち上げて収益多角化を実現している。ファミマも国内ではいち早く、リテイルメディアに参入を果たしたといえる。来年度は全都道府県1万5,000~6,000店舗規模への設置となるため、広告効果は非常に大きいものとなる。

レジから一番遠い場所に立っても、3連の大型ビジョンはよく見える。割引の告知も取り入れて、買上点数の向上も図っていく

具体的には、来店客が立ち寄るレジ周辺に、3連の大型ビジョンを設置、音声付きの広告コンテンツを配信する。ファミマは全国に約1万6,556店舗を展開、1日に約1,500万人の老若男女を集客している。今回の3,000店舗への設置完了により月間8,200万人へのアプローチを可能としている。

「1週間でユニークユーザー(サイネージを認知した人)のリーチが約1,000万人、マスメディアの一つの指標である1,000万人に到達しています。接触人数や購買、効果測定がしやすいメディアであり可視化しやすい。テレビ、インターネットに次ぐ第3のメディアに育成していきたい」とファミリーマートデジタル事業部長の国立冬樹氏は意欲を見せる。

広告以外の提供価値としては、来店客に楽しんでもらえるコンテンツを開発、モノやコトの情報を発信して、その間に広告配信をする。それにより、様々なメーカーやコンテンツプロバイダの商品やサ―ビス、コンテンツを認知拡散する支援をしていく。

実際に3,000店舗に設置した結果、来店客の約7割がFMVを認知したという。そこで配信する映像は、店頭販売商品はもちろん、保険や企業広告のほかテレビCMと同じような広告を提供している。売場で大型画面を使用して訴求するので、広告対象商品の店頭売上の効果も期待できる。

広告の他にも、お客に様々な情報を発信。ニュース、天気予報、クイズ、お笑いなどに加えて、ファミマが通常のオペレーションで実践している特殊詐欺防止への喚起、フードドライブ(家庭にある食品を持ちより、社会福祉協議会などに寄付する活動のこと)への協力といった啓発メッセージも今後は発信していく予定である。

コンビニは地域社会のインフラ、人々のライフラインといった役割を担っている。「街の情報発信拠点としてFMVを通して地域社会に貢献していきたい」(ゲート・ワンCOO速水大剛氏)と、前述の啓発メッセージも含めて、地域社会に貢献できるような情報も今後は提供していく。

地域配信に関しては、エリア限定商品の告知も、展開店舗を絞ったかたちで可能にしていく。実際に東海地区限定のコラボ商品をデジタルサイネージにより訴求した。弁当とサンドイッチのオリジナル商品の発売を、タイムリーに配信することで、エリアマーケティング支援を実施している。デジタル技術の強みを生かした、時間帯や地域特性に応じた、よりお客にとって、身近なタイムリーな情報を発信していくとしている。

ちなみに、広告で得られた収入を、チェーン本部は設置料の名目により、店舗を経営する加盟店に対して還元している。コンビニの競争環境は、同業他社だけでなく、さまざまな業態により影響を受け、より厳しさを増している。加盟店の収入確保は営業の持続性を考えれば最重要課題であり、必要な取り組みになるだろう。

広告商品は平均2割以上アップ設置料も含め加盟店の収益向上

以下、FMVの特徴をいくつか紹介する。一つは、スピーカーを数カ所に配置して、店内のいたるところで音が聞こえる環境にしている。

二つ目は解像度の非常に高い画面を3連で設置していること。解像度の高さにより、クリエイティブで柔軟な映像表現を可能としている。三つ目は前述したようにレジ周辺への設置。レジは誰もが通過する場所なので、これにより高い認知率を得られるようにしている。

広告枠は1日の時間帯を四つに分けて、その中で同じ収録を1時間に6回配信する仕組みにしている。例えば昼の1枠の場合は、前述のように1店舗で1時間に6回、昼は11時から17時59分までの設定なので6回×7時間で42回、これを1ヵ月30日提供すると1,260回になる。

ファミマ店舗で扱う商品に対してデジタルサイネージによる広告を配信した結果、該当商品の店舗での売上が非設置店舗と比較して、平均2割以上のアップを確認できた。前述のように、設置店舗には「設置料」を支払うので、加盟店にとっては店舗の売上増はボーナスになる。

「広告クライアントはもちろん、お客様や加盟店からの反応も良く、われわれはメディア事業の方向性に自信を深めています。こうした状況を踏まえて、ゲート・ワン設立時の事業計画を前倒しして、速やかに全店導入が実現できるように、急ピッチで次なる事業計画の策定に入っています。コンビニを取り巻く環境は厳しさを増しており、新しいビジネスモデルの構築が急務であると認識。ゲート・ワンはファミリーマートの新規事業を担い、デジタルメディア領域で、新しい収益基盤の確立を目指したい」(ゲート・ワン取締役島田奈奈氏)

FMVの導入により、広告対象商品の売上のアップに加えて「オリジナルコンテンツがおもしろく、お客様の評判がよい」「売場の雰囲気が明るくなった」といった声が加盟店から挙がっているという。

デジタルサイネージは、イオンをはじめとするスーパーマーケットにも導入が始まっている。スーパーの場合は、店内の買物客に今、実際に購入してもらうインストアプロモーションのアプローチが主であるのに対して、ファミマの取り組みは、もちろんインプロもあるが、イメージ広告であったり、新商品の告知であったり、来店頻度が高いコンビニの特性を活かしたコンテンツになっていくと考えられる。

大型ビジョンには、お客の側に向けたAIカメラが設置されている。これはお客の属性を知るためのカメラで、個々人を特定する機能はなくプライバシーは守られている。ここで読み取った属性をもとに映像を選択するようなことはしない。逆にお客に対して不安を抱かせるマイナス効果が予想されるからだ。

デジタルサイネージに関して、セブンイレブン、ローソンの動きはなく、「ファミペイ」などデジタル事業に注力するファミマが先行するかたちになっている。

「業務効率化以上に重要なのは改革を推進する人材育成だ」

至る所からDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の掛け声が聞こえてくるようになったものの、実際に業務改善や新規事業創出につなげることができず、暗中模索のままプロジェクトが迷走している…という話をよく耳にする。そこで今回は、大手消費財卸売業で営業部門のDXプロジェクトに関わり、30%の業務時間削減を推進した林拓人氏にお話を伺う。現在はコンサルタントとして流通業各社でDXのサポートをする林氏が語るDXの要諦とは。(月刊マーチャンダイジング2022年9月号より抜粋)

DXは「泥くさい」ものである

DX推進というと、デジタルだから効率的でスマートに進むものというイメージを持たれがちですが、内実は非常に泥くさいものです。私自身大手消費財卸売業に勤務していたときから、コンサルタントとして流通業のDX推進に携わるようになった現在まで、その「泥臭いところ」に突っ込み、課題を解決することに喜びを見いだしてきました。

日本企業が「DX」に本格的に興味を持ちだしたのは、コロナ禍の始まる2020年からと感じています。

[図表1]デジタルトランスフォーメーションのトレンド推移

図表1は、Googleトレンドで調べた「デジタルトランスフォーメーション」という用語の検索回数の推移です。2020年2月から徐々に検索回数が増え、2021年7月ころまでは上昇基調でしたが、その後下降に転じています。DXという言葉がなぜ衰退してきたのかというと、未来に向かって業務改革を行うより、「既存のビジネス」を進めるのに精いっぱいという状況になってしまっているからではないかと私は分析しています。

ここでいう「既存のビジネス」とは、今、目の前にあるビジネスです。消費財流通でいうと、商品を仕入れ販売するという永く培われてきた、消費者に商品が届くまでの全てのプロセスのことを指します。お客様の満足度向上や、日々の売上目標達成に向け、流通業に関わる方たちは、全身全霊で業務に携わられているはずです。

一方、テクノロジーは急激に進化を遂げています。その進化のスピードと比較すると、既存ビジネスは、もちろん重要な“本業”ではありますが、実は安定した高負荷の労働を生み、それが労働者の目先の充足感をつくり出して、新しいことへの挑戦意欲を失わせてしまうという負の側面もあります。

新しい改革をしようと考えても、日々の作業に時間を取られ、忙しすぎて、推進することができない。経営やDX組織側も、新しい取組みに挑戦したいと考えても、そのため従業員に長時間労働をさせるわけにもいかず、にっちもさっちもいかない状況というのが、あらゆる日本企業が置かれている状況といえるのではないでしょうか?

DXにはトップダウンとボトムアップの2種類がある

DX推進プロジェクトには2軸があると、私は考えています。

ひとつが「現場から積み上げる」ボトムアップの改革です。小さな成功や失敗を積み重ね、会社を良くしようとしてがむしゃらに進めるものです。

もうひとつが、トップダウンの改革で、こちらは企業の経営戦略や、あるべき姿から、未来を予測しつつつくり上げていくものになります。最新のテクノロジーを導入していくことも多く、ある程度の投資が必要となります。

私が推奨するのは、前者の「現場から積み上げていくDX」です。学生時代、受験などに際して、がむしゃらに勉強していた方というのは多いのではないでしょうか。勉強している最中は、ゴールが見えないままでも、目の前にある課題に取り組むうちに、基礎的な学習能力が身に付いているというのはよくあることです。

ボトムアップのDXもそれと同じで、現場の課題を解決する小さなDXを積み上げていくうちに、企業の改革推進の基礎体力が身に付いていきます。そのようにして現場の改革を積み上げていって、ある程度形が見えてきたタイミングで、トップダウンのDXに移行していくべきだと私は考えています。

30%の業務時間削減を実現する「営業DX」

ここで私が関わった、大手消費財卸売業の営業部門のDXプロジェクトについてご紹介します。プロジェクトそのものは、2020年から約2年間かけて行われ、私は営業DX推進室長として、プロジェクトリーダーの役割を担いました。

[図表2]サプライチェーンの全体像と卸売業営業の機能

卸売業の営業職は常に多忙を極めています。小売業さんも商品部やバイヤーの皆様は同じ悩みを抱えていらっしゃると思うのですが、対外的な窓口となる役割は、一様に業務過多の状況に陥りがちです(図表2)。

例えば私は西日本の大手食品スーパーさんの担当をしていましたが、その一社で約500社のメーカーとの取引がありました。500社あるうちの30社で9割ぐらいの売上を持っていますので、その30社とは、頻繁に商談を行う必要がありました。それ以外にも、複数の小売業の担当をしていました。

普段は、「営業の3種の神器」と呼ばれている、メール、電話、FAXで、「あの商品在庫はある?」「あの商品何グラムだっけ?」「見積もり送って」等々、次から次へと問い合わせが入ります。5分に1回は電話をしており、日中はほとんど仕事になりません。というか、これが仕事でした。

したがって集中して行わなければならない作業は残業で対応することとなり、新規の商品発掘や小売業さん、メーカーさんへの提案などは後回しにせざるを得ない状況が続いていました。

工数がかかるのは、小売業さんごとに設定されたフォーマットやオペレーションです。各社基幹システムが異なるので当然ですが、一社毎に丁寧に対応しなければなりません。そして中間流通として、メーカー様との商談や、日々の在庫調整等、目の前の仕事は山のようにあります。

そこで、プロジェクトの目的として、営業の業務を可視化・効率化し、残業時間を減らし、卸売業の営業の本来の役割である、新商品の開拓や、新規提案、データ分析などに時間を割けるようにするということを掲げました。

[図表3]営業DXプロジェクトの推進手順

私たちは、その目的を実現するために、前述した「ボトムアップのDX」を志向しました。まずは着手したのが業務の可視化です。現場のヒアリングなどを通じて業務整理を行ったところ、実は「共通のプロセス」が9割、そして企業ごとに特有のプロセスは1割程度であるということがわかったのです(図表3)。

例えば同じA食品というメーカーさんと商談をするのにも、小売業B社、小売業C社ではそれぞれ違うやり方があるので、フォーマットも違うし、進め方も違う、というのがこれまでの考え方でした。でも業務整理の結果わかったのは、実際はB社、C社の業務で違う部分は10%程度だったということです。

まずは営業を可視化したうえで、共通のプロセスにおける課題を「業務」と「情報」と「組織」と3つに分け、洗い出しを行いました。「業務」は、個別企業の状況に合わせて対応をしているため、業務自体が多様化していて、また属人化しているという課題に行き着きました。

また、「情報」という点では、知識や技術に偏りがあり、例えばデータベースから必要なデータを直接抽出できる人と、そうでない人がいたり、データを抽出できても、整理が得意な人とそうでない人がいる、また情報量そのものが多すぎるという状況が見えてきました。「組織」という点では、組織間の連携がうまく取れておらず、他部署に何かを依頼するのにも非常に煩雑な手順を踏まねばならないという課題が浮き彫りになったのです。

そこで、「業務の属人化や多様化」という課題に対し、共通のプロセスにはデジタルツールを導入することによって、情報の整理と自動化、スピードアップを図りました。

また、「情報が過多で、属人化が激しい」という課題に対しては、チャットツールやだれでも簡単にアクセスできるオープンなデータ基盤の導入を検討しました。

さらに「組織間のコミュニケーション」の問題については業務を可視化することで、組織の役割分担を検討する土台を作ることができました。

このようにして、営業組織において、従来の業務量を減少させ、新しい時間を創出し、営業としての本来の職務に注力することを目指したのです。

プロジェクトを成功させる4つの役割

このプロジェクトは、当初私を含めた数人からスタートし、最終的には現場を巻き込んで大きなチームになりました。プロジェクトの主目的は「新しい時間の創出」でしたが、副産物としてこれらの業務改革を推進する人材を育成することができたのは、非常に価値がある取組みだったと感じています。

私はいま消費財卸売業を離れ、外部のサポーター役として小売業や卸売業、メーカーの複数のDXプロジェクトを支援しています。プロジェクトを進めるなかで絶対に必要となるのが次の図のようなチームによる運営です。

続きは、月刊MD2022年9月号で!

〈取材協力〉

今村商事株式会社
大手消費財流通 企業・Sler各社のコンサルティング
次世代流通 モデル構築プロジェクトリーダー
林 拓人氏

カインズの建築プロ向け会員制卸売店「C’z PRO杉並井草店」レポート

2022年3月、カインズが建築プロ向け会員制卸売店、C’z Proの3店舗目となる「C’z Pro杉並井草店」を開店した。リアル店舗とデジタル技術の融合で、多忙な建築プロをサポートする期待の新業態だ。(月刊マーチャンダイジング2022年9月号より抜粋)

幹線道路沿いに出店、建築プロニーズに対応

階段の途中から1階を見下ろす。建設資材、内装材など大きめのものが店舗奥に、手前には衣類が展開されている

「C’z Pro杉並井草店」は、「C’z Pro」業態3店舗目となる、建築・建設のプロ用の卸売店だ。事前に登録した法人・個人の建築プロのみが利用可能で店内には工具や建築資材、建築プロ向け衣類など約25,000SKUが品揃えされている。

プロ向けとあって、価格訴求、商品説明などは少なめの店内

売場面積は約272坪(外売場を含む)で2層構造。駐車場台数は15台。1階には工具、セメントや内装材、作業着・長靴など、2階には電設資材、住設用品、配管関連、塗料、接着資材、内装、建築金物、プロの高度なニーズに応じた商品が陳列されている。

駐車場から直結している店内。大きな商品を自分の車まで直接積み込める。重量がある商品、大型の商品などがこの付近に陳列されている

C’z Pro業態は2020年8月に1店舗目となる東名横浜店をオープン。本店舗は東名高速道路のインターチェンジそばの出店だったが、その後の2店舗は品川、杉並と東京都心に出店をしている。

本業態はもともと都心のリフォームや建築現場で必要となるプロ用資材・工具を建築プロ向けに販売する狙いで開発されたもの。リフォームや住宅に関わる資材は大手企業であれば比較的調達が容易であるが、小規模な事業者・個人向けに、手軽に購入できる場所が都心には存在していなかった。

その点C’z Pro杉並井草店は、新青梅街道と環八という幹線道路の交差点付近に立地しており、西東京から都心の現場へ移動する際に立ち寄ることができる好立地だ。その日の作業で足りない資材を購入するために朝方立ち寄る、あるいは夜帰りがけに翌日の現場作業で必要な資材を調達するというニーズをくみ取るには絶好の出店場所といえよう。開店時間も平日は朝6時から夜9時までと、現場のニーズに合わせた設定となっている。

24時間受け取り可能、ロッカーサービス好評

店舗外に設置されたピックアップロッカー。深夜・早朝でも商品が受け取れるとあって非常に好調だという

「足りない資材を調達する」というプロのニーズをくみ取ったサービスとして好評なのがピックアップロッカーだ。

続きは月刊MD 2022年9月号にてご覧ください!

 

値上げラッシュ!コンビニ各社のスイーツ戦略とは

値上げラッシュは我が道を歩むコンビニ業態にも無縁ではない。利便性を強みにして、決して安くはない商品を展開して半世紀。コロナ禍で変化したマーケットに当初は適応できずに苦戦してきた。新しいマーケット、そして原材料の高騰、所得の格差拡大に、コンビニの商品政策は、変わるのか、変わらないのか、先ごろのセブン−イレブンによるスイーツ全面刷新を事例に考えてみたい。(構成・文/流通ジャーナリスト、月刊コンビニ編集委員 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2022年8月号より抜粋)

コンビニ100円コーヒーは終焉。高級路線とセットで値上げ対応

シュークリームも、この価格まで高まった「シュー・パティシエール」172円

セブン−イレブン(以下、セブン)が6月にスイーツを全面刷新した。定番のシュークリームが172円(税込み、以下同)、豆大福151円、他にも、モンブラン345円、どらやき226円と強気の価格が並ぶ。セブンが唱えるのは「品質向上」である。折から原材料費が高騰している。セブンも、この春にサンドイッチなど基本アイテムの値上げに踏み切った。

その際、同社の青山誠一取締役執行役員商品本部長は「コストを価格に転嫁するのであれば、お客様に満足してもらえるような見直しを図っている。サンドイッチは少し低迷していたが、販売が上向き、nanacoデータからリピート率の向上も確認できた。全てがうまくいったわけではないが、商品の質を高めるリニューアルをしっかりと実施していく」と、値上げの方向性を示した。

実際に売上の4割以上を占める、おにぎりや弁当、調理麺、サンドイッチ、総菜といった「ファストフード、日配品」は、オリジナル商品がほとんどなので、他社と比較されることがない。原材料費のコストアップにより値上げが必要であれば、単に価格を上げて、お客に理解を求めるのではなく、商品の品質や製造方法を変更、すなわち“商品の質を高めるリニューアル”により、納得してもらう方法を取るとしている。

物価上昇に賃金が追い付かない現状、チェーンストア大手のイオンや西友は、プライベートブランド(PB)商品に関して「価格据置き」を宣言している(一部商品は6月末で解除)。普段の食生活を支える基本商材を値上げせず、チェーンストアとして人々の暮らしを守る使命を担っていると自負しているからであろう。

対してコンビニの役割は「利便性」の提供であり、セブン−イレブンは創業期から「開いててよかった」、2010年より「近くて便利」をキャッチフレーズにしている。「どんどん安く」は理念にない。今後、所得の二極化、格差が拡大すれば、コンビニの利用を止める層が出てくるかもしれない。それでもトレードオフして価格維持するよりも、トレードオンして価格を見直す方向性は一貫している。ただし、競争環境や広くマーケットの特性に応じて、カテゴリーごとに取り組みは違ってくる。

セブンは7月4日より、カウンターで販売するコーヒーの価格を10%~20%引き上げた。税込み100円だったコーヒーが110円に。「100円コーヒー」の俗称は使えなくなる。この価格改定は単純な値上げである。買い付けたコーヒー豆を焙煎して店舗に供給、設置したマシーンで提供するコーヒーに改善の余地は、ほとんどない。

セブンはかねてより高級豆を使用したコーヒーの実験を各地で実施してきた。筆者は2017年冬に札幌市内で「高級モカブレンド」120円を目撃しているが、その後、実証実験は各地で継続しながら本年5月24日より「高級コロンビア・スプレモブレンド」140円に統一して全国の店舗で順次発売している。

すなわち、長らくレギュラーサイズ100円だったコーヒーに、110円、もしくは140円の選択肢を用意して提供している。

コンビニのカウンターコーヒーは、コンビニ同士の競合はあっても、それ以外には競争にさらされない。例えば、ドトールコーヒーの持ち帰りはSサイズで税込み220円。コンビニの2倍の価格を設定している。コーヒーショップはイートインを基本としており、テーブルとイスを設置してスペースを確保している分、コーヒーにいわゆる「場所代」を乗せている。テイクアウトも、その価格に合わせているので、コンビニよりも割高になる。コンビニのカウンターコーヒーが価格優位性を発揮できる。

現時点(6月末)で、他のコンビニチェーンは100円コーヒーの価格を据え置いて様子見しているが、セブンの買上点数が変わらないようであれば、追随して値上げに踏み切るであろう。ファミリーマートは、既に「高級モカブレンド」税込み120円を持っているので、セブン同様に100円台前半で、選択肢を用意した値上げになるだろう。

100円だったシュークリーム、認知されるか?価格は1.7倍

コーヒーと相性の良い、冒頭のスイーツに話を戻す。セブンが6月に大型企画商品として発売したシュークリーム「シュー・パティシエール」172円など“商品の質を高めるリニューアル”を実施した。勝算はある。同社商品本部の平田哲也デイリー部ベーカリー・スイーツシニアマーチャンダイザーは「在宅時間が長くなり、スイーツを自宅で食べる頻度も増えている。外出を控えてプチ贅沢をするお客様も多い」と外部環境の変化を挙げている。

実際にセブンでも、コロナ禍前、そして外出自粛が本格化した後も、スイーツの売上は伸長してきた。しかしコロナ禍が一巡すると、徐々に陰りを見せ始める。近くて便利なセブンでスイーツを購入してきた人たちも、宅配利用や通販、ふるさと納税の返礼品など、さまざまなチャネルからスイーツを購入できるようになった。そこでセブンは立ち寄ったついでに購入するスイーツではなく、わざわざ来店して選ばれるスイーツの方向性を示した。

この「シュー・パティシエール」にも付加価値を高めている。製菓のために開発された、コクの強い卵を使用、発酵バターを加えて濃厚なカスタードに仕上げた。シュー生地は4種の小麦粉と、発酵バターを組み合わせて2層で焼き上げて、より風味の良い商品に仕立てたという。それ以前に品揃えしていた「シュー・ア・ラ・クレーム」(149円)は廃番にしている。シュークリームは、この他に、価格的には下のラインになる「ダブルクリームのカスタード&ホイップシュー」162円を持っている。

300円超えコンビニスイーツも市民権を得るのか?セブン−イレブンの「モンブラン」345円

ともあれセブンでシュークリームを購入するには税込みで162円と172円の2つの選択肢しかない。専門店と互角に戦える品質を追求すると、シュークリームは、この価格、カップケーキでは前出の「モンブラン」345円のような価格を設定せざるを得なくなる。

しかし思い起こすと、2017年3月までセブン−イレブンの主力スイーツは税込み100円の「(ミルクたっぷり)とろりんシュー」だった。商品名の通り、クリームがとろりとしており、食べなれない人は手をクリームで汚すことになる。そういう特徴も人気に拍車をかけていた。セブンは同年4月にリニューアルをかけて「THEセブンシュー」と改名、130円に値上げする。長く定番だった100円のシュークリームを消失させた。

当時の商品本部長(現セブン&アイ・ホールディングス常務執行役員グループ商品戦略本部長の石橋誠一郎氏)は会見で次のように説明している。

「この商品は2001年に発売して以来、リニューアルを重ねてきた。発売当初は1日(1店舗平均)18個を売っていたが現状は半減している。それでも販売個数は高いのだが、お客様の変化に付いていけていないと考え、あらためて今のマーケットに求められている、味、品質とは何なのかを確認した。そこで2001年から継続してきたコンセプトを全く変えていく。商品名も企画も全てやめて、コンセプトを“とろりんシューやめます”とした。ゼロベースで立て直すということ。ここまでやらないと、お客様の変化に対応できない」

すなわち、売れ行きが落ちてきた商品の延命はしない。支持されないのは世の中の求める品質に対応していないからだ。必要なのは、既存の商品よりも品質を高めて、明らかにおいしい商品に仕立て上げること。他のカテゴリー全てに当てはまるとはいえないが、スイーツについては、“とろりんシュー”をやめたときから、脈々と品質の向上(およそ価格も上昇)を続けている。

今回は価格を据え置いたセブン-イレブンの「北海道十勝産小豆使用 豆大福」151円

一方で和菓子の定番である「北海道十勝産小豆使用豆大福」151円は品質を高めたものの価格を据え置いた。既存品と同様に北海道十勝産の小豆を使用、さらに「エリモショウズ」という、あんこに適した品種に変更して、うま味、風味を高めているという。

新型コロナウイルスによる意識と行動の変化により、人々の行動範囲が狭まり、人気のカフェや、遠くの洋菓子店、人が密集するデパ地下を避けて、近隣のコンビニを利用する人たちが増えていった。そうした追い風が徐々に薄れつつある今こそ、品質を高めて、客単価を高める。

世の中の値上げラッシュの中で、コンビニ、特にセブン−イレブンは危険を承知で、理念に基づいた独自の商品政策を推進している。

改廃の激しい韓国コスメに素早く対応する組織と仕組みの作り方

セルフコスメの売場づくりでは実績のある井田両国堂は近年、韓国コスメ、アジアンコスメの売場づくりを強化している。多数の韓国コスメを取扱う同社に、韓国コスメのトレンド、売場づくりのポイントについて聞いた。(月刊マーチャンダイジング2022年8月号より抜粋)

韓国コスメ独自の機能が日本で受け入れられた

—韓国コスメが絶好調の理由について教えてください。

松本 まず、当社では、韓国コスメは、2003年頃に「BBクリーム」を第1弾として取扱いました。当時の日本での認識は「一過性の商品」だったのですが、その後、韓国コスメの低・中価格帯という特徴が日本で受け入れられるようになり、市場が拡大したという背景があります。

さらに、直近2、3年のコロナ禍という状況では、コロナ前でしたら韓国旅行に行って韓国コスメを買うことができたのですが、いまは行けないので韓国コスメの輸入が増えているという状況です。

[写真1]マスク肌荒れの増加によって人気のシカシリーズ(メイクアップソリューション則武新町店)

コロナ禍での韓国コスメの伸長は、「ツボクサ」という傷治療で使われる植物から抽出したエキス「CICA(シカ)」の人気から始まりました(写真1)。現在は、シカクリーム、シカフェイスマスクなどが発売されています。

シカは、「敏感肌の人のマスクによる肌荒れケア」という名目で発売され、日本ではかなり受け入れられました。それまで日本ではシカのコスメはなく、現在は日本でも徐々に増えてきていますが、韓国コスメのシカが一番売れているという状況です。

Z世代がSNSを通して、K-POPアイドルの真似をするなどして韓国コスメの人気を広げています。韓国のアイドルがSNSに顔写真をアップし、使っているコスメが話題になることもあります。

韓国の男性アイドルの影響もあり、BBクリーム、コンシーラー、眉毛のケアなどのメイクを使用する若い男性が増えています。メイクをする男性の増加は、韓国製だけでなく日本製のコスメでも見られる傾向です。

韓国コスメの特徴は商品開発力だと思います。もともとBBクリームは「肌の美しさを損なう傷や欠点をカバーする」という発想で開発された商品で、現在の「気になる部分に塗る」という機能が人気になりました。また、ティントリップは「唇の角質層を染めることで色が落ちにくい」というリップです。

それらは日本にはなかった発想です。そうした韓国コスメの独自の機能が日本で受け入れられてきているのだと思います。

多数の韓国コスメを取扱う井田両国堂

—小売業との取組みについて教えてください。

松本 当社では、多数の韓国コスメを取り扱っています。SKU数自体はどんどん増えてきています。

韓国では、大小合わせて1万社以上の化粧品メーカーが存在しており、新興メーカーを含め、日本進出をかなり狙っているらしいので、数年以内に、日本に来る韓国のメーカー、SKU数はさらに増えてくるだろうと思います。

[写真2]クッションファンデが人気の「ティルティル」(メイクアップソリューション則武新町店)

当社が取扱っている韓国コスメの中では、「rom&nd(ロムアンド)」「TIRTIR(ティルティル)」「VT」などが売れています。

小売業の売場を見ると韓国コスメのコーナーは確実に増えています。韓国コスメは今のところ売場の適正スペースは分かりませんが、最大限の本数は取ろうと思っています。坪数的に4本しか取れない店なら4本で展開しますし、10本以上のパターンもあります。

また、韓国・中国・タイ・台湾などのコスメを集めた「アジアンコスメ」も、ドラッグストア(DgS)、量販店の売場は拡大しています。

コロナの影響でインバウンドがなくなったので、売上を補うという意味でも、韓国コスメ、アジアンコスメを検討する小売業は増えていると思います。

当社では、韓国コスメに限った話ではなく、日本のメーカー様とも店舗に導入する前に商談を重ねます。商談では、まず、ブランドイメージを損なわれないようにプロモーション展開について話し合い、店頭での露出を増やし、ブランドや商品の希少性をお客様に訴求し、商品の認知度を高めるという基本戦略です。

プロモーションはブランドを中心に陳列することもありますし、「プロジェクト陳列」にても実施します。

[写真3]井田両国堂が「UVケア」というテーマで提案するエンド

プロジェクト陳列では、棚割のテーマを決めて、たとえば、「UVケア」というテーマならば、様々な日焼け止めの関連商品をエンド、アウト展開で陳列し、お客様に分かりやすいように商品の機能等を訴求します(写真3)。

今年はジェルタイプ、スティックタイプ、スプレータイプのUVケアがかなり売れていまして「タイプ別」という切り口で分類することもあります。ほかには、室内、屋外、旅行などの「シーン別」で分類することもあります。お店に合った形のテーマ、切り口でプロモーションを実施して頂いております。

[写真4]「浴衣メイク」という切り口で提案するエンド。2段目は韓国コスメのティルティルのリップ

また、「浴衣メイクHow to」というテーマでは、韓国コスメも陳列しています(写真4)。当社が提案するテーマ軸のプロモーションによって、商品価値を高める戦略です。

トレンドの変化が早い韓国コスメに素早く対応できる仕組みづくり

—韓国コスメの定番化についての考えを教えてください。

松本 東京エリアの店頭を見ると、韓国コスメの定番化は主流になってきていると感じます。特に若い人はスマホに慣れており、立地による情報格差が少ないので全国で売れると思います。

もともと韓国コスメは、バラエティストアで最初に展開していたのですが、最近ではDgSでの展開もかなり増えています。

韓国コスメはトレンドの変化が早いので…。

 

続きは、月刊マーチャンダイジング2022年8月号でご覧ください!

 

敏感肌向けブランド「ミノン」、ベビーシリーズ登場

出生数が減少を続ける昨今、ベビーカテゴリーも縮小を余儀なくされている。しかし生活者のベビースキンケア意識は高まっており、高付加価値商品・低刺激性商品を求めるニーズは堅調だ。そんな中、敏感肌向けブランド「ミノン」はこの秋、ベビースキンケアアイテムのシリーズ化を発表。カテゴリーの活性化が期待される。(月刊マーチャンダイジング2022年7月号より抜粋)

専門店等に奪われているベビースキンケア市場

[図表1]ベビー用スキンケア市場規模

2020年度のベビー用スキンケアの市場規模は、約142億円(図表1)。売上構成比は洗浄剤が47%、次いで保湿剤が36%を占める。2018年ごろまではインバウンド需要や、一人当たり単価の上昇などを背景に好調に売上が推移していたものの、コロナ禍によりインバウンド需要が消失し、出生数減少も相まってここ数年は若干の縮小傾向だ。

チャネル別実績

チャネル別の売上高構成比を見ると、ドラッグストア(DgS)や薬局が45.8%を占め、次いで37.7%とベビー専門店等が続く。一般のボディケアカテゴリーに比べると、ベビーボディケアの売上は、ベビー専門店等にかなり食われている状況だ。

高まるベビーのボディケア意識 しかし現実とはギャップが

[図表2]乳幼児を持つ20〜40代の母親の子供に対するスキンケア意識調査

昨今、ベビー用スキンケアに対する生活者の意識は非常に高まっている。図表2のグラフによれば、「子供の肌はデリケートなため、スキンケアは欠かせない」という親がどの世代も5割以上を占めている。一方「子供のスキンケアは適切にできている」とする人は30%〜40%前後。理想と現実にギャップがある状態が続いている。

また最新の臨床研究では、生後1週間以内の新生児期から保湿剤を塗布することで、アトピー性皮膚炎を発症するリスクが3割以上減らせることがわかっている(※1)。早期にスキンケアをはじめることがアレルギー予防に重要であるという認識が、乳幼児を持つ親に広がってきている。

※1 2014年10月の、国立成育医療研究センターの発表による。

赤ちゃんから高齢の方まで使えるスキンケアアイテムを提供

ミノンは、間もなく発売50周年を迎える敏感肌ケアブランド。名前の由来は「Non allergic(アレルギーの原因物質)」「Non toxic(低刺激性)」「Non alkaline(弱酸性)」の3つの「ノン」だ。赤ちゃんから高齢の方まで、敏感肌に悩む全ての人に寄り添い、QOLの向上に貢献していく。

[図表3]ミノンボディケアシリーズ出荷金額推移

ミノンボディケアシリーズの出荷金額はラインナップ拡充によりこの7年間で3.5倍に拡大(図表3)。「洗う」だけではなく「塗る」「防ぐ」の3つの軸でさまざまな保湿ケアアイテムを展開している。

そんなミノンが、この秋満を持してベビー用スキンケアアイテムのシリーズ化をスタートする。

商品紹介

ミノンベビー全身シャンプー

ミノンベビー全身シャンプー

ラインナップの1点目は、肌がデリケートな赤ちゃんのための全身泡シャンプーとして人気の「ミノンベビー全身シャンプー」。販売中の商品だが、この8月以降JAN変更無しでパッケージのリニューアルを行う。

本商品は乳児の肌と同じ弱酸性。植物性アミノ酸系洗浄成分配合で、バリア機能を守りながら汚れを落とす。泡切れがよく、さっと流せるシンプル処方もポイントだ。バリア機能が低い赤ちゃんのことも考えて、極力配合成分を少なく抑える処方にこだわった。本商品は人気の雑誌「LDK」の「ベビー用品ガイド2021年」でベビーソープカテゴリーの第1位も獲得している。そのことを訴求するアテンションシールも貼付されているため、お客の注目を得ること間違いない。

ミノンベビー全身保湿ミルク

ミノンベビー全身保湿ミルク

ラインナップの2点目が、この8月に上市される新商品「ミノンベビー全身保湿ミルク」だ。肌のバリア機能を守りながら、乳児に起こりがちな肌あれを防ぐ。無香料・無着色・アレルギーの原因物質を極力カットするなど、肌へのやさしさを追求した処方になっている。また、着替え前に塗ってもべたつかない、みずみずしい潤い感もうれしい。

パッケージにはアテンションシールで「0歳から使える」と、使用可能な年齢を訴求。ミノン全身保湿剤と同じ印象のパッケージで、ミノンの他商品を使っているお客様にも目につきやすいデザインになっている。

参考価格は1,300円(税抜)と、DgSのベビーボディケアカテゴリーに貢献できる価格帯での提供となる。

高単価・高付加価値でカテゴリーに貢献

ミノンベビーシリーズの共通アイコン

今回ミノンベビーシリーズは、既存商品である「ミノンベビー全身シャンプー」のユーザーはもちろん、出産準備中のプレママ、スキンケアに不安を持つ層をターゲットに据える。これらのお客様に確実に情報を提供し、製品購入へとつなげていくために、自治体や病院などでのサンプリングプロモーションや、雑誌、ウェブメディアとのタイアップ、インフルエンサーによるネット上での拡散などのプロモーション施策を予定している。

店頭ではベビー用品売場での定番展開がおすすめだ。シリーズの3SKUを並べて展開することで、店頭露出を拡大し、視認性を高めていきたい。

[図表4]DgSチャネルにおけるベビー用石鹸アイテムの価格帯別の累計販売金額

生活者のベビースキンケアへの意識の高まりによって、高付加価値・低刺激性商品のニーズは高まっているが、依然としてDgSでは低価格帯の商品が中心で、専門チェーンやECにシェアを奪われている。一方のミノンベビー全身シャンプーは、積極的なプロモーション展開無しに、順調に売上を拡大し続けている。また図表4にあるように、実際DgSチャネルでも、2017年度と2021年度を比較すると、500円以下の商品は構成比を減らし、500円以上の商品が伸長していることがわかる。

今後、我が国においては、出生数減少のトレンドが続くため、今何かしらの手を打たないと、カテゴリーの縮小は免れない。ミノンベビーは、「高単価」「高付加価値」で、顧客満足度も高い商品だ。DgSのベビースキンケアカテゴリーの売上・収益に貢献していくことは間違いないだろう。

重要ポイントのまとめ

  • 早期のスキンケア開始がアレルギー予防に重要という認識が広まる
  • ミノンベビーシリーズは「全身シャンプー」「全身保湿ミルク」を展開
  • カテゴリー活性化のために高単価・高付加価値市場の創出を

生活者のより良い目の状態に向けた重要性認識向上とアイケア推進に取り組む

昨今、子供から大人までデジタルデバイスに接する時間は増加しており、生活者の目を取り巻く環境は厳しくなっている。一方で、生活者のOTC目薬使用率は30%程度と決して高くはない水準である。参天製薬では、生活者のQOL向上のため、アイケアの重要性の啓発や、目の不調に対処するためのさまざまな取り組みを行っている。今回はその取り組みについて、参天製薬の渡邉事業部長に話を聞いた。(聞き手/月刊MD主幹 日野 眞克)(月刊マーチャンダイジング2022年7月号より抜粋)

参天製薬だからこそ実現できる本質的なアイケア

—コロナ禍で生活者のデジタルデバイスの接触時間が増えていると思いますが、現在の生活者の目の健康について教えてください。

渡邉 目を酷使する人はとても増えており、生活者のアイケアニーズは高まっています。弊社調査によると、15歳~79歳までの約85%の方が、何かしらの目の不具合を感じているというデータもあります。しかしながら、そのうち実際に対処している人は半数ほどしかいないという結果になっており、より多くの生活者にアイケアの重要性を知って、対処していただくことで、QOL(生活の質)向上に繋がると考えています。

—参天製薬さんは、目薬の会社という印象ですが、どのような取り組みをされているのでしょうか。

渡邉 弊社は創業から130年以上にわたり、眼科領域に特化し、傾注しています。眼科領域の専門性、技術力を礎に、病院向けの医療用医薬品や医療機器と、薬局・ドラッグストア(DgS)で販売しているOTC医薬品などの開発、製造、販売を行っています。

日本における組織では、医療用医薬品を担う眼科事業部と、OTC医薬品を担う薬粧事業部の2つの事業部があり、互いに連携しながら患者さん・生活者起点の活動を行っています。目薬の会社という印象が強いと思いますが、眼科領域のスペシャリティーカンパニーとしての弊社の責務は、単に目薬を売るということではないと考えています。2030年とその先に向けたVisionとして「Become A Social Innovator」と掲げていますが、これは、世界中の技術や組織・人材をつなぎ、2030年までに目の疾患に起因する社会的・経済的な機会損失を削減することを目指しており、私たちはまさに今、その目標に向けて取り組んでいます。

私たち薬粧事業部は、そのVisionを実現するための戦略の1つとして、生活者に向けたWellness(ウエルネス)、つまり、より良い目の状態に向けた重要性認識向上とアイケアの推進に取り組んでいきたいと考えています。

—生活者に提供するWellnessとは具体的にはどのようなことでしょうか。

渡邉 まず、生活者へ本質的なアイケアの提供を行いたいと考えています。本質的なアイケアとは、医療用医薬品の実績を活かして医学的に正しい新たな機能価値の提供を行うことです。

また、清涼感などによるスッキリとした差し心地などにより情緒的な価値を提供する製品をご提供することによって、生活者の目薬の使用に対する間口を拡げ、アイケアの裾野を拡げていきたいと考えています。

なお、最近始めた取り組みとしては、生活者が自分で目の状態をセルフチェックしたり、アイケアに関する情報提供を行うことでアイケア意識向上を図るアプリの提供があります。こういった取り組みを地道に継続することによって、生活者が自分の目について関心を持ち、正しいアイケアを行うサポートを行っていきたいと考えています。

—医療用での実績を活かして医学的に正しい本質的なアイケアを提供することができることは参天製薬さんの強みですね。

渡邉 例えば、本質的なアイケアの浸透と拡大を図るために、2020年にスイッチOTCとして「ヒアレインS」を発売しました。「ヒアレインS」は医療用と同濃度のヒアルロン酸ナトリウムを配合した目薬で、涙液の不安定化によるさまざまな目の不快症状を緩和します。不快症状の対策には、単に目に水分を加えるのみならず、目の表面に安定的に水分を保ち続けることが大切で「ヒアレインS」はその有効成分が涙液層に長くとどまり、涙液を安定させます。疲れ目、見えづらさ、乾き目などといった目の不具合は、涙液層が不安定になることによって生じる場合があるとされており、不具合の原因から改善することができる本質的なアイケアを実現できる製品だと考えています。

DgSと参天製薬との地域医療連携について

—DgS(ドラッグストア)と地域医療連携に取り組んでいる事例もあるとお聞きしましたが。

渡邉 あるDgSを訪問した際に、今は物販中心だが、将来的には地域医療の中心になりたいという想いを伺いました。

幣社でお手伝いできることは何かと考えた結果、医療用医薬品の経験と実績を活かして、生活者へ、医学的に正しい本質的なアイケアの提供を行うことで、協働できるのではないかと考えました。

1つの事例ですが、弊社で生活者のアイケア意識向上を目指して開発した、「瞳うるるスキャン」というアプリをご紹介しました。

—どのようなアプリですか?

渡邉 このアプリの機能は大きく3つあります。まずは、セルフチェック機能です。チャット形式で自覚症状とリスクをチェックし、AI技術を活用した上で、眼表面に映り込んだ画像の解析からうるおい不足の箇所を表示します。総合結果として「瞳のうるおい度」高・中・低を判定します。これにより、生活者が自分の目の状態を知ることができます。

2つ目は、結果に対する対処法の提示です。セルフチェック結果に基づいて、眼科での診療やおすすめのOTC目薬、簡単にできるケアなどの対処法をご紹介します。

3つ目は、涙に関する情報コンテンツで目の不具合と関係する涙の役割等の情報を提供することです。

目の不調は感じているけれどアイケアをしていない生活者が、DgSの店頭で「瞳うるるスキャン」のPOPなどに出会って、目をセルフチェックし、実際に眼科を受診したり、OTC目薬を購入したという事例を聞いています。

こういった、DgSと連携した取り組みを通じて、継続的にアイケアをしようと思う人が増えていけば、地域生活者のQOLは向上すると考えています(写真1参照)。

[写真1]瞳うるるスキャンのアプリを告知する店頭POP

薬剤師のカウンセリングでロイヤルカスタマーを育成

[図表1]ヒアレインS使用チェックシート

渡邉 医学的に正しい本質的なアイケアを実現できる製品「ヒアレインS」は、生活者のQOL向上とともに、薬剤師と生活者の関係を深めてくれる目薬だと思います。要指導医薬品であるため、薬剤師はチェックシートを活用しながら生活者にカウンセリングを行い、必要な場合は眼科への受診勧奨も行っていただく必要があります。

[写真2]ヒアレインS

薬剤師がきちんとカウンセリングしていただくと、患者さんの満足度もリピート率も非常に高まることがわかっています。DgSのロイヤルカスタマーを育成していくためには、薬剤師の役割が非常に重要であり、生活者がより最適な目薬を選び満足していただくためにも、私たちは薬剤師へ情報提供を行っていくことが大切であると考えています。

冒頭で、弊社は単に目薬を販売するだけの会社ではないとお伝えしましたが、私たちは、生活者の目に関する悩みに寄り添い、生活者のより良い目の状態に向けたアイケアの推進をおこなうことでQOLを向上させていくことを目指していきたいです。

「ウェルウォッシュアイ」は点眼型洗眼薬の新市場を創造

[写真3]ウェルウォッシュアイ

渡邉 また、衛生的に、目の洗浄ケアができる製品として2021年に発売した「ウェルウォッシュアイ」が、これまでになかった「点眼型洗眼薬」として、生活者のみなさまからご支持頂いています。

目にほこりや花粉、メイク汚れなどの異物が入ったとき、水道水で洗ったり、こすったりされる方も多くいらっしゃるかと思います。しかし、これらの行為は目の表面を傷付けたり、細菌感染など、さまざまなリスクがあり、正しい対処法であるとは言えません。

「ウェルウォッシュアイ」は、エビデンスに基づく確かな製品価値はもちろんのこと、持ち運びができて、いつでもどこでも、気になったその瞬間に目を洗うことができる製品です。そのような新しい価値が生活者に受け入れられ、購入者は、過去1年間に目薬や洗眼薬を購入していなかった方が半数程度であるということも分かっています。つまり、従来のカップ型洗眼薬からシェアを奪うということではなく、まったく新しいお客様を獲得できていることになります。

ほこり、まつげ、メイク汚れ、花粉など、いつでもどこでも目を洗えることは、生活者には朗報だと思いますし、さらに、コンタクトレンズの上からでも目が洗えるため、メイクを落とさなくても、気軽に使用できることが評価されています。そして、すでに点眼型洗眼薬で目を洗うことが習慣化されているユーザーも多くおられます。これからも、「ウェルウォッシュアイ」で新しく正しい目洗い習慣を生活者に提案することで、新市場を創造するとともに生活者への本質的なアイケアの浸透を目指したいと考えています。

—「花粉症対策」のアプリも開発されましたね。

渡邉 「かゆみダス」という花粉症による目のかゆみへの対策をサポートするためのアプリを開発しました。

このアプリは、花粉症シーズンに合わせて予測される気象状況から、かゆみなど目の症状の注意レベルとその対策、お薬の使用時間をプッシュ通知でお知らせするなどの機能実装した医師監修のアプリです。花粉の飛散状況は毎日異なりますし、春のスギ花粉だけでなく、イネやブタクサなど年間を通じて花粉は飛んでいます。地域ごとの花粉飛散状況を毎日お知らせし、適切な対処法や予防法をお知らせするとともに、アプリに症状なども記録することができるため、日々の症状について医師に伝える際に役立てているという声も伺っています。

アイケアの重要性を知っていただき、アイケアの人口を増やすことが重要

—今後の展開について教えてください。

渡邉 生活者の目薬使用率は30%程度と言われています。この数値は、1年間に1回でも目薬を使用した人の割合なので、目薬を定期使用している人はもっと少ないと思います。

生活者の目に関する悩みに寄り添い、生活者のより良い目の状態に向けたアイケアの推進をおこなうことで、生活者のQOL向上に貢献し、結果的に目薬の使用率と市場の拡大を推進していきたいと考えています。

また、生活者のアイケアの裾野を広げるため、継続的にさまざまな商品開発やアイケア啓発を行っていきたいと思います。将来的には、生活者の本質的なアイケア課題解決につながるセルフケアソリューションとしてのサービスを展開できると良いと考えています。

弊社の特徴である、アイケアを軸に、眼科事業部と、生活者向けの薬粧事業部が力を合わせて情報発信を行い、生活者のウェルネスの追求を通じて、目に関する社会課題の解決に向けて取り組んでいきたいです。

 

〈取材協力〉

参天製薬株式会社
薬粧事業部 事業部長
渡邉 整功氏