NFI定例セミナー「ローコストオペレーション研究」(2024/9/18 13:00~16:05)開催ご案内(リアル・リモート)

今回のテーマは、「ローコストオペレーション研究」です。人件費の高騰、建築費の高騰などにより、人の生産性を高める改革による「ローコストオペレーションの実現」は待ったなしの状況です。今回は、ローコストオペレーション実現のための戦略と戦術と事例の最前線を解説します。また、人の生産性、分配率管理などのローコストオペレーション実現のための数値の見方も解説します。

2024年9月定例セミナーは、「リアル」と「リモート」の併用セミナーとします。

今回のテーマは、「ローコストオペレーション研究」です。人件費の高騰、建築費の高騰などにより、人の生産性を高める改革による「ローコストオペレーションの実現」は待ったなしの状況です。

今回は、マテハン、DX、仕組みづくりなどによるローコストオペレーション実現のための戦略と戦術と事例の最前線を解説します。また、人の生産性、分配率管理などのローコストオペレーション実現のための数値の見方も解説します。

さらに、月刊MD10月号で毎年掲載している人気企画「ドラッグストア白書」の分析を担当しているMDNEXT編集長の鹿野恵子が、決算の詳細分析からわかるドラッグストア業界の現状と課題について解説します。また、各社のDXへの挑戦についても解説します。

※座席数が限られているため、リアルでの参加の方は先着順とさせて頂きます。

開催概要

・開催日:2024年9月18日(水) 13:00~16:05(会場受付開始:12:30)
※昼食は各自お済ませの上ご来場下さい。
※セミナー開催中の途中入場はお断りします。
※リモートでの途中退席は申込責任者に報告します。

・会場:エッサム神田ホール1号館7階(701)(※案内図をご参照ください)
・実施方法:リアルとZOOMによるリモートセミナー
(ZOOMセミナーアクセス方法はお申込み者様にのみご案内いたします)
・料金:20,000円(税別・1名様)
(※ニューフォーマット研究会会員企業様には会員価格でのご案内になります)
・申し込み締め切り:2024年9月9日(月)

スケジュール

[13時~14時50分頃]

NFI代表取締役 日野 眞克

挟小商圏、オーバーストア時代の
ローコストオペレーションの原理原則

(1)最新のローコストオペレーションの事例研究
(2)マテハン、DX、仕組みづくりによるローコスト研究
(3)人の生産性、分配率管理などの経費、生産性に関する数値管理 他

[15時00分頃~16時05分頃]

MD NEXT編集長 鹿野 恵子

ドラッグストア白書 2024 詳細解説

(1)ドラッグストアの勢力図解説
(2)決算分析によるドラッグストアの現状と課題
(3)成長性、収益性、生産性数値の見方を解説 他

※講演時間は予定よりも短くなることも長くなることもあります。

会場案内図

会場詳細

〒101-0045
東京都千代田区神田鍛冶町3-2-2
エッサム神田ホール1号館7階(701)
URL:https://www.essam.co.jp/hall/access/#access_1

【アクセス】
●JRでお越しの方
神田駅東口より徒歩1分
●東京メトロ銀座線でお越しの方
神田駅3番出口より徒歩0分

注意事項

①会場へお越しの方は開催会場をご確認の上、お間違えの無いようご注意ください。
アーカイブ動画の配信はいたしません。当日参加でのみセミナーのご受講が可能です。
(配信の不備等によりご視聴頂けなかった場合には、後日動画のご案内をいたします。)

③リモートの場合はZOOMウェビナー形式で行います。9月13日(金)までに、お申込書に記載された受講者のメールアドレス宛に受講用URLを記載したメールを送付いたします。

お申込みフォーム

・お申込みは以下のお申込みフォームからお願いいたします。お申込み受付後、お申込み確認メールをお送りします。また、ご請求先として記入いただいた方宛に、請求書を発送させていただきます。
・ご入金後は、理由の如何に関わらず返金は致しません。あらかじめご了承ください。

申し込みフォーム

ゲンキーの能登半島地震への対応記録「地域住民の生活のため、翌日全店開店を目指せ」

2024年1月1日16時10分頃、石川県能登半島地下16kmを震源とする強い地震が発生(後に令和6年能登半島地震と命名)。能登半島北部いわゆる奥能登を中心に甚大な被害をもたらした。ゲンキーは被災地域に複数の店舗を出店している。ここでは、同社取締役店舗運営部長の中川竜氏に取材。大規模地震への対応を見ていく。(月刊MD編集長 野間口 司郎)(月刊マーチャンダイジング2024年7月号より転載)

本記事の全文は月刊マーチャンダイジング note版で!

【Day1】2024年1月1日(月)

5mの大津波警報が出る中 決死の現場への移動

1月1日はゲンキーの年に1回の全店、全社の休業日である。正月午後と言えば、いわゆる「おとそ気分」でゆっくりくつろぐのが、多くの人の過ごし方である。ゲンキー従業員たちもそんな時間を過ごしていたが、16時10分頃発生した能登半島地震で様相は一変する。

中川竜店舗運営部長は、正月の挨拶回りから福井県坂井市にある自宅に着いた直後、玄関で強い揺れを感じる。子供たちを机の下に避難させると同時に大きな被害になれば、被災地域では水、食品などの緊急物資が必要になるという思いが頭をよぎったという。

[画像1]地震後最初の投稿

画像1は、中川氏が地震直後、ゲンキー幹部が参加するグループLINEに投稿した第一報である。ゲンキーのグループLINEには藤永賢一社長以下、営業系部署の部長職以上43人がメンバー登録。普段は店舗の販売状況や商品情報など営業に関する連絡に使われている。能登半島地震においては、このグループLINEに情報が集約され、それらを基に現場の指揮を中川氏が執るという態勢が取られた。

[画像2]能登帰省中の従業員から投稿された写真

地震発生直後の16時12分には石川県能登地方には3mの津波警報が、16時22分からは5mの大津波警報に切り替わり、発令されていた。これを受け中川氏は能登エリア沿岸部を中心に全従業員に避難指示を出した。その後、能登半島に帰省中のメンバーから陥没した道路状況の写真も投稿される(画像2)。

[画像3]全従業員へ避難指示の連絡完了

16時22分には石川県を管轄している藤田毅ゾーンマネージャーから課長経由で全従業員に避難指示が完了したこと、状況確認中である連絡が入る。藤永社長からは津波を心配し、店舗確認には行かないようにという指示も出た(画像3)。

中川氏の自宅はゲンキーの本社近くで北陸自動車道丸岡インターから数百メートルの距離にある。体質的に酒の飲めない中川氏は正月の挨拶回りでも飲酒することなく、車を運転できる状況にあった。地震発生直後、現場に向かうことを決意、グループLINEに第一報を投稿した直後、中川氏は16時20分頃には車に乗り込み、丸岡インターから能登を目指していた。

丸岡インターから大きな被害の出ている石川県志賀町までは通常なら所要時間は1時間40分ほど。ただ、能登地方には5mの大津波警報が発令中で「到達中」との予報も出ている。丸岡から能登に入るには、石川県金沢市を経て海岸線に沿って走る「のと里山海道」を通る必要があり、ここを通行中に5mの津波に見舞われれば車もろとものみ込まれる危険を伴う。

「5mの津波警報が出ていることは知っていました。能登へ向かう途中海岸線を走っているときに津波に遭えば命の危険があることも認識していました。のと里山海道を走っているときは自分の車しかなく、置かれた状況がよく理解できました」(中川氏)

同じ頃、中川氏と同じリスクを負って、ゾーンマネージャーの藤田氏も福井から能登に向かっていた。

「藤田にも津波の状況等は確認しましたが、『部長が行くなら私も行く』、とのことでした」(中川氏)。のちに二人は羽咋(はくい)で合流する。

[画像4]「明日、全店開店」が目標に

翌2日は、当初より本部人員、商品部、店舗開発部などの社員は店舗応援に入る予定だった。17時26分、その人員を能登の応援へ振り分ける手配を取る。この段階で店舗の被害状況はつかめていなかった。直後の17時31分、藤永社長から「明日、全店開店を目指そう!」とのLINEが入り(画像4)、これに向け中川部長以下、本部応援社員、前線の店長、パートナー(パート従業員)の奮闘が始まる。

続きは月刊マーチャンダイジング note版で!

《取材協力》

ゲンキー 取締役店舗運営部長
中川 竜氏

TOUCH TO GOが提案する「サテライト型」と「ハイブリッド型」2つの無人店舗戦略

店舗作業のなかで3割をも占めるといわれるレジ業務。レジの省人化は小売業にとって喫緊の課題である。近年ドラッグストア(DgS)でも導入が進みつつある無人決済システムを開発・提供するTOUCH TO GOでは2つの無人店舗戦略を提案しているという。代表取締役社長の阿久津智紀氏に導入状況を聞く。(月刊マーチャンダイジング2024年7月号より転載)

200㎡、2,000SKUに対応

弊誌でも既にこれまで何回か取り上げている「TOUCH TO GO」(以下TTG)の「無人決済店舗」ソリューション。利用方法は以下のとおり。

①入店して商品を手に取ると、店舗内のカメラや棚の重量センサー、AIによる画像分析などによりシステムが商品を特定。②お客がレジ前に立つと、自動でディスプレーに合計金額が提示され、会計を行う。③会計終了後にゲートが開き、お客は店舗から退出することができるようになる。

事前にアプリをインストールするなどの準備は不要で、決済手段も現金、クレジットカード、QRコード決済、交通系電子マネーをはじめ多くに対応。間口の広さを重視したソリューションといえよう。

「私たちが事業提携をしているファミリーマートさんでさえ、まだ現金の利用者の方が7割いらっしゃいます。だれでも気軽に入店できて、お支払いできるというところを大切にしたいと考えています」と阿久津氏は語る。

昨今セルフレジ化による万引きの増加が指摘されているが、だれが何を手に取ったかがすべて記録されているこの手法であれば、実質的に万引き対策にもなる。

同社が提供する無人決済サービスのなかでも、最大の売場面積とアイテム数である「TTG-SENSE」は、200㎡(約60坪)、2,000SKUに対応。1人当たりのレジ所要時間は10〜15秒で、入店人数に上限はない。

TOUCH TO GO高輪ゲートウェイ駅店。ピークタイムは1時間200人のお客をさばく

このシステムが導入されているJR高輪ゲートウェイ駅の「TOUCH TOGO高輪ゲートウェイ駅店」には、約600種類のアイテムが展開されていて、ピークタイムには1時間当り200人のお客をさばくという。

省人化という側面では、遠隔監視や遠隔接客に対応しているという点はポイントだ。営業時間中、たとえ店内が無人になっても、その様子は遠隔のコールセンターで監視されていて、お客からのお問い合わせもコールセンターで対応できる。

酒類の販売にも対応。会計の際に遠隔で年齢確認を行う

元々TTGはJR東日本系のファンドであるJR東日本スタートアップと、金融系のシステム開発を提供するサインポストの合弁会社として2019年に設立されたスタートアップ企業だ。2021年2月にはファミリーマートと資本業務提携を締結。コロナ禍の非接触ニーズを追い風に導入件数を拡大し、東芝テック、グローリーなど、POSレジの大手企業とも積極的に資本業務提携を進めている。

サテライト型とハイブリッド型の店舗戦略

市場環境に目を向ければ、労働人口の減少や人件費の高騰、また建設資材や光熱費も上昇しており、既存業態出店によって業績の拡大を目指すモデルはもはや頭うちという状況である。そこでTTGが提案するのが「マイクロマーケット市場」だ。「自動販売機以上コンビニ未満」の日販で採算が取れるビジネスモデルである。

「この程度の日販ですと、人が張り付けば赤字になりますが、これを無人にすることで採算が取れるようにしていきます。

そのために私たちは2つの戦略をご提案しています。ひとつは母店の近隣に小型店舗を出店するサテライト型店舗です。もうひとつは大きな店舗の一区画に無人のエリアをつくるハイブリッド型店舗です。無人エリアは24時間営業ができますので、深夜、早朝でも販売できるようになります」(阿久津氏)

サテライト型の無人店舗は、近くの母店の商品を従業員が運んで陳列する。その売上を母店につけることができれば、店舗にとってもメリットが大きい。DgSであれば、母店近くにある病院内売店の運営や、大学内売店などの展開などが検討できよう。これまで売り逃していた「エリア」のお客を取りにいく戦略だ。

一方のハイブリッド型店舗は、お客の多い時間帯は有人対応、お客の少ない早朝・夜間は無人店舗化することで、売上の最大化と効率化を両立する。こちらはそれまで売り逃していた「時間帯」のお客を獲得することにより、売上を増やす施策と考えられる。

「面白い事例がお菓子のシャトレーゼさんが東京・西麻布に出店した24時間営業の店舗です。昼間はケーキや焼きたてのお菓子も販売しているのですが、夜になるとそれらを販売しているエリアをシャッターで区切り、アイスクリームやドライ品だけを販売します。通常閉めていた夜間帯を活用することで売上が3割程度伸びました」。深夜の繁華街、飲んだあとに甘いものを食べたい…という需要をうまくくみ上げた。

出店時の費用も極力抑えられるような提案をしている。100Vの電源さえあればスタート可能で、大掛かりな工事は不要。既存の什器も利用できる。

この仕組みを増収のための施策としてではなく、「コストダウンのための施策」として活用している企業も多い。

例えばANAは空港のターミナル内の店舗にTTG-SENSEを導入した。航空機を待つお客のために店舗は必要だが、客数は飛行機の発着に依存するため従業員を張り付けると採算が合わなくなる。人手不足の解消と人件費削減が目的だ。

TTGでは、既存店を無人店舗化することで、レジ作業が削減され、また店舗監視や接客をコールセンターで行うことができるようになるので、通常店と比較して店舗運営のための人件費を最大75%削減可能だ。

2024年3月時点でTTGの技術を導入している店舗の総数は160店舗ほど。郵便局の空きスペース、ホテル内売店、ガソリンスタンド併設店、物流施設の休憩室、小売業の社員向け休憩所、大学の学生用売店、高速バスターミナル、病院内売店などなど、その導入企業、立地は多岐にわたる。

「無人だからのんびり買物ができる」

化粧品のオルビスは、2023年5月から「ORBIS Smart Stand」と称して、TTGの無人決済システムを導入した無人販売店舗をオープン。2024年5月末現在全国に4店舗を展開している。自分に合った手入れ方法や悩みなどをビューティーアドバイザーに相談できる「オンラインカウンセリング」サービスも店頭で提供。無用な接客がなく、マイペースに購入できると好評で、意外と男性客が多い。なお、この店舗は発注・品出しまでTTGがサポートしており、支店が近隣になくても店舗運営が可能であることを実証した。

店舗の状況に合わせてオリジナルの店舗レイアウトをつくれるのが「TTGSENSE」というソリューションだが、それをパッケージ化したのが「TTG-SENCEMICRO」だ。あらかじめ組み上げられた櫓(やぐら)を店舗に設置することで、そのエリアを無人店舗化できる。

最大3尺棚5本の構成で、200SKUの展開が可能。ガソリンスタンド、職域、ホテル内など、様々な場所で活用が進む。(大きさを倍にした、「TTGSENCE MICRO W」や、棚と決済什器のみでコンパクトな展開が可能な「TTG-SENSE SHELF」も提供している)。

価格については元々発生していた人件費等の運営コストの削減に伴い利益が出るような費用感での提供となっている。

この1年でデータの蓄積や活用の手法も洗練されてきた。お客動線や商品を手に取ったかどうかなどのデータを詳細に測定し、売場や棚の売上最大化に直結した分析基盤も構築が進んでいる。

無人決済というと、これまではお客の使用感の話が中心だったが、徐々にその段階は卒業し、店舗での活用方法に焦点が当たりつつある。それまで採算を合わせるのが困難と思われていた商圏、商材でのビジネスを成立させ、既存店の売上にプラスオンしていく。あるいは、万引きによるロスを食い止める。省人化によってコスト削減を狙う…。TTGの無人決済システムは、工夫次第で様々なメリットを小売業にもたらすものになりそうだ。

 

〈 取材協力 〉

TOUCH TO GO 代表取締役社長
阿久津 智紀氏

リテールメディアの全体像と押さえておくべきトレンド

株式会社unerry(ウネリー/東京都港区、代表取締役CEO 内山 英俊氏)と株式会社CARTAHOLDINGS(東京都港区、代表取締役社長 執行役員 宇佐美 進典氏)は「リテールメディアカオスマップ2024年版」を作成した。今回は作成当事者の一人である内山 英俊氏とサイバーエージェント社 藤田 和司氏の対談を通じて、作成目的や特筆すべき最近の傾向について解説する。(月刊マーチャンダイジング2024年7月号より転載)

リテールメディア関連プレーヤーを5つに分類。実績ある企業を明示

藤田 まず、「リテールメディアカオスマップ」を作成した背景などを教えて頂けますか。

内山 2022年から2023年にかけてリテールメディアというテーマで非常に多くの企業がこの分野へ参入しました。あまりに多くの企業が乱立して、だれが何をやっているのかよくわからなくなったというのが2023年の事象でした。アメリカでのAmazon、ウォルマートの成功事例が大きく取り上げられたことも背景にあると思います。

このような状況下、多くの企業の間で様々な取組みがありましたが、そこでひとつ問題となったのが、多くの小売業がどの支援事業者と組めばよいのか、わからなくなったことです。

結果として、“筋の良くない”取組みも生まれ、リテールメディアがうまくいかないという事態も散見されました。例えば、小売から購買データは預かったものの、広告出稿するメーカーが見つからない、そうするとバイヤーが動かざるを得なくなり、結果としてリベートと広告費の違いがわからなくなるという例も多かったように思います。

どのような事業者がどのような価値を提供しているかを整理して、一定の実績や信頼度のある固有の企業名も出して、リテールメディアの全体感を示すことが重要だろうと考えたのが作成の背景です。

藤田 たしかに様々な事業者が出てきたものの、外から見ると何をやっているかわかりづらい、市場として期待も含めて盛り上がっているのに、プレイヤーが整理されていない感じはありましたね。そこを関係各者が思いをひとつにして、どのような企業が何に取り組んでいるかを一覧で皆さんに理解して頂くという初の試みが「リテールメディアカオスマップ」ですね(図表1)。このマップの見方と最近のトレンドなどあれば教えてください。

[図表1]リテールメディアカオスマップ
調査概要

内山 構成する部門は「メーカー」、「小売」、「消費者」の3つです。これは、小売がメーカーから商品を仕入れて消費者に販売するという商流と同じ構図です。ただし、小売事業者が単独でリテールメディアに必要なものをすべて揃えるのは難しいです。従って、それを支援するために様々な事業者が小売部門に参画するという構図になりエコシステム(相互協力関係)が形成されています。それを分解しているのがカオスマップとなります。ここを大きく5つの領域に分けています。

[図表2]リテールメディア関連プレーヤーの領域ごとのトレンド

まず、「小売事業者オウンドメディア」の領域ですが、各社が相当な投資を行いアプリ、店舗サイネージ、ショッピングカート、SNSなどに注力してユーザー基盤が拡大されました。これがリテールメディアの本丸中の本丸で、一定のボリュームの配信が可能になったことが一番特筆すべき点だと思います。

一方で、規模を獲得できない中小の小売事業者は一番右にある広告ネットワークに参入することで規模の問題を解消しています。店舗サイネージ、自社アプリのネットワーク化が進んだと言えます。大手は積極的な投資を行い自社でユーザー数を拡大し、中小はネットワーク化していく、これが合わせて進んでいるのが小売で起きているトレンドです。

次に、左下にある「総合サービス」です。文字どおり、小売事業者に対して、リテールメディアに必要なことを総合的に支援する企業群です。広告代理店やサイバーエージェント様などに加えて総合商社が参画したことで、規模を追求する企業が本丸に加わったことになり、市場拡大には大きな意味があります。これは特筆すべき流れです。

3番目が「データ」です。リテールメディアの核になる仕組みは、消費者から何らかのデータを同意を得た後に取得して、それを小売が持つオウンドメディアや各種広告メディアに流していくことで、しっかりターゲティングや効果計測ができることです。従ってデータプロバイダーは非常に重要です。

こうした事情もあり、データの領域には購買データ、カメラを使った画像データ、位置情報、ビーコンなど実に多くのプレイヤーが乱立しており、サービスの内容や質も様々でした。それらが相当に集約されてきたというのがトレンドです。

4番目が「広告メディア」。元々はプラットフォーマーにおけるオフサイト配信(自社のアプリやECサイト以外の外部サイトへの広告配信)が一定量あったのですが、本丸であるテレビ、CTV(コネクテッドテレビ/インターネット接続テレビ、Netflix、AmazonPrime Video、TVer等々)をどう活用していくのかがひとつのトレンドです。

もうひとつ押さえておきたいのは、決済、およびポイントのプラットフォーマーの存在感が高まってきたことです。

5番目が「ソリューション」。小売事業者が自力で構築が難しい機能についてはデータ整備企業、コンテンツ・クリエイティブ制作会社、UX支援事業者などがサービスを提供しています。ここも相当に玉石混淆の状態でしたが、サービスレベルの高い事業者が選別されてきた感があります。

アプリ、サイネージ、効果計測、配信など、中小企業も多いなかで、リテールメディアとしての条件を兼ね備えたソリューションができてきました。加えて、それらが多様化されているので、この領域では小売事業者から見ても、様々な価値を受けられる企業が増えてきたと思います。

日本のオフラインリテールメディアには高い競争力がある

藤田 リテールメディアカオスマップの作成背景で、支援事業者が小売からデータを預かったのはいいが広告出稿するメーカーが見つからずに小売バイヤーが関与せざるを得なくなった。このようなケースが散見されて、うまく事業が前進しなかったというお話がありました。

もうひとつは、小売が自ら主導してリテールメディア事業を展開する場合、商談の力関係で媒体の売買が成立するというケースも見られたと思います。本来、小売とメーカーが協業しながらつくり上げて、お互いが成果を受けるべきなのに、メーカー側の利益が十分確保できないという状況もありました。

この反省を踏まえて、例えば、支援事業者にいきなり効果を期待するのではなく、効果の定義からまず話しましょうといった、中期的視点で取り組もうという機運が、この1、2年で醸成してきたように思います。

とくにメーカーのなかでは、リテールメディアの担当者を決めるのも難しいことでした。広告なのか、販促なのか、という議論が行われているように思いますが、リテールメディアは両方の特性を持った新しいメディアです。広告として認知を取り、販促として購買につなげる。これが一気通貫でできます。ただ、予算の組み方が広告か販促か決まっておらず、どちらかというとメーカーの営業部が対応することが多く、そうなるとリベートとの違いが曖昧になってきます。

ここ1、2年でメーカーがリテールメディアの部署をつくり始めて、新しい予算を執行するケースが間違いなく増えてきました。

内山 アメリカでは、広告費、販促費、リテールメディア費と予算を3つに分けているメーカーが非常に多くあります。外資系のメーカーは同じような考えを持っているので、日本メーカーもそれに学びつつあるのではないでしょうか。

藤田 日米比較で言うと、リテールメディアを展開している領域もアメリカはオンライン中心で日本ではオフラインが中心です。成熟度という観点から見れば、アメリカの進捗状況の半分程度でしょうか。ようやく効果計測が始まった段階です。この完成度が上がると市場成長には勢いがつくでしょうが、短期的な売上だけでよしあしを判断すべきではないと思います。

内山 おっしゃるようにアメリカはオンライン主流で広がっていき、オフラインも1兆円くらいの市場になっています。日本には正確な市場の定義はまだありませんが、恐らく1,000億円くらいで、市場規模で1桁違います。経済規模で考えてもまだ半分弱くらいの感じでしょう。

ただ、オフラインのコミュニケーション手法としてアメリカと日本でどちらが優れているかというと、日本が相当に優れていると感じます。この分野においてアメリカに展開可能なものもたくさんあると思っています。

オフラインの効果計測の仕組みだとか、オフラインで実際にユーザーに配信する、ショッピングカート、デジタルサイネージの置き方、一つひとつを見ても、かなり洗練されています。非常に細やかで、その辺りには大きな競争力があります。

藤田 本当にそのとおりだと思います。日本のおもてなし、接客文化をデジタルに載せたときに、この競争力は国内だけにとどまらないでしょう。このソリューションを持ってアジアや欧米へ輸出していく可能性は十分にあります。

購買データの共有意識に大きなずれがある

藤田 リテールメディアカオスマップの中にもあるデータが、リテールメディアの中心的な役割を果たす部分だと思います。データを集めて活用するにあたって、unerry様がどのような取組み、役割を果たしているかを教えてください。

内山 私たちは、本質的には“メジャーメント”のプレイヤーであると自らを位置づけています。unerryでは提携する100以上のスマホアプリを通じて位置情報に基づく人流データを取得しています。これと連携して、例えば、自社アプリだけでは得られない、他店での購買データも取得できる仕組みを整えることができます。人流データと購買データの両方があれば、小売アプリを持っていないユーザーの購買状況を捕捉できます。ターゲティングのボリュームを大きくすることが可能になり、それに伴う効果計測ができます。

藤田 リテールメディアに限らず、デジタルを使った施策は効果を可視化して、改善することが大前提です。そこが一番の持ち味だと思います。unerry様のようなプレイヤーが客観的に効果を可視化してくれることは重要な役割です。

データを活用して計測して、次にもっとよくしていくという機運が業界全体で盛り上がっています。一方でデータを活用したいが、思いが空回りする、なかなかうまくいかないといった相談もあるかと思います。内山さんから見て、データ活用のボトルネック、ここは気を付けた方がいいという点はありますか。

内山 いろいろなレベルの話があると思いますが、一番ずれているものがあるとすると、小売各社のデータを活用するにあたっての意識だと思います。メーカーのリテールメディア予算は特定の小売業だけを対象にしたものではありません。本来、小売各社のデータ横断で、商品の売れ行きや購買行動を計測すべきものですが、小売企業からすると自社データをいかに活用するかがテーマになっており、横断的に使うためのデータ整備や許諾が難しい。この状態が続くと、リテールメディアの効果計測は限定的になるので、これを育てたい小売事業者にとっても好ましいことではありません。

unerryの人流データは、独自のIDに基づいて全小売の一定のボリュームを来店計測しているので、モバイルIDがなくても購買データが取得でき、小売業横断の仕組みがつくれます。それを小売が許諾するかが大きな問題なのです。

〜次号へ続く〜

この後、リテールメディアにおけるデータ活用のポイント、活用するために許諾を得るうえでの注意点などを、月刊マーチャンダイジング2024年8月号ならびにMD NEXTにて引き続き内山氏と藤田氏の対談のなかで紹介します。

 

《取材協力》

株式会社unerry
代表取締役社長CEO
内山 英俊氏
サイバーエージェント
協業リテールメディア部門統括
藤田 和司氏

イトーヨーカドーネットスーパー「ぽちたす」に学ぶ「接客の拡張」としてのリテールメディア

月刊マーチャンダイジング2024年6月号では「リテールメディア成否を分ける5つの重要ポイント」を特集!本稿ではイトーヨーカ堂が進めるリテールメディア戦略について紹介する。同社のリテールメディア戦略は、単なるブランドの広告ではなく、「接客の延長線」として顧客体験の向上を目指す。商品の魅力を伝える冊子「ぽちたす」やメーカーとの協業など、その取組みとは。(月刊マーチャンダイジング2024年6月号より転載)

タイパを意識する層に「刺さる」特集を企画

イトーヨーカ堂が2024年3月に立ち上げた「リテールメディアプロジェクト」は、商品本部配下に設置され、商品部、販売促進部、マーケティング戦略部を横断したメンバーが所属。同社のネットスーパーを中心としたリテールメディア戦略を推進する。

書籍『小売り広告の新市場 リテールメディア』(日経BP)の著者であり、同社リテールメディアプロジェクトディレクターの望月洋志氏は、同社におけるリテールメディアの位置付けは、お客様の買物の利便性を高め、楽しさを伝えていく、いわば「接客の拡張」だと述べる。「商品開発にこだわりがあって、歴史や背景にあるストーリーを伝えるのが好き」(望月氏)という同社のカルチャーを生かしたメディアの運営を目指す。

ぽちたすvol.4の表紙。新横浜配送センター限定

イトーヨーカドーネットスーパーが現在推進しているリテールメディアのひとつが「ぽちたす」という冊子だ。タブロイド版、オールカラー20P、イトーヨーカドーネットスーパーの新横浜センターから出荷される商品に同梱される。月1回発行、印刷部数は約5万部。

リテールメディアにおいては、メーカー・ブランドに対し単に「広告枠を売る」のではなく、商品の良さを伝えていくことが重要との考えの下で編集されている。

2024年3月発行のvol.4を見てみると、第一特集「時短&節約 おいしい選手権!!」では、漫画家の寺崎愛さんが調理と実食リポートをする「おかずの素人気ランキングBEST20」、大容量でユニット単価が安い肉や魚を使いこなすためのレシピを紹介する「ボリュームパック激うまっ!アレンジ」などの記事が冒頭を飾る。

イトーヨーカ堂商品本部リテールメディアプロジェクトリーダーの篠塚麻友実氏は「ネットスーパーのお客様の多くは、共働き世帯や子育てされている、タイパやコスパを非常に重視する層です。このようなお客様は、時間をかけずに大量の買物をすませる必要があるため、とくにネットスーパーは、決まったものをカートに入れる、言わば“補充”的な使われ方が多くなります。

ですが、紙のメディアを通じて新しい商品を目にして頂くことで、自分が知らなかった商品への関心を喚起し、購買につなげることを目標としています」と語る。

ヤマザキパンとの取組みのテーマは「リベイク」

例えば「ぽちたす」vol.4ではヤマザキパンとの取組みで、菓子パンのリベイク(トースターで再度“Re”焼く“Bake”)をテーマに記事を構成した。リベイクして熱々になったアップルパイにアイスを添える、カレーパンを半分に切ってリベイクし、レタスやベーコンを挟んでカレーパンバーガーにして食べるなど、ほんのちょっとのひと手間で、手づくり感を演出する方法を紹介。

メーカーからの商品情報を右から左へ流すのではなく、興味を持ってもらうように企画・編集をした内容といえる。価格は掲載されているものの、それを強く訴求するわけではない。

さらに、ネットスーパーのサイト上にも同じタイトルやイラストを使ったランディングページ(※)を制作。トップページから誘導動線がひかれていて、そこからの購入件数などものちの検証のために用いられている。

※LP:検索結果や広告などを経由して訪問者が最初にアクセスするページのこと。商品・サービスの注文の獲得に特化している

理解を促し「補充」購買から抜け出す

2023年12月からスタートした「ぽちたす」。現在多いのは「お客様に対して“認知”だけでなく、“理解”を得たい」と考えるメーカー・ブランドからの出稿相談だ。

ものづくりにしっかりと腰を据えて取り組んでいるメーカーほど、価格ではなく価値を理解してもらいたいと考える。前述した「商品にこだわる」というイトーヨーカドーのカルチャーは、お客様に対して商品のストーリーを伝えるのに親和性があり、紙の媒体の一覧性は商品に対する深い理解を促す。

篠塚氏は紙のメディアの強み以下のように語る。

続きは月刊マーチャンダイジング note版で!

《取材協力》 (株)イトーヨーカ堂

(左)
商品本部リテールメディアプロジェクト ディレクター
望月 洋志氏
(右)
商品本部リテールメディアプロジェクト リーダー
篠塚 麻友実氏

リテールメディア成功の鍵は、早期取り組みと効果検証法の確立

今、インターネット広告に次ぐ広告媒体としてリテールメディアが注目されている。インターネット広告でトップクラスの業績を誇るサイバーエージェントも、この新しいメディアに大きな可能性を感じている。市場開拓を進める同社に現状の取り組みや展望を取材した。(月刊マーチャンダイジング2024年6月号より転載)

組織、予算など新たな枠組みが必要なリテールメディア

[図表1]認知から購買へのプロセス

従来の一般的な購買プロセスは、テレビ広告などで認知を取り、認知に基づき売場で商品に気づき、関心を持ち購買意欲をそそられ、記憶に残り、購買するといういくつもの段階を踏んでいた(図表1)。

メディアも認知を取る、関心を高める、購買へとつなげるなど、細かい役割分担が決められ、「メディアミックス」することで相乗効果を挙げ、最終的に大きな実績を残すような販売戦略が設計されていた。ところが、リテールメディアの登場で、これらに新たな形が加わる。

「リテールメディアでは、認知の獲得と購買を同じ場所でできます。ECサイトに広告が出てクーポンが付いていたら、そのまま購入する。店舗サイネージで新商品を知り、その特徴を気に入ってサイネージ前に並んでいる商品をカゴに入れるなど、認知、購買を同じ場所で両方獲得できるのが、リテールメディアの大きな特長だと思います」(藤田和司氏)。

より店舗や商品に近い場所で展開される広告は、認知から購買への時間が短く、行動変容を促しやすい独特の効果がある。一方で、予算の考え方にもこれまでとは違った見方やルールが必要だと藤田氏は語る。

「これまでメーカーは商品の世界観を練ったり、広告メディアを決めて出稿したり、認知を取るためにはマーケティング部がマーケ予算を原資に主導していました。

最終的に購買へつなげるためには営業部が小売業と商談を重ね売場を確保し店頭販促を支援するなど、営業予算を使って担当していました。リテールメディアでは認知と購買が同じ場所で連続的に起こるので、①認知と購買の検証方法、②担当部署の見直し、③予算に対する新しい考え方が必要になります」

藤田氏の語るように、リテールメディアの登場により、日本の企業の中にはリテールメディア担当の部署を設けたり、組織や予算配分を見直したりする企業も現れている。

また、マス広告やインターネット広告など従来の広告と組み合わせることで新たな活用方法や効果も見えてきている。これらを踏まえ藤田氏はリテールメディアをマス広告、インターネット広告に次ぐ「第3世代の広告メディア」であると位置づけている。

「リテールメディアの現在の状況はインターネット広告が勃興し始めた時期に似ていると思います。当時はインターネット広告という予算枠もありませんでしたし、広告媒体としての認知も今ほどなく、どの予算をインターネット広告に充てるべきか定まっていませんでした。

しかし、今では効果検証と改善で運用ができることが強みとなって、インターネット広告は広告予算の上位に位置づけられています」(藤田氏)

従来の広告とリテールメディアとをいかに効果的に組み合わせて宣伝広告のポートフォリオ(全体計画)をつくるのかは今後のメーカーのプロモーションにとっても、そしてリテールメディア発展にとっても重要になる。そのためには、リテールメディアで何を狙うのか、配信した広告が目的に対してどれほど成果を挙げたのか、効果検証の手法を考えなくてはいけない。

リテールメディアの効果検証法を開発

サイバーエージェント社は自社開発の店舗デジタルサイネージ「ミライネージ」の運用にあたり、まず動画を配信する店舗を商品のPOS情報を元に選定する。販促商品が売れている店を中心に配信計画を立てるということだ。店舗選定は配信後にも見直され、効果次第では変更されることもある。

効果検証に際しては、動画配信以外の条件を極力揃え、配信している店舗、していない店舗の両者の効果を比較するA/Bテストを行っている。

さらには広告効果を「売上」と「認知」それぞれで測定する新しい取り組みにも着手している。

[図表2]リテールメディアの効果検証

図表2に店舗のデジタルサイネージ広告の効果に対する考え方をまとめた。

まず効果を「売上」と「認知」に分け、それぞれの増加分を見ている。売上効果については、サイネージに動画配信している期間内の販売個数の純増分と商品単価を掛けて売上増の金額を計算する。

次に認知効果については、デジタルサイネージに広告配信を行った期間に、その店舗に来店したお客様と、来店しなかったお客様にそれぞれアンケート調査を実施する。

そのアンケート結果における認知度の差から、サイネージによる認知獲得人数を推定する。認知獲得人数に平均認知獲得単価を掛ければ、認知獲得効果を金額化できる。

なお、平均認知獲得単価は、過去にYouTubeなどで動画配信をして得られた認知1件に掛かったコスト実績などを元に計算している。

認知度調査のアンケートに関しては外部の調査会社を使うか、自社アプリによるアンケート調査で実施する。自社アプリにより認知獲得人数を可視化することは今後リテールメディアにとって重要になるポイントのひとつである。

上記のような計算から、売上効果金額と認知効果金額を足すことでリテールメディアによる広告効果実績を計算する。

ミライネージ事業責任者の赤木伸之氏は次のように語る。

「この効果測定値もクリエイティブ(動画内容)を適宜差し替える、配信店舗を変えるなど広告運用を強化することで、広告出稿費用に対して採算が取れる状態は生み出せると考えています。

このような感覚を持てるのも効果を金額化しているからです。リテールメディアの効果検証で売上や認知率が何%アップしたと言われても、具体的な効果感が得られないので、サイバーエージェントではこうした計算で効果を金額にして算出し、費用対効果を見ています。

これが取り組み方の最終形とは思っておらず、メーカー様はじめ各所と議論を行い、継続的に修正・改善を行っている最中です」

日次、週次の細かな検証と改善が効果向上のカギ

[図表3]リテールメディアの効果を上げるための取り組み

ミライネージの運用チームが施策の効果を上げるために取り組んでいることは2つある。一つは施策検討の会議体制である。施策実施期間中には毎日朝一番に「日販会議」を開催、動画配信しているすべての店舗のPOSデータをチェックして対象商品の売れ行きをチェックする。その過程で特殊な売れ方をしている商品があれば、その要因を深掘りする。

例えば、ある商品で異常値とも思える程の高い売上が出た場合、それが全体的な傾向なのか、個人が大量購入したイレギュラーなケースなのかを小売や広告主との連絡などを通して解明していく。

こうした日次の振り返りで、細かく状況を把握し、1週間に1回「アクション会議」を行う。日々の施策は順調に効果を挙げているか、もしそうでなければ、テコ入れのアクション(追加、変更の施策)が決定、実行される。

こうした日次、週次の振り返りに基づく細かい運用は、インターネット広告の手法を踏襲しており、インターネット広告事業で効果にこだわってきたサイバーエージェントがリテールメディアを支援する上での大きな強みである。また、同社ではシーエー・アドバンスというオペレーション専門の子会社とも連携して膨大なデータを日次、週次で分析している。

「運用型広告は、インターネット広告の市場がここまで大きくなった要因のひとつだと思っています。私たちには運用型広告に関する豊富な知見と経験があるので、リテールメディア市場を拡大するためにも、これらの資産が生きてくると思います」(赤木氏)

会議体制に加えて、ミライネージの効果アップのために取り組んでいることが「アクション」である。これはアクション会議で協議された後、必要に応じて、実際にどのような行動を取るかという意味で、そのひとつが配信している動画の見直しである。

ひとつの商品でも複数の動画を配信しているので、それぞれの結果を見て効果を挙げているものは残し、そうでないものは新規に差し替える。こうした動画の見直しを「クリエイティブ精査」と呼んでいる。

もうひとつが、配信店舗をチェックする「インプレッション精査」である。店内サイネージの場合、施策の効果を挙げるためには、どの店舗の端末に動画配信するかが重要となり、インプレッションをうまく活用できているか、店舗ごとに精査することで全体的な効果を判断する。

とくに、大規模チェーンの場合、1,000店以上の店舗すべてに配信すると膨大なコストがかかるので、予算内で効果の出そうな店舗を選定することは施策成功のカギを握っており、インプレッション精査が効いてくる。

先述のとおり、配信前にもPOSに基づき店舗選定するが、配信中でもインプレッション精査によりチューニングを繰り返している。インターネット広告では、メディア機能として配信先の最適化アルゴリズムが存在するので、店舗メディアでも試行錯誤を重ねればそういった世界観を創りあげられるのではないかと赤木氏は語る。

店頭メディアの取り組みで新たな広告価値を生む

[図表4]メディアを取り巻く枠組みが変わる

リテールメディアの効果検証において、オンラインとオフライン(店舗)では異なる側面がある。オンラインのリテールメディアはデジタルで情報を集約できるので、物理的な作業も少なく、インターネット広告の運用技法が応用しやすい。

一方で、店舗メディアでは情報はデジタルで収集できても、店舗にサイネージを設置するという物理的な作業が生じる分、負荷も大きい。同社ではスタッフがサイネージの設置店舗を巡回し、動作状況を確認するという運用も行っている。

「一定のタイミングでメーカー販促物を店舗に一括配送するサービスがありますが、店舗サイネージはそれに近いのかもしれません。これまでになかった情報の届け方をする。そして、それを運用していくという新しい取り組みで、これまでになかった効果を生んでいます。デジタルツールのコンテンツは販促物と違って、設置する必要がないので作業の軽減にもなります」(藤田氏)

店舗サイネージと自社アプリ、ECサイトを連動させるという手法もある。自社アプリで配信した広告の商品を店頭サイネージで訴求すれば、購買チャンスは広がる。サイバーエージェントでは、小売業と共同で自社アプリの開発を行い、店舗サイネージと組み合わせるなどリテールメディアの枠を広げている。

また、近年ECを強化する小売業も増えており、ECと相性のよい検索連動型の広告にも可能性がある。同社ではこうした広告も用意し、全方位的にリテールメディアの可能性を追求している。

リテールメディア発展のために、これに関わる関係者が注力すべき点について聞いた。

「あくまでメディアなので、お客様にどう見て頂くかが重要です。モノを売りたいという広告の意識が前面に出ると、小売業にとっても設置場所を含めて優先順位は下がると思います。お客様にとって価値のある情報を提供するという基本スタンスの基、店舗と協働することが大切です。

メーカーの立場からは、リテールメディアの予算は、マーケティング費用、営業費用の双方だという認識が重要です。予算に対する考え方、立案、執行、担当者などこれまでと違う運用が求められます。将来的にはこういった運用体制の面で大きな差がつくのではないかと思っています。」(藤田氏)

「メーカーでマーケティングと営業がタッグを組むように、小売業では商品部とリテールメディア担当の部署との間で連携することが重要だと思います。この連携がどれだけ進むかは施策にも大きな影響を与えます。われわれをうまく使って頂き、社内研修や勉強会のような啓発活動を行っていただければ、理解が進んで成果も大きくなると思います」(赤木氏)

第3の広告メディアである「リテールメディア」が大きく発展するためには、組織や予算といった広告の基礎を成す「土台」に関するルール、慣習の見直しが不可欠である。

 

《取材協力》 サイバーエージェント

ミライネージ事業責任者
赤木 伸之氏
協業リテールメディア部門統括
藤田 和司氏

元食品卸売業の営業マンがデータ分析を学んだらサブカテ昨対109%の棚割ができた

大手食品卸売業で泥くさい営業を積み重ねてきた筆者が、データ分析を学び、食品スーパーの豆腐売場で棚割改善の実証実験を行ったところ昨対109%の売場を実現することができました。その一連の流れを包み隠さず公開します。(執筆:今村商事株式会社 林 拓人、月刊マーチャンダイジング2024年5月号より抜粋)

元卸売業営業がデータ分析の基礎を習得

筆者はもともと三菱食品の営業部門の出身で、以前は泥臭い現場でメーカーさんと小売業さんをつなぐ仕事をしてきました。使っていたのはエクセル程度で、とことんアナログな仕事です。2021年にリテール業界のDX(デジタルトランスインフォメーション)を支援する今村商事に転職。そこで筆者も自分自身でデータを取り扱えるようにと一念発起し、弊社で提供している研修プログラムを自ら受講しました。Azure Databricksというツールによる、基礎的なデータ分析方法を3日間学び、その後3ヵ月ほどかけて習得。そこで学んだことを実際に売場に適用したのが、この記事の内容です。

実証実験の概要

今回実証実験を行ったのは、スーパー細川という、大分県に2店舗、福岡県に1店舗を展開する食品スーパーです。カード会員比率が80%を超えるような、地元のお客様に愛されている地域密着型スーパーといえます。

実証実験の対象に選んだのは、豆腐売場の棚。2022年の11月から2023年2月までのID-POSデータを基に、棚割の案を筆者が作成し、2023年11月に実際の棚を変更して売上の変化を見ることにしました。データはプロのエンジニアがセットし、分析と検討は筆者が行いました。

1.客数データをチェックする

[図表1]店舗のID-POS客数

まず見てみたのが客数のデータです(図表1、以下、図表はすべて一部加工したものです)。データをざっと見て、「店舗と月によってデータがない場所があるな」と気付きました。

また、検証対象となる2022年11月から翌2月までの数字をざっと追い、そこについては抜けがないことを確認しました。

気を抜くと、POSデータが正しく集配信されておらず、「ある期間のある店舗のデータがごっそり抜け落ちている」なんてことはよくあります。

今回の記事でデータを分析する万田店には、月間7,000人前後のお客様が来店されていることがわかります。

2.商品マスタをチェックする

[図表2]和日配の単品把握

次に、分析対象となる豆腐が含まれる和日配部門の商品マスタを参照しました(図表2)。このデータを見ると、今回の対象となる棚で取り扱われる商品には「豆腐」だけでなく厚揚げや卵豆腐などの「加工豆腐」という複数のサブカテゴリーが含まれることがわかりました。

そこで今回は実際の棚に合わせた分析を行うために「豆腐」と「加工豆腐」を合体して「豆腐・加工豆腐」というサブカテゴリーを疑似的につくり、そちらを分析対象とすることにしました。

3.棚割データをチェックする

やっとこのタイミングで、現状把握をするために、棚割のデータを参照することにしました。ここでよくあるのが、「理屈のうえでは正しい」はずのデータ上の棚割と、実際の棚割に差異があるということです。

[図表3]実棚の写真と棚割図

「棚割図どおりに棚をつくりました」と現場は行動しても、想定した棚割が実現できていなかったり、よかれと思って特定の商品を定番化している、ということは往々にしてあります。今回実証実験の舞台となったスーパー細川さんでも、同様の状況が起きていました。そこで、本当の棚の状態をデータ化するため、実際に現場に足を運び写真を撮影し、つくった棚割図が図表3右です。これで、現状を正しくデータ化することができました。

有料となる以下の記事では、

リフト値による分析
併売特徴量による分析
クラスタリング
協調フィルタリングによる分析
現場の意思をくみ取りながら棚割作成

の手順を紹介しています。

続きは 月刊マーチャンダイジング note版で!!!