知っておくべき薬機法改正~OTC販売制度の変更~

厚生労働省は、2024年「厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会」(以下部会)において10回の会議を重ね医療用医薬品、OTC医薬品の製造、流通、販売に関して見直し、2025年に薬機法の改正を行う見通しである。ここでは、ドラッグストア(DgS)に関係する2つの見直しについて解説する。なお、本記事の編集時点では、途中経過のみ公表されているので、内容は最終決定ではない。(月刊マーチャンダイジング2025年3月号より抜粋)

濫用等のおそれのある医薬品の販売方法の変更

[図表1]全国の精神科医療施設における薬物依存症の治療を受けた10代患者の「主たる薬物」の推移

近年、若年層が風邪薬や咳止め薬などを規定量を超え大量に服用し、意図的に高揚感を得る、いわゆる「オーバードーズ」が社会的に問題視されている。図表1は厚生労働省が発表している資料だが、10代の薬物依存で治療を受けたことがある人が、主にどのような薬物に依存したかという問いに対して市販薬(OTC医薬品)と回答した人は年々増加している。

これを防ぐために、常習性を引き起こす特定の成分を含むOTC医薬品=「濫用等のおそれのある医薬品」の販売方法を厳格にする対策が厚生労働省の「医薬品の販売制度に関する検討会」にて検討された。

2024年の見直しでは、濫用等のおそれのある医薬品の陳列は購入者の手に届かない場所とする(空箱陳列等)、購入者の住所、氏名等を記録し保管するなどの対策が検討された。検討対象である濫用等のおそれのある医薬品を販売する主要チャネルはDgSである。

また、JACDS(日本チェーンドラッグストア協会)のアンケート調査によれば、濫用等のおそれのある医薬品を150品目以上揃えている店舗は、回答37社の1万3,401店舗中、約72%に当たる9,600店舗あった。DgS側は、JACDSを中心に、この見直し案は実際に法律化されると、販売店側は大幅な作業増加につながり、本来の説明販売する余力がなくなるとして対案を提示するなどして厚生労働省と協議を重ねた。

その結果、2025年の1月に公表された「薬機法等制度改正に関するとりまとめ(以下とりまとめ)」では、次のように記載されている(一部抜粋)。

続きは月刊MD note版で!

 

「管理栄養士おすすめ」ブランドで付加価値アップ目指すツルハグループの食品PB改革

ツルハグループの食品プライベートブランド(PB)では、「管理栄養士おすすめ」など、専門性をイメージさせるネーミングと健康を意識した機能性で付加価値づくりに成功している。このブランドを含む同社の食品PB改革のプロセスをTGMD※に取材した。
※TGMD=株式会社ツルハグループマーチャンダイジング。ツルハグループの物流、商品調達、店頭サポート、PB商品の企画・販促、通信販売(EC)事業を担う企業。
(月刊マーチャンダイジング2025年3月号より抜粋)

ひと目でPB商品と分かる食品PBがなかった

ツルハグループでは2018年、それまでの日用品とHBC(ヘルス&ビューティケア)商品のプライベートブランド(PB)を、「くらしリズム」と「くらしリズム MEDICAL」に刷新。PB開発の本格的な強化に乗り出した。以降、PB商品のSKU数、売上高を順調に伸ばしている。

[図表1]ツルハグループのPB商品業績(2024年5月期決算)

図表1は、ツルハホールディングス(HD)の2024年5月期のPB商品実績である。PB商品合計の売上高は943億2,400万円、売上高に占める構成比は10.5%となっている。

同社ではメーカー専売品(ツルハグループだけで販売するNB商品)もPB商品に含んでおり、PB商品全体の粗利益率は41.8%で収益への貢献性は高い。くらしリズム、くらしリズムMEDICALの合計の売上高は496億4,900万円、構成比5.5%となる。

日用品とHBCには、「くらしリズム」と「くらしリズム MEDICAL」で対応、順調に開発を進めている一方で、食品PBに関しては核となるブランドを確立できていないという課題感もあった。

「食品PBは店頭で見てもそれがPB商品であるかどうかが分からない、PB商品でもパッケージデザインに統一感がないといった課題がありました。ここを修正しようということで、コンセプトやブランドを整理して全体的な開発マップをつくりました」(TGMD 食品MD本部 本部長 寺西正芳氏)

食品PBの改革に当たっては、通常PB開発本部の下で行われる開発を、寺西氏が本部長を務める食品MD本部の管轄に置き、寺西氏の前職である杏林堂商品本部長時代の経験も生かし、開発メンバー一丸となりフルスクラッチ(ゼロから)に近いかたちで臨んだ。

[図表2]食品PB開発軸のマップ

図表2は、食品PB開発軸のマップである。管理栄養士のおすすめやおくすり屋さんを前面に出した「①健康・美容」、ツルハ発祥の地である北海道にこだわった北海道シリーズを中心とする「②食べたくなる、おいしそう」、価格を訴求する「③買いやすい」、若年世代に面白さを提供する「④エンタメ、ダブルチョップ」以上4つの軸である。

「管理栄養士おすすめ」ブランドのオートミール。ツルハグループ内で売れ行き好調

「新しい食品PBづくりに着手して、1年経ちようやく形になってきました。既存の食品PBもこのどこかに当てはめてつくり直すことに現在力を入れています。今期中に140〜150のSKUを上市する予定です」(寺西氏)

コンセプト、ターゲットを明確にし、4つの開発軸を定めることで急ピッチの開発に成功している。

油の吸収率を抑えるパン粉でカテゴリー拡大

DgSは小商圏化に伴い、繰り返し来店につながる食品部門の重要性が増している。この分野でリピートも高い粗利も取れるPB商品の開発は各社にとって重要な戦略となっている。

先に見たようにツルハグループの専売品を含むPB商品の粗利益率は40%を超える優良分野である。重要戦略を任された開発チームがとくに期待しているのが「管理栄養士おすすめシリーズ」だ。

続きは月刊マーチャンダイジング note版で!

 

《取材協力》

左から PB商品開発部PB商品開発グループ 上條 俊之氏
食品MD本部 本部長 寺西正芳氏
食品MD本部 PB商品開発担当 嵩山しげみ氏

躍進するディスカウント系スーパーマーケット「オーケー」が関西に初出店した高井田店の実力

ディスカウント系スーパーマーケットの勢いが止まらない。実質賃金が伸び悩み、所得の中央値が減少する中、低価格の強さが改めて見直されている。ここでは2024年11月26日に関西に初出店したオーケーの店づくりを見ていきたい。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年2月号より転載)

安くなる仕組みを構築し、無駄なコストを削減

2024年11月26日にオープンしたオーケー高井田店。大阪府内で大阪市、堺市に次いで多い人口約48万人を抱える東大阪市に出店

日本で現在、成長を続けている業種・業態を考えてみると、ドラッグストア業態が真っ先に頭に浮かぶ。2023年度の市場規模は前年比5.6%増の9兆2,022億円(日本チェーンドラッグストア協会調べ)で、同じペースで伸長すれば2025年度には10兆円を超えそうだ。

もう一つはEC(消費者向け電子商取引)業態。「令和5年度電子商取引に関する市場調査」(経済産業省調べ、2024年9月25日)によると、日本国内のEC市場規模は、24.8兆円(前年比9.23%増)、うち物販系分野は14.7兆円(前年比4.83%増)と伸長している。

そして今回言及するのが「ディスカウント系スーパーマーケット」である。既存のスーパーマーケットと線引きが難しく、市場規模を示す数字もないため、業種・業態に分類できるのか、明確な答えはないが、該当企業の成長スピードを見ていけば、その傾向は顕著に表れている。

ディスカウント系スーパーマーケットのトップランナーがオーケー(本社/横浜市)である。店数は157店舗(2024年12月末)、売上高(テナント除く)は6,228億円(2024年3月期)で前期比12.7%増、コロナ禍前の2019年3月期が3,930億円だから、5年間で58.4%増という急成長を遂げている。2024年3月期の経常利益は379億円で売上高対経常利益率は6.1%とスーパーマーケットの中では群を抜いている。

二番手でオーケーを追い掛けるのがロピア(本社/川崎市)だ。店数は110店舗(24年12月)、売上高は2024年2月期が4,126億、2025年2月期に5,000億を計画している。2023年2月期より他のスーパーマーケットを連結子会社に加えたため、比較可能な2022年2月期(年商2,469億円)と2012年2月期(年商437億円)を見ると、10年間で5.6倍に成長している。

三番目は「業務スーパー」(経営/神戸物産、加古川市)。フランチャイズビジネスのため上記2社と売上高の比較はできないが、店舗数で見ると、2024年10月期が1,084店舗、2019年10月期が845店舗なので5年間で28.3%増と出店エリアを北海道から九州まで広げている。

最後はイオン系の「まいばすけっと」(本社)。2024年2月期で1,119店舗、売上高は2,578億円、これを2019年2月期と比較すると765店舗、1,537億円となり、5年間で店舗数は46.3%増、売上高は67.7%増と成長を加速させている。「まいばすけっと」は自らを「都市型小型食品スーパー」と称している。

ディスカウント系に分類するには異論もあるが、近年のコンビニ価格を高いと感じる層を集客しているため、コンビニ業態と比較してディスカウント系スーパーに分類してよいだろう。

以上4チェーンは、競合する既存業態と比較して価格を抑え、集客力を強めて、1店舗当たりのトップライン(売上高)を高める一方、徹底して無駄なコストの削減を試みている。

オーケー、ロピア、業務スーパーは、商品アイテムを絞り込み、大容量パックの比率を高め、店内作業を削減、店舗人員の抑制に努めて、人時生産性を高めている。

「まいばすけっと」についても、深夜営業をせず、納品も品出しも集約化、カウンターフーズの販売やチケットの発券などコンビニが有するサービスはせず、店内作業の軽減に注力して、最少人数でのオペレーションを可能にしている。各社、それぞれ「安くする仕組み」を構築しているが、本稿では2024年11月26日に関西に初出店したオーケー高井田店を取り上げる。

調剤は処方箋枚数の伸長に苦戦 ビジネス自体の勉強に注力

オーケーは、2023年6月に東大阪市が競争入札を実施した約1,100坪の土地を約27億円で落札、5階建ての店舗を建設した。地下1階を自社の売場とし、1階に100円ショップのダイソーをテナントで入れて、2階から4階を192台の駐車場、5階を自社の関西事務所に充てている。

同社の店舗では首都圏でも多くが地階を売場にしている。仮に1階を売場にすると、トラックが荷物を運んで来る搬入場や、階上の駐車場に向かうスロープなどに1階のスペースが取られてしまう。売場面積を建物の都合で縮小しないように、地階に確保するパターンを関西でも踏襲した。

「いろいろな制約の中で売場と駐車場を広くとるため、売場を地階に配置しています。当然その分の建設コストは上りますが、客数増による売上アップでカバーできると考えています」(オーケー代表取締役社長の二宮涼太郎氏)。

オープン直後のオーケー高井田店。開店前に数百人が列を成した。2021年、関西市場への足掛かりとするため、関西スーパーマーケットに買収提案を試みたが株主総会で否決されて裁判にまで発展した騒動も結果的に知名度アップに貢献したようだ

高井田店の売場面積は770坪。同社のなかでは大型店の位置付けになる。チェーン全体として見ると、売場面積は100坪から1,500坪、形態はテナントから土地・建物を自社所有、あるいは借地に自社物件など柔軟に対応している。中でも高井田店のような土地・建物の所有比率は同業他社と比較して高いという。

「土地取得によるリスクはあります。一方でディスカウントをする上では、土地を自社で所有し、長期にわたり営業すれば、コスト競争力につながっていきます。高井田店については、やはり関西1号店なので、売場面積と駐車台数を確保したいと考えて土地を購入しました」(二宮氏)

次に商品の価格について独自の方法を考案している。

オーケーは顧客に自社カード(オーケークラブ会員カード)への加入を勧めている。この会員カードには、食料品(酒類を除く)を現金払いしたお客に対して本体価格から3%相当額を割引く特典を付けている。1989年の消費税3%が導入されたときから施策として定着している。

「関西では初めての店なのに、オープン前に200円(発行費用)お支払いになって会員になられた方が3,000人もいます。非常に手応えを感じています」(二宮氏)

オーケーは地域で最も安値を保障している。社員が競合店の価格を調査して、自店が1円でも高ければ「競合店対抗」により即座に値下げを断行する。その際に条件とするのがオーケークラブ会員カードの提示だ。

現金払いのお客には3%の割引を適用し、その割引後の価格が競合店と同じか、それより安くなるように設定することで、扱う商品の最安値を保証している。実際に会員カードで買物をする人の割合は8割に達する。残りはキャッシュレスを好む一定割合の買物客になる。

経営方針は「高品質・Everyday Low Price」、商品政策は経営方針にあるエブリデー・ロープライス(EDLP)としている。その一方で、一時的に条件を付けて値下げする商品もあれば、メーカーの特別提供品も多く扱う。

関東では物流に関して2024年5月以降に冷凍商品を自社物流センター経由で店舗に納品している。3拠点の賃借冷凍倉庫を活用し、常温食品同様に冷凍商品は「センター着原価」での買付として価格競争力を高めている。関西はまだ1店舗なのでベンダーの物流を活用しているが、今後店舗数の増加を見極めて、自社物流に切り替えるなどして、店舗を含めた物流の効率化を図っていく。その際に、取扱商品の見直しを図り、冷凍分野の競争力を高めていくという。

新規事業として調剤薬局を2021年からスタートさせ、首都圏では13店舗を展開。高井田店では医薬品を扱うが調剤薬局は置いていない。

高井田店では日用雑貨など非食品ゾーンに医薬品の売場を設置、登録販売者と専用レジを置いている。調剤薬局は首都圏13店舗でこれからの展開を検証している

「需要が高いところもあれば、まだ処方箋枚数の伸びに苦戦しているところもある。調剤薬局というビジネス自体を一生懸命勉強している最中です。まず関東を強化して、その後に関西を考えていきたい」(二宮氏)

オーケーは2025年に兵庫県の5店舗、そして2026年に大阪府で7店舗をオープンすると公表した。

「既に様子を見る段階ではありません。当然ドミナント出店であり関西の中で規模感を出そうとすれば10店舗、20店舗の水準ではありません。どんどん増やしたい」(二宮氏)

首都圏を第1ドミナントとすれば関西圏は第2ドミナント、そこへわずか1、2年でチェーン化を試みる。かつてセブン-イレブンが新規エリアに怒涛の出店を繰り広げてきた展開と同じような勢いをディスカウント系スーパーマーケットのトップランナーが見せている。

コンビニ各社が「ローリングストック」の啓発強化

ローリングストックとは「普段の食品を少し多めに買い置きしておき、賞味期限を考えて古いものから消費し、消費した分を買い足すことで、常に一定量の食品が家庭で備蓄されている状態を保つための方法」(農林水産省ホームページ)を意味する。なぜ今、ローリングストックの啓発なのか、コンビニ各社の取り組みを解説する。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年3月号より転載)

自然災害多発地帯に生きる 日本人のライフスタイルを変える

2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震では1週間を過ぎても物資が届かない地域があることがローリングストックの啓発強化につながった (Photo by Adobe Stock)

本年1月で阪神淡路大震災から30年が経過した。昨年は1月に令和6年能登半島地震、8月には宮崎県の日向灘で地震が発生、翌日の神奈川でも地震が発生したことから、南海トラフ地震の関連を疑う人たちが買いだめに走り、スーパーマーケットの店頭から飲料水や米、パンなどが消えるなど、ちょっとしたパニックを生んだ。昨年から今年にかけて大地震を意識せざるを得ない状況にあるといってよい。

(一社)日本フランチャイズチェーン協会は、コンビニ各社と専門家を委員とする「大規模災害対応共同研究会」を2021年12月に設置、その最終報告書「首都直下地震・南海トラフ地震対応の共同研究成果」を本年1月16日に公表した。

その一環として同協会および加盟するコンビニ7社がローリングストック啓発キャンペーンを約1年間継続して実施するとした。

具体的には、各家庭が最低3日、通常は1週間を目標に食料や日用品の備蓄を促していく。例えばセブン-イレブンではホームページにイラスト入りで次のように訴えている。

コンビニでできるローリングストックの準備として、優先的に必要なのが飲料水と湯を沸かす道具、紙皿等の食器類だ。水は1人あたり1日3リットルを目安として、ラップもあれば皿にかぶせて汚れを防ぐこともでき便利と提案している。

コンビニでそろう備蓄の食料として、米のレトルトパック(5個入り)とスパゲティ(4束入り)を推奨、「これだけで、一人が3日間、9食分の食事をとることができます」と訴えている。これ以外にも「そうめんやひやむぎは茹で時間が少なく、ガスを節約できます」と提案している。

「ご飯の副菜」としてレトルトカレーや鯖缶、パスタの副菜としてレトルトのミートソースやフリーズドライのオニオンスープ、「ホッとひと息するための備え」として、普段から食べている菓子を推奨する。

食べ物以外の備蓄については、コンビニでの扱いとは関係なく、おむつや乳幼児のミルクや離乳食、代替えのきかない常備薬やコンタクトレンズ、また下水管の破損に備えて「家族の人数×5〜7回×3〜7日分」の携帯トイレを訴えている。

セブン-イレブンに限らず各社では、SNS(X)を活用してローリングストックの取り組みを発信している (ハッシュタグ#コンビニでローリングストック)。それに加えてコンビニ店舗においては、ポスター、レジ画面、店内放送などによる啓発について、国や自治体と連携して検討するとしている。

こうしたローリングストックの普及促進について日本フランチャイズチェーン協会専務理事の大日方良光氏は次のように訴える。

「被災者への物資輸送に関して、どれだけ事前の準備を尽くしたとしても発災後3日以上、物資を届けることができない地域が必ず出てしまう。また南海トラフ地震の被害想定地域は非常に広範囲にわたっており甚大な被害が想定される。そこでコンビニ各社ができることの一つとして、ローリングストックによって、各家庭で備えをすることの重要性を国民の皆様に周知をしていくべきだという結論に達した」

仮に南海トラフ地震により沿岸部の道路が寸断されると、コンビニの物流を機能させるために多くの時間を要してしまうことが懸念される。

(一社)日本災害食学会理事・副会長の別府茂氏は、首都直下地震、南海トラフ地震の発生が想定されるだけではなく、被害の規模まで具体的に想定がされて、それに備えることができる状況にあると説明する。

例えば、30年前に発災した阪神淡路大震災は予測が進んでいなかったので、被災者の生活が非常に困窮したと指摘している。

現在は当時と比較して、耐震性能が向上した家屋や集合住宅が増えている。その意味では在宅避難ができる人たちが増える。

さらに電気や水道が止まっても、バッテリー、カセットコンロ、飲料水が身の回りにあれば、レトルトご飯を温めたりパスタを茹でたり簡単な調理ができる。震災時でも温かい食事をとれるような備え方が向上している。

「ローリングストックは非常食とは全く違う考え方になる。健康を守る食事を自分で選択できるし、災害時に発生する品不足を抑制できる。こうした取り組みが自然災害多発地帯に生きる日本人のライフスタイルを変える一つのきっかけになると期待できる」(別府氏)

ローリングストックにより地域社会で品不足を抑制できれば、結果的に「共助」につながるとする考え方になる。すなわち自助と共助に貢献できるのだ。

内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(普及啓発・連携担当)の後藤隆昭氏も自助、共助、公助の三つが大事だと訴える。

「能登半島地震では災害関連死を含めて500名以上の方が亡くなっている。過疎地、高齢化が進んで、特にアクセスが非常に難しい地域であり、非常に困難な対応を迫られた。発災時の公助は私ども(国、自治体が)努力しているが、なかなか公助が行き届かず、自助、共助が大事だと考えて、ローリングストックという形で、日頃購入している食品や生活必需品を無理なく備蓄する方法があるので、ぜひ実践してほしい」

コンビニの震災支援については、1995年1月の阪神淡路大震災時に存在感を発揮している。当時ダイエーとローソンを率いた中内㓛氏は発災から3日後に現地入りをして、電気が通じず、店を閉じているローソンを見て、駐車場や店頭に商品を並べてでも販売するように発破をかけたといわれている。

当時、被災地の大阪府・兵庫県に店舗もなかったセブン-イレブンも、滋賀県の工場からおにぎりなどの救援物資を積み込んで神戸にヘリコプターを飛ばしている。

コンビニがライフラインとしての認知を深めた事例であるが30年が経過して、物資の供給において確実性、効率性を高める公助に加えて、より安全性を高めるためにローリングストックという日頃からの自助の啓発に注力を始めている。

コンビニ配送車が緊急通行車両に

前述した最終報告書「首都直下地震・南海トラフ地震対応の共同研究成果」について以下、ポイントを記しておく(※報告書は日本フランチャイズチェーン協会のホームページからダウンロードできる)。

本報告書には、国、自治体、コンビニエンスストアの実態から抽出した具体的課題とその解決方法を検討した結果がまとめられている。

[図表1]大規模災害時の国・自治体と民間(コンビニ)の目標と役割

第1の成果は「官民の相互理解が促進したこと」(図表1)。共同研究の目標として全ての被災地を支援する物流を実現するという参加者全員で共通の目標を置いて国、自治体、コンビニ各社が一緒になって検討してきた。

「当初は国の方々、そして自治体の方々は避難所を中心に考えていて、在宅避難者について、あまり関心を示していなかった。一方、民間であるコンビニ各社は、いかにお店に商品を届けるのか、交通規制などクリアしたい課題があった。それぞれの思惑が異なり、考え方が違う中で、お互いを知りながら、そしてコンビニ各社は国の制約や法律などを学びながら共通の目標に向かって進めてきた」[大規模災害対応共同研究会座長の中澤剛氏(セブン-イレブン・ジャパン リスクマネジメント室エキスパート)]

その結果、第2の成果が「災害時における物流の迅速化の推進」だ。商業物流の早期回復による在宅避難者への食料供給のために、「指定公共機関のコンビニ配送車も緊急通行車両」であるという認識を共有。

その上で、2023年9月1日、警察庁を中心とした関係省庁の協力で「緊急通行車両確認標章」の事前交付を可能とする政令改正を実現できた。さらに、配送車は遠距離輸送の際の燃料供給についても中核給油所で給油が可能な旨を確認した。

「官民相互理解のもとで成果を得ることができたが、共同研究の最後の1年は能登半島地震が発災、その教訓として、どんなに物資を届けたいという思いがあっても、3日や1週間では物が届かない地域があることを現実として私たちコンビニが受け止めざるを得ないと認識をした。そこで自助努力により水や食料品を備蓄する。この災害準備を促進するために、私たちコンビニ各社と国、自治体と一緒になって、ローリングストックの普及促進に努めていきたい」(中澤氏)

こうした取り組みにより、ローリングストックを新たなライフスタイルとして定着させることが、チェーンストアに求められている。

NFI定例セミナー「売上を増やすための2つの重点課題」ほか(2025/5/21 13:00~16:10)開催ご案内(リアル・リモート)

今回の第1のテーマは、売上を増やすための2つの重点課題「完全作業と機会損失対策」です。MD活動の70%は「完全作業力」で決まります。完全作業の原理原則、成功事例などを解説します。

2025年5月定例セミナーは、「リアル」と「リモート」の併用セミナーとします。

今回の第1のテーマは、売上を増やすための2つの重点課題「完全作業と機会損失対策」です。MD活動の70%は「完全作業力」で決まります。完全作業の原理原則、成功事例などを解説します。

第2のテーマは、「米国小売業の最新情勢解説」です。4月に視察する米国小売業の変化の本質を解説します。

第3のテーマは、「食品売場のLCO(ローコストオペレーション)と完全作業」です。現在ドラッグストアの食品部門の売上構成比は全国平均で30%を超えており、年々増加しています。食品は売れますが、一方で作業コストもかかります。LCOの仕組みつくることが最大の経営課題です。

※座席数が限られているため、リアルでの参加の方は先着順とさせて頂きます。

開催概要

・開催日:2025年5月21(水) 13:00~16:10(会場受付開始:12:30)
※昼食は各自お済ませの上ご来場下さい。
※セミナー開催中の途中入場はお断りします。
※リモートでの途中退席は申込責任者に報告します。

・会場:エッサム神田ホール1号館6階(601)(※案内図をご参照ください)
・実施方法:リアルとZOOMによるリモートセミナー
(ZOOMセミナーアクセス方法はお申込み者様にのみご案内いたします)
・料金:20,000円(税別・1名様)
(※ニューフォーマット研究会会員企業様には会員価格でのご案内になります)
・申し込み締め切り:2025年月5月12日(月)

スケジュール

売上を増やすための2つの重点課題
完全作業と機会損失対策
米国小売業の最新情勢解説

[13時~14時40分頃]

NFI代表取締役 日野 眞克

(1)完全作業の意味と原理原則
(2)部門別の営業利益管理の進め方
(3)欠品の意味と欠品対策の原理原則
(4)米国小売業の最新情勢解説
(5)米国のオムニチャネルリテーラーの解説 他

売れて利益も出す食品売場の作業管理
食品売場のLCOと完全作業

[14時50分頃~16時10分頃]

エイジスリテイルサポート研究所所長 三浦 美浩

(1)食品売場のLCO(ローコストオペレーション)の原則
(2)ドラッグストアの食品強化のポイント
(3)ドラッグストアの生鮮食品導入のポイント
(4)ドラッグストア食品の商品管理、ロス対策 他

※講演時間は予定よりも短くなることも長くなることもあります。

会場案内図

会場詳細

〒101-0045
東京都千代田区神田鍛冶町3-2-2
エッサム神田ホール1号館6階(601)
URL:https://www.essam.co.jp/hall/access/#access_1

【アクセス】
●JRでお越しの方
神田駅東口より徒歩1分
●東京メトロ銀座線でお越しの方
神田駅3番出口より徒歩0分

注意事項

①会場へお越しの方は開催会場をご確認の上、お間違えの無いようご注意ください。
アーカイブ動画の配信はいたしません。当日参加でのみセミナーのご受講が可能です。
(配信の不備等によりご視聴頂けなかった場合には、後日動画のご案内をいたします。)

③リモートの場合はZOOMウェビナー形式で行います。5月16日(金)までに、お申込書に記載された受講者のメールアドレス宛に受講用URLを記載したメールを送付いたします。

お申込みフォーム

・お申込みは以下のお申込みフォームからお願いいたします。お申込み受付後、お申込み確認メールをお送りします。また、ご請求先として記入いただいた方宛に、請求書を発送させていただきます。
・ご入金後は、理由の如何に関わらず返金は致しません。あらかじめご了承ください。
申し込みフォーム

NFI定例セミナー「MDの3つの設計図」(2025/3/18 13:00~16:10)開催ご案内(リアル・リモート)

今回のテーマは、MDの3つの設計図「商品構成、商品分類、相乗積」と、年々存在感を増している「ドラッグストアの食品強化戦略」です。売れ数比例配分の商品構成を維持することの意味と重要性。関連購買、需要創造を実現する商品分類と売場レイアウトの原則。売場の粗利ミックスを実現する相乗積への取り組み方を解説します。

2025年3月定例セミナーは、「リアル」と「リモート」の併用セミナーとします。

今回のテーマは、MDの3つの設計図「商品構成、商品分類、相乗積」と、年々存在感を増している「ドラッグストアの食品強化戦略」です。

売れ数比例配分の商品構成を維持することの意味と重要性。関連購買、需要創造を実現する商品分類と売場レイアウトの原則。売場の粗利ミックスを実現する相乗積への取り組み方を解説します。

これまではスーパーマーケットの補完的な役割だったドラッグストアの食品売場が大きく変わろうとしています。スーパーマーケットが2024年の1年間で50店しか増えなかったのに対して、ドラッグストアは550店以上も店舗数が増えており、日常的な食品の購入場所として存在感が高まっています。

ドラッグストアの食品MDのポイント、商品管理のポイントを解説します。

※座席数が限られているため、リアルでの参加の方は先着順とさせて頂きます。

開催概要

・開催日:2025年3月18日(火) 13:00~16:10(会場受付開始:12:30)
※昼食は各自お済ませの上ご来場下さい。
※セミナー開催中の途中入場はお断りします。
※リモートでの途中退席は申込責任者に報告します。

・会場:エッサム神田ホール1号館6階(601)(※案内図をご参照ください)
・実施方法:リアルとZOOMによるリモートセミナー
(ZOOMセミナーアクセス方法はお申込み者様にのみご案内いたします)
・料金:20,000円(税別・1名様)
(※ニューフォーマット研究会会員企業様には会員価格でのご案内になります)
・申し込み締め切り:2025年月3月10日(月)

スケジュール

MDの3つの設計図
商品構成、商品分類、相乗積

[13時~14時40分頃]

NFI代表取締役 日野 眞克

(1)商品構成の原理原則
(2)商品分類の原則と需要創造(フェムテックなど)
(3)売場レイアウトの基本
(4)粗利ミックス・相乗積管理の進め方 他

SMの補完業態から食品のメイン業態へ
ドラッグストアの食品強化戦略

[14時50分頃~16時10分頃]

エイジスリテイルサポート研究所所長 三浦 美浩

(1)統計データに見るドラッグストアの食品市場の急成長の実態
(2)ドラッグストアで成長しているの食品カテゴリー
(3)ドラッグストアの食品 MD のポイント
(4)ドラッグストア食品のローコストオペレーション、商品管理 他

※講演時間は予定よりも短くなることも長くなることもあります。

会場案内図

会場詳細

〒101-0045
東京都千代田区神田鍛冶町3-2-2
エッサム神田ホール1号館6階(601)
URL:https://www.essam.co.jp/hall/access/#access_1

【アクセス】
●JRでお越しの方
神田駅東口より徒歩1分
●東京メトロ銀座線でお越しの方
神田駅3番出口より徒歩0分

注意事項

①会場へお越しの方は開催会場をご確認の上、お間違えの無いようご注意ください。
アーカイブ動画の配信はいたしません。当日参加でのみセミナーのご受講が可能です。
(配信の不備等によりご視聴頂けなかった場合には、後日動画のご案内をいたします。)

③リモートの場合はZOOMウェビナー形式で行います。3月14日(金)までに、お申込書に記載された受講者のメールアドレス宛に受講用URLを記載したメールを送付いたします。

お申込みフォーム

・お申込みは以下のお申込みフォームからお願いいたします。お申込み受付後、お申込み確認メールをお送りします。また、ご請求先として記入いただいた方宛に、請求書を発送させていただきます。
・ご入金後は、理由の如何に関わらず返金は致しません。あらかじめご了承ください。

本セミナーのお申込み受付は終了しました。
たくさんの参加申込み、ありがとうございました。

MD NEXTおすすめセミナー「日用品・化粧品業界の卸売業、その成長戦略と変革への挑戦」(開催:2月6日・主催:新報メディア)

MD NEXTからおすすめのセミナーのご紹介です。2025年2月6日(木)に開催される「第4回 業界発展戦略セミナー(主催:新報メディア)」では、物流コストの上昇、労働力不足、人件費の増加、環境負荷低減への対応など厳しさが増す企業を取り巻く環境下で、中間流通を支える卸売業の成長戦略の考察について、有識者の皆さまからご意見をいただきます。ぜひご参加ください。

物流コストの上昇、労働力不足、人件費の増加、環境負荷低減への対応など厳しさが増す企業を取り巻く環境下で、中間流通を支える卸売業の成長戦略を考察し、業界発展の道筋を探る。

新報メディアオンラインセミナーについて

日用品・化粧品業界の専門紙として業界全体を俯瞰しながら「これからの業界発展に何が必要か」を考え、オンラインセミナーという新しい情報発信形態にチャレンジしております。

実施概要

開催日時 2025年2月6日(木) 13:00〜16:30
※Zoom ウェビナー形式
(後日、期間限定でオンデマンド視聴可能)
申し込み期間 2025年2月5日(水)
対象者 日用品・化粧品業界のメーカー様、卸売業様、小売業様、その他関連企業様
お申込み 専用ページからお申込みください。
(定員になり次第締め切らせていただきます)
費用 9,900円(税込)
※申込完了後、お支払いについてご案内します
特別協力 株式会社プラネット

内容

(1)基調提言「PALTACの新たな価値創造への挑戦-長期ビジョンと中期経営計画-」

吉田 拓也 氏
株式会社PALTAC 代表取締役社長


日用品・化粧品業界最大の卸売業であるPALTACは、「誠実と信用」をベースにしながら持続的成長を果たすために「破壊と創造」を厭わない新しい発想で企業改革に挑戦し続けており、2024年には10年程度先の長期ビジョン及び3カ年の中期計画を策定した。
流通改革を通じた新たな価値創造へ挑戦する同社の成長戦略について吉田拓也社長が語る。

(2)講演「地域卸の全国ネットワーク『サプリコ』の全貌と成長戦略」

平井 誠一 氏
株式会社サプリコ 代表取締役社長 / 株式会社まさ屋 代表取締役社長


日用品・化粧品業界の地域卸65社が参加する全国ネットワーク組織のサプリコは、「共同企画販売」「商品開発」「共同納入」の3事業を中心に20年以上にわたり地域卸の事業活動の基盤形成に役割を発揮してきた。サプリコの活動の全貌と今後のサプリコと地域卸の成長戦略について平井誠一社長が語る。

(3)講演「卸売業を取り巻く環境と課題、その対応についての一考察」

白鳥 和生 氏
流通科学大学商学部経営学科 教授 / 流通経済研究所 特任研究員


白鳥和生氏は、元・日本経済新聞社記者で、小売業、卸売業を中心に流通業界の動向を長年追いかけてきたスペシャリスト。現在は流通科学大学で教鞭を取りながら、日々流通業界の研究を続けている。その白鳥教授が現在の卸売業を取り巻く環境と全般的な動向、課題とその対応について解説する。

(4)新報メディアからの提言

お申し込み

お申し込みはこちら
【問合せ先】新報メディア株式会社
(E-mail)seminar-g@shinpo-media.co.jp
(住所)大阪市北区天神橋2-2-11 阪急産業南森町ビル7階

北海道共通ポイントカード「EZOCA」を軸に高める地域愛

株式会社インフキュリオンは、ドラッグストアをはじめとした小売業界などに決済にまつわるソリューションを提供するフィンテック企業だ。インフキュリオンでは、2024年12月4日から6日にかけて、成長事業を Fintechで牽引する先駆者の取り組みを紹介するイベント 「Embedded Finance Days2024」を開催。金融サービスに取り組む各業界のトップランナーを招き、先端的な事例やフィンテック領域における最新トレンドを紹介した。

本イベントでは、サツドラホールディングス株式会社代表取締役社長CEOの富山浩樹氏が自社の取り組みを紹介し、主催者とセッションを行った。「地域との共創と活性を担うサツドラホールディングスの挑戦!-道民の顧客体験を進化させるデジタル戦略-」と題した講演の内容をお届けする。

『北海道の「いつも」を楽しく』というコンセプトを掲げ、ブランドを強化

代表取締役社長 CEO 富山浩樹氏:北海道で「サツドラ」というドラッグストアや調剤薬局、それに地域マーケティングを中心に事業をしております、サツドラホールディングスの富山です。本日は「地域」をテーマに我々が展開している事業の内容と、デジタルの取り組みについてお話させていただきます。

サツドラは沖縄などにも店舗がありますが、北海道を中心に、約200店舗を展開しており、「EZOCA」という北海道共通ポイントカード事業をはじめとした多角化経営を行っております。今期終了時点で売上高は約1,000億円を見込んでおります。

 

加えて、S Venturesというグループ会社でCVCも行っており、インフキュリオンさんにはここから出資させていただいております。

サツドラは約50年前にいわゆるパパママ薬局のような形で私の父と母が創業し、スーパーの一角でスタートしました。私は二代目で、社長を拝命して約10年になります。途中でEZOCAという新規事業をスタートし、またサッポロドラッグストアーからサツドラにリブランディングし、その後ホールディングス経営となりました。

今、サツドラはこのような店舗構えになっています。地方のドラッグストアということで、首都圏の店舗とは異なり食品の比率が4割を超え、生活総合ストアを目指した店づくりをしています。

再編が激しいドラッグストア業界において、サツドラというブランドをしっかりと認知していただこうと、約10年前のリブランディングでは、『北海道の「いつも」を楽しく』というコンセプトを掲げ、ブランドを強化しました。

また、コワーキングやコミュニティスペース事業を行う「EZOHUB」を札幌でスタートし、2024年5月には東京都品川区の天王洲アイルにもオープンしました。北海道をフィールドに、様々な事業のPoCを展開する企業さんと一緒に取り組みをしています。

北海道共通ポイントカード「EZOCA」は、道民の2.5人に1人が所有

グループ会社のリージョナルマーケティングでは、BtoBtoCで地域マーケティング事業を展開しています。EZOCAという北海道共通ポイントカードやモバイル決済サービスを提供しており、現在は約950を超える店舗で導入されています。

EZOCA会員は220万人超、北海道民の2.5人に1人が所有しており、非常に多くの方にご利用いただいております。通常のEZOCAとは別にプロスポーツチームや自治体と連携して、使えば使うほどチームや自治体に還元されるコラボカードも作っています。

また、EZOCAよりもっと大きな輪としてEZO CLUBがあります。EZOCAが「お得」「便利」といった機能面のところだとすると、EZO CLUBは「楽しい」「つながる」といったコミュニティマーケティングのような発想のもとで概念を作りました。EZO CLUBというコミュニティでいろいろなものがつながっていくなかで、EZOCAを使っていただくという考え方です。

JリーグチームコラボのEZOCAを使えばチームに還元されて応援になりますが、どちらかというと「チームを応援している人を応援」するような形で、コミュニケーションを組み立てています。

さまざまな企業と提携し、企業コミュニティも広がっています。例えば北海道コンサドーレ札幌のスポンサー企業であるサッポロビールさんとタイアップして、「サッポロクラシックEZOCAコンサドーレ応援缶」という北海道限定のビールを飲めば飲むほどチームに還元されるというように、商品を選択して消費が起きることで応援できるといった取り組みをしています。

提携している店舗は約950にのぼります。道外の方はロゴを見てもピンとこない企業が多いと思いますが、北海道民には「あの企業だ」とわかります。全国チェーン企業が中心というわけではなく、90%以上が地元資本の企業やお店なので、必然的に使えば使うほど北海道に貢献できるカードになっています。

地域のヒト・モノ・コトをつなぐ地域コネクティッドビジネスを展開

サツドラホールディングスでは、「ドラッグストアビジネスから地域コネクティッドビジネスへ」というビジョンを掲げています。地域のあらゆるヒト・モノ・コトをつないでいくことが我々の強みであり、これを新たな事業体にしていきたいという思いで名付けました。ドラッグストアも地域コネクティッドビジネスの一つであり、ドラッグストアをやめるという意味ではありません。

「事業で地域の活動に取り組んでいる」と言うと、「偉いですね」などと、CSR、ボランティアに捉えられることもあります。そうではなく、我々は企業が成長していくために地域コネクティッドに取り組んでいることから、こだわって名前に「ビジネス」と付けています。

クラウドPOSの開発・外販は大きな強み

グループ会社のGRIT WORKSでは、POSシステムと基幹システムを中心に開発しています。約10年前にEZOCAを始めるタイミングで、サツドラはクラウドPOSを自社開発しました。これはハードに縛られていると柔軟性やスピード感が持てず、EZOCAの展開にあたっても、先まで要件定義していくのが非常に難しいという課題があったためです。

ソフトウェアを開発してハードをつなぎ込んでいくようにし、内製化で生まれたノウハウを外販するためにGRIT WORKSを作りました。当時はクラウドを採用しているチェーンストアはなかなかありませんでしたが、今では飲食も含めた様々なチェーンストアで導入いただいています。ここが我々のコアであり、強みになっています。

サツドラ公式アプリのDL数は85万 紙チラシの大幅削減を実現

アプリはお客さまとの新たな接点ということで、各社で力を入れている施策です。我々はアプリをいかにシンプルに使いやすくするかにこだわり、ドラッグストアの中で高いユーザー評価をいただいております。現在のダウンロード数は85万で、北海道に特化したリージョナルチェーンストアとしては、かなりシェアが上がってきていると感じています。

アプリが販促の中心になり、アプリ経由での売上比率も上がってきたため、2年ほど前からは短期特売チラシはほぼゼロにし、チラシは年金支給日と歳末に絞っています。

データ分析においては、顧客クラスター分析を強化しています。例えば「ペット」、「医薬品・化粧品」、「働く女性」など様々なセグメントに応じてクーポンの出し分けも行っています。それぞれのセグメントにとって「いつでもお買い得」なESLP(エブリデーセイムロープライス)の実現を目指しており、CVR(コンバージョンレート)も非常に向上しています。

サツドラDB(データベースマーケティング)の属性や購買履歴はもちろん、コラボEZOCAのIDも紐付いており、「このスポーツチームを応援している」といった属性も取れるので、非常にエモーショナルでエンゲージメントの高い1to1マーケティング施策を打つことができます。

アプリでやりたいことを実現しようとしても、POSや基幹とのつなぎ込みで苦労し、スピード感が遅くなったりすることがあると思います。我々のアプリでは、コントロールディレクションは内製化したうえでサイバーエージェントさんとパートナーシップを組み、POSと組み合わせながら素早くPDCAを回していけるのが強みになっています。

その代表例の一つが、アプリ限定価格です。お客様がアプリをダウンロードしていれば、クーポンを出す必要がなく、スキャンのみで自動的に安くなるという施策を行っています。

OMOプラットフォーム「リテールコネクト」で店舗をWeb化する

もう一つがOMOプラットフォームの「リテールコネクト」です。昨今はリテールメディアとも言われますが、アプリを軸に、店頭メディアをどう組み合わせるかというところに取り組んでいます。

サイバーエージェントさんと我々でAWLというAIカメラの会社に投資して、カメラを駆使しながらお客様の動線や属性を視聴分析し、サイネージ広告の最適化を図っています。リアルの空間をどのようにWeb化していくのか、そこにアプリやECを組み合わせるとどのように直接の購買に結びついていくのかなどを分析しています。

また、調剤のプラットフォーム強化も進めています。

アプリを軸にしながら、決済やECといった機能を強化していくことで、リアルのお客様の購買の幅も広がっていくことを計画しています。

自治体と連携し、地域活性とビジネス展開を図る

我々は様々な自治体と包括連携を結び、地域活性とビジネスを組み合わせた施策にも取り組んでいます。

北海道は日本国土の5分の1の広さがありますが、人口は少なく、人口減少数は全国一です。その中でも人は札幌に一極集中していて、それ以外のエリアの過疎化が激しくなっています。そのような状況において、策を出してインフラを保っていくことが、我々の果たすべき役割だと思っています。

自治体はインフラとしての小売にニーズを持っており、どのように小売の持続可能性を補い合っていくかというなかで、役場と同じ敷地内にドラッグストアを出店させていただくという取り組みを複数行っています。

例えば当別町では広い土地の中で町が分散していて、役場本体があるエリアともう一つのエリアが離れて人が集積しています。その離れたエリアのドラッグストア店内にサテライト役場を出し、オンラインを活用しながら、現在では住民サービスの90%以上を提供できるようになりました。マイナンバーの機能が強化され、来年にはほぼ100%の役場機能が提供できるようになります。

店内にはコミュニティスペースもあり、我々が提供するプログラミング教室に子供たちが参加するなど、お店を町の集いの場にするという取り組みも行っています。

また、EZOCAのIDを使いながら、乗り合いタクシーのような形で運営するマース(MaaS)も複数の自治体で実施しています。この軸となるのが地域還元型EZOCAです。

商店街カードのようなものは昔からありますが、人口減少にともなって商店街が衰退していくと、自分たちだけでカードを維持するのはほぼ不可能になります。それを北海道全域で使えるEZOCAにリプレイスし、町に還元できるカードにします。商店街さんにも相乗りしていただいて、役場やMaaSでも使えるカードにして町全体で取り組んでいくという試みを広げています。

EZOCAのキャッシュレス機能により、町のキャッシュレス化も進んでいます。例えば江差町の人口は6,000人弱ですが、町民の9割以上が江差EZOCAを持っており、商店街に行くと江差EZOCAの旗がたくさん立っています。町の公式LINEの中にも江差マースや江差EZOCAが入っています。

過去に日経MJさんでの取り組み紹介記事にも大きく取り上げていただき、その時の見出しで「過疎地丸ごと」と表現されましたが、決して乗っ取ったというわけではありません。町・町民の皆さんと共創して一緒に作っていくイメージとして取り組んでいます。

また、江差町には北海道3大祭りの一つがあり、祭りが好きな方がたくさんいらっしゃる地域です。EZOCAを使った自分の買い物行動が祭りの運営資金などにも還元されることから、町の人のエンゲージメントが上がっていきます。スポーツチームを応援するような形で町へのエンゲージメントが高まっていくことが、地域ポイントカードにとっては重要だと感じています。

地域EZOCA利用者の人口対比は、江差町は108%、小清水町は92%となっています。江差で100%を超えているのは、江差町出身で、現在は江差以外に住んでいる方にも持っていただいているためです。ふるさと納税のように、地域外の全道のサツドラで江差EZOCAを使って買い物しても江差のまちづくりのために還元されるというモデルになっています。

EZOCAを地域通貨にし、地域内での経済循環を目指す

現在、EZOCAをデジタル地域通貨にするためのプロジェクトを進めています。ポイントで実現してはいますが、これをよりデジタルに、汎用性の高い決済手段として広げていき、地域内循環とデータ構築につなげることを目指しています。

人口減少を放置するとGDPも下がっていきます。北海道を一つの国だと捉えると、域外流出させるのではなく、域内で循環するものを増やしていく。それを使うことが地域資産になるということを地域の方にも啓発し、地域内で循環する経済を作っていくという構想をもっています。

地域通貨はここ数年ブームになっていますが、商店街や自治体、町の学校といった小さな規模の中で回っていて、成功している事例は少ないと思っています。

お金として機能するには、ある程度の量が必要です。EZOCAは北海道ほどの単位があり、かつセグメントをしたうえで、それぞれのエンゲージメントを高め続けて循環させている点が地域通貨として成立していくだろうと考えております。

全国でも地域通貨は話題ですが、今のところ成立している一番大きな事例でも数万人規模です。EZOCA会員は220万人いますが、仮にこれが10万人、20万人の規模になっても、日本で1番の、また世界でも有数の地域通貨になれるのではないかと考えています。

我々がこれを実現できるのは、店舗があるためです。日々サツドラにお客さまが来ていただくことで、データのトラフィックが起きています。お金でいえば発行体を持っているようなもので、そこで循環の起点を作っていけるのは非常に大きな強みです。

また我々はEZOCAだけでなく、他ブランドの決済ゲートウェイも提供しており、1万ヵ所以上で導入いただいています。そこに我々の地域通貨も加えていくことで、一気に拠点を増やすことができています。

これからも地域通貨へのエンゲージメントを高め、社会課題や地域課題にコミットすることで新たな地域のプラットフォームやエコシステムを作り、地域コネクティッドビジネスというビジョンを実現していきたいと思っています。

課題先進地域でも決済で「つながる」「楽しい」は実現できる

株式会社インフキュリオン 来田:ありがとうございました。富山さんの北海道への愛が伝わってくるお話で、地域連携をビジネスとしても成立させようとされているのが印象的でした。

以前、富山さんは「北海道は課題先進地域だ」と仰っていましたが、課題対応のための取り組みを進めるうえで、キャッシュレスやフィンテックに対して期待していることや、もっとこうだったらよいと感じていることはありますか?

富山:EZOCAでは「お得」「便利」という機能面に加え、「つながる」「楽しい」というEZO CLUBの概念を作っていきたいとお話しました。決済においても、いかに意識せずに日常の暮らしの中で利便性を高めていけるかが重要だと思います。地域がつながっていくところに新しい事業が加わって、決済は意識せずに自然に行われ、体験やサービスに集中できるようになるといいですね。

またAmazonのワンクリック決済のように、自然に決済が行われるような体験をリアルな空間でも提供していきたいと思っています。例えば温浴施設などでは、リストバンドを着けていると決済が楽になって、どんどん体験が進むといったことが実現しています。

我々は音楽フェスやイベントなどにも決済を提供していますが、そういった中でも登録をしていれば、課金が必要なシーンでは自然と決済が行われて体験が享受できるといったUI/UXを作りたいと考えています。

来田:我々も、決済が目的にならないためにどのようなサービス設計をすればよいのか、よく社内で議論しています。決済は、認証と決済切りの両方を兼ね備えることによってスムーズになります。「認証が済んでいればどのタイミングでもスムーズに決済できる」ということをいかに実現できるかが、今後のサービスの鍵になると思います。

北海道に地域通貨の経済圏ができて、サツドラ公式アプリやEZOCAを使えばどこでも決済できるといった世界観が、もっとこなれたものになっていってほしいと思います。

富山:それが理想ですね。楽しく推し活をするなどの自分の行動が決済に反映されて、地域が良くなっていくといったことが実現できるように、サービス設計をしたいと思っています。

来田:そうですね。お客様の内省的なモチベーションやエンゲージメントに働きかけて使ってもらうことは、エコシステムとして非常にワークしやすいものだと思います。その仕組みをどう提供していくかというところで、いろいろと活動が増えていると思います。

富山:地域通貨を運用する際には、「コミュニティに対して行動が起きる」とか「地域貢献」といったところを軸に設計されます。その思想には私も共感しますが、そこだけに閉じた世界で設計すると、すごく小さくなってしまうのが難しいところですね。地域貢献というモチベーションだけで動くのはまだまだアーリーな方やニッチな方なので、「お得」「便利」というインセンティブも組み合わせながら展開していかないとワークしなくなってしまいます。

例えばコンサドーレEZOCAでも、お客さまが自分のポイントを差し出すわけではありません。むしろお客さまは得をして、且つその行動に対するプラスアルファは我々が販促費的にチームにポイントバックをするという設計になっています。お客さま自身は吐き出さずに、行動を変えることによって、「お得さ」と「チームへの貢献」の両方を取れる状態です。

また企業側・お店側でコンサドーレを応援したいと思っても、何百万円、何千万円でユニフォームに名前を入れるのはハードルが高いですよね。ですが、コンサドーレのサポーターになってもらい、「このビールを飲めばコンサドーレにバックします」という仕組みにすれば、お客さまのほうでも「どうせ飲むならそちらのビールを飲もう」と思ってもらえます。

行動経済学的に考えても、「お得」と「貢献」の両方を組み合わせることによって機能しやすいのではないかと思っています。

来田:コンサドーレさんとしては送客機能が自発的に来る分、それをお客様にお返ししますよというように、決済を軸にしてなめらかな送客ができ、それを内部で回していける素晴らしい仕組みだと思いました。

ここからは質疑応答に移ります。

Q:「ID-POSを活用してデジタルマーケティングにつなげるという試みは直近のトレンドで、多くの会社でチャレンジしています。すでにデータとメディアを保有している御社では、今後10年、20年先を見据えた時に、どのような試みを考えておられますか」

富山:大事なのは、データを分析することによって、これからどのようなサービスを提供していくかです。我々の強みは、お店の外まで出たうえでのお客さまデータも保有しているところですので、それをもとにサツドラが自社でサービスを作ることも、他社さまと組んでサービスを提供していくこともあると思います。

例えば、サツドラではペットフードやペットシーツ、猫砂といった商品を販売しており、ペットを飼っているお客さまが確実にお店に来ているというデータを持っています。こういったデータを保有しながらプラットフォームを持つようになると、他のペット関連道具やペット保険、動物病院さんと連携しながらのオンライン診療、チャットでのご相談受付など、ペットというライフを軸にした、我々が現在取り扱えていないサービスを、生活圏の中でもっと提供していけるようになります。

ペットの事例に限らず、さまざまな生活領域でそういったサービスの提供が可能になります。全てのサービスを我々がやる必要はなく、いろいろな会社さまと連携しながら作っていくことが重要だと思います。

Q:「EZOCAの決済やポイントのデータを分析して、ドラッグストア以外の事業へのお客様への送客を実施していますか?」

富山:今もしていますし、これからもっとしていきたいと思っています。お店と、お店の外を組み合わせたサービスを提供するという形での送客になっていくでしょう。

来田:お店だけでは生活の一部なので、それ以外のところのサービスも提供して、経済圏として支えていくというイメージでしょうか。

富山:そうですね。例えば、10年後、20年後のことまで考えると、ドラッグストアで洗濯洗剤を売らなくなることもあると思います。三大家事の掃除・洗濯・食器洗いの中で1番嫌われているのが洗濯です。そうなると、今後は洗剤を売るのではなく、洗濯を丸ごと請け負うサービスをサブスクの中で提供できれば、使いたいお客さまが増えると思います。

モノを買うという行為は、何らかの生活サービスを充足させたり、なくしたりしたいというインサイトだと考えられます。それを実現しようとすると、10年後、20年後には「モノを売る」だけではなくなっていくのではないでしょうか。

Q:「取り組みのなかで、内製で取り組んでいるものと他社と協業しているものがあるようですが、内製と他社協業の選択基準がありましたらご教示ください」

富山:コアな部分で自分たちがハンドリングできるところをいかに内製化して、他社さまの得意分野と組み合わせるかが重要だと思います。小売のITでは、基礎的な機能は汎用性があるところなので、そこは自分たちでデザインできるようにする一方で、スタックしがちなPOSや基幹の部分は他社さまと協業しています。レベルの高いエンジニアを自社で育てるのは非常に大変なうえ、必要な能力も市場が変化すると急に変わってしまうので、そこは他社さまとうまく協業したいところです。

Q:「地域通貨に関して、金融機関との連携についてはどのようにお考えですか」

富山:我々はBtoBtoCにもEZOCAを使っていたり、サツドラとして福利厚生サービスを企業さまに提供したりもしているので、給料や福利厚生のところを軸に、ビジョンが一致できる金融機関さまとご一緒したいと思っています。

来田:ちなみに、デジタル地域通貨を進めるうえで、最終的に北海道の地域経済でどれぐらいの決済比率を取っていきたいといった目標はありますか?

富山:目標はありますが、すごくメジャーになるというよりは、やはり一部の地域還元や、エンゲージメントの向上を果たせるものになっていきたいと思っています。地域通貨は生活に密着した中で経済を早くぐるぐる回していくものだと思うので、その役割を担えるような通貨にしていきたいです。またハードルは高いものの、市場の大きいBtoBにもチャレンジしたいところです。

来田: BtoBは我々もかなり力を入れている領域ですので、そういった面でも何かご一緒できればと思います。本日はありがとうございました。

リモート接客最前線「RURA」の接客革新

遠隔接客システム「RURA(ルーラ)」を展開するタイムリープ社は様々な業種の業務効率化を実現し急成長を遂げている。2024年の東洋経済の「すごいベンチャー100」に選出され、業界の注目を集めている同社が今後の法改正が見込まれるOTC医薬品の遠隔販売解禁を見据え、人手不足解消と専門性の高い接客の両立をどのように目指すのか、望月代表にその戦略を聞いた。(月刊マーチャンダイジング2025年1月号より転載)

急成長するタイムリープ社

2019年6月の設立以来、遠隔接客システム「RURA」を軸に急成長を遂げているタイムリープ社。ジャフコグループやセーフィー社、グローリー社など有力企業からの出資を受け、この資金力を背景に同社は着実な成長戦略を展開している。

特筆すべきは、創業からわずか5年で遠隔接客ソリューション市場をリードする存在に急成長した点だ。

2020年10月には東京都主催のASAC AI.Accelerator賞を受賞し、2021年3月には経済産業省主催のNEW NORMAL LABに選出。さらに2023年にはICCサミット KYOTO 2023 SaaS RISING STAR CATAPULTで3位に入賞するなど、その革新性は各方面から高い評価を受けている。

多方面における導入実績が示すRURAの汎用性

RURAの最大の特徴は、店舗の省人化を実現しながら質の高い接客体験を提供できる点にある。実際に数十店舗を4名で接客するという驚異的な実績も生み出している。この効率性は、単なる人件費削減にとどまらず、接客品質の標準化と向上にも貢献している。

複合カフェの「自遊空間」の受付、遠隔接客でお客を希望のメニューに案内する

導入実績は多岐に渡る。漫画、ビリヤードなどが一体化した複合カフェの「自遊空間」では24時間営業の安定稼働に貢献し、JR東日本「ホテルメッツ」ではフロント業務の効率化を実現。スルガ銀行では窓口業務の待ち時間削減に成功し、玉川高島屋ではインフォメーションカウンターにおいて質の高い案内を可能にした。

また立命館大学ではキャンパス案内や入試相談の効率化を実現し、観光分野ではJTBが導入し接客のセントラル化を実現している。

これらの導入事例から見えてくるのは、RURAの汎用性の高さだ。業種や用途に応じて柔軟に対応可能な設計思想により、様々な現場のニーズに対応できている。特に注目すべきは、接客品質の向上と業務効率化を両立させている点だ。

RURAの多彩な機能が実現するユーザー体験

RURAによる遠隔接客のユーザー体験のはじまりは大きく分けて二つのパターンがある。一つは顧客が自らRURAに近づき操作を開始する方法で、もう一つは遠隔スタッフが状況を判断して顧客に対して能動的に声がけを行う方法だ。

特に後者は、顧客満足度向上において大きな効果を発揮している。遠隔スタッフは、RURAに搭載されている高精度カメラを通じて来店客の表情や動きを確認し、操作に困っている、話しかけるスタッフを探している、などの状況をリアルタイムで随時把握しながら、適切なタイミングで声がけを行う。これにより、対面での接客と同等もしくはそれ以上に相手のニーズに寄り添った細やかな対応が可能になる。

遠隔接客の管理画面、複数の画面でもお客の動きを察知しやすく反応しやすく設計されている

運用管理・改善の点では、待機中の店舗状況確認から、呼び出し対応、接客、分析までの一連のプロセスをシームレスに管理することが可能だ。特に接客分析機能は、店舗やスタッフごとの接客件数や対応を可視化し改善活動に役立てることでサービス品質の向上に寄与している。具体的には、接客時間、応答速度、顧客満足度などの指標を総合的に分析し、スタッフの教育や業務改善のPDCAを回すことが可能だ。

技術面での特徴としては、高品質な映像・音声通信を実現する独自の通信プロトコルを採用し安定した接客環境を実現するとともに、多言語対応の翻訳・字幕機能(有償オプション)により、インバウンド需要への対応も可能だ。また、各種手続きをサポートする手元カメラ機能は、遠隔からの書類の確認や商品説明時に威力を発揮する。

必要に応じてアバター接客機能も提供可能だが、これまでの運用実績から、人による接客がより高い顧客満足度につながることが明らかになっているので、クライアントにはアニメーションのアバターではなく、あくまでもスタッフが顔出しで接客を推奨しているということだ。

OTC医薬品遠隔販売の法改正に向けて

このようにドラッグストア(DgS)以外の業種では確かな成果を挙げているRURAだが、DgS業界についてはどのような形で活用すべきであろうか。望月代表は政府が打ち出しているOTC医薬品の遠隔販売に関する法改正がドラッグ業界における活用の大きな転機と見ている。

2022年12月、政府のデジタル臨時行政調査会は、医薬品販売におけるデジタル技術活用の方針を示した。この方針は、深刻化する地方での薬剤師不足や、高齢化社会における医薬品アクセスの課題に対応するものだ。具体的には、販売店舗と設備、有資格者の分散配置を可能とする制度設計の検討を開始し、2024年6月までに結論を得る方針を打ち出した。

この動きを受けて2024年1月には、医薬品の販売制度に関する検討会が重要な提言をまとめた。医師会、薬剤師会、日本チェーンドラッグストア協会など、業界の主要なステークホルダーが参画したこの検討会では、遠隔での医薬品の説明や健康相談の実現可能性について詳細な議論が行われた。

その結果、有資格者とのオンラインによる情報提供・相談により、資格者が常駐しない店舗でのOTC薬購入が可能になるという考えが示されている。

提言内容は、薬剤師等が常駐しない店舗(受渡店舗)での医薬品の保管や受け渡しを、管理店舗の薬剤師等による遠隔管理のもとで可能とするもので、具体的には遠隔接客後に「確認証」を発行、この確認証をもとに医薬品の受け渡しを行うというものだ(図表1)。

[図表1]リモート情報提供を使ったOTC薬販売の販売イメージ

現在、詳細については継続的に議論が行われているが、遠隔による情報提供・相談を前提としたOTC販売が解禁されるのは有力視されており、解禁されれば、薬剤師、登録販売者の勤務形態や必要な設備、業務フローも変化する。

 

タイムリープ社の望月代表のインタビューを含む本記事の全文は、月刊マーチャンダイジング2025年1月号に掲載されています。

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食品小売業態が直面する2025年の課題とは?~生活防衛、商品開発、コスト削減への対応~

本連載「業態STUDY」は主にコンビニ業態の動向をリポートしている。今回は視点を少し広く持ち、コンビニを含む「食品小売業態」全般における2025年の課題をまとめていきたい。テーマとして第1に「生活防衛」、第2に「商品開発」、第3に「コスト削減」の3つを取り上げたい。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年1月号より転載)

国内2大流通グループが示す低価格政策に同業他社も追随?

実質賃金(労働者が実際に受け取った名目賃金から物価変動の影響を差し引いた指数)は2024年9月が前年同月から0.1%減少、前月8月も0.8%の減少でマイナスが2ヵ月続いている。2024年6月、7月はプラスに転じたが、同年5月まではマイナスが26ヵ月続いてきた。実質賃金を決める消費者物価と所定内賃金の上昇率の差は縮まってはいるものの、生活防衛の意識は当分続くであろう。

消費者の生活防衛意識を反映して、イオンは2024年11月13日から、イオン、イオンスタイル、マックスバリュなどの全国約1万店舗で、グループのPB「トップバリュ」36品目を値下げしている。24年度に値下げした商品は累計で115品目となった。

他方、11月に値上げが実施・予定されている食品の品目数は11ヵ月ぶりに前年を上回っている(帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査2024年11月より)。

お客の生活防衛意識が敏感になるなか、イオンは特に支出が増える年末年始に向けてコスト削減に取り組み、グループ独自のネットワークを最大限に活かしたサプライチェーンの構築や計画生産により値下げを実現させたという。

イオン取締役兼代表執行役社長の吉田昭夫氏は2024年10月9日の中間期決算説明会で「食料品におけるお客様のバスケット点数は一定程度の減少が続き、セールの日(イオンの感謝デー)に来店が集中する傾向が出ている。価格訴求を行うスーパーマーケット企業も増えている」とする消費環境を認識した上で、「上半期にやや中途半端であった価格の打ち出しを下期は明確にして、トップバリュのベストプライスに代表される、お値打ちの商品を打ち出す方針を示した」と消費者の生活防衛に応えていくとした。

イオンのトップバリュには、メーンブランドの「トップバリュ」、健康生活に訴える「グリーンアイ」、そして価格訴求型の「ベストプライス」の3つがある。この中で、絶対価格の低い「ベストプライス」を特に拡充する。

「10月からは食料品の価格が3,000品目で上ると報道されている。こうした状況をPBの優位性が発揮しやすい環境ととらえて、下期(2024年9月〜2025年2月)はベストプライスにより集客力を増して、売上を伸ばし、粗利総額を高める展開にしていきたい」と吉田氏。価格訴求を強めていく姿勢を明確にしている。

セブン&アイ・ホールディングスの主軸であるセブン-イレブンも同様の姿勢を強く持ち、上期までは価格対応に遅れたと認識し、安価な商品にフォーカスした販促「うれしい値!宣言」により、品揃えの中で品質だけではなく、価格でも食品スーパーやドラッグストアに対抗できる商品を訴求している。

国内2大流通グループが価格政策の方針を示した以上、同業他社も意識せざるを得ない。通常PBの値下げ、低価格PBの拡充は、食品小売業の共通課題といえるだろう。

チェーンストアが目指すべきはタテ軸よりもヨコ軸の豊かさ

「生活防衛」を理由にした低価格対応は、今の消費者に受け入れられるに違いない。イオンもセブン&アイ・ホールディングスも、そこに注力している。一方でチェーンストアらしい生活提案、例えば今まで経験してこなかった食生活の豊かさもスーパーマーケット各社は継続して提案している。

その商品開発には、タテ軸とヨコ軸の方向がある。タテ軸は品質を伴う価格帯、ヨコ軸は価格に捉われない食生活の新しさといったイメージである。例えば、外国産牛肉をメーンに、国産牛肉、ブランド牛(銘柄牛)肉と価格帯を上げて選択肢を増やす取り組みがタテ軸の豊かさであり、ヨコ軸の豊かさは、高級化、上質化ではなく、牛肉のバラエティを横に広げていく商品開発になる。

例えば食品スーパーのヤオコー(本社/埼玉県川越市、グループ234店舗、2024年9月末)は24年度にローストビーフの自社製造を始めた。精肉部門で扱うローストビーフのほかに、惣菜部門のローストビーフ丼、寿司部門の肉寿司、ベーカリー部門のローストビーフバーガーといった、多彩な商品化を試みて、ヨコ軸の豊かさを実現している。自社製造で味と鮮度を向上させ、商品の差別化に加えて製造者利益を高める政策だ。

商品・販売戦略:SPA型商品開発

ちなみにヨコ軸の豊かさで筆者が感心した事例は、2022年7月にセブン−イレブンが導入したセブンカフェの「濃さ」を選べる新仕様だ。「軽め」「ふつう」「濃いめ」の3つから同じ価格で選択できるようにした。それ以前は、地域や期間を限定したコーヒー銘柄を投入し、価格帯の高さによるタテ軸の豊かさを提案していた。

一方のヨコ軸は、朝は気を引き締めるために「濃いめ」、昼は食後に「ふつう」、午後の休憩はスイーツと一緒に「軽め」といった、時間帯やその日の気分、好みによる選択肢を増やして、コーヒーを楽しむ新たなライフスタイルを提案となった。当時の取材で開発担当者に聞くと「ヨコ軸もタテ軸も両方を広げて市場を広げたい」とコメントしている。

実質賃金が上がらない中で、価格を上げずに、チェーンストアが実現する豊かさを、ヨコに広げていく展開を筆者は期待している。

ドン・キホーテは2009年にオリジナルブランド「情熱価格」を立ち上げ、2020年夏〜2021年2月に大幅なリニューアルを実施。「情熱価格」をドン・キホーテらしいブランドへ刷新して、同質化から脱している。

ドン・キホーテのオリジナルブランド「情熱価格」は、驚きのニュースのない商品は作らないと宣言。商品パッケージには過剰なくらいの文言が並ぶ

開発に際して、PBを「ピープルブランド」(顧客とともに驚きのニュースを作り出すブランド)へコンセプトを転換、常に「サムシングニュー」がある売場をつくり続けるために、同社は「驚きのニュースのない商品は作らない」ことを宣言している。商品パッケージに入れ込む商品名を“ニュース”と呼び、過剰なまでの説明書きを記している。

利用客が認知できない高級素材を入れ込んでも、単に品質を見直して低価格を訴求しても“ニュース”にはならない。価格に対して厳しく臨むのは「情熱価格」であるから当然であり、パッケージに書かれた価格以外のニュースで伝える価値と、その実売価のギャップから生まれる「値ごろ感」を重視している。

「情熱価格」商品のパッケージを紹介すると、「素煎りミックスナッツDX(デラックス)」には次のように記されている。「年間売上10億円突破 ナッツを愛しすぎた担当者が独断と偏見で決めたアーモンド・カシューナッツ・くるみの黄金の究極比率 食塩・油を使わないこだわり」

以前、同商品の年間売上は7億円と記されていたが、24年度は数字が更新されて10億円に。続く「独断と偏見」は宣伝文句と思うが、ミックスナッツの比率を訴求する商品は他に見当たらないであろう。開発担当者が原価調整ではなく、おいしく感じる比率に配慮したということ。そうした姿勢が、価格以外のニュース性となって付加価値を高めている。

今までの商品になかった“驚き”を訴求して、お客のライフスタイルに“豊かな生活”を提案している。

第3のテーマは「コスト削減」。スーパーマーケット各社の2024年度中間期決算で説明を聞くと、軒並み「増収減益」を強いられている。

例えば、上場しているイオンの地域事業会社、イオン北海道、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス、マックスバリュ東海、フジ、イオン九州のうち、増収増益はマックスバリュ東海1社のみで、他の4社は(赤字1社を含む)全て増収減益になった。

増収については生鮮を含めて1品単価の値上がりが大きく影響している。一方で、減益については価格競争に対応した値入率の低下と、賃上げによる人件費の上昇、他に配送費、水光熱費などのアップがあり、それらを吸収できずにいたことが理由である。

パート・アルバイトの人件費は、企業側にとっては厳しくなる。石破茂首相は、2020年代に最低賃金の全国平均時給を2024年の1,055円から1,500円に引き上げる方針を示している。1,500円は現行水準の4割超の引き上げになり、5年以内での実現は難しいと考えるものの、各企業にとって生産性向上は急務となる。

スーパーマーケット各社は、「フルセルフレジ」と「電子棚札」の導入比率向上を課題にしている。「フルセルフレジ」はスーパーマーケット各社で急速な導入を見せており、電子棚札への移行も徐々に進んでいる。ただし、この2つも既にゴールが見えており、そこから先はDXを用いた、いっそうの生産性向上が求められている。

スーパーマーケットやコンビニ各社は、大衆の「生活防衛」に応える一方で、「商品開発」により新たなライフスタイルを提案、それを「コスト削減」により実現させる取り組みが進められている。