調剤領域でAIとITを活用した「薬急便」新サービス
サイバーエージェントの連結子会社である医療AIカンパニーMG-DXは、今回の展示会に「薬急便」のサービスラインナップとして、自律型対話AIを活用した受付業務サポートと他店舗スタッフによる遠隔接客を組み合わせたシステム、そして調剤薬局における待ち時間で買い物を促進する受付管理システムの2つのサービスを展示した。
自動接客の可能性を示す「遠隔接客AIアシスタント」
まず紹介するのは、遠隔接客AIアシスタントだ。本サービスは、MG-DXとサイバーエージェントの人工知能技術の研究開発組織「AI Lab」が共同開発したものだ。
今回の展示では、映像や音声の高速認識・自律対話技術を駆使することで、ロボットやCGアバターが薬局の受付業務を代替する様子が紹介されていた。
またこのサービスは必要に応じて遠隔から人がサポートする機能も兼ね備えており、受付業務を可能な限りAIに任せながら必要に応じて人が介入するという体制を整えることで、省人化を実現しながら接客品質を落とさないよう運用の最適化が配慮された設計になっている。
サイバーエージェント社によれば、小型ロボットの接客は高齢者や子供の患者がより受け入れやすい傾向にあるということで、ITが苦手な顧客層に対する自動受付・接客業務の推進、またカスタマーハラスメントからスタッフを守るという視点からも新しい可能性を示していた。
専門知識を持つ人材が複数店舗で接客できる「遠隔接客システム」
ロボットやCGアバターなどのAIエージェントによる接客が単純な受付業務領域にフォーカスしている一方で、薬剤師が遠隔から画面上で服薬指導などの接客を行うことができる遠隔接客システムは、オンラインの利便性を活かし専門性の高い人材の活躍の場を拡大。自身の勤務する薬局から複数店舗に対して患者の需要に応じたフレキシブルな接客を可能にする。
近年、薬剤師の人材不足・エリア不均衡が問題になっており、都心ではそれなりに人員が確保できているが、地方では人員不足が深刻化しているなど「偏在」が顕著になっている。
本サービスの導入によってこの偏在を解決し、採用コストの削減、店舗ごとの業務の平準化、対人業務の体制強化、患者対応の品質向上、薬剤師の業務負荷軽減などの効果が期待できる。
調剤薬局の現場では、調剤業務を行っている間に接客ができずにいると来訪した患者がその状況を見て店舗を出て行ってしまうということも多く発生する。こうした機会損失をなくす上でも遠隔接客を活用した接客業務の最適化は非常に重要な取り組みとなる。実際の引き合いも混雑店舗やワンオペ店に対して課題を持っている調剤薬局が多いということだ。
また、専門性という観点でも、糖尿病や高血圧など特定の疾患に対して高い知見をもつ薬剤師もいるので、こうしたそれぞれの専門性と患者とのマッチング最適化というところでも遠隔接客が今後果たせる役割は大きくなってくる。
薬局業界初、オンライン・店頭受付の統合管理システム「モバイルオーダー」
薬急便サービスで最後に紹介するのは、薬局業界初となるオンライン・店頭受付の統合管理システム「薬急便モバイルオーダー」だ。
このシステムの主な特徴は、受付の一元管理、待ち状況の可視化、そして調剤完了の通知機能にある。これらの機能により、順番待ちに対するクレームの削減や薬局の混雑緩和が実現可能となる。
サービスの流れは、まず薬局での受付(有人)を行うと受付番号とQRコードが印刷された受付票が発行される。
患者は受付票に記載のQRコードをスマートフォンで読み取ると、待ち状況や自身の薬の準備状況をいつでも確認することができる。さらに、ブラウザ上で遷移した画面に自分の電話番号を入力するだけで、薬の準備ができたタイミングでSMSの通知が届く仕組みだ。通知を受け取った患者は調剤薬局スタッフに受付票を提示し、本人確認を行った後、薬が手渡されるという非常にシンプルなプロセスだ。
薬急便の特筆すべき点は、アプリのダウンロードが不要なブラウザ型であること、さらに店舗アプリやLINE公式アカウントに組み込めることだ。これにより、自身のスマホで簡単に待ち状況が確認できるとともに新たなオンラインサービス体験の機会を創出する。
店舗(薬局)での受付に加えて、外部から処方せん画像を送信することで、受取時間の予約、スマホで準備完了の連絡を受けることができる。あらかじめクレジットカードを登録していればオンラインで決済も可能。
導入した薬局からは「もうできた?」などの質問が激減し業務の中断が減少したという声や、待たれるプレッシャーから解放され業務に集中できる環境が整備された、などの声が多く寄せられているということだ。
また、患者向けの実際のアンケート調査では呼出通知希望率は導入店舗平均で70%に達しているということで、調剤薬局にとっても患者にとっても利便性の高い嬉しいサービスだ。
現在、クオール薬局、サンドラッグ、サツドラなど多くの大手チェーンでの導入が進んでいるが、その背景には深刻な人材不足とそれを解消するための職場環境改善の必要性がある。
薬急便モバイルオーダーは、患者の利便性と同時に、調剤部門スタッフの働く環境を改善し離職率を下げることに貢献している。
進化を続ける店舗サイネージプラットフォーム「ミライネージ」
ミライネージは、実店舗のメディア化を実現する店舗サイネージ配信プラットフォームだ。全国約50,000台の導入実績を持ち、商品認知率や売上向上の効果が確認されている。
「ミライネージ」がもたらす価値は多岐にわたる。小売店舗における販促オペレーション業務の効率化はもちろん、店舗のメディア化による収益最大化、そして新しい顧客体験の創出だ。今回の展示では大型ディスプレイを3台並べ、3台の画面がひとつのサイネージ画面として機能することでよりダイナミックな訴求を行っていた。
従来は店舗入口での商品ブランド認知を目的としたディスプレイ展開が中心であったが、今後は店舗入口において認知効果を最大化しながらも、店内の各商品カテゴリー、定番棚付近にも最適化されたディスプレイを設置し、特定カテゴリー商品の購買を促進するためのより詳しい商品情報を提示していく方針だ。
また、月間約1,200本のクリエイティブを制作する体制を構築しているため、この強みを活かして店舗特性や曜日・時間帯によって配信クリエイティブを細かく設定し、商品認知と販売促進を同時に実現することで、広告投資効果を最大化できるリテールメディアとして進化していくということだ。
全く新しい買物体験を提供するシェルフサイネージ「Tag Beans」
サイバーエージェントが芝浦工業大学益子研究室との共同研究によって開発し、今回新しいショッピング体験として展示を行ったのが「Tag Beans」だ。
「Tag Beans」は、商品棚(英語でシェルフ)の値札部分に設置されたシェルフサイネージを活用した革新的な商品推薦システムである。
このサービスの特徴は、キャラクターが商品棚を移動しながら、顧客に対して商品を推薦、実際に商品を手に取るとカメラがその状況を検知して売場のシェルフサイネージ全体が反応し、軽快な音楽とともにシェルフサイネージ上をたくさんのカラフルなキャラクターが舞い降りる、といったまるでアミューズメント施設にいるようなエンターテインメント性の高い体験を提供する棚札サイネージであることだ。
従来、値札スペースは単なる価格表示の場所に過ぎなかったが、「TagBeans」はこれを新しい顧客接点として活用する。
この新しいサービスのテスト的な展開を希望する小売企業に対しては、施策の立案・実行を同社として全面的にバックアップしていきたいということだ。
本サービスによって顧客の視覚、聴覚を同時に刺激する商品推薦施策を展開し、思わず商品を手に取りたくなるような新しい買物体験を提供したい小売企業は積極的にこの機会を活用してほしい。
商品が自ら動いて話す「自己推薦ロボット」
今回の展示の中で「Tag Beans」と同様に注目を集めたのが、「自己推薦ロボット」だ。
このロボットは、商品自体が動いて販促活動を行うというこれまでにない体験を提供する。
「自己推薦ロボット」の特徴は、人感センサーや重量センサーを組み合わせることで、顧客の行動に応じて柔軟に対応できる点だ。
例えば、顧客が目の前に立ち止まったら動きながらお礼を言ったり、商品を手に取ったらお礼やダンスをしたり、戻したら悲しむといった、まるで売場に生命が宿ったかのような振る舞いを見せる。
このソリューションの効果は、すでに実証実験で確認されている。大型雑貨店での実験では、来店客の立ち止まり率が2.14倍に増加し、販売率は大きいもので6.67倍も向上したということだ。
「自己推薦ロボット」は、単なる販促ツールを超えて、店舗内の雰囲気そのものを変える可能性を秘めている。売場が「生きている」かのような体験は、特に子供連れの家族や好奇心旺盛な顧客層に強く訴求すると考えられる。また、インスタ映えするような面白い購買体験として、SNSでの拡散効果も期待できるだろう。
商品まで買物かごが導いてくれる「スマートポータブルグリップ」
「スマートポータブルグリップ」は、買物カゴの持ち手部分に取り付けられる革新的な買物支援デバイスだ。このデバイスは欲しい商品がすぐに見つからない、という買物客が日々直面する課題を解決することを目的としている。
デバイスに組み込まれた無線通信機器によって位置情報を特定する仕組みで、店舗内での買物客の現在位置をリアルタイムに把握することができる。
さらに、振動とサーボモータを組み合わせた触覚フィードバック機能により、右左折や直進を誘導し、目的の商品への迅速な案内を可能にしている。
また目的の商品にたどり着いた後で、買い物カゴに商品を入れると重量センサーがそれを検知し、チャリーンという某有名ゲームでコインを獲得した時のような効果音が鳴り、エンターテインメント性が高い買物体験を提供している。
今後、買物アプリと連動させたり、音声認識連動でのサービス化を検討していくということで、買い物の効率化だけでなく、買い忘れの防止、さらには新商品との出会いを創出・促進することもできそうだ。
店舗DXを牽引するリアルタイム・高精度AIカメラ
最後に紹介するのは、人の行動計測に特化した高精度AIカメラ技術だ。この技術の最大の特徴は、「0.1秒未満のリアルタイム性」を担保しながら、複数人の行動認識を同時に、かつ高精度に計測できる点で、認識精度・スピードは世界トップクラスということだ。
実際展示ブース内を行き交う人々を同時に検知する模様を確認できたが、単純に人の動きを追うだけでなく、顔と体と手の位置を別々に認識し、顔についてはどの方向を向いているかもリアルタイムで検知していた。また映像に映る人には個体番号が割り振られ、カメラからの距離もリアルタイムで検知・表示されていた。
特定のカメラに依存しない技術であり、一般的な監視カメラなどあらゆるカメラにこの技術を導入することが可能ということだ。
この技術がもたらす可能性は計り知れない。例えば、顧客の動線・行動分析や店舗スタッフの業務フロー分析に活用することで、店舗レイアウトの最適化や業務効率の改善につなげることができる。また、顧客の店舗内での位置や行動に応じて、アプリと連携したクーポン配布や、サイネージと連携した関連商品の推薦など、パーソナライズされた販促活動も実現可能だ。
弊誌でも小売店舗の動線調査を行っているが、人間が目測して1店舗を調査する場合1日がかりの作業となる。この技術が導入されれば大量のビックデータを解析し、動線分析を行うことで、データドリブンな売場レイアウト・各種施策の改善を行うことが可能になる。
今回のCEATECにおいてサイバーエージェントは、テクノロジーを駆使し実店舗の価値を最大化する小売業の未来像を提示した。
このブースで具現化された新しい買い物体験は、AI、IT・IoTデバイス、データ分析、デジタルマーケティングなどの先端技術を活用することで、従来型の小売店舗を革新的に進化させる可能性を示唆している。
今後、サイバーエージェントと協業する小売企業がこの新たなビジョンと顧客体験をどのように具現していくのか、業界内外から注目が集まることになりそうだ。
「濫用目的の医薬品購入は十分に抑止効果を高められる」登録販売者会 横山会長記者会見より
6月14日(金)、一般社団法人日本医薬品登録販売者会は、定期総会を開催。任期満了に伴いコスモス薬品社長の横山英昭氏を新会長に選任した。ここでは、同日開催された記者会見から、医薬品販売制度見直しを中心に横山氏の発言を紹介する。(月刊マーチャンダイジング2024年12月号より転載)
会の名称を変更。職能団体としての位置付け強化
総会では、団体名を従来の「一般社団法人日本医薬品登録販売者協会」から「一般社団法人日本医薬品登録販売者会(略称:登録販売者会/日登会)」に変更、医師会、薬剤師会など既存の職能団体のように「資格名+会」というシンプルな名称にして、職能団体としての位置付けをより明確にした。
また、記者会見冒頭、横山会長は登録販売者会の存立の意義や課題感に関して、以下の3項目を発表した。
「一般社団法人日本医薬品登録販売者会は『すべての登録販売者の資質向上、業務支援、社会的地位の向上及び登録販売者の目指す方への育成支援』を積極的に取り組む職能団体です」
「登録販売者はセルフメディケーション推進の要として、国民の皆様の健康増進のため、重要な機能を担っています」
「一方で、2024年1月12日に『とりまとめ』が公表された『医薬品の販売制度に関する検討会』並びに、2025年度薬機法改正を見据えた『厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会』の議論において、セルフメディケーション推進に逆行する法改正が検討されていることに、強い懸念を感じています」
登録販売者がセルフメディケーションを推進することを改めて強調したのと同時に、検討会の中で協議されている濫用等のおそれのある医薬品の販売の見直しが、登録販売者会としても懸念の対象であることを明らかにした。
濫用問題は登録販売者が関与して適正販売に努めるべき
横山会長がまず問題視するのは、「購入者の個人情報の記録と保管」。これが義務化されれば、登録販売者は当該商品の販売のたびに作業に追われ、本来の仕事である情報提供や接客が十分にできなくなることが大いに考えられ、そうなればオーバードーズ問題はさらに悪化する危険性もあると語る。
さらに、「個人情報の記録と保管にいくら努めても、他のドラッグストア(DgS)で購入すればこれを防ぐことはできない。不正使用者のアクセスを阻害する手段にはなるが、買い回りにより頻回購入の阻止に対する実効性があまりにも低いのではないか。こういう改正に対しては反対する」と続けた。
また、「『直接購入者の手に届く場所に陳列しないこと』が実施されれば、広く使われている風邪薬、鎮咳薬、鼻炎薬、解熱鎮痛剤など買いにくくなることも問題だという認識を持っている。大多数の適正利用者にものすごく不便なルールとなる。利便性を失ってはいけない」とも発言した。
こうした対策ではなく登録販売者がしっかり管理すれば、相当な抑止効果が生まれる。濫用の恐れのある医薬品の購入に関しては、氏名、年齢が分かる顔写真付きの公的身分証明書の提示は求めるが、記録保管は負担が大きすぎるという見解も示した。
記者からの質問と回答
部会には引き続き意見を訴え続ける登録販売者不要論には明確に反対
─薬機法の改正までそれほど時間はないと思うが、登録販売者会の方針をどのように具体化するのか、アプローチ、スケジュールのイメージを知りたい。
横山 医薬品販売制度に関する検討会に、登録販売者会の理事、関係者は委員として呼ばれなかった。
これに関しては不満がある。昨年検討会は終了し、今年1月にとりまとめが発表されたが、これに関しては登録販売者会の理事として厚生労働省に意見を具申した。
示されているルール変更では登録販売者が作業に忙殺されてオーバードーズ問題はさらに大きくなるのではないかと申し上げた。医薬品医療機器制度部会は現在も審議を続けており、われわれがこの部会に呼ばれることはないが、今後も訴え続けたい。
─濫用の恐れのある医薬品の販売規制に反対して、社会的な批判を受けるというリスクは感じないか。
横山 濫用については、販売店、登録販売者だけで防げるものではないと思う。コロナ禍で濫用者が増えたという発言が検討会でもあったが、社会状況、家庭環境、さらには医薬品の教育も含めてこの問題は社会全体で取り組むべきだと思う。販売店も購入者に対してはしっかりと説明する。
しかし、販売制度を変更して1店舗では1個しか買えなくても買い回りを防ぐことは難しい。とくに東京などは近距離内にDgSが多数ある。とりまとめの内容はかける努力と効果のバランスが非常に良くない政策だと感じており、これに関しては反対している。
─オーバードーズ問題で仮に死亡者が出ると、販売規制に反対の立場を取っていることで批判を受けることにはならないか。
横山 部会の中でも(オーバードーズによる)被害に関するデータを出してほしいという意見があったが、正式なものは挙がってこない。オーバードーズという現象にはしっかり対策は取る。
しかし、オーバードーズという言葉が独り歩きをして、エピソードだけが出てきてエビデンスが具体的に出てきていない。エビデンスが出てくればわれわれも相応の対応を取るが、イメージや印象だけで規制が強化されることになるのはいかがなものかと思う。
─資格者がいる「管理店舗」があれば、周辺の「受渡店舗」では資格者がいなくても医薬品の販売ができるという考えも示されているが、これをどう思うか。
横山 管理店舗、受渡店舗ということに関して厚労省は具体的なことはまだ説明していない。
いずれにしてもルールの変更が登録販売者をないがしろにするようなものであれば反対する。今の段階では法律をどう変えるか正式なものが出ていないのでなんとも言えないが、登録販売者をないがしろにするような内容には反対する。
─検討会でテレビ電話などオンラインによる情報提供などの話も出ており、これは元々コンビニ業界からの要望だったと記憶している。遠隔販売も含めてコンビニ業界にはどう対応していくか。
横山 コンビニと対峙するとか、そういう考えはない。ただ、登録販売者をないがしろにする考えには反対する。コンビニが登録販売者を尊重するならウェルカム、登録販売者なんていなくてもいいという考えなら、それは受け入れることはできない。
─ないがしろの具体的な意味は?
横山 登録販売者はいなくてもいいという不要論につながるようなことを意味している。
検証「医薬品販売制度の見直し」とは
「情報通信技術の進歩、OTC医薬品の活用などセルフケア・セルフメディケーションの推進、新型コロナウイルス感染症の影響によるオンラインでの社会活動の増加など、一般国民における医薬品を巡る状況は大きく変化している。一方で、一般用医薬品の濫用等、安全性確保に関する課題も生じてきている。現状をまとめた。(文責/編集部)(月刊マーチャンダイジング2024年12月号より転載)
「情報通信技術の進歩、OTC医薬品の活用などセルフケア・セルフメディケーションの推進、新型コロナウイルス感染症の影響によるオンラインでの社会活動の増加など、一般国民における医薬品を巡る状況は大きく変化している。一方で、一般用医薬品の濫用等、安全性確保に関する課題も生じてきている。
こうした中、医薬品のリスクを踏まえ、医薬品の安全かつ適正な使用を確保するとともに、国民の医薬品へのアクセスを向上させる観点から、医薬品販売制度についての必要な見直し等に関する検討を行う」(第2回医薬品販売制度に関する検討会参考資料より引用)。
上記のような理由により厚生労働省は2023年2月から「医薬品の販売制度に関する検討会(検討会)」を開始、同年12月までに11回の会議を経て、2024年1月にとりまとめを発表した(解説1参照)。このとりまとめを大臣の諮問機関で審議した後、2025年以降、薬機法改正を目指すことになっている。
解説① 「医薬品の販売制度に関する検討会のとりまとめ」概要
5つの柱があり、公表された文書には「『安全性が確保され実効性が高く、分かりやすい制度への見直し』、『医薬品のアクセス向上等のためのデジタル技術の活用』を基本的な考え方としている」と書かれている。
①処方せん医薬品以外の医療用医薬品の販売
リスクの低い医療用医薬品は「やむを得ない場合」は薬局で販売する。「やむを得ない場合」を明確化し、薬局での販売は最小限度の数量とする等、要件を設ける。
②濫用等のおそれのある医薬品の販売
●原則として小容量1個の販売とし、20歳未満の者に対しては複数個・大容量の製品は販売しない。
●販売時の購入者の状況確認・情報提供を義務とする。原則として、購入者の状況の確認及び情報提供の方法は対面又はオンラインとする。
●20歳未満の者による購入や、複数・大容量製品の購入等の必要な場合は、氏名・年齢等を確認・記録し、記録を参照した上で販売する。
③要指導薬の販売
●薬剤師の判断に基づき、オンライン服薬指導により必要な情報提供等を行った上で、販売することを可能とする(ただし、医薬品の特性に応じ、例外的に対面での対応を求めることも可能とする)。
●医薬品の特性に応じ、必要な場合に一般用医薬品に移行しないことを可能とする。
④一般用医薬品の販売区分及び販売方法
●販売区分について、「薬剤師のみが販売できる一般用医薬品」と「薬剤師又は登録販売者が販売できる一般用医薬品」へと見直す。
●人体に対する作用が緩和なものは、医薬部外品への移行を検討する。
●専門家(薬剤師・登録販売者)の関与のあり方に加え、情報提供については関与の際に必要に応じて実施することを明確化する。
⑤デジタル技術を活用した医薬品販売業のあり方
●有資格者が常駐しない店舗において、当該店舗に紐付いた薬局等(管理店舗)の有資格者が、デジタル技術を活用して遠隔管理や販売対応を行うことにより、一定の要件の下、医薬品の受渡しを可能とする新たな業態を設ける。
解説② 濫用等のおそれのある医薬品販売の見直しに課題
前項の解説1は、概ね厚生労働省が発表した「とりまとめ」の要約である。ここでは、さらに課題や現状について説明を加える。
①に関しては、一部処方せん薬を処方せんなしで販売するという規制緩和だが、詳細は未決定。
③もこれまで禁じられていた要指導薬のEC販売を一部製品に関して認めようとするもの。しかし、どの製品がECで購入できるのか等、詳細は未定。
④は現状のリスク別の医薬品の区分を販売可能な資格者別(薬剤師、登録販売者)に区分し直そうというもの。とりまとめの文書では、現状、第2類医薬品、第3類医薬品はどちらもインターネット販売が可能、説明義務に関して第2類は努力義務、第3類は情報提供に関する規定がない。従って、利用者は第2類と第3類の区分の意義を実感しにくい。また、覆面調査などから、第2類、第3類は資格者ではなく、一般従事者が販売している事例が見られるとしている。
こうした現状の改善のために医薬品の区分を「薬剤師が販売する」「登録販売者が販売する」の2種に分け、作用の緩和なものは資格者の関与が不要な医薬部外品に移行させるという案を示している。情報提供の義務も明確化する。
⑤は、薬剤師、登録販売者が駐在する「管理店舗」があれば、近隣の「受渡店舗」では資格者不在でも医薬品を受け渡すことができるという内容。受渡時の説明は必要に応じてオンラインで行うものとしている。こちらも、管理店舗1店舗あたり、何店舗の受渡店舗が設置できるかなど、詳細は未定。仮に管理店舗1店舗で100店舗や200店舗といった多数の受渡店舗が認められるなら、ドラッグストア(DgS)の資格者配置の負荷も軽減するが、コンビニが医薬品販売に関して、大きな競合になるだろう。
今回、DgS側が主に問題としているのは、②の濫用等のおそれのある医薬品の販売に関する改正案である。購入者の手に届かない場所に陳列する、購入者の個人情報を記録しそれを保管すること(台帳化)が求められており、これが法制化されれば、お客は商品(実物)を手に取って見ることができず、店頭での商品選び、購入が著しく不便になる。
また、個人情報の記録と保管は店側の負担を大きくして作業効率を大きく落とす可能性もある。
JACDS塚本厚志氏に聞く「地域の健康相談機能、医薬品購入の利便性確保を追求していきたい」
日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)は、1999年の設立。今年で25周年を迎えた。この節目の年に同協会会長に就任したマツキヨココカラ&カンパニー代表取締役副社長塚本厚志氏に今後の方針や医薬品販売を取り巻く環境などを聞いた。(聞き手/月刊マーチャンダイジング主幹 日野 眞克)(月刊マーチャンダイジング2024年12月号より転載)
情報共有、生産性向上のためのプラットフォームをつくる
─今年度からJACDSの新会長に就任されました。抱負や感想などお聞かせください。
塚本 今年でJACDSが設立されて25周年です。これは先人の経営者たちが生活者視点でものごとを捉えて、環境に適応、対応した上で、社会の役に立ちたい、地域に貢献したいという強い思いが結実した結果だと思います。
もともとドラッグストア(DgS)は商品数が多く、サプライヤーも多数あり、売場面積の小さい店から大きな店までつくることにより、商品政策の力を向上させ、変化に対応できるようになりました。
各企業が様々なフォーマットを持っており、店舗数は2万3,000を超え10兆円産業目前です(編集部注:DgSの2023年度売上総額9兆2,022億円)。企業や屋号はともかく、日本国民が何らかの形でDgSを使っており、DgSがあってよかったと思われるような産業にまで進化しています。
次の25周年に向けて、若い経営者たちDgSで働く人たち、携わる人たちがどのように生活者を支えていけるか当事者意識を持って考えなければいけない時期になっています。
協会の役割としては、会員、賛助会員、卸、メーカー各社が参画して、ミッションを明らかにしてプラットフォームを整備する。これを通じてヘルス&ビューティに役立つ情報を共有し、サプライチェーンの効率を高めて、生産性を上げることだと思います。その結果、この産業に携わって良かったと思える人を増やす、これが協会のミッションになります。
DgSのセルフチェック機能を追求していきたい
─DgSを地域で健康に困った人が最初に相談できる場にしようという「健活ステーション構想」をお持ちですが、現状いかがでしょう。
塚本 食と健康については、機能性表示食品や特定保健用食品(特保)など、一定の効果が認められた商品を消費者に分かりやすく陳列することなどに取り組んでいます。売場に付ける陳列ボードは消費者庁と緊密に連携しながら、最大限わかりやすく誤解を与えないような表示にしました(図表1)。
現在考えているのは、DgSとしてセルフチェックの可能性をもっと追求することです。指先から血液を採取して測定するなど、専用の機器を必要とするセルフチェックは各企業、店舗事情などによって置ける、置けないという問題があります。
その点、尿の試験薬(紙)なら商品として販売できて、いくつかの商品があり、尿タンパク、尿糖など疾病につながる複数の数値をセルフチェックできます。セルフチェックの結果を薬剤師などの専門家が聞いて、必要に応じて受診勧奨すればDgSの健康サポート機能は高まります。「尿検査を自分でやってみよう」という啓発活動を今後DgSで行っていこうと考えています。
─管理栄養士についてどうお考えですか。
塚本 協会の会員企業にも管理栄養士はたくさん在籍していますが、活躍の場を広げないといけません。多くの場合、管理栄養士は登録販売者やビューティアドバイザーの資格を持っていますので、栄養、食事の知識をヘルスケアやビューティの接客に使えば売上につながることが多いのです。
管理栄養士を含め、従業員が接客の機会を増やすためにも、品出しなどの売場作業、マネジメントにDXを取り入れてサプライチェーン全体の効率化を図ることが大きなポイントになります。
セルフケアのため、OTC医薬品へのアクセス、相談機能は不可欠
─厚生労働省が「医薬品販売制度の見直し」のとりまとめを発表しています。これをJACDSではどのように受け止めているでしょうか。
塚本 DgSはOTC医薬品全体の約8割を販売しています。ですから、協会の大きな役割としては、医薬品に関する法律や規制に関して意見を具申することです。行政、関連団体との連携を果たしていくことが重要な役割になります。
これを果たしていくために、「ガバメントリレーションズ」という役職を設けました(図表2)。健全で正当なロビー活動をしていこうと、業界団体では珍しいことですが、私が会長に就任するにあたり、この考えを主張することにしました。
生活者の役に立ちたいという理念のもと、主張すべきは主張して、インフラとして存在することが国民生活にとって重要です。健全な業界の成長を目指すためにも正当な主張と活動が必要、その実現を目指すための態勢が6月から始まった新態勢です。
DgSにある商材などを使って自分の健康を守るセルフケア・セルフメディケーションを進める上でOTC医薬品は貴重な商材で、生活者の身近でいつ訪れても気軽に自分で選んで買える。相談したければ、薬剤師、登録販売者に相談できる。こうしたアクセスの良さ、専門家への相談機能が損なわれることがあってはいけません。
これは、DgSの従業員が一番よく分かっているのではないでしょうか。土曜の夜で近くのクリニックもお休み、そんなときまずはOTC医薬品を使って様子を見ようという人たちはたくさんいらっしゃいます。
専門家に相談したいこの方たちにとって、必要な医薬品が手に届かないところにある空箱対応が義務化されれば、いちいち従業員がバックヤードに取りに行く、こうした事態になれば大きく利便性を損ない、セルフケア・セルフメディケーションという段階が薄くなって貴重な医療資源である医療従事者たちの負荷が大きくなります。
このようなことにより肝心な相談への対応や情報提供の機会が減少すれば、最終的に不利益を被るのは生活者の皆さんです。
こうした事態を招くような医薬品販売制度の見直しは、セルフケア・セルフメディケーションにとって大きなマイナスです。専門家を医薬品販売に関与させながら、なおかつお客様のアクセスを損なわないようにするのが、われわれの主張の根幹です。
問題になっているのは濫用の恐れのある医薬品ですが、JACDSでアンケートを取ったところ、37社から回答を得て、150品目以上取り揃えている店舗数が1万3,401店舗のうち9,600店舗あり、割合として約72%でした。
これをお客様の手の届かないところに並べる、購入者の個人情報を記録して、それを保管するという内容がとりまとめの中で公表されています。
こうした見直しには賛同しかねますが、DgSがこの問題の対策を講じない訳では決してありません。
協会では特定の薬の濫用に至る過程やその人を取り巻く環境に問題があるのではないかという考えのもと、協会をあげて薬物濫用状態にある人、あるいはその家族が相談できる専門機関へとつないでいきます。
濫用のおそれのある医薬品の常習者、やめたくてもやめられない人に「個人情報は保護するので、悩みがあれば相談してください」というアドバイスをして、専門家につないでいくという活動をしていきたいと考えています。
厚労省のホームページ「薬物乱用防止相談窓口一覧」には、各都道府県の相談窓口の電話番号が記載されています。
また、行政も薬物濫用の対策に関する情報を提供しています。こうした窓口と連携を果たしながら、今後は実現可能なことを考えて実行していきます。まだ、業界全体で合意を取れていることではありませんが、アイデアを出し合い、店頭で実行するオペレーションを考えます。
DgSはコミュニケーションストアです。人口動態を見ると約4割が単身世帯です。社会とのつながりが薄くなりがちな単身世帯の人たちが気軽に入れて、人と人との接点が持てる「地域の寄り合い所」的な場所にヘルスとビューティの専門家がいる。
この基本機能の上にかかりつけ薬局機能と物販機能をミックスさせればまた違う形のフォーマットが生まれるのではないでしょうか。
─本日はありがとうございました。
イオンデジタルアカデミー ボトムアップの生成AI活用
従業員数約60万人を擁するイオングループ。そのイオングループで従業員に対して生成AIの利用環境を提供するという壮大な「実験」が行われた。利用者数は全業態90社、約1,000人。「お試し環境」に触れた現場の従業員からは様々な利用方法が提案され、実験終了後もその熱は冷めやらない。ボトムアップの生成AI活用術に迫る。(月刊マーチャンダイジング2024年12月号より抜粋)
「当たり前」にデジタルを活用する人材を育成
「イオンデジタルアカデミー」(以下デジタルアカデミー)は、グループ従業員のだれもが当たり前にデジタルに触れ、活用できる文化の醸成を目指し、様々な学習機会を提供する場だ。オンラインイベント、ポータルサイトでの情報発信、海外視察、社内勉強会等々、様々なコンテンツやオンラインでの研修などを提供し、IT部門のみならず、本部、店舗のありとあらゆる職種で部門を超えてデジタル活用人材の育成を図る。これまで延べ約3万人の受講生を輩出している。
デジタルアカデミーで生成AIの「お試し環境」の導入を推進したイオンCISO ICT推進担当の吉田俊介氏は、導入の経緯について、次のように語る。
「2023年ころから一般的なニュースでも生成AIに関する話題が増え、デジタルアカデミーでも座学やウェビナーでその使い方を受講生に案内してきました。しかし同時に『座学だけではなく、実際に触って試してみたい』という受講生たちからの声もあり、その声に応えたいと思い、生成AIのお試し環境『AEON DIGIACAお試し生成AIサービス』(以下、『お試し環境』)の提供の検討をスタートしました」
あっという間に埋まった1,000人の枠
2023年9月ころから吉田氏が中心となりお試し環境の立ち上げの検討を開始。吉田氏に元々ITガバナンスやセキュリティに対する知見があり、セキュリティのルールづくりの経験があったのも、スピーディな導入を後押しした。1,000人の利用希望者向けに、2023年12月からお試し環境の提供を開始。利用期間は半年間に限定した。採用した生成AIは「exaBase 生成AI powered by GPT-4」という法人向けの生成AIだ。
《取材協力》
保護中: 2024年11月20日 セミナー資料配布ページ
物販、調剤、在宅介護、DX+専門家でHBCの「地域密着型トータルケア」を提供するイオンリテール
専門家とDXを活用して物販プラスアルファの価値創造を目指すイオンリテールH&BC本部の工藤真紀・本部長に、新しい時代のヘルス&ビューティ&ウエルネスのトータルケア戦略について聞いた。(聞き手/月刊MD主幹 日野 眞克)(月刊マーチャンダイジング2024年11月号より抜粋)
3つの物販、2つのサービス それぞれに専門家を配置
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ヘルス&ビューティケアのトータル戦略についてからお話します。イオングループの2021年~2025年度の中期経営計画の中で、図表1の5つの成長戦略を設定しています。
イオンリテールH&BC本部は、図表1の「新たな時代に対応したヘルス&ウエルネスの進化」を成長戦略として掲げています。H&BC事業本部が考える新しい時代のヘルス&ウエルネスの今後については、SDGsからさらに進化したSWGS(Sustainable Well-being Goals)という言葉を今後のトレンドとして表現しています。
SWGSを構成する要素としては、「医食同源」を実現することが最優先のテーマです。さらに、環境(持続可能)、個性(自分らしく生きる)、幸福(笑顔にするサービス)に重点的に取り組んでいきます。この4つのトレンドをリアルとバーチャルで実現していくことを目指しています。
H&BC本部が実現する売場の領域は5つあります(図表2)。ビューティ、ファーマシー(一般用医薬品)、デイリーコンビニエンス(日用雑貨)という3つの物販に加えて、調剤サービスの4つまではドラッグストアとほぼ同じです。
それに加えてユニークな事業として「イオンスマイル」というデイケアサービスの介護事業をH&BC本部として展開しており、3つの物販と2つのサービスで構成されています。
また、それぞれの物販とサービスに専門家を配置していることが大きな特徴です。ファーマシーでは登録販売者、管理栄養士、ビューティはビューティケアアドバイザー、調剤は薬剤師、さらにイオンスマイルでは、「理学療法士」という要介護者の運動・リハビリメニューを作成する専門家がいることは、H&BC事業本部の大きな特徴です。
しかも、5つの専門家と物販・サービスが店舗でもデジタルでも融合した価値を提供していくことがユニークな取り組みであると思います。デジタルでの販売に関しては、「イオンスタイルオンライン」と「ネットスーパー」の2つがあります。
H&BCを取り巻く6つの環境変化に、前述した5つのグループで対応していく方針です(図表3)。たとえばMZ世代の消費の中心へということで、ドラッグストアよりもビューティやデイリーコンビニエンス(デリコン)の売場を広くとっていますので、より若い世代に対応した品揃えや売り方ではよりMZ世代に対応できていると思います。
また、持続可能な環境配慮という意味では、オーガニック、フェムテック商品の取り扱いを増やしています。
H&BC本部の5つの重点戦略
さらなる成長に向けて、H&BC本部は以下の5つの戦略を進めていきます。
《取材協力》
不明ロス対策のためのプラットフォーム構築を目指す全国万引犯罪防止機構
全国万引犯罪防止機構(万防機構/東京都千代田区神田駿河台)は経営を圧迫する経済問題であり、青少年の健全な育成を阻害する社会問題でもある万引犯罪の防止を目的に2005年に設立。ポスターによる啓発活動や講演などを通じて万引防止のために広く社会に働きかけている。ここでは、同機構の副理事長で元警視総監でもある樋口建史氏に万防機構の活動や万引きを含む「不明ロス」対応の具体策などを聞いた。(聞き手/月刊マーチャンダイジング編集長 野間口 司郎)(月刊マーチャンダイジング2024年11月号より転載)
万引防止活動は規範意識を向上させる一助になる
─万防機構設立の目的や活動について、改めて教えてください。
樋口 まず申し上げたいのは、安心安全でなければ社会活動も活発にならないし、企業も投資をためらいます。安心安全こそが社会に活力をもたらす最大のインフラだと思います。
国際的に見ても、日本は最も安心安全な国だと言われています。これは警察の努力だけではなく、官民合わせて良い社会づくりができているのだと思います。言葉を換えれば、日本人の規範意識の高さが安心安全の要因になっているのです。
そして、万引防止を広く呼びかけることは、この高い規範意識を維持させることにつながると思います。万引防止活動以外でも自転車ルールの啓発活動、薬物乱用禁止を訴える「ダメ、ゼッタイダメ。」という標語を使ったキャンペーンなども同様です。
こうした犯罪防止、ルール順守に不断の取り組みをすることで世界でもまれに見る規範意識の高さが保たれているのではないでしょうか。なかでも「万引防止」は老若男女に共通する身近なテーマです。
不明ロス被害と財務を結びつける習慣がない
─米国の大手小売業は、万引きを含む不明ロス対策に積極的ですが、日本はいかがでしょう。
樋口 ある大手小売業のトップとお話していたら、「(万引きは)こういう商売をしていると仕方のないことです」とおっしゃいました。また、別の小売企業トップの方からは「万引きしてでも欲しくなるような魅力的な陳列でなければモノは売れないのですよ」とお聞きしたこともあります。
もっとも、そのような企業でも最新鋭の防犯カメラを導入するなど万引対策は立てているのですが、残念ながら運用が適切でないなど、全体として見れば、日本の小売業、特に経営層は米国ほど意識は高くない、体系的、全社的で実効性のある万引防止対策は遅々として進まないという印象です。
─それはなぜだとお考えですか。
樋口 色々理由はあるのでしょうが、そのひとつは不明ロスと財務を結び付けて考える習慣がないことではないでしょうか。私たちは万引きだけでなく、内部不正、業務管理上のミスも含めて不明ロスとして考えています。
日本の企業は計画した予算など一定の売上、利益を挙げればそれで満足しますが、こうした不明ロスがなければ純利益にそれだけ上乗せできたはずです。不明ロスによる損害は真水の金額です。
米国の決算説明会や株主総会などでは、例えば、利益が悪かったとき、それが在庫過剰だったのか、経費がかかりすぎたのか、それとも不明ロスが多かったのかなど、財務状況を分析するひとつの指標として不明ロスが扱われています。
万引き、不明ロスに関して現場では大変に関心が高いのです。しかし、それが経営層や財務とつながっていないという印象です。アメリカでは投資家の関心も高いと聞いています。
年間の推計不明ロス額約8,350億円 万引被害の認知率は推計0.3%
─日本でもブックオフ(ブックオフグループホールディングス)で大規模な内部不正があり、2024年5月期決算の発表を延期、特別調査委員会が設置されるという事件が発生しました。これをきっかけに日本の小売業の経営者も不明ロスへの意識が高まるかもしれませんね。
樋口 そうなることを願います。お客様商売なので万引対策は正面切って打ち出しにくいし、内部不正も身内の恥という意識で公表しづらい面もあります。しかし、実情は看過しがたい被害が出ています。
万防機構が不明ロス額を推計しましたが、その額は約8,350億円、そのうち万引被害の推計値は3,460億円にもなります(図表1)。
2023年の万引きの認知件数は9万3,168件です。被害額から推計すると3,460万件の万引きが起きているはずで、認知件数割合はわずか0.3%、99.7%は認知されていないことになります。こうした推計値から、万引被害の認知は氷山の一角にすらならないという声もあるほどです(図表2)。
確かに被害届けを出すと事情聴取や書類作成などで店長さんが時間をとられるということもあり認知されにくいのが実情です。
だからこそ、未然に抑止することが重要なのです。万防機構では万引をはじめ、広く不明ロスを抑止する対策を立てるために「ロス対策士」という検定試験を主催、実施しています。
─ロス対策士検定試験はいつ頃から始めたのでしょうか。
樋口 2017年にウォルマートのロス・プリベンション担当ディレクター、ホームセンターのロウズの元副社長や、この分野の第一人者でLPRC(ロスプリベンション・リサーチ・カウンシル)の創設者の一人であるフロリダ大学のリード・ヘイズ博士(「Retail Security & Loss Prevention」の著者:邦訳「小売業のロス対策入門」)など、米国の専門家、実務家を招聘し日本でロス対策に関する「万引対策強化国際会議」を開催しました。約400人の参加があり、万引対策の機運が大変に高まりました。
これをきっかけに、米国の制度を参考に「ロス対策士」という検定試験を日本でも確立しようということになり、万防機構理事の近江元(おうみはじめ)氏を中心に勉強会が立ち上がりました。議論や勉強を重ね2021年に最初の試験が始まり、これまでに650人以上のロス対策士が生まれています。
不明ロスは、業種の性格上仕方がないと捉えられていました。もちろんゼロにすることはできませんが、専門的な知識と技術で適正水準にコントロールできるのです。その一翼を担うのがロス対策士なのです(学習内容は図表4参照)。
不明ロスは異常値、事件ではなく、いわば必然であり、予め設定した目標値以下に減少させるといった新しいマインドセット(心構え)で臨む必要があるのです(図表3)。
日本の小売業、とくにDgS(ドラッグストア)は多店舗展開していて4桁の店舗を出店するDgSも複数あります。1店舗ごとに対策を立てると費用対効果が合わないでしょう。郊外型、都市型など立地タイプによっていくつかのパターンに分けて計画的、事前に対策を取れば効率的だと思います。
しかし実態は一度被害が起こると、対症療法的にカメラを設置したり、警備員を置いたりすることが多く、受け身的な企業が多いように感じます。チェーンストアの特徴を生かして対策も標準化することが大切だと思います。
私たちはロス対策士の検定試験を活用して、専門家、実務家を育成することで、不明ロスを未然に防ぐ「ロス・プリベンション」を提案しています(図表5)。ある書籍販売企業の事例ですが、この企業は店長以上の職位にロス対策士の資格取得を義務づけています。
2019年から2022年までの不明ロス率は平均で0.375%、ロス対策士を2021年から育成して3年目の2023年には不明ロス率が0.11%、前年より0.34%下がっています(図表6)。この企業は72店舗、年商は約170億円なので、改善したロス不明率0.34%は5,780万円に相当します。
様々な活動をつなげて、プラットフォームをつくりたい
─今後、万防機構が目指すものはなんでしょう。
樋口 不明ロス対策士検定試験が普及することで、被害を出さない、また犯罪者を出さないことに貢献していきたいです。また、ロス対策士同士が情報共有できる環境や基盤づくりもできればいいと思っています。
現在、日本宝くじ協会助成事業として、万引防止のポスターや冊子をつくって全国の中学1年生に配布することで、青少年の規範意識向上を図っています。神奈川県では高齢者の万引きの再犯防止のプログラムをつくって実施の支援をしています。
その他、顔認証カメラを使った万引抑止の取り組み、警察との連携なども行っています。
最近は、インターネット事業者の協力を得て、盗品がインターネット上で販売されていることの実態把握や盗品販売の抑止に注力しています。以前は盗品をさばくためには、専門の犯罪組織のネットワークを使わなければなりませんでしたが、インターネットが発達して、オークションや販売サイトで簡単に売ることができ、万引きをビジネスとする個人が多数生まれています。
オークションサイトなどをモニターして、例えば、同じアパレルチェーンの新品が繰り返し出品されるなど怪しい動きがあれば警告を発し、盗品であることが判明すれば警察と協力して摘発するといったことを実施しています。
将来的には、こうした様々な活動をつなげて万防機構を不明ロス対策のプラットフォームにしたいと考えています。小売業の方には、ぜひ、ロス対策士の育成、ならびにこのプラットフォームへ参画することで、自社の不明ロスの対策に役立てて頂きたいと思います。
─不明ロス対策への活動、ロス対策士など、貴重なお話をありがとうございました。
<取材協力>
ロス対策士検定試験制度に関する問合せ先
特定非営利活動法人全国万引犯罪防止機構
https://www.manboukikou.jp/exam-about/
メール:lpj@manboukikou.jp
電話:03-5244-5612
ハピコム接客コミュニケーションコンテスト「対話スキルは年々向上!食の接客コミュニケーション増」
医薬品販売の接客コミュニケーション能力向上のため、ハピコムグループに所属する企業の代表がその技能を競い合う「ハピコム接客コミュニケーションコンテスト」。今年で9回目を迎え、参加者の技能は年々レベルアップしている。ここでは、最終審査の結果や接客の傾向などを紹介する。(月刊マーチャンダイジング編集長 野間口 司郎)(月刊マーチャンダイジング2024年11月号より転載)
ハピコムグループ約6万人の資格者から選ばれた13人
ハピコムグループはイオンを中心に、ウエルシアホールディングス(HD)、ツルハHD、クスリのアオキHDなどが参加する国内最大規模のドラッグストア(DgS)グループである。
グループ内には薬剤師、登録販売者合わせて約6万人の医薬品関連の資格者が在籍しており、今回行われたハピコム接客コミュニケーションコンテスト(以下コンテスト)の最終審査参加者はそのなかから選ばれた13人ということになる。
コンテストは、毎回2つのテーマに沿ってお客さまに扮した俳優が相談に訪れ、それに応じて接客するという設定になっている。今回のテーマは「お腹の調子が悪い」と「夏の疲れ」。
2つめのテーマ夏の疲れは参加者にはシークレットになっており、当日、その場で初めて知らされる。参加者の対応力、普段からの知識の蓄えが問われる。あらかじめテーマに沿った商品が模擬売場に用意され、これらに加え自分の推奨したい商品を持ち込んでもよいことになっている。相談内容を聞き取りながら、適切と思われる商品を奨める形で模擬接客は進行。
参加者は別室に集められ、自分の出番が来るまでは会場に入ることはできず、他の参加者の接客内容を知ることはできない。
コンテストの参加対象は薬剤師か登録販売者だが、近年、調剤薬局が分離申請で出店されることも多く、物販スペースでヘルスケアを担当する薬剤師は著しく減少、今回の参加者はすべて登録販売者となった。
過去は薬剤師の参加もあり、第3回大賞受賞者は薬剤師だった。ヘルスケア売場の担い手は登録販売者であることを印象づける状況でもある。
管理栄養士の資格を持つ坂根章子氏が大賞受賞
審査方法は、一次審査として、ハピコムのメンバー企業19社から合計50人を推薦。二次審査として、一人のミステリーショッパーが、推薦された50人すべてを覆面調査して採点する。最終審査では審査員6人が図表1の項目に沿って採点。最終審査だけでなく、普段の接客力を示す二次審査の得点も加味されていることもコンテストの特徴のひとつである。得点の高い順に大賞、準大賞を決定。最終審査の結果は図表3の通りとなった。
大賞を受賞したくすりの福太郎の坂根章子氏は管理栄養士の資格も持つ。坂根氏の接客内容を振り返ってみよう。
まず、お腹の調子が悪いというテーマに関して、お腹をくだしているか、食事は取れているかなどの基本的な状況を聞いたあと、それらの状況を自分でも反復して相手に確認、「1、2ヵ月お腹の調子を崩しているのは辛いですね」と苦しそうな表情と共に共感を示し相手に寄り添う接客をしていた。声のトーンやテンポに落ち着きがあり、全体として安心感をお客さまへ与えていた。
相手の症状の確認の後「医薬品をご紹介する前にいくつか確認させていただきます」と言い、服用するのは本人か、薬品へのアレルギーはないか、他の疾患はないかなど基本項目を確認。確認事項は厳密には6項目あり、確認のための質問を羅列すると話し方によってはお客さまが圧力を感じることもある。坂根氏は症状の確認のあと、スムーズに確認へとつなぎ、柔らかな口調と落ち着いた話しぶりでまったく圧を感じさせなかった。
奨めたのは整腸剤で、体に良い菌が生きたまま大腸まで届き、効果を実感できると説明。お客さまの「お腹をこわしているときでも服用しても大丈夫か」という質問には「お腹がゆるいときでも大丈夫、一家にひとつあると安心です」と対応し、相談者だけでなく、家族にも奨められることを伝え、安心できる商品であることを理解してもらうとする姿勢が見えた。
商品案内の最後に「私は管理栄養士の資格も持っておりまして、お腹をこわしているときは、食物繊維が負担になります。キノコ類、根菜類の食べ過ぎには注意してください」と食事、栄養アドバイスも付け加えた。
ケース2、夏の疲れに関して。暑い日が続いて疲れが取れないという症状を聞いた後、どれくらいその症状が続いているかを確認、「何か心当たりはありますか」と疲れの原因をお客さまに確認した。疲れの主たる原因が暑さであることは相談者自身も認識しているが、その他にも要因があるかお客さまに確認することは効率がよいし、より的確な対応につながる。
この問いに対して「営業の仕事で外を歩き回っているせいではないか」という答えを導き、今年は特に暑かったですもんね、大変でしたね」という共感のあとに、「環境の変化、ストレスを感じることはありますか」と質問。特にないという回答を受けたあと、商品紹介の前に確認したいことがありますと、つなげている。
症状確認→共感(言葉、表情、声のトーンに留意)→基本事項の確認→商品紹介という一連の流れは大変にスムーズで笑顔や表情と相まって、商品紹介までの短い時間の間にある種、「坂根ワールド」が形成されている感もあった。
ビタミンB群の入った保健薬を紹介、その後に、自分が管理栄養士であることを告げ、ビタミンB1、タンパク質を多く含んだ豚肉を使った料理が疲労回復には効果的であるとアドバイス。薬以外、食事、栄養、健康のことなど、いつでも相談に来て下さいと言う言葉で締めくくった。
審査員で接客アドバイザーの北山節子氏は、坂根氏の接客を次のように評した。
「途中で挟む、大きな笑顔がとてもチャーミングで、この人に話しかけたいと思わせる。お客さまの症状を聞くとき、つらそうな表情になるので、それがお客さまの心を開かせるのではないか。目を合わせて話す共感力を感じさせ、耳と心をお客さまに傾けているのが分かった。途中、商品をお客さまに渡して、飲み方の説明をしたのは新しいやり方だと感じた。接客する人が持っている商品を自分も見たいときがある。家に帰って坂根さんの笑顔を思い出し、また会いたいと思わせる接客だった」
高度な知識に基づく接客 食事、栄養と関連づけた接客
受賞者たちの印象に残ったポイントを挙げておこう。
ウエルシア薬局の中川氏は、終始腰の低い低姿勢な態度で、相手の安心感を引き出し、基本確認項目も羅列するのではなく、話の流れに織り込んで絶妙なタイミングで必要な確認を行っていた。また、夏の疲れのテーマでは、即効性と長期視点で体質を変えていく商品のどちらがいいかという選択肢を出し、双方の商品を提案していた。
杏林堂薬局の渥美氏は、接客する前に「お薬がたくさんあって迷いますよね」という一言を挟むことで、相談相手がリラックスできるような工夫があった。基本項目の確認では、状況によって飲めない薬があるので、確認していると説明、こちらも信頼関係づくりに寄与する工夫である。お腹の調子が悪いという相談には、エアコンの設定温度を1度上げるだけでも体調管理に役立つという生活アドバイスをしていた。傾聴力、共感力もあり、全体に時間経過とともに相談相手との信頼関係をつくっていくような接客だった。
ツルハドラッグの畠山氏は、お腹の調子が悪いという相手に対して、吐き気、発熱はないかを確認。これは近年増えている過敏性腸症候群の疑いを確認するような接客で専門性を感じさせた。疲れのテーマでも疲れには主に「肉体疲労」、「内臓疲労」、「精神疲労」、「脳疲労」の4つがあるという知識を披露し、説得力が増していた。推奨商品も整腸剤と漢方薬を合わせて使う提案があり組み立てが緻密。全体的に高い専門性を感じさせた。
レデイ薬局の藤永氏は、他の参加者よりも相談相手との距離を半分近く短く詰めた位置取りをしており、親身になって相談するという気持ちが現れている感があった。コンテストのための行動ではなく、通常の接客がそのまま出たのだと思う。相手と目線を合わせて相づちを打ったり、「いつでも藤永にご相談ください」という言葉には、お客を思う強い共感力を感じさせた。
また、声に抑揚があり、話を聞くときには声のトーンが抑えられ(小声になる)、症状に合った薬を選ぶので「大丈夫です」という言葉では声に大きく張りを出すなど、引き込まれるような接客態度を見せた。接客の最後に右手を大きく上げて「いってらっしゃい」と元気よく送り出す姿もオリジナリティを感じさせた。
その他、イオンリテールからの参加者2人は、いずれもレシピを用意しており、食事からの健康改善、「医食同源」という同社の方針を体現していた。
同社から参加して昨年大賞を受賞した佐藤宏美氏は、健康を考えたレシピを作成する任務を担っており、そのレシピがカウンセリング用のタブレットに収納され、紙のレシピとともに接客で活用されている。今回の最終審査でも各自紙のレシピを持ち込んでの接客となった。コンテストが企業の接客を変えている事例である。
今回大賞受賞の坂根氏も管理栄養士で2年連続で管理栄養士の資格を持つ登録販売者が大賞受賞となっており、食と健康を絡めた接客が今後大きなトレンドになることを伺わせている。
《取材協力》
サイバーエージェントの提案する「調剤」と「物販」が融合した、これからのドラッグストア
サイバーエージェントでは、創業以来展開しているインターネット広告事業で培ったデジタル分野の専門知識やAI技術の研究開発組織「AILab」の技術を生かして、これまで30社以上の企業のデジタルシフトに貢献しており、近年では小売業界の支援にも注力している。さらに、同社は調剤をはじめ医療領域におけるAI活用、DXを推進するMG-DX社を子会社として保有。今回の出展では同社の総合力を生かしたドラッグストア(DgS)の調剤と物販の効果的な融合を体感できるブースが出展されていた。(月刊マーチャンダイジング2024年10月号より転載)
調剤受付のコーナーから展示を開始
MG-DX社の提供する「薬急便(やっきゅうびん)」は、調剤受付からオンライン服薬指導まで、オンライン調剤に必要な機能をすべて兼ね備えたサービス。現在、クオール薬局、サンドラッグ、サツドラ薬局など全国の薬局で採用されている。
今回の出展は、薬急便を使って調剤の受付を済ませた後、待ち時間を使って物販スペースで買物することを想定してブースを構成。
薬急便のサービスで最近とくに好評なのが「薬急便モバイルオーダー」である。これはファストフードチェーンやコーヒーチェーンで導入されているモバイルオーダーの仕組みと同様で、利用者は処方せん画像を希望する薬局に送信して受取時間を予約する。薬の準備ができるとスマホに通知が届く。会計もあらかじめクレジットカードを登録していればオンラインで決済。薬局では処方せんと引き換えに薬を受け取り、服薬指導を受ける。
処方せん画像の送信の他、従来のように店頭受付も可能。その場合、処方せんと引き換えに薬剤師が受付票を患者に渡す。そこに印刷されたQRコードを患者が読み取れば、スマホ上で呼び出し(待ち)状況の確認や、お薬の準備完了通知を受け取ることができる。
また、最大の特徴は、オンライン受付と店頭受付を統合管理できることだ。調剤スペースのデジタルサイネージで全ての待ち状況を可視化し、さらに販促動画や広告を組み合わせて流すことで、「待ち時間にお買物」という行動も促進できる。反対に物販エリアにも調剤の待ち状況を流すことで、調剤の利用促進にも繋がる。
こうした一連の仕組みで、待ち時間が読めずにイライラして満足度が低下する問題を解消。さらに待ち時間を買物時間にするといった習慣の定着によるドラッグストア全体の売上アップも狙える。調剤と物販融合のひとつの手段である。
店舗でオンライン服薬指導 患者は時間節約、薬局は効率改善
薬急便は、8月28日に新サービス「遠隔接客AIアシスタント」をリリースしたばかり。ドラッグストアショーにて、本サービスのデモンストレーションを先行公開した。
「遠隔接客AIアシスタント」は無人受付と遠隔接客を組み合わせたサービスで、店舗(薬局)で処方せん受付を行った患者のうちオンラインによる服薬指導を希望する人に対応する仕組み。待ち時間の間に先に服薬指導を受けることも可能で患者側は時間の節約につながる。
薬局側は、比較的すいている他店舗の薬剤師が遠隔で服薬指導だけを行うことができるので、混雑店舗の作業効率改善に貢献。企業全体としては、薬剤師の業務負荷の平準化、コスト改善を図ることが可能となるほか、将来的には、調剤非併設店などにも設置することで処方せん応需スポットの拡大にも繋がる。人手不足が常態化しているDgSチェーンにとっては朗報である。
ドラッグストアショーでは、遠隔接客AIアシスタントを体験できるよう、各種機器を展示、サイバーエージェントのスタッフが体験希望者に対して丁寧な説明を行っていた(写真2〜6)。
調剤と物販の融合は、単に調剤体験、買物体験を変えるだけでなく、調剤データと物販データの融合による効果も視野に入れている。これが実現すれば、調剤併設DgSで、物販は利用しているが、調剤は利用していないユーザーが明らかになり、こうした層に、調剤薬局の利用を促進することもできる。
さらに、優良顧客である調剤利用者をターゲットに物販への送客も可能、調剤未利用者の掘り起こしと合わせ、企業の収益性を大きく変える可能性を持っている。サイバーエージェントでは、こうしたデータ面での調剤と物販の融合も事業領域としており、DgSの支援を進める構えだ。
「遠隔接客AIアシスタント」の利用プロセス
自己推薦ロボットとデジタルサイネージ
物販スペースで展示されたのは、棚の前に立ち止まるとセンサーが感知して商品が踊り出す「自己推薦ロボット」と3面連結の迫力あるデジタルサイネージ。
自己推薦ロボットは第三者的にロボットが話すのではなく、商品自らが話すコミュニケーションスタイルで消費者の関心を集める。活用に前向きな小売企業も多いという。現状は、実証実験を行っている段階で、限定された店舗で試験的な導入となっている。
お客の動きを感知して自らが動くことで、立ち止まり率が2倍以上にアップ(大型雑貨店での事例)、商品によっては6倍以上の販売増加率を達成している(図表1)。新たな販促プロモーションの可能性が証明されている。
また、別途AIカメラを設置して自己推薦ロボットが設置された棚の動画を撮ることで、立ち寄り率、手に取った人の割合などを計測可能。それらをメーカーにフィードバックすることで、製販協働で販促効果を上げられる。
サイバーエージェントが開発した店舗サイネージ配信システム「ミライネージ」は単に動画を流すだけでなく、効果検証して改善する「運用」と一体的にサービスを提供している。売上状況を日次で把握して、配信効果の高い店舗への配信を増やすなど状況に応じて最適な施策を、早いところで週次で立案、実施している。
また、同社では広告クリエイティブ制作の専任部隊も構えており、こちらも売上状況に応じて短時間でクリエイティブを差し替えることが可能。こうしたサイネージ広告を調剤、物販両スペースで連動させることで、より高い売上効果が期待できる。
最後に8月末にリリースした新たな広告配信サービスも資料で紹介されていた。これは、ポイントやクーポンをフックに消費者行動を促すサービスで、小売企業の自社アプリで特定の広告を閲覧した人にポイントを付与。
ユーザーはそのポイントで当該小売店に限り買物をすることができるという仕組み。これにより小売アプリのアクティブユーザーは増え、リテールメディアとしての広告収入も安定化、物販収益の向上も見込める。メーカーからしても、ポイント付与のメリットを武器に確実な広告閲覧を促せるため、認知や購買効果に期待ができる。すでに一部DgSアプリへの導入が決まっているとのことだ。
調剤事業の強化を成長ドライバーとするDgSは多い。それだけで終わるのではなく、調剤強化を物販強化にも繋げることで、成長スピードはさらに早まるだろう。その意味で今回のサイバーエージェントの提案は示唆に富んでいた。