カインズ つくば店 ~ホームセンターに学ぶ商品の見せ方、伝え方~

29都道府県下に259店舗を展開するホームセンターチェーン、カインズが、2025年4月23日にカインズ つくば店をオープンした。ベルクが運営するモールへの出店となった最新店舗で、商品と売場づくりの工夫を学ぶ。(月刊マーチャンダイジング2025年7月号より転載)

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ベルクが運営するモールへの出店

カインズ つくば店

今回カインズ つくば店が出店したのは、食品スーパーのベルクがディベロッパーを務める「フォルテつくば」。2022年10月に閉店した「LALAガーデンつくば」の跡地だ。敷地面積約5万7,000㎡、駐車台数680台分のベルクを核店舗としたショッピングモールである。テナントは、ドラッグストアのクリエイト SD、セリア、ファッションプラザパシオス(しまむらグループ)など。

カインズ つくば店の内部にも、ベビー・子供衣料品の西松屋やシュープラザ、JINSなどがテナントとして入居しており、買い回りの利便性を感じさせるモールに仕上がっている。

カインズ つくば店売場レイアウト

カインズは、そのモールの一番奥に、売場面積約3,150坪、1層で出店。商圏人口はつくば市の26万人と設定している。エリアの特徴としては教育関連機関が多く、子育て支援が手厚い地域ということもあり、子育てファミリー層が多い。また一戸建ても多いため、ペットやガーデン、リフォームのニーズも高い。

同店舗のレイアウトは基本的な配置と比較すると、テナントが入っている分だけ少し圧縮されている。主通路沿いにペット、家具、リフォーム、建築資材、自転車など、目的買いのカテゴリーが並び、マグネットの効果を狙う。

ゴンドラにはライフスタイル関連、具体的には日用雑貨や医薬品、家事関連アイテムなどが配置されている。

商品を体験できる売場づくり

実際に商品を試せる売場づくりを行っている。枕売場では、「首・肩が気になる」「丸洗いできる」「やわらかいまくら」「かためなまくら」「おてごろまくら」というように分類。向かいにベッドが配置されており、横たわって使ってみることができる
メーカーコラボ。店頭のシーズン商品のプロモ売場では、シンカトリと、PBの殺虫剤を併売

プレゼンテーションの特徴としては、商品を体験できる売場づくりを掲げ、お客が実際にアイテムを試用できるコーナーを複数設けている。アイテムの大きさや使い心地を実物で確認できるのは、実店舗ならではの価値だ。

専売品の大容量アイテムが得意。2.9ヵ月分や3.1ヵ月分と期間で訴求。お客にとっては買物の頻度やゴミを減らせるというメリットがある

また、リフォームコーナーでも、実際にリフォームをした後の生活を感じさせるような売場づくりを目指している。

同店が注力しているのは入り口そばに展開している自転車売場だ。若年層が多く自転車ユーザーが多い地域のため、たくさんの種類・台数を多く自転車を取り揃える。本体だけでなく、関連商品や、修理サービスなども手厚くラインナップした。

ペット用品売場では、帝人フロンティアとアース製薬が共同開発した不快な虫から身を守る素材、スコーロンでつくったウエアを販売。カインズのオリジナル商品

ペット用品売場では犬種や体格などに合わせた、たくさんの種類豊富なアイテムを展開。プライベートブランド(PB)のペットおやつでは「無添加」「乳酸菌入り」など、健康志向の高付加価値商品を豊富に展開する。

ペット用品コーナーのPOP。犬のオーラルケアについて、ステップアップをどう進めるかを解説。カインズの店頭と親和性が高いシンプルなデザインにまとまっている
ハピウェルピューレは、カインズで人気の愛犬用おやつ。低カロリー・低脂質、さらに無添加、乳酸菌入りなど高付加価値なアイテムも。バリエーションも豊富

店内にはペットと一緒に買物ができるペット専用カートも配置されており、取材中はそのカートの利用者の多さが目についた。

夏場は冷蔵庫のドアポケットに麦茶などが入りきらないという悩みに対応した、 ポケット、棚、どちらでも収納できるコンパクト冷水筒。かゆいところに手が届く
吊るしても立たせても干せるシューズハンガー。干すスペースを選ばないため、いろいろなところに移動しながら靴を干すのに便利。雑貨類は商品名で機能を説明していて、商品名が長いものが多い。その分、いろいろな説明が不要となり、店頭の販促物の文字数が少なくシンプルに見える
スパッと切れるラップケース。パッケージの口を閉じるだけで非常に簡単に切ることができる。冷蔵庫に磁石でくっつくので収納場所にも困らない。店頭では、実際にラップを切ってみる体験ができる。テレビやSNSで見たあのアイテムを実際に触ることができる

エンドにはおすすめ商品、広告の品を大きく配置し、通路の奥まで入らなくてもどこに何があるかがわかりやすい売場づくりを意識している。

ガーデンコーナーではとくに初心者が失敗しにくいよう商品や販促物でフォローする。写真はナスについて解説するPOP。どの時期に植え付け、収穫をすべきか、接ぎ木野菜苗の特徴など、シンプルなイラストでわかりやすく解説している

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家庭菜園や屋内のガーデニングの人気が高まりつつある園芸コーナーでは、園芸に対する入り口を広げるために、初心者に向けた失敗しにくい苗や肥料、栄養剤などを厚く展開。

また店内のグリーンコーナーには、「カフェブリッコ」も併設。種類豊富、手軽な価格で楽しめるマフィン(税別130円〜)が人気で、グリーンがある暮らしを体感してもらえるスペースといえる。これも実店舗ならではの「体験」できるコーナーといえよう。

店頭の様々なところに配置されているサイネージ。自社商品の動画が中心で、他社のサイネージに比べると、自然に売場に溶け込んでいる印象

デジタルの取組みとしてはサービスカウンター横にピックアップロッカーを設置。ネットやアプリから注文した商品をこのロッカーで受け取ることができる。コロナ禍で非接触を志向するお客に支持されて、利用率が伸びた。

ネットで購入した商品を受 け 取ることが できるピックアップロッカー。広い店舗で買い回る必要がなく、ショートタイムショッピングを志向するお客に向けて提供している

現在は、広い売場でアイテムを探すのが大変というお客などに利用されることが多いという。

またカインズアプリや、ポケットレジについても店内の至る所で告知をしていた。

店内には大型サイネージも設置され、自社PB商品の紹介動画が中心で流れている。メーカーのPOPなどが棚にあまり添付されていないことからも、同社が売場づくりでトーン&マナーを重視していることがよくわかる。よくよく見ると、メーカーがつくっていると推測されるPOPも、カインズ風のフォントや写真を使った、トーンを抑えたものが多い。

伝えるべきことを厳選すれば、より伝わりやすくなるということが、カインズの売場から学べる。

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[DATA]

店舗名 カインズ つくば店
所在地 茨城県つくば市小野崎278-1
売場面積 約3,150坪
営業時間 9:00~20:00
従業員数 134人
(正社員11名、専任社員5人、パート社員24人、アルバイト94人)
オープン日 2025年4月23日

イオンペットの戦略に学ぶ健康志向と付加価値商品の可能性

食品の値上がりが止まらず、実質賃金のマイナスが続いている。スーパーマーケット各社は価格競争力のあるPBを強化するなど、人々の生活防衛を意識した戦略を持って年末商戦に挑んでいく。その一方で、付加価値の高い商品が伸長し、活況を呈しているのがペット市場である。市場動向と合わせてペット事業の大手「イオンペット」の最新動向をリポートする。
(流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年11月号より転載)

飼育頭数は減少する一方で1頭にかける支出額は増加

イオンペットはペテモ幕張新都心店をリニューアルして商品や各種サービス、店舗設備を刷新、犬用のアパレル売場「(WANCLOSET)ワンクローゼット」を導入している

イオンペットは「PETEMO(ペテモ)」というブランド屋号で、ペット用品販売、グルーミングサロン、ペットサロン、動物病院を約200拠点で全国展開するイオングループのペット専門企業である。同社ホームページで公開している営業収益は448億円(2023年2月期)、ショッピングセンターを中心に店舗を展開している。

同社を支える犬猫の飼育頭数は、一般社団法人ペットフード協会の(2024年)全国犬猫飼育実態調査によると、犬が679万頭(世帯飼育率8.79%)、猫が915万頭(同8.61%)。

頭数で猫が犬を上回るが、世帯飼育率で下回るのは、猫は平均2匹と多頭飼育の傾向が強いためである。飼育頭数は10年前の2014年対比で、犬の飼育頭数が140万頭減少する一方で、猫は73万頭の増加、合算すると67万頭のマイナスになる。

「少子高齢化、人口減少が進む中で、ますます(犬猫が)かけがえのない存在になってきました。確かに飼育頭数に若干の減少が見られるものの、単身世帯は増加傾向にあり、たくさんの可能性があると考えています」(イオンペット商品本部 本部長代理 西澤啓輔氏)

飼育頭数が減少する中で平均寿命が延伸している。2014年対比で犬が16歳弱で+0.65歳、猫が15歳弱で+1.36歳と大幅な延びを見せている。

飼育環境の改善や、ペットフードの品質向上も要因として挙げられる。それらを含めて、オーナーがペットを大切に育てている証左といえるだろう。

その一方でペット関連市場は右肩上がりで伸長している。矢野経済研究所によると2024年が1兆9,108億円、これを2020年の1兆6,842億円と比較すると13.5%の伸び、さらに2027年の予測が2兆279億円と今後も市場規模の拡大が見込まれている。

「市場環境は物価高騰の影響を受けているだけではなく、ペット1頭にかける支出額が年々増加しているところに一番の影響があり、特にペットフードが成長のドライバーになっていると考えています」(西澤氏)

ペットフード市場については、2027年度(予測)が6,660億円で、2017年度の4,499億円から148%の伸びを示している(出典:富士経済ペット関連市場マーケティング総覧2025)。

バックグラウンドには、健康志向の高まりやヒューマングレード化(擬人化)、ペットの高齢化や人用メーカーとのタイアップなどにより高品質化が進んでいる。ペットの家族化や高齢化が進展し、高品質化するペットフード市場を中心にペット市場全体の拡大が見られる。

ペット1頭にかける支出額にも大きな伸長が確認できる。前出のペットフード協会の調査によると、犬に対する1ヵ月の支出総額は2024年1万5,720円と2019年比で132%と大きく増加をしている。

内訳を見るとフードが3,900円で123%。おやつが1,771円で137%、医療費が4,894円で123%などとなった。

猫についても同様に、1ヵ月の支出総額は8,930円、2019年比で119%、内訳はフードが3,238円で118%、おやつが1,515円で116%、医療費が3,494円で115%などとなった。

「プレミアムフードの市場拡大が理由の一つです。おやつも同様に健康志向やバラエティの拡大に伴い大きく伸長しています。医療費の増加については、オーナーの意識の高まりが(犬猫の)健康寿命の延伸とともに結果に表れています」(西澤氏)

ペットへの意識の高まりとして新しい商品群やプレミアム商品が伸長している。2025年4月にイオンペットが運営する「ペテモ幕張新都心店」をリニューアルさせている。

そこで「ペットバギーコーナー」を展開、売上を前年比で212%と大きく伸長させている(2025年4月18日〜5月31日の実績)。

ペットバギーとは犬用のベビーカーで、本体販売件数1位が3万8,000円の商品(FikaGo FREE TO GO2)。人用のベビーカーの平均と大差ない価格である。5位には7万4,000円の商品(AIR BUGGY DOME3プレミア)が入った。

「ワンちゃんと一緒にお出掛けする機運が高まっています。バギーにデコレーションするオプションの売上も拡大しています」(西澤氏)。

同店の「WAN CLOSET(ワンクローゼット)」コーナーも前年比121%と伸長させている(2025年4月〜8月の実績)。

ここでは犬用のアパレル用品を展開、さまざまな嗜好とバラエティに対応している。人気ブランドの導入やフェミニン、アクティブカジュアル、ベーシックデザインをコンセプトにしたウェアの品揃え、木製什器の導入や試着台を増設するなどして、アパレルショップの世界観を展開している。

販売チャネルが多様化し健康志向と消費の二極化進む

以上が近年のペット市場とイオンペットの対応であるが、同社の戦略的な取り組みとして冷凍食品の拡大がある。その冷凍食品の成長戦略に「フレッシュフード」をキーワードに置いている。

冷凍食品分野の「フレッシュフード」とは、単なる冷凍食品ではなくて、保存料、添加物がゼロ、もしくは抑制して、ヒューマングレードの食材を使用し、最小限の加工で製造した高品質な冷凍保存フードと位置付けている。

「私たちが利用する冷凍食品は、時短とか手間をかけない商品のイメージがあります。一方のペット市場では、新鮮な食材や高い嗜好性、水分摂取の促進などを強化しています。フレッシュフードを拡大させながら2027年度に向け、冷凍食品において2019年比で1.5倍近くの成長を遂げていきたい」(西澤氏)

イオンペットが扱う冷凍食品の構成比は、スイーツがメインで次いでフレッシュフード、デリカ、クリスマスケーキ、乳製品、おせち料理といった順になる。

冷凍食品分野では、年末年始用の商品としてさまざまなケーキ、おせちのラインナップを拡大している。オーナーと一緒にクリスマス、そして正月を特別なメニューで祝っていく。

左の犬が食べているのはおせち料理、その右の2頭はクリスマスケーキを楽しんでいる

イオンペット商品本部おやつ部門担当バイヤーの安藤梢氏は次のように市場の変化を説明する。

「ペットの家族化が進むことにより、愛するわが子であるワンちゃん、猫ちゃんと過ごすクリスマスや年末年始などの記念日を、より特別なものにしたいオーナーが増えています。ペットと一緒に楽しみたい、ペットが喜ぶ姿が見たいのです。クリスマスやおせちに求められるのは、高品質で華やかな見た目、より人間ナイズされた商品であることがポイントになるのです」

イオンペットにおけるクリスマスケーキ・おせちの販売推移を見ると、2024年は2019年比で172%を超える伸長になった。クリスマスケーキで2万7,178個、おせちで3,784個を販売した。節約志向の影響も考えて、売れ筋商品の売価ラインを維持しながら、利用者が手に取りやすい品揃えに注力した。

予約の傾向については二極化している。特別感を求めている利用者に関しては、早い段階からネットで情報を探しているため、イオンペットのECにおいて早期予約率が高まっている。

一方の節約志向の利用客に関しては、吟味した上で予約期間の後半に購入するとか、クリスマス当日に近づいてから店頭で予約するなどの購入が増える傾向にあるという。

「クリスマスのペット市場は顕著に拡大を続けています。今後の鍵は差別化商品の品揃えと、オンラインによる早期訴求になると考えています。拡大トレンドにあるクリスマス、おせちについて、2025年は前年比110%超えを目標にしています」(安藤氏)

犬猫を合わせて、ケーキ8SKU、おせち6SKU、オードブル6SKUを用意した。今年の販売戦略は、コラボやデザイン性を重視したペテモ限定のオリジナル商品、猫用の商品強化、EC限定商品の強化、早期予約特典による複数購入などを推進している。また「お客様の声」を重視して、小型犬に食べやすいロールケーキタワーを用意している。

このようにクリスマスや正月といった特別の日をペットと共に楽しみたいと願うオーナーの要望が強くなっている。

「ペットの家族化が一歩進んでパートナー化して広がりを見せています。また業界全体ではドラッグストアなどラインロビングによる他業態が参入、ECチャネルによる多様化が進んでいます。その中で健康志向が深まり、消費の二極化と多様化も進んでいくと考えています」(西澤氏)

先述のように猫の飼育頭数は増加しているものの、犬については減少している。ペット関連商品の価値をいかに高めていくか、業界全体の取り組みが問われている。

セブンは変われるのか?新経営陣が問題にした長きにわたる「成功体験」

セブン&アイ・ホールディングス(HD)は、今期より傘下にあったスーパーマーケットや専門店チェーン、外食チェーンなどの事業を切り離し、国内、海外のコンビニ事業に特化した事業体に姿を変えている。その新体制で同社の代表取締役社長に就いたのがスティーブン・ヘイズ・デイカス氏。今年8月6日、「7-Elevenの変革」を題目に都内で会見に臨んでいる。ここでは主に「国内セブン−イレブン」の現状と、求められる変革について、デイカス氏が語った内容を解説したい。
(流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年10月号より転載)

若い世代のお客様を中心にブランドイメージがやや低下

「7-Elevenの変革」と題した会見の冒頭、デイカス氏は近年の停滞を次のように指摘した。近年のセブン−イレブンの停滞を客観的に言い当てている。

「私たちは長年のマーケットリーダーであり、今でも圧倒的なトップポジションを維持しています。そこには多くのポジティブな面がある半面、実はとても危険な環境でもあると考えています。長期にわたる成功は、われわれの事業に慢心をもたらし、イノベーションやエクセキューション(計画や戦略を実行に移すこと)のスピードを低下させるのです」

国内セブン−イレブンの店舗数は2万1,743(2025年2月期)で創業以来、毎年増店、チェーン全店売上は5兆3,698億円でコロナ禍の2020年度、2021年度を除けば、こちらも創業以来、一貫して増加させている。ただし、2010年代後半から伸び率に鈍化傾向が見られる。加盟店の損益は公表されていないが、増店の鈍化は最終利益が厳しい状況に置かれていると推測できる。

それは業態の垣根を超えた競争環境の激化に加えて、高騰する人件費を十分に吸収できる利益確保が難しくなっているからであろう。売上を上乗せできる新たな商品やサービス、カテゴリーの創出、さらに加盟店の運営コストを抑える仕組みづくりに後れをとっていると筆者は認識している。

競合チェーンとの比較においても消極的な部分があるとデイカス氏は次のように指摘する。

セブン&アイ・ホールディングス
代表取締役社長最高経営責任者(CEO)
スティーブン・ヘイズ・デイカス氏

「セブン−イレブン・ジャパン(SEJ)は、お客様とのコミュニケーションやエンゲージメント(深いつながりを持った関係性)において、競合他社に遅れをとっています。率直に言って、競合他社に比べてやや受け身であり、コミュニケーションへの投資の一部は誤った方向に進んでいました。その結果、特に若い世代のお客様を中心に、ブランドイメージがやや低下しています。高齢のお客様からは依然として強い支持を得ていますが、若い世代のお客様からの支持は減少しています。SEJのリーダーシップチームはこの問題を認識しており、迅速に対応を進めています」

利用者とのコミュニケーションに関して、最も強い来店動機は、加盟店のオーナーや店長、その他従業員による接客になるだろう。セブン−イレブンに限らず、コンビニフランチャイズに加盟した初期のオーナーは、業種店から転換した商人が多かった。

その土地で古くから酒販店、米穀店、青果店、食料品店などを営んできた商人は、顔と名前を覚え、御用聞き(配達サービス)を実践してきた。特にセブン−イレブンは、創業期に酒販店からコンビニへの業態展開を集中的に促してきたので、地域と深くつながった加盟店オーナーが力を持ってきた。

一方で、90年代後半から家庭用パソコンが普及。続いて携帯電話、スマートフォン、タブレットなどを一般の人たちが持ち、いつでもどこでもインターネットにアクセスできるようになった。そこでは、多様なチャネルを通した、利用者との双方向のコミュニケーションが求められるようになった。

コンビニ各社はキャンペーンの告知や、クーポンを発行する自社アプリを開発。利用客の囲い込みに注力している。大手3チェーンの自社アプリ、それぞれ2,000万から2,500万の累計ダウンロード数を記録している。自店のカウンターでのフェース・ツー・フェースのコミュニケーションから、自社のアプリやSNS、さらにはAIカメラを用いた商品のお薦め、店内のデジタルサイネージなど、利用客との接点が多様化していった。

セブン−イレブンが、この分野で競合チェーンと比較して目に見えて遅れているとは思えない。お届けサービスの「7NOW(セブンナウ)」を自前で開発し、既に全国で展開している。ただし、7NOWを除けば、競合チェーンをリードする存在かといえば、決してそうは見えない。

初期のセブン−イレブンを支えた加盟店オーナーは世代交代をしている。現場の力が強かった分、最新デジタルを活用した合理化に後れをとった。特にデイカス氏が指摘する「若い世代の支持の減少」に対しては危機感を持って当然だ。

「優秀な外部人材の獲得も含め、コミュニケーションチームの刷新と強化を進めています。商品開発、店舗活動、そしてコミュニケーションへの統合的なアプローチを確立することで、事業運営の変革を進めています」(デイカス氏)と対策を説明する。

もう一つ卑近な例として挙げられるのが「上げ底」騒動である。SNS上でセブン−イレブンの弁当や惣菜が以前の商品と比較して「上げ底」が目に見えて増しているといった指摘が、画像や動画とともに拡散した。

週刊誌の取材に(当時社長の)永松文彦氏が強く反論したことも火に油を注いだ感があった。SNS情報に敏感な若い世代に対しては非常にネガティブな発信になった。この一連の騒動が二度と起きないような万全な体制を組む必要があるだろう。

AIの活用、データ分析などにパートナーの協力が必要

加盟店を軸とした生産性向上は喫緊の課題である。前述したように店舗従業員の人件費は上り続けていく。コスト削減に取り組むと同時にトップライン(売上)も高めていく必要がある。デイカス氏は次のような問題意識を持つ。

「テクノロジーと膨大なデータを活用し、お客様にとってより便利で魅力的なショッピング体験を提供すると同時に、店舗(特にフランチャイズ加盟店)の生産性と収益性を向上させる新たなモデルを構築することです。グローバルな展開と業界をリードする規模を持つ私たちは、これを実現できる立場にあります。当社は日本に約1万1,000店舗、北米に約1万3,000店舗を展開しており、この2つの地域だけで毎日約3,000万人ものお客様が当社の店舗に来店されています。私たちはサプライチェーンとマーチャンダイジングにおいて大きな強みを持っています」

それには最新デジタルの活用が欠かせない。デイカス氏は次のような認識を示す。

「AIの活用、オートメーション、データ分析といった分野にはまだ強みを持っていません。これを実現するためには、パートナーの協力が必要です。幸いなことに、競合他社もこの分野においては先行しているわけではなく、この分野における強みを実現するには非常に大きなチャンスがあります」

最新デジタルの取り組みが十分ではないことを伸びしろと捉える。競合するローソンは親会社の三菱商事に新たにKDDIが資本参画し、2024年8月に出資比率を50%ずつとする共同経営パートナーとなった。KDDIが強みとするITを強化し、コンビニの未来を描こうとしている。

デイカス氏も業界動向を見ながら、柔軟な姿勢を示している。

「重要なのは、新しいテクノロジーを生み出すことではありません。テクノロジーは既に存在し、日々急速に進化をしています。つまり、テクノロジーを活用し、お客様により良い体験価値を提供し、パートナーに新たなモデルを提示することです。これは一朝一夕に実現できるものではありませんが、私たちが注力していかなければ決して実現できません」

単に変化に対応するのではなく受け止め、その変化をリードする

セブン&アイHDは2025年9月に中間持株会社のヨークホールディングスを投資ファンドのベインキャピタルに売却する。イトーヨーカ堂を祖業とするセブン&アイHDはコンビニに特化した事業体になる。

日本のセブン−イレブンを実質創業した鈴木敏文氏も2016年4月に経営から退き、イトーヨーカ堂を創業した伊藤雅俊氏は2023年3月に亡くなっている。

デイカス氏は今こそ創業の精神を取り戻すだけでなく、それを乗り越える覚悟が必要と説いている。

「この先、私たちには多くの変化が待っています。しかしながら、一つだけ決して変わることがないのは、当社の基本的な理念です。私たちの創業者(伊藤雅俊氏、鈴木敏文氏)は、どのように事業を行うべきか、とても明確なビジョンを持ち合わせていました。ステークホルダーからの信頼獲得のために、私たちの創業者は変化を受け止めることを求めています。

単に変化に対応するのではなく、受け止め、その変化をリードすることを求めています。(中略) 現在、私たちの課題の一つは、この創業者の精神が失われていることだと考えています。特に日本において、私たちはかつてほどお客様からの信頼を獲得できていません。また今、私たちは創業者がしたように、積極的に変化を受け止めることができていません。本社を中心に、私たちは少し現状に甘んじてしまっている部分があります。だからこそ、創業の精神を取り戻すことがとても重要なのです」

デイカス氏は創業の精神と表現するが、伊藤雅俊氏、鈴木敏文氏の跡をたどることでは決してない。既存の枠に捉われず、自らの限界を超克する取り組みが令和の時代に求められている。

ネット専用スーパー「グリーンビーンズ」に見る最新ロボティクスソリューションの活用事例

小売業の生産性向上にはAIとロボティクスの導入は不可欠だ。イオンのネット専用スーパー「Green Beans」(グリーンビーンズ)を運営するイオンネクストは、大型物流拠点である誉田CFC(顧客フルフィルメントセンター)に新たなロボティクスソリューションを本格導入、今年6月30日にメディアに公開した。グリーンビーンズが本格稼働してから2年が経過。2026年度と2027年度には、新たなCFCを首都圏に開設、規模拡大を図っていく。最新のロボティクスと同社の成長をリポートする。
(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年9月号より転載)

千葉、西東京、埼玉のCFCでSM200店舗分が首都圏で稼働

2023年7月に本格稼働から2年が経過した誉田CFC

誉田CFC(千葉市緑区)は2023年7月に本格稼働を開始した。そのCFCに搭載された最新デジタル技術と機能は、イオンが2019年11月に提携した、英国オカドソリューション[英国テクノロジー企業 Ocado(オカド)グループの子会社]が担う。

イオン100%子会社のイオンネクストが手掛けるグリーンビーンズは、最新テクノロジーと、イオンの商品開発力、情報ネットワークなどを駆使しながら首都圏を配送エリアとしてスタート。AIとロボットを活用したCFCのオペレーションとロジスティクス、個々の購買履歴に合わせたサービス、コールドチェーンによる鮮度管理により、鮮度の高い商品の玄関先までの配送を実現させている。

誉田CFCは、一般的なスーパーマーケット50店舗分に相当するサイズだという。2026年度に東京西部の八王子で稼働させるCFCも50店舗分の規模で、2027年度に埼玉県の北部に計画する久喜宮代CFCは100店舗分に相当。これら3つのCFCが出そろえば、首都圏においてSM200店舗分のネットスーパーが稼働する。

最新の自動化技術の導入で業務効率を飛躍的に向上

今回のロボティクスソリューションの目的は、導入により人手による作業の約30%を自動化ロボットが担うことだ。単純作業や重労働など従業員の負担を大幅に軽減するとともに、より安定した供給体制と作業効率の向上、働きやすい現場づくりを実現していくことにある。

「オングリッドロボットピック」は、お客が注文した商品をピック&パックする最先端のロボットピッキング。1日あたり約20万点の商品ピッキングを可能としている

公開した第1の自動化ロボットは「オングリッドロボットピック」と呼ばれるもの(写真参照)。お客が注文した商品をピック&パックする最先端のロボットピッキングである。さまざまなサイズ・形状・重量・傷つきやすさを持つ商品を、AIがその場で認識・判断し、袋詰めまでを実施する。

ツルのくちばしのような形状をしたロボットのアームが、グリッド(商品棚)上から商品を直接取り出すことで、従来人手で実施している場所の省スペース化と生産性の向上を実現、1日あたり約20万点の商品ピッキングを可能としている。

誉田CFCでは約3万8,000点の商品を取り扱っている。そのうちオングリッドロボットピックによる対象商品数は現状約3,000点、これを2025年度中に約1万点までピッキングする商品を増やしていく。ピッキングの対象としていない商品は、重量が2kg以上のものや、破れやすい、壊れやすいといったものになる。

第2の自動化ロボットは「オートフレームロード」。配送直前の注文ボックス(トート)を、配送用フレーム(台車)に自動で積み込むロボティクス技術になる。配送準備の中でも特に重労働な作業において、画像認識カメラとAIにより、トートの形状や重さ、フレームの状態をリアルタイムで把握し、人手を介さず最大20kgのトートを最適な位置に自動で積載する。現在、4台を配置している。

従来はAIによる配送順や重量バランスなどを考慮した積載指示をもとに、人手で積み込んでいた。1日に2万6,000個のトートを運んでいたが、この重労働を完全自動化し、作業者の負担を大幅に軽減した。配送車への積載効率や重さのバランスにも配慮した設計としている。

既存の自動ロボット設備について幾つか触れておく。一つ目は「ボット」。商品を収納したトートを持ち上げ、CFC内の商品棚上を走行しながら指定の場所まで運搬するロボットになる。お客の注文に応じて、必要な商品が入ったトートを正確かつ迅速に搬送し、ピッキングやパッキング作業の効率化に対応している。

ボットは秒速4m、人の10倍の速さで移動、生産性も10倍近くに高まる。誉田CFCは荷受けから出荷まで、直接関わる人員は約30人程度である。通常のネットスーパーであれば、誉田CFCの出荷量に対応するには数百人規模の人員が必要になる。

「オートフレームロード」は、配送直前の注文ボックス(トート)を、配送用フレーム(台車)に自動で積み込む最新のロボティクス技術

二つ目は「オートバギング」。1分間に50以上の袋をトートに掛ける自動袋掛けのマシーンになる。お客へ配送するトートに最大3袋を設置することを可能としている。三つ目は「バキュームリフター」。作業者の負担を軽減するためのハンドクレーン型バランサーになる。重い物や持ちにくい物を簡単かつ安全に持ち上げたり移動させたりするための装置だ。

四つ目は「無人搬送機(AGV)」。入荷商品の台車を同時に2台搬送できる無人輸送車になる。あらかじめ設定されたルートを自動走行し、効率的かつ正確に目的地まで入荷商品を無人で搬送する。

イオンネクストは、これからも最新の自動化技術のさらなる導入と最適化を進め、業務効率を飛躍的に向上させるとともに、これまで以上に迅速かつサービスの質を一段と高めることで、より便利で安心できるサービスを提供していくとしている。

商品アイテム、お客の利便性 サービスエリアの拡大を図る

会員数の拡大については、誉田CFCの稼働から2年間に60万人を獲得しているが、2025年度末までに100万人の突破を目指している。それでも首都圏の世帯数は1,700万あるので成長の余地はあると見ている。

会員の中にはヘビーユーザーもいて、都内23区の港区や世田谷区には、客単価(バスケット単価)が1万7,000円以上、買上点数が30点以上の利用客がいる。こうした会員数の拡大にともない「スポーク」と呼ばれる中継拠点を2025年度末までに現行の9から14まで拡大していく。

今後の課題として物流の効率化と利便性の向上が挙げられる。イオングループ全体の物流再編も考え得るであろう。例えば都市型小型食品スーパーの「まいばすけっと」は首都圏で1,251店舗(8月1日現在)を展開しているが、ここをグリーンビーンズの受け取り拠点に加えれば、自宅に不在がちの共働き夫婦には役立つサービスになるであろう。

イオンネクスト代表取締役社長のバラット・ルパーニ氏は次のように総括する。

『私たちは他のネットスーパーとは一線を画すサービスによって会員数を拡大しています。グリーンビーンズのサービス設計は、3万点以上の豊富な品揃えによりワンストップショッピングを実現、1週間鮮度保証の「鮮度+」「食べごろ+」、社員クルーによる質の高い配送、24時間注文可能の朝7時から夜11時までの1時間単位の配送枠、サクサク動くWebアプリ、これらの価値提供に集約されています。登録済み顧客数は60万人以上、平均客単価は1万円以上、買物客の90%以上はリピーターです。お客様の信頼とロイヤリティが高いということです』

今後、グリーンビーンズは次の3つのテーマにフォーカスしていく。

第1にオリジナル商品の拡大。食品だけではなく、需要が高まる韓国コスメなどのビューティケア、その他ノンフーズについても広範に品揃えを追加していく。特に首都圏の若いお客に合わせた商品も追加していく。

第2に利便性の拡大。新たな決済手段やロイヤリティプログラムを計画している。WAON POINTによる支払い機能やサブスクリプションも開発していく予定である。

第3に配送エリアの拡大。サービスエリアは2年間で急速に拡大、誉田CFCは東京23区の全て、千葉県の13都市、神奈川県の横浜・川崎エリアをカバーしている。前述のように、今後は八王子、久喜宮代でCFCを稼働させて配送エリアのいっそうの拡大を図っていく。

その一方で、ドライバーの不足が物流業界で課題になっている。グリーンビーンズではエリアの拡大と同時に、物流効率の向上を図っていく。例えば再配達を減らすため、1時間枠の設定に加えて、トラックが直前の配達先を出たところで、次の届け先にメールを送信して在宅を確認するなど細かな仕組みを整えている。結果として当日の不在率を0.5%未満に抑えることに成功している。

このようにグリーンビーンズは、AIとロボティクスソリューションを土台に、商品アイテム、お客の利便性、サービスエリア、この3つの拡大を図って、日本の流通を変革していく。

ローソンが「未来のコンビニ」をオープン、サービスと運営に新たなテクノロジーを搭載

2025年6月23日、ローソンは未来コンビニ「Real×Tech LAWSON」の1号店、「ローソン高輪ゲートウェイシティ店」をオープンした。“リアルの温かみとテックの力を融合させた店舗”をコンセプトに、同年7月に開設したKDDIの新本社「TAKANAWA GATEWAY CITY」内のオフィスビル6階に出店、新たな体験と店舗運営を提供していく。
(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年8月号より転載)

新たなお客様体験と店舗運営で売上を高め作業人時の削減図る

これまでの経緯に簡単に触れると、2024年、KDDIがローソンにTOB(株式公開買付)を実施、ローソンはKDDIが50%、三菱商事が50%を出資する共同経営体制に切り替わった。

2024年9月の会見で3社のトップが顔をそろえ、情報通信のKDDIが経営に参画することで、ローソンは、テクノロジーを強化した「Real×Tech Convenience(リアルテック・コンビニエンス)」として業態の進化を早めていくと方向性を示した。その「未来のコンビニ」を3社の会見から9ヵ月強を経てお披露目となった。

オープン当日、会見に臨んだKDDI執行役員パーソナル事業本部パートナーグロース本部長の久木浩樹氏は、“リアルテックローソン”の意義を次のように述べた。

「少子高齢化に伴う生活インフラ維持の危機に対し、テクノロジーを活用することで、コンビニの位置づけを地域のマルチハブとなるようにする。リアルテックローソンが地域における最重要インフラ拠点となり、さまざまな社会課題の解決に貢献することを目指していく」。

この構想の一環として、リアルテックローソンをKDDIが直営の形で運営する。KDDI社員がコンビニ経営に自ら携わることで、その知見を蓄積していく。さらにKDDI社員がファーストユーザーになることで、各種実験検証を加速させ、ローソン店舗への波及速度を高めていくという。

このリアルテックローソンは二つの取り組みを強化し、その中で成果の見られる施策については全国のローソンに導入していく。第1は「新たなお客様体験の提供」、これはトップライン(売上)を高める施策であり、主に客数アップと買上点数の向上を図る。

第2は「新たな店舗運営の確立」となる。AIなどを用いて店舗運営の適正化を図り売上の向上を目指し、またロボティクスの導入により店舗人時数の削減を図る。

相談所で幅広いサービスを提供 日常生活のお困り事に応える

第1の「新たなお客様体験の提供」についてはAIサイネージを設置した。AIカメラを活用した行動解析により、商品棚前のお客の行動に合わせたレコメンドを実施する。

例えば、商品棚の前に滞在する時間が長ければ、商品選択に悩んでいると判断し、棚に設置したサイネージでランキングやお薦め商品を表示する。

また、商品に手を伸ばした際には「そのお弁当と一緒にお茶をご購入いただくと50円引き」といった関連商品のレコメンドや、必要とされる情報を表示する。

なお、このサイネージでは、性差や年齢、体形などお客の特徴に合わせたレコメンドは実施しない。AIがお客の特徴を捉えた上での情報提供も可能だが、サイネージが周囲のお客の目に触れるため、個人に関係するレコメンドは控える。

一人ひとりの状況や行動にあわせたタイミングで情報を伝えることで、適切なレコメンドやサポートを届けて、主に買上点数の向上を後押ししていく。

お客がプライスレールにタッチすると、商品のより詳細な説明が表示されるようにした

サイネージの二つ目は「プライスレール連動サイネージ」。商品棚のプライスレールにタッチ式サイネージを導入して、お客がそれに触れると、ゴンドラ上のサイネージに商品紹介が表示されて詳細な情報を得ることができる。お客は自らの能動的な行動により納得感を持って購入できるようになる。

三つ目は店内の壁面に設置したサイネージ。ここでは「画像生成AI」を活用した壁面緑化演出「MIRRORGREEN ミラーグリーン」により「朝・昼・夜」に応じた演出を行う。1日に複数回来店するお客は、時間ごとに異なる店舗空間により購買意欲を増すことになる。

このサイネージは店舗の販促にも活用する。例えば「からあげクン」を、店内のサイネージを使って、ちょうど揚げたてのタイミングで訴求することができる。買上点数のアップにつなげられる。販促だけではなく、高輪ゲートウェイシティに実装されている都市OSとサイネージを連動させて、地域情報をリアルタイムで伝える拠点機能を強化させていく。

店舗周辺の人流や天候、電車の遅延状況などをデジタルサイネージで表示して購買行動に結びつける

例えば、天気や電車遅延、周辺の混雑情報などをリアルタイムで配信し、お客が店内にいながらリアルタイムで情報を得ることを可能としている。

「その日の天候や温度に合わせて、熱中症対策の商品をレコメンドしたり、街のイベント開催に合わせた食品をレコメンドするなど、お客様の体感、体験と購買行動を結びつけていく」(久木氏)

これは後述する店舗運営に関連するが、周辺の人流データなどをもとに需要予測の精度を高めて在庫の最適化によるフードロス削減も検討していく。

「新たなお客様体験の提供」の目玉になるのがリモート接客の「Pontaよろず相談所」。店内の一角にブースを設置、リモート接客により、通信・ヘルスケア・金融・清掃・家事代行など、さまざまなサービスについて、ビデオ通話を通じて各分野の専門スタッフに相談できるようにした。このリモート接客には、KDDIの提供する「次世代リモート接客プラットフォーム」を導入している。

お客に対しては、自宅のPCを使用せず、わざわざローソンの店内でリモート接客を受けることの、利便性とサービス内容の優位性を上手に訴求する必要があるだろう。

その一つとして「日本で初めてとなるご自宅以外の場所でオンライン診療、オンライン服薬指導が受けられるというサービスを開始する。これにより、すきま時間で診察を受け、常用しているお薬を処方してもらい、自宅で受け取っていただけるなど、さまざまな便利な使い方が可能となる。

AIアバターが会話形式でナビゲートすることでパソコンなどが苦手なお客様でも安心して利用いただくことが可能となる」(久木氏)と、店内のリモート相談所を案内していく。

また過疎化対策にも活用していく。「地域によって各種相談手続きを行える場所が近くにないケースは増えてきている。相談所により幅広いサービスを提供し、日常生活のお困りごとをリモート接客で解決し、ローソンが欠かせない存在になることを目指していく」(久木氏)。

アルコール類、たばこ購入には3Dアバターが遠隔から年齢確認

第2の「新たな店舗運営の確立」について、ローソンでは2030年までに店舗オペレーションの30%削減を目標としている。リアルテックローソンでは、ロボティクス活用による飲料陳列や店内清掃、調理などの業務をロボットにサポートさせている。

飲料陳列ロボットは、人手を解消するだけでなく、陳列を通して商品の動きを可視化して、発注やフェース管理に役立てていく考えだ

ロボティクス活用は人時数の削減を目的とするだけでなく、例えば、飲料陳列ロボットではデジタル在庫棚の組み合わせにより、売場棚と在庫棚の飲料在庫量、売場棚の棚割や日々の欠品状況などを、専用アプリを通じて可視化させていく。これにより在庫管理や余剰在庫削減を実現させていく計画である。

また、従業員が身に付けるタグから店舗業務量の定量データを算出するシステムを導入した。業務量を可視化して、業務最適化に向けた課題を抽出していく。

一方で、防犯カメラの情報をもとに棚の充足率やお客の行動を可視化。そのデータをもとに、「AIエージェント」が改善策の提案、検証を支援する。これまでの店舗運営で、属人的、感覚的だった意思決定を、AIエージェントのデータに基づいて判断することを可能にした。

セルフレジの支援にはアバターの遠隔接客を採用している。お客のセルフレジ操作を遠隔からサポート、新たに3Dディスプレイによってアバターを立体的に表示して、より豊かなコミュニケーションに期待する。

ここではアルコール類、たばこ購入の際、3Dアバターを通じて遠隔から年齢確認を行うことで、店内の人時数の削減にも貢献できる。アバターは複数店舗を掛け持つため、チェーン本部と加盟店の全体により、サービス向上と効率化を実現している。

コンビニ経営の最大の課題は、加盟店利益の確保にある。サービスを高め、売上も上げて、店舗運営のコストを下げる。未来のコンビニは夢のような話ではなく、コンビニ業界全体の存続をかけた課題でもある。

市場シェア95%のラガーに挑むセブンと総力戦で横展開を図るファミマの新企画

セブン−イレブン・ジャパンはクラフトビールの最大手、ヤッホーブルーイングと初となる共同開発ビール「有頂天エイリアンズ」(318円、税別)を5月21日より首都圏および長野県・山梨県のセブン−イレブンで販売を開始、ファミリーマートはAfternoon Tea(アフタヌーンティー)監修の商品を5月20日より過去最大となる25品目を、カテゴリーを横断して展開した。こうした他社とのコラボレーションが近年は増加傾向にある。両チェーンの狙いと商品開発のあり方を考えてみたい。
(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年7月号より転載)

低価格PBを定着させた後上位ブランドのビールを投入

コンビニの商品開発は「単品」を基本にしている。チェーン本部は売れる単品を推奨し、フランチャイズ加盟店は自らの意志で売っていく。

わずか40坪の売場面積と3,000品目で商売を営むには、売れない商品を並べる余裕はない。商品部は、1万数千店から2万店以上の加盟店に送り込んだ商品が売れなければ責任問題になるし、加盟店は発注した商品が売れずに廃棄ロスが増えれば、“日々の生活が脅かされる”のだ。

アジアに出店する日系コンビニや地元ローカルの店を見ても、日本ほど商品が入れ替わるコンビニは他にない。日本のコンビニは1週間に約100品目の商品を新たに投入している(100品目が退場する)。新商品が来店客にとっては情報であり、トレンドや季節を演出してきた。もちろん「おいしさ」が大前提にあり、単品量販ができない業態特性上、付加価値の高い商品を中心に品揃えしてきた。

しかしながらコンビニは今、逆風にさらされている。今年4月の消費者物価指数は(生鮮とエネルギーを除き)前年比3.5%の上昇、5ヵ月連続で3%以上となり、消費者の生活防衛意識は高まっていく。

食品に関しては、生鮮素材から調理をすれば加工品を購入するよりコストは低い。米飯弁当や調理麺、調理パン、惣菜をメーンにそろえるコンビニは、どうしても割高に映ってしまう。

それでも「本当に価値のある商品を提供すれば、お客様には喜んで買っていただける」が、コンビニ業界の理念ともいえるし、商品に価値を認めてもらえれば、多少の価格差は問題ないとする考え方はいまだに支配的である。そうした「価値」を前面に打ち出したコンビニの新商品を見ていきたい。

現行缶製品で最多量のホップを使用した「有頂天エイリアンズ」。ホップ量はヤッホーブルーイングのロングセラー商品「よなよなエール」の1.8倍、香気成分の含有量は、一般的なラガービールの約11倍あるという

一つ目はセブン−イレブンの「有頂天エイリアンズ」。今年5月21日より首都圏および長野県・山梨県のセブン−イレブンで順次先行発売、今後は全国のセブン−イレブンでの展開も予定している。

同商品は一般的なラガービールの特徴である「透明ですっきり・苦みが強め・穏やかな香り」のテイストとは大きく異なる「濁ってまろやか・苦み控えめ・トロピカルな香り」といった特徴を持つ。昨年12月に長野・山梨ほか一部地域のセブン−イレブンでテスト販売を実施したところ、想定より1ヵ月前倒しで完売したことが今回の販売拡大につながった。

ビールを大まかに分類すると、下面発酵で造られるラガービールと上面発酵のエールビールに分類される。日本のビールメーカーが製造する商品はほとんどがラガー系で、消費量を見るとラガー系が95%を占めている。米国の80%、ドイツの70%と比較しても、日本の消費者はラガー系を選択“させられている”。

今回の有頂天エイリアンズはエールビールの一つに分類される。セブン−イレブンは、従来の大手ビールメーカーが造るラガービールに加えて、日本ではマイナーの領域にあるエールビールを後押しする格好になった。

“後押し”というのは、2024年12月にセブン&アイ・ホールディングスはサントリーと共同開発したエールビール「セブンプレミアム エールズ350ml」(180円、税別)をグループの約2万2,300店舗で販売を始めている。同年10月に一部地域で先行販売を実施したところ計画した数量の2倍を上回った実績を持つ。

エールビールを180円の低価格PBで定着させ、その上位ブランドに318円のクラフトビールを品揃えした。近年、日本のビール市場でも小規模な醸造所が造る多種多様なクラフトビールが飲食店やスーパーマーケットに並ぶようになってきた。日本のクラフトビール市場は10年間で4.6倍に伸長している。

日本クラフトビール業界団体連絡協議会が2024年4月に公表した「クラフトビール統計」によると、ビール系(新ジャンル含む)の中でクラフトビールのシェア(数量)は0.96%と1%も満たしていない。その意味では、今後も伸びしろはあるだろう。※

※本稿のヤッホーブルーイングはキリンビールと資本関係にあり、商品の一部はキリンビールの製造工場を使用しているため「クラフトビール」に含めるか否かは意見が分かれ、上記のクラフトビール統計に同社が含まれているかは公表されていない。ただし、商品のバラエティと同社の開発体制から本稿では「クラフトビール」として記述している。

ライト層に訴求して市場拡大

セブン−イレブンは2021年下期の商品政策で「ワクワク」をキーワードにした販促の強化を打ち出した。今回は個性的な味を追求するクラフトビールの「ワクワク」、そして「選ぶ楽しさ」を提案して、ビール市場を拡大したい狙いがある。

セブン−イレブンの説明によると、日本の成人人口は約9,000万人で、飲酒に関して「週1回以上」が2,000万人、「月1回以上」が2,000万人、「飲酒しない」が5,000万人で、この「飲酒しない」のうち「きっかけがあれば飲む」が2,000万人いるという。

セブン−イレブン・ジャパン商品本部飲料・酒・加工食品部シニアマーチャンダイザーの上條智氏は次のように市場を見ている。「われわれは上位2,000万人にお酒を提案しているが、月1回以上の方、そしてきっかけがあれば飲む方たちに購入いただければ、お酒のマーケットは2倍にも3倍にも広がるチャンスがある」

そのきっかけがワクワク感を発信するクラフトビールにあると上條氏は見ている。実際にセブン−イレブンで既存のクラフトビールを購入する客層は40代男性が30%、50代男性18%、40代女性12%となり、レギュラービールの購入客層(主に中高年の男性)と比較して若く、女性比率が高いという結果が出ている。こうした新しい客層へワクワクする仕掛けがビール市場開拓には必要で、クラフトビールは有効になると見る。

併買商品についても新しい傾向が出ている。クラフトビールの併買商品は「香ばし炒めの玉子炒飯おむすび」「赤坂璃宮監修五目春巻」「たことブロッコリーバジルサラダ」といった食事としての買い合わせが多いことに特徴を持つ。

一方のレギュラービールは「ななチキ」「揚げ鶏」「牛肉コロッケ」など、おつまみとしての買い合わせが多い。クラフトビールの購入客層は、食事と一緒(with)にお酒を楽しむ傾向がある。こうしたアルコールに対するライト層にも市場の広がりを期待できるだろう。

「日本には地域に限定したクラフトビールがある。エリアごとに、さまざまなビールに対応していきたい。エールビールについては、われわれのセブンプレミアムでも扱っており、多種多様な商品を紹介しながらビールの飲用人口を増やしていきたい」(上條氏)。

セブン−イレブンはクラフトビール系の最大手と組んで、ユニークなブランド名を発信しながら、新たなマーケットを開拓していく。

カテゴリーを横断して同じテーマで商品展開

ファミリーマートはスイーツに注力。「コンビニでスイーツを買うならファミリーマートと一番目に想起されるチェーンになることを目標にしている」(ファミリーマート商品本部スイーツ部部長の山岡美奈子氏)

左から「クッキー増量 アフタヌーンティー ロイヤルミルクティーフラッペ」 (334円、税別)と「アフタヌーンティー ピーチアールグレイミルクティーフラッペ」 (334円)

アフタヌーンティーとは、2019年10月にアールグレイの紅茶を使用した焼き菓子4種類を発売したのが取組のスタート。この女性層に支持のあるブランドとの初コラボ商品が支持されたことで、他のカテゴリーの商品を拡大し、これまで継続してコラボレーションを実施している。

「コラボレーション商品は数量限定が多いのだが、定番商品として展開しているものもある。主に女性のお客様から厚く支持をいただいている」(山岡氏)

こうした背景から、ファミリーマート商品で“アフタヌーンティーを楽しんでいただく”をコンセプトに、カテゴリーを横断して、コラボレーションでは過去最大規模となる新商品16品を含む合計25商品を一斉に展開することにした。「カテゴリーを横断して同じテーマの商品を展開することで、買い合わせ点数のアップや食べ比べなどの話題化を狙っている」と山岡氏。最近、コンビニスイーツで“ヒット商品”を聞かなくなった。単発のヒット商品は狙いにくいのか。

「コラボレーションによる品質向上、そして話題性も大きい。単発の商品ではなく、今はカテゴリーを横断した“総力戦”で臨んでいます」(山岡氏)

ブランドの力を借りながら、共通のテーマで各カテゴリーの底上げを図っていく考えである。生活防衛の厳しい環境下にある顧客に日常の“ワクワク感”を、どう訴えていくかが問われている。