NFI定例セミナー「MDの3つの設計図」(2025/3/18 13:00~16:10)開催ご案内(リアル・リモート)

今回のテーマは、MDの3つの設計図「商品構成、商品分類、相乗積」と、年々存在感を増している「ドラッグストアの食品強化戦略」です。売れ数比例配分の商品構成を維持することの意味と重要性。関連購買、需要創造を実現する商品分類と売場レイアウトの原則。売場の粗利ミックスを実現する相乗積への取り組み方を解説します。

2025年3月定例セミナーは、「リアル」と「リモート」の併用セミナーとします。

今回のテーマは、MDの3つの設計図「商品構成、商品分類、相乗積」と、年々存在感を増している「ドラッグストアの食品強化戦略」です。

売れ数比例配分の商品構成を維持することの意味と重要性。関連購買、需要創造を実現する商品分類と売場レイアウトの原則。売場の粗利ミックスを実現する相乗積への取り組み方を解説します。

これまではスーパーマーケットの補完的な役割だったドラッグストアの食品売場が大きく変わろうとしています。スーパーマーケットが2024年の1年間で50店しか増えなかったのに対して、ドラッグストアは550店以上も店舗数が増えており、日常的な食品の購入場所として存在感が高まっています。

ドラッグストアの食品MDのポイント、商品管理のポイントを解説します。

※座席数が限られているため、リアルでの参加の方は先着順とさせて頂きます。

開催概要

・開催日:2025年3月18日(火) 13:00~16:10(会場受付開始:12:30)
※昼食は各自お済ませの上ご来場下さい。
※セミナー開催中の途中入場はお断りします。
※リモートでの途中退席は申込責任者に報告します。

・会場:エッサム神田ホール1号館6階(601)(※案内図をご参照ください)
・実施方法:リアルとZOOMによるリモートセミナー
(ZOOMセミナーアクセス方法はお申込み者様にのみご案内いたします)
・料金:20,000円(税別・1名様)
(※ニューフォーマット研究会会員企業様には会員価格でのご案内になります)
・申し込み締め切り:2025年月3月10日(月)

スケジュール

MDの3つの設計図
商品構成、商品分類、相乗積

[13時~14時40分頃]

NFI代表取締役 日野 眞克

(1)商品構成の原理原則
(2)商品分類の原則と需要創造(フェムテックなど)
(3)売場レイアウトの基本
(4)粗利ミックス・相乗積管理の進め方 他

SMの補完業態から食品のメイン業態へ
ドラッグストアの食品強化戦略

[14時50分頃~16時10分頃]

エイジスリテイルサポート研究所所長 三浦 美浩

(1)統計データに見るドラッグストアの食品市場の急成長の実態
(2)ドラッグストアで成長しているの食品カテゴリー
(3)ドラッグストアの食品 MD のポイント
(4)ドラッグストア食品のローコストオペレーション、商品管理 他

※講演時間は予定よりも短くなることも長くなることもあります。

会場案内図

会場詳細

〒101-0045
東京都千代田区神田鍛冶町3-2-2
エッサム神田ホール1号館6階(601)
URL:https://www.essam.co.jp/hall/access/#access_1

【アクセス】
●JRでお越しの方
神田駅東口より徒歩1分
●東京メトロ銀座線でお越しの方
神田駅3番出口より徒歩0分

注意事項

①会場へお越しの方は開催会場をご確認の上、お間違えの無いようご注意ください。
アーカイブ動画の配信はいたしません。当日参加でのみセミナーのご受講が可能です。
(配信の不備等によりご視聴頂けなかった場合には、後日動画のご案内をいたします。)

③リモートの場合はZOOMウェビナー形式で行います。3月14日(金)までに、お申込書に記載された受講者のメールアドレス宛に受講用URLを記載したメールを送付いたします。

お申込みフォーム

・お申込みは以下のお申込みフォームからお願いいたします。お申込み受付後、お申込み確認メールをお送りします。また、ご請求先として記入いただいた方宛に、請求書を発送させていただきます。
・ご入金後は、理由の如何に関わらず返金は致しません。あらかじめご了承ください。

本セミナーのお申込み受付は終了しました。
たくさんの参加申込み、ありがとうございました。

MD NEXTおすすめセミナー「日用品・化粧品業界の卸売業、その成長戦略と変革への挑戦」(開催:2月6日・主催:新報メディア)

MD NEXTからおすすめのセミナーのご紹介です。2025年2月6日(木)に開催される「第4回 業界発展戦略セミナー(主催:新報メディア)」では、物流コストの上昇、労働力不足、人件費の増加、環境負荷低減への対応など厳しさが増す企業を取り巻く環境下で、中間流通を支える卸売業の成長戦略の考察について、有識者の皆さまからご意見をいただきます。ぜひご参加ください。

物流コストの上昇、労働力不足、人件費の増加、環境負荷低減への対応など厳しさが増す企業を取り巻く環境下で、中間流通を支える卸売業の成長戦略を考察し、業界発展の道筋を探る。

新報メディアオンラインセミナーについて

日用品・化粧品業界の専門紙として業界全体を俯瞰しながら「これからの業界発展に何が必要か」を考え、オンラインセミナーという新しい情報発信形態にチャレンジしております。

実施概要

開催日時 2025年2月6日(木) 13:00〜16:30
※Zoom ウェビナー形式
(後日、期間限定でオンデマンド視聴可能)
申し込み期間 2025年2月5日(水)
対象者 日用品・化粧品業界のメーカー様、卸売業様、小売業様、その他関連企業様
お申込み 専用ページからお申込みください。
(定員になり次第締め切らせていただきます)
費用 9,900円(税込)
※申込完了後、お支払いについてご案内します
特別協力 株式会社プラネット

内容

(1)基調提言「PALTACの新たな価値創造への挑戦-長期ビジョンと中期経営計画-」

吉田 拓也 氏
株式会社PALTAC 代表取締役社長


日用品・化粧品業界最大の卸売業であるPALTACは、「誠実と信用」をベースにしながら持続的成長を果たすために「破壊と創造」を厭わない新しい発想で企業改革に挑戦し続けており、2024年には10年程度先の長期ビジョン及び3カ年の中期計画を策定した。
流通改革を通じた新たな価値創造へ挑戦する同社の成長戦略について吉田拓也社長が語る。

(2)講演「地域卸の全国ネットワーク『サプリコ』の全貌と成長戦略」

平井 誠一 氏
株式会社サプリコ 代表取締役社長 / 株式会社まさ屋 代表取締役社長


日用品・化粧品業界の地域卸65社が参加する全国ネットワーク組織のサプリコは、「共同企画販売」「商品開発」「共同納入」の3事業を中心に20年以上にわたり地域卸の事業活動の基盤形成に役割を発揮してきた。サプリコの活動の全貌と今後のサプリコと地域卸の成長戦略について平井誠一社長が語る。

(3)講演「卸売業を取り巻く環境と課題、その対応についての一考察」

白鳥 和生 氏
流通科学大学商学部経営学科 教授 / 流通経済研究所 特任研究員


白鳥和生氏は、元・日本経済新聞社記者で、小売業、卸売業を中心に流通業界の動向を長年追いかけてきたスペシャリスト。現在は流通科学大学で教鞭を取りながら、日々流通業界の研究を続けている。その白鳥教授が現在の卸売業を取り巻く環境と全般的な動向、課題とその対応について解説する。

(4)新報メディアからの提言

お申し込み

お申し込みはこちら
【問合せ先】新報メディア株式会社
(E-mail)seminar-g@shinpo-media.co.jp
(住所)大阪市北区天神橋2-2-11 阪急産業南森町ビル7階

北海道共通ポイントカード「EZOCA」を軸に高める地域愛

株式会社インフキュリオンは、ドラッグストアをはじめとした小売業界などに決済にまつわるソリューションを提供するフィンテック企業だ。インフキュリオンでは、2024年12月4日から6日にかけて、成長事業を Fintechで牽引する先駆者の取り組みを紹介するイベント 「Embedded Finance Days2024」を開催。金融サービスに取り組む各業界のトップランナーを招き、先端的な事例やフィンテック領域における最新トレンドを紹介した。

本イベントでは、サツドラホールディングス株式会社代表取締役社長CEOの富山浩樹氏が自社の取り組みを紹介し、主催者とセッションを行った。「地域との共創と活性を担うサツドラホールディングスの挑戦!-道民の顧客体験を進化させるデジタル戦略-」と題した講演の内容をお届けする。

『北海道の「いつも」を楽しく』というコンセプトを掲げ、ブランドを強化

代表取締役社長 CEO 富山浩樹氏:北海道で「サツドラ」というドラッグストアや調剤薬局、それに地域マーケティングを中心に事業をしております、サツドラホールディングスの富山です。本日は「地域」をテーマに我々が展開している事業の内容と、デジタルの取り組みについてお話させていただきます。

サツドラは沖縄などにも店舗がありますが、北海道を中心に、約200店舗を展開しており、「EZOCA」という北海道共通ポイントカード事業をはじめとした多角化経営を行っております。今期終了時点で売上高は約1,000億円を見込んでおります。

 

加えて、S Venturesというグループ会社でCVCも行っており、インフキュリオンさんにはここから出資させていただいております。

サツドラは約50年前にいわゆるパパママ薬局のような形で私の父と母が創業し、スーパーの一角でスタートしました。私は二代目で、社長を拝命して約10年になります。途中でEZOCAという新規事業をスタートし、またサッポロドラッグストアーからサツドラにリブランディングし、その後ホールディングス経営となりました。

今、サツドラはこのような店舗構えになっています。地方のドラッグストアということで、首都圏の店舗とは異なり食品の比率が4割を超え、生活総合ストアを目指した店づくりをしています。

再編が激しいドラッグストア業界において、サツドラというブランドをしっかりと認知していただこうと、約10年前のリブランディングでは、『北海道の「いつも」を楽しく』というコンセプトを掲げ、ブランドを強化しました。

また、コワーキングやコミュニティスペース事業を行う「EZOHUB」を札幌でスタートし、2024年5月には東京都品川区の天王洲アイルにもオープンしました。北海道をフィールドに、様々な事業のPoCを展開する企業さんと一緒に取り組みをしています。

北海道共通ポイントカード「EZOCA」は、道民の2.5人に1人が所有

グループ会社のリージョナルマーケティングでは、BtoBtoCで地域マーケティング事業を展開しています。EZOCAという北海道共通ポイントカードやモバイル決済サービスを提供しており、現在は約950を超える店舗で導入されています。

EZOCA会員は220万人超、北海道民の2.5人に1人が所有しており、非常に多くの方にご利用いただいております。通常のEZOCAとは別にプロスポーツチームや自治体と連携して、使えば使うほどチームや自治体に還元されるコラボカードも作っています。

また、EZOCAよりもっと大きな輪としてEZO CLUBがあります。EZOCAが「お得」「便利」といった機能面のところだとすると、EZO CLUBは「楽しい」「つながる」といったコミュニティマーケティングのような発想のもとで概念を作りました。EZO CLUBというコミュニティでいろいろなものがつながっていくなかで、EZOCAを使っていただくという考え方です。

JリーグチームコラボのEZOCAを使えばチームに還元されて応援になりますが、どちらかというと「チームを応援している人を応援」するような形で、コミュニケーションを組み立てています。

さまざまな企業と提携し、企業コミュニティも広がっています。例えば北海道コンサドーレ札幌のスポンサー企業であるサッポロビールさんとタイアップして、「サッポロクラシックEZOCAコンサドーレ応援缶」という北海道限定のビールを飲めば飲むほどチームに還元されるというように、商品を選択して消費が起きることで応援できるといった取り組みをしています。

提携している店舗は約950にのぼります。道外の方はロゴを見てもピンとこない企業が多いと思いますが、北海道民には「あの企業だ」とわかります。全国チェーン企業が中心というわけではなく、90%以上が地元資本の企業やお店なので、必然的に使えば使うほど北海道に貢献できるカードになっています。

地域のヒト・モノ・コトをつなぐ地域コネクティッドビジネスを展開

サツドラホールディングスでは、「ドラッグストアビジネスから地域コネクティッドビジネスへ」というビジョンを掲げています。地域のあらゆるヒト・モノ・コトをつないでいくことが我々の強みであり、これを新たな事業体にしていきたいという思いで名付けました。ドラッグストアも地域コネクティッドビジネスの一つであり、ドラッグストアをやめるという意味ではありません。

「事業で地域の活動に取り組んでいる」と言うと、「偉いですね」などと、CSR、ボランティアに捉えられることもあります。そうではなく、我々は企業が成長していくために地域コネクティッドに取り組んでいることから、こだわって名前に「ビジネス」と付けています。

クラウドPOSの開発・外販は大きな強み

グループ会社のGRIT WORKSでは、POSシステムと基幹システムを中心に開発しています。約10年前にEZOCAを始めるタイミングで、サツドラはクラウドPOSを自社開発しました。これはハードに縛られていると柔軟性やスピード感が持てず、EZOCAの展開にあたっても、先まで要件定義していくのが非常に難しいという課題があったためです。

ソフトウェアを開発してハードをつなぎ込んでいくようにし、内製化で生まれたノウハウを外販するためにGRIT WORKSを作りました。当時はクラウドを採用しているチェーンストアはなかなかありませんでしたが、今では飲食も含めた様々なチェーンストアで導入いただいています。ここが我々のコアであり、強みになっています。

サツドラ公式アプリのDL数は85万 紙チラシの大幅削減を実現

アプリはお客さまとの新たな接点ということで、各社で力を入れている施策です。我々はアプリをいかにシンプルに使いやすくするかにこだわり、ドラッグストアの中で高いユーザー評価をいただいております。現在のダウンロード数は85万で、北海道に特化したリージョナルチェーンストアとしては、かなりシェアが上がってきていると感じています。

アプリが販促の中心になり、アプリ経由での売上比率も上がってきたため、2年ほど前からは短期特売チラシはほぼゼロにし、チラシは年金支給日と歳末に絞っています。

データ分析においては、顧客クラスター分析を強化しています。例えば「ペット」、「医薬品・化粧品」、「働く女性」など様々なセグメントに応じてクーポンの出し分けも行っています。それぞれのセグメントにとって「いつでもお買い得」なESLP(エブリデーセイムロープライス)の実現を目指しており、CVR(コンバージョンレート)も非常に向上しています。

サツドラDB(データベースマーケティング)の属性や購買履歴はもちろん、コラボEZOCAのIDも紐付いており、「このスポーツチームを応援している」といった属性も取れるので、非常にエモーショナルでエンゲージメントの高い1to1マーケティング施策を打つことができます。

アプリでやりたいことを実現しようとしても、POSや基幹とのつなぎ込みで苦労し、スピード感が遅くなったりすることがあると思います。我々のアプリでは、コントロールディレクションは内製化したうえでサイバーエージェントさんとパートナーシップを組み、POSと組み合わせながら素早くPDCAを回していけるのが強みになっています。

その代表例の一つが、アプリ限定価格です。お客様がアプリをダウンロードしていれば、クーポンを出す必要がなく、スキャンのみで自動的に安くなるという施策を行っています。

OMOプラットフォーム「リテールコネクト」で店舗をWeb化する

もう一つがOMOプラットフォームの「リテールコネクト」です。昨今はリテールメディアとも言われますが、アプリを軸に、店頭メディアをどう組み合わせるかというところに取り組んでいます。

サイバーエージェントさんと我々でAWLというAIカメラの会社に投資して、カメラを駆使しながらお客様の動線や属性を視聴分析し、サイネージ広告の最適化を図っています。リアルの空間をどのようにWeb化していくのか、そこにアプリやECを組み合わせるとどのように直接の購買に結びついていくのかなどを分析しています。

また、調剤のプラットフォーム強化も進めています。

アプリを軸にしながら、決済やECといった機能を強化していくことで、リアルのお客様の購買の幅も広がっていくことを計画しています。

自治体と連携し、地域活性とビジネス展開を図る

我々は様々な自治体と包括連携を結び、地域活性とビジネスを組み合わせた施策にも取り組んでいます。

北海道は日本国土の5分の1の広さがありますが、人口は少なく、人口減少数は全国一です。その中でも人は札幌に一極集中していて、それ以外のエリアの過疎化が激しくなっています。そのような状況において、策を出してインフラを保っていくことが、我々の果たすべき役割だと思っています。

自治体はインフラとしての小売にニーズを持っており、どのように小売の持続可能性を補い合っていくかというなかで、役場と同じ敷地内にドラッグストアを出店させていただくという取り組みを複数行っています。

例えば当別町では広い土地の中で町が分散していて、役場本体があるエリアともう一つのエリアが離れて人が集積しています。その離れたエリアのドラッグストア店内にサテライト役場を出し、オンラインを活用しながら、現在では住民サービスの90%以上を提供できるようになりました。マイナンバーの機能が強化され、来年にはほぼ100%の役場機能が提供できるようになります。

店内にはコミュニティスペースもあり、我々が提供するプログラミング教室に子供たちが参加するなど、お店を町の集いの場にするという取り組みも行っています。

また、EZOCAのIDを使いながら、乗り合いタクシーのような形で運営するマース(MaaS)も複数の自治体で実施しています。この軸となるのが地域還元型EZOCAです。

商店街カードのようなものは昔からありますが、人口減少にともなって商店街が衰退していくと、自分たちだけでカードを維持するのはほぼ不可能になります。それを北海道全域で使えるEZOCAにリプレイスし、町に還元できるカードにします。商店街さんにも相乗りしていただいて、役場やMaaSでも使えるカードにして町全体で取り組んでいくという試みを広げています。

EZOCAのキャッシュレス機能により、町のキャッシュレス化も進んでいます。例えば江差町の人口は6,000人弱ですが、町民の9割以上が江差EZOCAを持っており、商店街に行くと江差EZOCAの旗がたくさん立っています。町の公式LINEの中にも江差マースや江差EZOCAが入っています。

過去に日経MJさんでの取り組み紹介記事にも大きく取り上げていただき、その時の見出しで「過疎地丸ごと」と表現されましたが、決して乗っ取ったというわけではありません。町・町民の皆さんと共創して一緒に作っていくイメージとして取り組んでいます。

また、江差町には北海道3大祭りの一つがあり、祭りが好きな方がたくさんいらっしゃる地域です。EZOCAを使った自分の買い物行動が祭りの運営資金などにも還元されることから、町の人のエンゲージメントが上がっていきます。スポーツチームを応援するような形で町へのエンゲージメントが高まっていくことが、地域ポイントカードにとっては重要だと感じています。

地域EZOCA利用者の人口対比は、江差町は108%、小清水町は92%となっています。江差で100%を超えているのは、江差町出身で、現在は江差以外に住んでいる方にも持っていただいているためです。ふるさと納税のように、地域外の全道のサツドラで江差EZOCAを使って買い物しても江差のまちづくりのために還元されるというモデルになっています。

EZOCAを地域通貨にし、地域内での経済循環を目指す

現在、EZOCAをデジタル地域通貨にするためのプロジェクトを進めています。ポイントで実現してはいますが、これをよりデジタルに、汎用性の高い決済手段として広げていき、地域内循環とデータ構築につなげることを目指しています。

人口減少を放置するとGDPも下がっていきます。北海道を一つの国だと捉えると、域外流出させるのではなく、域内で循環するものを増やしていく。それを使うことが地域資産になるということを地域の方にも啓発し、地域内で循環する経済を作っていくという構想をもっています。

地域通貨はここ数年ブームになっていますが、商店街や自治体、町の学校といった小さな規模の中で回っていて、成功している事例は少ないと思っています。

お金として機能するには、ある程度の量が必要です。EZOCAは北海道ほどの単位があり、かつセグメントをしたうえで、それぞれのエンゲージメントを高め続けて循環させている点が地域通貨として成立していくだろうと考えております。

全国でも地域通貨は話題ですが、今のところ成立している一番大きな事例でも数万人規模です。EZOCA会員は220万人いますが、仮にこれが10万人、20万人の規模になっても、日本で1番の、また世界でも有数の地域通貨になれるのではないかと考えています。

我々がこれを実現できるのは、店舗があるためです。日々サツドラにお客さまが来ていただくことで、データのトラフィックが起きています。お金でいえば発行体を持っているようなもので、そこで循環の起点を作っていけるのは非常に大きな強みです。

また我々はEZOCAだけでなく、他ブランドの決済ゲートウェイも提供しており、1万ヵ所以上で導入いただいています。そこに我々の地域通貨も加えていくことで、一気に拠点を増やすことができています。

これからも地域通貨へのエンゲージメントを高め、社会課題や地域課題にコミットすることで新たな地域のプラットフォームやエコシステムを作り、地域コネクティッドビジネスというビジョンを実現していきたいと思っています。

課題先進地域でも決済で「つながる」「楽しい」は実現できる

株式会社インフキュリオン 来田:ありがとうございました。富山さんの北海道への愛が伝わってくるお話で、地域連携をビジネスとしても成立させようとされているのが印象的でした。

以前、富山さんは「北海道は課題先進地域だ」と仰っていましたが、課題対応のための取り組みを進めるうえで、キャッシュレスやフィンテックに対して期待していることや、もっとこうだったらよいと感じていることはありますか?

富山:EZOCAでは「お得」「便利」という機能面に加え、「つながる」「楽しい」というEZO CLUBの概念を作っていきたいとお話しました。決済においても、いかに意識せずに日常の暮らしの中で利便性を高めていけるかが重要だと思います。地域がつながっていくところに新しい事業が加わって、決済は意識せずに自然に行われ、体験やサービスに集中できるようになるといいですね。

またAmazonのワンクリック決済のように、自然に決済が行われるような体験をリアルな空間でも提供していきたいと思っています。例えば温浴施設などでは、リストバンドを着けていると決済が楽になって、どんどん体験が進むといったことが実現しています。

我々は音楽フェスやイベントなどにも決済を提供していますが、そういった中でも登録をしていれば、課金が必要なシーンでは自然と決済が行われて体験が享受できるといったUI/UXを作りたいと考えています。

来田:我々も、決済が目的にならないためにどのようなサービス設計をすればよいのか、よく社内で議論しています。決済は、認証と決済切りの両方を兼ね備えることによってスムーズになります。「認証が済んでいればどのタイミングでもスムーズに決済できる」ということをいかに実現できるかが、今後のサービスの鍵になると思います。

北海道に地域通貨の経済圏ができて、サツドラ公式アプリやEZOCAを使えばどこでも決済できるといった世界観が、もっとこなれたものになっていってほしいと思います。

富山:それが理想ですね。楽しく推し活をするなどの自分の行動が決済に反映されて、地域が良くなっていくといったことが実現できるように、サービス設計をしたいと思っています。

来田:そうですね。お客様の内省的なモチベーションやエンゲージメントに働きかけて使ってもらうことは、エコシステムとして非常にワークしやすいものだと思います。その仕組みをどう提供していくかというところで、いろいろと活動が増えていると思います。

富山:地域通貨を運用する際には、「コミュニティに対して行動が起きる」とか「地域貢献」といったところを軸に設計されます。その思想には私も共感しますが、そこだけに閉じた世界で設計すると、すごく小さくなってしまうのが難しいところですね。地域貢献というモチベーションだけで動くのはまだまだアーリーな方やニッチな方なので、「お得」「便利」というインセンティブも組み合わせながら展開していかないとワークしなくなってしまいます。

例えばコンサドーレEZOCAでも、お客さまが自分のポイントを差し出すわけではありません。むしろお客さまは得をして、且つその行動に対するプラスアルファは我々が販促費的にチームにポイントバックをするという設計になっています。お客さま自身は吐き出さずに、行動を変えることによって、「お得さ」と「チームへの貢献」の両方を取れる状態です。

また企業側・お店側でコンサドーレを応援したいと思っても、何百万円、何千万円でユニフォームに名前を入れるのはハードルが高いですよね。ですが、コンサドーレのサポーターになってもらい、「このビールを飲めばコンサドーレにバックします」という仕組みにすれば、お客さまのほうでも「どうせ飲むならそちらのビールを飲もう」と思ってもらえます。

行動経済学的に考えても、「お得」と「貢献」の両方を組み合わせることによって機能しやすいのではないかと思っています。

来田:コンサドーレさんとしては送客機能が自発的に来る分、それをお客様にお返ししますよというように、決済を軸にしてなめらかな送客ができ、それを内部で回していける素晴らしい仕組みだと思いました。

ここからは質疑応答に移ります。

Q:「ID-POSを活用してデジタルマーケティングにつなげるという試みは直近のトレンドで、多くの会社でチャレンジしています。すでにデータとメディアを保有している御社では、今後10年、20年先を見据えた時に、どのような試みを考えておられますか」

富山:大事なのは、データを分析することによって、これからどのようなサービスを提供していくかです。我々の強みは、お店の外まで出たうえでのお客さまデータも保有しているところですので、それをもとにサツドラが自社でサービスを作ることも、他社さまと組んでサービスを提供していくこともあると思います。

例えば、サツドラではペットフードやペットシーツ、猫砂といった商品を販売しており、ペットを飼っているお客さまが確実にお店に来ているというデータを持っています。こういったデータを保有しながらプラットフォームを持つようになると、他のペット関連道具やペット保険、動物病院さんと連携しながらのオンライン診療、チャットでのご相談受付など、ペットというライフを軸にした、我々が現在取り扱えていないサービスを、生活圏の中でもっと提供していけるようになります。

ペットの事例に限らず、さまざまな生活領域でそういったサービスの提供が可能になります。全てのサービスを我々がやる必要はなく、いろいろな会社さまと連携しながら作っていくことが重要だと思います。

Q:「EZOCAの決済やポイントのデータを分析して、ドラッグストア以外の事業へのお客様への送客を実施していますか?」

富山:今もしていますし、これからもっとしていきたいと思っています。お店と、お店の外を組み合わせたサービスを提供するという形での送客になっていくでしょう。

来田:お店だけでは生活の一部なので、それ以外のところのサービスも提供して、経済圏として支えていくというイメージでしょうか。

富山:そうですね。例えば、10年後、20年後のことまで考えると、ドラッグストアで洗濯洗剤を売らなくなることもあると思います。三大家事の掃除・洗濯・食器洗いの中で1番嫌われているのが洗濯です。そうなると、今後は洗剤を売るのではなく、洗濯を丸ごと請け負うサービスをサブスクの中で提供できれば、使いたいお客さまが増えると思います。

モノを買うという行為は、何らかの生活サービスを充足させたり、なくしたりしたいというインサイトだと考えられます。それを実現しようとすると、10年後、20年後には「モノを売る」だけではなくなっていくのではないでしょうか。

Q:「取り組みのなかで、内製で取り組んでいるものと他社と協業しているものがあるようですが、内製と他社協業の選択基準がありましたらご教示ください」

富山:コアな部分で自分たちがハンドリングできるところをいかに内製化して、他社さまの得意分野と組み合わせるかが重要だと思います。小売のITでは、基礎的な機能は汎用性があるところなので、そこは自分たちでデザインできるようにする一方で、スタックしがちなPOSや基幹の部分は他社さまと協業しています。レベルの高いエンジニアを自社で育てるのは非常に大変なうえ、必要な能力も市場が変化すると急に変わってしまうので、そこは他社さまとうまく協業したいところです。

Q:「地域通貨に関して、金融機関との連携についてはどのようにお考えですか」

富山:我々はBtoBtoCにもEZOCAを使っていたり、サツドラとして福利厚生サービスを企業さまに提供したりもしているので、給料や福利厚生のところを軸に、ビジョンが一致できる金融機関さまとご一緒したいと思っています。

来田:ちなみに、デジタル地域通貨を進めるうえで、最終的に北海道の地域経済でどれぐらいの決済比率を取っていきたいといった目標はありますか?

富山:目標はありますが、すごくメジャーになるというよりは、やはり一部の地域還元や、エンゲージメントの向上を果たせるものになっていきたいと思っています。地域通貨は生活に密着した中で経済を早くぐるぐる回していくものだと思うので、その役割を担えるような通貨にしていきたいです。またハードルは高いものの、市場の大きいBtoBにもチャレンジしたいところです。

来田: BtoBは我々もかなり力を入れている領域ですので、そういった面でも何かご一緒できればと思います。本日はありがとうございました。

リモート接客最前線「RURA」の接客革新

遠隔接客システム「RURA(ルーラ)」を展開するタイムリープ社は様々な業種の業務効率化を実現し急成長を遂げている。2024年の東洋経済の「すごいベンチャー100」に選出され、業界の注目を集めている同社が今後の法改正が見込まれるOTC医薬品の遠隔販売解禁を見据え、人手不足解消と専門性の高い接客の両立をどのように目指すのか、望月代表にその戦略を聞いた。(月刊マーチャンダイジング2025年1月号より転載)

急成長するタイムリープ社

2019年6月の設立以来、遠隔接客システム「RURA」を軸に急成長を遂げているタイムリープ社。ジャフコグループやセーフィー社、グローリー社など有力企業からの出資を受け、この資金力を背景に同社は着実な成長戦略を展開している。

特筆すべきは、創業からわずか5年で遠隔接客ソリューション市場をリードする存在に急成長した点だ。

2020年10月には東京都主催のASAC AI.Accelerator賞を受賞し、2021年3月には経済産業省主催のNEW NORMAL LABに選出。さらに2023年にはICCサミット KYOTO 2023 SaaS RISING STAR CATAPULTで3位に入賞するなど、その革新性は各方面から高い評価を受けている。

多方面における導入実績が示すRURAの汎用性

RURAの最大の特徴は、店舗の省人化を実現しながら質の高い接客体験を提供できる点にある。実際に数十店舗を4名で接客するという驚異的な実績も生み出している。この効率性は、単なる人件費削減にとどまらず、接客品質の標準化と向上にも貢献している。

複合カフェの「自遊空間」の受付、遠隔接客でお客を希望のメニューに案内する

導入実績は多岐に渡る。漫画、ビリヤードなどが一体化した複合カフェの「自遊空間」では24時間営業の安定稼働に貢献し、JR東日本「ホテルメッツ」ではフロント業務の効率化を実現。スルガ銀行では窓口業務の待ち時間削減に成功し、玉川高島屋ではインフォメーションカウンターにおいて質の高い案内を可能にした。

また立命館大学ではキャンパス案内や入試相談の効率化を実現し、観光分野ではJTBが導入し接客のセントラル化を実現している。

これらの導入事例から見えてくるのは、RURAの汎用性の高さだ。業種や用途に応じて柔軟に対応可能な設計思想により、様々な現場のニーズに対応できている。特に注目すべきは、接客品質の向上と業務効率化を両立させている点だ。

RURAの多彩な機能が実現するユーザー体験

RURAによる遠隔接客のユーザー体験のはじまりは大きく分けて二つのパターンがある。一つは顧客が自らRURAに近づき操作を開始する方法で、もう一つは遠隔スタッフが状況を判断して顧客に対して能動的に声がけを行う方法だ。

特に後者は、顧客満足度向上において大きな効果を発揮している。遠隔スタッフは、RURAに搭載されている高精度カメラを通じて来店客の表情や動きを確認し、操作に困っている、話しかけるスタッフを探している、などの状況をリアルタイムで随時把握しながら、適切なタイミングで声がけを行う。これにより、対面での接客と同等もしくはそれ以上に相手のニーズに寄り添った細やかな対応が可能になる。

遠隔接客の管理画面、複数の画面でもお客の動きを察知しやすく反応しやすく設計されている

運用管理・改善の点では、待機中の店舗状況確認から、呼び出し対応、接客、分析までの一連のプロセスをシームレスに管理することが可能だ。特に接客分析機能は、店舗やスタッフごとの接客件数や対応を可視化し改善活動に役立てることでサービス品質の向上に寄与している。具体的には、接客時間、応答速度、顧客満足度などの指標を総合的に分析し、スタッフの教育や業務改善のPDCAを回すことが可能だ。

技術面での特徴としては、高品質な映像・音声通信を実現する独自の通信プロトコルを採用し安定した接客環境を実現するとともに、多言語対応の翻訳・字幕機能(有償オプション)により、インバウンド需要への対応も可能だ。また、各種手続きをサポートする手元カメラ機能は、遠隔からの書類の確認や商品説明時に威力を発揮する。

必要に応じてアバター接客機能も提供可能だが、これまでの運用実績から、人による接客がより高い顧客満足度につながることが明らかになっているので、クライアントにはアニメーションのアバターではなく、あくまでもスタッフが顔出しで接客を推奨しているということだ。

OTC医薬品遠隔販売の法改正に向けて

このようにドラッグストア(DgS)以外の業種では確かな成果を挙げているRURAだが、DgS業界についてはどのような形で活用すべきであろうか。望月代表は政府が打ち出しているOTC医薬品の遠隔販売に関する法改正がドラッグ業界における活用の大きな転機と見ている。

2022年12月、政府のデジタル臨時行政調査会は、医薬品販売におけるデジタル技術活用の方針を示した。この方針は、深刻化する地方での薬剤師不足や、高齢化社会における医薬品アクセスの課題に対応するものだ。具体的には、販売店舗と設備、有資格者の分散配置を可能とする制度設計の検討を開始し、2024年6月までに結論を得る方針を打ち出した。

この動きを受けて2024年1月には、医薬品の販売制度に関する検討会が重要な提言をまとめた。医師会、薬剤師会、日本チェーンドラッグストア協会など、業界の主要なステークホルダーが参画したこの検討会では、遠隔での医薬品の説明や健康相談の実現可能性について詳細な議論が行われた。

その結果、有資格者とのオンラインによる情報提供・相談により、資格者が常駐しない店舗でのOTC薬購入が可能になるという考えが示されている。

提言内容は、薬剤師等が常駐しない店舗(受渡店舗)での医薬品の保管や受け渡しを、管理店舗の薬剤師等による遠隔管理のもとで可能とするもので、具体的には遠隔接客後に「確認証」を発行、この確認証をもとに医薬品の受け渡しを行うというものだ(図表1)。

[図表1]リモート情報提供を使ったOTC薬販売の販売イメージ

現在、詳細については継続的に議論が行われているが、遠隔による情報提供・相談を前提としたOTC販売が解禁されるのは有力視されており、解禁されれば、薬剤師、登録販売者の勤務形態や必要な設備、業務フローも変化する。

 

タイムリープ社の望月代表のインタビューを含む本記事の全文は、月刊マーチャンダイジング2025年1月号に掲載されています。

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食品小売業態が直面する2025年の課題とは?~生活防衛、商品開発、コスト削減への対応~

本連載「業態STUDY」は主にコンビニ業態の動向をリポートしている。今回は視点を少し広く持ち、コンビニを含む「食品小売業態」全般における2025年の課題をまとめていきたい。テーマとして第1に「生活防衛」、第2に「商品開発」、第3に「コスト削減」の3つを取り上げたい。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年1月号より転載)

国内2大流通グループが示す低価格政策に同業他社も追随?

実質賃金(労働者が実際に受け取った名目賃金から物価変動の影響を差し引いた指数)は2024年9月が前年同月から0.1%減少、前月8月も0.8%の減少でマイナスが2ヵ月続いている。2024年6月、7月はプラスに転じたが、同年5月まではマイナスが26ヵ月続いてきた。実質賃金を決める消費者物価と所定内賃金の上昇率の差は縮まってはいるものの、生活防衛の意識は当分続くであろう。

消費者の生活防衛意識を反映して、イオンは2024年11月13日から、イオン、イオンスタイル、マックスバリュなどの全国約1万店舗で、グループのPB「トップバリュ」36品目を値下げしている。24年度に値下げした商品は累計で115品目となった。

他方、11月に値上げが実施・予定されている食品の品目数は11ヵ月ぶりに前年を上回っている(帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査2024年11月より)。

お客の生活防衛意識が敏感になるなか、イオンは特に支出が増える年末年始に向けてコスト削減に取り組み、グループ独自のネットワークを最大限に活かしたサプライチェーンの構築や計画生産により値下げを実現させたという。

イオン取締役兼代表執行役社長の吉田昭夫氏は2024年10月9日の中間期決算説明会で「食料品におけるお客様のバスケット点数は一定程度の減少が続き、セールの日(イオンの感謝デー)に来店が集中する傾向が出ている。価格訴求を行うスーパーマーケット企業も増えている」とする消費環境を認識した上で、「上半期にやや中途半端であった価格の打ち出しを下期は明確にして、トップバリュのベストプライスに代表される、お値打ちの商品を打ち出す方針を示した」と消費者の生活防衛に応えていくとした。

イオンのトップバリュには、メーンブランドの「トップバリュ」、健康生活に訴える「グリーンアイ」、そして価格訴求型の「ベストプライス」の3つがある。この中で、絶対価格の低い「ベストプライス」を特に拡充する。

「10月からは食料品の価格が3,000品目で上ると報道されている。こうした状況をPBの優位性が発揮しやすい環境ととらえて、下期(2024年9月〜2025年2月)はベストプライスにより集客力を増して、売上を伸ばし、粗利総額を高める展開にしていきたい」と吉田氏。価格訴求を強めていく姿勢を明確にしている。

セブン&アイ・ホールディングスの主軸であるセブン-イレブンも同様の姿勢を強く持ち、上期までは価格対応に遅れたと認識し、安価な商品にフォーカスした販促「うれしい値!宣言」により、品揃えの中で品質だけではなく、価格でも食品スーパーやドラッグストアに対抗できる商品を訴求している。

国内2大流通グループが価格政策の方針を示した以上、同業他社も意識せざるを得ない。通常PBの値下げ、低価格PBの拡充は、食品小売業の共通課題といえるだろう。

チェーンストアが目指すべきはタテ軸よりもヨコ軸の豊かさ

「生活防衛」を理由にした低価格対応は、今の消費者に受け入れられるに違いない。イオンもセブン&アイ・ホールディングスも、そこに注力している。一方でチェーンストアらしい生活提案、例えば今まで経験してこなかった食生活の豊かさもスーパーマーケット各社は継続して提案している。

その商品開発には、タテ軸とヨコ軸の方向がある。タテ軸は品質を伴う価格帯、ヨコ軸は価格に捉われない食生活の新しさといったイメージである。例えば、外国産牛肉をメーンに、国産牛肉、ブランド牛(銘柄牛)肉と価格帯を上げて選択肢を増やす取り組みがタテ軸の豊かさであり、ヨコ軸の豊かさは、高級化、上質化ではなく、牛肉のバラエティを横に広げていく商品開発になる。

例えば食品スーパーのヤオコー(本社/埼玉県川越市、グループ234店舗、2024年9月末)は24年度にローストビーフの自社製造を始めた。精肉部門で扱うローストビーフのほかに、惣菜部門のローストビーフ丼、寿司部門の肉寿司、ベーカリー部門のローストビーフバーガーといった、多彩な商品化を試みて、ヨコ軸の豊かさを実現している。自社製造で味と鮮度を向上させ、商品の差別化に加えて製造者利益を高める政策だ。

商品・販売戦略:SPA型商品開発

ちなみにヨコ軸の豊かさで筆者が感心した事例は、2022年7月にセブン−イレブンが導入したセブンカフェの「濃さ」を選べる新仕様だ。「軽め」「ふつう」「濃いめ」の3つから同じ価格で選択できるようにした。それ以前は、地域や期間を限定したコーヒー銘柄を投入し、価格帯の高さによるタテ軸の豊かさを提案していた。

一方のヨコ軸は、朝は気を引き締めるために「濃いめ」、昼は食後に「ふつう」、午後の休憩はスイーツと一緒に「軽め」といった、時間帯やその日の気分、好みによる選択肢を増やして、コーヒーを楽しむ新たなライフスタイルを提案となった。当時の取材で開発担当者に聞くと「ヨコ軸もタテ軸も両方を広げて市場を広げたい」とコメントしている。

実質賃金が上がらない中で、価格を上げずに、チェーンストアが実現する豊かさを、ヨコに広げていく展開を筆者は期待している。

ドン・キホーテは2009年にオリジナルブランド「情熱価格」を立ち上げ、2020年夏〜2021年2月に大幅なリニューアルを実施。「情熱価格」をドン・キホーテらしいブランドへ刷新して、同質化から脱している。

ドン・キホーテのオリジナルブランド「情熱価格」は、驚きのニュースのない商品は作らないと宣言。商品パッケージには過剰なくらいの文言が並ぶ

開発に際して、PBを「ピープルブランド」(顧客とともに驚きのニュースを作り出すブランド)へコンセプトを転換、常に「サムシングニュー」がある売場をつくり続けるために、同社は「驚きのニュースのない商品は作らない」ことを宣言している。商品パッケージに入れ込む商品名を“ニュース”と呼び、過剰なまでの説明書きを記している。

利用客が認知できない高級素材を入れ込んでも、単に品質を見直して低価格を訴求しても“ニュース”にはならない。価格に対して厳しく臨むのは「情熱価格」であるから当然であり、パッケージに書かれた価格以外のニュースで伝える価値と、その実売価のギャップから生まれる「値ごろ感」を重視している。

「情熱価格」商品のパッケージを紹介すると、「素煎りミックスナッツDX(デラックス)」には次のように記されている。「年間売上10億円突破 ナッツを愛しすぎた担当者が独断と偏見で決めたアーモンド・カシューナッツ・くるみの黄金の究極比率 食塩・油を使わないこだわり」

以前、同商品の年間売上は7億円と記されていたが、24年度は数字が更新されて10億円に。続く「独断と偏見」は宣伝文句と思うが、ミックスナッツの比率を訴求する商品は他に見当たらないであろう。開発担当者が原価調整ではなく、おいしく感じる比率に配慮したということ。そうした姿勢が、価格以外のニュース性となって付加価値を高めている。

今までの商品になかった“驚き”を訴求して、お客のライフスタイルに“豊かな生活”を提案している。

第3のテーマは「コスト削減」。スーパーマーケット各社の2024年度中間期決算で説明を聞くと、軒並み「増収減益」を強いられている。

例えば、上場しているイオンの地域事業会社、イオン北海道、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス、マックスバリュ東海、フジ、イオン九州のうち、増収増益はマックスバリュ東海1社のみで、他の4社は(赤字1社を含む)全て増収減益になった。

増収については生鮮を含めて1品単価の値上がりが大きく影響している。一方で、減益については価格競争に対応した値入率の低下と、賃上げによる人件費の上昇、他に配送費、水光熱費などのアップがあり、それらを吸収できずにいたことが理由である。

パート・アルバイトの人件費は、企業側にとっては厳しくなる。石破茂首相は、2020年代に最低賃金の全国平均時給を2024年の1,055円から1,500円に引き上げる方針を示している。1,500円は現行水準の4割超の引き上げになり、5年以内での実現は難しいと考えるものの、各企業にとって生産性向上は急務となる。

スーパーマーケット各社は、「フルセルフレジ」と「電子棚札」の導入比率向上を課題にしている。「フルセルフレジ」はスーパーマーケット各社で急速な導入を見せており、電子棚札への移行も徐々に進んでいる。ただし、この2つも既にゴールが見えており、そこから先はDXを用いた、いっそうの生産性向上が求められている。

スーパーマーケットやコンビニ各社は、大衆の「生活防衛」に応える一方で、「商品開発」により新たなライフスタイルを提案、それを「コスト削減」により実現させる取り組みが進められている。

店舗レポ「DAISO / Standard Products / THREEPPY ビックカメラ新宿東口店」

2024年10月2日、大創産業が「DAISO(ダイソー)」「Standard Products by DAISO(以下「Standard Products」)」「THREEPPY(スリーピー)」の複合店を、東京都新宿区のビックカメラ新宿東口店へオープンした。新宿駅から地下通路で接続という高い利便性、ビックカメラ、ユニクロ、GUというテナント力で多くの集客が見込める立地だ。(月刊マーチャンダイジング2025年1月号より転載)

無骨でシンプルなStandard Products

DAISO、Standard Products、TREEPPYの3業態での都市中心部に出店する事例が多く見られる大創産業。同店舗も新宿駅から徒歩数分の立地で、元々「ビックロ」として営業していた商業施設に3業態で出店したもの。

《売場レイアウト》

同ビルのテナントは、地下3階〜6階がビックカメラ、1階から3階にユニクロ、7階にGUと、相乗効果で集客が見込める環境。その最上階に出店した形になる。売場面積は合計504坪。新宿エリアでは最大規模だ。

エスカレーターで8階に上がると、目の前に広がるのはStandard Productsの店舗である。同業態は「ちょっといいのが、ずっといい。」をコンセプトに、ベーシックで洗練されたデザインに特化したアイテムを展開する。

97坪に約2,700SKUのアイテムを取り揃えた。スチール製と木を利用した什器は温かみと無骨さ、シンプルさを感じさせる。店内の照度は落とされ、商品はスポットライトで照らされている。

入り口付近から奥に向かって「インテリア」「食器/キッチン用品/行楽・レジャー/キッチン消耗」「文具・電気」「リビング/収納」「掃除/洗濯」「化粧/バス用品」「玩具」「バッグ」「園芸・ペット」「靴・トラベル・雨具」とカテゴリーが並び、アイテムの価格帯は110円〜1,100円で中心価格帯は330円とお値ごろなものが多い。

コーヒーグッズ売場。棚1本がまるまるコーヒー関連アイテム
お弁当関連アイテム。1,000円のわっぱのお弁当箱から300円のお弁当箱、保冷剤、ステンレスボトル、ランチ用のバッグまで取り揃える。什器上部ではコーディネートした様子も見せて、利用シーンを想起させる
店頭には北欧をイメージした落ち着いたデザインのクッション、スリッパなど。近づく冬の暮らしをサポートする
同店舗から投入されたギフトボックス。ブランディングが受け入れられギフト需要も高まりつつあることを示している

トップボードには、商品を使用しているイメージの写真を展示したり、写真入りのPOPで商品開発のバックグラウンドを伝える、什器の上部で商品をコーディネートしてディスプレーするなど、単なる陳列販売ではなく、手をかけた売り方を志向している。

例えばコーヒーグッズ売場だけで棚1本分の尺を取り、コーヒータイムを楽しむ商品を20種類ほど展開。コーヒードリッパー、コーヒーを計量するためのスプーン、ティーポット、耐熱ふた付きガラス容器、マグカップ、USBカップウォーマーなどなど、コーヒーとそれにまつわるアイテムを集積している。

お弁当という切り口では、1,000円のわっぱの弁当箱から300円のランチボックスをはじめ、保冷剤、ステンレスの水筒、保温機能付きのバッグ等、お弁当のあるシーンを切り取った商品を展開。上段ではコーディネートしたディスプレーで利用シーンを想起させる。

同店舗から販売が開始されたのが「ギフトボックス」。ギフト需要に応じたもので、300円から500円で、販売しているアイテムを封入してプレゼントとして使ってもらうことを想定している。なお近隣には同店舗より広い166.49坪でStandard Products新宿アルタ店も展開しており、面で抑える可能性もありうる。

お掃除関連グッズ。ほうきやカーペットクリーナー、掃除ジョイント伸縮ポール(バス用スポンジやデッキブラシと組み合わせて使える)などから、消耗品であるお掃除シートまで展開
園芸カテゴリーでは生のグリーンとそれを飾るための植木鉢、LEDランタンなども豊富に取り揃える
人気のアロマディフューザーは「ミント&セージ」「ベイリーフ&シトラス」などの新商品を投入。価格も数年前は1,000円以上するようなアイテムが市場の中心だったが、500円という値段で投入している
スリッパだけで棚2本分を展開。価格も1足300円〜と値ごろだ

トレンドカラーを使った雑貨中心のスリーピー

隣り合って展開されているのがTHREEPPY。「あいらしい、そして私らしい」をコンセプトに、大人かわいい雑貨を追求する。トレンドカラーを随所に盛り込んだ雑貨が特徴。ロングファーのクッションや、キッチン雑貨、セルフケアアイテムなど、50坪に3,500アイテムを展開する。

THREEPPYのおもちゃのコーナー。Standard Productsのおもちゃは木のシックなアイテムが中心なのに対して、カラフルでポップ、プラスチック製のものが多い
人気のロングファークッションも取り揃える
映画『アナと雪の女王』シリーズのアイテムを先行発売で入り口付近に展開。ヘアブラシ、小物入れ、ブランケットと多様なアイテムを統一デザインで展開するにはマーチャンダイジング力が求められる
ⓒDisney

同じ子供用のおもちゃでも、Standard Productsが木製のシックなおもちゃを展開する一方、THREEPPYはプラスチックが中心の、カラフルなおもちゃを販売する。情緒軸で商品の幅を広げ、別ブランドの店舗で売ることによって、客層を広げている。

アクセ・推し活…趣味を前面に推すダイソー

DAISOは357坪の売場面積で約5万アイテムを展開する。入り口近辺で季節のプロモーション(取材時はハロウィンアイテムやクリスマスアイテム)を大きく陳列し、続いて本店で強化しているアクセサリーコーナーや推し活グッズなどが続く。

ヘアアクセサリーコーナーのエンドでは、タブレットにTikTok風ショート動画を流し、ヘアアクセの利用シーンを伝えるような取組みも行っている。

ダイソー入り口付近には、強化しているヘアアクセのコーナーを展開
ヘアアクセコーナー上部には有孔ボードを使ったカラーバリエーション展開の紹介。推し活用に
熱烈なファンのいるプチブロックのエンド。同社初の試みとして、サイネージに、ファンコミュニティ「DAISOの輪」へユーザーが投稿した画像を掲載。お客にプチブロックの可能性を感じさせるようなプレゼンテーションになっている
シーズンアイテムの買い場として定着した感がある。取材した9月はすでにハロウィン準備売場が最盛期。コスチューム、身に着けるアイテムからお菓子まで、ワンストップでイベントの準備ができる
コレクター向けアイテムも注力カテゴリーのひとつ。トレーディングカード、アクスタ(アクリルスタンド)そのものだけでなく、それらのケースなど保管道具まで揃うのが魅力

什器上部に有孔ボードを使ってヘアアクセアイテムをお客様に見やすくアピール。ヘアアクセのカラーバリエーション展開を見せることで、「推しの色を選んで使う」ことを提案している。

銀座店などと同様、複数個選んで100円になるお菓子売場は、屋根などの装飾が施された駄菓子屋風のしつらえ。キャンプコーナーではソロキャンプを訴求し、500円の1合炊きメスティンや1,000円のホットサンドメーカー、ダッチオーブンなど、下手なスポーツ用品店より気が利いた品揃えになっている。

もちろん日用雑貨や文具の売場も広いのだが、立地も相まって個人の趣味やビューティにフォーカスした売場づくりへの意思を強く感じる店舗である。

レジはすべてセルフレジで、2ヵ所に設置。ダイソー店内に27台、THREEPPY店内に7台の合計30台。有人レジの設置はないという潔い割り切りを見せている。

まさにDAISOの「いま」が凝縮された旗艦店といえる本店舗。立地は申し分なく、都心に住む周辺住民のニーズもある程度見込まれる。満を持しての新宿区での大型出店にダイソーは鼻息が荒い。

意外と近隣に買い場がない靴下を豊富な品揃えで展開する。サイドネットには年齢性別問わず使える黒ソックスも
普通のスポーツ用品店より気が利いているのではないかと思えるアウトドア売場。100円食器から1,000円のホットサンドメーカー、ダッチオーブン、バーベキューグリルまで。店頭ではソロキャンプを訴求。『キャンプが100倍楽しくなるCAMP IDEAS』という書籍も販売
即席麺売場は3尺棚2本分で展開
お菓子売場は屋根の付いた什器で遊び心を感じさせる

DATA

店舗名 DAISO ビックカメラ新宿東口店
Standard Products ビックカメラ新宿東口店
THREEPPY ビックカメラ新宿東口店
所在地 東京都新宿区新宿 3-29-1
ビックカメラ新宿東口店8階
売場面積 DAISO ビックカメラ新宿東口店 357坪
Standard Products ビックカメラ新宿東口店 97坪
THREEPPY ビックカメラ新宿東口店 50坪
営業時間 10:00〜22:00
休業日 無休

AI無人受付と有人遠隔接客を融合する、サイバーエージェントのリモート接客

サイバーエージェントの連結子会社であるMG-DXでは、薬局業務、医療のデジタルシフトを支援している。同社の提供する「遠隔接客AIアシスタント」は同社とサイバーエージェント内の人工知能の研究開発組織「AI Lab」が共同開発したサービス。今後の調剤事業にゲームチェンジを引き起こす可能性を秘めている。(月刊マーチャンダイジング2025年1月号より転載)

AIによる受付の自動化とリモート服薬指導を実現

「遠隔接客AIアシスタント」は、大まかに2つのサービスに分かれる。1つは「AI無人受付サービス」。映像や音声を高精度で認識できるAI搭載の受付ロボット「Sota」が調剤薬局の受付に訪れた患者の姿を認知して、自動かつ自律的に受け付け業務を開始。音声でマイナ保険証の確認、処方せんの事前送信、ジェネリック医薬品の希望、お薬手帳の有無などを確認、受付業務を進めていく。

途中、患者から「ジェネリック医薬品とは何か?」といった質問があっても、事前に学習させた範囲内でAIが自律的に回答してくれる。患者が困っていたり、人との会話を希望する場合には、遠隔でつないで担当スタッフが対応することも可能。オプションとしてSotaの代わりにCGアバターを使うこともできる。ここまでが「AI無人受付」のサービスである(写真1、2、動画1参照)

[写真1]AI搭載受付ロボットSotaが画像、音声を認識して受付開始
[写真2]Sotaが音声で必要な事項を確認、患者も音声で回答、必要な確認が終われば受付終了

2つ目は「遠隔服薬指導サービス」。受付業務の最後にSotaから、服薬指導を店内のオンラインスペースで行うか、対面で行うかの確認があり、オンラインを選択すると受付に設置された発券機からバーコード付きの受付票を発券。それをオンライン服薬指導のスペースにある受付機にかざすと、モニターに担当の薬剤師が現れ、遠隔で服薬指導をする。ここまでが「遠隔服薬指導サービス」である(写真3、4、動画2参照)

[写真3]店内遠隔服薬指導を希望すると発券機からバーコード付きの受付票を発券
[写真4]モニターに事前に患者情報を確認している薬剤師の姿が現れ、服薬指導をしていく

 

薬剤の受け取りは受付時に受付店舗(薬局)、ロッカー、配送などの手段が選べる。

2つのサービスはそれぞれ個別の料金となっており、セット利用、単体利用いずれも可能。要望に合わせてカスタマイズにも応じている。

MG-DXでは「遠隔接客AIアシスタント」を2024年8月にリリース、8月開催のJAPANドラッグストアショーや10月開催のCEATEC2024に出展したこともあり、取材時、多くの問い合わせや導入検討の話を受けて商談の最中とのことだ。各案件や要望に応じたサービスのカスタマイズ提案にも多忙を極めている。

「コスト削減」とオンラインによる「固定客化への布石」が2大ニーズ

「遠隔接客AIアシスタント」は受付業務をAIエージェントにより自動化することで、人件費の削減を図ることができる。また、遠隔服薬指導は、薬局業務の忙しさを平準化する効果がある。

調剤事業に注力する大手DgSは、調剤併設店舗をなるべく増やして面分業による調剤市場のシェア拡大を図っており、こうした出店戦略は立地により繁忙店とそうではない店の格差を生み出す一つの要因にもなっている。

遠隔接客AIアシスタントで、比較的手の空きやすい店舗に勤務する一人の薬剤師が複数の店舗の服薬指導を行うことで、繁忙店、閑散店の格差から生じる薬剤師の偏在問題を解消、薬剤師の仕事量の平準化を実現させる。

さらに、遠隔服薬指導システムを利用することで、患者が希望すれば、特定の疾患に詳しい薬剤師が服薬指導や健康相談に応じることも可能にし、調剤薬局の専門性向上にも貢献できる。

「遠隔接客AIアシスタントに関するお問い合わせや引き合いなどがこれまで経験したことのないくらい大きくて、時代の変化にしっかりとした役割を果たせそうだと実感しています。ニーズは大きく2つあると思っています。

[図表1]無人受付によるコスト削減モデル

1つがコスト削減です。診療報酬の改定や人件費の高騰で調剤事業の収益は厳しい状況にあります。大手のDgSも調剤併設薬局を多数出店している関係で、非繁忙店で能力を十分に発揮しきれていない薬剤師もいます。このサービスは遠隔服薬指導という選択肢を追加することで、非繁忙店の薬剤師に遠隔地から患者対応をサポートできる環境をつくることができ、既存の薬剤師間で仕事量を最適化することで、明確にコスト削減につながります。

もう1つは、将来的にオンライン調剤で患者を囲い込むための布石としての利用です。今後、電子処方せんの導入率は上がり、自分のスマホでオンライン診療、オンライン服薬指導を受けて薬剤を受け取るという流れが普及するでしょう。一度オンラインで服薬指導を受けると継続率は8割を超える程、格段に高くなることが実証されています。

[図表2] 遠隔接客AIアシスタントの拡張イメージ

現在、遠隔接客AIアシスタントのプロトタイプ(基本型)では、AIで受付をして、その後店舗内の専用スペースでオンライン服薬指導を受ける流れになっていますが、オンラインで患者を固定客化したい、DgS、調剤専業チェーンには、弊社のサービスで遠隔服薬指導を体験してもらうことにより、自分のスマホを使ったオンライン服薬指導へとスムーズに誘導して、固定客化したいという狙いがあります。そのための導入です。

患者に対して、今回は店舗でオンライン服薬指導をして頂いて、慣れてきたらスマホでやってみてくださいといった主旨が込められています。

このように、遠隔接客AIアシスタントの導入にあたっては、コスト削減とオンラインによる囲い込みへの打ち手。守りと攻めの両方があり、ニーズのバランスが取れていると感じています。現在ご用意しているものを店頭に置くのは当たり前で、もっとこういうことができないかという要望が多く、それらに応じて仕組みを作り変えているところです」(MG-DX代表取締役社長 堂前紀郎氏)

AI×遠隔対応事務で約30%のコスト削減

遠隔接客AIアシスタントを使ったコスト削減のイメージは次のようになる。現在、企業ごとに最大成果の出る店舗、立地を選定中の段階だが、MG-DX社ではコスト削減のモデルケースとして、対象とする店舗を1ヵ月の処方せん応需枚数が1,000枚〜1,500枚、常時勤務する薬剤師2人、事務スタッフ1人の中型店舗を想定。AIエージェントにより受付業務の7割程度を自動化、複雑な状況や質問に対しては、本部もしくは基幹店に配置したスタッフ1名が遠隔で対応する。

AIエージェントとのハイブリッド対応により、選定した中型店3店舗程度の対応を遠隔地から1名で行うことが可能となり、受付業務をリモート化(無人受付化)する。この体制により、事務スタッフの人件費が約30%程度カットできることが見込まれている。企業や店舗によって最適な利用パターンは今後練られていくことになる。

遠隔接客AIアシスタント 店内イメージ

現在、調剤薬局で顧客(患者)満足度を下げる一番の要因は、待ち時間が長いことで、これが離反の一番大きな理由に挙げられる。

また、受付が混んで薬剤師が受け付けや問い合わせ対応に回ることで調剤業務に集中できないといったケースもあり、体制の整備が調剤薬局の効率化(収益最適化)、顧客満足度向上双方にとっての最大の課題になっている。これを遠隔接客AIアシスタントで解消していく。

AI活用で高齢者との相性が懸念されるが、高齢者のAIロボットSotaに対する評価は意外に高く、「かわいい」「けなげに働く」といった声が多い。また、子供がAIロボットを気に入って前を離れないといった現象も見られる。Sotaの存在が高齢者や親子連れの利用促進にも貢献する可能性がある。AIロボットによる受付にユーザーが慣れることで、受付の無人化が一気に進む可能性もある。さらに、遠隔接客AIアシスタントは調剤薬局の働き方改革にもつながる。

「調剤薬局は、女性が多く働いており、産休、育休から復帰したママ薬剤師の働く場を広げる効果があります。オンライン服薬指導に対応するセンターをつくることで、そうした人材をこれまで通り、あるいはこれまで以上に活かせると思います。自宅からオンラインで服薬指導することも可能ですし、そういった働く環境がつくれます」(MG-DX遠隔接客事業部 事業部長三澤佳祐氏)

将来的には非調剤薬局併設店でも調剤事業が可能に

遠隔接客AIアシスタントは当面、調剤薬局、調剤薬局併設のDgSに設置され、受付の無人化、服薬指導のオンライン化を進めていく。その一方で、将来的には、調剤薬局を併設していないDgSの店頭での処方せん受付、オンライン服薬指導、薬剤受取も視野に入っている。

構想としては、受付に鍵付きの処方せん投入箱があり、読み取り後の処方せん、もしくは事前送信した処方せんをその中に入れ、後で回収する(処方せん現物がなければ調剤を受けられない)。その後オンラインで服薬指導を行い、薬剤は指定の時間に再度受付に立ち寄りピックアップするか、専用ロッカーで受け取る、もしくは宅配してもらう。

MG-DX社によれば、こうしたサービスは法的には現在でも問題ないが、設備やプロセスでクリアすべきことはいくつかあるとのことで、直ちに導入できるサービスではない。

将来、条件がクリアされ、このサービスが実現すれば、調剤薬局を併設しなくても調剤事業の拡大が可能になり、面分業を大きく広げて調剤市場のシェア拡大を狙うことができる。あるいは、現在リアルの調剤薬局が少ないDgS企業でも、オンライン服薬指導を行う薬剤師が待機するコールセンターのような設備があれば、これまでよりも格段に低い投資により、調剤事業を拡大することも可能だ。

アメリカの大手調剤薬局チェーン、ウォルグリーンでは、調剤薬局にリアルな一次医療(プライマリケア)のクリニックを併設して、そこから処方せんを発行して隣接の薬局で受けるというモデルを構築して事業を進めていたが、オンライン診療、オンライン調剤の普及により、こうしたモデルが不採算化。

2024年度の決算が大規模な営業損失に陥り、クリニックの閉鎖、薬局そのものの閉鎖に追い込まれている。同社は今後3年で薬局全店の15%程度にあたる1,200店の薬局を閉鎖すると発表している。

今後日本でもオンライン診療、オンライン調剤が普及すれば、リアルな施設とそれに見合った数の人材に投資するよりも、DXへの投資で大幅に効率のよいリターンを得られる時代が来るだろう。

遠隔接客AIアシスタントは拡張性のあるサービス

遠隔接客AIアシスタントでは、非調剤薬局併設店を調剤事業のタッチポイント化する構想に加え、さらなる展望がある。街中でのヘルスケアスポットの開業である。カウンター付きの数坪のスペース、例えば、PCR検査場程のスペースに、AI無人受付とオンライン服薬指導ができる機器を設置、買物などで繁華街に出たついでに、○○ドラッグのヘルスケアスポットに立ち寄り、処方せん受付から服薬指導までを無人、オンラインで行い、薬剤は買物帰りに同じ場所でピックアップする、あるいは宅配してもらう。

さらに、オンライン診療も同じ場所で行えば、生活習慣病などの慢性病や軽微な疾患の診療と調剤を街中の一角で、気軽に一気通貫に受けることが可能になる。

堂前氏は遠隔接客AIアシスタントにより、DgS、調剤専業チェーンの事業サポートをするのはステップ1で、ステップ2は介護施設への導入、ステップ3は個人宅への導入だと語る。

「遠隔接客AIアシスタントを施設や個人宅に導入する際は、DgSがコストを受け持つことを提案したいと考えています。服薬指導や健康相談をリモートで行うコールセンターのような設備を整えた上で、施設に導入すれば、症状によっては、在宅医療・調剤をリモートで行うことで、処方せんをDgSで受けることができます。ドクターとの連携もスムーズになるでしょう。リモートによるお買物のサポートもできますし、介護保険を適用しながら生活をサポートする業務も可能です。

また、今後高齢化が進むので、見守りができたり、双方向で会話できる遠隔接客サービスを独居の高齢者宅に設置することは重要になると思います。現在、セキュリティ会社や宅配企業がこのような事業を行っていますが、富裕層向けの高級モデルか、低額でシンプルなものかどちらかです。その中間的なところに機能を充実させ参入すれば大きなニーズを開拓できるでしょう。

遠隔接客AIアシスタントは、施設入居者や独居高齢者の健康、生活ニーズを大きく囲い込める可能性を持っています。機器の設置など初期費用だけで数十万円が掛かるので、ここを自治体の補助金なども活用してなるべくローコストにします。市場は確かにあるので、ビジネスモデルを構築していくのがわれわれの立ち位置だと考えています」(堂前氏)

堂前氏の計画と予想によれば、遠隔接客AIアシスタントにDgSが本格投資するのは2026年から2027年にかけて、それと並行して2026年には電子処方せんの普及が進みオンライン診療も身近になりビジネスとしては大きな山を迎えると予想している。施設への導入は2027年からさらに4〜5年後、個人宅へ入り始めるのはそこからさらに45年を要するとのことだ。

AIによる自律的な対応と遠隔接客の組み合わせは、健康、生活のニーズを幅広く取り込み、質を担保しながら、事業を効率よく拡大する大きな可能性を秘めている。

 

《取材協力》

株式会社MG-DX
代表取締役社長
堂前 紀郎氏
株式会社MG-DX
遠隔接客事業部 事業部長
三澤 佳祐氏

サイバーエージェントのAI活用による店舗接客支援サービス提案とは

2024年10月15日から18日にかけて幕張メッセで開催された「CEATEC 2024」。今回サイバーエージェントは「AIが創るストレスフリーな店舗体験」をテーマに出展した。本レポートでは、同社が提案するAIソリューションと、それらが小売業界にもたらす革新的な顧客体験について紹介していく。(月刊マーチャンダイジング2024年12月号より転載)

調剤領域でAIとITを活用した「薬急便」新サービス

サイバーエージェントの連結子会社である医療AIカンパニーMG-DXは、今回の展示会に「薬急便」のサービスラインナップとして、自律型対話AIを活用した受付業務サポートと他店舗スタッフによる遠隔接客を組み合わせたシステム、そして調剤薬局における待ち時間で買い物を促進する受付管理システムの2つのサービスを展示した。

自動接客の可能性を示す「遠隔接客AIアシスタント」

遠隔接客システムにより、他店舗の薬剤師がオンラインで服薬指導や相談を受ける

まず紹介するのは、遠隔接客AIアシスタントだ。本サービスは、MG-DXとサイバーエージェントの人工知能技術の研究開発組織「AI Lab」が共同開発したものだ。

MG-DXマーケティング・広報G 紫牟田莉帆氏「AI活用で調剤業務は劇的に効率化されます」

今回の展示では、映像や音声の高速認識・自律対話技術を駆使することで、ロボットやCGアバターが薬局の受付業務を代替する様子が紹介されていた。

[写真1]AI搭載のコミュケーションロボット「Sota」が患者の動きと音声を認識して、自律的に対話をしながら対応する

またこのサービスは必要に応じて遠隔から人がサポートする機能も兼ね備えており、受付業務を可能な限りAIに任せながら必要に応じて人が介入するという体制を整えることで、省人化を実現しながら接客品質を落とさないよう運用の最適化が配慮された設計になっている。

サイバーエージェント社によれば、小型ロボットの接客は高齢者や子供の患者がより受け入れやすい傾向にあるということで、ITが苦手な顧客層に対する自動受付・接客業務の推進、またカスタマーハラスメントからスタッフを守るという視点からも新しい可能性を示していた。

専門知識を持つ人材が複数店舗で接客できる「遠隔接客システム」

ロボットやCGアバターなどのAIエージェントによる接客が単純な受付業務領域にフォーカスしている一方で、薬剤師が遠隔から画面上で服薬指導などの接客を行うことができる遠隔接客システムは、オンラインの利便性を活かし専門性の高い人材の活躍の場を拡大。自身の勤務する薬局から複数店舗に対して患者の需要に応じたフレキシブルな接客を可能にする。

近年、薬剤師の人材不足・エリア不均衡が問題になっており、都心ではそれなりに人員が確保できているが、地方では人員不足が深刻化しているなど「偏在」が顕著になっている。

本サービスの導入によってこの偏在を解決し、採用コストの削減、店舗ごとの業務の平準化、対人業務の体制強化、患者対応の品質向上、薬剤師の業務負荷軽減などの効果が期待できる。

調剤薬局の現場では、調剤業務を行っている間に接客ができずにいると来訪した患者がその状況を見て店舗を出て行ってしまうということも多く発生する。こうした機会損失をなくす上でも遠隔接客を活用した接客業務の最適化は非常に重要な取り組みとなる。実際の引き合いも混雑店舗やワンオペ店に対して課題を持っている調剤薬局が多いということだ。

また、専門性という観点でも、糖尿病や高血圧など特定の疾患に対して高い知見をもつ薬剤師もいるので、こうしたそれぞれの専門性と患者とのマッチング最適化というところでも遠隔接客が今後果たせる役割は大きくなってくる。

薬局業界初、オンライン・店頭受付の統合管理システム「モバイルオーダー」

モバイルオーダーの順番表示画に物販の広告表示スペースを組み込むことができる。待ち時間を使っての買物促進に繋がる

薬急便サービスで最後に紹介するのは、薬局業界初となるオンライン・店頭受付の統合管理システム「薬急便モバイルオーダー」だ。

このシステムの主な特徴は、受付の一元管理、待ち状況の可視化、そして調剤完了の通知機能にある。これらの機能により、順番待ちに対するクレームの削減や薬局の混雑緩和が実現可能となる。

サービスの流れは、まず薬局での受付(有人)を行うと受付番号とQRコードが印刷された受付票が発行される。

患者は受付票に記載のQRコードをスマートフォンで読み取ると、待ち状況や自身の薬の準備状況をいつでも確認することができる。さらに、ブラウザ上で遷移した画面に自分の電話番号を入力するだけで、薬の準備ができたタイミングでSMSの通知が届く仕組みだ。通知を受け取った患者は調剤薬局スタッフに受付票を提示し、本人確認を行った後、薬が手渡されるという非常にシンプルなプロセスだ。

薬急便の特筆すべき点は、アプリのダウンロードが不要なブラウザ型であること、さらに店舗アプリやLINE公式アカウントに組み込めることだ。これにより、自身のスマホで簡単に待ち状況が確認できるとともに新たなオンラインサービス体験の機会を創出する。

店舗(薬局)での受付に加えて、外部から処方せん画像を送信することで、受取時間の予約、スマホで準備完了の連絡を受けることができる。あらかじめクレジットカードを登録していればオンラインで決済も可能。

導入した薬局からは「もうできた?」などの質問が激減し業務の中断が減少したという声や、待たれるプレッシャーから解放され業務に集中できる環境が整備された、などの声が多く寄せられているということだ。

また、患者向けの実際のアンケート調査では呼出通知希望率は導入店舗平均で70%に達しているということで、調剤薬局にとっても患者にとっても利便性の高い嬉しいサービスだ。

現在、クオール薬局、サンドラッグ、サツドラなど多くの大手チェーンでの導入が進んでいるが、その背景には深刻な人材不足とそれを解消するための職場環境改善の必要性がある。

薬急便モバイルオーダーは、患者の利便性と同時に、調剤部門スタッフの働く環境を改善し離職率を下げることに貢献している。

進化を続ける店舗サイネージプラットフォーム「ミライネージ」

3面で迫力のあるミライネージ

ミライネージは、実店舗のメディア化を実現する店舗サイネージ配信プラットフォームだ。全国約50,000台の導入実績を持ち、商品認知率や売上向上の効果が確認されている。

「ミライネージ」がもたらす価値は多岐にわたる。小売店舗における販促オペレーション業務の効率化はもちろん、店舗のメディア化による収益最大化、そして新しい顧客体験の創出だ。今回の展示では大型ディスプレイを3台並べ、3台の画面がひとつのサイネージ画面として機能することでよりダイナミックな訴求を行っていた。

エンドのミライネージは動画で購買意欲を刺激し、購買決定を後押し

従来は店舗入口での商品ブランド認知を目的としたディスプレイ展開が中心であったが、今後は店舗入口において認知効果を最大化しながらも、店内の各商品カテゴリー、定番棚付近にも最適化されたディスプレイを設置し、特定カテゴリー商品の購買を促進するためのより詳しい商品情報を提示していく方針だ。

また、月間約1,200本のクリエイティブを制作する体制を構築しているため、この強みを活かして店舗特性や曜日・時間帯によって配信クリエイティブを細かく設定し、商品認知と販売促進を同時に実現することで、広告投資効果を最大化できるリテールメディアとして進化していくということだ。

《ミライネージエンド棚上動画》https://www.youtube.com/shorts/A-r482p1Z78

 

全く新しい買物体験を提供するシェルフサイネージ「Tag Beans」

サイバーエージェントが芝浦工業大学益子研究室との共同研究によって開発し、今回新しいショッピング体験として展示を行ったのが「Tag Beans」だ。

「Tag Beans」は、商品棚(英語でシェルフ)の値札部分に設置されたシェルフサイネージを活用した革新的な商品推薦システムである。

プライスレール上をキャラクターが移動して、お奨め情報を伝える

このサービスの特徴は、キャラクターが商品棚を移動しながら、顧客に対して商品を推薦、実際に商品を手に取るとカメラがその状況を検知して売場のシェルフサイネージ全体が反応し、軽快な音楽とともにシェルフサイネージ上をたくさんのカラフルなキャラクターが舞い降りる、といったまるでアミューズメント施設にいるようなエンターテインメント性の高い体験を提供する棚札サイネージであることだ。

従来、値札スペースは単なる価格表示の場所に過ぎなかったが、「TagBeans」はこれを新しい顧客接点として活用する。

この新しいサービスのテスト的な展開を希望する小売企業に対しては、施策の立案・実行を同社として全面的にバックアップしていきたいということだ。

本サービスによって顧客の視覚、聴覚を同時に刺激する商品推薦施策を展開し、思わず商品を手に取りたくなるような新しい買物体験を提供したい小売企業は積極的にこの機会を活用してほしい。

 

商品が自ら動いて話す「自己推薦ロボット」

今回の展示の中で「Tag Beans」と同様に注目を集めたのが、「自己推薦ロボット」だ。

このロボットは、商品自体が動いて販促活動を行うというこれまでにない体験を提供する。

「自己推薦ロボット」の特徴は、人感センサーや重量センサーを組み合わせることで、顧客の行動に応じて柔軟に対応できる点だ。

例えば、顧客が目の前に立ち止まったら動きながらお礼を言ったり、商品を手に取ったらお礼やダンスをしたり、戻したら悲しむといった、まるで売場に生命が宿ったかのような振る舞いを見せる。

このソリューションの効果は、すでに実証実験で確認されている。大型雑貨店での実験では、来店客の立ち止まり率が2.14倍に増加し、販売率は大きいもので6.67倍も向上したということだ。

「自己推薦ロボット」は、単なる販促ツールを超えて、店舗内の雰囲気そのものを変える可能性を秘めている。売場が「生きている」かのような体験は、特に子供連れの家族や好奇心旺盛な顧客層に強く訴求すると考えられる。また、インスタ映えするような面白い購買体験として、SNSでの拡散効果も期待できるだろう。

商品まで買物かごが導いてくれる「スマートポータブルグリップ」

「スマートポータブルグリップ」は、買物カゴの持ち手部分に取り付けられる革新的な買物支援デバイスだ。このデバイスは欲しい商品がすぐに見つからない、という買物客が日々直面する課題を解決することを目的としている。

デバイスに組み込まれた無線通信機器によって位置情報を特定する仕組みで、店舗内での買物客の現在位置をリアルタイムに把握することができる。

さらに、振動とサーボモータを組み合わせた触覚フィードバック機能により、右左折や直進を誘導し、目的の商品への迅速な案内を可能にしている。

また目的の商品にたどり着いた後で、買い物カゴに商品を入れると重量センサーがそれを検知し、チャリーンという某有名ゲームでコインを獲得した時のような効果音が鳴り、エンターテインメント性が高い買物体験を提供している。

目的の商品のある棚を目指して歩き出すと、曲がる場所に来たら指示器が動いて左右を指示。商品の前に来ると振動で知らせる

 

今後、買物アプリと連動させたり、音声認識連動でのサービス化を検討していくということで、買い物の効率化だけでなく、買い忘れの防止、さらには新商品との出会いを創出・促進することもできそうだ。

AI事業本部 工学博士 江口僚氏
(スマートポータブルグリップ開発者)
「研究している技術で買物をもっと楽しく便利にします」

店舗DXを牽引するリアルタイム・高精度AIカメラ

リアルタイムでお客の位置、顔の方向、動線を検知、店内の全客の動きを捕捉し記録する

最後に紹介するのは、人の行動計測に特化した高精度AIカメラ技術だ。この技術の最大の特徴は、「0.1秒未満のリアルタイム性」を担保しながら、複数人の行動認識を同時に、かつ高精度に計測できる点で、認識精度・スピードは世界トップクラスということだ。

実際展示ブース内を行き交う人々を同時に検知する模様を確認できたが、単純に人の動きを追うだけでなく、顔と体と手の位置を別々に認識し、顔についてはどの方向を向いているかもリアルタイムで検知していた。また映像に映る人には個体番号が割り振られ、カメラからの距離もリアルタイムで検知・表示されていた。

特定のカメラに依存しない技術であり、一般的な監視カメラなどあらゆるカメラにこの技術を導入することが可能ということだ。

この技術がもたらす可能性は計り知れない。例えば、顧客の動線・行動分析や店舗スタッフの業務フロー分析に活用することで、店舗レイアウトの最適化や業務効率の改善につなげることができる。また、顧客の店舗内での位置や行動に応じて、アプリと連携したクーポン配布や、サイネージと連携した関連商品の推薦など、パーソナライズされた販促活動も実現可能だ。

弊誌でも小売店舗の動線調査を行っているが、人間が目測して1店舗を調査する場合1日がかりの作業となる。この技術が導入されれば大量のビックデータを解析し、動線分析を行うことで、データドリブンな売場レイアウト・各種施策の改善を行うことが可能になる。

今回のCEATECにおいてサイバーエージェントは、テクノロジーを駆使し実店舗の価値を最大化する小売業の未来像を提示した。

このブースで具現化された新しい買い物体験は、AI、IT・IoTデバイス、データ分析、デジタルマーケティングなどの先端技術を活用することで、従来型の小売店舗を革新的に進化させる可能性を示唆している。

今後、サイバーエージェントと協業する小売企業がこの新たなビジョンと顧客体験をどのように具現していくのか、業界内外から注目が集まることになりそうだ。

「濫用目的の医薬品購入は十分に抑止効果を高められる」登録販売者会 横山会長記者会見より

6月14日(金)、一般社団法人日本医薬品登録販売者会は、定期総会を開催。任期満了に伴いコスモス薬品社長の横山英昭氏を新会長に選任した。ここでは、同日開催された記者会見から、医薬品販売制度見直しを中心に横山氏の発言を紹介する。(月刊マーチャンダイジング2024年12月号より転載)

会の名称を変更。職能団体としての位置付け強化

総会では、団体名を従来の「一般社団法人日本医薬品登録販売者協会」から「一般社団法人日本医薬品登録販売者会(略称:登録販売者会/日登会)」に変更、医師会、薬剤師会など既存の職能団体のように「資格名+会」というシンプルな名称にして、職能団体としての位置付けをより明確にした。

一般社団法人日本医薬品登録販売者会

また、記者会見冒頭、横山会長は登録販売者会の存立の意義や課題感に関して、以下の3項目を発表した。

「一般社団法人日本医薬品登録販売者会は『すべての登録販売者の資質向上、業務支援、社会的地位の向上及び登録販売者の目指す方への育成支援』を積極的に取り組む職能団体です」

「登録販売者はセルフメディケーション推進の要として、国民の皆様の健康増進のため、重要な機能を担っています」

「一方で、2024年1月12日に『とりまとめ』が公表された『医薬品の販売制度に関する検討会』並びに、2025年度薬機法改正を見据えた『厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会』の議論において、セルフメディケーション推進に逆行する法改正が検討されていることに、強い懸念を感じています」

登録販売者がセルフメディケーションを推進することを改めて強調したのと同時に、検討会の中で協議されている濫用等のおそれのある医薬品の販売の見直しが、登録販売者会としても懸念の対象であることを明らかにした。

濫用問題は登録販売者が関与して適正販売に努めるべき

[図表1]濫用等の恐れのある医薬品の販売制度に関する意見

横山会長がまず問題視するのは、「購入者の個人情報の記録と保管」。これが義務化されれば、登録販売者は当該商品の販売のたびに作業に追われ、本来の仕事である情報提供や接客が十分にできなくなることが大いに考えられ、そうなればオーバードーズ問題はさらに悪化する危険性もあると語る。

さらに、「個人情報の記録と保管にいくら努めても、他のドラッグストア(DgS)で購入すればこれを防ぐことはできない。不正使用者のアクセスを阻害する手段にはなるが、買い回りにより頻回購入の阻止に対する実効性があまりにも低いのではないか。こういう改正に対しては反対する」と続けた。

また、「『直接購入者の手に届く場所に陳列しないこと』が実施されれば、広く使われている風邪薬、鎮咳薬、鼻炎薬、解熱鎮痛剤など買いにくくなることも問題だという認識を持っている。大多数の適正利用者にものすごく不便なルールとなる。利便性を失ってはいけない」とも発言した。

こうした対策ではなく登録販売者がしっかり管理すれば、相当な抑止効果が生まれる。濫用の恐れのある医薬品の購入に関しては、氏名、年齢が分かる顔写真付きの公的身分証明書の提示は求めるが、記録保管は負担が大きすぎるという見解も示した。

[図表2]横山会長が「決意表明」として読み上げた文書

記者からの質問と回答

部会には引き続き意見を訴え続ける登録販売者不要論には明確に反対

─薬機法の改正までそれほど時間はないと思うが、登録販売者会の方針をどのように具体化するのか、アプローチ、スケジュールのイメージを知りたい。

横山 医薬品販売制度に関する検討会に、登録販売者会の理事、関係者は委員として呼ばれなかった。

これに関しては不満がある。昨年検討会は終了し、今年1月にとりまとめが発表されたが、これに関しては登録販売者会の理事として厚生労働省に意見を具申した。

示されているルール変更では登録販売者が作業に忙殺されてオーバードーズ問題はさらに大きくなるのではないかと申し上げた。医薬品医療機器制度部会は現在も審議を続けており、われわれがこの部会に呼ばれることはないが、今後も訴え続けたい。

─濫用の恐れのある医薬品の販売規制に反対して、社会的な批判を受けるというリスクは感じないか。

横山 濫用については、販売店、登録販売者だけで防げるものではないと思う。コロナ禍で濫用者が増えたという発言が検討会でもあったが、社会状況、家庭環境、さらには医薬品の教育も含めてこの問題は社会全体で取り組むべきだと思う。販売店も購入者に対してはしっかりと説明する。

しかし、販売制度を変更して1店舗では1個しか買えなくても買い回りを防ぐことは難しい。とくに東京などは近距離内にDgSが多数ある。とりまとめの内容はかける努力と効果のバランスが非常に良くない政策だと感じており、これに関しては反対している。

─オーバードーズ問題で仮に死亡者が出ると、販売規制に反対の立場を取っていることで批判を受けることにはならないか。

横山 部会の中でも(オーバードーズによる)被害に関するデータを出してほしいという意見があったが、正式なものは挙がってこない。オーバードーズという現象にはしっかり対策は取る。

しかし、オーバードーズという言葉が独り歩きをして、エピソードだけが出てきてエビデンスが具体的に出てきていない。エビデンスが出てくればわれわれも相応の対応を取るが、イメージや印象だけで規制が強化されることになるのはいかがなものかと思う。

─資格者がいる「管理店舗」があれば、周辺の「受渡店舗」では資格者がいなくても医薬品の販売ができるという考えも示されているが、これをどう思うか。

横山 管理店舗、受渡店舗ということに関して厚労省は具体的なことはまだ説明していない。

いずれにしてもルールの変更が登録販売者をないがしろにするようなものであれば反対する。今の段階では法律をどう変えるか正式なものが出ていないのでなんとも言えないが、登録販売者をないがしろにするような内容には反対する。

─検討会でテレビ電話などオンラインによる情報提供などの話も出ており、これは元々コンビニ業界からの要望だったと記憶している。遠隔販売も含めてコンビニ業界にはどう対応していくか。

横山 コンビニと対峙するとか、そういう考えはない。ただ、登録販売者をないがしろにする考えには反対する。コンビニが登録販売者を尊重するならウェルカム、登録販売者なんていなくてもいいという考えなら、それは受け入れることはできない。

─ないがしろの具体的な意味は?

横山 登録販売者はいなくてもいいという不要論につながるようなことを意味している。

検証「医薬品販売制度の見直し」とは

「情報通信技術の進歩、OTC医薬品の活用などセルフケア・セルフメディケーションの推進、新型コロナウイルス感染症の影響によるオンラインでの社会活動の増加など、一般国民における医薬品を巡る状況は大きく変化している。一方で、一般用医薬品の濫用等、安全性確保に関する課題も生じてきている。現状をまとめた。(文責/編集部)(月刊マーチャンダイジング2024年12月号より転載)

「情報通信技術の進歩、OTC医薬品の活用などセルフケア・セルフメディケーションの推進、新型コロナウイルス感染症の影響によるオンラインでの社会活動の増加など、一般国民における医薬品を巡る状況は大きく変化している。一方で、一般用医薬品の濫用等、安全性確保に関する課題も生じてきている。

こうした中、医薬品のリスクを踏まえ、医薬品の安全かつ適正な使用を確保するとともに、国民の医薬品へのアクセスを向上させる観点から、医薬品販売制度についての必要な見直し等に関する検討を行う」(第2回医薬品販売制度に関する検討会参考資料より引用)。

上記のような理由により厚生労働省は2023年2月から「医薬品の販売制度に関する検討会(検討会)」を開始、同年12月までに11回の会議を経て、2024年1月にとりまとめを発表した(解説1参照)。このとりまとめを大臣の諮問機関で審議した後、2025年以降、薬機法改正を目指すことになっている。

解説① 「医薬品の販売制度に関する検討会のとりまとめ」概要

5つの柱があり、公表された文書には「『安全性が確保され実効性が高く、分かりやすい制度への見直し』、『医薬品のアクセス向上等のためのデジタル技術の活用』を基本的な考え方としている」と書かれている。

①処方せん医薬品以外の医療用医薬品の販売

リスクの低い医療用医薬品は「やむを得ない場合」は薬局で販売する。「やむを得ない場合」を明確化し、薬局での販売は最小限度の数量とする等、要件を設ける。

②濫用等のおそれのある医薬品の販売

●原則として小容量1個の販売とし、20歳未満の者に対しては複数個・大容量の製品は販売しない。

●販売時の購入者の状況確認・情報提供を義務とする。原則として、購入者の状況の確認及び情報提供の方法は対面又はオンラインとする。

●20歳未満の者による購入や、複数・大容量製品の購入等の必要な場合は、氏名・年齢等を確認・記録し、記録を参照した上で販売する。

③要指導薬の販売

●薬剤師の判断に基づき、オンライン服薬指導により必要な情報提供等を行った上で、販売することを可能とする(ただし、医薬品の特性に応じ、例外的に対面での対応を求めることも可能とする)。

●医薬品の特性に応じ、必要な場合に一般用医薬品に移行しないことを可能とする。

④一般用医薬品の販売区分及び販売方法

●販売区分について、「薬剤師のみが販売できる一般用医薬品」と「薬剤師又は登録販売者が販売できる一般用医薬品」へと見直す。

●人体に対する作用が緩和なものは、医薬部外品への移行を検討する。

●専門家(薬剤師・登録販売者)の関与のあり方に加え、情報提供については関与の際に必要に応じて実施することを明確化する。

⑤デジタル技術を活用した医薬品販売業のあり方

●有資格者が常駐しない店舗において、当該店舗に紐付いた薬局等(管理店舗)の有資格者が、デジタル技術を活用して遠隔管理や販売対応を行うことにより、一定の要件の下、医薬品の受渡しを可能とする新たな業態を設ける。

解説② 濫用等のおそれのある医薬品販売の見直しに課題

前項の解説1は、概ね厚生労働省が発表した「とりまとめ」の要約である。ここでは、さらに課題や現状について説明を加える。

①に関しては、一部処方せん薬を処方せんなしで販売するという規制緩和だが、詳細は未決定。

③もこれまで禁じられていた要指導薬のEC販売を一部製品に関して認めようとするもの。しかし、どの製品がECで購入できるのか等、詳細は未定。

④は現状のリスク別の医薬品の区分を販売可能な資格者別(薬剤師、登録販売者)に区分し直そうというもの。とりまとめの文書では、現状、第2類医薬品、第3類医薬品はどちらもインターネット販売が可能、説明義務に関して第2類は努力義務、第3類は情報提供に関する規定がない。従って、利用者は第2類と第3類の区分の意義を実感しにくい。また、覆面調査などから、第2類、第3類は資格者ではなく、一般従事者が販売している事例が見られるとしている。

こうした現状の改善のために医薬品の区分を「薬剤師が販売する」「登録販売者が販売する」の2種に分け、作用の緩和なものは資格者の関与が不要な医薬部外品に移行させるという案を示している。情報提供の義務も明確化する。

⑤は、薬剤師、登録販売者が駐在する「管理店舗」があれば、近隣の「受渡店舗」では資格者不在でも医薬品を受け渡すことができるという内容。受渡時の説明は必要に応じてオンラインで行うものとしている。こちらも、管理店舗1店舗あたり、何店舗の受渡店舗が設置できるかなど、詳細は未定。仮に管理店舗1店舗で100店舗や200店舗といった多数の受渡店舗が認められるなら、ドラッグストア(DgS)の資格者配置の負荷も軽減するが、コンビニが医薬品販売に関して、大きな競合になるだろう。

今回、DgS側が主に問題としているのは、②の濫用等のおそれのある医薬品の販売に関する改正案である。購入者の手に届かない場所に陳列する、購入者の個人情報を記録しそれを保管すること(台帳化)が求められており、これが法制化されれば、お客は商品(実物)を手に取って見ることができず、店頭での商品選び、購入が著しく不便になる。

また、個人情報の記録と保管は店側の負担を大きくして作業効率を大きく落とす可能性もある。