セブンは変われるのか?新経営陣が問題にした長きにわたる「成功体験」

セブン&アイ・ホールディングス(HD)は、今期より傘下にあったスーパーマーケットや専門店チェーン、外食チェーンなどの事業を切り離し、国内、海外のコンビニ事業に特化した事業体に姿を変えている。その新体制で同社の代表取締役社長に就いたのがスティーブン・ヘイズ・デイカス氏。今年8月6日、「7-Elevenの変革」を題目に都内で会見に臨んでいる。ここでは主に「国内セブン−イレブン」の現状と、求められる変革について、デイカス氏が語った内容を解説したい。
(流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年10月号より転載)

若い世代のお客様を中心にブランドイメージがやや低下

「7-Elevenの変革」と題した会見の冒頭、デイカス氏は近年の停滞を次のように指摘した。近年のセブン−イレブンの停滞を客観的に言い当てている。

「私たちは長年のマーケットリーダーであり、今でも圧倒的なトップポジションを維持しています。そこには多くのポジティブな面がある半面、実はとても危険な環境でもあると考えています。長期にわたる成功は、われわれの事業に慢心をもたらし、イノベーションやエクセキューション(計画や戦略を実行に移すこと)のスピードを低下させるのです」

国内セブン−イレブンの店舗数は2万1,743(2025年2月期)で創業以来、毎年増店、チェーン全店売上は5兆3,698億円でコロナ禍の2020年度、2021年度を除けば、こちらも創業以来、一貫して増加させている。ただし、2010年代後半から伸び率に鈍化傾向が見られる。加盟店の損益は公表されていないが、増店の鈍化は最終利益が厳しい状況に置かれていると推測できる。

それは業態の垣根を超えた競争環境の激化に加えて、高騰する人件費を十分に吸収できる利益確保が難しくなっているからであろう。売上を上乗せできる新たな商品やサービス、カテゴリーの創出、さらに加盟店の運営コストを抑える仕組みづくりに後れをとっていると筆者は認識している。

競合チェーンとの比較においても消極的な部分があるとデイカス氏は次のように指摘する。

セブン&アイ・ホールディングス
代表取締役社長最高経営責任者(CEO)
スティーブン・ヘイズ・デイカス氏

「セブン−イレブン・ジャパン(SEJ)は、お客様とのコミュニケーションやエンゲージメント(深いつながりを持った関係性)において、競合他社に遅れをとっています。率直に言って、競合他社に比べてやや受け身であり、コミュニケーションへの投資の一部は誤った方向に進んでいました。その結果、特に若い世代のお客様を中心に、ブランドイメージがやや低下しています。高齢のお客様からは依然として強い支持を得ていますが、若い世代のお客様からの支持は減少しています。SEJのリーダーシップチームはこの問題を認識しており、迅速に対応を進めています」

利用者とのコミュニケーションに関して、最も強い来店動機は、加盟店のオーナーや店長、その他従業員による接客になるだろう。セブン−イレブンに限らず、コンビニフランチャイズに加盟した初期のオーナーは、業種店から転換した商人が多かった。

その土地で古くから酒販店、米穀店、青果店、食料品店などを営んできた商人は、顔と名前を覚え、御用聞き(配達サービス)を実践してきた。特にセブン−イレブンは、創業期に酒販店からコンビニへの業態展開を集中的に促してきたので、地域と深くつながった加盟店オーナーが力を持ってきた。

一方で、90年代後半から家庭用パソコンが普及。続いて携帯電話、スマートフォン、タブレットなどを一般の人たちが持ち、いつでもどこでもインターネットにアクセスできるようになった。そこでは、多様なチャネルを通した、利用者との双方向のコミュニケーションが求められるようになった。

コンビニ各社はキャンペーンの告知や、クーポンを発行する自社アプリを開発。利用客の囲い込みに注力している。大手3チェーンの自社アプリ、それぞれ2,000万から2,500万の累計ダウンロード数を記録している。自店のカウンターでのフェース・ツー・フェースのコミュニケーションから、自社のアプリやSNS、さらにはAIカメラを用いた商品のお薦め、店内のデジタルサイネージなど、利用客との接点が多様化していった。

セブン−イレブンが、この分野で競合チェーンと比較して目に見えて遅れているとは思えない。お届けサービスの「7NOW(セブンナウ)」を自前で開発し、既に全国で展開している。ただし、7NOWを除けば、競合チェーンをリードする存在かといえば、決してそうは見えない。

初期のセブン−イレブンを支えた加盟店オーナーは世代交代をしている。現場の力が強かった分、最新デジタルを活用した合理化に後れをとった。特にデイカス氏が指摘する「若い世代の支持の減少」に対しては危機感を持って当然だ。

「優秀な外部人材の獲得も含め、コミュニケーションチームの刷新と強化を進めています。商品開発、店舗活動、そしてコミュニケーションへの統合的なアプローチを確立することで、事業運営の変革を進めています」(デイカス氏)と対策を説明する。

もう一つ卑近な例として挙げられるのが「上げ底」騒動である。SNS上でセブン−イレブンの弁当や惣菜が以前の商品と比較して「上げ底」が目に見えて増しているといった指摘が、画像や動画とともに拡散した。

週刊誌の取材に(当時社長の)永松文彦氏が強く反論したことも火に油を注いだ感があった。SNS情報に敏感な若い世代に対しては非常にネガティブな発信になった。この一連の騒動が二度と起きないような万全な体制を組む必要があるだろう。

AIの活用、データ分析などにパートナーの協力が必要

加盟店を軸とした生産性向上は喫緊の課題である。前述したように店舗従業員の人件費は上り続けていく。コスト削減に取り組むと同時にトップライン(売上)も高めていく必要がある。デイカス氏は次のような問題意識を持つ。

「テクノロジーと膨大なデータを活用し、お客様にとってより便利で魅力的なショッピング体験を提供すると同時に、店舗(特にフランチャイズ加盟店)の生産性と収益性を向上させる新たなモデルを構築することです。グローバルな展開と業界をリードする規模を持つ私たちは、これを実現できる立場にあります。当社は日本に約1万1,000店舗、北米に約1万3,000店舗を展開しており、この2つの地域だけで毎日約3,000万人ものお客様が当社の店舗に来店されています。私たちはサプライチェーンとマーチャンダイジングにおいて大きな強みを持っています」

それには最新デジタルの活用が欠かせない。デイカス氏は次のような認識を示す。

「AIの活用、オートメーション、データ分析といった分野にはまだ強みを持っていません。これを実現するためには、パートナーの協力が必要です。幸いなことに、競合他社もこの分野においては先行しているわけではなく、この分野における強みを実現するには非常に大きなチャンスがあります」

最新デジタルの取り組みが十分ではないことを伸びしろと捉える。競合するローソンは親会社の三菱商事に新たにKDDIが資本参画し、2024年8月に出資比率を50%ずつとする共同経営パートナーとなった。KDDIが強みとするITを強化し、コンビニの未来を描こうとしている。

デイカス氏も業界動向を見ながら、柔軟な姿勢を示している。

「重要なのは、新しいテクノロジーを生み出すことではありません。テクノロジーは既に存在し、日々急速に進化をしています。つまり、テクノロジーを活用し、お客様により良い体験価値を提供し、パートナーに新たなモデルを提示することです。これは一朝一夕に実現できるものではありませんが、私たちが注力していかなければ決して実現できません」

単に変化に対応するのではなく受け止め、その変化をリードする

セブン&アイHDは2025年9月に中間持株会社のヨークホールディングスを投資ファンドのベインキャピタルに売却する。イトーヨーカ堂を祖業とするセブン&アイHDはコンビニに特化した事業体になる。

日本のセブン−イレブンを実質創業した鈴木敏文氏も2016年4月に経営から退き、イトーヨーカ堂を創業した伊藤雅俊氏は2023年3月に亡くなっている。

デイカス氏は今こそ創業の精神を取り戻すだけでなく、それを乗り越える覚悟が必要と説いている。

「この先、私たちには多くの変化が待っています。しかしながら、一つだけ決して変わることがないのは、当社の基本的な理念です。私たちの創業者(伊藤雅俊氏、鈴木敏文氏)は、どのように事業を行うべきか、とても明確なビジョンを持ち合わせていました。ステークホルダーからの信頼獲得のために、私たちの創業者は変化を受け止めることを求めています。

単に変化に対応するのではなく、受け止め、その変化をリードすることを求めています。(中略) 現在、私たちの課題の一つは、この創業者の精神が失われていることだと考えています。特に日本において、私たちはかつてほどお客様からの信頼を獲得できていません。また今、私たちは創業者がしたように、積極的に変化を受け止めることができていません。本社を中心に、私たちは少し現状に甘んじてしまっている部分があります。だからこそ、創業の精神を取り戻すことがとても重要なのです」

デイカス氏は創業の精神と表現するが、伊藤雅俊氏、鈴木敏文氏の跡をたどることでは決してない。既存の枠に捉われず、自らの限界を超克する取り組みが令和の時代に求められている。

ネット専用スーパー「グリーンビーンズ」に見る最新ロボティクスソリューションの活用事例

小売業の生産性向上にはAIとロボティクスの導入は不可欠だ。イオンのネット専用スーパー「Green Beans」(グリーンビーンズ)を運営するイオンネクストは、大型物流拠点である誉田CFC(顧客フルフィルメントセンター)に新たなロボティクスソリューションを本格導入、今年6月30日にメディアに公開した。グリーンビーンズが本格稼働してから2年が経過。2026年度と2027年度には、新たなCFCを首都圏に開設、規模拡大を図っていく。最新のロボティクスと同社の成長をリポートする。
(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年9月号より転載)

千葉、西東京、埼玉のCFCでSM200店舗分が首都圏で稼働

2023年7月に本格稼働から2年が経過した誉田CFC

誉田CFC(千葉市緑区)は2023年7月に本格稼働を開始した。そのCFCに搭載された最新デジタル技術と機能は、イオンが2019年11月に提携した、英国オカドソリューション[英国テクノロジー企業 Ocado(オカド)グループの子会社]が担う。

イオン100%子会社のイオンネクストが手掛けるグリーンビーンズは、最新テクノロジーと、イオンの商品開発力、情報ネットワークなどを駆使しながら首都圏を配送エリアとしてスタート。AIとロボットを活用したCFCのオペレーションとロジスティクス、個々の購買履歴に合わせたサービス、コールドチェーンによる鮮度管理により、鮮度の高い商品の玄関先までの配送を実現させている。

誉田CFCは、一般的なスーパーマーケット50店舗分に相当するサイズだという。2026年度に東京西部の八王子で稼働させるCFCも50店舗分の規模で、2027年度に埼玉県の北部に計画する久喜宮代CFCは100店舗分に相当。これら3つのCFCが出そろえば、首都圏においてSM200店舗分のネットスーパーが稼働する。

最新の自動化技術の導入で業務効率を飛躍的に向上

今回のロボティクスソリューションの目的は、導入により人手による作業の約30%を自動化ロボットが担うことだ。単純作業や重労働など従業員の負担を大幅に軽減するとともに、より安定した供給体制と作業効率の向上、働きやすい現場づくりを実現していくことにある。

「オングリッドロボットピック」は、お客が注文した商品をピック&パックする最先端のロボットピッキング。1日あたり約20万点の商品ピッキングを可能としている

公開した第1の自動化ロボットは「オングリッドロボットピック」と呼ばれるもの(写真参照)。お客が注文した商品をピック&パックする最先端のロボットピッキングである。さまざまなサイズ・形状・重量・傷つきやすさを持つ商品を、AIがその場で認識・判断し、袋詰めまでを実施する。

ツルのくちばしのような形状をしたロボットのアームが、グリッド(商品棚)上から商品を直接取り出すことで、従来人手で実施している場所の省スペース化と生産性の向上を実現、1日あたり約20万点の商品ピッキングを可能としている。

誉田CFCでは約3万8,000点の商品を取り扱っている。そのうちオングリッドロボットピックによる対象商品数は現状約3,000点、これを2025年度中に約1万点までピッキングする商品を増やしていく。ピッキングの対象としていない商品は、重量が2kg以上のものや、破れやすい、壊れやすいといったものになる。

第2の自動化ロボットは「オートフレームロード」。配送直前の注文ボックス(トート)を、配送用フレーム(台車)に自動で積み込むロボティクス技術になる。配送準備の中でも特に重労働な作業において、画像認識カメラとAIにより、トートの形状や重さ、フレームの状態をリアルタイムで把握し、人手を介さず最大20kgのトートを最適な位置に自動で積載する。現在、4台を配置している。

従来はAIによる配送順や重量バランスなどを考慮した積載指示をもとに、人手で積み込んでいた。1日に2万6,000個のトートを運んでいたが、この重労働を完全自動化し、作業者の負担を大幅に軽減した。配送車への積載効率や重さのバランスにも配慮した設計としている。

既存の自動ロボット設備について幾つか触れておく。一つ目は「ボット」。商品を収納したトートを持ち上げ、CFC内の商品棚上を走行しながら指定の場所まで運搬するロボットになる。お客の注文に応じて、必要な商品が入ったトートを正確かつ迅速に搬送し、ピッキングやパッキング作業の効率化に対応している。

ボットは秒速4m、人の10倍の速さで移動、生産性も10倍近くに高まる。誉田CFCは荷受けから出荷まで、直接関わる人員は約30人程度である。通常のネットスーパーであれば、誉田CFCの出荷量に対応するには数百人規模の人員が必要になる。

「オートフレームロード」は、配送直前の注文ボックス(トート)を、配送用フレーム(台車)に自動で積み込む最新のロボティクス技術

二つ目は「オートバギング」。1分間に50以上の袋をトートに掛ける自動袋掛けのマシーンになる。お客へ配送するトートに最大3袋を設置することを可能としている。三つ目は「バキュームリフター」。作業者の負担を軽減するためのハンドクレーン型バランサーになる。重い物や持ちにくい物を簡単かつ安全に持ち上げたり移動させたりするための装置だ。

四つ目は「無人搬送機(AGV)」。入荷商品の台車を同時に2台搬送できる無人輸送車になる。あらかじめ設定されたルートを自動走行し、効率的かつ正確に目的地まで入荷商品を無人で搬送する。

イオンネクストは、これからも最新の自動化技術のさらなる導入と最適化を進め、業務効率を飛躍的に向上させるとともに、これまで以上に迅速かつサービスの質を一段と高めることで、より便利で安心できるサービスを提供していくとしている。

商品アイテム、お客の利便性 サービスエリアの拡大を図る

会員数の拡大については、誉田CFCの稼働から2年間に60万人を獲得しているが、2025年度末までに100万人の突破を目指している。それでも首都圏の世帯数は1,700万あるので成長の余地はあると見ている。

会員の中にはヘビーユーザーもいて、都内23区の港区や世田谷区には、客単価(バスケット単価)が1万7,000円以上、買上点数が30点以上の利用客がいる。こうした会員数の拡大にともない「スポーク」と呼ばれる中継拠点を2025年度末までに現行の9から14まで拡大していく。

今後の課題として物流の効率化と利便性の向上が挙げられる。イオングループ全体の物流再編も考え得るであろう。例えば都市型小型食品スーパーの「まいばすけっと」は首都圏で1,251店舗(8月1日現在)を展開しているが、ここをグリーンビーンズの受け取り拠点に加えれば、自宅に不在がちの共働き夫婦には役立つサービスになるであろう。

イオンネクスト代表取締役社長のバラット・ルパーニ氏は次のように総括する。

『私たちは他のネットスーパーとは一線を画すサービスによって会員数を拡大しています。グリーンビーンズのサービス設計は、3万点以上の豊富な品揃えによりワンストップショッピングを実現、1週間鮮度保証の「鮮度+」「食べごろ+」、社員クルーによる質の高い配送、24時間注文可能の朝7時から夜11時までの1時間単位の配送枠、サクサク動くWebアプリ、これらの価値提供に集約されています。登録済み顧客数は60万人以上、平均客単価は1万円以上、買物客の90%以上はリピーターです。お客様の信頼とロイヤリティが高いということです』

今後、グリーンビーンズは次の3つのテーマにフォーカスしていく。

第1にオリジナル商品の拡大。食品だけではなく、需要が高まる韓国コスメなどのビューティケア、その他ノンフーズについても広範に品揃えを追加していく。特に首都圏の若いお客に合わせた商品も追加していく。

第2に利便性の拡大。新たな決済手段やロイヤリティプログラムを計画している。WAON POINTによる支払い機能やサブスクリプションも開発していく予定である。

第3に配送エリアの拡大。サービスエリアは2年間で急速に拡大、誉田CFCは東京23区の全て、千葉県の13都市、神奈川県の横浜・川崎エリアをカバーしている。前述のように、今後は八王子、久喜宮代でCFCを稼働させて配送エリアのいっそうの拡大を図っていく。

その一方で、ドライバーの不足が物流業界で課題になっている。グリーンビーンズではエリアの拡大と同時に、物流効率の向上を図っていく。例えば再配達を減らすため、1時間枠の設定に加えて、トラックが直前の配達先を出たところで、次の届け先にメールを送信して在宅を確認するなど細かな仕組みを整えている。結果として当日の不在率を0.5%未満に抑えることに成功している。

このようにグリーンビーンズは、AIとロボティクスソリューションを土台に、商品アイテム、お客の利便性、サービスエリア、この3つの拡大を図って、日本の流通を変革していく。

ローソンが「未来のコンビニ」をオープン、サービスと運営に新たなテクノロジーを搭載

2025年6月23日、ローソンは未来コンビニ「Real×Tech LAWSON」の1号店、「ローソン高輪ゲートウェイシティ店」をオープンした。“リアルの温かみとテックの力を融合させた店舗”をコンセプトに、同年7月に開設したKDDIの新本社「TAKANAWA GATEWAY CITY」内のオフィスビル6階に出店、新たな体験と店舗運営を提供していく。
(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年8月号より転載)

新たなお客様体験と店舗運営で売上を高め作業人時の削減図る

これまでの経緯に簡単に触れると、2024年、KDDIがローソンにTOB(株式公開買付)を実施、ローソンはKDDIが50%、三菱商事が50%を出資する共同経営体制に切り替わった。

2024年9月の会見で3社のトップが顔をそろえ、情報通信のKDDIが経営に参画することで、ローソンは、テクノロジーを強化した「Real×Tech Convenience(リアルテック・コンビニエンス)」として業態の進化を早めていくと方向性を示した。その「未来のコンビニ」を3社の会見から9ヵ月強を経てお披露目となった。

オープン当日、会見に臨んだKDDI執行役員パーソナル事業本部パートナーグロース本部長の久木浩樹氏は、“リアルテックローソン”の意義を次のように述べた。

「少子高齢化に伴う生活インフラ維持の危機に対し、テクノロジーを活用することで、コンビニの位置づけを地域のマルチハブとなるようにする。リアルテックローソンが地域における最重要インフラ拠点となり、さまざまな社会課題の解決に貢献することを目指していく」。

この構想の一環として、リアルテックローソンをKDDIが直営の形で運営する。KDDI社員がコンビニ経営に自ら携わることで、その知見を蓄積していく。さらにKDDI社員がファーストユーザーになることで、各種実験検証を加速させ、ローソン店舗への波及速度を高めていくという。

このリアルテックローソンは二つの取り組みを強化し、その中で成果の見られる施策については全国のローソンに導入していく。第1は「新たなお客様体験の提供」、これはトップライン(売上)を高める施策であり、主に客数アップと買上点数の向上を図る。

第2は「新たな店舗運営の確立」となる。AIなどを用いて店舗運営の適正化を図り売上の向上を目指し、またロボティクスの導入により店舗人時数の削減を図る。

相談所で幅広いサービスを提供 日常生活のお困り事に応える

第1の「新たなお客様体験の提供」についてはAIサイネージを設置した。AIカメラを活用した行動解析により、商品棚前のお客の行動に合わせたレコメンドを実施する。

例えば、商品棚の前に滞在する時間が長ければ、商品選択に悩んでいると判断し、棚に設置したサイネージでランキングやお薦め商品を表示する。

また、商品に手を伸ばした際には「そのお弁当と一緒にお茶をご購入いただくと50円引き」といった関連商品のレコメンドや、必要とされる情報を表示する。

なお、このサイネージでは、性差や年齢、体形などお客の特徴に合わせたレコメンドは実施しない。AIがお客の特徴を捉えた上での情報提供も可能だが、サイネージが周囲のお客の目に触れるため、個人に関係するレコメンドは控える。

一人ひとりの状況や行動にあわせたタイミングで情報を伝えることで、適切なレコメンドやサポートを届けて、主に買上点数の向上を後押ししていく。

お客がプライスレールにタッチすると、商品のより詳細な説明が表示されるようにした

サイネージの二つ目は「プライスレール連動サイネージ」。商品棚のプライスレールにタッチ式サイネージを導入して、お客がそれに触れると、ゴンドラ上のサイネージに商品紹介が表示されて詳細な情報を得ることができる。お客は自らの能動的な行動により納得感を持って購入できるようになる。

三つ目は店内の壁面に設置したサイネージ。ここでは「画像生成AI」を活用した壁面緑化演出「MIRRORGREEN ミラーグリーン」により「朝・昼・夜」に応じた演出を行う。1日に複数回来店するお客は、時間ごとに異なる店舗空間により購買意欲を増すことになる。

このサイネージは店舗の販促にも活用する。例えば「からあげクン」を、店内のサイネージを使って、ちょうど揚げたてのタイミングで訴求することができる。買上点数のアップにつなげられる。販促だけではなく、高輪ゲートウェイシティに実装されている都市OSとサイネージを連動させて、地域情報をリアルタイムで伝える拠点機能を強化させていく。

店舗周辺の人流や天候、電車の遅延状況などをデジタルサイネージで表示して購買行動に結びつける

例えば、天気や電車遅延、周辺の混雑情報などをリアルタイムで配信し、お客が店内にいながらリアルタイムで情報を得ることを可能としている。

「その日の天候や温度に合わせて、熱中症対策の商品をレコメンドしたり、街のイベント開催に合わせた食品をレコメンドするなど、お客様の体感、体験と購買行動を結びつけていく」(久木氏)

これは後述する店舗運営に関連するが、周辺の人流データなどをもとに需要予測の精度を高めて在庫の最適化によるフードロス削減も検討していく。

「新たなお客様体験の提供」の目玉になるのがリモート接客の「Pontaよろず相談所」。店内の一角にブースを設置、リモート接客により、通信・ヘルスケア・金融・清掃・家事代行など、さまざまなサービスについて、ビデオ通話を通じて各分野の専門スタッフに相談できるようにした。このリモート接客には、KDDIの提供する「次世代リモート接客プラットフォーム」を導入している。

お客に対しては、自宅のPCを使用せず、わざわざローソンの店内でリモート接客を受けることの、利便性とサービス内容の優位性を上手に訴求する必要があるだろう。

その一つとして「日本で初めてとなるご自宅以外の場所でオンライン診療、オンライン服薬指導が受けられるというサービスを開始する。これにより、すきま時間で診察を受け、常用しているお薬を処方してもらい、自宅で受け取っていただけるなど、さまざまな便利な使い方が可能となる。

AIアバターが会話形式でナビゲートすることでパソコンなどが苦手なお客様でも安心して利用いただくことが可能となる」(久木氏)と、店内のリモート相談所を案内していく。

また過疎化対策にも活用していく。「地域によって各種相談手続きを行える場所が近くにないケースは増えてきている。相談所により幅広いサービスを提供し、日常生活のお困りごとをリモート接客で解決し、ローソンが欠かせない存在になることを目指していく」(久木氏)。

アルコール類、たばこ購入には3Dアバターが遠隔から年齢確認

第2の「新たな店舗運営の確立」について、ローソンでは2030年までに店舗オペレーションの30%削減を目標としている。リアルテックローソンでは、ロボティクス活用による飲料陳列や店内清掃、調理などの業務をロボットにサポートさせている。

飲料陳列ロボットは、人手を解消するだけでなく、陳列を通して商品の動きを可視化して、発注やフェース管理に役立てていく考えだ

ロボティクス活用は人時数の削減を目的とするだけでなく、例えば、飲料陳列ロボットではデジタル在庫棚の組み合わせにより、売場棚と在庫棚の飲料在庫量、売場棚の棚割や日々の欠品状況などを、専用アプリを通じて可視化させていく。これにより在庫管理や余剰在庫削減を実現させていく計画である。

また、従業員が身に付けるタグから店舗業務量の定量データを算出するシステムを導入した。業務量を可視化して、業務最適化に向けた課題を抽出していく。

一方で、防犯カメラの情報をもとに棚の充足率やお客の行動を可視化。そのデータをもとに、「AIエージェント」が改善策の提案、検証を支援する。これまでの店舗運営で、属人的、感覚的だった意思決定を、AIエージェントのデータに基づいて判断することを可能にした。

セルフレジの支援にはアバターの遠隔接客を採用している。お客のセルフレジ操作を遠隔からサポート、新たに3Dディスプレイによってアバターを立体的に表示して、より豊かなコミュニケーションに期待する。

ここではアルコール類、たばこ購入の際、3Dアバターを通じて遠隔から年齢確認を行うことで、店内の人時数の削減にも貢献できる。アバターは複数店舗を掛け持つため、チェーン本部と加盟店の全体により、サービス向上と効率化を実現している。

コンビニ経営の最大の課題は、加盟店利益の確保にある。サービスを高め、売上も上げて、店舗運営のコストを下げる。未来のコンビニは夢のような話ではなく、コンビニ業界全体の存続をかけた課題でもある。

市場シェア95%のラガーに挑むセブンと総力戦で横展開を図るファミマの新企画

セブン−イレブン・ジャパンはクラフトビールの最大手、ヤッホーブルーイングと初となる共同開発ビール「有頂天エイリアンズ」(318円、税別)を5月21日より首都圏および長野県・山梨県のセブン−イレブンで販売を開始、ファミリーマートはAfternoon Tea(アフタヌーンティー)監修の商品を5月20日より過去最大となる25品目を、カテゴリーを横断して展開した。こうした他社とのコラボレーションが近年は増加傾向にある。両チェーンの狙いと商品開発のあり方を考えてみたい。
(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年7月号より転載)

低価格PBを定着させた後上位ブランドのビールを投入

コンビニの商品開発は「単品」を基本にしている。チェーン本部は売れる単品を推奨し、フランチャイズ加盟店は自らの意志で売っていく。

わずか40坪の売場面積と3,000品目で商売を営むには、売れない商品を並べる余裕はない。商品部は、1万数千店から2万店以上の加盟店に送り込んだ商品が売れなければ責任問題になるし、加盟店は発注した商品が売れずに廃棄ロスが増えれば、“日々の生活が脅かされる”のだ。

アジアに出店する日系コンビニや地元ローカルの店を見ても、日本ほど商品が入れ替わるコンビニは他にない。日本のコンビニは1週間に約100品目の商品を新たに投入している(100品目が退場する)。新商品が来店客にとっては情報であり、トレンドや季節を演出してきた。もちろん「おいしさ」が大前提にあり、単品量販ができない業態特性上、付加価値の高い商品を中心に品揃えしてきた。

しかしながらコンビニは今、逆風にさらされている。今年4月の消費者物価指数は(生鮮とエネルギーを除き)前年比3.5%の上昇、5ヵ月連続で3%以上となり、消費者の生活防衛意識は高まっていく。

食品に関しては、生鮮素材から調理をすれば加工品を購入するよりコストは低い。米飯弁当や調理麺、調理パン、惣菜をメーンにそろえるコンビニは、どうしても割高に映ってしまう。

それでも「本当に価値のある商品を提供すれば、お客様には喜んで買っていただける」が、コンビニ業界の理念ともいえるし、商品に価値を認めてもらえれば、多少の価格差は問題ないとする考え方はいまだに支配的である。そうした「価値」を前面に打ち出したコンビニの新商品を見ていきたい。

現行缶製品で最多量のホップを使用した「有頂天エイリアンズ」。ホップ量はヤッホーブルーイングのロングセラー商品「よなよなエール」の1.8倍、香気成分の含有量は、一般的なラガービールの約11倍あるという

一つ目はセブン−イレブンの「有頂天エイリアンズ」。今年5月21日より首都圏および長野県・山梨県のセブン−イレブンで順次先行発売、今後は全国のセブン−イレブンでの展開も予定している。

同商品は一般的なラガービールの特徴である「透明ですっきり・苦みが強め・穏やかな香り」のテイストとは大きく異なる「濁ってまろやか・苦み控えめ・トロピカルな香り」といった特徴を持つ。昨年12月に長野・山梨ほか一部地域のセブン−イレブンでテスト販売を実施したところ、想定より1ヵ月前倒しで完売したことが今回の販売拡大につながった。

ビールを大まかに分類すると、下面発酵で造られるラガービールと上面発酵のエールビールに分類される。日本のビールメーカーが製造する商品はほとんどがラガー系で、消費量を見るとラガー系が95%を占めている。米国の80%、ドイツの70%と比較しても、日本の消費者はラガー系を選択“させられている”。

今回の有頂天エイリアンズはエールビールの一つに分類される。セブン−イレブンは、従来の大手ビールメーカーが造るラガービールに加えて、日本ではマイナーの領域にあるエールビールを後押しする格好になった。

“後押し”というのは、2024年12月にセブン&アイ・ホールディングスはサントリーと共同開発したエールビール「セブンプレミアム エールズ350ml」(180円、税別)をグループの約2万2,300店舗で販売を始めている。同年10月に一部地域で先行販売を実施したところ計画した数量の2倍を上回った実績を持つ。

エールビールを180円の低価格PBで定着させ、その上位ブランドに318円のクラフトビールを品揃えした。近年、日本のビール市場でも小規模な醸造所が造る多種多様なクラフトビールが飲食店やスーパーマーケットに並ぶようになってきた。日本のクラフトビール市場は10年間で4.6倍に伸長している。

日本クラフトビール業界団体連絡協議会が2024年4月に公表した「クラフトビール統計」によると、ビール系(新ジャンル含む)の中でクラフトビールのシェア(数量)は0.96%と1%も満たしていない。その意味では、今後も伸びしろはあるだろう。※

※本稿のヤッホーブルーイングはキリンビールと資本関係にあり、商品の一部はキリンビールの製造工場を使用しているため「クラフトビール」に含めるか否かは意見が分かれ、上記のクラフトビール統計に同社が含まれているかは公表されていない。ただし、商品のバラエティと同社の開発体制から本稿では「クラフトビール」として記述している。

ライト層に訴求して市場拡大

セブン−イレブンは2021年下期の商品政策で「ワクワク」をキーワードにした販促の強化を打ち出した。今回は個性的な味を追求するクラフトビールの「ワクワク」、そして「選ぶ楽しさ」を提案して、ビール市場を拡大したい狙いがある。

セブン−イレブンの説明によると、日本の成人人口は約9,000万人で、飲酒に関して「週1回以上」が2,000万人、「月1回以上」が2,000万人、「飲酒しない」が5,000万人で、この「飲酒しない」のうち「きっかけがあれば飲む」が2,000万人いるという。

セブン−イレブン・ジャパン商品本部飲料・酒・加工食品部シニアマーチャンダイザーの上條智氏は次のように市場を見ている。「われわれは上位2,000万人にお酒を提案しているが、月1回以上の方、そしてきっかけがあれば飲む方たちに購入いただければ、お酒のマーケットは2倍にも3倍にも広がるチャンスがある」

そのきっかけがワクワク感を発信するクラフトビールにあると上條氏は見ている。実際にセブン−イレブンで既存のクラフトビールを購入する客層は40代男性が30%、50代男性18%、40代女性12%となり、レギュラービールの購入客層(主に中高年の男性)と比較して若く、女性比率が高いという結果が出ている。こうした新しい客層へワクワクする仕掛けがビール市場開拓には必要で、クラフトビールは有効になると見る。

併買商品についても新しい傾向が出ている。クラフトビールの併買商品は「香ばし炒めの玉子炒飯おむすび」「赤坂璃宮監修五目春巻」「たことブロッコリーバジルサラダ」といった食事としての買い合わせが多いことに特徴を持つ。

一方のレギュラービールは「ななチキ」「揚げ鶏」「牛肉コロッケ」など、おつまみとしての買い合わせが多い。クラフトビールの購入客層は、食事と一緒(with)にお酒を楽しむ傾向がある。こうしたアルコールに対するライト層にも市場の広がりを期待できるだろう。

「日本には地域に限定したクラフトビールがある。エリアごとに、さまざまなビールに対応していきたい。エールビールについては、われわれのセブンプレミアムでも扱っており、多種多様な商品を紹介しながらビールの飲用人口を増やしていきたい」(上條氏)。

セブン−イレブンはクラフトビール系の最大手と組んで、ユニークなブランド名を発信しながら、新たなマーケットを開拓していく。

カテゴリーを横断して同じテーマで商品展開

ファミリーマートはスイーツに注力。「コンビニでスイーツを買うならファミリーマートと一番目に想起されるチェーンになることを目標にしている」(ファミリーマート商品本部スイーツ部部長の山岡美奈子氏)

左から「クッキー増量 アフタヌーンティー ロイヤルミルクティーフラッペ」 (334円、税別)と「アフタヌーンティー ピーチアールグレイミルクティーフラッペ」 (334円)

アフタヌーンティーとは、2019年10月にアールグレイの紅茶を使用した焼き菓子4種類を発売したのが取組のスタート。この女性層に支持のあるブランドとの初コラボ商品が支持されたことで、他のカテゴリーの商品を拡大し、これまで継続してコラボレーションを実施している。

「コラボレーション商品は数量限定が多いのだが、定番商品として展開しているものもある。主に女性のお客様から厚く支持をいただいている」(山岡氏)

こうした背景から、ファミリーマート商品で“アフタヌーンティーを楽しんでいただく”をコンセプトに、カテゴリーを横断して、コラボレーションでは過去最大規模となる新商品16品を含む合計25商品を一斉に展開することにした。「カテゴリーを横断して同じテーマの商品を展開することで、買い合わせ点数のアップや食べ比べなどの話題化を狙っている」と山岡氏。最近、コンビニスイーツで“ヒット商品”を聞かなくなった。単発のヒット商品は狙いにくいのか。

「コラボレーションによる品質向上、そして話題性も大きい。単発の商品ではなく、今はカテゴリーを横断した“総力戦”で臨んでいます」(山岡氏)

ブランドの力を借りながら、共通のテーマで各カテゴリーの底上げを図っていく考えである。生活防衛の厳しい環境下にある顧客に日常の“ワクワク感”を、どう訴えていくかが問われている。

イノベーションが足りないコンビニ業態、セブン−イレブン新社長が過去と決別

セブン−イレブン・ジャパンの不調を多くのメディアが報じている。アナリストも決算会見で厳しい意見を発している。その実態を他チェーンと比較しながら、再成長に向けてセブン−イレブンは何をしたいのか、トップ交代を受けて新社長が語った内容とファミリーマート、ローソンの目指す方向について記しておきたい。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年6月号より転載)

店舗ベースでは否めない飽和感 求められる新たな取り組み

セブン−イレブンは東日本大震災の後の2010年代、年間1,000店舗以上を増店させていた(2012〜15年度)、また2012年8月より2017年9月まで62ヵ月連続で既存店売上の前年超えを達成させている。現在のような物価高騰の影響もない状態で、規模拡大を果たしてきた。

そこからコロナ禍において、セブンは果敢な動きを見せる一方で、世の中が本格的に日常を取り戻した2024年度(2025年2月期)、店舗の売上が低調に終わっている。ファミリーマート、ローソンと比較しても見劣りのする数字が並んでいるのだ。

2024年度の既存店売上前年比を見ると、セブン−イレブンは7勝5敗と負けが込んでいるのに対して、ファミマは全勝、ローソンも全勝と好調をキープしてきた。創業から他チェーンには負けない業績を築いてきたセブン−イレブンを考えると、現状の物足りなさは否めないだろう。

[図表1]国内コンビニ事業の営業数値(2020年2月期と2025年2月期の比較)

そこで、大手3チェーンの現在の姿をより正確に記すために、2020年2月期と2025年2月期の5年間の成長を比較してみた(図表1)。

チェーン全店の売上高を増減率で見るとファミマ、ローソン、セブンの順になる。一方で店舗数(エリアフランチャイジー含む)の増加ではセブンが他を圧倒している。

ファミマの店舗数減少について簡単に記しておきたい。これには事情がある。2016年9月にファミマが主導してサークルKサンクスと経営統合した。当時(同年8月末)の店舗数はファミマが11,945店舗あり、ここにサークルKサンクスの6,295店舗を加えて18,240店舗に達した。セブン−イレブンの19,044店舗に追い付くのにあと800店舗と肉薄した。

しかし、ファミマはいたずらにセブンの店舗数を追わなかった。サークルKサンクスに不採算店や低日販店が数多くあり、スクラップ&ビルドを優先し、店舗の再配置を推進した。数ではなく、質の追求を指針にしたのだ。その結果、店舗数を減らす一方で、全店平均日販を高めた経緯がある。

この5年間の成長を店舗ベースで見ていくと飽和感は否めない。もう一段の成長を見せるには新たな取り組みが求められる。セブン−イレブンが2013年にカフェ(コンビニコーヒー)導入、他社も追随して以降、イノベーションに乏しいといわれるコンビニ業態に、大手3チェーンはどのような風を吹かせるのか。

過去の成功体験を捨て去る覚悟 従来の延長線上に成長はない

セブン&アイ・ホールディングスは4月17日、セブン−イレブン・ジャパン(以下、セブン−イレブン)の代表取締役社長に阿久津知洋氏(現執行役員)が昇格する人事を発表した(永松文彦代表取締役社長は取締役会長に退く)。同日会見に臨んだ阿久津氏、永松氏はセブン−イレブンを再び成長軌道に乗せる道筋を示した。

阿久津氏はセブン−イレブンの歴史を振り返り、次のような思いを語った。1990年までは日本経済が伸長していた時代に、“開いててよかった”というキャッチフレーズを訴求して「タイムコンビニエンス」の利便性を提供してきた。

その後、“近くて便利”に言葉を変えて、家庭の食の負の解消を求めてミールソリューションに取り組んだ。「私たちが抱えている課題として成長戦略が見えづらいといった面があります。潜在マーケットをしっかりと顕在化させて、お客様ニーズのどこに変化があったのか、改めて問い直す必要があるのです」と阿久津氏は指摘する。

SIPストア(千葉県松戸市にある実験店舗のセブン−イレブン常盤平駅前店)

阿久津氏が挙げたのはコロナ禍の影響で人々の価値観や生活様式が変わったことへの対応である。“開いててよかった”や“近くて便利”に代わるような価値を提供できていない。そこで2024年2月、通称「SIPストア」(セブン−イレブン松戸常盤平駅前店)を千葉県松戸市にオープン、セブン−イレブンの未来を創造するテスト店と位置付けて、さまざまな実証実験に取り組んでいる。

例えば、ここでは店内で焼いた焼きたてのパンがあり、それを受けてチェーン本部は2025年度に焼成機を1万店以上に拡大すべく準備を進めている。また売上が大きなセブンカフェでは、紅茶を実証実験して、導入店舗の拡大を図っている。

加盟店の生産性向上が求められる中で、阿久津氏は省人化の取り組みも強化していくという。「実際に(フル)セルフレジ化を図ったり、ファストフードをセルフでお客様にお取りいただくセルフサービス化の試み、またセーフティガードシステムという従業員が安心して深夜に働けるような仕組みを取り入れています。こうした取り組みを継続して、成長戦略の他に事業継続という二つの意味合いで、セブン−イレブンは進化できるし、それが私たちに課せられた責務だと思っています」

省人化では、セブン−イレブンは今春から「次世代店舗システム」の導入を進める。永松氏はオペレーションの飛躍的改善効果を期待する。

「店舗従業員の働く時間を3分の2に減らそうと取り組んでいます。複数店を経営する加盟店が増えていますが、次世代店舗システムを稼働させると、コミュニケーションがIT化されるようになり、2店、3店を経営するオーナーさんが、他店とのやり取りを全てオンラインでできるようになります。お店を(実際に)回らなくても他店の状態を把握できる仕組みをつくっています」

チェーン本部側についても省力化を進めるとして、1人のOFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー=店舗経営相談員)が担当する7店舗前後について、タブレット端末を用いたオンラインミーティングを導入することで10店ほどに増やす仕組みも実験的に進めている。

セブン−イレブンの新しいトップには、常識を疑い、周囲の反対を押し切っても、イノベーションを起こしていくリーダーシップが求められる局面もあるかもしれない。セブン−イレブンは創業時からカリスマ経営者と呼ばれるトップのもとで発展を遂げてきた。

そのカリスマ経営者自身が“過去の成功体験を捨てよ”と繰り返し語ってきた。阿久津氏は次のように考える。「これまで私たちのトップが実践してきた政策は、その時代に適した政策であり、必要であったと評価できるものです。過去のリーダーから私自身も学びを得て今日があります。そういう意味では決して過去を否定するわけではありません。ただし、現状の課題を考えてみたときに、過去の成功体験がそのまま活用できる場面は多くはありません。今の時代に適した成長戦略も、事業継続のための加盟店支援も、過去とは異なる視点で考え続けることが必要です。過去の成功体験を捨て去る覚悟を持って政策を進めたい」

従来の延長線上に新たな成長はないと決めて臨んでいく。

少子高齢化や地方過疎化など社会課題に向き合い支援する

ファミリーマートは全国1万店以上に設置したデジタルサイネージの認知度向上と利用目的の拡大により広告メディア事業を拡大させている。リテールメディア領域の関連事業会社3社の営業利益も50億円程度に成長させた。

デジタルサービスを拡大する一方で、激化しているサイバー攻撃なども考慮に入れてセキュリティプラットフォームの強化にも取り組む。

店舗支援ではタブレット上で商品発注などをフォローする人型AIを7,000店舗に導入拡大した。「本部業務や個店コンサルへのAIの活用が一気に進みました。AIの活用はファミリーマートでは既に常識になっています」(ファミリーマート代表取締役社長の細見研介氏)

他にも、ストアスタッフの勤務管理を自動作成するファミマワークシステムを導入し、店舗人件費の抑制をサポートしている。

「中期経営計画(2022〜2024年度)では、チャレンジする方のコンビニであること、また再成長の軌道に乗せること、この二つを大きな目標の柱にしてきました。新しい事業分野やデジタル活用にチャレンジすることで、コロナの難しい時期を乗り切り、次のステージに加速度を持って突入することができたと手応えを感じています」(細見氏)。

ローソン代表取締役社長の竹増貞信氏は2030年度に向けて、中期経営方針「ローソングループChallenge2030」を発表した。国内コンビニについては、AIを活用した発注システムによる品揃えの強化や、デリバリーのさらなる推進、人手不足対策や従業員の働きやすさ向上に向けたオペレーション削減への抜本的改革など、あらゆる分野にテクノロジーを活用していく。

その結果、日販30%アップ、店舗オペレーション30%削減、オーナー1人あたり店利益2倍、本部利益2倍をチャレンジ指標に定めている。海外事業においても、現在の2倍となる店舗数と売上高を指標に掲げて、グループとして成長を目指していく。ローソンは少子高齢化や地方過疎化など、社会課題に向き合い、誰もが安心して便利に楽しく暮らせるマチづくりをグループ一体となって進めていくという。

チェーン本部は、加盟店の売上アップとコスト削減をベースに、店舗数の増加と日販の向上に努めていく。

ドン・キホーテ流「四方よし」のリテールメディアで広がるPPIHグループの新領域

ディスカウントストア大手のドン・キホーテ(PPIHグループ)は、ここ数年リテールメディアへの取組みを進めている。同社のリテールメディア事業を担う株式会社pHmedia(ペーハーメディア)代表取締役社長の奥田薫氏と、同取締役CDO兼マーケティング企画開発部部長、小林真美氏への取材内容をもとに、その戦略と狙いを解きほぐす。(月刊マーチャンダイジング2025年6月号より抜粋)

需要創造型のテストマーケティングを提供

全文は月刊マーチャンダイジング note版で!

リテールメディアとは、「小売業が持つ店舗・ECサイト・アプリなどの接点を広告媒体化し、広告主に販売するビジネス」を指す。米国ではウォルマートやアマゾンが本格的に参入し、小売の売上とは別に、広告収益を大きく伸ばす事例が注目されている。

一方、日本の小売企業でも、デジタル化やID-POSの普及を背景にリテールメディアを手掛け始める動きがあるが、取組み規模は業態によって様々だ。
ドン・キホーテの場合、棚で商品を展開するのはもちろんのこと、店内のサイネージやPOP、店外の懸垂幕やOOH、majicaアプリ、SNSなどを“メディア”として用い、商品販促にとどまらない施策を実施しているのが特徴だ。

ドン・キホーテのリテールメディア事業を担うpHmedia取締役CDOの小林真美氏はこう語る。

「メーカー様の広告を単に配信するだけではなく、出稿の結果どういうお客様の層にご購入頂いたのか、以前、何を購入した人が購入してくれたのかというデータ検証まで含めて、メーカー様にお返しする仕組みが大切だと考えています。それを更に発展させ、私たちは“テストマーケティング”という、商品を小規模店舗で試しに展開してデータを得るプランも提案しています。目指すのは『四方よし』の状態です。ここで四方というのは、小売側(ドンキ)、お客様、メーカー様の広域営業部、ブランド/マーケティング部を指します」

こうした考え方を、同社社長の奥田薫氏は「需要創造型のテストマーケティング」と表現する。

大手メーカーにとって、ドラッグストア(DgS)や総合スーパーと異なる新しい商品に出逢いに来ている客層を抱えるドン・キホーテで“最小限”の実売検証ができ、かつID-POSやアプリからの購入動向データを取得できるのは、ブランドやマーケティング担当にとって大きな魅力だ。

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店舗×オンライン×SNSを連動

ドン・キホーテが持つアセットは多岐にわたる。全国展開している店舗群、利用者数が多い専用アプリ「majicaアプリ」はもちろん、若年層を中心に盛り上がるSNS(とくにTikTokやInstagram)などの動画メディアにも強い。

ドン・キホーテの店頭を活用したリテールメディアの例。渋谷本店で1月から2月にかけて実施された、キットカットの展開では、同時期にmajicaアプリにも告知バナーを掲載した。

それらを広告枠として活用し、ターゲット層を絞ったキャンペーンやブランド認知拡大のプロモーションを展開している。

続きは月刊マーチャンダイジング note版で!

 

《取材協力》

(右)株式会社pHmedia 代表取締役社長
奥田 薫氏
(左)株式会社pHmedia 取締役CDO兼
マーケティング企画開発部 部長
株式会社カイバラボ Kaiba Media商品開発責任者兼務
小林 真美氏