小売業と商品マスタ、今・昔

正しいデータ活用を実現するうえで、商品マスタの整備は小売業における必須条件である。しかし現場では、長年蓄積された「秘伝のタレ」のような属人的運用や、手を入れれば何が飛び出すか分からない「パンドラの箱」と化した商品マスタに、容易に手をつけられない企業が少なくない。こうした状況を打破すべく、さまざまな企業が商品マスタの共通基盤や新たなソリューションの提供に乗り出している。いま、業界が直面する課題と、その解決に向けた最新の取り組みを整理する。
(月刊マーチャンダイジング2025年8月号より抜粋)

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商品マスタの歴史的変遷

JANコードとPOS、EOS

日本の小売業は、かつて零細小売店が多数を占めるため、商品はメーカーから一次卸、二次卸、三次卸など複数の卸売業者を経由して小売店に届く「多段階流通構造」が主流であった。商品情報管理は紙ベースの仕組みによる手書きの台帳に依存していた。

1970年代初頭、アメリカでは、POS機器メーカーと小売業界団体によりUPC(Universal Product Code)特別委員会を設置し、10桁のUPCと光学式読み取り印刷を含むPOSシステムの規格が決まり導入されていった。

しかしながら、個別商品への価格表示貼り付けを廃止し、棚表示のみで済ませることは、雇用削減につながるという労働組合と、価格の信頼性に不安を感じ、過去価格との比較が困難になることを懸念した消費者による反対が強く、効率化メリットの大きいPOSの導入は当初想定ほどには進まなかった。

当時から情報関連投資に積極的だったウォルマートでさえ、1986年末時点で566店舗にPOSを導入していたものの、1987年時点でも個別商品への値札の全面撤去は5店舗でのテスト段階にとどまっていた。

日本では1972年に財団法人流通システム開発センター(現在のGS1 Japan)が設立され、標準化に向けた動きが本格化した。1978年にはJAN(Japanese Article Number)コードが策定され、日本独自の商品識別標準が確立された。JANコードは13桁構成で、国コード(3桁)、メーカーコード(4桁または7桁)、商品コード(5桁または2桁)、チェックデジット(1桁)からなり、現在はGTIN-13として国際標準化されている。

このJANコードに対しては、労働組合や消費者からの抵抗はないに等しく、日本国内で急速に普及していった。JANコードの普及は、POSシステムでの自動読み取りによるレジ業務の高速化や、在庫管理の精度向上に大きく貢献した。

POSシステムの普及は商品マスタの重要性を大きく変化させた。バーコードを用いた販売データの自動収集によって、商品単品ごとの販売実績を把握できるようになったことで、商品マスタにはJANコードという業界標準の商品識別コードが不可欠となった。これにより商品マスタは大きく変革した。

まず、POSで販売するにはすべての商品にJANコード(または自社コード)が必要となるため、商品のシステム登録漏れが即座に店頭での販売停止につながるようになった。「商品はあるのに売れない」という事態を避けるため、商品マスタの登録業務は「あったらいい」レベルから「必須」のプロセスへと変わったのである。

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POSシステムの導入は、価格管理にも大きな変化をもたらした。従来は店舗ごとに価格設定を行っていた場合も多かったが、POSの導入により本部による価格の一元管理が進んだ。また、期間限定の特売価格や会員価格、割引率などの細かな設定も商品マスタに求められるようになり、マスタの複雑さが増していった。

1980年代はアメリカのドラッグストア(DgS)を参考に、日本でDgS業態が誕生した時期でもある。個人経営の薬店とチェーンDgSの成長に大きな差がついたのは再販制度撤廃と同時に、POSを始まりとしたシステム化の要素も大きい。

発注業務においては、店長や発注担当者が直接メーカーや卸の営業担当者と対面し、紙の発注書や電話でのやりとりが中心であった。FAXによる定型フォーマットでの発注も行われていたが、その場合でも商品情報は手作業で記入する必要があり、ミスが発生しやすい環境であった。

この時代の商品マスタは、現在のようなデータベースではなく、商品または仕入れ先ごとにカードを作成し、棚に整理して在庫や価格、仕入れ先、入出庫履歴などの情報を現場で一元管理する方式であった。

1970年代中ごろから、大企業を中心にEOS(Electronic Ordering System)の導入が始まった。当初のシステムは極めて制約が多く、メインフレームコンピューターへの依存、低速通信、高額な専用回線の使用など、技術的・経済的ハードルは非常に高かった。しかし、電話や紙による発注処理から解放される利益の大きさを認識したチェーンストアが、先駆的な導入を進めていった。

1978年にはセブン−イレブン・ジャパンが初の発注専用の端末機を導入した。同社は第二世代情報システムで「単品管理」を実現し、おにぎり、弁当、飲料などの個別商品追跡を可能にした。

この「単品管理」手法は、トヨタの在庫を最小限に抑える管理技術を小売業に応用した画期的な取り組みで、1日3〜4回の配送を可能にする精密な在庫管理を実現した。

このころからセブン−イレブンを手本として、各小売業者にも「単品管理」の概念が浸透し始め、商品の属性情報(カテゴリー、ブランド、容量、製造元など)による分析ニーズが高まった。これに伴い、商品マスタに登録すべき情報項目は飛躍的に増加していった。

EDI、VAN時代の幕開け

初期のEOSは、極めて限定的な機能しか持たなかった。

 

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《執筆》

店舗のICT活用研究所 代表
郡司 昇氏

ベルク+MUSE、店頭の人手不足をロボットでカバー

142店舗(2025年4月末現在)を展開する食品スーパーマーケットチェーンのベルクが、小売店舗向けロボットを開発しているスタートアップのMUSEと、自律移動ロボットの実証開発を進めている。導入しているロボットはMUSEが独自に開発中のストアロボット「Armo One(アルモワン)」。重さ10kg、直径は約32cmと家庭用ロボット掃除機程度の小型ながら、100kgを牽引できる移動ロボットで、現在は主に飲料の品出しと、店内での販促に用いられている。導入店舗は2025年5月現在で埼玉県および群馬県の10店舗。まずは品出し工数3割削減を目標としつつ、今後はさらに棚管理などにも用途を広げていく予定だ。ベルクの取締役システム改革部長の原田裕幸氏と、MUSE代表取締役社長兼CEOの笠置泰孝氏に導入経緯や現状、今後について話を伺った。(ライター 森山 和道)(月刊マーチャンダイジング2025年8月号より転載)

ロボットがお菓子を載せて販促

「ベルク」でのMUSE「Armo One」の活用は、埼玉県の和光西大和店および北坂戸店においては2024年6月から始まっている。今回、ゴールデンウイークににぎわう店舗を見学させてもらったのは和光西大和店だ。

エスカレーターを上がって2階にある店内を訪問すると、ロボットはベルクのマスコットキャラクター「ベルクック」の大きな看板が付いた販売促進用の棚を搬送しながら売場内を巡回していた。

マスコットキャラ「ベルクック」の看板付きでお菓子を販促中のロボット「Armo One」

カートの下に収まっている円形の物体が移動ロボット本体である。販促用の場合も搬送用途等の場合も、セットされている台車の重心がロボット本体の重心と重なるよう設計されている。色は黒、または白と黒だ。

ロボットは「ベルク」のオリジナルテーマソング「Just for Your Life」を流して、「こんにちはー、ベルクックでーす!」と呼び掛けしながら食品売場内を一定のルートで巡回する。「お子さんのなかにはずっと後ろをついていく子もいる」(MUSE 笠置泰孝氏)そうだ。

搬送業務では主に飲料の品出し補助に使われている
販促用途では一定のルートで売場を巡回

販促時の移動速度はゆっくりしている。人が棚を見ながら買い回りしているときの速度くらいだ。低速でないと販促している菓子類をお客が取ってくれないのがその理由。ちなみにスタッフからは「もっと速くしてほしい」という声もあるそうだが、いまは安全を重視し、低速ベースでも運用が成立することを確認しようとしている。

のんびり動くロボットの脇を買物カートを押すお客が通り過ぎていく。意外と店舗に溶け込んでいて、パッと見だと気づかず通り過ぎてしまうかもしれない。実際、店舗内で買物をしている人の多くはチラッと目を向け、必要なら避ける程度で、あまり気にしていないようだった。

移動ロボット自体が社会に馴染みつつあることを感じる。試験導入を含めるとすでに2年半運用しているが「このロボットはなんだ?」といった意見がきたことは一度もないそうだ。

品出し業務をロボットが実施

ロボット「Armo One」本体は家庭用ロボット掃除機くらいの大きさ

販促作業時のロボットは、あらかじめ定められた巡回ルートを走る。一方、搬送作業のときは設定されたA地点からB地点へと動くことになる。搬送時オペレーションでは店頭の売場とバックヤードに一人ずつ分担して行う場合もあれば、一人で一度に2台を動かすこともある。

ベルクでは以前から店舗従業員用モバイル機器としてスマートフォンを使っている。その端末内にロボット用管理アプリをインストールした。管理アプリは現在もまだ開発中だが、ロボットの各種ステイタスやバッテリー状態などもわかる。

台車に取り付けられた状態の「Armo One」。台車の重心がロボットの重心と同じなので安定している

なおロボットのバッテリーはロボット後面に搭載されており、簡単に取り外しができる。充電がなくなってもバッテリーを交換すればいい。

管理アプリには「タスク管理」という項目があり、一つひとつの定型業務はこのタスクごとに管理される。例えばタスクに飲料の種類などを登録しておく。

アプリからは「飲料売場に商品を補充したい」とリクエストを出すこともできるので、バックヤードでは手が空いている時間に商品を積んで、準備ができたら、あとは「スタート」をアプリから押すだけで、クラウド経由でロボットに指示が飛び、売場の設定された場所までロボットが届けにいくという使い方ができる。これが売場とバックヤードで分担して2人で作業を行う場合だ。

起動したロボットは事前に取得している地図と初期位置を合わせると、スイングドアを自分で押し開けて出ていく。

なお店内には位置情報を示すマーカーが付けられている。バックヤードから店頭に出ると、ロボットの移動速度は遅くなるよう設定されている。販促時と同様、ロボットは音楽を鳴らし「いらっしゃいませ。ロボットが走行中です」と呼び掛けながら走行し、設定された売場まで向かう。

ロボットは500ミリリットル×24本の飲料を7、8ケースくらい載せても問題なく走行できるが、「実際には6ケースくらいが多い」という。

現状では夕方以降の時間帯に一斉に品出しする際に使われることが多いため、ロボットに積めるだけ荷物を積み、人も手押し台車を押しながら一緒に店頭に出て作業するといった状況が多いそうだ。こちらが一人でロボットを使う場合の使い方である。

なお、ロボット自体はA地点からB地点への移動だけでなく、中間地点を経由するよう設定することも可能だが、実際には「飲料なら飲料だけに集中する使い方が多い」そうだ。このあたりは店舗ごとのオペレーションで違ってくる。

ちなみに台車は、ロボットが取り付けられている状態でも普通に押せ、重さの負荷はあまり感じない。これによって売場にロボットが到着後も「ちょっと動かす」といったことは問題なくできる。

ただしロボット自体のタイヤは横には動かないので、前輪が左右に振れない状態になる。ゆえに切り返しのような動きは難しい。

ロボットをバックヤードに戻すときは「ホームボタン」を押すだけで、店舗内のどこからでもバックヤードに戻る。いったんバックヤードに戻して、再度荷物を積み込みしてもらって、また店頭に持ってこさせるといった使い方もできる。

和光西大和店では現在Armo Oneを2台を活用している。ほかの店舗でも「品出しなら2台あれば問題ない」と概算しているという。

MUSEでは「店舗では品出しの最大30%の工数が削減でき、さらにマルチユースで活用することによって約5倍のROIを実現することが可能となる」としている。「マルチユース」とは要するに棚管理とクラウドサービスだが、詳細は後述する。

利用はサブスクプラン形式となるが、具体的な費用は現時点では非公開とされている。

出会いは「Belc Digital Lab」

人手が減少していくなか、どの業態でも搬送は直接の価値を生まない業務であり、自動化が期待されている。搬送ロボットは各社から様々なタイプが出ている。なぜベルクはスタートアップであるMUSEのロボット導入に至ったのだろうか。

ベルクの原田裕幸氏は「4年くらい前から様々なロボットを検討した。だが、しっくりくるものがなかった」と振り返る。

コストや投資対効果の問題だけではない。AGV(無人搬送車)やAMR(自律走行搬送ロボット)には既存の製品も多い。だが、もともと工場や倉庫での活用を想定して開発されている。そのため、大きさや機能などのスペックが、そもそも小売業界の店舗には向いていないと感じていたという。

「スーパーマーケットは売場が狭いし、内輪差をクリアできない。お客様も常にいらっしゃる。状況は毎日異なる。そのなかでロボットをどう活用していけばいいのかと考えていた」(ベルク原田氏)

ベルクは2022年8月から、異業種・異分野の企業団体と連携してオープンイノベーションを目指す「BelcDigital Lab」という取組みを行っている。ベルクの店舗自体を一種の「実験場」とし、DXに向けた実証実験を進める枠組みだ。連携先はWEBから公募しており、そこにMUSEが応募してきたのが最初の出会いだった。

労働力不足を背景として小売店舗向けロボット開発・販売を目指しているMUSEは、2022年4月に笠置氏らが創業したスタートアップ企業だ。笠置氏は前職でも自律移動ロボットの開発と販売を担っていた。

「Armo」の実機デモの初舞台が全米小売業協会がニューヨークで開催した「NRF2024」だったことからもわかるように、MUSEは、人件費が日本の約2.5倍となっている米国をはじめとした海外市場での展開を最初から想定して事業を進めている。

現在の「Armo」の大きさと100kg可搬の能力について原田氏は「最高だ」と絶賛する。「唯一無二なんですよ。こんなに小型でパワーがあって、ハンドリングが良くて、コスト的にもハードルが高くないロボットは、我々が知る限りほかにはないと思う」。

最初に見たときには「駆動輪が空回りするのではないか」と懸念したそうだ。「ところが、静かで音も立てずに荷物を引いていく。これはすごいなと思いました」。

もちろん、もっと大重量を運べるロボットの活用も最初は考えた。

「我々の会社で一番大きいマテハン(運搬道具)は300kgです。最初はそれを運べないかとも考えました。でもそうすると当然大きくなるし、価格も上がる。そこは違うなと。やはり、日中時間帯に店頭に出しても邪魔にならないことが重要です。通路幅も狭いし複雑なので、いまの形と大きさが店舗にマッチしていると思います」

MUSEでも2年間で6回は試作を繰り返し、製品版へとたどり着いた。

午前中には販促 夕方以降は搬送補助

前述のとおり、現在、ベルクでは10店舗に導入して活用しようとしている。運用面では重量物の品出し搬送補助のほか、販促に活用している。現在の稼働時間は「1日当り、3〜4時間程度」とのこと。

「スーパーマーケットの仕事は、どうしても午前中に集中します。バックヤードのスペースの問題などもありますので、作業が集中しているなかでロボットを動かすのは現状では簡単ではありません。そこで、お客様が少ない夕方から夜間にかけて集中的に品出しを行うときに、パートさんたちがロボットをパートナーとしてうまく活用することで、1.5倍、できれば2倍くらいの効率で仕事ができるような使い方ができないか。そう考えて運用しているところです」(ベルク 原田氏)

バックヤードを見せてもらうと、1階のトラックバースから荷物が上がってきて商品を出していくラインの流れは決まっていて、そこに新たにロボットを追加して動かすことはたしかに難しそうだった。

そこで午前中はロボットが売場を巡回して、お菓子類などの商品の販促を行っている。つまり生産性を高める役割と販促の2つの使い方で活用されている。

ロボットに積んだお菓子類も「1日10個くらいは売れる」そうだ。ただし「投資対効果だけを考えてやっているわけではない」という。「いまはまだロボット技術活用の可能性をどんどん探っている段階です。『このロボットで、どこまで何ができるのか』ということです。コストばかりにとらわれていると何も生まれませんから」(ベルク 原田氏)

運用結果のフィードバックはMUSEにも随時伝えられて反映されている。

「週に1、2回くらいは必ず我々のカスタマーサクセスのチームが店舗を訪問させて頂いています。お店のスタッフに実際にどれだけ積極的に使って頂けるのかというのはすごく重要な点ですので、非常に密にコミュニケーションをとらせて頂いています。並行して、定期的に面談もやりながら課題へのフィードバックを行い、我々からも新しい機能を提案したりと、随時、コミュニケーションしています」(MUSE 笠置氏)

現場定着には時間がかかるがチャンスでもある

実際のユーザーであるパート従業員からは、最初はやはり「否定的とまではいかないけれど、『ちょっと使いづらい』とか、『もっとこうしてほしい』という意見が多かった」そうだ。「自分が運んだ方が早い」という人も多かった。

それらに対して現場で直接メリットや効率の上がる使い方を説明し、アンケートを取りながら2度、3度と改良を進めていくことで「時間はかかってますが、満足度がぐわーっと上がっていった」という。「この店は最初に導入した店ですが、ここのパートさん、アルバイトさんは、もう普通に使ってくれています」(ベルク 原田氏)

もちろん現場向けのマニュアルやトラブルシューティング集もつくった。MUSEがつくったものをベルクとしての使い方に落とし込みながら新たにつくり直していった。

MUSEの笠置氏は「使いたがらない人がいるのは逆にチャンスでもある」と考えたと語る。

「心理的に負担を感じることには何か理由があるはずです。なぜ使いたがらないのか。『めんどくさい』と考えている背景には必ず何か要因があるはず。運用上の問題なのか。機器操作の問題なのか。インターフェースの問題なのか。そこを我々のカスタマー部隊とベルクさんの本部の方々で詳細に聞き取りをして、タイムリーに反映させていきました。使いたがらない理由を一つひとつ解きほぐして、製品を良くするための材料に変えていくことが重要だと考えています」

改良点はロボットの止まり方やスタートの仕方、スピード感、カーブの曲がり方、ユニットの接続方法、アプリのインターフェースなど多岐にわたる。各種の改良は常に続けており「どこが導入期だったのかわからないくらい、常に改善して変えているくらい」だという。

生産性向上≒従業員の歩数を減らす

現在の主な用途は前述のとおり飲料の補充だ。飲料は1ケース当り8kgから10kgと重い。それをひとつの台車に載せて売場に持っていき、補充を行い、また帰ってくる。これが通常のやり方だが、その途中工程をロボットに担わせるわけだ。補充と積み込みは人が行うしかないが、運搬ならロボットでもできる。バックヤードのA点で積み込んだ荷物を、店頭のB点で受け取って補充することで、作業を効率化する。

「Armo」にはオプションユニットを使うことで牽引する機能もあるので、将来的にはさらにカートの回収などにも応用できないかと考えているという。「ロボットを行き来させることで、人が動くことを極力減らす」ことを目指している。

歩数の減少はどの業態でも効率化の基本である。ベルクの原田氏も「人が動く仕事をロボットに変換していきたい。『人が動かない』というのが僕らの仕事の原点だと思っています」と語る。

「スーパーマーケットの仕事は発注や補充、製造、レジなど、たくさんあります。『業務で一番多いのは何か』と聞くと、みんな『補充』と言うんです。でも、我々は『人が動くこと』だと考えています。『歩くこと』です。歩行をとにかくなくす。それによって違った生産性やビジネスモデルができるんじゃないかと思って、ロボットの活用を考えています」(ベルク 原田氏)

クルべやベルクの一部店舗がローラーコンベアを使ったバックヤードから売場への品出しや、「座りレジ」を導入しているのも同じ考え方を背景にしている。「物が動く。人は動かない。それが生産性向上につながる。本当に単純なんです」(ベルク 原田氏)。

現在の食品スーパーマーケットのオペレーションが確立されたのは1990年代ごろ。そこからの脱却を考えているという。

欲張らずに進めていくことが重要

これまで両者は約3年間、互いに擦り合わせを行いながら取組みを進めてきた。では今後はどのようなロードマップを描いているのか。

「将来は全店で活用できるような環境をつくっていきたいですが、まだそこまで見ているわけではありません。まずは従業員の方々が手軽に、ストレスなくパートナーとして使ってもらえる環境・フィールドをつくることが重要です。成功事例をどれだけつくっていけるかですね」(ベルク 原田氏)

さらに今後は棚割や売価のチェックなどへと活用を進めていく予定だ。カメラその他のユニットを搭載したロボットを走行させることで売場データを収集。それをMUSEのクラウドサービス「Eureka Platform」に蓄積し、小売業者やメーカーがリアルタイムで、商品棚の画像や欠品、棚割の乖離などの解析結果を確認できるようにするというものだ。店舗運営の効率化や最適な棚割の作成を支援することが目的である。

ただ、この用途にはこれまでにも多くのベンダーや店舗が取り組んできた。ベルクとMUSEは、どこに勝ち目を見いだすのだろうか。

MUSEの笠置氏も「多くのメーカーが取り組んでいることは創業当初から認識しています」と語る。難しさは想定しつつも「一定のニーズはある。軌道に乗るかどうかについては採算性が大きなボトルネックになっていますので、我々はマルチユースのコンセプトや低コストでうまく採算に乗せていきたいと思っています。ひとつのロボットでできることをどんどん増やしていけば、ROI(投資収益率)も自然と高まっていくので、我々の強みを生かせるようになります」。

もうひとつは「欲張りすぎないこと」が重要だと語る。「棚のデータが取れるとなると『あれもしたい、これもしたい』といろいろ欲が出てきます。ですが、どこが採算ラインなのか、業務改善効果が見込めるデータ取得のレベル感、最低ラインを見極めることが重要です。国内でも多くの企業が取り組んできましたが、最初からフルスペックでいこうとして結果的に非常に高コストになって導入できなかった。そこが一番の課題なので、それをいかに回避するかが重要です」。

つまりステップバイステップで、欲張らずに進めていくことが重要だというわけだ。

「ないと明日から成り立たない」ような状況を目指す

ベルクの原田氏は「まだまだ成功事例が足りない」と語る。「まだまだ解決しないといけない問題がたくさんあります。全店に広げたくてウズウズしているけれど、問題点を解消してからでないとほこりをかぶるだけになってしまう。だからいまはぐっとこらえて我慢しています」。

MUSEの笠置氏も同意する。

「現場スタッフの方々の意見は本当にすごく重要です。いまは我々がサポートしながら使って頂ける状況をつくり出しているところもあります。本当に広がっていく状態というのは、スタッフの方々からどんどんと、いろいろな使い方も考えながら積極的にやってもらって、『これがないと明日から業務が成り立たない』くらいの状況にならないといけないと思っています。それが店舗での成功事例です。そういう状況にいかに我々が持っていけるか。そうなれば我々がサポートしなくても自然と広がっていくと思います」

いわゆるユーザーイノベーションが生まれるようになって、はじめて成功事例と言えるというわけだ。

品出し業務に使う場合は、おのずと郊外型の大規模店舗の方が効果自体は出しやすい。だが汎用性を理解できる担当者がいる店舗であれば、小型の小売店でも効果を出せるという。

なお数字としては「まだ出せる段階にない」そうだが、ロボットが搬送を担うことで補充業務に人が専念できるようになると、品出し全体の作業量を3割削減できると概算している。品出しは業務全体の4割を占めると言われているので、その4割のうち3割を削減できれば、おおよそ1割あまりの人件費を削減できると考えられる。「そうなると店舗側にも喜ばれるようになるはずだ」という。

MUSEという社名はギリシャ神話の女神に由来している。創造性にインスピレーションを与える女神だ。笠置氏の「人にインスピレーションを与えるロボットをつくりたい」という思いを託した名前である。笠置氏はこう語る。

「人とロボットは今後ますます距離が近くなる。ロボットは人間をもっと幸せにする側面があるはずです。人はロボットを見ながら今後自分はどうやって生きていくべきか、仕事をすべきか考えるようになる。ロボットは人の動きや考え方をもっとよく見るようになる。そしてロボットは人をもっと成長させていけるのではないか。そういう方向性が今後のロボットには求められるようになっていくと思う」

そして小売店舗は、その考え方を具現化できる場なのではないかと考えたという。

「人がもっとハッピーになる、クリエイティブになるような店舗から人が完全にいなくなることはない。その人たちが働くうえで、人間ではなくてもできるようなところはロボットが巻き取って、従業員さんがもっと自分たちにしかできないことにフォーカスできるような環境をつくっていく。それが今後のロボットに求められていくことなのではないかと思っています」(MUSE 笠置氏)

@cosme STORE事業で売上500億円突破目指すアイスタイル

アイスタイルは、美容のクチコミサイト@cosmeから事業をスタートさせ、マーケティング支援、リテール、海外事業と事業の幅を広げ、2024年6月期の売上高は561億円(前年比31%増)、2025年6月期は売上高660億円(同17.7%増)を予想している。同社の売上のうち、リテール事業は75.1%を占める(2024年6月期)。アイスタイル代表取締役社長COOで、@cosme STOREを立ち上げた遠藤宗氏にこれからの化粧品販売について聞いた。
(聞き手/月刊MD編集主幹 野間口 司郎)(月刊マーチャンダイジング2025年7月号より抜粋)

滞留時間を長くして買上点数を上げる店づくり

─今回はアイスタイルのリテール事業の戦略を伺うとともに、御社の店づくりや売り方、遠藤社長からドラッグストア(DgS)の化粧品売場がどのように見えているかなどを伺い、DgSの化粧品売場の参考にさせて頂きたいと考えています。

[図表1]アイスタイルの事業セグメント構造

遠藤 店舗で化粧品を販売する方法は、@cosme STOREや@cosme TOKYOのような店があってもいいし、DgSのような便利に使える店があってもいいと思います。

私たちは、あえて「非効率」な売場レイアウトにすることで、滞留時間を長くして買上点数を上げるお店にしています。決して高額な商品を売ろうとしているわけではありませんが、圧倒的な客数を呼べるようにマーチャンダイジング(MD=品揃え)を深く掘り込んで人も配置しています。

DgSの化粧品売場は、私たちの店づくりとは真逆の方向性だと思います。セルフで効率的に圧倒的に探しやすい売場が基本ではないでしょうか。

目的の商品がどこにあるかがわかりやすく、関連性のある商品の売場もすぐわかる。商品特徴もPOPやサインでわかりやすい。当然実行されていると思いますが、ぱっと見て、売場、特徴が「わかりやすい売場」を充実させるのがいいのではないかと思います。

─DgSは比較的商圏が狭い(商圏人口が少ない)ということもあり、セルフ販売に加え、顧客台帳を整備してカウンセリング販売に注力している企業も多いと思います。

遠藤 全部の店をその販売スタイルにすると儲からなくなるので、そうする店としない店を立地条件や商圏規模で明確に選別する必要があると思います。また、多くのDgSはPOSデータの分析などで、そのように選別しているのではないでしょうか。

─店舗視察などすると、対面カウンターがありカウンセリングに人手をかける態勢になっているのに、人が配置されていない化粧品売場も多くみられます。

遠藤 そもそも接客することとカウンターを設置することは同義ではありません。私たちの店では対面カウンターはほぼつくらず、側面接客がメインです。椅子と鏡をどこかの壁面に置くだけで立派な接客スペースになります。DgSは気軽に買えるというのが魅力なので、気楽に買える場所としての接客のあり方、そのためのハードのあり方を考えるといいのではないでしょうか。

DgSの売場を見ていると、メーカー、ブランド単位で単純に区切られているという印象を受けます。私たちは什器を設計する際は、商品の取りやすさや出会い方などを徹底的に考えています。DgSは規模が大きく、防犯も考慮しなくてはいけないので大変だとは思いますが、効率的に買物できる什器はどうあるべきかを考えて設計するのがいいと思います。

─効率重視ではなく、楽しさ重視の「面白い」店づくりをしたい場合、「面白い」とはどういう売場でしょう。

遠藤 様々な要素が複雑に絡み合うと思います。売場レイアウト、動線設計、編集売場の配置、そもそもどういうブランドを品揃えするかなど、それぞれの要素を組み合わせて、自分が探している商品にいかに出会うか、新しい発見をするか、その「わくわく感」を引き出せるのが面白い売場だと思います。

卸との良好なネットワーク構築はスピーディな商品改廃には必須

─韓国コスメに代表されるように、最近の流行は移り変わりが早く、店舗は人気商品の導入、改廃が追いつかない、その結果、欲しいものが欲しいときになく、チャンスロスが発生することもあります。これにはどのように対応すべきでしょうか。

遠藤 トレンドが変われば、単純にそれに対応しなければいけないでしょう。韓国コスメはブームではなく定番のカテゴリーのひとつとなっていますが、プレーヤーは目まぐるしく変わります。昨年大流行していたものが今年は売れないということは普通にあります。流行の変化は現場が努力し、わかっているので、高頻度で入れ替えることは、非常に大事です。

DgSが韓国コスメを扱っているのなら、本社のMDの感覚、センスを磨くためにどう情報をインプットするかは大事です。放っておくと市場では終わっている商品が棚を占拠することになるので、トレンドに合わせた商品の改廃はキモになります。

感度高くアンテナを張って、取引先の皆さんとも面白い商品があれば、すぐに仕入れられる態勢を構築しておく。いま取引している卸、代理店が人気ブランドを扱っているとは限らないので、複数の取引先のネットワークをつくるのも重要です。はやっているからといって自社でメーカーと直接取引することほど怖いことはありません。人気商品がすぐに不良在庫化する危険があります。

卸との関係性を強くすることは大事です。最近、あらたさんが韓国コスメに力を入れているので、私たちもよい関係を築かせてもらって、商品を紹介して頂いています。

短くなる商品サイクル データ分析でロングセラー化を支援

─先日、御社のデータを活用した新規事業の説明会で、制度品メーカーの方が、新商品を開発し続けて、新規客を獲得するのは大変なコストだと語っておられました。目まぐるしいトレンドの変化に対応しようとすると莫大なコストがかかることについてはどう思われますか。

遠藤 新商品開発はどのメーカーにとっても苦しいものではないでしょうか。一番いいのは、開発した商品の人気が長持ちして売れ続けることです。

しかし、いまの時代は頑張って新商品を開発して売上をつくると、短期間で売上が鋭角的に落ちていく。この繰り返しです。そして、そのサイクルが早くなっています。鋭角的に落ちていくのを防いで、緩やかに落ちていくのなら、つまり、ヒット商品がある程度の期間そのままであり続ければ、それほど早く新商品を開発しなくていいはずです。

そのために、私たちは@cosmeはじめ、アイスタイルに蓄積された膨大なデータを分析して、どのようなお客様にどのような情報を伝えていけばよいのかを解明しようとしています(編集部注:アイスタイルではデータに基づいたソリューション提供を事業化するため、アイスタイルデータコンサルティング株式会社/ISDCを2025年2月に立ち上げた)。

新商品を発売して投資回収が終わらないうちに、また新商品の開発、発売を余儀なくされる。この悪循環が続かないように、データ分析に基づいて自分たちの商品の良さをわかってくれる人たちとコミュニケーションしてロングセラー商品を育成する必要があると思います。ISDCではそれをお手伝いしています。

─韓国コスメのように小回りの利く企業と制度品メーカーでは、投資の負荷が違うように思いますがいかがでしょうか。

遠藤 ヒット商品がどれだけ長持ちするかは、トレンドに合わせる能力と商品力の掛け算だと思います。日本の制度品メーカーのヒット商品は長持ちする商品が多くあります。

一方で、プロダクトライフサイクルが短くなっていることは確かなので各メーカー、開発から発売までをいかにクイックにできるか、そこには向き合っているし、必要だと思います。

 

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《取材協力》

株式会社アイスタイル
代表取締役社長 COO
遠藤 宗氏

中期計画「FUJI2030」策定、2030年にグループ売上5,000億円を目指す富士薬品

富士薬品は配置薬事業から端を発し、医療用を含む医薬品の開発・製造からドラッグストア(DgS)まで「複合型医薬品企業」という独自の立ち位置で事業を展開している。2030年には創業100周年を迎え、この節目の年までにグループ売上高5,000億円、DgS事業4,500億円を目指す。目標に向けての事業展開を、中核であるドラッグストア事業部商品統括部の伊藤秀樹氏に聞いた。
(聞き手/月刊MD代表 日野 眞克)(月刊マーチャンダイジング2025年7月号より抜粋)

自宅を訪問する配置薬営業員のラストワンマイルの営業力を活用

─御社はDgS、配置薬、ECの3拠点連携の事業推進をしています。この戦略について教えてください。

[図表1]DgS、配置薬、ECの3拠点をつないだオムニチャネル戦略

伊藤 おっしゃったように3つの拠点を結んだオムニチャネル化を進めています。とくに、配置薬事業は、営業員がお客様のご自宅に入って薬箱の補充などを行うというラストワンマイルのサービスを実践しており、これは他社にはまねのできない独自性だと思います。

このことにより、例えば、ペットフードのサンプリングを行う場合、飼育しているペットの種類、おおよその年齢など、購買データなどでは分からないことまで把握できるので、非常に精度の高いパーソナライズされた販促が可能になります。

配置薬の営業員は全国で約1,500人、契約者は全国に250万軒、うち一般の世帯は約190万世帯です。そのうちセイムスの会員登録をされている会員は60万人以上です。

これだけの数のお客様とフェーストゥフェースの関係ができているので、クーポン発行やサンプル配布などでは高い効果を挙げ始めており、メーカー様の相談や依頼も多数受けるようになりました。

また、お宅を訪問した際に整腸剤をご利用のお客様がいれば、関連する健康食品の案内をしてクーポンをお渡しして、興味があれば近くのセイムスをご利用くださいとお奨めする、このような店舗送客も行っています。

富士薬品の配置事業とセイムスが結びつかない人もいます。配置薬で培ったお客様との信頼関係は厚いので、案内されると健康食品や生活必需品をセイムスでご購入頂けるようになるケースは多いです。

セイムスご利用のお客様にも、家に置くだけで使った分だけ料金が発生する利便性、災害時には無償で医薬品を提供するといった配置薬のメリットをお伝えしてご利用を促進する活動も行っています。このような配置薬とセイムスの相互送客は積極的に行っています。

─調剤事業と配置薬事業、DgSの連携に関してはいかがでしょう。

伊藤 最近始めたサービスですが、配置薬の利用者様は高齢の方が多く、高血圧や高血糖値など慢性疾患を抱え通院している方もいらっしゃいます。

そこで、配置薬の営業員が処方せんをお預かりしてセイムスの調剤薬局で薬を受け取りお客様にお届けする。服薬指導はオンラインで受けて頂く、オンラインの服薬指導の設定や機器の操作も営業員がお手伝いする。このようなサービスをエリア限定で試験的に始めており非常に好評です。ゆくゆくは提供可能な全エリアに拡大する予定です。

配置薬の営業員とお客様の間で信頼関係を築けているからこそ、こうしたサービスの提供が可能になります。将来的にはこうした関係の上に立ち、生活全般の相談に乗れるライフコンシェルジュのような事業も可能になると思っています。

調剤薬局併設率70%が目標 調剤と物販の壁を越えサービス提供

─調剤事業は今後どの程度強化されるでしょう。

伊藤 2030年までに調剤薬局の併設率70%を目指します。この数値は業界の中でもトップレベルだと思います。現在、約40%で今期(2026年3月期)中に47%に達する見込みです。

[図表2]富士薬品連結決算ハイライト

調剤事業でやろうとしているのは、物販(DgS)と調剤の融合です。具体的には薬剤師は調剤業務の手の空いているときは、物販のフロアで医薬品や健康食品の接客もしますし、品出しの手伝いもします。物販の従業員も調剤業務以外の薬局の作業をお手伝いします。こうした連携を意識的にして、調剤と接客の壁がなるべくできないように意図しています。

お客様からすれば、セイムスの中に物販も調剤薬局もあり、薬剤師に相談したいこともあるでしょうし、薬剤師が接客に関われば、より専門的なアドバイスができてお客様の満足度も物販の売上も上がります。

第一三共ヘルスケアから目の充血をとって白目がさらに白くなる目薬「マイティアルミファイ」(要指導医薬品)が発売されていますが、これはアイメイク、ビューティケア要素の強い医薬品です。こうした商品を化粧品の美容部員が声掛けして、薬剤師が説明して販売する。こうした連携をすれば、顧客満足度、売上双方が向上します。こうした連携を模索しています。

当社の売上高はグループで3,860億円(2024年3月期)です。DgSのトップグループが2兆円、1兆円という状況の中、規模で勝負していくことは難しいです。医薬品の開発・製造、販売、DgS、配置薬、調剤薬局など様々な事業を持っている複合型医薬品企業の強みを最大限生かすためには事業間の連携、お客様の満足という視点で、それぞれの事業が縦割りではなく一致団結することだと思っています。

1年間で1,000店舗以上にデジタルサイネージを一気に導入

─以前取材させて頂きましたが(2024年6月号掲載記事参照)デジタル事業も積極的に推進されています。

伊藤 まず、大きな役割を果たすのがセイムスアプリです。現在230万ダウンロード、前年比130%程度でここ数年推移しています。アプリを通じた各種サービスはご好評を頂いております。

このアプリの中に「ARUTANA」というシステムを導入してアプリ内に広告枠を設けています。ポップアップ、バナー、動画などの広告が掲載可能です。広告を見るだけでなく割引、ポイント加算、プレゼントなどの付いたお得なキャンペーン案内や新製品情報も入手できます。

リテールメディアの中で、最も規模が大きいと思われるのがデジタルサイネージです。この1年間で約1,000店舗に導入しました。1店舗当り平均6台を設置しています。設置場所は医薬品、化粧品、食品、日用雑貨、オーラルケアなどの売場です。紙の販促物は情報量が限られていますが、動画ではそれが格段に改善されます。また、販促物を付けたり、外したりする作業も省略です。例えば、毎月22日はフジちゃん(富士薬品キャラクター)の日でポイントが22倍になります。この日のために案内ポスターを貼ったり、はがしたりするのは大変な作業です。デジタルサイネージならモニターに映すだけなので、1,000店以上で作業効率が図れ、視認性も上がります。

店内のサイネージで、自社制作の動画を流しブランディングを図る(セイムス神田小川町店)

─オーラルケア売場にもサイネージを付ける理由は何でしょう。

伊藤 高齢者になるとオーラルの悩みは深くなり、口内を健康に保つための商品は単価の高い高機能な商品となります。

 

続きは月刊マーチャンダイジング note版で!

 

《取材協力》

富士薬品
ドラッグストア事業本部商品統括部 執行役員 統括部長
伊藤 秀樹氏

カインズ つくば店 ~ホームセンターに学ぶ商品の見せ方、伝え方~

29都道府県下に259店舗を展開するホームセンターチェーン、カインズが、2025年4月23日にカインズ つくば店をオープンした。ベルクが運営するモールへの出店となった最新店舗で、商品と売場づくりの工夫を学ぶ。(月刊マーチャンダイジング2025年7月号より転載)

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ベルクが運営するモールへの出店

カインズ つくば店

今回カインズ つくば店が出店したのは、食品スーパーのベルクがディベロッパーを務める「フォルテつくば」。2022年10月に閉店した「LALAガーデンつくば」の跡地だ。敷地面積約5万7,000㎡、駐車台数680台分のベルクを核店舗としたショッピングモールである。テナントは、ドラッグストアのクリエイト SD、セリア、ファッションプラザパシオス(しまむらグループ)など。

カインズ つくば店の内部にも、ベビー・子供衣料品の西松屋やシュープラザ、JINSなどがテナントとして入居しており、買い回りの利便性を感じさせるモールに仕上がっている。

カインズ つくば店売場レイアウト

カインズは、そのモールの一番奥に、売場面積約3,150坪、1層で出店。商圏人口はつくば市の26万人と設定している。エリアの特徴としては教育関連機関が多く、子育て支援が手厚い地域ということもあり、子育てファミリー層が多い。また一戸建ても多いため、ペットやガーデン、リフォームのニーズも高い。

同店舗のレイアウトは基本的な配置と比較すると、テナントが入っている分だけ少し圧縮されている。主通路沿いにペット、家具、リフォーム、建築資材、自転車など、目的買いのカテゴリーが並び、マグネットの効果を狙う。

ゴンドラにはライフスタイル関連、具体的には日用雑貨や医薬品、家事関連アイテムなどが配置されている。

商品を体験できる売場づくり

実際に商品を試せる売場づくりを行っている。枕売場では、「首・肩が気になる」「丸洗いできる」「やわらかいまくら」「かためなまくら」「おてごろまくら」というように分類。向かいにベッドが配置されており、横たわって使ってみることができる
メーカーコラボ。店頭のシーズン商品のプロモ売場では、シンカトリと、PBの殺虫剤を併売

プレゼンテーションの特徴としては、商品を体験できる売場づくりを掲げ、お客が実際にアイテムを試用できるコーナーを複数設けている。アイテムの大きさや使い心地を実物で確認できるのは、実店舗ならではの価値だ。

専売品の大容量アイテムが得意。2.9ヵ月分や3.1ヵ月分と期間で訴求。お客にとっては買物の頻度やゴミを減らせるというメリットがある

また、リフォームコーナーでも、実際にリフォームをした後の生活を感じさせるような売場づくりを目指している。

同店が注力しているのは入り口そばに展開している自転車売場だ。若年層が多く自転車ユーザーが多い地域のため、たくさんの種類・台数を多く自転車を取り揃える。本体だけでなく、関連商品や、修理サービスなども手厚くラインナップした。

ペット用品売場では、帝人フロンティアとアース製薬が共同開発した不快な虫から身を守る素材、スコーロンでつくったウエアを販売。カインズのオリジナル商品

ペット用品売場では犬種や体格などに合わせた、たくさんの種類豊富なアイテムを展開。プライベートブランド(PB)のペットおやつでは「無添加」「乳酸菌入り」など、健康志向の高付加価値商品を豊富に展開する。

ペット用品コーナーのPOP。犬のオーラルケアについて、ステップアップをどう進めるかを解説。カインズの店頭と親和性が高いシンプルなデザインにまとまっている
ハピウェルピューレは、カインズで人気の愛犬用おやつ。低カロリー・低脂質、さらに無添加、乳酸菌入りなど高付加価値なアイテムも。バリエーションも豊富

店内にはペットと一緒に買物ができるペット専用カートも配置されており、取材中はそのカートの利用者の多さが目についた。

夏場は冷蔵庫のドアポケットに麦茶などが入りきらないという悩みに対応した、 ポケット、棚、どちらでも収納できるコンパクト冷水筒。かゆいところに手が届く
吊るしても立たせても干せるシューズハンガー。干すスペースを選ばないため、いろいろなところに移動しながら靴を干すのに便利。雑貨類は商品名で機能を説明していて、商品名が長いものが多い。その分、いろいろな説明が不要となり、店頭の販促物の文字数が少なくシンプルに見える
スパッと切れるラップケース。パッケージの口を閉じるだけで非常に簡単に切ることができる。冷蔵庫に磁石でくっつくので収納場所にも困らない。店頭では、実際にラップを切ってみる体験ができる。テレビやSNSで見たあのアイテムを実際に触ることができる

エンドにはおすすめ商品、広告の品を大きく配置し、通路の奥まで入らなくてもどこに何があるかがわかりやすい売場づくりを意識している。

ガーデンコーナーではとくに初心者が失敗しにくいよう商品や販促物でフォローする。写真はナスについて解説するPOP。どの時期に植え付け、収穫をすべきか、接ぎ木野菜苗の特徴など、シンプルなイラストでわかりやすく解説している

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家庭菜園や屋内のガーデニングの人気が高まりつつある園芸コーナーでは、園芸に対する入り口を広げるために、初心者に向けた失敗しにくい苗や肥料、栄養剤などを厚く展開。

また店内のグリーンコーナーには、「カフェブリッコ」も併設。種類豊富、手軽な価格で楽しめるマフィン(税別130円〜)が人気で、グリーンがある暮らしを体感してもらえるスペースといえる。これも実店舗ならではの「体験」できるコーナーといえよう。

店頭の様々なところに配置されているサイネージ。自社商品の動画が中心で、他社のサイネージに比べると、自然に売場に溶け込んでいる印象

デジタルの取組みとしてはサービスカウンター横にピックアップロッカーを設置。ネットやアプリから注文した商品をこのロッカーで受け取ることができる。コロナ禍で非接触を志向するお客に支持されて、利用率が伸びた。

ネットで購入した商品を受 け 取ることが できるピックアップロッカー。広い店舗で買い回る必要がなく、ショートタイムショッピングを志向するお客に向けて提供している

現在は、広い売場でアイテムを探すのが大変というお客などに利用されることが多いという。

またカインズアプリや、ポケットレジについても店内の至る所で告知をしていた。

店内には大型サイネージも設置され、自社PB商品の紹介動画が中心で流れている。メーカーのPOPなどが棚にあまり添付されていないことからも、同社が売場づくりでトーン&マナーを重視していることがよくわかる。よくよく見ると、メーカーがつくっていると推測されるPOPも、カインズ風のフォントや写真を使った、トーンを抑えたものが多い。

伝えるべきことを厳選すれば、より伝わりやすくなるということが、カインズの売場から学べる。

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[DATA]

店舗名 カインズ つくば店
所在地 茨城県つくば市小野崎278-1
売場面積 約3,150坪
営業時間 9:00~20:00
従業員数 134人
(正社員11名、専任社員5人、パート社員24人、アルバイト94人)
オープン日 2025年4月23日

業態スタディ:出来たてラーメンの投入に垣間見るセブン−イレブンの次世代成長戦略

セブン−イレブンが「お店で仕上げたできたて麺」を展開する。ラーメンという競争の激しい食分野において店内調理による「出来たて」を提供していく。セブン−イレブンに対しては、コンビニコーヒー以来、新たなイノベーションが見当たらないとする厳しい意見もある。「できたて麺」を、どのように評価すべきか、その詳細から紐といていく。(流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2026年1月号より転載)

調理機器の前で待つこと2分 出来たてのラーメンが完成

セブン−イレブンが「出来たて」商品に傾注している。

出来たてといえば、2024年度に全国展開を終えた「お店で揚げたカレーパン」や、「セブンカフェスムージー」(2017年に実験開始、2023年3月本格展開)、そして「焼きたて」パンを約4,500店舗に導入(2025年11月末)、2026年度には約1万8,000店舗に販売エリアを拡大する計画などがある。

そして今度はラーメン(お店で仕上げたできたて麺)の販売を開始した。10月22日より埼玉県の一部店舗でスタート、約40店に拡大していく(11月11日現在)。特筆すべきは「できたて麺」は主食になるという点だ。

他のコンビニも同様だが、これまで店舗で提供する出来たて商品は食事でいえば脇役である。揚げ物や肉まん、おでんにしても主食ではない。対してラーメンのような麺類は食事の中心になる。

これまでの主食といえば、定温(約20度)かチルド(約5度)で管理された米飯弁当、あるいはチルドか冷凍で管理された麺類(ラーメン、そば、うどん、パスタ)であった。近年は定温からチルド、チルドから冷凍へと低温化傾向にあった。しかし今回の「できたて麺」は、店内で「調理した」“熱々の”麺類の提供になる。

開発を担当したセブン−イレブン・ジャパン商品本部 次世代商品開発 シニアマーチャンダイザーの赤松稔也氏は「ロボットで作る新しい麺のマーケットを切り拓くことで、主食のマーケットに積極的に挑んでいき、お客様の期待に応えていきたい」と意欲を見せる。

出来たての提供は従業員が調理して、お客に手渡すのではなく、あらかじめ店内に設置された調理器で、お客が全てセルフで行う。店舗において従業員に負荷を与える新たな企画は、出来得る限り不可であるとする認識は、コンビニ業界では常識である。

今回ラインナップした商品は560円〜630円(税抜)一般的な飲食店を下回る価格帯と品質で勝負していく

商品ラインナップは「お店で仕上げた醤油ラーメン」、「(同)味噌ラーメン」、「(同)豚骨醤油の家系ラーメン」が(税別)各630円、「(同)肉うどん」が(同)560円、「(同)台湾まぜそば」が(同)593円の5アイテム。冷凍食品として販売され、店内調理の専用商品となる。

専用の調理マシンはソフトバンクロボティクスが開発した蒸式調理ロボット「STEAMA(スチーマ)」。このマシンが熱湯と高圧・高温の水蒸気によって自動で調理する。

調理の流れについて簡単に説明する。お客は冷凍食品売場で専用の商品を選び、レジで精算を済ませた後、セルフで商品を持って専用マシンの前に行き、商品のQRコードをマシンに読み取らせてスタートのボタンを押す。

約30秒の庫内洗浄が行われ、ディスプレーに指示が出たら、購入した商品のフィルムをはがさずに容器を扉の中へ入れて待つこと約90秒、完成した麺を取り出すことができる。

90秒で調理完了。ノズルが開けた穴には、店舗に設置されたシールを貼って持ち帰る

扉の中では上部からノズルが降りてきて、フィルムに小さな穴を開けて、水蒸気が吹き込まれる。冷凍食品を急速に調理する独自の「蒸式調理」が、食材の香りや食感を損なわずに仕上げることを可能にしているという。小さな穴は調理後にお客がシールを貼って塞ぐ。

商品をQRコードで読み取らせ、庫内洗浄、商品をセッティング、自動調理、完成で約120秒(2分)の待ち時間が発生する。

仮に調理器1台で12時から13時のランチタイムを回そうとすると60分÷2分で30食、のりしろを入れると最大で25食程度になるだろう。ランチタイムにお客が集中する店では、複数台のマシンを設置して対応するという。

「セブン−イレブンは、焼きたてや茹でたて、揚げたて、挽きたて、煎れたて、ミックス仕立てと、お客様の五感に響くような新しい商品をイノベーションとともに、ライブ感を含めた提供に力を入れています。出来たての和菓子や出来たて弁当、出来たて調理パンといった、さまざまな商品の開発を積極的に進めていく考えです」(赤松氏)。

調理機器の開発にはパナソニックやシャープといった、日本を代表する家電メーカーがサポートしていくという。

セブン−イレブンが出来たてに傾注する理由は実績にも表れている。2025年度の中間期(9月末)売上実績で、フライヤー含むホットフードが前期比3.9%増、セブンカフェ(ティー含む)が同6.5%増、スムージーが同10.5%増となり、これらできたてのカウンターで販売する商品の平均日販が同5.5%増と好調に推移していることが要因である。

蒸気を用いた調理方法でラーメンがおいしくなる理由

今回「できたて麺」の調理器開発を担当したソフトバンクロボティクスRX&FOOD統括 RX&FOOD事業本部本部長の畑竜彦氏は、次のように開発のポイントを語っている。

「最大の特徴は、専門店で茹でるその瞬間を再現すること。湯気、香り、出来たての食感まで味わっていただけます。たんに冷凍食品を解凍する機械ではなく、お店での調理を再現するところに最大の特徴があります」

蒸気を用いた調理により、湯気や香りまでをお客の五感に訴えていく。これは従来のようにレンジを用いた温めとは違って、調理のプロセスをお客に訴求することで、専門店品質を期待させていく。

この訴求方法はセブンカフェのコーヒーと同様である。コーヒーは、マシンのボタンを押すと、豆を挽く音とともに、コーヒーの香りが鼻腔をくすぐり、湯で抽出するところが見えて、最後に扉を開けると湯気と香りを体感できる。このセブンカフェの成功体験が、出来たて麺に色濃く反映されている。

「出来たてのラーメンを90秒で提供します。この時間の短さも、お客様の忙しい生活の中で楽しんでいただくには非常に重要なファクターであると認識しています」(畑氏)

ここではショートタイムショッピングの大切さに注力した上で「お客様が迷うことなく、直感的に画面の指示に従ってロボットを動かす操作性のところにもこだわって開発しました」と操作の容易性に留意したという。最初に、お客が商品のQRコードをマシンにかざす。その点をクリアすれば、あとはマシンの指示に従えば、ストレスなく確実に商品を受け取ることができる。

商品の品質については解凍ではなく調理であるとし、畑氏は次の3つのポイントを挙げて、その優位性を指摘する。

第1に「冷凍で劣化したでんぷん質の復活」。復活とは高圧スチームによる均一加熱で、でんぷん質を再構成したという。これは主に麺に対して非常に有効な方法になるという。麺を冷凍すると、どうしてもでんぷん質の劣化が起こる。これを短時間で理想的な加水状態にするには、高圧で高温なスチームにより均一に加熱することで、かなり高い水準にまで引き上げることができるという。

「店で調理して茹で上げた麺と同じように、表面の滑らかさであったり、コシであったり、のどごしであったり、こういったものを再現することができるのです」と畑氏はいう。

第2に「水分膜で過加熱防止とうま味保持」。主にチャーシューを始めとする具材に関して、加熱により水分量が薄まってパサパサになってしまうことがある。この新しい調理機の独自スチームによる制御により、食材の表面に水分膜をコーティングして、肉や野菜の水分、うま味を逃さずに、ジューシーに仕上げることを可能としたという。

第3に香り成分の密閉。香りは食事をしておいしいと感じる非常に重要な要素。香り成分の揮発を抑制する蒸気構造により“湯気までおいしい臨場感のある一杯”に仕上げている。

「単純に味だけではなく、香りや温度、食感といった要素により、専門店で食べているときと同じような体験を実現できたと思っています」(畑氏)

価値ある商品の提供。それはセブン−イレブンが何十年も唱え続けてきたコンセプトであり、価値があれば、世間一般の価格と比較して決して安くはないが、お客はそれを認めて購入していただける。そうした理念のもとで価格競争に陥らず、チェーンとして日本一の売上高を遂げてきた。

その価値の高さをセブン−イレブンは近年、出来たてによる競争力の強化に注入している。出来たてのおいしさは誰もが納得できる価値になる。トップライン(売上高)を高める効果が期待できる一方で、コストを最小限に抑制する、端的にいえば人手を掛けないということが望まれている。「お店で仕上げた出来たて麺」に、セブン−イレブンの次世代成長戦略を垣間見ることができるのだ。

セブン−イレブンの新たな経営陣が挑む再成長に必要な5つの戦略的な取り組み

創業から半世紀を超えたセブン−イレブン・ジャパン。日本型のコンビニを創造し、数多くのイノベーションを起こしてきた同社が苦境に立たされている。店頭売上は国内5兆3,697億円(2025年2月期)、北海道から沖縄まで21,789店舗の巨大チェーンに再成長の芽はあるのか?今年、新体制となった経営陣は何を語るのか?2025年度中間期の決算から5つの可能性を考えてみたい。(流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年12月号より転載)

出来たて商材のニーズと店舗省人化を両立させる

右からセブン&アイ・ホールディングス代表取締役社長最高経営責任者(CEO)スティーブン・ヘイズ・デイカス氏、同最高財務責任者(CFO)の丸山好道、セブン−イレブン・ジャパン代表取締役社長の阿久津知洋氏、米セブン−イレブン・インクPresidentのスタン・レイノルズ氏

セブン−イレブン・ジャパン(SEJ)の持ち株会社、セブン&アイ・ホールディングス代表取締役社長最高経営責任者(CEO)スティーブン・ヘイズ・デイカス氏は、中間期の決算会見で国内CVS(コンビニ)事業に関して次のような認識を示した。

「国内CVS事業の営業利益は計画未達であり、計画比▲7.2%となった。下期も厳しい状況が継続する見通しであり、通期予想についてはSEJの営業利益を下方修正した。他方で下期のSEJによる粗利額の回復に手応えも感じている。インフレの進行と経済の不確実性により、消費者の財布の紐を締めるマインドが継続している。購入する商品に対して、より一層慎重となっており、(米国を含む)各市場のセブン−イレブンにおいても例外ではなく来店頻度が低下している。日本市場では人口減少、少子高齢化の進行、物価上昇および消費の二極化によるお客様の消費行動の変化に加え、スーパーストアやドラッグストアなどのCVS以外の業態の増加により中食市場の競争が激化している。CVSにおいては、より一層、顧客ニーズを捉えた変化対応が求められている」

デイカス氏の危機意識は消費行動の変化と競合の激化にある。国内は給与所得が上昇するもののインフレの進行により実質賃金が長らく低下している。価格を重視する選択はコンビニには不利に働く。加えてスーパーマーケット業界は粗利の取れる「惣菜強化」に動いており、言うまでもなくドラッグストアの食品強化、さらに冷凍食品の進化も、これを後押ししている。そこで再成長に向けた戦略的な取り組みに何があるのか。

第1に出来たて商品の拡充だ。「SEJでは、下期にセブンカフェベーカリーやセブンカフェティーなどの出来たて商品の本格展開を加速化する。セブンカフェベーカリー導入店では、未導入店との粗利率前年差で約0.1%増の効果があることが実証されている。特に来期以降は通期でその効果が反映されることにより成長軌道への着実な貢献を見込んでいる」(デイカス氏)

セブンカフェベーカリーの品揃えの一部(セブン−イレブン松戸常盤平駅前店にて2025年1月15日、筆者撮影)

セブンカフェベーカリーとは、店内で揚げた「カレーパン」149円(本体価格、以下同)や「シュガードーナツ」130円、店内のオーブンで焼いた「ふんわりメロンパン」149円や「サクサククロワッサン」176円、「チョコクッキー」186円などの品揃えを指す。

確かに出来たて、揚げたて、焼きたては競合店に対する差別化になる。思い返すと、数十年前に「セブン−イレブン対策」として、ローカルのコンビニが出来たて商材を増やして競合してきた。結果として、その多くが業界から消えていった。原因は生産性の悪化である。売上を高めるために人時数をかけて出来たてを訴求するものの、人件費をのせた必要な利益を確保できなかったのだ。

セブン−イレブンのチェーン本部に関しては出来たての強化により、売上と利益を確実に上乗せできる。一方で問題となるのは加盟店の人件費だ。店舗の人件費は基本全てが加盟店オーナーの負担になるので、“店の仕事ばかりが増えて本部だけが儲かる”といった不満もくすぶる心配がチェーン本部にはある。

そこで第2の取り組みが省人化である。この点についてSEJの代表取締役社長の阿久津知洋氏は会見で次のように語っている。

「出来たて商材に取り組んでいるが、現場の加盟店にとっては、やはり省人化と相反する部分がある。この出来たて商材のニーズと省人化を両立させるのは、まさしく今の接客のあり方を根底から変えていかなければならない、イノベーションだと思っている。今それを加盟店でテストをしていて、セルフレジを中心に省人化をある程度進めていく中で、出来たて商品の売上を伸ばしていくモデルを特定して進めている」

新しい商品、新しいカテゴリーの導入による売上の伸長は期待される一方で、加盟店にとって、最も確実に目に見える効果は省人化にある。出来たてと省人化の両立にセブン−イレブンは本格的に取り組んでいくという。

客数の伸長が停滞するのはバリューチェーン全体の課題

第3の取り組みは高付加価値商品の展開とそのプロモーション。セブン&アイ・ホールディングス最高財務責任者(CFO)の丸山好道氏は次のように説明する。

「9月には“相盛おむすび”、10月には“およがせ麺”を投入、その後もさまざまなカテゴリーでお客様ニーズに応える商品を続々と展開していく。商品展開を図る上で重要なのがプロモーションであり、お客様との双方向のコミュニケーションを強化することで、きめ細やかなニーズを把握し、その情報を商品開発やオペレーションの施策に反映、また、その運営を可能にする組織体制を整えて実行に移している。厳しい状況であるからこそ、改めて加盟店に元気になってもらうことが重要だと考えている。本部と加盟店の信頼関係を、より強固なものにするためのコミュニケーションの在り方を一から見直している」

乱暴な言い方をすれば、筆者から見るとセブン−イレブンはプロモーションに関して積極的ではなかった。商品開発の水準が他チェーンよりも一歩、二歩も先行しているため、価値ある商品を加盟店に提供しさえすれば数字はついてきた。そのためにイノベーションを起こし、創業以来、何度も失敗を繰り返し、やっと定着させたセブンカフェ(コンビニコーヒー)は他チェーンも追随して、コンビニでレギュラーコーヒーを購入できる環境を整えてきた。企業文化としても宣伝よりも商品に重点が置かれてきた。

しかしながら環境は変化した。SNSの普及で誰もが必要な情報を受信して自ら発信する時代に、前述の丸山氏のいうように“お客様との双方向のコミュニケーション”が重視されるようになった。SNSで炎上した“上げ底商品”への批判も、開発商品への過信が招いた対応の失敗と見てとれる。

阿久津氏も同様に語っている。

「お客様に価値を認めていただける商品やコミュニケーション、マーケティング施策が重要だと、現状の短期的な課題として特定した。その価値を感じていただく商品とお客様とのコミュニケーションの起点となったのが、9月に発売した相盛おむすびと、そこから始めたテレビCMの施策だった。おにぎりのカテゴリーで2割ぐらいの売上増があり、弁当も含めた米飯の売上を牽引する商品になっている。続いて10月からは、およがせ麺に取り組み、麺類についてもこの数カ月間、ずっと前年割れが続いていたが、今は前年を超えるカテゴリーに変わってきている。一定の価値を持ってお客様にアピールする取り組みが今スタートさせたところで、この後も何カ月か続けていくことが、第一段階になる」

第4の戦略的な取り組みがフランチャイズパッケージの変更。セブン−イレブンの契約モデルは創業から半世紀にわたって、ほぼ変わっていない。同社は経営環境が変わる中で新しいモデルに切り替える時期に来ていると捉えている。その中心が既存店舗オーナーの複数店への挑戦であり、複数店舗の経営を促進していく。セブン−イレブン加盟店の6割から7割が単独店経営になる。

「一店当たりの収益性が高かった故に、現状は単独店舗のオーナーさんが多かった。きちんとした経営ができて、地域に貢献したいという考えをお持ちのオーナーさんには複数店経営の機会を増やしたいし、それを後押しする契約形態に変えていきたい。加盟した当初にもっとチャージが軽減できるようなモデルにすることが、既存オーナーさんたちに複数店を後押しする材料になるし、新たに加盟を考えている方にとっても非常に良いモデルになる。この検討を進めた上で2026年の春にリリースして、2027年度中から新モデルの形で提案していきたいと計画している」(阿久津氏)

第5の戦略的な取り組みがバリューチェーンの改革である。セブン−イレブンの本質的な課題は現状の価格にあると認識している。現状のサプライチェーン全体を革新する方針を示している。

「改革の本丸は客数になる。商品の仕入れ、供給を含めたバリューチェーン全体の課題であり、ここに変革のメスを入れたい。私たちは商品の製造、原材料調達を外部のパートナー企業にお任せしてきた。これからは一緒に商品の仕入れであったり、製造の流れであったり、バリューチェーンの改革そのものにWIN-WINとなれるような協力体制をつくっていきたい。その結果、商品原価が適切に抑えられて、買いやすい価格に抑えられるようになったときに、客数改善に進んでいく流れになっていく。このステップをできるだけ早く実現していきたい」(阿久津氏)

日本型セブン−イレブンを実質創業した鈴木敏文氏が退任して来年で10年になる。セブン−イレブンは自らの成長モデルを本格的に改革し、次世代の次の成長モデルに挑んでいる。

イオンペットの戦略に学ぶ健康志向と付加価値商品の可能性

食品の値上がりが止まらず、実質賃金のマイナスが続いている。スーパーマーケット各社は価格競争力のあるPBを強化するなど、人々の生活防衛を意識した戦略を持って年末商戦に挑んでいく。その一方で、付加価値の高い商品が伸長し、活況を呈しているのがペット市場である。市場動向と合わせてペット事業の大手「イオンペット」の最新動向をリポートする。
(流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年11月号より転載)

飼育頭数は減少する一方で1頭にかける支出額は増加

イオンペットはペテモ幕張新都心店をリニューアルして商品や各種サービス、店舗設備を刷新、犬用のアパレル売場「(WANCLOSET)ワンクローゼット」を導入している

イオンペットは「PETEMO(ペテモ)」というブランド屋号で、ペット用品販売、グルーミングサロン、ペットサロン、動物病院を約200拠点で全国展開するイオングループのペット専門企業である。同社ホームページで公開している営業収益は448億円(2023年2月期)、ショッピングセンターを中心に店舗を展開している。

同社を支える犬猫の飼育頭数は、一般社団法人ペットフード協会の(2024年)全国犬猫飼育実態調査によると、犬が679万頭(世帯飼育率8.79%)、猫が915万頭(同8.61%)。

頭数で猫が犬を上回るが、世帯飼育率で下回るのは、猫は平均2匹と多頭飼育の傾向が強いためである。飼育頭数は10年前の2014年対比で、犬の飼育頭数が140万頭減少する一方で、猫は73万頭の増加、合算すると67万頭のマイナスになる。

「少子高齢化、人口減少が進む中で、ますます(犬猫が)かけがえのない存在になってきました。確かに飼育頭数に若干の減少が見られるものの、単身世帯は増加傾向にあり、たくさんの可能性があると考えています」(イオンペット商品本部 本部長代理 西澤啓輔氏)

飼育頭数が減少する中で平均寿命が延伸している。2014年対比で犬が16歳弱で+0.65歳、猫が15歳弱で+1.36歳と大幅な延びを見せている。

飼育環境の改善や、ペットフードの品質向上も要因として挙げられる。それらを含めて、オーナーがペットを大切に育てている証左といえるだろう。

その一方でペット関連市場は右肩上がりで伸長している。矢野経済研究所によると2024年が1兆9,108億円、これを2020年の1兆6,842億円と比較すると13.5%の伸び、さらに2027年の予測が2兆279億円と今後も市場規模の拡大が見込まれている。

「市場環境は物価高騰の影響を受けているだけではなく、ペット1頭にかける支出額が年々増加しているところに一番の影響があり、特にペットフードが成長のドライバーになっていると考えています」(西澤氏)

ペットフード市場については、2027年度(予測)が6,660億円で、2017年度の4,499億円から148%の伸びを示している(出典:富士経済ペット関連市場マーケティング総覧2025)。

バックグラウンドには、健康志向の高まりやヒューマングレード化(擬人化)、ペットの高齢化や人用メーカーとのタイアップなどにより高品質化が進んでいる。ペットの家族化や高齢化が進展し、高品質化するペットフード市場を中心にペット市場全体の拡大が見られる。

ペット1頭にかける支出額にも大きな伸長が確認できる。前出のペットフード協会の調査によると、犬に対する1ヵ月の支出総額は2024年1万5,720円と2019年比で132%と大きく増加をしている。

内訳を見るとフードが3,900円で123%。おやつが1,771円で137%、医療費が4,894円で123%などとなった。

猫についても同様に、1ヵ月の支出総額は8,930円、2019年比で119%、内訳はフードが3,238円で118%、おやつが1,515円で116%、医療費が3,494円で115%などとなった。

「プレミアムフードの市場拡大が理由の一つです。おやつも同様に健康志向やバラエティの拡大に伴い大きく伸長しています。医療費の増加については、オーナーの意識の高まりが(犬猫の)健康寿命の延伸とともに結果に表れています」(西澤氏)

ペットへの意識の高まりとして新しい商品群やプレミアム商品が伸長している。2025年4月にイオンペットが運営する「ペテモ幕張新都心店」をリニューアルさせている。

そこで「ペットバギーコーナー」を展開、売上を前年比で212%と大きく伸長させている(2025年4月18日〜5月31日の実績)。

ペットバギーとは犬用のベビーカーで、本体販売件数1位が3万8,000円の商品(FikaGo FREE TO GO2)。人用のベビーカーの平均と大差ない価格である。5位には7万4,000円の商品(AIR BUGGY DOME3プレミア)が入った。

「ワンちゃんと一緒にお出掛けする機運が高まっています。バギーにデコレーションするオプションの売上も拡大しています」(西澤氏)。

同店の「WAN CLOSET(ワンクローゼット)」コーナーも前年比121%と伸長させている(2025年4月〜8月の実績)。

ここでは犬用のアパレル用品を展開、さまざまな嗜好とバラエティに対応している。人気ブランドの導入やフェミニン、アクティブカジュアル、ベーシックデザインをコンセプトにしたウェアの品揃え、木製什器の導入や試着台を増設するなどして、アパレルショップの世界観を展開している。

販売チャネルが多様化し健康志向と消費の二極化進む

以上が近年のペット市場とイオンペットの対応であるが、同社の戦略的な取り組みとして冷凍食品の拡大がある。その冷凍食品の成長戦略に「フレッシュフード」をキーワードに置いている。

冷凍食品分野の「フレッシュフード」とは、単なる冷凍食品ではなくて、保存料、添加物がゼロ、もしくは抑制して、ヒューマングレードの食材を使用し、最小限の加工で製造した高品質な冷凍保存フードと位置付けている。

「私たちが利用する冷凍食品は、時短とか手間をかけない商品のイメージがあります。一方のペット市場では、新鮮な食材や高い嗜好性、水分摂取の促進などを強化しています。フレッシュフードを拡大させながら2027年度に向け、冷凍食品において2019年比で1.5倍近くの成長を遂げていきたい」(西澤氏)

イオンペットが扱う冷凍食品の構成比は、スイーツがメインで次いでフレッシュフード、デリカ、クリスマスケーキ、乳製品、おせち料理といった順になる。

冷凍食品分野では、年末年始用の商品としてさまざまなケーキ、おせちのラインナップを拡大している。オーナーと一緒にクリスマス、そして正月を特別なメニューで祝っていく。

左の犬が食べているのはおせち料理、その右の2頭はクリスマスケーキを楽しんでいる

イオンペット商品本部おやつ部門担当バイヤーの安藤梢氏は次のように市場の変化を説明する。

「ペットの家族化が進むことにより、愛するわが子であるワンちゃん、猫ちゃんと過ごすクリスマスや年末年始などの記念日を、より特別なものにしたいオーナーが増えています。ペットと一緒に楽しみたい、ペットが喜ぶ姿が見たいのです。クリスマスやおせちに求められるのは、高品質で華やかな見た目、より人間ナイズされた商品であることがポイントになるのです」

イオンペットにおけるクリスマスケーキ・おせちの販売推移を見ると、2024年は2019年比で172%を超える伸長になった。クリスマスケーキで2万7,178個、おせちで3,784個を販売した。節約志向の影響も考えて、売れ筋商品の売価ラインを維持しながら、利用者が手に取りやすい品揃えに注力した。

予約の傾向については二極化している。特別感を求めている利用者に関しては、早い段階からネットで情報を探しているため、イオンペットのECにおいて早期予約率が高まっている。

一方の節約志向の利用客に関しては、吟味した上で予約期間の後半に購入するとか、クリスマス当日に近づいてから店頭で予約するなどの購入が増える傾向にあるという。

「クリスマスのペット市場は顕著に拡大を続けています。今後の鍵は差別化商品の品揃えと、オンラインによる早期訴求になると考えています。拡大トレンドにあるクリスマス、おせちについて、2025年は前年比110%超えを目標にしています」(安藤氏)

犬猫を合わせて、ケーキ8SKU、おせち6SKU、オードブル6SKUを用意した。今年の販売戦略は、コラボやデザイン性を重視したペテモ限定のオリジナル商品、猫用の商品強化、EC限定商品の強化、早期予約特典による複数購入などを推進している。また「お客様の声」を重視して、小型犬に食べやすいロールケーキタワーを用意している。

このようにクリスマスや正月といった特別の日をペットと共に楽しみたいと願うオーナーの要望が強くなっている。

「ペットの家族化が一歩進んでパートナー化して広がりを見せています。また業界全体ではドラッグストアなどラインロビングによる他業態が参入、ECチャネルによる多様化が進んでいます。その中で健康志向が深まり、消費の二極化と多様化も進んでいくと考えています」(西澤氏)

先述のように猫の飼育頭数は増加しているものの、犬については減少している。ペット関連商品の価値をいかに高めていくか、業界全体の取り組みが問われている。

セブンは変われるのか?新経営陣が問題にした長きにわたる「成功体験」

セブン&アイ・ホールディングス(HD)は、今期より傘下にあったスーパーマーケットや専門店チェーン、外食チェーンなどの事業を切り離し、国内、海外のコンビニ事業に特化した事業体に姿を変えている。その新体制で同社の代表取締役社長に就いたのがスティーブン・ヘイズ・デイカス氏。今年8月6日、「7-Elevenの変革」を題目に都内で会見に臨んでいる。ここでは主に「国内セブン−イレブン」の現状と、求められる変革について、デイカス氏が語った内容を解説したい。
(流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年10月号より転載)

若い世代のお客様を中心にブランドイメージがやや低下

「7-Elevenの変革」と題した会見の冒頭、デイカス氏は近年の停滞を次のように指摘した。近年のセブン−イレブンの停滞を客観的に言い当てている。

「私たちは長年のマーケットリーダーであり、今でも圧倒的なトップポジションを維持しています。そこには多くのポジティブな面がある半面、実はとても危険な環境でもあると考えています。長期にわたる成功は、われわれの事業に慢心をもたらし、イノベーションやエクセキューション(計画や戦略を実行に移すこと)のスピードを低下させるのです」

国内セブン−イレブンの店舗数は2万1,743(2025年2月期)で創業以来、毎年増店、チェーン全店売上は5兆3,698億円でコロナ禍の2020年度、2021年度を除けば、こちらも創業以来、一貫して増加させている。ただし、2010年代後半から伸び率に鈍化傾向が見られる。加盟店の損益は公表されていないが、増店の鈍化は最終利益が厳しい状況に置かれていると推測できる。

それは業態の垣根を超えた競争環境の激化に加えて、高騰する人件費を十分に吸収できる利益確保が難しくなっているからであろう。売上を上乗せできる新たな商品やサービス、カテゴリーの創出、さらに加盟店の運営コストを抑える仕組みづくりに後れをとっていると筆者は認識している。

競合チェーンとの比較においても消極的な部分があるとデイカス氏は次のように指摘する。

セブン&アイ・ホールディングス
代表取締役社長最高経営責任者(CEO)
スティーブン・ヘイズ・デイカス氏

「セブン−イレブン・ジャパン(SEJ)は、お客様とのコミュニケーションやエンゲージメント(深いつながりを持った関係性)において、競合他社に遅れをとっています。率直に言って、競合他社に比べてやや受け身であり、コミュニケーションへの投資の一部は誤った方向に進んでいました。その結果、特に若い世代のお客様を中心に、ブランドイメージがやや低下しています。高齢のお客様からは依然として強い支持を得ていますが、若い世代のお客様からの支持は減少しています。SEJのリーダーシップチームはこの問題を認識しており、迅速に対応を進めています」

利用者とのコミュニケーションに関して、最も強い来店動機は、加盟店のオーナーや店長、その他従業員による接客になるだろう。セブン−イレブンに限らず、コンビニフランチャイズに加盟した初期のオーナーは、業種店から転換した商人が多かった。

その土地で古くから酒販店、米穀店、青果店、食料品店などを営んできた商人は、顔と名前を覚え、御用聞き(配達サービス)を実践してきた。特にセブン−イレブンは、創業期に酒販店からコンビニへの業態展開を集中的に促してきたので、地域と深くつながった加盟店オーナーが力を持ってきた。

一方で、90年代後半から家庭用パソコンが普及。続いて携帯電話、スマートフォン、タブレットなどを一般の人たちが持ち、いつでもどこでもインターネットにアクセスできるようになった。そこでは、多様なチャネルを通した、利用者との双方向のコミュニケーションが求められるようになった。

コンビニ各社はキャンペーンの告知や、クーポンを発行する自社アプリを開発。利用客の囲い込みに注力している。大手3チェーンの自社アプリ、それぞれ2,000万から2,500万の累計ダウンロード数を記録している。自店のカウンターでのフェース・ツー・フェースのコミュニケーションから、自社のアプリやSNS、さらにはAIカメラを用いた商品のお薦め、店内のデジタルサイネージなど、利用客との接点が多様化していった。

セブン−イレブンが、この分野で競合チェーンと比較して目に見えて遅れているとは思えない。お届けサービスの「7NOW(セブンナウ)」を自前で開発し、既に全国で展開している。ただし、7NOWを除けば、競合チェーンをリードする存在かといえば、決してそうは見えない。

初期のセブン−イレブンを支えた加盟店オーナーは世代交代をしている。現場の力が強かった分、最新デジタルを活用した合理化に後れをとった。特にデイカス氏が指摘する「若い世代の支持の減少」に対しては危機感を持って当然だ。

「優秀な外部人材の獲得も含め、コミュニケーションチームの刷新と強化を進めています。商品開発、店舗活動、そしてコミュニケーションへの統合的なアプローチを確立することで、事業運営の変革を進めています」(デイカス氏)と対策を説明する。

もう一つ卑近な例として挙げられるのが「上げ底」騒動である。SNS上でセブン−イレブンの弁当や惣菜が以前の商品と比較して「上げ底」が目に見えて増しているといった指摘が、画像や動画とともに拡散した。

週刊誌の取材に(当時社長の)永松文彦氏が強く反論したことも火に油を注いだ感があった。SNS情報に敏感な若い世代に対しては非常にネガティブな発信になった。この一連の騒動が二度と起きないような万全な体制を組む必要があるだろう。

AIの活用、データ分析などにパートナーの協力が必要

加盟店を軸とした生産性向上は喫緊の課題である。前述したように店舗従業員の人件費は上り続けていく。コスト削減に取り組むと同時にトップライン(売上)も高めていく必要がある。デイカス氏は次のような問題意識を持つ。

「テクノロジーと膨大なデータを活用し、お客様にとってより便利で魅力的なショッピング体験を提供すると同時に、店舗(特にフランチャイズ加盟店)の生産性と収益性を向上させる新たなモデルを構築することです。グローバルな展開と業界をリードする規模を持つ私たちは、これを実現できる立場にあります。当社は日本に約1万1,000店舗、北米に約1万3,000店舗を展開しており、この2つの地域だけで毎日約3,000万人ものお客様が当社の店舗に来店されています。私たちはサプライチェーンとマーチャンダイジングにおいて大きな強みを持っています」

それには最新デジタルの活用が欠かせない。デイカス氏は次のような認識を示す。

「AIの活用、オートメーション、データ分析といった分野にはまだ強みを持っていません。これを実現するためには、パートナーの協力が必要です。幸いなことに、競合他社もこの分野においては先行しているわけではなく、この分野における強みを実現するには非常に大きなチャンスがあります」

最新デジタルの取り組みが十分ではないことを伸びしろと捉える。競合するローソンは親会社の三菱商事に新たにKDDIが資本参画し、2024年8月に出資比率を50%ずつとする共同経営パートナーとなった。KDDIが強みとするITを強化し、コンビニの未来を描こうとしている。

デイカス氏も業界動向を見ながら、柔軟な姿勢を示している。

「重要なのは、新しいテクノロジーを生み出すことではありません。テクノロジーは既に存在し、日々急速に進化をしています。つまり、テクノロジーを活用し、お客様により良い体験価値を提供し、パートナーに新たなモデルを提示することです。これは一朝一夕に実現できるものではありませんが、私たちが注力していかなければ決して実現できません」

単に変化に対応するのではなく受け止め、その変化をリードする

セブン&アイHDは2025年9月に中間持株会社のヨークホールディングスを投資ファンドのベインキャピタルに売却する。イトーヨーカ堂を祖業とするセブン&アイHDはコンビニに特化した事業体になる。

日本のセブン−イレブンを実質創業した鈴木敏文氏も2016年4月に経営から退き、イトーヨーカ堂を創業した伊藤雅俊氏は2023年3月に亡くなっている。

デイカス氏は今こそ創業の精神を取り戻すだけでなく、それを乗り越える覚悟が必要と説いている。

「この先、私たちには多くの変化が待っています。しかしながら、一つだけ決して変わることがないのは、当社の基本的な理念です。私たちの創業者(伊藤雅俊氏、鈴木敏文氏)は、どのように事業を行うべきか、とても明確なビジョンを持ち合わせていました。ステークホルダーからの信頼獲得のために、私たちの創業者は変化を受け止めることを求めています。

単に変化に対応するのではなく、受け止め、その変化をリードすることを求めています。(中略) 現在、私たちの課題の一つは、この創業者の精神が失われていることだと考えています。特に日本において、私たちはかつてほどお客様からの信頼を獲得できていません。また今、私たちは創業者がしたように、積極的に変化を受け止めることができていません。本社を中心に、私たちは少し現状に甘んじてしまっている部分があります。だからこそ、創業の精神を取り戻すことがとても重要なのです」

デイカス氏は創業の精神と表現するが、伊藤雅俊氏、鈴木敏文氏の跡をたどることでは決してない。既存の枠に捉われず、自らの限界を超克する取り組みが令和の時代に求められている。

ネット専用スーパー「グリーンビーンズ」に見る最新ロボティクスソリューションの活用事例

小売業の生産性向上にはAIとロボティクスの導入は不可欠だ。イオンのネット専用スーパー「Green Beans」(グリーンビーンズ)を運営するイオンネクストは、大型物流拠点である誉田CFC(顧客フルフィルメントセンター)に新たなロボティクスソリューションを本格導入、今年6月30日にメディアに公開した。グリーンビーンズが本格稼働してから2年が経過。2026年度と2027年度には、新たなCFCを首都圏に開設、規模拡大を図っていく。最新のロボティクスと同社の成長をリポートする。
(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年9月号より転載)

千葉、西東京、埼玉のCFCでSM200店舗分が首都圏で稼働

2023年7月に本格稼働から2年が経過した誉田CFC

誉田CFC(千葉市緑区)は2023年7月に本格稼働を開始した。そのCFCに搭載された最新デジタル技術と機能は、イオンが2019年11月に提携した、英国オカドソリューション[英国テクノロジー企業 Ocado(オカド)グループの子会社]が担う。

イオン100%子会社のイオンネクストが手掛けるグリーンビーンズは、最新テクノロジーと、イオンの商品開発力、情報ネットワークなどを駆使しながら首都圏を配送エリアとしてスタート。AIとロボットを活用したCFCのオペレーションとロジスティクス、個々の購買履歴に合わせたサービス、コールドチェーンによる鮮度管理により、鮮度の高い商品の玄関先までの配送を実現させている。

誉田CFCは、一般的なスーパーマーケット50店舗分に相当するサイズだという。2026年度に東京西部の八王子で稼働させるCFCも50店舗分の規模で、2027年度に埼玉県の北部に計画する久喜宮代CFCは100店舗分に相当。これら3つのCFCが出そろえば、首都圏においてSM200店舗分のネットスーパーが稼働する。

最新の自動化技術の導入で業務効率を飛躍的に向上

今回のロボティクスソリューションの目的は、導入により人手による作業の約30%を自動化ロボットが担うことだ。単純作業や重労働など従業員の負担を大幅に軽減するとともに、より安定した供給体制と作業効率の向上、働きやすい現場づくりを実現していくことにある。

「オングリッドロボットピック」は、お客が注文した商品をピック&パックする最先端のロボットピッキング。1日あたり約20万点の商品ピッキングを可能としている

公開した第1の自動化ロボットは「オングリッドロボットピック」と呼ばれるもの(写真参照)。お客が注文した商品をピック&パックする最先端のロボットピッキングである。さまざまなサイズ・形状・重量・傷つきやすさを持つ商品を、AIがその場で認識・判断し、袋詰めまでを実施する。

ツルのくちばしのような形状をしたロボットのアームが、グリッド(商品棚)上から商品を直接取り出すことで、従来人手で実施している場所の省スペース化と生産性の向上を実現、1日あたり約20万点の商品ピッキングを可能としている。

誉田CFCでは約3万8,000点の商品を取り扱っている。そのうちオングリッドロボットピックによる対象商品数は現状約3,000点、これを2025年度中に約1万点までピッキングする商品を増やしていく。ピッキングの対象としていない商品は、重量が2kg以上のものや、破れやすい、壊れやすいといったものになる。

第2の自動化ロボットは「オートフレームロード」。配送直前の注文ボックス(トート)を、配送用フレーム(台車)に自動で積み込むロボティクス技術になる。配送準備の中でも特に重労働な作業において、画像認識カメラとAIにより、トートの形状や重さ、フレームの状態をリアルタイムで把握し、人手を介さず最大20kgのトートを最適な位置に自動で積載する。現在、4台を配置している。

従来はAIによる配送順や重量バランスなどを考慮した積載指示をもとに、人手で積み込んでいた。1日に2万6,000個のトートを運んでいたが、この重労働を完全自動化し、作業者の負担を大幅に軽減した。配送車への積載効率や重さのバランスにも配慮した設計としている。

既存の自動ロボット設備について幾つか触れておく。一つ目は「ボット」。商品を収納したトートを持ち上げ、CFC内の商品棚上を走行しながら指定の場所まで運搬するロボットになる。お客の注文に応じて、必要な商品が入ったトートを正確かつ迅速に搬送し、ピッキングやパッキング作業の効率化に対応している。

ボットは秒速4m、人の10倍の速さで移動、生産性も10倍近くに高まる。誉田CFCは荷受けから出荷まで、直接関わる人員は約30人程度である。通常のネットスーパーであれば、誉田CFCの出荷量に対応するには数百人規模の人員が必要になる。

「オートフレームロード」は、配送直前の注文ボックス(トート)を、配送用フレーム(台車)に自動で積み込む最新のロボティクス技術

二つ目は「オートバギング」。1分間に50以上の袋をトートに掛ける自動袋掛けのマシーンになる。お客へ配送するトートに最大3袋を設置することを可能としている。三つ目は「バキュームリフター」。作業者の負担を軽減するためのハンドクレーン型バランサーになる。重い物や持ちにくい物を簡単かつ安全に持ち上げたり移動させたりするための装置だ。

四つ目は「無人搬送機(AGV)」。入荷商品の台車を同時に2台搬送できる無人輸送車になる。あらかじめ設定されたルートを自動走行し、効率的かつ正確に目的地まで入荷商品を無人で搬送する。

イオンネクストは、これからも最新の自動化技術のさらなる導入と最適化を進め、業務効率を飛躍的に向上させるとともに、これまで以上に迅速かつサービスの質を一段と高めることで、より便利で安心できるサービスを提供していくとしている。

商品アイテム、お客の利便性 サービスエリアの拡大を図る

会員数の拡大については、誉田CFCの稼働から2年間に60万人を獲得しているが、2025年度末までに100万人の突破を目指している。それでも首都圏の世帯数は1,700万あるので成長の余地はあると見ている。

会員の中にはヘビーユーザーもいて、都内23区の港区や世田谷区には、客単価(バスケット単価)が1万7,000円以上、買上点数が30点以上の利用客がいる。こうした会員数の拡大にともない「スポーク」と呼ばれる中継拠点を2025年度末までに現行の9から14まで拡大していく。

今後の課題として物流の効率化と利便性の向上が挙げられる。イオングループ全体の物流再編も考え得るであろう。例えば都市型小型食品スーパーの「まいばすけっと」は首都圏で1,251店舗(8月1日現在)を展開しているが、ここをグリーンビーンズの受け取り拠点に加えれば、自宅に不在がちの共働き夫婦には役立つサービスになるであろう。

イオンネクスト代表取締役社長のバラット・ルパーニ氏は次のように総括する。

『私たちは他のネットスーパーとは一線を画すサービスによって会員数を拡大しています。グリーンビーンズのサービス設計は、3万点以上の豊富な品揃えによりワンストップショッピングを実現、1週間鮮度保証の「鮮度+」「食べごろ+」、社員クルーによる質の高い配送、24時間注文可能の朝7時から夜11時までの1時間単位の配送枠、サクサク動くWebアプリ、これらの価値提供に集約されています。登録済み顧客数は60万人以上、平均客単価は1万円以上、買物客の90%以上はリピーターです。お客様の信頼とロイヤリティが高いということです』

今後、グリーンビーンズは次の3つのテーマにフォーカスしていく。

第1にオリジナル商品の拡大。食品だけではなく、需要が高まる韓国コスメなどのビューティケア、その他ノンフーズについても広範に品揃えを追加していく。特に首都圏の若いお客に合わせた商品も追加していく。

第2に利便性の拡大。新たな決済手段やロイヤリティプログラムを計画している。WAON POINTによる支払い機能やサブスクリプションも開発していく予定である。

第3に配送エリアの拡大。サービスエリアは2年間で急速に拡大、誉田CFCは東京23区の全て、千葉県の13都市、神奈川県の横浜・川崎エリアをカバーしている。前述のように、今後は八王子、久喜宮代でCFCを稼働させて配送エリアのいっそうの拡大を図っていく。

その一方で、ドライバーの不足が物流業界で課題になっている。グリーンビーンズではエリアの拡大と同時に、物流効率の向上を図っていく。例えば再配達を減らすため、1時間枠の設定に加えて、トラックが直前の配達先を出たところで、次の届け先にメールを送信して在宅を確認するなど細かな仕組みを整えている。結果として当日の不在率を0.5%未満に抑えることに成功している。

このようにグリーンビーンズは、AIとロボティクスソリューションを土台に、商品アイテム、お客の利便性、サービスエリア、この3つの拡大を図って、日本の流通を変革していく。