投稿者: hy
ゲンキーの能登半島地震への対応記録「地域住民の生活のため、翌日全店開店を目指せ」
2024年1月1日16時10分頃、石川県能登半島地下16kmを震源とする強い地震が発生(後に令和6年能登半島地震と命名)。能登半島北部いわゆる奥能登を中心に甚大な被害をもたらした。ゲンキーは被災地域に複数の店舗を出店している。ここでは、同社取締役店舗運営部長の中川竜氏に取材。大規模地震への対応を見ていく。(月刊MD編集長 野間口 司郎)(月刊マーチャンダイジング2024年7月号より転載)
【Day1】2024年1月1日(月)
5mの大津波警報が出る中 決死の現場への移動
1月1日はゲンキーの年に1回の全店、全社の休業日である。正月午後と言えば、いわゆる「おとそ気分」でゆっくりくつろぐのが、多くの人の過ごし方である。ゲンキー従業員たちもそんな時間を過ごしていたが、16時10分頃発生した能登半島地震で様相は一変する。
中川竜店舗運営部長は、正月の挨拶回りから福井県坂井市にある自宅に着いた直後、玄関で強い揺れを感じる。子供たちを机の下に避難させると同時に大きな被害になれば、被災地域では水、食品などの緊急物資が必要になるという思いが頭をよぎったという。
画像1は、中川氏が地震直後、ゲンキー幹部が参加するグループLINEに投稿した第一報である。ゲンキーのグループLINEには藤永賢一社長以下、営業系部署の部長職以上43人がメンバー登録。普段は店舗の販売状況や商品情報など営業に関する連絡に使われている。能登半島地震においては、このグループLINEに情報が集約され、それらを基に現場の指揮を中川氏が執るという態勢が取られた。
地震発生直後の16時12分には石川県能登地方には3mの津波警報が、16時22分からは5mの大津波警報に切り替わり、発令されていた。これを受け中川氏は能登エリア沿岸部を中心に全従業員に避難指示を出した。その後、能登半島に帰省中のメンバーから陥没した道路状況の写真も投稿される(画像2)。
16時22分には石川県を管轄している藤田毅ゾーンマネージャーから課長経由で全従業員に避難指示が完了したこと、状況確認中である連絡が入る。藤永社長からは津波を心配し、店舗確認には行かないようにという指示も出た(画像3)。
中川氏の自宅はゲンキーの本社近くで北陸自動車道丸岡インターから数百メートルの距離にある。体質的に酒の飲めない中川氏は正月の挨拶回りでも飲酒することなく、車を運転できる状況にあった。地震発生直後、現場に向かうことを決意、グループLINEに第一報を投稿した直後、中川氏は16時20分頃には車に乗り込み、丸岡インターから能登を目指していた。
丸岡インターから大きな被害の出ている石川県志賀町までは通常なら所要時間は1時間40分ほど。ただ、能登地方には5mの大津波警報が発令中で「到達中」との予報も出ている。丸岡から能登に入るには、石川県金沢市を経て海岸線に沿って走る「のと里山海道」を通る必要があり、ここを通行中に5mの津波に見舞われれば車もろとものみ込まれる危険を伴う。
「5mの津波警報が出ていることは知っていました。能登へ向かう途中海岸線を走っているときに津波に遭えば命の危険があることも認識していました。のと里山海道を走っているときは自分の車しかなく、置かれた状況がよく理解できました」(中川氏)
同じ頃、中川氏と同じリスクを負って、ゾーンマネージャーの藤田氏も福井から能登に向かっていた。
「藤田にも津波の状況等は確認しましたが、『部長が行くなら私も行く』、とのことでした」(中川氏)。のちに二人は羽咋(はくい)で合流する。
翌2日は、当初より本部人員、商品部、店舗開発部などの社員は店舗応援に入る予定だった。17時26分、その人員を能登の応援へ振り分ける手配を取る。この段階で店舗の被害状況はつかめていなかった。直後の17時31分、藤永社長から「明日、全店開店を目指そう!」とのLINEが入り(画像4)、これに向け中川部長以下、本部応援社員、前線の店長、パートナー(パート従業員)の奮闘が始まる。
《取材協力》
TOUCH TO GOが提案する「サテライト型」と「ハイブリッド型」2つの無人店舗戦略
店舗作業のなかで3割をも占めるといわれるレジ業務。レジの省人化は小売業にとって喫緊の課題である。近年ドラッグストア(DgS)でも導入が進みつつある無人決済システムを開発・提供するTOUCH TO GOでは2つの無人店舗戦略を提案しているという。代表取締役社長の阿久津智紀氏に導入状況を聞く。(月刊マーチャンダイジング2024年7月号より転載)
200㎡、2,000SKUに対応
弊誌でも既にこれまで何回か取り上げている「TOUCH TO GO」(以下TTG)の「無人決済店舗」ソリューション。利用方法は以下のとおり。
①入店して商品を手に取ると、店舗内のカメラや棚の重量センサー、AIによる画像分析などによりシステムが商品を特定。②お客がレジ前に立つと、自動でディスプレーに合計金額が提示され、会計を行う。③会計終了後にゲートが開き、お客は店舗から退出することができるようになる。
事前にアプリをインストールするなどの準備は不要で、決済手段も現金、クレジットカード、QRコード決済、交通系電子マネーをはじめ多くに対応。間口の広さを重視したソリューションといえよう。
「私たちが事業提携をしているファミリーマートさんでさえ、まだ現金の利用者の方が7割いらっしゃいます。だれでも気軽に入店できて、お支払いできるというところを大切にしたいと考えています」と阿久津氏は語る。
昨今セルフレジ化による万引きの増加が指摘されているが、だれが何を手に取ったかがすべて記録されているこの手法であれば、実質的に万引き対策にもなる。
同社が提供する無人決済サービスのなかでも、最大の売場面積とアイテム数である「TTG-SENSE」は、200㎡(約60坪)、2,000SKUに対応。1人当たりのレジ所要時間は10〜15秒で、入店人数に上限はない。
このシステムが導入されているJR高輪ゲートウェイ駅の「TOUCH TOGO高輪ゲートウェイ駅店」には、約600種類のアイテムが展開されていて、ピークタイムには1時間当り200人のお客をさばくという。
省人化という側面では、遠隔監視や遠隔接客に対応しているという点はポイントだ。営業時間中、たとえ店内が無人になっても、その様子は遠隔のコールセンターで監視されていて、お客からのお問い合わせもコールセンターで対応できる。
元々TTGはJR東日本系のファンドであるJR東日本スタートアップと、金融系のシステム開発を提供するサインポストの合弁会社として2019年に設立されたスタートアップ企業だ。2021年2月にはファミリーマートと資本業務提携を締結。コロナ禍の非接触ニーズを追い風に導入件数を拡大し、東芝テック、グローリーなど、POSレジの大手企業とも積極的に資本業務提携を進めている。
サテライト型とハイブリッド型の店舗戦略
市場環境に目を向ければ、労働人口の減少や人件費の高騰、また建設資材や光熱費も上昇しており、既存業態出店によって業績の拡大を目指すモデルはもはや頭うちという状況である。そこでTTGが提案するのが「マイクロマーケット市場」だ。「自動販売機以上コンビニ未満」の日販で採算が取れるビジネスモデルである。
「この程度の日販ですと、人が張り付けば赤字になりますが、これを無人にすることで採算が取れるようにしていきます。
そのために私たちは2つの戦略をご提案しています。ひとつは母店の近隣に小型店舗を出店するサテライト型店舗です。もうひとつは大きな店舗の一区画に無人のエリアをつくるハイブリッド型店舗です。無人エリアは24時間営業ができますので、深夜、早朝でも販売できるようになります」(阿久津氏)
サテライト型の無人店舗は、近くの母店の商品を従業員が運んで陳列する。その売上を母店につけることができれば、店舗にとってもメリットが大きい。DgSであれば、母店近くにある病院内売店の運営や、大学内売店などの展開などが検討できよう。これまで売り逃していた「エリア」のお客を取りにいく戦略だ。
一方のハイブリッド型店舗は、お客の多い時間帯は有人対応、お客の少ない早朝・夜間は無人店舗化することで、売上の最大化と効率化を両立する。こちらはそれまで売り逃していた「時間帯」のお客を獲得することにより、売上を増やす施策と考えられる。
「面白い事例がお菓子のシャトレーゼさんが東京・西麻布に出店した24時間営業の店舗です。昼間はケーキや焼きたてのお菓子も販売しているのですが、夜になるとそれらを販売しているエリアをシャッターで区切り、アイスクリームやドライ品だけを販売します。通常閉めていた夜間帯を活用することで売上が3割程度伸びました」。深夜の繁華街、飲んだあとに甘いものを食べたい…という需要をうまくくみ上げた。
出店時の費用も極力抑えられるような提案をしている。100Vの電源さえあればスタート可能で、大掛かりな工事は不要。既存の什器も利用できる。
この仕組みを増収のための施策としてではなく、「コストダウンのための施策」として活用している企業も多い。
例えばANAは空港のターミナル内の店舗にTTG-SENSEを導入した。航空機を待つお客のために店舗は必要だが、客数は飛行機の発着に依存するため従業員を張り付けると採算が合わなくなる。人手不足の解消と人件費削減が目的だ。
TTGでは、既存店を無人店舗化することで、レジ作業が削減され、また店舗監視や接客をコールセンターで行うことができるようになるので、通常店と比較して店舗運営のための人件費を最大75%削減可能だ。
2024年3月時点でTTGの技術を導入している店舗の総数は160店舗ほど。郵便局の空きスペース、ホテル内売店、ガソリンスタンド併設店、物流施設の休憩室、小売業の社員向け休憩所、大学の学生用売店、高速バスターミナル、病院内売店などなど、その導入企業、立地は多岐にわたる。
「無人だからのんびり買物ができる」
化粧品のオルビスは、2023年5月から「ORBIS Smart Stand」と称して、TTGの無人決済システムを導入した無人販売店舗をオープン。2024年5月末現在全国に4店舗を展開している。自分に合った手入れ方法や悩みなどをビューティーアドバイザーに相談できる「オンラインカウンセリング」サービスも店頭で提供。無用な接客がなく、マイペースに購入できると好評で、意外と男性客が多い。なお、この店舗は発注・品出しまでTTGがサポートしており、支店が近隣になくても店舗運営が可能であることを実証した。
店舗の状況に合わせてオリジナルの店舗レイアウトをつくれるのが「TTGSENSE」というソリューションだが、それをパッケージ化したのが「TTG-SENCEMICRO」だ。あらかじめ組み上げられた櫓(やぐら)を店舗に設置することで、そのエリアを無人店舗化できる。
最大3尺棚5本の構成で、200SKUの展開が可能。ガソリンスタンド、職域、ホテル内など、様々な場所で活用が進む。(大きさを倍にした、「TTGSENCE MICRO W」や、棚と決済什器のみでコンパクトな展開が可能な「TTG-SENSE SHELF」も提供している)。
価格については元々発生していた人件費等の運営コストの削減に伴い利益が出るような費用感での提供となっている。
この1年でデータの蓄積や活用の手法も洗練されてきた。お客動線や商品を手に取ったかどうかなどのデータを詳細に測定し、売場や棚の売上最大化に直結した分析基盤も構築が進んでいる。
無人決済というと、これまではお客の使用感の話が中心だったが、徐々にその段階は卒業し、店舗での活用方法に焦点が当たりつつある。それまで採算を合わせるのが困難と思われていた商圏、商材でのビジネスを成立させ、既存店の売上にプラスオンしていく。あるいは、万引きによるロスを食い止める。省人化によってコスト削減を狙う…。TTGの無人決済システムは、工夫次第で様々なメリットを小売業にもたらすものになりそうだ。
〈 取材協力 〉
市場成長に欠かせない、効果計測とデータガバナンス
株式会社unerryと株式会社CARTA HOLDINGSでは、小売業、広告業など関連24社とプロジェクトを結成し「リテールメディアカオスマップ」を作成。主要プレイヤーや信頼に足る小売業パートナーの紹介、各プレイヤーの役割などを公開した。今回は前号に引き続き、作成当事者の一人である、unerry代表の内山 英俊氏とサイバーエージェント社 藤田 和司氏の対談を通じ、データ整備や運用上順守すべきコンプライアンスについて解説する。(月刊マーチャンダイジング2024年8月号より転載)
前回の概要
前回、「リテールメディアカオスマップ」解説①では「リテールメディアの全体像と押さえておくべきトレンド」のテーマでお二人に解説して頂いた。そして、リテールメディアの正しい効果計測には、小売各社のデータを横断的に計測することが求められるが、そのためのデータ整備や許諾が難しいことがデータ活用上のひとつの大きな課題であるという、内山氏の発言を最後に紹介、今回はそれに続く対談を紹介する。
リテールメディアの効果計測は流通横断で行うべき
藤田 リテールメディアにおけるデータ活用で、小売企業のデータ開示、データ共有の意識がひとつの課題とのことですが、私も同感です。
リテールメディアはメーカーから見たときに最終的にはネットワーク的に使う。つまり、Googleのネットワーク広告のように、一定のリテールメディア予算があって、エリアやメディアの属性、過去の広告効果などを見て、出稿したい商品に合わせてリテールメディアを選んで予算配分していく。様々なメディアを使い分け最大のリターンを得るのが近い将来像ではないでしょうか。今はその過渡期なのでまだ問題がある。内山さんのお話を聞いてそういうことを思いました。
データの整備という観点から、商品の分類が小売企業ごとに相当違います。ひとつの商品の売れ行きを小売横断で集計しようとする場合、JANコードならある程度うまくいくのでしょうが小売企業独自のインストアコードが増えているのでマーケティングに上手く活用できていない局面もあるかと思います。
企業によっては、弁当、総菜、菓子といった分類しかありません。それに属する商品の売上構成比が数%なら問題も小さいのですが、コンビニ、食品SMでは大半をそれらが占めています。
こういうケースに対して、われわれが今ご提案しているのは、LLM(大規模言語モデル)を活用することで、例えば総菜なら、それが揚げ物か、サラダか、麺類かといった分類をしてインストアコードにタグ付けします。
これが分かるだけでも、揚げ物をよく買う人には血流や脂質をケアする商品を訴求しようとか、サラダの購入者は健康志向の人だとか、マーケティングする際のターゲティングユーザーは増えるはずです。
一次情報を二次、三次と膨らませていく、unerry様でもお持ちの人流データを掛け算、足し算して価値を付加することもできると思いますが、どのような使い方が可能でしょうか。
内山 小売企業の観点で見たときに、自社が運営するリテールメディアに広告を配信した結果、その小売の店舗で購買すれば自社の販売データで効果はわかります。
しかし、その広告を見た人が、必ずしも配信元の小売の店舗で買うとは限りません。
unerryの人流データを使った分析では、あるリテールメディアの広告を見て、配信元の小売とは別企業の店舗で購入している人も推計できます。そして、その数は相当数に及びます。
こうしたことを私たちが正しく計測させてもらえれば、配信したリテールメディアのROI(投資効率)が上がります。それが本当のリテールメディアの効果だと思います。
藤田 配信元以外の店舗での購買データは、メーカーのニーズも相当高そうです。ある小売で実施したリテールメディアに対して、その効果が一流通で収まっているはずはないのですが、一つの流通でしか見られないケースが多いのが現状です。
これでは広告主は費用対効果が合わないと思うこともあるでしょう。unerry様のサービスはその課題のソリューションになりそうですね。
内山 正しくメジャメント(計測)しないと効果の評価を間違うので、メジャメントの指標も合わせてご提供しています。
その店舗をどのような文脈で利用しているか知る
藤田 小売業のファーストパーティデータ(自社購買データ)から見えるもの以外、例えば、居住エリア、勤務エリア、買い回りパターンなど、顧客が別角度から見えるデータを取れることも位置情報の特徴的なところだと思っています。顧客データの価値を増やすという点では面白いですね。
内山 通勤途中に使っているのか、日常生活エリアの中で使っているのか、お客様がその店舗をどういう文脈で使っているかを理解した上で、こういうプロモーションにしましょうとつながるはずですが、ファーストパーティデータだけではそれが分かりません。
そこを補完すれば、他店を利用して態度変容したのか、自社の利用が減って他社の利用が増えたのか、あるいはその逆か、行動の中からお客様の態度変容をしっかり捉えることができ、施策に生かすことができます。
藤田 どういう文脈でその店舗を使っているのかという視点は面白いですね。ドラッグストア(DgS)で言えば、近隣のDgSが競合だと思っていたら、買い回り先を見たら実は競合は近隣の食品SMだったということもあります。自店の商圏は調査しているが、その分析が正しくなかったということも結構ありそうです。
位置情報を使った商圏、競合分析は、本部が見たときに店舗の不振の原因が分かったりします。店舗では競合に売価で負けている、競合がセールをよく打つなどと分析していても、そもそもの競合が違うというケースもあります。位置情報を使った計測ではそういったことも見えてくるのが面白いですね。
リテールメディアにおけるデータガバナンスの注意点
藤田 法改正もあり、インターネット上の利用者情報の管理がより厳密になりました。リテールメディアで取り扱う情報の許諾など、内山さんが特に注意していることは何でしょう。
内山 いくつかの観点がありますが、われわれのようなデータ事業者の立場から見ると、扱うデータの取得元のパーミッションが明確かどうかはしっかりと意識する必要があります。
どのようにして集めたのか不明瞭なデータが小売やメーカーに提供され、よく調べるとそのデータは広告配信に使用してはいけないデータであったというケースも考えられます。
どこまで活用しても良いデータなのか、しっかりと確認できていないまま活用してしまわないよう注意が必要です。
もう一つ、2023年6月には改正電気通信事業法が施行されましたが、外部送信規律(用語解説①参照)も意識しなければなりません。
小売アプリで広告事業をしようとすると適用される可能性がありますが、例えばリテールメディアという概念を知らない顧問弁護士などの観点だと、小売が広告事業をやるとは考えないため、適用されないと回答される恐れもあります。
この点は現場も意識するべきでしょう。意識の高い企業は法改正に従ってプライバシーポリシーを修正していますが、対応が追いついていない企業も存在するように思います。
個人情報を事業者間で提供する場合の対応にも注意が必要です(用語解説②参照)。第三者提供か委託かでデータの扱いルールは異なります。
委託で取得したデータを事前にユーザーに確認を取らずに別データと掛け合わせるなど、委託の範囲を超えて利用することは法律違反となるので適切な運用が強く求められます。
外部の情報と自社の個人情報を連携させる際はその旨を明示してユーザーの許諾を取る必要がありますが、許諾の内容とデータの活用状況に乖離がある運用になっていることも考えられます。
何の目的で、どの項目を、どのような条件で提供するのか、確実に明記することが求められます。
用語解説① 外部送信規律
電気通信事業を営む者は、利用者の端末に外部送信を指示するプログラムを送る際は、あらかじめ、送信される利用者に関する情報の内容等を、通知・公表等しなければならないこと。
※外部送信/パソコンやスマートフォン等の端末に記録された利用者に関する情報を、その利用者以外の電気通信設備(Webサーバ等)に送信すること。
(文責/編集部)
法令順守のために利用者情報の保護を整備する
藤田 市場が大きくなると社会の関心も高くなり、利用者情報の保護問題はより大きくなります。今のうちに正しく対応しなければいけません。グレーゾーンやまだ定まっていないことがあるのは確かですが、リテールメディアに正しく取り組みたい小売企業は利用者情報の取り扱いにどのように対処すればよいとお考えでしょうか。もちろん、知見のあるパートナー選びもその対処のひとつでしょうが。
内山 まず本質的だと思っていることを先に言うと、リテールメディアカオスマップで紹介したようにこれだけ多くの知見のある企業並びに関係者がいらっしゃるので「ガイドライン」を出すべきだと思っています。
「リテールメディアプライバシー」に関する規約のガイドラインをつくることが対処法の1つだと思います。アメリカにはすでにIAB(Interactive Advertising Bureau/米国のネット広告団体、Amazon、ウォルマートはじめ約650のメディア、テック企業が加盟)がリテールメディアや測定指標に関するガイドラインを設けています。その日本版を出すべきだと思っています。
あるいは、日本の一部先進的な小売企業が社内規約をつくっているので、そうしたものをモデルケースにして業界として利用者情報の管理を正しく認識し、これに合わせていくことが重要です。
ちなみに位置情報の業界も以前はリテールメディアと同じような状況でした。規約がなかったところから始まり、ロケーションのガイドラインをつくり、同業他社の皆様と協働で一定の健全化が図れたと思っています。
藤田 LBMA Japan(Location Based Marketing AssociationJapan/位置情報マーケティングサービスを推進する非営利社団法人。内山氏は理事を務める)を立ち上げ活動されています。
インターネット広告ではJIAA(Japan Interactive Advertising Association/日本インタラクティブ広告協会)の中で利用者情報のルールのとりまとめを行ってきましたが、リテールメディアはそれを越えた範疇でのルールづくりが求められます。そろそろ協議会をつくる必要があるかもしれません。
希望も込めて見ると、メーカーも変わろうしているし、小売も専任の部署を立てる企業が増えてきました。しかし、まだ仕組みや活用をどうするかという段階です。将来的にはターゲティング、効果計測など、データの取り扱いが事業のコアになります。そのときまでに、利用者情報の保護、管理のルールづくりをする必要があります。
新しい事業に挑戦するという機運の中で、情報をどのように使いたいかを定義した上で、それが適法か、理にかなっているかの判断を法務部門も含め、 事業側でもできるようになると理想です。それを担う人材をどう育成するかも小売企業の1つのテーマになると思います。
内山 unerry独自で勉強会を無償開催しています。法律の改正やリスクをアドバイスしながら規約を整えるお手伝いはできます。個人的にやっていることなので、普段のお取引がある、なしは関係ありません。ご興味があればいつでもおっしゃってください。
藤田 勉強会のお申し出をありがとうございます。様々な制限を受ける繊細な情報に取り組んでいるという認識が大切ですね。リテールメディア発展のために、今後とも連携できればと思います。
本日はありがとうございました。
用語解説② 「個人情報の第三者提供」、「委託」
個人情報の第三者提供
個人情報取扱事業者が、保有する個人情報をそれ以外の者(第三者)に提供すること。
委託に伴う個人情報の提供
個人情報取扱事業者がその利用目的の達成に必要な範囲内に限り、個人情報の取扱いを委託することに伴い個人情報を提供する場合は、個人情報の第三者提供に該当しないものとされている。
(文責/編集部)
《取材協力》
リテールメディアの全体像と押さえておくべきトレンド
株式会社unerry(ウネリー/東京都港区、代表取締役CEO 内山 英俊氏)と株式会社CARTAHOLDINGS(東京都港区、代表取締役社長 執行役員 宇佐美 進典氏)は「リテールメディアカオスマップ2024年版」を作成した。今回は作成当事者の一人である内山 英俊氏とサイバーエージェント社 藤田 和司氏の対談を通じて、作成目的や特筆すべき最近の傾向について解説する。(月刊マーチャンダイジング2024年7月号より転載)
リテールメディア関連プレーヤーを5つに分類。実績ある企業を明示
藤田 まず、「リテールメディアカオスマップ」を作成した背景などを教えて頂けますか。
内山 2022年から2023年にかけてリテールメディアというテーマで非常に多くの企業がこの分野へ参入しました。あまりに多くの企業が乱立して、だれが何をやっているのかよくわからなくなったというのが2023年の事象でした。アメリカでのAmazon、ウォルマートの成功事例が大きく取り上げられたことも背景にあると思います。
このような状況下、多くの企業の間で様々な取組みがありましたが、そこでひとつ問題となったのが、多くの小売業がどの支援事業者と組めばよいのか、わからなくなったことです。
結果として、“筋の良くない”取組みも生まれ、リテールメディアがうまくいかないという事態も散見されました。例えば、小売から購買データは預かったものの、広告出稿するメーカーが見つからない、そうするとバイヤーが動かざるを得なくなり、結果としてリベートと広告費の違いがわからなくなるという例も多かったように思います。
どのような事業者がどのような価値を提供しているかを整理して、一定の実績や信頼度のある固有の企業名も出して、リテールメディアの全体感を示すことが重要だろうと考えたのが作成の背景です。
藤田 たしかに様々な事業者が出てきたものの、外から見ると何をやっているかわかりづらい、市場として期待も含めて盛り上がっているのに、プレイヤーが整理されていない感じはありましたね。そこを関係各者が思いをひとつにして、どのような企業が何に取り組んでいるかを一覧で皆さんに理解して頂くという初の試みが「リテールメディアカオスマップ」ですね(図表1)。このマップの見方と最近のトレンドなどあれば教えてください。
内山 構成する部門は「メーカー」、「小売」、「消費者」の3つです。これは、小売がメーカーから商品を仕入れて消費者に販売するという商流と同じ構図です。ただし、小売事業者が単独でリテールメディアに必要なものをすべて揃えるのは難しいです。従って、それを支援するために様々な事業者が小売部門に参画するという構図になりエコシステム(相互協力関係)が形成されています。それを分解しているのがカオスマップとなります。ここを大きく5つの領域に分けています。
まず、「小売事業者オウンドメディア」の領域ですが、各社が相当な投資を行いアプリ、店舗サイネージ、ショッピングカート、SNSなどに注力してユーザー基盤が拡大されました。これがリテールメディアの本丸中の本丸で、一定のボリュームの配信が可能になったことが一番特筆すべき点だと思います。
一方で、規模を獲得できない中小の小売事業者は一番右にある広告ネットワークに参入することで規模の問題を解消しています。店舗サイネージ、自社アプリのネットワーク化が進んだと言えます。大手は積極的な投資を行い自社でユーザー数を拡大し、中小はネットワーク化していく、これが合わせて進んでいるのが小売で起きているトレンドです。
次に、左下にある「総合サービス」です。文字どおり、小売事業者に対して、リテールメディアに必要なことを総合的に支援する企業群です。広告代理店やサイバーエージェント様などに加えて総合商社が参画したことで、規模を追求する企業が本丸に加わったことになり、市場拡大には大きな意味があります。これは特筆すべき流れです。
3番目が「データ」です。リテールメディアの核になる仕組みは、消費者から何らかのデータを同意を得た後に取得して、それを小売が持つオウンドメディアや各種広告メディアに流していくことで、しっかりターゲティングや効果計測ができることです。従ってデータプロバイダーは非常に重要です。
こうした事情もあり、データの領域には購買データ、カメラを使った画像データ、位置情報、ビーコンなど実に多くのプレイヤーが乱立しており、サービスの内容や質も様々でした。それらが相当に集約されてきたというのがトレンドです。
4番目が「広告メディア」。元々はプラットフォーマーにおけるオフサイト配信(自社のアプリやECサイト以外の外部サイトへの広告配信)が一定量あったのですが、本丸であるテレビ、CTV(コネクテッドテレビ/インターネット接続テレビ、Netflix、AmazonPrime Video、TVer等々)をどう活用していくのかがひとつのトレンドです。
もうひとつ押さえておきたいのは、決済、およびポイントのプラットフォーマーの存在感が高まってきたことです。
5番目が「ソリューション」。小売事業者が自力で構築が難しい機能についてはデータ整備企業、コンテンツ・クリエイティブ制作会社、UX支援事業者などがサービスを提供しています。ここも相当に玉石混淆の状態でしたが、サービスレベルの高い事業者が選別されてきた感があります。
アプリ、サイネージ、効果計測、配信など、中小企業も多いなかで、リテールメディアとしての条件を兼ね備えたソリューションができてきました。加えて、それらが多様化されているので、この領域では小売事業者から見ても、様々な価値を受けられる企業が増えてきたと思います。
日本のオフラインリテールメディアには高い競争力がある
藤田 リテールメディアカオスマップの作成背景で、支援事業者が小売からデータを預かったのはいいが広告出稿するメーカーが見つからずに小売バイヤーが関与せざるを得なくなった。このようなケースが散見されて、うまく事業が前進しなかったというお話がありました。
もうひとつは、小売が自ら主導してリテールメディア事業を展開する場合、商談の力関係で媒体の売買が成立するというケースも見られたと思います。本来、小売とメーカーが協業しながらつくり上げて、お互いが成果を受けるべきなのに、メーカー側の利益が十分確保できないという状況もありました。
この反省を踏まえて、例えば、支援事業者にいきなり効果を期待するのではなく、効果の定義からまず話しましょうといった、中期的視点で取り組もうという機運が、この1、2年で醸成してきたように思います。
とくにメーカーのなかでは、リテールメディアの担当者を決めるのも難しいことでした。広告なのか、販促なのか、という議論が行われているように思いますが、リテールメディアは両方の特性を持った新しいメディアです。広告として認知を取り、販促として購買につなげる。これが一気通貫でできます。ただ、予算の組み方が広告か販促か決まっておらず、どちらかというとメーカーの営業部が対応することが多く、そうなるとリベートとの違いが曖昧になってきます。
ここ1、2年でメーカーがリテールメディアの部署をつくり始めて、新しい予算を執行するケースが間違いなく増えてきました。
内山 アメリカでは、広告費、販促費、リテールメディア費と予算を3つに分けているメーカーが非常に多くあります。外資系のメーカーは同じような考えを持っているので、日本メーカーもそれに学びつつあるのではないでしょうか。
藤田 日米比較で言うと、リテールメディアを展開している領域もアメリカはオンライン中心で日本ではオフラインが中心です。成熟度という観点から見れば、アメリカの進捗状況の半分程度でしょうか。ようやく効果計測が始まった段階です。この完成度が上がると市場成長には勢いがつくでしょうが、短期的な売上だけでよしあしを判断すべきではないと思います。
内山 おっしゃるようにアメリカはオンライン主流で広がっていき、オフラインも1兆円くらいの市場になっています。日本には正確な市場の定義はまだありませんが、恐らく1,000億円くらいで、市場規模で1桁違います。経済規模で考えてもまだ半分弱くらいの感じでしょう。
ただ、オフラインのコミュニケーション手法としてアメリカと日本でどちらが優れているかというと、日本が相当に優れていると感じます。この分野においてアメリカに展開可能なものもたくさんあると思っています。
オフラインの効果計測の仕組みだとか、オフラインで実際にユーザーに配信する、ショッピングカート、デジタルサイネージの置き方、一つひとつを見ても、かなり洗練されています。非常に細やかで、その辺りには大きな競争力があります。
藤田 本当にそのとおりだと思います。日本のおもてなし、接客文化をデジタルに載せたときに、この競争力は国内だけにとどまらないでしょう。このソリューションを持ってアジアや欧米へ輸出していく可能性は十分にあります。
購買データの共有意識に大きなずれがある
藤田 リテールメディアカオスマップの中にもあるデータが、リテールメディアの中心的な役割を果たす部分だと思います。データを集めて活用するにあたって、unerry様がどのような取組み、役割を果たしているかを教えてください。
内山 私たちは、本質的には“メジャーメント”のプレイヤーであると自らを位置づけています。unerryでは提携する100以上のスマホアプリを通じて位置情報に基づく人流データを取得しています。これと連携して、例えば、自社アプリだけでは得られない、他店での購買データも取得できる仕組みを整えることができます。人流データと購買データの両方があれば、小売アプリを持っていないユーザーの購買状況を捕捉できます。ターゲティングのボリュームを大きくすることが可能になり、それに伴う効果計測ができます。
藤田 リテールメディアに限らず、デジタルを使った施策は効果を可視化して、改善することが大前提です。そこが一番の持ち味だと思います。unerry様のようなプレイヤーが客観的に効果を可視化してくれることは重要な役割です。
データを活用して計測して、次にもっとよくしていくという機運が業界全体で盛り上がっています。一方でデータを活用したいが、思いが空回りする、なかなかうまくいかないといった相談もあるかと思います。内山さんから見て、データ活用のボトルネック、ここは気を付けた方がいいという点はありますか。
内山 いろいろなレベルの話があると思いますが、一番ずれているものがあるとすると、小売各社のデータを活用するにあたっての意識だと思います。メーカーのリテールメディア予算は特定の小売業だけを対象にしたものではありません。本来、小売各社のデータ横断で、商品の売れ行きや購買行動を計測すべきものですが、小売企業からすると自社データをいかに活用するかがテーマになっており、横断的に使うためのデータ整備や許諾が難しい。この状態が続くと、リテールメディアの効果計測は限定的になるので、これを育てたい小売事業者にとっても好ましいことではありません。
unerryの人流データは、独自のIDに基づいて全小売の一定のボリュームを来店計測しているので、モバイルIDがなくても購買データが取得でき、小売業横断の仕組みがつくれます。それを小売が許諾するかが大きな問題なのです。
〜次号へ続く〜
この後、リテールメディアにおけるデータ活用のポイント、活用するために許諾を得るうえでの注意点などを、月刊マーチャンダイジング2024年8月号ならびにMD NEXTにて引き続き内山氏と藤田氏の対談のなかで紹介します。
《取材協力》
バレンタイン、猫の日、新生活、春の衣替え…。企画のネタ盛りだくさんの2月、3月
毎月のプロモーションのネタに便利に使える販促企画書。2025年2月、3月のアイディアです。
正月、成人の日、バレンタイン、猫の日…。企画のネタ盛りだくさんの1月、2月
毎月のプロモーションのネタに便利に使える販促企画書。2025年1月、2月のアイディアです。
クリスマス、大晦日、正月、成人の日…。企画のネタ盛りだくさんの12月、1月
毎月のプロモーションのネタに便利に使える販促企画書。2024年12月、2025年1月のアイディアです。
介護の日、いい歯の日、クリスマス、大晦日…。企画のネタ盛りだくさんの11月、12月
毎月のプロモーションのネタに便利に使える販促企画書。2024年11月、12月のアイディアです。
トクホの日、ハロウィン、介護の日、いい歯の日…。企画のネタ盛りだくさんの10月、11月
毎月のプロモーションのネタに便利に使える販促企画書。2024年10月、11月のアイディアです。