JACDS塚本厚志氏に聞く「地域の健康相談機能、医薬品購入の利便性確保を追求していきたい」

日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)は、1999年の設立。今年で25周年を迎えた。この節目の年に同協会会長に就任したマツキヨココカラ&カンパニー代表取締役副社長塚本厚志氏に今後の方針や医薬品販売を取り巻く環境などを聞いた。(聞き手/月刊マーチャンダイジング主幹 日野 眞克)(月刊マーチャンダイジング2024年12月号より転載)

情報共有、生産性向上のためのプラットフォームをつくる

─今年度からJACDSの新会長に就任されました。抱負や感想などお聞かせください。

塚本 今年でJACDSが設立されて25周年です。これは先人の経営者たちが生活者視点でものごとを捉えて、環境に適応、対応した上で、社会の役に立ちたい、地域に貢献したいという強い思いが結実した結果だと思います。

もともとドラッグストア(DgS)は商品数が多く、サプライヤーも多数あり、売場面積の小さい店から大きな店までつくることにより、商品政策の力を向上させ、変化に対応できるようになりました。

各企業が様々なフォーマットを持っており、店舗数は2万3,000を超え10兆円産業目前です(編集部注:DgSの2023年度売上総額9兆2,022億円)。企業や屋号はともかく、日本国民が何らかの形でDgSを使っており、DgSがあってよかったと思われるような産業にまで進化しています。

次の25周年に向けて、若い経営者たちDgSで働く人たち、携わる人たちがどのように生活者を支えていけるか当事者意識を持って考えなければいけない時期になっています。

協会の役割としては、会員、賛助会員、卸、メーカー各社が参画して、ミッションを明らかにしてプラットフォームを整備する。これを通じてヘルス&ビューティに役立つ情報を共有し、サプライチェーンの効率を高めて、生産性を上げることだと思います。その結果、この産業に携わって良かったと思える人を増やす、これが協会のミッションになります。

DgSのセルフチェック機能を追求していきたい

─DgSを地域で健康に困った人が最初に相談できる場にしようという「健活ステーション構想」をお持ちですが、現状いかがでしょう。

塚本 食と健康については、機能性表示食品や特定保健用食品(特保)など、一定の効果が認められた商品を消費者に分かりやすく陳列することなどに取り組んでいます。売場に付ける陳列ボードは消費者庁と緊密に連携しながら、最大限わかりやすく誤解を与えないような表示にしました(図表1)。

[図表1]ピクトグラムを活用した売場トップボードの事例

現在考えているのは、DgSとしてセルフチェックの可能性をもっと追求することです。指先から血液を採取して測定するなど、専用の機器を必要とするセルフチェックは各企業、店舗事情などによって置ける、置けないという問題があります。

その点、尿の試験薬(紙)なら商品として販売できて、いくつかの商品があり、尿タンパク、尿糖など疾病につながる複数の数値をセルフチェックできます。セルフチェックの結果を薬剤師などの専門家が聞いて、必要に応じて受診勧奨すればDgSの健康サポート機能は高まります。「尿検査を自分でやってみよう」という啓発活動を今後DgSで行っていこうと考えています。

─管理栄養士についてどうお考えですか。

塚本 協会の会員企業にも管理栄養士はたくさん在籍していますが、活躍の場を広げないといけません。多くの場合、管理栄養士は登録販売者やビューティアドバイザーの資格を持っていますので、栄養、食事の知識をヘルスケアやビューティの接客に使えば売上につながることが多いのです。

管理栄養士を含め、従業員が接客の機会を増やすためにも、品出しなどの売場作業、マネジメントにDXを取り入れてサプライチェーン全体の効率化を図ることが大きなポイントになります。

セルフケアのため、OTC医薬品へのアクセス、相談機能は不可欠

─厚生労働省が「医薬品販売制度の見直し」のとりまとめを発表しています。これをJACDSではどのように受け止めているでしょうか。

塚本 DgSはOTC医薬品全体の約8割を販売しています。ですから、協会の大きな役割としては、医薬品に関する法律や規制に関して意見を具申することです。行政、関連団体との連携を果たしていくことが重要な役割になります。

これを果たしていくために、「ガバメントリレーションズ」という役職を設けました(図表2)。健全で正当なロビー活動をしていこうと、業界団体では珍しいことですが、私が会長に就任するにあたり、この考えを主張することにしました。

[図表2]JACDSの2024年度組織図

生活者の役に立ちたいという理念のもと、主張すべきは主張して、インフラとして存在することが国民生活にとって重要です。健全な業界の成長を目指すためにも正当な主張と活動が必要、その実現を目指すための態勢が6月から始まった新態勢です。

DgSにある商材などを使って自分の健康を守るセルフケア・セルフメディケーションを進める上でOTC医薬品は貴重な商材で、生活者の身近でいつ訪れても気軽に自分で選んで買える。相談したければ、薬剤師、登録販売者に相談できる。こうしたアクセスの良さ、専門家への相談機能が損なわれることがあってはいけません。

これは、DgSの従業員が一番よく分かっているのではないでしょうか。土曜の夜で近くのクリニックもお休み、そんなときまずはOTC医薬品を使って様子を見ようという人たちはたくさんいらっしゃいます。

専門家に相談したいこの方たちにとって、必要な医薬品が手に届かないところにある空箱対応が義務化されれば、いちいち従業員がバックヤードに取りに行く、こうした事態になれば大きく利便性を損ない、セルフケア・セルフメディケーションという段階が薄くなって貴重な医療資源である医療従事者たちの負荷が大きくなります。

このようなことにより肝心な相談への対応や情報提供の機会が減少すれば、最終的に不利益を被るのは生活者の皆さんです。

こうした事態を招くような医薬品販売制度の見直しは、セルフケア・セルフメディケーションにとって大きなマイナスです。専門家を医薬品販売に関与させながら、なおかつお客様のアクセスを損なわないようにするのが、われわれの主張の根幹です。

問題になっているのは濫用の恐れのある医薬品ですが、JACDSでアンケートを取ったところ、37社から回答を得て、150品目以上取り揃えている店舗数が1万3,401店舗のうち9,600店舗あり、割合として約72%でした。

これをお客様の手の届かないところに並べる、購入者の個人情報を記録して、それを保管するという内容がとりまとめの中で公表されています。

こうした見直しには賛同しかねますが、DgSがこの問題の対策を講じない訳では決してありません。

協会では特定の薬の濫用に至る過程やその人を取り巻く環境に問題があるのではないかという考えのもと、協会をあげて薬物濫用状態にある人、あるいはその家族が相談できる専門機関へとつないでいきます。

濫用のおそれのある医薬品の常習者、やめたくてもやめられない人に「個人情報は保護するので、悩みがあれば相談してください」というアドバイスをして、専門家につないでいくという活動をしていきたいと考えています。

厚労省のホームページ「薬物乱用防止相談窓口一覧」には、各都道府県の相談窓口の電話番号が記載されています。

また、行政も薬物濫用の対策に関する情報を提供しています。こうした窓口と連携を果たしながら、今後は実現可能なことを考えて実行していきます。まだ、業界全体で合意を取れていることではありませんが、アイデアを出し合い、店頭で実行するオペレーションを考えます。

DgSはコミュニケーションストアです。人口動態を見ると約4割が単身世帯です。社会とのつながりが薄くなりがちな単身世帯の人たちが気軽に入れて、人と人との接点が持てる「地域の寄り合い所」的な場所にヘルスとビューティの専門家がいる。

この基本機能の上にかかりつけ薬局機能と物販機能をミックスさせればまた違う形のフォーマットが生まれるのではないでしょうか。

─本日はありがとうございました。

イオンデジタルアカデミー ボトムアップの生成AI活用

従業員数約60万人を擁するイオングループ。そのイオングループで従業員に対して生成AIの利用環境を提供するという壮大な「実験」が行われた。利用者数は全業態90社、約1,000人。「お試し環境」に触れた現場の従業員からは様々な利用方法が提案され、実験終了後もその熱は冷めやらない。ボトムアップの生成AI活用術に迫る。(月刊マーチャンダイジング2024年12月号より抜粋)

「当たり前」にデジタルを活用する人材を育成

「イオンデジタルアカデミー」(以下デジタルアカデミー)は、グループ従業員のだれもが当たり前にデジタルに触れ、活用できる文化の醸成を目指し、様々な学習機会を提供する場だ。オンラインイベント、ポータルサイトでの情報発信、海外視察、社内勉強会等々、様々なコンテンツやオンラインでの研修などを提供し、IT部門のみならず、本部、店舗のありとあらゆる職種で部門を超えてデジタル活用人材の育成を図る。これまで延べ約3万人の受講生を輩出している。

デジタルアカデミーで生成AIの「お試し環境」の導入を推進したイオンCISO ICT推進担当の吉田俊介氏は、導入の経緯について、次のように語る。

「2023年ころから一般的なニュースでも生成AIに関する話題が増え、デジタルアカデミーでも座学やウェビナーでその使い方を受講生に案内してきました。しかし同時に『座学だけではなく、実際に触って試してみたい』という受講生たちからの声もあり、その声に応えたいと思い、生成AIのお試し環境『AEON DIGIACAお試し生成AIサービス』(以下、『お試し環境』)の提供の検討をスタートしました」

あっという間に埋まった1,000人の枠

2023年9月ころから吉田氏が中心となりお試し環境の立ち上げの検討を開始。吉田氏に元々ITガバナンスやセキュリティに対する知見があり、セキュリティのルールづくりの経験があったのも、スピーディな導入を後押しした。1,000人の利用希望者向けに、2023年12月からお試し環境の提供を開始。利用期間は半年間に限定した。採用した生成AIは「exaBase 生成AI powered by GPT-4」という法人向けの生成AIだ。

続きは月刊マーチャンダイジング note版で!

 

《取材協力》

イオン CISO ICT推進担当
吉田 俊介氏

MD NEXTおすすめセミナー「2025年に差がつく!最新・AI価格戦略 ~科学にもとづく多様性時代のプライシング術~」

MD NEXTからおすすめのセミナーのご紹介です。株式会社サイバーエージェントは、株式会社シンギュレイトとの共催により、経済学の学術的知見をもとにした価格戦略を紹介する「最新・AI価格戦略 ー科学にもとづく多様性時代のプライシング術ー」を、2025年1月17日(金)に渋谷スクランブルスクエアにて開催いたします。ぜひご参加ください。

日本を代表する経営者、稲盛和夫氏が残した「値決めは経営」という言葉が示すように、値決めは単なる価格の決定ではなく、経営全体を左右する重要な要素です。

現代の私たちを取り巻く環境ではニーズの多様化が進み、物やサービスに対する価値の捉え方が、人・時・場所などによって異なる時代となりました。多様性時代において、従来の画一的な価格設定を続けることは、経営リスクとなり得ます。

このような課題に対し、セッション1では最新のAI技術と経済学を活用した価格戦略における考え方や事例をご紹介します。経済学の学術的な知見を基盤に、変化する時代に適応した価格設定の重要性をお伝えするとともに、実践的かつ効果的なアプローチをご説明いたします。

また、セッション2では施策成功の鍵を握る要素として「組織文化」にも焦点を当てます。優れた施策があったとしても、それを実行できる組織文化が整っていなければ、せっかくの優れた施策やアイデアも無駄に終わってしまいます。そこで、データサイエンスと心理学を活用した、新しい施策を成功に導くための組織づくりについても解説します。

本セミナーでは、価格戦略の重要性を改めて見直し、2025年に一歩先を行く戦略とその実践を可能にする組織づくりのヒントをご提供します。
セミナー終了後には、参加者同士での情報交換や、登壇者と気軽に話せる交流会も実施予定です。
参加費無料。この貴重な機会をお見逃しなく。

お申し込みはこちら

◼️開催概要

開催日時 2025年1月17日(金)18:00〜21:00(予定)
主催 株式会社サイバーエージェント/株式会社シンギュレイト
参加対象者 経営者や経営企画・マーケティング部門等の方
定員 先着70名
参加費 無料
スケジュール 17:30    受付開始
18:00-18:10 オープニングトーク
18:10-18:30 セッション1:多様性時代におけるプライシング – 顧客理解と納得感 –
18:30-18:50 セッション2:マーケティング・イノベーションを実現する組織文化
18:50-19:00 休憩
19:00-19:40 パネルディスカッション
19:40-19:45 クロージングトーク
19:45-20:45 相談&交流会
21:00    閉会
開催形式 【会場参加のみ】
〒150-6121
東京都渋谷区渋谷2丁目24番12号 渋谷スクランブルスクエア
※詳細はご応募完了後、メールにてご案内します。

◾登壇テーマ・登壇者情報

登壇テーマ「多様性時代におけるプライシング:顧客理解と納得感」
登壇者:藤田 光明 氏(株式会社サイバーエージェント AI事業本部 シニアデータサイエンティスト)

東京大学経済学研究科修士課程を修了後、データサイエンティストとしてサイバーエージェントに新卒入社。AI事業本部Dynalystで、オンライン広告配信アルゴリズムの改善における、分析・施策立案・アルゴリズム開発・プロダクト実装・効果検証の一連のフローやチームマネジメントに従事。また、社内研究組織との共著論文がWWWなどのトップ国際学会に採択。その後、小売DX領域にて、リテールメディア事業の立ち上げやドラッグストアアプリのグロースに携わる。現在は、事業責任者として経済学を用いた価格最適化事業を推進している。2023年、Forbes Japan 30 Under 30に選出。

登壇テーマ「マーケティング・イノベーションを実現する組織文化」
登壇者:鹿内 学 氏 ,博士(理学)(株式会社シンギュレイト 代表取締役 / 一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員)

京都大学などの研究機関の教員・研究員として、ヒトの脳(認知神経科学)の基礎研究に第一線で従事。その後、大手人材企業でピープルアナリティクスの事業開発に取り組む中、株式会社シンギュレイトを設立。”信頼”をキーワードに、人と人との新しい関係・関係性を作り、イノベーションを増やすことを目指す。ピープルアナリティクスの技術、学術研究などの知見を活用し、イノベーティブな組織づくりを支援している。信頼と主体性を生みだす1on1を実現する1on1支援サービス「Ando-san」、信頼を可視化しイノベーティブな組織への変革を促す組織診断「イノベーション・サーベイ」を提供中。情報量規準が好き、漫画好き、サッカー好き。

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物販、調剤、在宅介護、DX+専門家でHBCの「地域密着型トータルケア」を提供するイオンリテール

専門家とDXを活用して物販プラスアルファの価値創造を目指すイオンリテールH&BC本部の工藤真紀・本部長に、新しい時代のヘルス&ビューティ&ウエルネスのトータルケア戦略について聞いた。(聞き手/月刊MD主幹 日野 眞克)(月刊マーチャンダイジング2024年11月号より抜粋)

3つの物販、2つのサービス それぞれに専門家を配置

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[図表1]イオングループの中期計画の成長戦略

ヘルス&ビューティケアのトータル戦略についてからお話します。イオングループの2021年~2025年度の中期経営計画の中で、図表1の5つの成長戦略を設定しています。

イオンリテールH&BC本部は、図表1の「新たな時代に対応したヘルス&ウエルネスの進化」を成長戦略として掲げています。H&BC事業本部が考える新しい時代のヘルス&ウエルネスの今後については、SDGsからさらに進化したSWGS(Sustainable Well-being Goals)という言葉を今後のトレンドとして表現しています。

SWGSを構成する要素としては、「医食同源」を実現することが最優先のテーマです。さらに、環境(持続可能)、個性(自分らしく生きる)、幸福(笑顔にするサービス)に重点的に取り組んでいきます。この4つのトレンドをリアルとバーチャルで実現していくことを目指しています。

[図表2]5つの売場、5つのサービス

H&BC本部が実現する売場の領域は5つあります(図表2)。ビューティ、ファーマシー(一般用医薬品)、デイリーコンビニエンス(日用雑貨)という3つの物販に加えて、調剤サービスの4つまではドラッグストアとほぼ同じです。

それに加えてユニークな事業として「イオンスマイル」というデイケアサービスの介護事業をH&BC本部として展開しており、3つの物販と2つのサービスで構成されています。

また、それぞれの物販とサービスに専門家を配置していることが大きな特徴です。ファーマシーでは登録販売者、管理栄養士、ビューティはビューティケアアドバイザー、調剤は薬剤師、さらにイオンスマイルでは、「理学療法士」という要介護者の運動・リハビリメニューを作成する専門家がいることは、H&BC事業本部の大きな特徴です。

しかも、5つの専門家と物販・サービスが店舗でもデジタルでも融合した価値を提供していくことがユニークな取り組みであると思います。デジタルでの販売に関しては、「イオンスタイルオンライン」と「ネットスーパー」の2つがあります。

[図表3]H&BCを取り巻く6つの環境予見に5つのグループで対応

H&BCを取り巻く6つの環境変化に、前述した5つのグループで対応していく方針です(図表3)。たとえばMZ世代の消費の中心へということで、ドラッグストアよりもビューティやデイリーコンビニエンス(デリコン)の売場を広くとっていますので、より若い世代に対応した品揃えや売り方ではよりMZ世代に対応できていると思います。

また、持続可能な環境配慮という意味では、オーガニック、フェムテック商品の取り扱いを増やしています。

H&BC本部の5つの重点戦略

さらなる成長に向けて、H&BC本部は以下の5つの戦略を進めていきます。

続きは月刊マーチャンダイジング note版で!

 

《取材協力》

イオンリテール株式会社
執行役員 H&BC本部本部長
工藤 真紀氏

不明ロス対策のためのプラットフォーム構築を目指す全国万引犯罪防止機構

全国万引犯罪防止機構(万防機構/東京都千代田区神田駿河台)は経営を圧迫する経済問題であり、青少年の健全な育成を阻害する社会問題でもある万引犯罪の防止を目的に2005年に設立。ポスターによる啓発活動や講演などを通じて万引防止のために広く社会に働きかけている。ここでは、同機構の副理事長で元警視総監でもある樋口建史氏に万防機構の活動や万引きを含む「不明ロス」対応の具体策などを聞いた。(聞き手/月刊マーチャンダイジング編集長 野間口 司郎)(月刊マーチャンダイジング2024年11月号より転載)

万引防止活動は規範意識を向上させる一助になる

─万防機構設立の目的や活動について、改めて教えてください。

樋口 まず申し上げたいのは、安心安全でなければ社会活動も活発にならないし、企業も投資をためらいます。安心安全こそが社会に活力をもたらす最大のインフラだと思います。

国際的に見ても、日本は最も安心安全な国だと言われています。これは警察の努力だけではなく、官民合わせて良い社会づくりができているのだと思います。言葉を換えれば、日本人の規範意識の高さが安心安全の要因になっているのです。

そして、万引防止を広く呼びかけることは、この高い規範意識を維持させることにつながると思います。万引防止活動以外でも自転車ルールの啓発活動、薬物乱用禁止を訴える「ダメ、ゼッタイダメ。」という標語を使ったキャンペーンなども同様です。

こうした犯罪防止、ルール順守に不断の取り組みをすることで世界でもまれに見る規範意識の高さが保たれているのではないでしょうか。なかでも「万引防止」は老若男女に共通する身近なテーマです。

不明ロス被害と財務を結びつける習慣がない

─米国の大手小売業は、万引きを含む不明ロス対策に積極的ですが、日本はいかがでしょう。

樋口 ある大手小売業のトップとお話していたら、「(万引きは)こういう商売をしていると仕方のないことです」とおっしゃいました。また、別の小売企業トップの方からは「万引きしてでも欲しくなるような魅力的な陳列でなければモノは売れないのですよ」とお聞きしたこともあります。

もっとも、そのような企業でも最新鋭の防犯カメラを導入するなど万引対策は立てているのですが、残念ながら運用が適切でないなど、全体として見れば、日本の小売業、特に経営層は米国ほど意識は高くない、体系的、全社的で実効性のある万引防止対策は遅々として進まないという印象です。

─それはなぜだとお考えですか。

樋口 色々理由はあるのでしょうが、そのひとつは不明ロスと財務を結び付けて考える習慣がないことではないでしょうか。私たちは万引きだけでなく、内部不正、業務管理上のミスも含めて不明ロスとして考えています。

日本の企業は計画した予算など一定の売上、利益を挙げればそれで満足しますが、こうした不明ロスがなければ純利益にそれだけ上乗せできたはずです。不明ロスによる損害は真水の金額です。

米国の決算説明会や株主総会などでは、例えば、利益が悪かったとき、それが在庫過剰だったのか、経費がかかりすぎたのか、それとも不明ロスが多かったのかなど、財務状況を分析するひとつの指標として不明ロスが扱われています。

万引き、不明ロスに関して現場では大変に関心が高いのです。しかし、それが経営層や財務とつながっていないという印象です。アメリカでは投資家の関心も高いと聞いています。

年間の推計不明ロス額約8,350億円 万引被害の認知率は推計0.3%

─日本でもブックオフ(ブックオフグループホールディングス)で大規模な内部不正があり、2024年5月期決算の発表を延期、特別調査委員会が設置されるという事件が発生しました。これをきっかけに日本の小売業の経営者も不明ロスへの意識が高まるかもしれませんね。

樋口 そうなることを願います。お客様商売なので万引対策は正面切って打ち出しにくいし、内部不正も身内の恥という意識で公表しづらい面もあります。しかし、実情は看過しがたい被害が出ています。

[図表1]不明ロスの推計値

万防機構が不明ロス額を推計しましたが、その額は約8,350億円、そのうち万引被害の推計値は3,460億円にもなります(図表1)。

[図表2]万引被害の認知件数率(推計)

2023年の万引きの認知件数は9万3,168件です。被害額から推計すると3,460万件の万引きが起きているはずで、認知件数割合はわずか0.3%、99.7%は認知されていないことになります。こうした推計値から、万引被害の認知は氷山の一角にすらならないという声もあるほどです(図表2)。

確かに被害届けを出すと事情聴取や書類作成などで店長さんが時間をとられるということもあり認知されにくいのが実情です。

だからこそ、未然に抑止することが重要なのです。万防機構では万引をはじめ、広く不明ロスを抑止する対策を立てるために「ロス対策士」という検定試験を主催、実施しています。

─ロス対策士検定試験はいつ頃から始めたのでしょうか。

樋口 2017年にウォルマートのロス・プリベンション担当ディレクター、ホームセンターのロウズの元副社長や、この分野の第一人者でLPRC(ロスプリベンション・リサーチ・カウンシル)の創設者の一人であるフロリダ大学のリード・ヘイズ博士(「Retail Security & Loss Prevention」の著者:邦訳「小売業のロス対策入門」)など、米国の専門家、実務家を招聘し日本でロス対策に関する「万引対策強化国際会議」を開催しました。約400人の参加があり、万引対策の機運が大変に高まりました。

これをきっかけに、米国の制度を参考に「ロス対策士」という検定試験を日本でも確立しようということになり、万防機構理事の近江元(おうみはじめ)氏を中心に勉強会が立ち上がりました。議論や勉強を重ね2021年に最初の試験が始まり、これまでに650人以上のロス対策士が生まれています。

[図表3]不明ロス対策に必要な新たなマインドセット(心構え)
[図表4]ロス対策士が学ぶこと

不明ロスは、業種の性格上仕方がないと捉えられていました。もちろんゼロにすることはできませんが、専門的な知識と技術で適正水準にコントロールできるのです。その一翼を担うのがロス対策士なのです(学習内容は図表4参照)。

不明ロスは異常値、事件ではなく、いわば必然であり、予め設定した目標値以下に減少させるといった新しいマインドセット(心構え)で臨む必要があるのです(図表3)。

日本の小売業、とくにDgS(ドラッグストア)は多店舗展開していて4桁の店舗を出店するDgSも複数あります。1店舗ごとに対策を立てると費用対効果が合わないでしょう。郊外型、都市型など立地タイプによっていくつかのパターンに分けて計画的、事前に対策を取れば効率的だと思います。

しかし実態は一度被害が起こると、対症療法的にカメラを設置したり、警備員を置いたりすることが多く、受け身的な企業が多いように感じます。チェーンストアの特徴を生かして対策も標準化することが大切だと思います。

[図表5]万防機構の提案する「ロス・プリベンション」

私たちはロス対策士の検定試験を活用して、専門家、実務家を育成することで、不明ロスを未然に防ぐ「ロス・プリベンション」を提案しています(図表5)。ある書籍販売企業の事例ですが、この企業は店長以上の職位にロス対策士の資格取得を義務づけています。

[図表6]ロス対策士合格者総数と不明ロス率の推移

2019年から2022年までの不明ロス率は平均で0.375%、ロス対策士を2021年から育成して3年目の2023年には不明ロス率が0.11%、前年より0.34%下がっています(図表6)。この企業は72店舗、年商は約170億円なので、改善したロス不明率0.34%は5,780万円に相当します。

様々な活動をつなげて、プラットフォームをつくりたい

─今後、万防機構が目指すものはなんでしょう。

樋口 不明ロス対策士検定試験が普及することで、被害を出さない、また犯罪者を出さないことに貢献していきたいです。また、ロス対策士同士が情報共有できる環境や基盤づくりもできればいいと思っています。

現在、日本宝くじ協会助成事業として、万引防止のポスターや冊子をつくって全国の中学1年生に配布することで、青少年の規範意識向上を図っています。神奈川県では高齢者の万引きの再犯防止のプログラムをつくって実施の支援をしています。

その他、顔認証カメラを使った万引抑止の取り組み、警察との連携なども行っています。

最近は、インターネット事業者の協力を得て、盗品がインターネット上で販売されていることの実態把握や盗品販売の抑止に注力しています。以前は盗品をさばくためには、専門の犯罪組織のネットワークを使わなければなりませんでしたが、インターネットが発達して、オークションや販売サイトで簡単に売ることができ、万引きをビジネスとする個人が多数生まれています。

オークションサイトなどをモニターして、例えば、同じアパレルチェーンの新品が繰り返し出品されるなど怪しい動きがあれば警告を発し、盗品であることが判明すれば警察と協力して摘発するといったことを実施しています。

将来的には、こうした様々な活動をつなげて万防機構を不明ロス対策のプラットフォームにしたいと考えています。小売業の方には、ぜひ、ロス対策士の育成、ならびにこのプラットフォームへ参画することで、自社の不明ロスの対策に役立てて頂きたいと思います。

─不明ロス対策への活動、ロス対策士など、貴重なお話をありがとうございました。

 

<取材協力>

万防機構 副理事長
樋口 建史氏

ロス対策士検定試験制度に関する問合せ先

特定非営利活動法人全国万引犯罪防止機構
https://www.manboukikou.jp/exam-about/
メール:lpj@manboukikou.jp
電話:03-5244-5612

ハピコム接客コミュニケーションコンテスト「対話スキルは年々向上!食の接客コミュニケーション増」

医薬品販売の接客コミュニケーション能力向上のため、ハピコムグループに所属する企業の代表がその技能を競い合う「ハピコム接客コミュニケーションコンテスト」。今年で9回目を迎え、参加者の技能は年々レベルアップしている。ここでは、最終審査の結果や接客の傾向などを紹介する。(月刊マーチャンダイジング編集長 野間口 司郎)(月刊マーチャンダイジング2024年11月号より転載)

ハピコムグループ約6万人の資格者から選ばれた13人

ハピコムグループはイオンを中心に、ウエルシアホールディングス(HD)、ツルハHD、クスリのアオキHDなどが参加する国内最大規模のドラッグストア(DgS)グループである。

グループ内には薬剤師、登録販売者合わせて約6万人の医薬品関連の資格者が在籍しており、今回行われたハピコム接客コミュニケーションコンテスト(以下コンテスト)の最終審査参加者はそのなかから選ばれた13人ということになる。

[図表1]審査項目と配点
[図表2]審査委員

コンテストは、毎回2つのテーマに沿ってお客さまに扮した俳優が相談に訪れ、それに応じて接客するという設定になっている。今回のテーマは「お腹の調子が悪い」と「夏の疲れ」。

2つめのテーマ夏の疲れは参加者にはシークレットになっており、当日、その場で初めて知らされる。参加者の対応力、普段からの知識の蓄えが問われる。あらかじめテーマに沿った商品が模擬売場に用意され、これらに加え自分の推奨したい商品を持ち込んでもよいことになっている。相談内容を聞き取りながら、適切と思われる商品を奨める形で模擬接客は進行。

参加者は別室に集められ、自分の出番が来るまでは会場に入ることはできず、他の参加者の接客内容を知ることはできない。

コンテストの参加対象は薬剤師か登録販売者だが、近年、調剤薬局が分離申請で出店されることも多く、物販スペースでヘルスケアを担当する薬剤師は著しく減少、今回の参加者はすべて登録販売者となった。

過去は薬剤師の参加もあり、第3回大賞受賞者は薬剤師だった。ヘルスケア売場の担い手は登録販売者であることを印象づける状況でもある。

管理栄養士の資格を持つ坂根章子氏が大賞受賞

《参加者一覧》

審査方法は、一次審査として、ハピコムのメンバー企業19社から合計50人を推薦。二次審査として、一人のミステリーショッパーが、推薦された50人すべてを覆面調査して採点する。最終審査では審査員6人が図表1の項目に沿って採点。最終審査だけでなく、普段の接客力を示す二次審査の得点も加味されていることもコンテストの特徴のひとつである。得点の高い順に大賞、準大賞を決定。最終審査の結果は図表3の通りとなった。

[図表3]第9回ハピコム接客コミュニケーションコンテスト 最終審査結果

大賞を受賞したくすりの福太郎の坂根章子氏は管理栄養士の資格も持つ。坂根氏の接客内容を振り返ってみよう。

大きな笑顔で独自の世界観をつくる大賞受賞の坂根章子氏の接客

まず、お腹の調子が悪いというテーマに関して、お腹をくだしているか、食事は取れているかなどの基本的な状況を聞いたあと、それらの状況を自分でも反復して相手に確認、「1、2ヵ月お腹の調子を崩しているのは辛いですね」と苦しそうな表情と共に共感を示し相手に寄り添う接客をしていた。声のトーンやテンポに落ち着きがあり、全体として安心感をお客さまへ与えていた。

相手の症状の確認の後「医薬品をご紹介する前にいくつか確認させていただきます」と言い、服用するのは本人か、薬品へのアレルギーはないか、他の疾患はないかなど基本項目を確認。確認事項は厳密には6項目あり、確認のための質問を羅列すると話し方によってはお客さまが圧力を感じることもある。坂根氏は症状の確認のあと、スムーズに確認へとつなぎ、柔らかな口調と落ち着いた話しぶりでまったく圧を感じさせなかった。

奨めたのは整腸剤で、体に良い菌が生きたまま大腸まで届き、効果を実感できると説明。お客さまの「お腹をこわしているときでも服用しても大丈夫か」という質問には「お腹がゆるいときでも大丈夫、一家にひとつあると安心です」と対応し、相談者だけでなく、家族にも奨められることを伝え、安心できる商品であることを理解してもらうとする姿勢が見えた。

商品案内の最後に「私は管理栄養士の資格も持っておりまして、お腹をこわしているときは、食物繊維が負担になります。キノコ類、根菜類の食べ過ぎには注意してください」と食事、栄養アドバイスも付け加えた。

ケース2、夏の疲れに関して。暑い日が続いて疲れが取れないという症状を聞いた後、どれくらいその症状が続いているかを確認、「何か心当たりはありますか」と疲れの原因をお客さまに確認した。疲れの主たる原因が暑さであることは相談者自身も認識しているが、その他にも要因があるかお客さまに確認することは効率がよいし、より的確な対応につながる。

この問いに対して「営業の仕事で外を歩き回っているせいではないか」という答えを導き、今年は特に暑かったですもんね、大変でしたね」という共感のあとに、「環境の変化、ストレスを感じることはありますか」と質問。特にないという回答を受けたあと、商品紹介の前に確認したいことがありますと、つなげている。

症状確認→共感(言葉、表情、声のトーンに留意)→基本事項の確認→商品紹介という一連の流れは大変にスムーズで笑顔や表情と相まって、商品紹介までの短い時間の間にある種、「坂根ワールド」が形成されている感もあった。

ビタミンB群の入った保健薬を紹介、その後に、自分が管理栄養士であることを告げ、ビタミンB1、タンパク質を多く含んだ豚肉を使った料理が疲労回復には効果的であるとアドバイス。薬以外、食事、栄養、健康のことなど、いつでも相談に来て下さいと言う言葉で締めくくった。

[図表4]審査の流れ

審査員で接客アドバイザーの北山節子氏は、坂根氏の接客を次のように評した。

「途中で挟む、大きな笑顔がとてもチャーミングで、この人に話しかけたいと思わせる。お客さまの症状を聞くとき、つらそうな表情になるので、それがお客さまの心を開かせるのではないか。目を合わせて話す共感力を感じさせ、耳と心をお客さまに傾けているのが分かった。途中、商品をお客さまに渡して、飲み方の説明をしたのは新しいやり方だと感じた。接客する人が持っている商品を自分も見たいときがある。家に帰って坂根さんの笑顔を思い出し、また会いたいと思わせる接客だった」

高度な知識に基づく接客 食事、栄養と関連づけた接客

参加者と審査委員の集合写真

受賞者たちの印象に残ったポイントを挙げておこう。

ウエルシア薬局の中川氏は、終始腰の低い低姿勢な態度で、相手の安心感を引き出し、基本確認項目も羅列するのではなく、話の流れに織り込んで絶妙なタイミングで必要な確認を行っていた。また、夏の疲れのテーマでは、即効性と長期視点で体質を変えていく商品のどちらがいいかという選択肢を出し、双方の商品を提案していた。

杏林堂薬局の渥美氏は、接客する前に「お薬がたくさんあって迷いますよね」という一言を挟むことで、相談相手がリラックスできるような工夫があった。基本項目の確認では、状況によって飲めない薬があるので、確認していると説明、こちらも信頼関係づくりに寄与する工夫である。お腹の調子が悪いという相談には、エアコンの設定温度を1度上げるだけでも体調管理に役立つという生活アドバイスをしていた。傾聴力、共感力もあり、全体に時間経過とともに相談相手との信頼関係をつくっていくような接客だった。

ツルハドラッグの畠山氏は、お腹の調子が悪いという相手に対して、吐き気、発熱はないかを確認。これは近年増えている過敏性腸症候群の疑いを確認するような接客で専門性を感じさせた。疲れのテーマでも疲れには主に「肉体疲労」、「内臓疲労」、「精神疲労」、「脳疲労」の4つがあるという知識を披露し、説得力が増していた。推奨商品も整腸剤と漢方薬を合わせて使う提案があり組み立てが緻密。全体的に高い専門性を感じさせた。

レデイ薬局の藤永氏は、他の参加者よりも相談相手との距離を半分近く短く詰めた位置取りをしており、親身になって相談するという気持ちが現れている感があった。コンテストのための行動ではなく、通常の接客がそのまま出たのだと思う。相手と目線を合わせて相づちを打ったり、「いつでも藤永にご相談ください」という言葉には、お客を思う強い共感力を感じさせた。

また、声に抑揚があり、話を聞くときには声のトーンが抑えられ(小声になる)、症状に合った薬を選ぶので「大丈夫です」という言葉では声に大きく張りを出すなど、引き込まれるような接客態度を見せた。接客の最後に右手を大きく上げて「いってらっしゃい」と元気よく送り出す姿もオリジナリティを感じさせた。

その他、イオンリテールからの参加者2人は、いずれもレシピを用意しており、食事からの健康改善、「医食同源」という同社の方針を体現していた。

同社から参加して昨年大賞を受賞した佐藤宏美氏は、健康を考えたレシピを作成する任務を担っており、そのレシピがカウンセリング用のタブレットに収納され、紙のレシピとともに接客で活用されている。今回の最終審査でも各自紙のレシピを持ち込んでの接客となった。コンテストが企業の接客を変えている事例である。

今回大賞受賞の坂根氏も管理栄養士で2年連続で管理栄養士の資格を持つ登録販売者が大賞受賞となっており、食と健康を絡めた接客が今後大きなトレンドになることを伺わせている。

 

《取材協力》

審査委員長 田中 純一氏
審査委員 八幡 政浩氏
審査委員 飯嶋 仁氏
審査委員 工藤 真紀氏

サイバーエージェントの提案する「調剤」と「物販」が融合した、これからのドラッグストア

サイバーエージェントでは、創業以来展開しているインターネット広告事業で培ったデジタル分野の専門知識やAI技術の研究開発組織「AILab」の技術を生かして、これまで30社以上の企業のデジタルシフトに貢献しており、近年では小売業界の支援にも注力している。さらに、同社は調剤をはじめ医療領域におけるAI活用、DXを推進するMG-DX社を子会社として保有。今回の出展では同社の総合力を生かしたドラッグストア(DgS)の調剤と物販の効果的な融合を体感できるブースが出展されていた。(月刊マーチャンダイジング2024年10月号より転載)

調剤受付のコーナーから展示を開始

MG-DX社の提供する「薬急便(やっきゅうびん)」は、調剤受付からオンライン服薬指導まで、オンライン調剤に必要な機能をすべて兼ね備えたサービス。現在、クオール薬局、サンドラッグ、サツドラ薬局など全国の薬局で採用されている。

今回の出展は、薬急便を使って調剤の受付を済ませた後、待ち時間を使って物販スペースで買物することを想定してブースを構成。

薬急便のサービスで最近とくに好評なのが「薬急便モバイルオーダー」である。これはファストフードチェーンやコーヒーチェーンで導入されているモバイルオーダーの仕組みと同様で、利用者は処方せん画像を希望する薬局に送信して受取時間を予約する。薬の準備ができるとスマホに通知が届く。会計もあらかじめクレジットカードを登録していればオンラインで決済。薬局では処方せんと引き換えに薬を受け取り、服薬指導を受ける。

処方せん画像の送信の他、従来のように店頭受付も可能。その場合、処方せんと引き換えに薬剤師が受付票を患者に渡す。そこに印刷されたQRコードを患者が読み取れば、スマホ上で呼び出し(待ち)状況の確認や、お薬の準備完了通知を受け取ることができる。

また、最大の特徴は、オンライン受付と店頭受付を統合管理できることだ。調剤スペースのデジタルサイネージで全ての待ち状況を可視化し、さらに販促動画や広告を組み合わせて流すことで、「待ち時間にお買物」という行動も促進できる。反対に物販エリアにも調剤の待ち状況を流すことで、調剤の利用促進にも繋がる。

こうした一連の仕組みで、待ち時間が読めずにイライラして満足度が低下する問題を解消。さらに待ち時間を買物時間にするといった習慣の定着によるドラッグストア全体の売上アップも狙える。調剤と物販融合のひとつの手段である。

調剤と物販の融合イメージ

店舗でオンライン服薬指導 患者は時間節約、薬局は効率改善

薬急便は、8月28日に新サービス「遠隔接客AIアシスタント」をリリースしたばかり。ドラッグストアショーにて、本サービスのデモンストレーションを先行公開した。

[写真1]調剤の受付から展示を開始。調剤と物販の融合を促進する「薬急便モバイルオーダー」、患者の時間節約、薬局の業務効率化につながる「遠隔接客AIアシスタント」の受付機器をそれぞれ設置。順番待ちの案内と販促のサイネージを同じ画面で表示。調剤の待ち時間を買物時間に使う起点となる

「遠隔接客AIアシスタント」は無人受付と遠隔接客を組み合わせたサービスで、店舗(薬局)で処方せん受付を行った患者のうちオンラインによる服薬指導を希望する人に対応する仕組み。待ち時間の間に先に服薬指導を受けることも可能で患者側は時間の節約につながる。

薬局側は、比較的すいている他店舗の薬剤師が遠隔で服薬指導だけを行うことができるので、混雑店舗の作業効率改善に貢献。企業全体としては、薬剤師の業務負荷の平準化、コスト改善を図ることが可能となるほか、将来的には、調剤非併設店などにも設置することで処方せん応需スポットの拡大にも繋がる。人手不足が常態化しているDgSチェーンにとっては朗報である。

ドラッグストアショーでは、遠隔接客AIアシスタントを体験できるよう、各種機器を展示、サイバーエージェントのスタッフが体験希望者に対して丁寧な説明を行っていた(写真2〜6)。

調剤と物販の融合は、単に調剤体験、買物体験を変えるだけでなく、調剤データと物販データの融合による効果も視野に入れている。これが実現すれば、調剤併設DgSで、物販は利用しているが、調剤は利用していないユーザーが明らかになり、こうした層に、調剤薬局の利用を促進することもできる。

さらに、優良顧客である調剤利用者をターゲットに物販への送客も可能、調剤未利用者の掘り起こしと合わせ、企業の収益性を大きく変える可能性を持っている。サイバーエージェントでは、こうしたデータ面での調剤と物販の融合も事業領域としており、DgSの支援を進める構えだ。

「遠隔接客AIアシスタント」の利用プロセス

[写真2]AIにより動作するマスコットのロボットが、センサーにより患者の立ち寄りを感知して「受付はこちらです」と声を掛ける
[写真3]タブレットで受け付けをすると、マイナ保険証の有無、ジェネリック薬希望の有無、受け取り方法などいくつかの質問があり、それらに回答すると最後にオンライン服薬指導を受けますかと聞かれるので、「はい」をタップするとQRコードが発券される
[写真4]QRコードを持ってオンライン服薬指導のスペースへ移動。専用の端末にQRコードをかざすとオンライン服薬指導用のモニターに服薬指導する薬剤師の画像が出る(写真5画面向って左上)
[写真5]患者の画像は画面右下に出て、中央部分に薬の説明書を表示。これを見ながら服薬指導を受ける。
[写真6]受付から他店舗へのオンライン服薬指導の依頼まで一連のサービスはAIにより自律的に行われるが、不都合があり店舗の薬剤師の支援が必要になれば、患者はその旨を伝えることができる。写真は調剤する店側のモニター、支援が必要な患者がいれば通知される

自己推薦ロボットとデジタルサイネージ

[写真7]調剤スペースの販促サイネージで商品イメージを訴求、物販スペースのサイネージと連動させることで購入率の向上を図る。順番待ちの案内では、通常の「店頭受付」、時間のかかる「多剤調剤」、「モバイル受付」を番号の色別で表示することで、調剤内容、受付方法により、待ち時間に差が生じることを患者に理解してもらう

物販スペースで展示されたのは、棚の前に立ち止まるとセンサーが感知して商品が踊り出す「自己推薦ロボット」と3面連結の迫力あるデジタルサイネージ。

[写真8]薬急便モバイルオーダーの店頭受付機器。処方せんを受け取った薬剤師が受付ボタンを押すと、薬局用の患者情報シート、患者用のQRコードが印刷されたレシートの2枚がプリントアウトされる。患者がQRコードを読み取るとスマホでお薬の準備状況の確認と準備完了通知の登録ができる。準備完了通知を利用した患者の90%以上が「薬急便」へ会員登録をするなど、オンライン調剤への移行を促進している。さらに、QRコードのレシートから自社アプリやLINE公式アカウントへの誘導も可能で、店頭受付が各種オンラインサービスとの接点になる

自己推薦ロボットは第三者的にロボットが話すのではなく、商品自らが話すコミュニケーションスタイルで消費者の関心を集める。活用に前向きな小売企業も多いという。現状は、実証実験を行っている段階で、限定された店舗で試験的な導入となっている。

[図表1]自己推薦ロボットによる販売増加率

お客の動きを感知して自らが動くことで、立ち止まり率が2倍以上にアップ(大型雑貨店での事例)、商品によっては6倍以上の販売増加率を達成している(図表1)。新たな販促プロモーションの可能性が証明されている。

また、別途AIカメラを設置して自己推薦ロボットが設置された棚の動画を撮ることで、立ち寄り率、手に取った人の割合などを計測可能。それらをメーカーにフィードバックすることで、製販協働で販促効果を上げられる。

[写真9]三面連結のミライネージは迫力があり視認性、訴求力も高い。調剤スペースのサイネージとの連動でより高い効果が期待できる

サイバーエージェントが開発した店舗サイネージ配信システム「ミライネージ」は単に動画を流すだけでなく、効果検証して改善する「運用」と一体的にサービスを提供している。売上状況を日次で把握して、配信効果の高い店舗への配信を増やすなど状況に応じて最適な施策を、早いところで週次で立案、実施している。

[写真10]ミライネージの運用を説明するボード。配信による売上変化などの実績を確認しながら、店舗ごとの出しわけなどを細かく運用することで効果を最大化させている

また、同社では広告クリエイティブ制作の専任部隊も構えており、こちらも売上状況に応じて短時間でクリエイティブを差し替えることが可能。こうしたサイネージ広告を調剤、物販両スペースで連動させることで、より高い売上効果が期待できる。

最後に8月末にリリースした新たな広告配信サービスも資料で紹介されていた。これは、ポイントやクーポンをフックに消費者行動を促すサービスで、小売企業の自社アプリで特定の広告を閲覧した人にポイントを付与。

ユーザーはそのポイントで当該小売店に限り買物をすることができるという仕組み。これにより小売アプリのアクティブユーザーは増え、リテールメディアとしての広告収入も安定化、物販収益の向上も見込める。メーカーからしても、ポイント付与のメリットを武器に確実な広告閲覧を促せるため、認知や購買効果に期待ができる。すでに一部DgSアプリへの導入が決まっているとのことだ。

調剤事業の強化を成長ドライバーとするDgSは多い。それだけで終わるのではなく、調剤強化を物販強化にも繋げることで、成長スピードはさらに早まるだろう。その意味で今回のサイバーエージェントの提案は示唆に富んでいた。

[写真11]自己推薦ロボットを設置した棚の展示
[写真12]自己推薦ロボットは棚の前を人が通過するとセンサーが感知し、「やったー、お客さんだ」といった歓喜の声を発して踊り出す。店頭における新たなプロモーションとして、活用に前向きな小売店も多い