アマゾンは「信者」を増やすためにホールフーズを買収した

業界に衝撃を与えたアマゾンのホールフーズ買収のニュースから1年。今年に入って両社の提携が加速しています。アマゾンのプライム会員がホールフーズで買物をする際、10%もの割引特典が受けられるようになったのです。アマゾンはリアル店舗で一体何を目指しているのでしょうか?

プライム会員特典を一気に進めたホールフーズ

今から約1年前の2017年6月。当社が主催するアメリカ視察ツアー3日目の朝に、アマゾンがオーガニックの高級スーパー「ホールフーズ」を買収するというニュースが飛び込んできました。「アマゾンがいよいよリアル店舗に参入か」ということで、私もツアーの参加者もびっくりしました。

その年の11月にニューヨークでホールフーズを視察した際は、バナナなどの一部のコモディティ商品を、アマゾン効果で安くした程度の連携しかありませんでしたが、今年に入ってアマゾンとホールフーズの連携が加速しています。

今年の5月中旬から、アマゾンのプライム会員がホールフーズで買物をする際に、数100種類のセール品の価格を、さらに10%割引になる特典の提供を開始しました。当初は、フロリダ州の28店舗のみを対象としていましたが、一気に店舗数を拡大し、2018年6月末には総店舗数480店舗の大半を占めるアメリカ国内の店舗で10%割引の特典を受けられるようになりました。

また、アマゾンで注文した商品を最短1時間以内で配達するプライム会員向けサービス「Prime Now」の対象商品にホールフーズの商品を加えました。さらに、Prime Nowの利用客も、ホールフーズの店舗で購入するのと同じ10%割引の特典を受けられるそうです。

プライム会費がアマゾンの利益 店舗は赤字でもいい?

世界でもっとも安いといわれている日本のプライム会員の年会費3,900円と比べると、アメリカのプライム年会費は119ドルと、日本の2倍以上もします(今年に入って従来の99ドルからさらに値上げしています)。年会費は高くても、「Prime Now」(最短1時間の配送サービス)、「Prime Music」(音楽聞き放題のサービス)、「Prime Video」(映像ストリーミングサービス)などのプライム会員特典を考えると、119ドルの年会費を支払ってもお釣りが来ると考えるアメリカの消費者が多く、プライム会員は増え続けています。

2018年4月中旬に行われたアマゾンの年次株主総会で公開された「ベゾスCEOから株主宛に記された手紙」の中で、アマゾンプライムの加入者数が世界で1億人を突破したことが発表されました。

アマゾンは、ホールフーズのようなリアル店舗への参入が目的というよりも、プライム会員の特典を増やす(年119ドル支払ってもいい)ためのひとつのツールとして、ホールフーズでの10%割引を始めたのではないでしょうか?「健康にこだわったオーガニック商品の品揃えは素晴らしいが、値段が高い」といわれ続けてきたホールフーズの商品を、低価格で購入できるという特典は、アマゾンプライム会員の「固定化」と「新規会員獲得」に大きく貢献すると思われます。

「アマゾンプライムの信者」を増やすための布教活動の一環が、ホールフーズの買収といったらいいすぎでしょうか? しかも、「年119ドルの年会費がアマゾンの利益」と考えると、極端なことをいえばアマゾンは、リアル店舗のホールフーズの利益はゼロでもよいと考えるかもしれません。

これは、コストコのようなメンバーシップホールセールクラブが、年会費という利益があるから、粗利益率8%以下の低マージンでも商売が成り立つという構造と似ていますが、アマゾンの場合、ネットとリアルを融合したオムニチャネルの会員組織であることが大きな違いです。アマゾンに対抗して、コストコも近年ネット販売を積極的に強化しています。

アマゾン教の信者が増加していくと、原価70円で仕入れた商品を30円の利益を乗せて100円の売価で販売するという、従来の商売のやり方が根底から崩れていくかもしれません。「店舗は利益ゼロでもいい」というアマゾンに、小売業は価格では太刀打ちできなくなるかもしれません。「アマゾンでは手に入らない価値」を提供すること以外、リアル小売業が生き残る道はないような気がします。

生鮮全店導入により7,000人商圏での勝ち残り図るゲンキー

福井県を拠点に、石川、岐阜、愛知の4県で218店を展開するゲンキー(2018年5月31日現在)。食品の売上構成比が高い大型のメガドラッグストア(DgS)を主力としていたが、2015年からは300坪タイプの出店も加速させている。一貫して食品の利便性、低価格を追求してきた同社が2017年より生鮮3品を本格的に導入し始めた。この戦略の背景や今後の計画など、この事業の責任者である、執行役員 生鮮マーチャンダイジング部長平田都芳氏に聞いた。(月刊マーチャンダイジング2018年7月号より転載)

時代や競合環境により進化していくフォーマット

1988年創業のゲンキーは、2000年に900坪のメガドラッグ第1号店を出店、食品売場を大きく取り低価格で販売するスタイルを確立、このフォーマットでドミナント出店を進めた。

2015年2月にはNew300坪レギュラータイプ(Rタイプ)を初出店。オペレーションの合理化、マニュアルの整備、徹底した標準化などで店の機能を上げながら高速出店にも耐え得るフォーマットを開発した。

そして、2017年6月、青果、精肉、塩干中心に魚という生鮮食品3品をRタイプの東古市店に本格的に導入した。それまでディスカウントドラッグとしていたフォーマット名をフードアンドドラッグ(FD)と改称。店舗サイン(看板)にもその名を入れている。

FD店外観。社名ロゴの下にFOOD&DRUGの文字を入れている

「私たちはこれまで食品を低価格で販売することで集客を図ってきました。しかし、多くのDgSが日配まで品揃えをし食品強化の方向にあります。同質化競争から抜け出すためには生鮮食品が必要だと判断しました。また、生鮮食品を揃えることで1週間の生活に必要な商品を他店を買い回りしなくてもすべてうちの店で揃えることができる、しかも低価格で買える。時間とお金の節約でお客さまに貢献するというのが、基本にある発想です」

「働く女性の時間とお金を節約する」というのが同社のモットーで、ターゲット客層のモデル人物を40歳女性で子供2人、義母介護中など具体的なイメージを立てている。

ターゲット客層のモデルである「田中ケイ子」さんのプロフィールを商談スペースや社内に掲示

こうした有職女性をメーンの来店客に想定し、同社が現在設定する商圏人口は7,000人。シェアを高めることでさらに少ない商圏人口でも営業可能なモデルづくりを目指す。2018年8月に出店を予定している福井県池田町は人口2,631人(2018年4月末)。山がちな地形なので車による周辺地域からの来店も考えにくい。

「池田町は社内では『特区』と呼ばれている例外的な出店立地なのですが、福井県に本社を置く企業としての地域貢献、合わせて今後の人口減少を見据えた実験的な役割もあります」

今後日本は高齢化が進み人口も減る。とくに地方ではその傾向は顕著だ。同社では1週間の生活すべて賄えるワンストップ性、低価格販売、そして徹底したローコストオペレーションで、競合が採算を取れないような狭小商圏でも勝ち残れるビジネスモデルを構築して人口減時代に備える。

全店標準化された品揃え マニュアルに沿って鮮度管理

生鮮食品を品揃えしたFD店は2018年4月末現在で120店。現在順次FD店への改装を急いでおり、計画では2018年11月までに全店導入を目指す。

生鮮売場の構成は3尺の冷蔵ケースで精肉3本、魚2本、青果4本、常温の青果が6本にエンドが1本。これが全店共通の標準パターンである。

青果は冷蔵で3本取る。ニーズの高い商品をトライアンドエラーで改廃していく

青果は葉物、根菜、果菜などニーズの高いアイテムはひととおり揃える。精肉は鶏、豚、牛の3種。魚は塩干中心にマグロの中落ち、開きものなども扱う。刺し身はいまの物流では提供できない。

非冷蔵の青果売場にはバナナ、リンゴなどの果物と根菜類が並ぶ
鶏、豚、牛を揃えた精肉売場。ワンストップ性を高める
魚は塩干、加工物を中心に3尺冷蔵什器2本で販売
もやしは18円、近い将来オーガニック商品の提供を予定している
エンドはフルーツの特売中心
人気のトマトは大きさやパックの入り個数を変えて、細かくニーズに対応

バイヤー体制は青果(切り花含む)3人、精肉、魚、総菜各1人。平田氏がそれを統括する。平田氏はゲンキー入社19年目、前職は大手加工食品卸の営業で生鮮食品の経験はない。ほかのバイヤーもこれまでの担当はまちまちで生鮮食品経験者はいない。

店舗視察、ベンダーからの情報収集、産地訪問、食品スーパーで生鮮の経験を持つ人材を採用して知識を吸収するなど、バイヤーは目利きの技術向上のための努力を重ね、自ら商品を選定し仕入れ、売価を付ける。

「ニーズが高いアイテムは何か、粗利、ロス率はどうなるかなど仮説と検証を繰り返して品揃えを改善させています。もちろん失敗もありますが、いまは知識と経験を蓄積している段階です」

仕入先は、青果が北陸で3社、東海3社のベンダーと取引、精肉も北陸1社、東海2社と新規で口座を開設。塩干を中心とする魚は日配と同様の仕入先から調達している。

北陸には常温の物流センターが1箇所あり、野菜を総量で入荷し、店別に仕分けて日配と同じ物流に乗せ店舗配送する。東海にはまだセンターがないので、ベンダーが仕分けして店舗へチルド配送する。

2019年夏の完成を目指し、岐阜県安八町に敷地面積5,000坪、冷蔵施設を備えたDC(ディストリビューションセンター)兼プロセスセンターを建設予定である。これにより、東海地方の青果のプロセス作業(袋詰め、箱詰めなど)と物流が自前で可能になる。

北陸地方でもEC事業であるゲンキーネットの閉鎖により遊休資産となっている倉庫を活用して青果のプロセスセンター化を計画している。

商品の鮮度管理に関して、同社では青果では商品ごとに「しなび」「とろけ」など見切りの基準を設け、すべてマニュアル化している。営業時間内館内放送で鮮度チェックの時間をアナウンスし担当者がチェック。状況を見てマニュアルに照らし合わせ、見切り基準に達しているものはその場で廃棄する。精肉、魚は午後4時に当日賞味期限商品に値引きシールを貼り、閉店時に売れ残ったものは全量廃棄。

「青果の見切りは社員が担当しています。マニュアルの精度を上げることが非常に重要です。廃棄率が2桁なのでこれを改善することが目下の最大の課題です」

ゲンキー株式会社 執行役員 生鮮マーチャンダイジング部長 平田 都芳(つよし)氏

生鮮食品販売と推奨販売 ハイブリッド戦略で成長

平田氏によると、生鮮食品導入店舗の業績は、導入前よりも売上高で約10%成長。客数も約10%伸びた。粗利益率は導入後も下がっていない。

「生鮮食品を入れることで売上が上がることは当然想定していました。実際、売上は上がり、粗利益率は下ると、来店頻度が増えたことにより、1人当りの買上点数、客単価が上がりました。生鮮食品と相性のよい加工食品や調理器具などの併買が見られます。粗利益率の高い商品との併買もあります」

ワンストップ性の向上により、買上点数が上がったことで客単価が上がり、粗利益率の高い商品とマージンミックスすることで粗利低下も防げている。

人時のかかる生鮮食品の導入により、主力であるHBC(ヘルスアンドビューティケア)への注力がおろそかになることはないか、平田氏に聞いた。

「それはあり得ません。当社の営業でもっとも重要なのは医薬品、健康食品、化粧品の推奨販売です。全店にヘルスケアの責任者がいて、会社で決めた強化商品の推奨販売を行います。また、化粧品のコロラドをはじめ当社は品質がよく利益も取れるプライベートブランド(PB)商品を重視しています。

PBの「コロラド」は化粧品から始まり、現在サプリもある。高付加価値商品の強化で生鮮の低価格販売を支える
医薬品の相談カウンターには、コロラドの化粧品、サプリも置いて推奨販売を心掛けている

HBCの推奨販売、PB商品の強化で得られた利益で、生鮮食品の低価格販売を支える、こうした『ハイブリッド戦略』こそゲンキーの成長ドライバーなのです。生鮮食品の売上が伸びていますが、あくまでついで買いニーズ。薬、化粧品を目的買いしていただき、ついでに生鮮も買っていただく。この図式が変わることはありません」

入り口から入って奥へ引き込む第2マグネットには大容量のペットボトルを配置、生鮮食品まで客足を延ばすことに貢献している
第2マグネットの大容量ペットボトル飲料

生鮮食品導入後、HBCの重点商品において予算割れ、計画未達などのケースはないという。また、現在同社のPBはアイテム数約1,500、売上構成比にして14%、将来的には20%を目指す。

同社では、HBCの推奨販売、PB商品強化という「高付加価値領域」と、全店導入を目指す「生鮮食品」を両輪にして、出店する4県で人口減でも勝ち残れる店づくりを進める。

生鮮食品導入のRタイプ売場レイアウト(300坪)

明確なコンセプトでアマゾンと差別化する「スプラウツ」

今週も、米国視察ツアーの報告です。現在、すべての米国の小売業は、「アマゾンといかに差別化できるか」が、最大の経営テーマです。たとえば、取扱商品におけるSB(ストアブランド)、PB(プライベートブランド)の比率が80%以上と高い「トレーダージョーズ」や「アルディ」は、アマゾンで取り扱っていないオリジナル商品を販売しているので、アマゾンと完全に差別化できています。

すべての米国小売業は「vsアマゾン」が戦略テーマ

最大の「アマゾン対策」は、オリジナル商品開発を含む、店舗としての明確な「ブランディング」を実現することだと思います。安さ以外の「その店に行く理由」を明確にすることが、リアル店舗の生き残り戦略なのです。

成熟している米国の流通業では、売上高トップ100の小売企業の中で、店舗数、売上ともに2桁増の企業は4社しかありません。スプラウツファーマーズマーケット(以下スプラウツ)は、2017年度の売上が4046億円となり、対前年比12.6%増、店舗数も253店舗、対前年比17%増加し、米国小売業の売上ランキングで82位に成長し、ついにトップ100以内にランクインしました。

「FLONH」というライフスタイルを「低価格で」という明確なコンセプト

米国におけるスーパーマーケット企業の潮流のひとつが、FLONH(フロン)と呼ばれるスローガンです。FLONHとはFresh(新鮮)、Local(地産) Organic(有機) Natural(自然) Healthy(健康)の頭文字をとったものです。かつてのホールフーズマーケットがこれらのスローガンを掲げ、SM(スーパーマーケット)の品揃え革命を行ったことは記憶に新しいところです。

スプラウツは、FLONHというライフスタイルを、手頃な価格で実現できるという明確なコンセプトの「ライフスタイルストア」といえます。商品ではなくて、ライフスタイルを売ることが、「vsアマゾン」の回答のひとつであると考えます。

スプラウツの特徴は、居抜き物件にも入れる800坪程度の売場面積で、一般的なSMの半分程度の面積です。インストア加工を最小限として、低価格で「FLONH」(後述)を提供することです。ちなみに同社のスローガンは「Healthy life for less」(廉価で健康的な生活を)です。

売場の半分は青果売場

出荷段階で陳列を考慮したケースを採用。積み重ねることで、迫力が出る。しかもローコスト。

図表はスプラウツファーマーズマーケットの基本レイアウトです。左右の入りの相違はあるものの、レイアウトはほぼ統一され、ベーカリー、日配、デリ(惣菜)、肉、シーフードが続き、奥壁面から店舗面積の半分程度が青果売場です。

青果とレジの間に、ホットミールとバルク販売があり、酒、卵、ヨーグルト、冷凍食品が奥からレジに向かう主通路壁面に設置され、グロサリー、家庭雑貨(紙類など)、ヘルス&ビューティが差し込まれています。生鮮が主力ですが、サプリメントに力をいれているのも同店舗の特徴で、いかにもアメリカらしい組み合わせといえます。

健康に良いナッツなどのバルクフーズの売場。量り売りで自分好みにカスタマイズする売り方も人気だ。
FLONHというライフスタイルには、サプリメントは不可欠。サプリメント売場は充実している。

お悩み解決・診断系・マトリクス…売場で発見!使えるPOPパトロール

いくら価値のある新商品を仕入れても、ただ商品を並べておくだけでは、その商品ならではのよさを何も伝えることはできません。本企画では前編・後編の2回に分け、「商品を生かす伝え方のヒント」を紹介します。(月刊マーチャンダイジング 2018年7月号より転載)

1日の多くの時間をスマホ片手に過ごすようになったお客さまは、昔とは比べものにならないほど商品に関する情報を手に入れられるようになりました。しかし、その情報量の多さゆえに疲弊し、「結局何を選んでいいのかわからない」まま売場にやって来るお客さまも少なくありません。

店頭で購入を決定する消費者は約8割。購入商品がまだ明確ではないお客に対し、ヒントを与え、「あなたに必要な商品は、こういう理由で、コレ!」と、わかりやすい道筋で提示するガイド機能こそが、売場で求められています。

(1)商品選択の判断基準を提供するカテゴリー情報POP

特定の商品には結び付けず、来店客にとって有益なカテゴリーの知識や、商品選択の判断基準になるような情報を発信するPOPの実例です。

テーピングとサポーターの違いについて「固定力」や「難易度」「コスト」など5項目でわかりやすく比較しています。

こちらは牛肉の部位ごとの柔らかさ、脂肪の入り方、味などを一覧表にしたものです。

こちらは年間の感染症リスクを紹介しているPOPです。

このように、店舗にとって売上に直結しない情報であっても、お客さまの暮らしに役立つ情報を掲示することで、自分にとって親切な店、頼れる店としてお客の心に刻まれます。いつもの買い場として選ばれるような売場づくりを心掛けましょう。

(2)リアル店舗の本領発揮!お悩み解決POP

悩み別・症状別の情報発信はドラッグストアなどの店頭情報発信として効果的です。

こちらのトップボードでは、熱・頭痛の症状・原因を紹介しながら、売場の商品につながる対処法が掲載されています。

こちらは、細かな症状とそれに対応した漢方薬を掲示しています。深い悩みでなければ、薬剤師がいなくても、このボードを見て自分に適した漢方薬を選ぶことができるというわけです。

(3)つい当てはめたくなる診断系POP

質問やイラストなどを通して、お客自身がどの商品を購入すればよいのか診断できるタイプのPOPです。商品を購入する予定が無くても、ついつい自分ゴトとして見てしまいます。

こちらは、介護者にとっても本人にとっても確認や判断が難しい、大人用おむつの判断基準をわかりやすくまとめたPOPボードです。

こちらは5つの顔型に分け似合う帽子選びをサポートしています。

商品が陳列されているだけのケースが多く見られるヘアカラーカテゴリーに置かれたトップボードです。仕上がりのイメージでカラー剤を選ぶことができ、親切ですね。

一目でわかるイラストと注意を引きやすい黄色を使い、わかりにくいオーラルケアのアイテム選びをナビゲートしています。

(4)〇×でメリット・デメリットを明確にするマトリクスPOP

○×などを使い、縦軸・横軸を設けた図表で、カテゴリー内アイテムの特性をまとめたPOPです。図表にまとめることで、それぞれの商品や成分のメリットとデメリットも可視化できる。商品の全体像を把握しやすく、納得度の高い買物ができます。

上の写真ではプロテイン、下の写真では掃除の基本アイテムの特徴を紹介しています。お客のニーズをより具体的に掘り下げることで、商品のミスマッチを防ぐことができます。

(5)用途・機能でグルーピングし直感的に選べる売場

ひとつのボードに情報をまとめて掲示するのではなく、売場の商品をいくつかのグループに分けることで、お客の商品選択をサポートするタイプの情報発信がこちらです。

ホームセンターの売場です。キッチンツールを「すくう・返す」「つかむ・混ぜる」「剥く・おろす」という“アクション”ごとに、3尺1本を割り当てて編集しています。

こちらのドラッグストアの目薬売場では、最上段で目の症状別に「ゴロゴロ」「しょぼしょぼ」「疲れ目」「かすみ目」と、4種の目薬を紹介しています。

~後編へ続く~

キャンドゥは生活のインフラになる

この5月に店舗数が1,000店を突破した100円ショップ大手「キャンドゥ」。率いる城戸(きど)一弥氏は創業者である父親の急逝に伴い2011年に25歳で代表取締役社長に就任。現在32歳と小売業の経営者としては非常に若い。しかし、それまでのトップダウンからボトムアップの経営に転換を図り、商品部で女性の活躍を推進するなど、数々のヒット商品を生み出す土台をつくり上げた。城戸氏に今後の同社展望を聞く。(月刊マーチャンダイジング 2018年7月号より転載、企業概要等は当時のものです)(聞き手:MD NEXT編集長 鹿野恵子)

最大の課題は働き手の確保

──まずは2017年11月期の振り返りと、2018年11月期の進捗についてお伺いします。

城戸 2017年11月期は天候不順やシステムトラブル、うるう年の影響などで苦戦しました。当社は全体の8割がインショップで、他社さんと比較してインショップ比率が非常に高いのですが、出店先の店舗老朽化に伴う退店など、当社の意思とは異なる退店が増え、店舗は純増がかなり少なかったのも影響しています。

──2018年11月期はいかがでしょうか。

城戸 2017年8月ぐらいから既存店の前期比が順調に推移していて、2018年第1四半期の売上は順調です。粗利については素材や為替の影響でほぼ水平で、人件費については昨年よりも改善傾向ということで、増収増益になっています。

──現在一番の課題はどこだとお考えでしょうか。

城戸 「人」です。とにかく働き手を集めるのに苦労しています。都心は高い時給を提示すれば人を集めることはできますが、地方は苦しい状況です。地方では、新規出店時の採用で近隣の食品スーパー(SM)やドラッグストア(DgS)より高い時給を提示しても、人が集まりません。とくに高齢の方になればなるほど、現在の環境で満足しているから、いくら高い時給を提示してもほかの会社には移らないという傾向が顕著のようです。

──地方の新規出店では、店舗開発よりも人間の問題の方が大きくなっているということですね。

城戸 はい。ですから最近は、そこに人がいるのか、集まりやすいのかどうかをリサーチしてから出店をするように方針を変えました。

──出店のエリアについてはいかがでしょうか。

城戸 地域的には国内に約1,000店舗を出店しているうち関東が約385店舗と当社内では一番のシェアとなっています。また、最近は近畿、九州など西日本への出店要請が増えています。当社は東京が本社で、ダイソーさんは広島、セリアさんは岐阜と、それぞれの地域に出店していますが、現在西日本のショッピングセンター(SC)からは、ほかのSCと差別化を図る意味でも、当社に出店してほしいという依頼が来ています。飽和状況になっているところに新しい血を入れたいというデベロッパーさんの意向もあるようです。

出店戦略としては、地方でも働き手がいないエリアに関してはフランチャイズで、人の集まりやすい大都市圏は直営で出店していくという2本柱で考えています。

──今後どのエリアを中心に出店を増やしていきたいとお考えですか。

城戸 基本的には要請があった場所に出店していくという考え方です。こちらから出店を狙いにいきますと、デベロッパーさん側も強気な賃料設定をされますので、先方から要望があった地域に出していくというのが基本です。

100円に量だけでなく質を求めだしたお客さま

──商品開発の方針についてお聞かせください。

城戸 当社は約4割が日本製の製品で、メードインジャパンの商品比率が100円ショップ業界では一番高いです。中国の人件費が上がり、物流費も高騰していますので、今後もメードインジャパンの比率を高めていきたいと考えています。

もうひとつは、オリジナリティの追求です。以前はどの100円ショップもほとんど同じ店であるとお客さまに捉えられていて、ひとつの商業施設に100円ショップは1社しか出店しないものだと考えられていました。しかし、イオンモール神戸南というSCには、ダイソーさんと当社の2店舗が出店しています。今後は同業他社との差別化が必須になってきて、その最たるものはやはり商品です。ですから、当社では限定オリジナル商品の開発に一番注力しています。

競合他社が取り扱わない商品で差別化を図る。こちらはキャンドゥ限定品のパチパチブラックサンダー

──具体的に、どのようなオリジナル商品が人気なのでしょうか。

城戸 最近では、桜をモチーフにした商品や、ハロウィーン、クリスマスなど、シーズン商品が非常に売れています。

いま業界として変化しているのが、お客さまが「量より質」を求めだしたという点です。紙皿であれば無地のものだと20枚入りのところを、プリントを施して10枚で商品化する。枚数が半分になれば当社としても利益率は上がり、お客さまもプリントが入っていることで喜ばれる。相思相愛ということでこのような商品をリリースしています。お客さまが100円ショップに求めるものが、「量」ではなくて「デザイン」「質」や「品揃え」になってきているのですね。

一方で、無地の紙皿とか割り箸は当社ではあまり売れなくなってきていることからも、100円ショップに求められる商品が、消耗品ではなくて嗜好品に切り替わってきていることを感じます。

──情緒という部分をお客さまが求めるようになってきているのですね。

城戸 女性のお客さまの比率がとても上がっていまして、とくに若い世代の売上が伸びています。そういった若い女性をターゲットにした商品の開発に注力しています。

最近は当社オリジナルのスマイルシリーズなども人気です。インスタ(Instagram)映えをする商品も、商品単体ではいまいち使い方がわからなくても、インスタで使い方の実例を紹介すると即完売する、というように、見せ方によって売れ行きが変わります。(キャンドゥのインスタアカウントはこちら

キャラクターものも人気。スマイリーシリーズはキャラクターを軸にして幅広い商品展開を行う

人気ブロガーとコラボしたシリーズも非常に人気です。ブロガーのファンの方は、使うための商品だけでなく、保存用のものまでお買い求めになられることもあり、客単価が上がります。

──こうしたインフルエンサーとの連携は、御社は目立っていますね。

城戸 いろいろなところとコラボレーションするに当たり、東京に本社を置いているメリットを感じています。

インフルエンサーとコラボした商品開発が好調。こちらはしずくさんとコラボした「ほぼ100均ネイル」のネイルシール

女性に支持される商品開発は女性が担う

──現在、どれくらいの陣容で商品開発をしていらっしゃいますか。

城戸 約20人です。当社は女性のお客さまの割合が75%を超えているのですが、以前はバイヤーも商品部長も男性でした。それを、女性が買うのだからということで、女性の商品部長、女性のバイヤーに入れ替えたんです。その結果こうした商品が生まれるようになりました。以前は商品開発は社長決裁だったのですが、これは自分も関わらない方がいいなということで、私は商品開発に一切関わっていません(笑)。

──メーカーさんとの取組みはどのようにしていらっしゃいますか。

城戸 現在、当社のプライベートブランド(PB)比率は35%ほどです。100%がPBだとナショナルブランド(NB)商品を取り扱いづらくなります。ということは、逆に差別化になってはいないといえるでしょう。PBとNB比率のちょうどいいバランスがどこなのかというのは難しい問題ですが、当社としては35%がオリジナル商品、あとの65%はNBという考え方です。

──話を聞いていますと、城戸社長の就任はキャンドゥにとって大きな転機のひとつだったように感じます。商品以外の部分で大きく変えられたところはありますでしょうか。

城戸 人事面ですね。2011年に創業者である私の父が急逝し、まったく準備のないなかで私が社長を引き継いだのですが、当時の経営層は平均年齢60歳を超えていました。それを私が社長に就任して以来若返りを図ってきたのです。現在、取締役の平均年齢は42歳。IT企業ならともかく、小売業界でこれだけ若い経営層の会社は少ないのではないでしょうか。

経営スタイルというところでいいますと、創業者はトップダウンだったのですが、私はボトムアップ経営で、商品開発しかり、現場に任せるようにしています。

──大きな転換を図られたのですね。インターネット販売の広がりについてはどうお考えでしょうか。

城戸 100円ショップに関しては、イーコマース(EC)リスクというものはあまりないと考えています。また、当社でもある程度の個数を買っていただくと自宅まで送料無料で配送するネットショップを運営していて、売上も徐々に伸びています。

この業界では商品の入れ替えサイクルが非常に早く、1ヵ月で700アイテムから800アイテムの新商品を出し、同じぐらいの商品が販売を終了します。商品をどんどん改廃するので、仮にネットでアップしてもすぐに終売になってしまう。ですから、ネットでは定番の消耗品だけを販売するようにしています。一方、先ほど紹介したコラボ商品のような、数量限定の商品はリアル店舗で買っていただくようなすみ分けです。

ただし、情報発信という意味ではネットが軸になります。インスタに上げると一部のお客さまが買い占めてしまったり、商品がネットで転売されるというトラブルも起きています。

──情報発信の軸はインスタなのでしょうか。

城戸 はい。今年5月13日からはTwitterも開始しました

──SNSの影響は大きいですか。

城戸 大きいですね。インスタは3年前、まだあまりはやっていない時期に、商品部のバイヤーの女性陣が「こういうのをやってみたらいいのではないか」ということで始めました。インスタに関してはバイヤーたちに先見の明があったのかなと感じています。

Instagramを活用し、直接お客に新商品の情報を提供。フォロワー数は35万(2018年5月現在)

アルバイトからの正社員登用は離職率ゼロ

──店舗における社員の比率はどれくらいでしょうか。

城戸 いま社員が約660人いて、うち本社に約200人所属しています。直営店舗は660店舗ほどあり、社員一人が複数店舗を見ているという状況です。

──社員採用についてはどのような状況でしょうか。

城戸 現在当社は新卒採用をしていません。新卒は戦力になるまでに非常に時間がかかるという点と、離職率の高さが課題だとおもっています。募集にも大きなコストが掛かります。そこで、私が社長に就任してから方針を変えまして、新卒採用は一切やめて、キャンドゥのアルバイトから社員を登用するようにしました。今年は25人採用したのですが、この5年間で彼らの離職率はゼロです。キャンドゥでアルバイトをすることで、キャンドゥの社風ややり方を理解して入ってきてくれるので、辞めないわけです。かつ、即店長ができますし、相思相愛です。

──20代、30代が中心なのでしょうか。

城戸 いえ、今年は50歳の人もいました。こうした採用方法は独特らしいですが、アルバイトから社員になると待遇もよくなりますし、賞与も出るようになります。そういう姿を見て、ほかのアルバイトが私も社員になりたいと、いい循環が生まれてくるわけです。ですからこの5年間で、合計100人ぐらい採用しました。

生活のインフラとして食品も取り扱い続ける

──今後の展望をお聞かせください。

城戸 私は、キャンドゥを生活のインフラにしたいと考えています。

たとえば、食料品は粗利率が低いので、扱っていない100円ショップもあります。ですが当社は、利益も大切にしますが、生活のインフラであるという点も重視したいと考えています。東日本大震災のときには、食料品が飛ぶように売れました。東北地方のキャンドゥでは食品を無料提供したりして、困っている方をサポートするようなこともできました。

この業界は以前よく、デフレの寵児と呼ばれていて、インフレになったらダメになるなどといわれていたのですが、デフレから脱却した現在でもちゃんと業態として存在しています。出店も業界としては増えています。業界全体としても生活のインフラとなっていて、今後も100円ショップ業界がなくなることはないと考えています。

──現在なくなりつつある文房具店や駄菓子屋、金物屋などを100円ショップがカバーしつつあるということですね。今日は大変興味深いお話をありがとうございました。

Tableauの基本操作と用語を学ぶ

本連載の第1回では、なぜ分析ツールが必要なのか、そして優れた分析ツールであるTableauのご紹介とインストール手順をご説明しました。続く第二回ではTableauを使うとデータをどのように見ることができるのかについて、操作する上で欠かせない用語の解説を交えながら進めていきます。

1.Tableauでできること

Tableauの最大の特徴は、その豊富な『表現力』です。Tableau創業メンバーの一人は、アニメ映画制作会社のピクサー社設立メンバーでもあり、Tableauは分かり易く綺麗なデータの表現について高い評価を受けています。

人間は数千~数億件ものデータを文字で見て、瞬時に何かを判断することはできません。データは様々な切り口から分類・集計することではじめて特徴や傾向をつかむことができ、さらにそれを視覚化することで理解を早めることができます。

Tableauを使えば、この「分類・集計」と「視覚化」のプロセスを同時に且つスピーディに進めることができます。

2.基本操作と用語

視覚化の操作を順を追って説明しつつ、それぞれの操作がどのような表現となるのかをご紹介していきます。

2.1.「ディメンション」と「メジャー」でどんなデータがあるのかを知る

まず、読み込んだデータは「ディメンション」と「メジャー」という項目に分けて画面左側に表示されます。「ディメンション」は切り口、「メジャー」は数字を表していると理解するとわかりやすいです。

例えば、「都道府県ごとの売上を見る」という分析をする場合はディメンションは都道府県、メジャーは売上となります。

<図2-1>

メジャーは数字(定量的な値)なので、足したり引いたりすることができます。デフォルトでは合計するようになっていますが、平均や最大値をとったり、発生回数などの数をカウントしたりすることもできます。

Tableauの操作は、これらのディメンションとメジャーを「行」「列」「フィルター」などの項目にドラッグ&ドロップしていくことが基本となります。

2.2.列と行でグラフをつくる

データを視覚化する第一歩はグラフにしてみることです。Tableauはディメンションやメジャーを列と行にドラッグ&ドロップすることで簡単にグラフを作ることができます。ここでは都道府県を「列」に、売上を「行」にドラッグ&ドロップしてみましょう。

<図2-2>

都道府県が横に並び、売上を表す棒グラフが縦に伸びました。このように、列に置いたものは横方向に、行に置いたものは縦方向に積まれていきます。試しに列と行を逆転させて「列」に売上を、「行」に都道府県を置くと並ぶ方向が変わります。

<図2-3>

また、ディメンションである都道府県は都道府県名別に表示され、メジャーである売上は都道府県ごとに自動的に合計されています。分類と集計、そしてグラフでの視覚化を同時に行っていることが分かります。

2.3.並べ替えて整理する

このままではどの都道府県の売上が高いのか分かりにくい状態です。1位が大阪なのはすぐに分かりますが、では5位はどこかと聞かれると分かりません。グラフを分かり易く表現するために、都道府県や製品カテゴリごとに並べ替えを行いましょう。

並べ替えはワンクリックで実現できます。グラフの軸にマウスカーソルを持っていくと、並べ替えのマークが表示されます。これをクリックするとグラフが降順に並び替わります。

<図2-4>

<図2-5>

このように並べ替えることでボリュームの大きなところが分かるようになります。重点的な取組みを行う地区の選定や品揃えの足切りラインの目安を知る上では必須です。

並べ替えマークはクリックするたびに「降順・昇順・並び替えなし」に切り替わりますので、コストなどの低いほうがよい数字については昇順に並べて見ることもできます。

2.4.フィルターで範囲を絞る

今は全ての都道府県が表示されていますが、もしあなたの担当が関西・中国・四国地方だとしたら担当する地方だけを見たいと思いませんか?こういったときはフィルター機能を使うことで必要なものだけを表示することができます。

ディメンションの地域をフィルターにドラッグ&ドロップしてみましょう。ウィンドウが現れ、ここで必要なものだけにチェックを入れます。

<図2-6>

チェックを入れてOKを押すと、選択した地域に属する都道府県だけが表示されるようになりました。

<図2-7>

今回のようにディメンションでフィルターする場合は個別にオン/オフを設定する方法の他に、特定の文字を含むものだけを抽出するワイルドカード方式や売上トップ10のような上位選抜方式があります。

また、メジャーでフィルターするときは「どこからどこまで」という範囲を指定します。

2.5.マークでさらに情報を追加する

この時点では都道府県と売上という2つの情報を表していますが、各都道府県で製品カテゴリの内訳はどのようになっているでしょうか。グラフの形を保ったまま情報を追加したいときには、マークにディメンションやメジャーをドラッグ&ドロップします。

マークには色やサイズなどのいくつかの表現方法があります。まずはディメンションのカテゴリをマークの色にドラッグ&ドロップしてみましょう。

<図2-8>

<図2-9>

カテゴリを色に追加することで、各都道府県の売上がカテゴリごとに色を分けて表示されるようになりました。見た印象としては特に際立ったものはありません。

次は利益で色を付けてみましょう。先ほどと同じようにメジャーの利益をマークの色にドラッグ&ドロップします。

<図2-10>

今度は棒グラフがオレンジから青のグラデーションになりました。これはそれぞれの都道府県の売上を棒グラフで表しながら、同時に利益を色で表現しています。Tableauではプラスとマイナスの両方のデータがある場合、ゼロを境にして自動的に色が分かれます。この例では中堅どころの三重や山口がオレンジになっていますので、利益がマイナス、つまり赤字であることが瞬時に見て取れます。

2.6.表示形式で様々なグラフに作り変える

Tableauには、棒グラフ以外にも様々な表現方法があります。「今見ているものは他にどんな形にできるのか」を知るには画面右上の表示形式をクリックします。

<図2-11>

表示形式にあらわれるアイコンのうち、色の濃いものはワンクリックでその形に切り替えることができます。試しに左の下から2番目にある散布図をクリックしてみましょう。

<図2-12>

一瞬で散布図に切り替わりました。この例では都道府県ごとに利益を縦軸、売上を横軸に点をプロットしています。

また、地理を表すデータがあるときは、地図での表現に切り替えることもできます。まずはディメンションの「都道府県」を右クリックし、「地理的役割」の中から「都道府県/州」を選択します。

<図2-13>

そしてもう一度表示形式を開いて、今度は左の上から2番目にある地図のアイコンをクリックしてみると日本地図が表示されます。

<図2-14>

このままでは情報量が少なすぎて逆に分かりづらいので、マークにある利益を色にドラッグ&ドロップし直しましょう。これで都道府県の位置関係と利益の状況が一目で分かるようになりました。

<図2-15>

このように表示形式を使うことで様々な形に表現を切り替えることができます。棒グラフや地図の他にも、折れ線グラフや数表、計画値と実績を対比して見るブレットグラフなどに変更することができます。

3.まとめ

今回押さえておくべきポイントは次の3つです。

  •  メジャーは数字、ディメンションは切り口。
  • 行と列でグラフをつくる
  • マークと表示形式で見た目を変える

内容は基本操作と用語の説明だけでしたが、シンプルな操作でたくさんのことができることが分かったのではないかと思います。合計などの集計も自動で行われますので、単位ごとの集計をするために複雑な関数で書いたりする必要もありません。

なによりも「違う切り口で見てみたらどうだろう」「この要素を加えてみたらどうだろう」「別の表現にしてみたら分かりやすいかも」といった試行錯誤を簡単に行えることがTableauの利点です。計算や描写はソフトウェアに任せ、すぐに状況を把握してどこにチャンスやリスクがあるか、アップダウンの原因がどこにあるかを深堀りする分析と次の一手を考えることに注力することが出来ます。

次回からは、より詳細な分析を行う手法についてトピックを分けながら紹介していきます。

トライアル最新店に見る スマートストアのファイナルアンサー

九州を中心にスーパーセンター、ディスカウントストアなど約200店舗を展開する「トライアル」。2018年2月にオープンしたアイランドシティ店の店内では、700台のスマートカメラが店内の顧客行動・商品接触を分析し、レジカートでお客自身が商品スキャン・決済を行うなど、先進的なチャレンジを目にすることができる。オープンから2ヵ月が経過し、実際のレジカート稼働率も40%前後と好調。ところがふたを開けてみると、お客に評価されているのは同社の想定外の部分だった。(文:MD NEXT編集長 鹿野恵子)

カメラで人と商品の動きを分析

トライアルアイランドシティ店は、福岡市のベッドタウンを目指し開発が進む香椎照葉(かしいてりは)地区にオープン。周囲には建設中のタワーマンションが林立しており、将来のドル箱店舗を目指す。売場面積は1,200坪、ワンフロアに衣食住の商品をEDLP(エブリデーロープライス)でフルラインアップする。

同店舗の特徴は、大きく3つ。(1)スマートカメラによる店内顧客行動の可視化、(2)サイネージによるお客への情報伝達、(3)タブレットカートによるスピードチェックアウトの提供だ。

店舗に足を踏み入れるとまず驚かされるのが、天井や棚前の至る所に設置されたスマートカメラの多さである。この店舗には700台のスマートカメラが設置されていて、うち約100台が「人」、残りの約600台が「商品」の動きを分析し続けている。

主動線上にスマートカメラが並ぶ
入店してすぐのカメラでお客の年齢と性別を認識する

まず100台の「人」の動きを追うカメラだが、パナソニックが開発したもので(デバイスはPUX社製とエルモ社製)、主通路上を中心に設置され、カメラ内で来客の属性と行動の分析を行う。個々のお客の情報は記録せずに、分析の結果だけをクラウド上に送信し、お客のプライバシーを守る。こちらのカメラでは、来店客数はもちろんのこと、性別・推定年代・店内での回遊状況などを分析することができる。

一方「商品」を追うカメラはありとあらゆる棚前に設置されており、1台のカメラで2本の棚を撮影。棚の商品陳列状況や、お客がどの商品を手に取ったかという商品接触状況などを記録する。

こちらのカメラは、スマートフォンを転用したもの。型落ちのスマートフォンを大量に仕入れることで原価を引き下げた。「現在世界のCPU、カメラモジュールとして最もマスであり最先端をいっているのはスマートフォンです。そのインフラに乗るのが一番効率的であると考えました」とトライアルホールディングス(HD)のグループCIOであり、同社の情報システム子会社ティー・アール・イー代表取締役社長の西川晋二氏は語る。

大型サイネージ・電子棚札によるコミュニケーション

カメラが店内情報の「インプット」であれば、お客とコミュニケーションを図るための「アウトプット」のインターフェースとして店内で目につくのが超大型のサイネージだ。店内壁面の上部に十数mの長さで配置されたサイネージは、既製品のディスプレーを横に連結することによって製造コストを抑えながら、巨大な動画を流し続けることで来店客に圧倒的なインパクトを与えている。取材中はコカ・コーラやレノアの新商品、トライアルのプリペイドカード加入促進動画が流れていた。

風除室から店内への入り口上部に掲げられたサイネージ
店内壁面の大型サイネージ。既製品を横に連結しただけなので、 インパクトの割にコストは安価だという

飲料のエンドでは、棚上部に配置されているkinectと連動した電子棚札型サイネージの実験も行われていた。お客が近づくと、サイネージの表示が変化する仕組みである。どの棚の商品を手に取ったかなどの情報も、もちろんkinectで記録している。

飲料のエンドでは、電子棚札とkinectの連動実験が行われている。お客が棚に近づくと電子棚札の表示が変化する

グロサリーなどの一部の棚には電子棚札を採用。従来、電子棚札に求められている役割は、棚札管理の省力化だったが、電源管理などの管理コストもかさむため、なかなか普及は進んでいない。トライアルは、電子棚札のメリットをコスト削減よりも柔軟な価格政策の実現と考える。電子棚札があれば、将来的に需要と供給などに合わせて価格を柔軟に変動させる「ダイナミックプライス」の導入も可能になる。

ショッパーマーケティングの高度化とリテールメディア化

これらの数々のテクノロジー導入の背景には、メーカーとの協働による「ショッパーマーケティングの高度化」という目的がある。

「メーカーの新商品は多産多死。たまたまヒットした商品しか生き残ることができない、非常にムダが多い状況です。もっと科学をしていかなければならないという課題がありました」(西川氏)

トライアルホールディングス取締役副会長、グループCIOの 西川晋二氏。システム子会社のティー・アール・イー社長も兼任しシステム外販体制を強化する

メーカーと小売業の商談でコミットした施策が店頭で展開できていなかったり、新商品が配架されても陳列ができていないという状況は往々にしてある。そして現状では、店舗における商品の陳列状況を把握するには、ラウンダーなどが訪店し、目視で観察したり写真に記録するなどの人海戦術しか方法がなかった。わざわざ足を運ばなくても、店頭状況を把握したいというのは、メーカーにとっての悲願でもある。

この店舗のように商品の動きを全部可視化することで、まずメーカーは商品の配荷がきちんとできているか、指示どおりの店頭展開が実現できているかを知ることができるようになる。さらに第2段階として、きちんと売場にお客の立ち寄りができているのか、アテンションを得ることができているのか、というような分析もできるようになるだろう。

現在棚前行動の分析に関しては、外資系を中心とする生活消耗品関連のメーカーの関心が非常に高く、トライアルはそれらの企業とともに実験を繰り返している状況だという。

以前は自社で開発したPB(プライベートブランド)を売り込む主義だったトライアルは、ここ数年でメーカーと協議して売り場をつくり込む方向におおきくかじを切った。カテゴリーキャプテンの企業に売場の提案をしてもらいながらカテゴリーの収益性を高める取り組みは、化粧品売場の「ビューティートライアル」などにも表れている。「当社はディスカウントストアということもあり、これまではつくり込めない売場もありました。ですが、メーカーさんにカテゴリーキャプテンになっていただいたことで、しっかりとした提案型の売場をつくることができるようになりました」(西川氏)

もうひとつ、テクノロジー導入推進の背景にあるのは「リテールメディア化」への期待だ。テレビや広告などのマス広告は、商品についての一定の認知を与えられるものの、最後にお客をプッシュする効果は薄い。そもそもテレビCMの効果が下がってきている。メーカーにとって、お客が購買を決定する場所としての店舗の役割は非常に重要になってきている。サイネージやレジカートのタブレットは、お客に対する情報提供の場所として、最後のひと押しの場所として、大きな効果を期待することができるだろう。

来店客の40%が利用するレジカート

カメラとサイネージが「インプット」と「アウトプット」の革新である一方、レジカートは「チェックアウト」の革新といえる。

アイランドシティ店で導入されているレジカー ト。約200台が週末は フル稼働する。こちらはRemmoとの共同開発

トライアルのレジカートはプリペイドカード決済のみを受け付ける。同社のプリペイドカードは、バーコードとPINコードが印刷されたプラスチックのシンプルなカードだ。NFCタグなど電子的な部品は使用しておらず、低コストで運用されていることが推測される。

タブレットカートの利用はプリペイドカードのみ。こちらの入金機で1,000円単位で入金する

入会は店頭のタブレットに氏名や住所などの個人情報を入力するだけで完了。スマートフォンなどから自分で登録することも可能だ。店頭の入金機などを使い1,000円単位で入金する。

レジカートを使用する際、お客はまずプリペイドカードをスキャンし、PINコードを入力してログイン。商品を購入する際は、手元にあるスキャナで商品バーコードをスキャンすればよい。野菜など、バーコードが添付されていない商品は、「パプリカ」「きゅうり」など、画面に表示されたボタンを選択して登録することができる。商品をスキャンすると、その商品の金額などが表示され、画面の右側には関連商品、おすすめの商品が表示される。タブレットカート利用者だけに付与されるポイント倍増クーポンもある。

まずプリペイドカードをスキャン
プリペイドカードのPINコードを入力することでチェックイン完了
商品のバーコードをスキャンする
商品登録が完了。右側には関連商品やお得なクーポンなどが表示される

レジカートでの買物を終了し決済をする際は、決済エリアに近づいて、画面上の決済ボタンを押す。その後レジ袋(有料)の枚数や、利用するポイント数などを入力。レジカートのレーンで、店舗従業員が年齢確認、医薬品説明、防犯対象商品などをチェック。チェック後に、店舗従業員がOKボタンを押すと決済が完了。プリペイドカードから自動で利用額が引き落とされる。

チェックアウト時は、決済エリアのそばで画面上の決済ボタンを押し、 年齢確認などが必要な商品があれば従業員が年齢確認などを行う

基本的に運用は性善説で行われていて、チェックアウト時は一部のお客の買物内容をチェックするだけで、全員分の買物内容を細かく見るようなことはしていない。万引きよりも、お客のついうっかりスキャンし忘れをどう予防するかを研究しているところだという。

ROIを考えるとAmazonGO方式は重過ぎる

「レジカート導入前は、そんなものは使われないだろうとか、お客さまにスキャンさせるのはどうかという声もありましたが、実際の導入後もまったく問題は出ていません」(西川氏)

取材時の2018年4月時点で、想定よりレジカートの利用率が高く、週末にタブレットカートのチェックアウト渋滞といううれしい誤算も起きている。意気込んで新しいツールを導入したものの、お客に使ってもらえないという事象はしばしば起こり得るが、今回の滑り出しはまずまず好調だ。

アイランドシティ店ストアマネジャーの内山智博氏は、レジカート利用の現状をこう分析する。

土日は200台がフル稼働し、1度レジカートを使ったお客さまの80%以上は継続して利用していただいています。店舗側の課題は、まだレジカートを使用していないお客さまに、カートを使うとどれだけ便利でお得かを伝えることです。レジ渋滞はお客さまがレジカートの使い方を覚えてくだされば解消していくと考えています。ガラケーからスマートフォンに移ったときは、みんな最初は説明書を見ながらやっていました。店舗側も、説明と工夫が必要です」

意外だったのは、トライアルの狙いとは違うところが、お客に受けているという点だ。

私たちは、スピードキャッシュアウトの便利さがお客さまにとって最大のメリットであると考えていたのですが、『いま合計何円分の商品を購入しようとしているのか』が画面に表示されていて、買物のしすぎを防げるのがうれしいという声の方が多いようです。その次にスピードキャッシュアウト、最後がクーポンで買物が安くなるという点を評価していただいています」(内山氏)

レジカートの利用者の6割が30代、40代の女性客。時間がないターゲット層の買物行動にレジカートがフィットしたようだ。

アイランドシティ店ストアマネジャーの内山智博さん

西川氏は、アイランドシティ店の目標のひとつに、ROI(投資した資本に対して利益を得ること)の成立を掲げる。「AmazonGOを視察した際、ジャストウォークアウトという買物体験は素晴らしかったのですが、コンピューティングパワーの利用が過剰だとも感じました。私たちはレジカートという決済方法を選択して間違っていなかったとおもっています。今後、レジカートの製造費を現在の半分にすることができれば、ROIも成立する見込みです」(西川氏)

トライアルは、さまざまな部分で果敢なトレードオフに挑戦している。たとえば、チェックアウトはレジカート、セミセルフレジ、セルフレジの3種類で、レジカートとセルフレジはプリペイドカードの決済のみに対応。

チェックアウトは、セミセルフレジ、セルフレジ、レジカートの3種類に対応。 セルフレジ、レジカートはプリペイドカードのみに対応。 現金はセミセルフレジでしか使用できないという割り切った運用をしている

つまり現金を使いたい人はセミセルフレジを選択しなければならない。また、クレジットカードは決済手数料の負担を軽減するため、サービスカウンターのみでの利用となっている。さらにセルフレジは、現金決済と商品重量の計測機能をトレードオフすることで、価格を従来の5分の1に引き下げた。

セルフレジは現金の取り扱いと商品の重量計測機能をトレードオフすることで 価格を5分の1に引き下げた

リスクを取って新しいことに挑戦する。大企業化した多くの小売業・チェーンストアが忘れてしまったチャレンジ精神を、トライアルアイランドシティ店からは感じることができる。

トライアルは、これらリテールメディアやレジカートの仕組みを自社内だけで利用するのではなく、システム子会社のティー・アール・イーを窓口として外販していく予定だ。商品とお客が出会う「店舗」という場所で、さらにメーカーと小売業のコラボレーションが進むきっかけとなるだろう。

「データもシステムもAWS上に置いているからITの力をフル活用できる」

ITを活用し新しい地平を目指す小売業のキーマンに話を聞くシリーズ第4回。今回は東急ハンズをはじめとする東急グループの情報システムを構築する「ハンズラボ」長谷川秀樹社長にお話を伺います。同社は東急ハンズの情報システム部門がその出自ながら、内製を志向してエンジニアを独自採用。2017年にはマーチャンダイジング(MD)システムのすべてをAmazonが提供するクラウドサービスの「AWS(アマゾンウェブサービス)」上にリプレースし、業務変化に柔軟・迅速に対応できるシステムを構築、ITコストの引き下げにも成功しています。先進的な視点を持つ長谷川氏に、今後の小売業のIT部門の目指すべきところを聞きました。(月刊マーチャンダイジング 2018年5月号より転載、企業概要等は当時のものです)(聞き手:MD NEXT編集長 鹿野恵子)

AWSに全面移行完了、R&Dの組織も立ち上げ

──御社は2017年に基幹システムをすべてAWS上に移行したそうですね。

長谷川 昨年、MDシステムをはじめとする基幹システムのAWS上への移行が終了しました。当社はPOSも内製しているのですが、さまざまな決済機能を付けるなどの機能面の開発が完了し、店舗への展開段階に入りました。現在は1ヵ月に1、2店舗のスピードでPOSの入れ替えをしています。ハンズのシステムはひとつの区切りを迎えたといえます。この2、3年はAWSへの移行作業にエンジニアのリソースを全体の7割程度費やしていましたので、攻めの情報活用はできていませんでした。移行が完了したことで、今後は多くのリソースをユーザーにとって意味のある機能の開発に割くことができると考えています。

また、R&D(研究開発)の部隊もつくりました。IT技術は、実際に導入する前に実験をする必要があります。そこで、実際に採用するかどうかはわからないけれども、いろいろな新しい技術の実験をする部隊を1年ほど前につくったのです。私はこういった機能はどの企業も持つべきだと考えています。

2018年3月には、画像を使った売場改革のための「Postfor」というサービスのβ版もリリースしました。これまでは、スーパーバイザーが店頭を巡回して、気が付いたことを写真を使って店舗や本部に共有する際、どこかの共有フォルダに画像をアップロードしたり、メールに添付したりする程度で、だれがどうチェックしたとか、店舗がきちんと指示どおりに対応したかなどを管理する術がなく不便でした。また、写真の下に文字で「右上のあたりが汚れています」「上から2段目の棚の商品のフェースを増やす」などと指示を書いたりしても、わかりにくかったりします。

「Postfor」は、スーパーバイザー(SV)がiPhoneなどで撮影した売場写真に、直接指示を書き込むことができます。その写真をアップロードすると、該当する売場の担当者に通知が届きます。その通知を見た売場担当者が修正した売場の写真をアップロードすると、今度は担当するSVに通知が届き、SVが「ちゃんと直っているね、OK!」というようなコメントを付けることができる、というような仕組みです。

──簡単な仕組みでも非常に便利そうなツールですね。画像といえば、最近はAIとカメラを使って自動で店内や棚前のお客の行動情報をデータ化するようなサービスがたくさん登場しています。そのあたりの導入に関してはどのようにお考えでしょうか。

長谷川 「お客さまがどこに滞留しているかがわかります」や「お客さまの性別や年代がわかります」というようなサービスはいろいろありますが、私は「では次にどのようなアクションを取ればいいのか」ということを、理由をつけて考えないといけないものに関しては懐疑的にとらえています。「Postfor」は単なる画像共有のための単純なアプリですが、明確にアクションが見えて改善につながります。10人いれば10人が納得するようなわかりやすい仕組みに、私たちは技術を投入していきたいと考えています。

物流倉庫の技術を店舗に適用する

──現在はどのような技術分野にご興味をお持ちでしょうか。

長谷川 倉庫・物流の技術に興味があり、それを店舗に適用できないかと考えています。私はこれまで、ECの技術を実店舗に組み込もうと考えていました。たとえば決済の例でいえばECで商品を3つ購入し、10分後ぐらいに「やっぱり2個でいいや」とおもった場合は、1個だけキャンセル処理をすることができて、実際は2個届くというような処理ができますよね。

でも実店舗でクレジットカードを使って3つの商品を購入した場合、1個だけ返品したくても、一度3個全部返品して、もう一回2個購入してもらうという流れを取る必要があります。これはクレジットカード業界の常識です。

──差額だけ返金するというわけにはいかないんですね。

長谷川 はい。いきなり返金レコードを上げることができません。でもECではそれができているわけですから、店舗でもできないわけがありません。ということで、当社ではそのような仕組みを研究して実装しました。

このように、これまではECの技術をいかに店舗に適用するかということを考えていたのですが、今後はECだけではなくて倉庫・物流業の技術を店舗に持ち込もうと考えています。われわれがぼんやりしているうちに、倉庫・物流業の機械化はものすごく進みました。そのノウハウを店内物流にも生かそうと考えています。

これから研究したいとおもっていることのひとつは、品出しの効率化です。まず品出しに人件費の何割を掛けているのかとをきちんと測定してみたい。店舗には「売場」と「バックヤード」があって、売場で欠品を見つけたらバックヤードを行き来して、品出しして補充します。中国では、すでに店舗の中にシューターがあって、店内物流に活用しているような企業がありますが、たとえば私たちも売場とバックヤードをつなぐシューターのようなものをつくって、バックヤードから商品を売場まで移動させることができるかどうかなどを、実験してみたいのです。

──品出しは単純な作業で、小売業の本質的な意味とは少し離れたところにありますからね。

長谷川 将来的にはもしかしたら売場の棚の下にロボットが付いて、品切れしたら棚がバックヤードまで自動で移動する、なんてこともあるかもしれません。棚がバックヤードまで移動したら、そこで待ち構えている人が商品を陳列して、棚が自動的に売場に戻る。倉庫・物流業のテクノロジーやノウハウを店舗に適用するというようなことを真面目に考えてみてもいいのではないかなとおもいます。

──そうするとソフトウェアだけではなくて、ロボットのような物理的なハードウェアも重要になってきます。

長谷川 そうですね。売場の現場の方はテクノロジーがどう進んでいるかまではわかりませんので、情報システム部が積極的に研究していかなければなりません。金銭的な部分を含めて、いまが投資のチャンスなのか、あるいは、この技術はまだ自分たちの規模では採用は難しいから、いまは塩漬けにしておいて、2年後に再度検討しよう、というような判断ができなければ意味がないのだとおもいます。「このボタンのサイズをもっと大きくした方がお客さまには見やすい」といった、顧客満足度を向上させるような取組みは、それはそれで行っていく必要がありますが、いままで存在しなかった領域に新しいテクノロジーを適用することで、小売業はもっともっとジャンプアップしていく必要があるとおもいます。

数字の推定に関するAI活用には懐疑的

──お話を伺っていると、CIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)の方の思想が、企業の情報システムには如実に表れているように感じました。AIの導入についても、積極的に挑戦している企業がある一方で、長谷川さんは非常に慎重ですね。表層的な部分ではなく、売場の根源的な部分の改善を常に考えていらっしゃる印象があります。

長谷川 そうかもしれません。とくにAIについては、私は映像や画像、文字のようなものに対して活用するのはいいとおもうのですが、数字の推定についてはまだ懐疑的なんです。

以前、東急ハンズの過去2年間の売上データを全部AIに読み込ませて、次の年の売上を推定するということをやってみたのですが、全然当たりませんでした。小売業は売上が前年比50%になることはなくて、98%とか105%とか微妙な推移をします。でもそれを過去の売上データからAIに推計させると、店別の売上高が前年比70%とか130%というような、あり得ない数字になってしまうんです。それはデータの量が少ないからだということで、日別・単品別のデータを読み込ませてみたところ、さらに数字が踊ってしまいました。

毎日単品が100個、200個売れるような業態ならいいのですが、われわれの業態には毎日の売れ個数が、0、0、1、0、0、1、0…というようにロングテール型の商品が多いのです。このように「暴れた」数字をAIで分析しても、暴れた結果しか出てきません。1日に2桁売れるような商材の単品の需要予測はうまくいくかもしれませんが、少なくとも東急ハンズという業態ではあまりうまくいきませんでした。ただ、文字や映像、音声はAIなどを使って分析する意義があるとおもっています。

鍵になるのはデジタル企業との連携

──御社は東急グループ以外の小売業のシステム開発も受託されていますが、割合的にはどれぐらいのお仕事をしているのですか?

長谷川 委託の開発にはだいたいエンジニアの半数が携わっていますが、なかなかインターネットの技術を使って業務システムをつくるということの理解が進まないのが難しいところです。基本的に閉域網※1の中でWindowsのクライアントマシンとホストコンピュータとがやりとりしているような仕組みを使われている企業さんは、社内システムをインターネットに接続することに拒否反応を示すことが多いんです。基幹システムをクラウド上に移行して、インターネット上にあるAPI※2をたたくというようなことになると「?」となってしまいます。

※1 閉域網…インターネットとは別に構築された専用の通信回線のこと。
※2 API…Application Programming Interfaceの略称。基本ソフト(OS)やアプリケーション・ソフト、インターネットのサービスなどが、自らの機能の一部を、ほかのソフトやサービスから簡単に利用できるように、機能の呼び出しやデータの受け渡しなどの手順を定めたルールのこと。

──小売業ではなかなかインターネット技術の活用が進みませんね。

長谷川 そうですね。「在庫データをインターネット上に置いてお客さまに見せる」といった瞬間に固まってしまわれます。やるなら閉域網にある基幹システムからデータをコピーするから、インターネットとつなぐのはそちらだけにしてほしいとおっしゃる。

でも、そのような構成では柔軟なシステムをつくることが絶対にできません。世の中にたくさん存在しているSaaS※3やAPIを使って、自分のデータをインテグレートするということを想像されていないわけです。当社が迅速にサービスを提供したり、改善することができるのは、データもシステムもインターネット上に全部置いてあるからなんです。

ときどき、いまでもWindows XPを使っている企業さんがいるのですが「別に閉域網の中で使っているだけだから問題ないよ」とおっしゃる。こういう企業さんは、「インターネットは基幹システムと全然違う世界のもの」と考えていて、世の中の動きに置いていかれていることにすら気が付いていないのかもしれません。

※3 SaaS…Software as a Serviceの略。必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウェア(主にアプリケーションソフトウェア)もしくはその提供形態のこと。一般にはインターネット経由で必要な機能を利用する仕組み。

──小売業においては、企業ごとのITリテラシーの差に格差があります。

長谷川 私は、いまの時点でメールを置き換えるのであれば「G Suite」か「Office 365」の2つ以外選択肢はないとおもっていますが、大企業になればなるほど「クラウド上にメールを置くなんて危ないからできない」とおっしゃる。聞くと、インターネットにつなげていい端末が制限されているという。「それでは何もできません」となってしまう企業さんが少なくない。

──新技術の採用に消極的な小売業が多いですよね。そうこうしているうちにAmazonのようなEC企業がどんどん成長して、さらに格差が広がっている印象があります。

長谷川 だからリアルリテール企業の買収を検討しているEC企業は多いのではないでしょうか。逆に、われわれのようなリアルリテールが中心の企業は、ブランド力があるうちに、ネット企業さんとどんどん業務提携などをしていく必要があるとおもいます。カインズさんとDIY FACTORY(大都)さんの提携は「天才的だな」とおもいました。

リアルリテール企業が自社だけでやっていても無理なんです。どれだけデジタルマーケティングの担当者が社内にいるといっても、素人が片手間にやるようでは駄目で、デジタルを専業でやっている人たちと組んでがっつりやっていかないと間に合いません。

社内にエンジニア組織をつくるには

──長谷川さんのこれまでのお仕事を見ていると、社内にある程度の内製のためのエンジニアを抱えていらっしゃいますね。以前お話を伺ったときに、小売業の売場生え抜きの人と、外部から採用したエンジニアとが同じ組織に所属することについて文化的な相違があり困難を抱えていらっしゃるように感じました。最近はどのような状況なのでしょうか。

長谷川 そのころに比べると状況はかなりよくなっていて、いまは混合チームでよいという結論に達しました。改善した理由のひとつは「スクラム※4」という開発手法を導入した点です。スクラムの考え方がわれわれによく合っていたようで、よいチームビルディングにつながりました。ただ、いまはエンジニアの採用そのものがなかなか難しい状況ですね。

※4 スクラム…開発手法のひとつ。かんばん方式やペアアプロミングなどが特徴。

──エンジニア採用は完全な売り手市場ですからね。

長谷川 経歴がピカピカのエンジニアさんは、サイバーエージェントやグリーなどのネット系企業を選択することが多くて、小売業を選択する人はそう多くはありません。たまに、「オレ、キラキラしたネット系も嫌なんです」という人もいる。技術的には比較的新しいのが好きでも、性格的にネット系やソーシャルゲーム系は嫌という人で、小売業のことを面白がってくれる人を探していく感じです。

──小売業がシステムを開発する部隊を社内に持ちたいと考えたときには、どのような手順を踏めばいいのでしょうか。

長谷川 中途採用しかありません。内製化をするという情熱を持ったリーダーがいないと難しいですよね。そういう人材を中途採用して情報システム部のトップに据える必要があるのではないでしょうか。

それと、私が考えているのは、小売業の会社のITシステムは、グループの垣根などを越えて、小売業同士で共同出資会社でもつくった方が、一社一社個別にやるよりは楽なのではないかということです。

──近い将来そのようなことも起きるでしょうね。基幹のMDシステムのような、どこの会社も使っているほとんど同じ仕組みを、それぞれの会社が独自につくり、商品マスターも別々に持っているという状況は、社会全体の生産性を下げています。

長谷川 そうはいっても、さすがに一足飛びに基幹システムを共同構築するというわけにはいきませんから、たとえばR&Dの部隊を何社かで出資して運営していくというのはあるかもしれません。

大切なのは、実行することです。「日本人は、Read Only No Actionだ」と外国の方にいわれたことがあります。勉強はすごく好きで、セミナーなどに足しげく通うのですが、同じテーマで何回も同じ話を聞いているだけ。勉強しすぎです。小さい領域でもいいからまずはスモールスタートで始めてみればいいのではないでしょうか。どれだけ座学で勉強しても、実際にやってみたら動かないこともあります。動かしながら勉強してみることが大切です。

──ビジネスもシステムも、つくって動かしてみることで課題が出てきて、次はああしよう、こうしようという方向性が見えてきます。いずれにせよ、情報システム部がもっと企業の中で価値を発揮していかなければならない時代になっているのですね。今日は大変興味深いお話をありがとうございました。

人口7,000人のルーラル立地に展開する小売業の3つの特徴

日本は、2025年に2015年対比で約455万人も人口が減少します。一方、65歳以上の人口は約262万人増加し、高齢化率は高まります。「2025年問題」は流通業に関わる者にとっては深刻な問題です。

全店の生鮮化計画を進めるDgSのゲンキー

サバーバン立地(郊外)、ルーラル立地(田舎)の人口減少と高齢化が急速に進み、アーバン立地(都市)の人口が増加しているため、小売業やショッピングセンターの出店戦略の「都市回帰」の動きが進んでいます。

しかし、そのトレンドに背を向けて、行政人口5,000人、7,000人というルーラル立地に大量出店して、順調に業績を伸ばしているDgS(ドラッグストア)が存在します。

代表的な企業は、北陸の「ゲンキー」と、東北の「薬王堂」です。ゲンキーは、「Rタイプ」と呼ぶ売場面積300坪型と「メガ」と呼ぶ750型(一部900坪型もある)を行政人口1万人以下の、いわゆる田舎に大量出店しています。ゲンキーの詳細は、月刊マーチャンダイジング7月号(6月20日発売)を参照してください。

ここでは、ルーラル立地に敢えて出店する小売業の「売り方」の特徴を以下に整理してみましょう。

(1)ワイドアソートメントであること

立地戦略の格言に、「小さな町に大きな店をつくる」という言葉があります。人口の少ない立地で商売を成り立たせるためには、住民一人当たり、一世帯当たりの財布の中から支出する金額を増やすことがセオリーです。そのためには、いろいろな商品を買ってもらう必要があり、結果的に、店が大きくなるという意味です。

そのためには、「品種」の種類を増やして「品目」を絞るという「ワイドアソートメント(広い品揃え)」が基本です。つまり、DgSの核売場である医薬品、化粧品だけではなくて、食品、日用雑貨、家庭用品、酒類、実用衣料まで品種の種類を増やすことで、ワンストップショッピング性を高める品揃えが基本となります。多品種の品揃えによって、買物目的を増やし、来店頻度と買上点数を増やすことを目指します。

ゲンキーは、全店の「生鮮化計画」を一気に進めており、生鮮4品を導入することで、来店頻度と買上点数を増やし、既存店の売上を10%以上増やしています。

一方、薬王堂(売場面積300坪)は、ファブリック(下着、軽衣料、エプロン、スリッパ、クッションなど)の売場を3尺25本も確保しており、比較的人口の多いサバーバン立地の同規模のDgSが3尺4本と絞り込んでいるのに対して、意図的に広い面積を確保しています。「来店したらいろいろな品種を買ってもらいたい」という戦略が明確です。同時に、粗利益率の高いファブリックを販売することで、店全体の粗利益率の改善につなげています。

ゲンキーは生鮮食品の低価格販売で集客する一方で、化粧品のPBの推奨販売、医薬品の接客強化で「粗利ミックス」を行っています。ゲンキーは、その戦略を「ハイブリッド戦略」と呼んでいます。

人口の少ない田舎立地ほど「地域の売れ筋」を把握しよう

(2)買上点数を増やすレイアウトであること

ゲンキーも薬王堂も、出入口を左右どちらかの端に設置し、壁面沿いに売場を大きく回遊できる主通路動線になっています。来店客の「歩行距離」と「買上点数」は正比例するので、買上点数を増やす売場レイアウトです。

田舎立地は高齢化率が高まり、今後は免許を返納する高齢者が増加します。子供が高齢の母親を車で買物に連れて行ったり、巡回バスで買物に行く高齢者も増加し、来店頻度は減少すると思われます。そうすると、来店した際に、いろいろな商品を購入したいというワンストップショッピングのニーズが高まります。田舎立地の店は、品種揃え、買上点数を増やすレイアウトが、都市、郊外立地よりもはるかに重要になるということです。

また、ゲンキーも薬王堂も、ゴンドラ(棚)の連結が長く、23~26本もあります。長い連結の中で「通路の両側関連」で多くの品種を来店客に見せることで、自然と買上点数が高まります。

(3)マイクロマーケティングであること

人口の少ない田舎立地のMDでもっとも大切なことは、「その地域独特の売れ筋」をきちんと把握し、品揃えすることです。地域の売れ筋の単位は、「県」という大雑把な単位ではなくて、全国1,682の市区町村別といった、さらに小さな単位で人口動態や売れ筋を把握することが重要になります。この方法を「マイクロマーケテイング」といいます。

たとえば、仙台市で売れる商品だけの売場を、人口5,000人の東北の田舎町にそのまま持っていくと、その地域の売れ筋が欠落し、膨大な機会損失を発生させます。対象人口が少なければ少ないほど、「地域や個人」のニーズを深堀りしたマイクロマーケティングが不可欠です。

現金取扱い無しのロイヤルHD実験店に見る「発想の転換」

2017年11月、ロイヤルホストやてんやなどの飲食店チェーンを傘下に持つロイヤルホールディングス(HD)は、ロイヤルグループの生産性向上と働き方改革の両立を目指し、次世代の店舗運営を研究するR&D(研究開発)店舗として「GATHERING TABLE PANTRY馬喰町店」をオープンした。完全キャッシュレス、セルフオーダー。キッチンオペレーション改革により調理時間なども短縮。設備のコンパクト化により、小規模・低投資型の店舗展開も可能になった。本業態について、その開発の背景を聞く。(月刊マーチャンダイジング 2018年5月号より転載、企業概要等は当時のものです)

オーダーはiPadで 決済は電子マネー・クレジットのみ

「GATHERING TABLE PANTRY馬喰町店」は、JR総武本線馬喰町駅から徒歩数分の場所に位置する、店舗面積35坪、席数40席の飲食店だ。ワインをはじめとするアルコール類と前菜、サラダ、洋食、デザートなどを手ごろな価格で揃え、気の合う仲間が気軽に集える楽しい空間を目指す。この店舗は、ロイヤルHDのR&D店舗として位置付けられており、同社はここを足掛かりに、少子高齢化による生産労働人口の減少や、市場変化などサービス産業を取り巻く環境が厳しくなるなかで、グループ全体の課題解決や次世代のビジネスモデル確立に向けた取組みを加速させていく。

店内の様子。むき出しの配管やコンクリートのテーブルなどがカジュアルな雰囲気

この店舗の実証実験の中で注目を集めているのは、現金を一切取り扱わない点だ。店頭には「キャッシュレスチャレンジ」という看板が掲げられており、決済はクレジットカード、電子マネー、楽天アプリで行う。同店での決済の流れは以下のとおりだ。

店頭に掲げられた「キャッシュレスチャレンジ」の看板。いまのところお客からのクレームやトラブルは起きていないとのこと

席に案内されたお客は、はじめに従業員からiPadを渡される。iPadでお客はメニューを選択し、オーダーする。オーダーが入ると、キッチンのタブレットに表示される。その表示を見てキッチンでは調理を行い、注文された品をお客に提供。食後は、お客がiPadに表示されている会計ボタンを押すと、従業員が決済用の端末を持ってお客のテーブルまで行き、クレジットカードや電子マネー、アプリを用いて支払いを行う。決済には楽天ペイを用いており、主要クレジットカードと電子マネーに対応。全体のシステムはマウント・スクエアが開発を担当している。

iPadのメニューで注文を行う。 操作は簡単で、写真も大きくメニューをイメージしやすい

現金を扱わないことによるメリットは大きい。釣り銭の用意やレジ締め作業はなくなり、作業時間が短縮される。のみならず、違算が許されないレジ作業はだれにとっても精神的なプレッシャーが大きい業務であるため、それがなくなるメリットは、現場にとって計り知れない負荷の軽減となる。新人に対するレジ操作のトレーニングも不要となる。

現金を一切扱わないことに関しては、いまもロイヤルHD社内で議論をしている最中だが、お客からの反応は上々だ。「オープンからまだ3ヵ月しかたっていませんが、非常にスムーズに受け入れていただいています。むしろご支持いただいている印象の方が強い」と同店舗の企画を担当したロイヤルHD企画開発部の中西喜丈氏は話す。

この店が目標の1つとしているのは、店舗運営のペーパーレス化だ。オーダー伝票、レシート、納品伝票などなど、店舗業務には「紙」がつきものだが、システム全体がつながり、紙が店舗にない状態が実現できれば、大きな生産性向上も可能になるだろう。

いまのところ会計作業はテーブルで従業員が行っているが、お客がより、ストレスなく会計できるようにすることを目指す。現在の決済方法は、クレジットカードか電子マネー、アプリだが、今後はWeChatPayやAlipayなどの他のQRコード決済にも対応し、幅広いお客を取り込んでいきたいと考えている。

決済は楽天ペイを使用。主な電子マネーとクレジットカードが利用可能
店頭はこれらの決済端末とiPad、iPhoneが用いられている

同店舗では、生産性向上と働き方改革に関する課題を解決するために、このような実験的な決済方法導入(IT活用による店長業務の効率化)をはじめ、キッチンオペレーション改革による調理工程短縮と料理の質の両立、設備のコンパクト化による小規模・低投資型店舗の展開という3つの取組みを行う。

厨房スペースが店舗面積の40%から15%まで縮小

キッチンオペレーション改革では、自社のセントラルキッチン(CK)活用比率を高めることで、品質の安定と作業コストの削減を行い、CKを最大限に活用する。

同店舗では、CKの活用比率を55%までに高め、だれでも簡単に短時間で調理ができるメニューを開発。調理器具もレンジ、オーブン、グリルの機能をプログラミングできるマイクロウェーブコンベクションオーブンを活用し、開発元であるパナソニックと共同研究を実施。何百回と試作を繰り返し、調理時間の短縮を実現しながら、熟練コックが調理したときと同じ熱の入り方になるようなレシピをつくり上げた。

グラスワインは300円から。おすすめメニューの煮込みハンバーグは980円(ともに税抜き)

この店舗には揚げ物をつくるためのフライヤーも設置されていない。揚げ物を取り扱わないことで、キッチンの掃除の手間を減らし、また働く人の環境も良好に維持しようという考えだ。排気ダクトや換気扇などの投資も不要になる。あえて「揚げ物を取り扱わないなかで、お客さまに満足していただくにはどのようなメニューがいいのか」ということを考え、メニューを決定した。これまではキッチンの清掃に営業終了後1時間はかかっていたが、同店舗では営業終了後15分程度で済む。

セントラルキッチン比率を高めることで、ホールとキッチンの多能工化を推進する。調理器具も厳選し、厨房面積を従来より大幅に圧縮することに成功した

このような、おもい切ったメニュー開発、レシピ開発によるメリットは、作業負荷の軽減にとどまらない。厨房面積も大幅に縮小できた。通常のロイヤルの店舗であれば店舗面積の40%を厨房を含むバックヤードが占めるというが、同店舗では店舗面積35坪中で5坪と約15%になっており、同社の中では画期的なサイズだという。

飲食業はホールとキッチンで役割分担を行うのが一般的だが、キッチンが忙しいとホールが手隙になったり、その逆になることもしばしばで、この役割分担が無駄なコストを発生させている原因にもなっていた。

同店舗では、オペレーションが簡易化されたことで、教育コストも大幅に削減。キッチン業務は3日もあれば習得することができるため、どの従業員もトレーニングを受けた上でホールとキッチン、両方の業務に対応する。席数40という規模ながら、3人(ピーク時は4人)という少人数での運営が可能となっている。

ワンシフトで業務が完了する 営業時間で残業もなし

オープン時間も特徴的だ。平日が15時から22時30分、土日祭日は13時から21時30分と、飲食店であるにもかかわらずランチタイムを外している。ワンシフトで業務が完了する時間帯を選択したことで残業の必要がなくなった。「ランチ営業をしたらもっと売上が上がるはずなのに」という社内からの声もあったが、とりあえず研究開発段階なので、大胆な方向性で一度やってみることを決断した。

「このように振り切った店舗をつくることができたのも、ロイヤルHDのR&D業態だからこそでしょう。今後は成功した部分を横展開していったり、あるいはこのオペレーションの上に新しい業態をつくるということもあり得ます。現在はこれぐらいの店舗面積でやっていますが、より広いスペースでやればやるほど生産性が上がるのではないかともおもっています。横展開できるものをこの店で確立することができれば、事業会社にもっといい効果が与えられるはずです」(中西氏)

突飛なことをしたわけではなく、これまでロイヤルHDが培ってきた方法論を応用、集積してできた業態といえる。発想の転換ができたのは、たくさんの制約の中で、どうやったら「生産性向上と働き方改革の両立が可能になるか」ということを考え抜いたからだろう。

ホスピタリティサービスの産業化の実現

同社のITの活用の最終的な目標は、単なる生産性向上ではなく、同社が目標に掲げる「ホスピタリティサービスの産業化の実現」である。

お客さまとの接点がタブレットやスマートフォンになると、どうしても冷たい雰囲気になってしまいがちだ。「そこを乗り越えて温かい雰囲気をどうつくるかというのが、この店の一番の課題です。温かさが出てはじめてホスピタリティにつながる。さまざまな管理業務をなるべくそぎ落とし、店長が接客の温かさに注力することができたら、お客さまにより喜んでいただくことができるのではないでしょうか」と中西氏。さらに、こう続ける。

「働き方改革の話につながるとおもいますが、店で働くことが楽しい、商売が楽しい、わくわくできる、そういう人に集まってもらうことが最終的な目標です」

同社経営企画部の吉田弘美氏はいう。

「飲食業は目の前でお客さまに『ごちそうさま』『ありがとう』といっていただけて、チャレンジすれば数字も変わるという、非常に面白い仕事です。そんな飲食業の楽しさや面白味を従業員にしっかりと感じてもらえるようにすることが大事です。

レジ締めや棚卸しのような人がやっても機械がやっても付加価値が変わらない仕事は機械に置き換えていって、本当に人間でなければできないような仕事に注力できる環境をつくっていきたい。そういうところに時間を使えるようにすることが、本当の意味で働き方改革、生産性向上につながっていくと考えています。

当社の会長(兼CEO)の菊地(唯夫)は、この20年間のデフレで、モノの値段は下がっていったが、そもそも価格に含まれていたホスピタリティやおもてなしなどの付加価値がどんどん削られてしまったといっています。そういったものを取り戻していかなければならないのではないかとおもいます」

生産性の向上というと、とかく業務をITや機械に置換して合理化するという話に帰結しがちだ。しかし、これまで私たちは生産性向上や経済合理性の掛け声に流されすぎて、付加価値の向上をないがしろにしていたのではないか。単に安くナショナルブランドを販売するだけであれば、実店舗がAmazonや自動販売機に取って代わられるといわれても文句の返しようがないだろう。

なによりも先に自社ならではの付加価値を確立したうえで、工夫によって生産性を向上させ、ホスピタリティのある接客や店頭を実現していく。あるいは、より働きがいのある職場をつくっていく。すべてのチェーンストアは、もう一度その優先順位を考える時期に来ているのかもしれない。